発達障害児におけるボール運動指導と社会性発達に関する一考察
:発達障害児童が在籍する通常学級と特別支援学級での6か月運動指導の実践をもとに
小 山 啓 太・木 山 慶 子
群馬大学教育実践研究 別刷
第38号 183~188頁 2021
群馬大学共同教育学部 附属教育実践センター
発達障害児におけるボール運動指導と社会性発達に関する一考察
:発達障害児童が在籍する通常学級と特別支援学級での6か月運動指導の実践をもとに
小 山 啓 太・木 山 慶 子
群馬大学共同教育学部保健体育講座 発達障害児におけるボール運動指導と社会性発達に関する一考察 小山啓太・木山慶子Social Skills Development through Motor Skill Training with Ball Activities
in Children with Developmental Disabilities
: Six Months of Practical Studies of Exercise Therapy for Children
with Developmental Disabilities in both Regular and Special Needs Classes
Keita KOYAMA, Keiko KIYAMA
Gunma University, Cooperative Faculty of Education, Health and Physical Education
キーワード:発達障害,運動療育,ボール運動,投運動
Keywords : Developmental Disabilities, Exercise Therapy, Ball activities, Throwing
(2020年10月30日受理)
ABSTRACT
Some children with developmental disorder tend to score poorly on standard tests of movement and have delays in meeting motor milestones such as sitting up and walking. Recent research reports children with developmental disabilities include Autism Spectrum Disorder are more likely to have trouble with motor tasks (catching a ball) than their unaffected peers suggesting certain motor skills may draw on some of the same brain mechanisms that are also important for social skills. Research has also found that children with autism struggle with balance, which requires visual-motor integration as well as other forms of sensory feedback.
The throwing test consisted of ball throwing to a target task that requires proper overhead throwing mechanics including the precision grip skill. In line with the test manual, the children’s throwing
ability was quantified on the basis target strikes. The throwing mechanics, children’s expression to the ball play, and learning strategy were quantified by applying kinematic analyses on the ball’s trajectory, body movement, and their behavior. 