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表情の動画条件における自閉症児の顔認知

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(1)表情の動画条件における自閉症児の顔認知. 兵庫教育太学大学院 学校教育研究科 障害児教育専攻. M94306B 金 井 孝 明.

(2) 目次. 1. 1 はじめに 1.顔の再認過程での知覚処理における. 顔情報のコード化. 5. 2.これまでの研究における自閉症児の. 顔情報の知覚処理について. E.問題の所在と目的. 8. 13. 1.問題の所在. 13. 2.目的. 15. 17. 避 方法. 1.被験児. 17. 2.刺激. 19. 3.手続き. 24 27. N。結果 1.実験1の結果. 27. 2.実験2の結果. 28. 3. 図形回転後の再認実験の結果. 30 32. V.考察 .まとめ. 44. .文献. 48. 謝辞.

(3) 1. はじめに. 自閉症の基本的障害として、Rutter&Schopler(1987)は言語の障害 (impaired language function)、前後関係の理解の障害(impaired sequencing function)、抽象の障害(impaired abstraction function)、. コード化の障害(impaired coding function)の4つをあげている。そし. て、それらの認知障害と何らかの脳の機能的な不全との強い関連を示し ている。また、Wing〈1976)は言語シンボルに関する理解と使用、および. 感覚的な経験の解釈に影響を及ぼす認知障害を自閉症の基礎にある障害 としている。そして、子どもの行動と器質的な障害との結びつきを重視 している。. しかし1980年忌後半以降、自閉症の基本の障害について健常児の言語 発達研究、および社会的コミュニケーションの発達研究の視点からの分 析がなされるようになった。そして、自閉症を決定づける障害はこれま で考えられていた認知機能の障害ではなくて、表情や身ぶりなどに表さ. れる情緒的意味を理解できなかったり、社会的コミュニケーションのル ールが理解できず、使えないという意味においてとらえられるようにな ってきた(Tanguay,1990)。つまり、幼児期の自閉症児は課題解決のやり. 方を考えたり、目に見えない対象を表象する能力、さらにカテゴリー知 識とその操作能力においては、MAマッチングの非自閉の精神遅滞児や健 常児のそれとかわらない(Lancy&Goldstein,1982;Ungerer&Sigman, 1987)のである。彼らが劣るのは、他者と経験を分かち持つための手段と. して使われる機能においてなのである。そして、認知機能に関する障害 はKanner(1943)が考えたように生まれながらの情緒的接触の障害から生 じるもめであり(Hobson,1989;Mundy&Sigman,1989)、何らかの生物学 的基盤に根ざすところの社会情緒的くsocio−affective, socio−emotion一. 一1一.

(4) al)な障害が自閉症の基本の障害として考えられるようになった(Hobson, 1989;Dawson,1989;Dawson&Lewy,1989)。 Hobson(1989)は、自閉症は. 発達の初期における相互作用(reciprocity)や結びつき(bonding)の能力. が生得的に障害されているとしている。そして、言語や意味の抽象化に 関連した認知の障害は、そのように情緒の共有ができないために対象の 意味性についても共有ができなくなり生じるとしている。また、’Rutter &Schopler(1987>もこのような意味の抽象化との関連において、社会情 緒的な障害と認知的な問題との関連が考えられるとしている。 一方、Frith(1989)は、生まれながらの情緒的接触の障害(Kanner,194. 3)は必ずしもすべての自閉症児には当てはまらないことや、自閉症児以. 外でもこのような能力を欠くが、のちには軽減が見られることをあげて いる。そして、感情を認識する能力は、生得的能力の障害によるとい’ 、. よりも、むしろ他者の心の状態を認識するという広い意味での社会的な 認知能力の欠陥によるとしている。同じように、Cicchettiら(1994)は、. ダウン症児や健常児と異なり、自閉症児は自他の心の状態の区別が困難 であることが原因となり、象徴機能の発達が妨げられるとしている。こ のような考え方からは、自閉症の基本の障害として社会的認知障害(so− cial−cognitive deficit)が重視されている。. いずれにせよ、情緒的、社会的、認知的機能の発達は特に感覚運動期 においては分かちがたくより合わさっており、この時期にはそれぞれの 機能が劇的に変化、発達する(Ungerer,1989)と考えられる。自閉症児の. 発達過程においては、これらの機能の正常な統合を妨げる何らかの異常 な過程が考えられる(Cicchetti et al.,1994)のであり、そこでは社会情. 緒的障害とより広い認知的障害(社会的認知障害)との強い関連が考えら れるのである(Rutter&Schopler,1987)。. 一2一.

