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昭和キャンパス点描
群馬大学医学部附属病院死亡症例検証委員会の役割
浅尾 高行
1 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 死亡症例検証委員会委員長・先端医療開発センター 委員会設置の経緯 群馬大学医学部附属病院における腹腔鏡下肝切除術後に 手術死亡が続いた問題を受け平成27(2015)年4月に「死 亡症例検証委員会」が設置された.この委員会の目的は全 院内死亡症例の検証により同様な事案の発生を未然に防ぐ ことであり,群馬大学がこれまで経験したことがなかった 非常事態への緊急対策の一つであった.この委員会が設置 された平成27年の前半は,医療の質・安全管理部の充実, 外科・内科診療センターの設立など初期対策が相次いで実 行された時期でもあった. 死亡症例検証委員会のメンバーは附属病院の実診療を熟 知した指導的立場の医師を中心に病院長指名により選出さ れ,開設当初より病理解剖担当の横尾教授と死後CTの診 断医の平沢講師がそれぞれの専門分野を担当した.また医 療の質・安全管理部からのスタッフがオブサーバーとして 参加し,医師,看護師,薬剤師,事務職からなる多職種参 加型の委員会の形態が整った.開設後は増員と委員の部分 的交代を経て,平成29(2017)年11月に医療の質・安全 学講座の新設に伴い聖路加国際病院から赴任された小松教 授に参加していただき,現在14名の委員,6名オブザー バーおよび6名の医事課事務職員が委員会活動を続けてい る.委員会開設後3年を経たので活動内容と病院改革への 関わりを報告する. 活動内容の実際 1.全死亡症例の検証 前月の病院全死亡例(20─40例 ╱月)を委員に割り振り 電子カルテ上での検証結果を検証報告書として提出しても らっている.この際,個人情報の管理の面から全ての情報 のやり取りは病院情報システム内の共有フォルダーを利用 し,担当事務にはサマリーや登録病名,病理解剖の有無な どの情報の記載を,医師は診療録検証結果を中心に問題点 を拾い上げるようにし,チームとして役割分担を明らかに した.検証後に毎月末の委員会で各委員が担当した検証結 果と問題点を報告し,オブサーバーを含めた委員全体に症 例情報を共有して議論している.症例の検証にとどまらず に定例委員会で医療安全担当スタッフを交えて情報を共有 するシステムは,ほかの施設の死亡症例検証にはない特徴 と言える.多職種スタッフでの情報共有を重視したのは, 一人が数例を分担して検討するだけでは想定外の原因によ る死亡例が連続しても判断することができずに見逃すこと を懸念したからである.また,検証報告書にはJCOGの 術後合併症のGrade分類と症例のキーワードを記載して もらっており,定期的に症例リストを診療科,キーワード でソートを行い確認している. 平成29年には院内死亡例を直接,医療の質・安全管理 部に報告する体制が整備され,月遅れの委員会開催時には すでに医療の質・安全管理部で対応が済んでいることが最 文献情報 投稿履歴: 受付 平成30年1月5日 修正 平成30年1月6日 採択 平成30年1月9日 論文別刷請求先: 浅尾高行 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 死亡症例検証委員会委員長・先端医療開発 センター 電話:027-220-8347 E-mail: [email protected]72 ─ ─ 群馬大学医学部附属病院死亡症例検証委員会の役割 近は多くなっており,この委員会の果たす役割も変化しつ つある.しかし,多チャンネル・多段階の安全策を講じて おく安全対策の原則から,異なる視点からの検討として継 続している. 2.病院および診療科体制に対する改善案の提案 平成28(2016)年11月の外部委員による事故調査委員 会報告書には附属病院の案件においてほぼ一人に集中した 診療体制と毎日深夜におよぶ労働環境が問題点として指摘 されている.病院のガバナンスのもとに整備調整すべき問 題点を死亡症例検証のなかで協議し病院全体の委員会(現 在は医療業務安全管理委員会)の場で病院長・医療安全管 理責任者に報告してきた.この作業においても診療現場を 熟知した多職種スタッフの広い視野からの検討が効果を発 揮している. 3.合併症・死亡症例カンファレンスの推奨 一部の診療科においては定期的に行われていた合併症・ 死亡症例カンファレンス(M & Mカンファレンス)を多 職種参加のカンファレンスとして定着するために院内普及 活動をすすめてきた.具体的活動としては,委員の所属す る診療科での開催を提案してもらうことで診療科が自主的 に開催してもらうようにした. 4.