28 high functioned people with disabilities and 22 ordinary people who matched age, gender, and education, participated in the trial. Each ball activities, the researcher videotaped and evaluated their natural ball throwing skills. At the test, each participant threw 5 balls and we quantified strikes the target and evaluated their mechanics (videotaping as well) to examine motor skill differences and their development of motor skill. The result is 18% of children with developmental disabilities improve their test score although 45% of their unaffected peers improve theirs. Moreover, there are more positive expressions and mature communications with children with
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developmental disabilities during the ball activities.
Ⅰ.緒言 1.研究の目的と意義 平成28年施行の発達障害者支援法の一部改正およ び,障害者差別解消法により,発達障害児に対しては 可能な限り健常児と共に教育を受けられる配慮をする こと,また,合理的な配慮をすることが求められてお り,通常学級における指導法の工夫や配慮は今後より 一層求められる傾向にある1). 運動やスポーツにおいては,自閉スペクトラム症児 (以下,ASD児)の50%以上は運動技能が未熟であり, 特に感覚統合やバランス,複雑な動きの連動に難しさ を感じている.中でも,手を使ってボールを操作する 運動や,新体力テストで実施される頭上からの投力テ ストは健常児に比べ発達障害児では顕著に劣り,巧緻 性運動や空間認知が苦手なことが多いとされる2). 一方で,Sowaらは,運動療育により自閉症状,常 同症,社会行動,学習活動が37%改善・向上すると示 しており3),Andyらは,ボールを触り叩くなどの運 動を行うことで自閉スペクトラム症に見られるいくつ かの常同症のうち,体を揺する,手を叩き続けるとい う行為が減少すると示しており4),運動が単に身体技 能や体力の向上のみに寄与するのではなく,発達障害 者の精神的,身体的,知的発達において,最大限に発 達を促す一助になる可能性を示している. 運動技能の習熟の目的は,日常生活上の活動を効率 的にし,社会へ適応する能力を向上することにあると 示唆する.Langらの研究を含む多くの先行研究によ り,ASD児を含む発達障害児童にみられる体を揺す る,手を叩く,その場を回り続けるなどの常同症が, 日常的な身体運動により改善し,学級での衝動的な行 動や癇癪の改善,暴力や暴言の減少がみられると示し ており,運動が単に運動技能の発達に留まらず,社会 性や認知機能にも良い影響を及ぼす可能性を示してい る3,5).したがって,本研究の目的は,単に運動技能 としてボールを投げることやボールを捕ると言った器 用さを求められる動作が上達することに留まらず,発 達障害児が苦手な傾向がみられる手指を積極的に動か すボールを使った運動が上達することで,他者を認識 し共感するといった社会性の変化が見られるかを考察 し,他者との交わりの中で楽しいと感じられるような ボール運動の環境とは何かを探り,自発的にボール運 動に取り組める環境を整えることで,握力や巧緻性運 動を向上することと,社会性を発達することができる 新たな指導法について示唆を得ることとする. Ⅱ.研究方法 1.投運動技能発達の検証 (1)調査目的 近年,小学校新体力テストの結果の中でもボール投 げの体力低下が著しく,就学前の運動体験の乏しさな どの原因からボールをしっかりと握れない手指の器用 な動きの未熟な子どもが増えている6).発達障害児に ついては,さらに手指の操作運動が苦手な傾向があ り,握りが未熟であると推察される. 本研究では,6ヶ月間の運動指導中の自由運動時間 の活動の様子を直接観察評価,ビデオ撮影映像,デジ タルカメラ静止画像にて確認し,①手指の動きの変化 やボール運動に係る動きの発達を検証,②常同症や言 動,アイコンタクトを含むコミュニケーションの様子 の変化の検証,③ボール的当て投げ課題の得点と技能 発達の変化の検証を行うこととする. (2)対象者 発達障害児童のボール運動の技能向上の効果を検証 するため,2つの異なる環境を無作為に選定した.そ のため,新潟県A市内の同一学区に設置されたA小学 校とB小学校で行うこととする. A小学校は発達障害児童が在籍する通常学級23名 (男子11名女子12名うち発達障害男児1名:障害種; 自閉スペクトラム症),B小学校は特別支援学級15名 (平均年齢8.54歳:男子10名女子5名,主な障害種: 自閉スペクトラム症,注意欠如・多動症,学習障害, 知的障害)を選定した. なお,本研究の対象者と対象者の保護者には,A市 教育委員会,A小学校,B小学校を通じて事前に本研 究の目的と方法を説明し,研究協力への承諾を得た. (3)実験内容 ⅰ 本実験での評価法 本実験においては,小山(2019)が示したボールの