(5) このような関連においてこれまでの自閉症研究を見てみるなら、表情 の情緒的意味理解の困難に関するもの(Hobson,1986a,1986b,1987; Weeks&Hobson,1987;若松,1989)、特定の身ぶりの使用や理解の困難iに 関するもの(Attwood et al.,1988)、共同注意行動の形成の失敗に関する. もの(Mundy&Sigman,1989;Osterling&Dawson,1994)といったような、. コミュニケーション機能や象徴機能の障害についての研究がなされてき ている。さらに、メタ表象能力の困難に関するもの(Baron−Cohen,1991) や「心の理論(theory of mind)」の獲得の困難あるいは遅れに関するも の(Baron−Cohen, Leslie,&Frith,1985;Dawson&Fernald,1987; Frith,1989; Baron−Cehen,1989; Perner, Frith, Leslie, & Leekam,19. 89)といったより広い意味での認知機能の障害についての研究がなされて きている。これらの一連の研究においては、 「人」を関係の要素として、. その障害の持つ意味性を明らかにする取り組みがなされている。そして、. 関係する要素としての「人」〈つまり、相手あるいは他者)の存在を前 提としてなされていると言える。しかし、これらの研究においては自閉 症児が眼前の「人」そのものをいかに認識(視覚的対象として存在する 「人」に関する情報の処理)しているかについては考えられていない。. したがって、自閉症児は「入」に関する情報をおもにどのように知覚的 に処理しているのかについて考えてみることは、自閉症という障害をよ りグローバルにとらえて、その障害の全体像を明らかにしていく上で重 要であると言えるだろう。. ところで、 「人」の社会的、情緒的情報を処理するにあたって、その 対象となる重要なものとして「顔」がある(Ellis,1975)。対入関係での 「人」とのかかわりにおいて、 「顔」は単に視覚釣刺激であるだけでな. く、模様や幾何学図形と違ってその入の気持ちや意図、配慮についての. 一3一.

(6) 情報を表す(Bruce&Young,1986>ものだからである。 「顔」は、社会的 な相互作用において重要な役割をしており(de Gelder et al.,1991)、. 「人」を認知する際に重要な対象(Langde11,1978;宮下,1988>と言える のである。. このような「顔」の情報処理については、 「ブルース・ヤングの顔認 識モデル(Bruce&Young,1986)」によって、健常児におけるおもに既知 顔の再認(異同判断)に至る知覚処理、およびその人物は誰なのかといっ た人物の特定に至る意味処理の過程が説明されている。 自閉症児が視覚. 的対象としての顔をいかに認識しているのかについて考察するためには、. 顔情報の視覚的な知覚処理過程に焦点を当てて考えてみることが必要と なる。このような顔情報の知覚処理においては、顔の構成要素に関した 「特徴に関する情報(feature)」とそれらの位置関係に関した「全体的配. 置に関する情報(configuration)」の2つの情報のコード化による処理が. 重要とされている。そして、顔の再認における知覚処理過程はこれらの 情報のコード化によって説明されている(Bruce,1982,1988;Bruce& Young,1986).. de Gelderら(1991)は、自閉症児の「顔」の情報処理においても、 「発 話情報分析(3nalysis of facial speech)」、 「表情分析(analysis of. expression)」、 「顔の再認(face recognition)」の3つの異なる情報処. 理の機能は確かに認められるとして「ブルース・ヤングの顔認識モデル」 を支持している。そして、自閉症児の顔情報処理の研究にとってこのモ. デルは重要な意味を持つものであるとしている。さらに、自閉症児の顔 情報の知覚処理の特異性に関するいくつかの研究の重要性は認めながら も、このモデルが説明している各要素(co皿ponents)の機能を無視して、. そのような特異性に限って重視することには注意を促している(de −4一.