病理解剖の減少対策 内科診療センター長・病理担当の委員から病理解剖数の 減少対策が提案され対応した.委員会発足当初は,病理解 剖の依頼した事実のカルテ記載が少なかったと記憶してい る.病理解剖の有無に加えて解剖依頼の診療録記載を チェックすることとし,解剖をお願いする際に使用できる わかりやすいパンフレットを病理部,看護部,医療の質・ 安全管理部の協力により整備した(図1). 5.適切な診療力記載の奨励 院内死亡全症例の検証は院内死亡というキーワードで抽 出された「毎月行う診療録Peer Review」ととらえること もできる.開始当初は,必要な情報の診療力記載が不十分 で判定できないという結果が多くその際には診療科に事実 確認を行なってきた. これまでの成果 1.全死亡症例の検証の成果 委員会開設来1,099例の死亡症例を検証してきたが幸い 大きな問題となる事案は発生していなかった.また病院長 への提言として50項目を提言した.その中から未然に事 故を防いだと思われる例,提案が契機になり病院全体プロ ジェクトとして取り組みが進んだ例を紹介する. 1)診療録記載量から気づかれた例 死亡例で特定の医師の診療録記載が少ないことが委員会 で指摘され,特定の医師に業務が過度に集中していること が明らかとなった.該当の診療科長に報告し診療体制の変 更をお願いした.医師が多忙を極めた時に最初に削られる 業務は診療録の記載であるとの委員からの経験に基づく指 摘が早期対応につながった. 2)誤嚥性肺炎防止のプロジェクトにつながった指摘 死因が誤嚥性肺炎となっている例が特定の診療科ではな く院内全体で増加しているという指摘があり病院長に報告 した.その結果,病院全体のプロジェクトとして取り組む ワーキンググループが設置され活動を開始した.これまで に一部の診療科で取り組まれてきた嚥下機能評価や訓練, 術前の口腔内ケア活動を院内全体に広める取り組みが始 まっている. 2.M&M カンファレンスおよび診療録記載状況 M & Mカンファレンスは委員会開始後,約一年の間に 院内に普及し医療の質・安全管理部がカンファレンスの記 録を管理するようになった.また診療録の記載状況につい ても委員会設置当初に比べて明らかに病院全体で改善して いる.これらは,病院全体での取り組みの成果と思われる が,死亡症例検証委員会に委員が参加している診療科の改 善が著しいことから,委員が自科において指導的に活動さ れたと推察される. 3.病理解剖数 本学でも,また全国的にも毎年減少の一途をたどってい る病理解剖数は死亡症例検証委員会の開始した平成27年 をボトムに回復の兆しが見られている(表1).また,最 図1 病理解剖の実際を一般の方向けに紹介する小冊子. 附属病院の入退院センターで開架している.
73 ─ ─ 近は死亡症例の診療録をみると病理解剖をお願いした際の ご家族の様子も含め対象となるほぼ全診療録に記載がされ るようになっている. 今後の課題と展望 平成28(2016)年4月に新規先進医療を支援し実践と 教育を推進する「先端医療開発センター」が稼働した.先 進的新規医療の導入に関わるこのセンターは,群馬大学医 学部附属病院の事案を契機に全ての特定機能病院に設置が 義務付けられた部門である.群馬大学附属病院の先端医療 開発センターの設置に際して,各診療科で指導的立場の医 師,看護師,薬剤師,事務職などの病院スタッフからなる 「サーベイヤー制度」をスタートさせた.この取り組みの 詳細はここでは述べないが,日本医療機能評価機構の確認 審査報告書には「この体制は大学病院として一つの優良事 例となると考えられる」と報告され高い評価を受けること ができた.このサーベイヤー制度は死亡症例検証委員会に おいて診療科を超えた診療録レビューシステムを死亡症例 以外に発展させたものである. 群馬大学医学部附属病院は安全文化の醸成や意識(風土) 改革・教育体制を確立しそのノウハウを社会に還元してい かなければならない.その実現には前述の調査報告書にあ るように「文化を醸成する不断の努力が必要」である.死 亡症例検証委員会だけで病院の風土を変えることは難しい と思われるが,その活動を継続することで少しでも新たな 安全文化醸成の手助けになれば幸いである. 謝辞 ここに示した成果は,院内の実診療を熟知した委員会ス タッフがその経験と知見を発揮し,働きやすく信頼される 附属病院を目指して積極的に活動していただいた成果です. 協力いただいた皆様に深謝いたします. 表1 群馬大学医学部附属病院病理部における病理解剖の実施 件数 年月日 数 平成24(2012)年 44例 平成25(2013)年 30例 平成26(2014)年 34例 平成27(2015)年 28例* 平成28(2016)年 32例 平成29(2017)年 39例 *死亡症例検証委員会が発足した年