185 発達障害児におけるボール運動指導と社会性発達に関する一考察 把握運動を加えた7項目による子どもの投技能観察評 価基準6)(表1.),およびFleisigらが示した投運動局 面7,8)をもとに,野球競技歴のある評価者によって 4段階評価による得点化を直接観察により行った. 「ボールの握り」については,測定時の直接観察に加 えて,ビデオ撮影動画と静止画像を詳細に確認しなが ら精密把握運動の変化について同様に得点化した. 採点方法として,ビデオ撮影動画に依らずに測定時 に直接観察により評価したのち,動画と静止画像を確 認しながら合議により得点を決定した.デジタルビデ オカメラの撮影場所は,自由運動時には運動環境を多 角的に捉えられる体育館の角,およびやや高い位置で あるステージ上から撮影し,子どもたちの動き,しぐ さ,常同症,表情を確認できるように工夫した. 初回(令和元年6月)と最終回(令和2年1月)の ボール的当て投げテストの投球を行う際には,投球を 行う児童の右真横の5m離れた位置にデジタルビデ オカメラ一台(JVC社製),投球を行う位置から後方 5m離れた場所にデジタルビデオカメラ一台(JVC社 製,600fps)を設置した.静止画像は研究協力者がデ ジタルカメラ(NIKON社製D5600)で細かい動きを 多角度から撮影した.各所に設置したデジタルビデオ カメラの高さは地面から70㎝の高さで統一し,被験児 の投動作全体が映るようにした. ボール的当て投げテストは.文部科学省(2019)の 実施要領に準拠し実施した9,10).測定は,すべてのグ ループで投げ遊び指導開始初日と指導最終日の計2回 測定した. ⅱ 指導内容 本実験の指導前後で実施するボール投げ測定時には 投げ方に関する助言は行わないこととした.したがっ て,指導前後で,投げ手が左右反対になったり,踏み 出し脚が左右逆であっても口頭での助言も含めて原則 行わないこととした.ただし,児童に危険がおよぶ際 や,測定に支障をきたす場合は,適宜助言することと した.指導内容は表2.の通りである. ⅲ ボール運動指導内容 運動指導は,短い時間でも効果的に手指の運動や投 球,捕球の習熟を促がすために,手指に刺激を与え, 握力強化を行え,ボール運動に苦手意識がある発達障 害児童でも興味関心を持てる教材用ボールとして,天 然ゴム素材の直径24.4㎝,140g,手指を刺激する突 起やギザギザ模様,感覚過敏を起こさないが室内や屋 外でも目視しやすい明るい色が施された楕円形ボール (図1.)を使用した. 運動時には,遊び方の説明を口頭と身振り手振り (観察的学習)で指導は行うものの,投げ方など技術 的な点について一切指導を行わないこととした(図 2.). 表2.運動指導内容 表1.本研究におけるこどもの投技能観察評価基準 図1.使用した楕円形ボール(直径24.4㎝,140g)
186 小山啓太・木山慶子 (4)分析 全対象児のボール的当て投げスコア,投技能アセス メントから,投運動の量的上達と質的上達の関係につ いて検証した.さらに,投運動を実施することで見ら れる社会性の変化や常同症の改善に影響するかについ て観察し検証した.各学級の男女データをt-testによ る統計処理を実施した.なお,B小学校の対象者15名 のうち完全に実験を終了できた11名(男子8名,女子 3名)のみを分析対象とする.(表3.表4.) 表3.指導前後の的当てスコアと投技能スコア A小学校 N 的当 足上 踏込 両腕 ひねり 把握 P値(P<.05) 1回目男子 11 1.63 1.45 1.9 1.45 1.72 2.54 2回目男子 11 2.09 2.18 2.36 1.9 2.63 3 0.0003926 1回目女子 12 0.91 1 1.25 0.58 0.75 2.16 2回目女子 12 1.33 1 2 2 2.16 2.91 0.0087543 1回目全体 23 1.3 1.1 2.09 1.56 1.79 2.95 2回目全体 23 1.69 1.59 2.18 1.95 2.39 2.86 0.016173 B小学校 1回目男子 8 1.27 1.36 1.54 1.45 1.72 2.63 2回目男子 8 1.75 0.5 1 0.5 0.88 3 NS 1回目女子 3 1.66 1.33 1.66 1 1.33 2 2回目女子 3 2.3 0.33 1.66 0.66 1.33 3 NS 1回目全体 11 1.54 1 1.18 1.18 1.18 1.9 2回目全体 11 1.9 0.45 1.18 0.54 1 3 NS *B小学校特別支援学級は初回運動に参加した被験者15名のうち 2回目までタスクを実施できた11名のみ分析対象とした 表4.