(7) Gelder et a1.,1991)。しかし、これまでの自閉症児の顔情報の処理に関. しては、健常児において考えられているような顔情報のコード化による. 処理の観点からは考察されてきていない。したがって、自閉症児は、社 会的、情緒的情報を多く担う顔の情報処理を健常児と同じような処理過 程によって行っているのかという観点から検討し直してみる必要がある。 以.ド、まず、健常児の顔の再認過程での知覚処理において考えられて. いる情報のコード化について「ブルース・ヤングの顔認識モデル」との 関連において述べる。そして次に、先行研究において論議されている自 閉症児の顔情報の知覚処理について述べる。. 1.顔の再認過程での知覚処理における顔情報のコード化. 顔の情報処理研究は、顔の同定処理に関するものと表情の処理に関す るものに大きく分かれる。これらのうち、表情の処理に関する研究の場 合、例えば、新生児期からの表情認識に関するもの、および大脳半球機 能差に関連した神経心理学的視点からのものが行われている。しかし、. いずれにおいても、現時点では結果に一貫性が見いだされず、表情認識 研究は錯綜していると言える(桐田,1993)。 一方、顔の同定処理に関す. る研究では、既知顔の再認に至る情報処理を説明するマクロ的構造記述 モデルである「ブルース・ヤングの顔認識モデル」によって顔の再認処 理過程が分析されている(Bruce&Young,1986)。 Bruce(1982)は、 「顔の再認」を以前に見た顔が、異なる表情で、異な. る角度から再び見られたときに、それが同じ顔であると認識することと. 定義している。そして、そのように顔の再認が行われるには、顔の構成 要素に関する「特徴に関する情報(feature)」とそれらの特徴の位置関係. に関する「全体的配置に関する情報(configuration)」の2種類の情報の 一5一.

(8) コード化による処理が重要であるとしている。そして、このようなコー ド化からなる情報のタイプである「構造コード」によって、同一人物の 顔について表情や見る角度が異なっても再認が可能になるとしている。 なお、Bruce(1982,1988)は、表情や見る角度が固定された顔の表象とし て「画像コード(pictorial code)」を励に考えている。しかし、それに. よって再認がなされるにはあらゆる表情や見る角度ごとにそれが生成さ. れ、貯えられ、画像の照合によって再認がなされる必要がある。したが って、実際場面では現実的ではなく、 「画像コード」そのものは大きな. 役割は果たしていないとしている。つまり、顔の再認過程における知覚 的な処理は、個々の顔の知覚的符号化の結果生成される表象であるその 顔の「構造コード」をすでに持っている「構造コード」と照合して、知 覚した顔の既知性を認識(判断)することであると言える。そして、そ の際の同定の認識(判断)は、単語認識システムで考えられている「ロ ゴジェン(10gogen mode1)型」の認識機能ではなく、表象の類似性の程度 に応じて信号を「認識システム(cognitive syste皿)」に出す「認知デー モン(cognitive demon)型」の機能によってなされる(BrUce,1988)とされ る。. 顔の特徴ないし要素が変化した場合、 「特徴に関する情報」のコード 化は変化する。しかし、その変化は独立ではあり得ず、 「全体的配置に 関する情報」のコード化にも変化を生じさせる(Sergent,1984)。また、. 顔を認識する際には、まず顔の「全体的配置に関する情報」の大ざっぱ な記述(コード化)がなされ、それが指針となり次に個々の「特徴に関す る情報」の細かな記述(コード化)がなされる(Bruce,1988)。顔処理に関. するこれら2つの情報からなるコード化は、年齢とともにその機能を高 めていく(Chung&Thomson,1995)。つまり、 「特徴に関する情報」のコ. 一6一.

(9) 一ド化は年齢とともにコード化する特徴を多くしていき、さらにより適 切な特徴をより組織的に処理するようになっていく。また、 「全体的配. 置に関する情報」のコード化は全体的なマッチングの度合いを測るとと もに、年齢とともに顔が基本的には同じ「配置構造」を持っているとい う知識を増大させていく。そして年齢、表情、角度が異なっても再認に おいて有力な手がかりとなっていくのである。Chung&Thomson(1995)は、. このことを個々の特徴間での複雑な関係性やそれらと輪郭との関係につ いての配置情報が「顔の不変要素(facial invariants)」として抽出され 重要性を増していくと説明している。 顔の認識は顔についての意味処理を含むものである(Bruce,1988)。つ. まり、知覚処理した顔について異同判断による既知性の認識にとどまら ず、 「その顔は誰なのか」という意味的内容についての判断によって人 物の特定をすることが大切となる。 「ブルース・ヤングの顔認識モデル」. によれば、顔の認識が完全に行われるためには既知性判断は人物に関す る他の意味論情報(入物固有の情報、名前情報)によって補われる必要が ある(Bruce&Y◎ung,1986)。本研究は顔情報の如覚処理について検討す るものであり、 このような意味処理につL9てはふれないこととする。. なお、 「ブルース・ヤングの顔認識モデル」は既知顔の同定に至る情. 報処理について巧みに説明を行うものである。一方、顔の各部分につい ての「特徴に関する情報」とそれらの「全体的配置に関する情報jは、. CA3歳以上の健常児を対象とし未知顔を用いたいくつかの再認実験の結 果からどちらも年齢に関係なく処理されており、かつ重要な働きをして いることが示されている(Flin,1985;Beanninger,1994;Chung& Thomson,1995).. また、年少児、年長児を問わずMAマッチングされた非自閉の精神遅滞 一7一.