発達障害児童と健常児のスコア比較 発達障害児童 N 的当 足上 踏込 両腕 ひねり 把握 P値(P<.05) 1回目 12 1.41 0.96 1.16 1.08 1.25 1.91 2回目 12 2 0.58 1.08 0.66 1.08 3 NS 健常児 1回目 22 1.36 1.45 2.15 1.65 1.8 2.37 2回目 22 1.76 1.6 2.18 1.95 2.39 2.95 0.0492806 Ⅲ.結果 1.巧緻性運動としてのボール的当て投げスコアの変化 ボール的当て投げ運動の測定平均記録は1回目(令 和元年6月20日実施)A小学校1.3であったのに対 し,2回目測定(令和2年1月16日実施)では1.69と なり,11名(48%)が一回目の測定よりも2回目の測 定結果が向上した(表3.). B小学校では対象者15名のうち完全にテストを完了 できた11名のみを分析し,一回目1.54,二回目1.9と なり,4名(36%)が一回目の測定よりも2回目の測 定結果が良かった.また,発達障害児童と健常児童の 運動指導前後の的当てスコアと投技能スコアを比較す ると,同じようにボール運動を行っても健常児の的当 てスコアと投技能スコアの向上する割合が高い傾向が 示された. 2.投技能の発達 投技能のスコア変化においてはA小学校の女子が もっともスコアを伸ばし,有意差(p=.016)がみら れた.また,もともとスコアの高かったA小学校男子 も平均スコアを伸ばし,そのうち6名(54%)が自己 最高記録を伸ばしており,もっとも多かった. 指導前後の直接観察評価およびビデオカメラ動画に よる投技能のスコア変化においては,表3の通りであ る.A小学校女子がもっとも有意な上達がみられ両腕 の使い方,体のひねり,把握運動の上達で有意差(p =.00169)がみられた.次いでA小学校男子において も若干ではあるが全体の動きで上達が認められた(p =.006).一方で,B小学校においては,上達がみら れる項目があるものの有意差はなく,的当てスコアの 上達も限定的であった. 全体としては,把握運動の上達はほぼすべての児童 で見られ.投技能の各項目においては男子よりも女子 の方が投げ方の改善がみられた(表3).観察評価の 結果から,的当て投げスコアの伸びと投げ方の上達に は優位な相関性が示され,全体では15名がスコアを伸 ばし,そのうち13名の投技能スコアが向上し,投げ方 が上達することで86%の割合で的当てスコアも伸びて いた.また,ボールの握り方の改善においては,初回 に実施した楕円ボールを用いた短時間指導の結果から 改善がみられる児童が多くいたため,一回目測定時か 図2.A小学校でのボール投げ運動指導の様子
187 発達障害児におけるボール運動指導と社会性発達に関する一考察 ら精密把握の正しいボールの握りができている児童が 多かった. 3.投技能判定の信頼性と客観性 本研究では,同一対象児に対して2名の野球競技経 験者が直接観察において評価し,その後に2台のビデ オカメラで撮影した各角度からのボール運動と投動作 動画ならびに研究協力者が撮影した多角度からの静止 画を確認し,合議により得点を決めており,一定程度 の信頼性と客観性は確保できているものとする.一方 で,測定に際して児童を誘導する検査者や評価者を変 えた検証を実施していないため,本研究において,子 どもの能力を最大限に引き出すことができたか,子ど もが普段通りに運動を実施できたかなど,さらに厳格 に評価の信頼性と客観性を明らかにするためには,再試 行や環境と評価者を変えた検証が必要であると考える. 4.ボール運動と社会性の変化 6か月間におよぶボール運動指導において,手で ボールを操作するハンドリングや,複数で実施する キャッチボールにおいて,投げる,捕るなどを含む運 動技能の発達がみられた.その中で,とくにキャッチ ボール中に他者を注視することからアイコンタクト の回数が増え,同時に「行くよ」「ここに投げて」と 言ったバーバルコミュニケーションが徐々に増えた. さらに,回数を重ねるたびに笑顔が増え,楽しい ボール運動の中で苦手とする固定視や追視の訓練を行 い,徐々にボールを追視することができるようになり ボールを素早く追いかける動きが上達する姿がみられ た.