(10) 児童と健常児群は、顔の特定の部位をマスキングした顔提示のいくつか の条件および倒立顔提示条件での再認成績に差がなかった。 このことか. ら、両群においては倒立顔提示を含んださまざまな顔の提示場面で同じ 処理のやり方を行っていると考えられる(Langdell,1978>。. 2.これまでの研究における自閉症児の顔情報の知覚処理について. 「彼らの領分に入ろうとさえしないならば、彼らは時に大人の問を動 き回っている際に、あたかも机や長椅子を軽く叩いて回るのと同様に、. 静かに大人の手やひざに触れていくこともある6しかし、決して、顔は 見つめない」とKanner(1943)は、彼の観察した自閉症児の事例から彼ら の人に対するふるまいを述べている。このことは、自閉症児は入の顔に. 対しては注意を向けることが少ないことを意味している。それは、視線 を回避することによって、生理的に高覚醒な状態にある自閉症児が、自 分たちの覚醒状態を下げようとするためにとる自然な生物学的対応( Hutt&Ounsted,1966)であるとされたり、あるいは人の顔によって伝え られる情緒的意味情報をうまく利用することができない(Weeks& Hobson,1987;Hobson,1987)ためであると考えられている。. 通常ならば、社会的、情緒的情報を受け取り、また人を再認するため に:重要な役割を果たす入の顔であるが、自閉症児はこのような社会的、. 情緒適刺激としての人の顔についてどのように情報を処理しているので あろうか。顔写真のジグソーパズルを用いたVolkmarら(1989)の研究では、 自閉症児は正しい顔(normally configured faces)として完成されるパズ ルは、乱配置の顔(scra皿bled faces)として完成されるパズルよりも短い. 時間で完成することができた。さらにモデルが既知顔よりも未知顔の方 が完成に時間がかかった。つまり、自閉症児は顔が正しい「顔」として 一8一.

(11) 配置されていること、およびその顔の既知性については顔に関する清報 として理解していると考えられる。. 例えば、顔写真を分類する際に、自閉症児群はCAおよび言語性IQでマ ッチングした非自閉の精神遅滞血塗とくらべて、 「表情」のちがいを手. がかりとして分類するよりもモデルがかぶっている帽子のちがいを手が かりとして分類する割合の方が高かった。そして、自閉症児群はモデル の年齢を分類の第一の手がかりとする割合が低かった(Weeks&Hobson, 1987>。あるいは、写真で示された文脈の意味する感情に応じた表情写真 を選ぶのに自閉症児群はMAマッチングの健常白白とくらべて困難を示し た(Macdonald et al.,1989)。さらに、ビデオで示された動作に応じた 「性」、 「表情」、 「年齢」の人物の顔を別に提示された顔のイラスト. 画や顔写真から選ぶ課題において、自閉症児群はMAマッチングの非自閉 の精神遅滞面出や健常児群とくらべて困難を示した(Hobson,1986a,1987)。. また、自閉症児群は顔写真や顔のイラスト画を表情を手がかりにして分 類することが困難であったり、口の開いた状態の「怒り顔」を開いた 「口」に注目することで「喜び顔」とまちがって分類してしまうことも あった(若松,1989)。このように、自閉症児群はCAマッチングあるいは. MAマッチングの非自閉の精神遅滞児群や健常児群とくらべて、顔に示さ れる表情の意味性の理解に関するものやモデルの年齢の判断に関するも. のなど、社会的、情緒的意味性の処理を必要とする場合においては処理 の失敗や困難さが見られる。. 一方、 自閉症児の顔の再認過程での知覚処理に関する研究は、表情な. どの社会的、情緒的意味性の理解に関する研究にくらべて少ない。その なかで、顔写真を用いて倒立提示された顔(倒立顔)を刺激としたマッ チング課題や再認課題⑳実験結果から、 自閉症児の顔の知覚処理につい. 一9一.