また,少し変わった形のボールを用いて手指の触 覚,視覚,聴覚などさまざまな感覚に対する刺激を与 えることで,運動上達だけではなく,単に体を動かす ということではない運動に対する興味関心を高め,他 者と協力するキャッチボールなどの運動が上達したこ とは,共感する力を育むなど社会性に関係する能力の 開発に一定の効果があったと示唆する. Ⅳ.考察 文部科学省は,特別支援教育に関しても,生涯学習 への意欲を高めることや,生涯を通じてスポーツや文 化芸術活動に親しみ,豊かな生活を営むことができる ように配慮することを規定しており,子どものうちに 基礎となる運動の知識を高め,技能の発達を促すこと は,生涯における社会参加に向けた教育の充実に不可 欠であると考える1). 本研究における直接観察評価から,発達障害の子ど もの投げるなどのボール操作運動が未熟で苦手な傾向 があり,健常児に比べると上達にも時間を有すること が示唆された.中でもボールを上手く握れない,ボー ルへ力を伝えられない,握力や筋力が弱くしっかりと 握れないことで身体を大きく連動して使えないという 傾向がみられた.これは,普段から手指を使い力いっ ぱい投げるなどの非日常的な遊び経験が不足したこと で,ボール操作の基礎となる把握運動や巧緻性運動が 未熟化した結果であると示唆する. 本実験において,少し変わった楕円形ボールを用い 学習環境を工夫することで発達障害児の投げる運動に 上達がみられたことは,手の感覚情報への新たな刺激 を与え,手指によるさまざまな精密把握運動を自然に 体験し出現した動作の発達,習熟であると考えられ, それにより運動の達成感や欲求充足が促され,運動を 好意的に捉えたのではないかと示唆する.また,ボー ル運動に苦手意識を持つ発達障害児の運動への興味を ひき,自然とボール運動のスキルを向上する可能性が 示され,それによりスポーツ活動への参加を促し,日 常生活での活動を助け,生涯におけるスポーツ活動を 豊かにする可能性がみられたことは大変意義深い成果 であると認識している. 本実験でみられたアイコンタクトの増加やコミュニ ケーションの増加も大変意義深いものではあったが, 先行研究で示されていた手を叩く,体を揺するといっ た常同症の減少などの変化は確認できなかったため, 今後さらに研究を深めたいと考える. また,通常学級の中で体育授業を受けていたA小学 校の発達障害児の的当てスコアおよび投技能は,B小 学校特別支援学級児童と比較して顕著に向上してお り,通常学級の中で体育授業を受けることで,運動を 見る学習や,他の上手な児童の動きを真似るなどが結 果に関係しているように考えられる.それは,通常学 級の中で上手な児童がペアーとなってキャッチボール を行ったり,上手な児童が入れ替わりで教え助けあう 姿が毎回みられた点で,特別支援学級では難しい児童 同士でのアクティブラーニングによる学習により,教
188 小山啓太・木山慶子 員側が完全に一対一で指導することが難しい部分を補 い,教える側の児童にとっては他者に教えることで動 きを言語化し上達する手助けとなり,発達障害児童に とっては,友だちの好意的なコミュニケーションによ り,発達に困難があっても運動発達と社会性の発達を 効果的に促すことができる一つの形であったと感じる. Ⅴ.総括 ビデオ観察による評価においてA小学校,B小学校 共にボールを操作するハンドリング運動技能の向上, ボールを正しく握る精密把握運動の習熟などの運動技 能の発達が見られた.さらに,発達障害児童において アイコンタクトの頻度が増え,指導中の会話への集中 力の継続などのポジティブな変化が認められた.一方 で,興味を示さない児童や,すぐに説明を聞いていら れない児童も少数ではあるがみられたため,こうした 児童に対する新たなボール運動の進め方の工夫,教材 の工夫が必要であると考える. 本研究では,通常学級に在籍する発達障害児の運動 技能の発達が顕著に認められ,かつ集中力の向上やア イコンタクトの増加といった社会性の発達と考えられ る変化が見られたことは大変意義深い結果であると考 え,さらに研究を深める意義を感じる. 米国では自閉スペクトラム症児童の教育・療育にか かる費用負担が他の身体・精神障害児童と比較すると およそ3倍程度と高額になるとしている11).こうした 現状の中でいかに発達障害児の教育の質を高め機会を 守るかは重要な課題であり,専門教員の確保,家庭に かかる経済的負担の緩和など,発達障害児童本人だけ ではなく保護者を含め,医療や学校教育現場に留まら ず地域包括的な支援がより重要であると考える.この 点はわが国も同様であり,平成29年度特別支援学級に 通う児童が23.6万人と10年前の2.1倍に増加しており 1),少子化の中で子どもの数の減少に反比例して支援 が必要な子どもは年々増えており,運動療法に関して も,専門的知識をもつ教員の養成と数の確保だけでは なく,医療・福祉,学校,家庭,地域が連携して発達 障害児の心身の健やかな成長と運動技能や体力の向上 を助けるための強力な連携体制の構築が不可欠である と考える. 引用・参考文献 1)文部科学省「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する 有識者会議」『日本の特別支援教育の状況について』令和元 年9月25日、https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2019/09/__ icsFiles/afieldfile/2019/09/24/1421554_3_1.pdf、2019年 9 月、 2020年2月1日参照