(12) て何らかの特異性が考えられてきている。. Langde11(1978)は既知顔の特定の部位をマスキングした顔写真および. 倒立提示の顔写真を用いて再認実験を行った。その結果、年長自閉症児 群(平均CA14.1歳)はいずれの提示の条件でも再認成績に差はなかった。. このことから、年長自閉症児は顔について“focal center”を持たず、 顔を「単純パターン(pure pattern)」として知覚処理していると考えた。. 一方、非自閉の精神遅滞児および健常児は顔に何らかの“focal center ”を持ち、そこに視線がscanningする方法をとるとした。 Hobsonら(1988)は、 CAとRaven’s Matricesによる視空間知能をマッチ. ングした自閉症児群(平均CA19歳4カ月)と非自閉の精神遅滞児群(平均. CA18歳11カ月)に対して顔写真の照合課題を行った。輪郭をマスキングし た正立顔および倒立顔提示条件での照合課題では両群馬での成績には有. 意差はなかった。しかし、各群の被験児による9ペアーのうち7ペアー において自閉症児群の方が成績が高かった。 このことから、 自閉症児群. の倒立顔の認識スキルは視空間知能から期待される以上のもの、つまり 視空間認識スキルと異なる何らかの特異なスキル(specific ability)に. よるものと考えられるとしている。次に、Hobsonらは、実験において用 いた顔写真が被験児にとり未知顔であったこと、そしてLangde11(1978). の実験においては既知顔についても同じように正立顔提示と倒立顔提示 条件で成績に差がなかったことを指摘している。ここから、自閉症児群 は顔の既知性に関係なく、CAおよびMAマッチングの非自閉の精神遅滞児. 群よりも倒立顔を認識するスキルが優れているとしている。さらに3つ 目として、Hobsonらは、顔の「輪郭」、 「口」、 「口およびまゆを含む. 額部分」をそれぞれマスキングした正立顔の写真を用いて、表情が異な っても同一人物と認識できるかどうか(入物条件)、人物が異なっても 一10一.

(13) 同一・表情と認識できるかどうか(表情条件)について実験を行った。結. 果は両条件とも手がかりの減少とともに正答数は減少するが、表清条件 においては自閉症児群の正答数の減少の割合は非自閉の精神遅滞児童の. それよりも大きかった。そして、各マスキング条件ごとに各群内で人物 条件と表情条件の正答数についての相関をとると、自閉症児群について は高い相関が見られたが、非自閉の精神遅滞児群については相関は見ら れなかった。ここから、Hobsonらは非自閉の精神遅滞面出は人物条件と. 表情条件では異なった処理の仕方をしていると考えた。一方、自閉症児 群は表情についてもその表される情緒的意味によってではなく、 「知覚 される特徴(例えば、開いた口)」によって分類を行っていたと考えた。. 以上の3点から、Hobsonらは提示される顔刺激に関して自閉症児群は非 自閉の精神遅滞児群とは異なった処理のやり方を行っているとしている。 つまり、 自閉症児群は入の顔が持つ社会的、情緒的意味性は重視するこ となく、むしろ「抽象パターン(abstract pattern)」として知覚し、処. 理していると考えた。そして、このことは顔の既知性に関係なく、倒立 顔が提示された場合に限らず通常ならば人の顔として意味を持つ正立顔 提示の場合についても考えられることとしている。 宮下(1988)は顔の図式的描画と幾何学的図形を用いたそれぞれの照合. 課題によって、自閉症児群およびMAマッチングの健常児群の反応につい て調べている。その結果、 自閉症児群はどちらの刺激に対しても反応時. 間にちがいは見られなかったが、健常児群では図式山面刺激の場合の方 が反応が遅くなった。また、顔の「表情」、 「色」、上下の「向き」の. 3要素についての反応のしかたについて調べると、自閉症児群は3要素 すべてに対する反応時間が健常児群よりも短かった。また、健常児群は 「表情」の要素への反応率が高く、一方、 自閉症児群は「向き」の要素. 一11一.

(14) についての反応率が「表情」や「色」の要素への反応率よりも低かった。 つまり、自閉症児群は顔が正立であるか倒立であるかの「向き」に関し ては注目せず、かつ各要素をおもに見ていた。ここから、自閉症児群は 顔の要素の全体的な構成関係は重視せずに顔を見ているとしている。 以上のように顔写真や顔の図式的描画を用いた研究から、 自閉症児は 顔を「顔」としての全体的ゲシュタルトにおいて知覚しているとしてts s. 「顔として持つ意味性」は重視していないと考えられる。むしろ幾何学. 的図形と同じようなある種のパターンとして、そこでの各要素を関連づ けることなく処理していると考えられるのである。. 一12一.

(15) ll. 問題の所在と目的. 1.問題の所在. (1)人に関する視覚的認知研究の必要性. 自閉症児は、感情を認識する生得的能力が永続的に障害されていると. する社会情緒的な障害、あるいは、相手ないし他者の心の状態を認識す ることができないという広い意味での認知的欠陥による社会的認知障害 を基本に持つ。そのため自閉症児は相手ないし他者の気持ちや考えを理 解することが困難となり、適切な社会的、情緒的関係を作り上げること. がむずかしくなる。そして、相手ないし他者との社会的、情緒的な文脈 において、事物やできごとの関連性、とりわけその抽象的な関係をつか むことが困難となり、抽象の能力や象徴的に操作する能力が障害される ことになる。. これらの障害に関しては、表情や身ぶりの理解や使用(表出)といった コミュニケーションの能力をはじめ、 「心の理論」といった社会的な認. 知に基づく役割取得の能力についての研究がなされている。そして、自 閉症の持つ障害の特異性が明らかにされてきている。そこでは、当然の こととして関係する要素としての「人」の存在が前提となっている。し かし、 これらの研究はもっぱら対人的な相互作用において重要となるそ. れぞれの機能を対象として行われている。自閉症をよりグローバルにと らえてその障害の全体像を明らかにするには、眼前の「人」そのものを. いかに認識しているのかという視覚的な認知の立場からのアプローチが 補われるべきである。現象面での社会的、情緒的障害は「人」を関係の 要素として生じ、また考えられる障害に他ならないのである。そして、. その「人」が眼前に存在する何らかの視覚的対象としての形式を持つ時. 一13一.

(16) (つまり、対面状況において)、自閉症児はいかにその「人」を視覚的に 認知しているのかという問題である。. (2)顔情報処理研究の方法の妥当性の検討. 「人」を認識する際に重要な役割を果たすものとして「顔」がある。 顔の認識においては、顔情報の知覚処理および意味処理の過程に関する. 研究が行われてきている。それらの研究で行われるほとんどの実験では 提示刺激として顔写真が用いられてきている。Bruce(1982)は顔の再認を. 表情や見る角度が変化しても再び見た顔(再認時)が同じ顔であると認 識することと定義している。そして知覚処理に関して、再認時に提示さ れる顔写真が自己時に提示されたそれと同一の角度と表情であるならば、 「顔の:再認(face recognition)」と「画像の知覚(picture perception)」. を混同している(Bruce,1982,1988)としている。あるいは実験場面で顔写. 真を用いて行った再認課題については「生態学的妥当性(ecological validity)」に欠ける(Sch三ff, Banka,&Galdi,1986)と言える。したが. って、顔の知覚処理において重要な働きをしているとされる顔情報のコ ード化(「特徴に関する情報」の処理と「全体的配置に関する情報」の処 理)の機能について考察するためには、同一一・人物の異なる角度から見た顔. や異なる表情の顔の写真を用いるか、あるいはそれらの要素を含んだも のである動画(dynamic画像)を用いる必要がある(Bruce,1982)。. (3)自閉症児の顔情報処理研究の観点の検討. 自閉症児の顔情報の知覚処理に関する研究は少ない。そして、それら においても顔情報のコード化による処理の観点からの考察は行われてい ない。de Gelderら(1991)は自閉症児の顔情報処理においても一般的な顔. 認識モデルである「ブルース・ヤングの顔認識モデル(Bruce&Young,1 986)」を重視しなければならないとしている。そのような関連で自閉症 一 14 一.