2)Manjiviona, J., rior, M., “Comparison of Asperger syndrome and high-functioning autistic children on a test of motor impairment.” Journal of Autism and Developmental Disorders, 25, 1995, pp.23-39.
3)Sowa, M., Meulenbroek, R., “Effects of physical exercise on autism spectrum disorders: a meta-analysis.” Research in Autism Spectrum Disorders. 6, 2012, pp.46-57.
4)Andy, C.Y., Tse, Pang, C.L., Lee, P.H., “Choosing an Appropriate Physical Exercise to Reduce Stereotypic Behavior in Children with Autism Spectrum Disorders: A Non-randomized Crossover Study”Controlled Clinical Trial, Journal of Autism and Developmental Disorders. 48(5), 2018, pp.1666-1672.
5)Lang, R., Kern-Koegel, L., Ashbaugh, K., Regester, A., Ence, W., Smith, W., “Physical exercise and individuals with autism spectrum disorders: a systematic review. Research in Autism Spectrum Disorders. 4, 2010, pp.565-576.
6)小山啓太・山西哲郎・木山慶子「小学校1年生を対象にし た投運動学習に関する研究:用具としての楕円ボールが こどもの投運動に与える影響」『群馬大学教育実践研究』 37、2019、pp.155-162
7)Fleisig, G.S., Dillman, C.J., and Andrews, J.R. “Proper mechanics for baseball pitching” Clinical Sports Medicine 1, 1989, pp.151-170.
8)Fleisig, G.S., Escamilla, R.F., and Barrentine, S.W. “Biomechanics of pitching, Mechanism and motion analysis. In Andrews, J.R., Zarins, B., Wilk, K.E., (eds.). Injury in baseball”Philadelphia, 1998, pp.3-22. 9)文部科学省「新体力テスト実施要領」、http://www.mext. go.jp/a_menu/sports/stamina/05030101/001.pdf、2000、 2020年3月1日参照 10)文部科学省「小学校学習指導要領解説体育編」http:// www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_ detail/__icsFiles/afieldfile、2017、2020年3月1日参照 11)Brand, S., Jossen, S., Holsboer-Trachsler, E., Pühse,
U., and Gerber, M., “Impact of aerobic exercise on sleep and motor skills in children with autism spectrum disorders - a pilot study” Neuropsychiatric Disease and Treatment. 11, 2015, pp.1911-1920.