(17) 児の顔の認識を考察しようとするなら、顔情報についての2つの清幽の コード化による処理の観点から検討を行う必要があると言える。 (4)顔情報に関する自閉症児の知覚処理の過程の再検討. 自閉症児の顔情報の知覚処理研究は、これまで顔写真を用いた再認あ るいは照合課題によって行われてきた。その際、顔の部分をマスキング した条件および倒立提示条件が用いられていた。そして結果から、自閉. 症児は顔を何らかのパターンとして視覚的に処理していると考察してい る(Langde11,1978;Hobson et a1.,1988)。しかし、これらの研究では正. 立顔と倒立顔の一致を可能とした過程については考察されていない。つ まり、倒立提示の条件におい’ トパターンとして知覚した顔の心的平面回. 転が可能であったのかどうかについてはふれられていない。顔をパタ,一. ンとして知覚していたと考えた場合、自閉症児ははたしてそれを平面回 転できたのであろうかという問題が残る。. 2.目的. 本研究の目的は、自閉症児は表情のdynamic条件で提示された顔をいか に知覚処理しているかを顔情報のコード化(「特徴に関する情報」の処理 および「全体的配置に関する情報」の処理)との関連において検討するこ とである。. 実験1では記出時に顔を正立および倒立で提示する方法を用いる。そ して実験2では再認時の顔についていくつかの部分(顔の特徴)をマス キングする方法を用いる。そして記銘時に未知顔を表情が変化している 動画として提示し、自閉症児はそれをいかに知覚的に情報処理をして再 認に至るのかを検討する。さらに倒立提示の顔の再認過程を考えるにあ たって、 自閉症児の心的平面回転の能力についても図形を使った実験を. 一15一.

(18) 行い、検討をする。. 一16一.

(19) 皿. 方法. 1.被験児 本研究の被験児は、 自閉症児および対照児群である非自閉の精神遅滞 児(以下、単に精神遅滞児と記す)と健常児である(表1)。 自閉症児群は DSM一 IV(アメリカ精神医学会,1994)の診断基準に該当する自閉症児10名. (男子9名、女子1名)である。年齢範囲は9歳8カ月から15歳0カ月で、. 養護学校小学部に1名、中学部に4名、小学校養護学級に4名、中学校 養護学級に1名が在籍している。これら10名の自閉症児のプロフィール を表2に示す。CARS(Schopler et al.,1986)の得点(表3)によれば2名. が中・軽度自閉症、 残り8名が重度自閉症と評定される。一・方、対照児. 群については、精神遅滞児9名(男子5名、女子4名)、健常児1C名(男子. 6名、女子4名)である。精神遅滞児群の年齢範囲は9歳5カ月から15歳 1カ月であり、養護学校小学部に2名、中学部に7名が在i籍している。. 健常児については0府内およびH県内在住の幼児であり、年齢範囲は3. 歳7カ月から5歳2カ月である。 自閉症児群と精神遅滞巨群はCAおよびMAをマッチングし、さらに自閉 症児群、精神遅滞児群、健常児群の3群のMAをマッチングした。なお、 健常児のMAは生活年齢と同じとみなしてよいと考えられる。自閉症児群 と精神遅滞児群のMAはKIDS(三宅ら,1989)の総合発達年齢(タイプT)によ った。. 実験1については、 自閉症児10名、精神遅滞:児9名、白面児10名が被. 東児として参加した(表1)。実験2においては、 自閉症児は実験1に参. 加した者のうち9名が、精神遅滞児は実験1に参加した9名全員が被験 児として参加した(表4)。. 一17一.

(20) 表1.本研究での被験児(実験1の対象児) MA(月齢). CA(月齢). 平均. n(人). 自閉症児群 10 精神遅滞児群 9 健常児群 10. 平均. SD. 155.10. 22.89. 163.67. 20.04. 49.70. 5.85. CARS得点 SD. 平均. 44.80 7.57 46.56 9.20. 40.20 5.02. 表2.自閉症児10名のプロフィール(CAおよび趾は年齢) ことば・コミュニケーション CA CARS 撚 対人関係 1. 9:08. 3:04. 47.0. 同じ大人に同じ質問. する. SD. 活動・興味. まわりの大人や友達. 特定の物(掃除機)へ. ノ気づかないことが. フ限られた興味が見 轤黷. 2 10:06. 3 11:∞. 4 12:00. 4:03. 4:09. 3:09. 指さしや大人の手を. 大人に関わられると. 電車の同じ路線図を. っ張ることで欲し 「物を要求する 知っている大人とは ネ単な会話のやりと 閧ェできる 機械的な単調な口調. 纃桙ンしたり、恥ず ゥしがる. `くことに興味を示. 野球遊びでの簡単な. 日常の決まった活動. 求[ルを理解できる. ヨのある程度の固執 ェ見られる. 特定の大人と決まっ. 決まった活動(日課). Rマーシャルを繰り. ヨの固執が強い. 46.5 コマーシャルをあい. スことばのやりとり 楽しむ 近くの友達には気づ. 決まった活動(日課). ワいな発音で繰り返. ゥないことが見られ. ヨの固執が強い. 機械的な単調な口調. 近くの友達の存在を. いつものやり方への ナ執がある程度見ら. 41.5. 31.0. 41.0. ヤす 5 12:10. 2=03. キ 6 14:02. 4:00. 32.5. ウ視することもある. キ. 黷. 7 14:07. 8 14:07. 9 14:11. 10 15:00. 3:06. 4:00. 3:06. 43.5. 要求や欲求を自分か. 大人や友達の近くに. 本の文字を眺めるこ. 「ることもよくある ェ関わろうとしない 大人との決まったこ. ニに強い興味を示す. 40.0. 迚スらかのやり方で ¥すことは少ない 機械的な単調な口調. 動くおもちゃを動か. ニばのやりとりを楽. キことに強い興味を. 37.5. オむ. ゥせる. 同じ質問を繰り返す. 遠くを見るようすで. カセットなどのスイ. @械的な単調な口調. 且閧フ顔を見ないこ ニがよくある 大人や友達に自分か 迥ヨわろうとはしな. 41.5 言葉で要求を表すこ. bチ操作に興味を示. キ. 同じ姿勢で長い時間 ニは少ない カっとしていること P語の発音は曖昧 「 烽謔ュある ※実験1には、全員が参加した。実験2には、被験児1を除く9名が参加した。 4:00. 表3.CARS得点による自閉症評定 CARS得点 評定 15∼29.5 自閉症ではない 30∼36.5 軽・中度自閉症 37∼60 重度自閉天 嘉.. 一18一.

(21) 表4.実験2の対象児 CA(月齢). n(人) 平均 SD 159.44 19.83 自閉症児群 9 L63..gZ一.apt・O! 精神遅滞児群 9. MA(月齢). CARSそ髪},∼鼠. 平均 SD 平均 SD 45.33 7.80 39.44 4.72 46.56 9.20. 2.刺激 (1)実験1. A.記銘刺激. 記銘時の提示刺激としてビデオによる旧婚のdynamic画像を用いた。モ デルはH教育大学大学院生および学部学生24名(男12名、女12名)であり、 すべての被験児にとって未知顔(unfamiliar face)である。 ひとりのモデルについて、 「ほほえみ顔」、 「驚き顔」、 「怒り顔」. め3種類の表惰を速続して繰り返してもらい、 「ほほえみ顔」で始まり 「ほほえみ顔」で終わるように15秒間カラービデオ録画を行った。画像 は首からしの顔面がモニター(11インチ)に提示されるように大きさを調. 節し、 ll声はともなわない。録画はH教育大学内の訓練室で行った。背 景は白色の壁で統一し、たとえ服装の・・部が提示されてもよいように、. モデルは全員同じ服(紺色のスポーツジャージ)を着川した。また、表情. の分類や表惰の再認が課題ではないので、3種類の表情が厳密な意味で 表現できているかどうかは問題ではなかった。むしろ表情の変化がスム ーズに行われ、動画像に静止部分が含まれないようにすることが提示刺 激作成においては重要なポイントであった。. B.記銘刺激の提示条件 峯、. このような動画刺激を12名(男6名、女6名)のモデルについて作成し》. 一19一.

(22) そのうちのモデル6名(男3名、女3名)については、正立顔提示の条件 で男女が交互の順番になるようモデルとモデルの間に5秒聞の間隔を置 いて編集した。残りのモデル6名(男3名、女3名)については、上下を 逆にした倒立顔提示の条件で同じように刺激を編集した。このようにし て作成した表情の動いている顔の提示刺激を動画条件とした。さらに、 残りのモデル12名(男6名、女6名)については、表情を「ほほえみ顔」 とした静止画像を15秒間ビデオ録画し、動画条件と同じように正立顔提. 示の条件と倒立顔提示の条件について編集した。これを動画条件に対し て静止画条件とした。. つまり、記出時の提示刺激としては動画条件と静止画条件があり、そ れぞれについて正立顔提示と倒立顔提示の条件がある。 「動画条件・正 立顔提示」、 「動画条件・倒立顔提示」、 「静止画条件・正立顔提示」、. 「静止画条件・倒立顔提示」の4種類の提示刺激である。それぞれの提 示条件において、=男女のモデルが交互に、15秒間ずつ、 5秒の間隔を置. きながら画像モニターに提示されることになる。ひとつの提示条件で6 試行ずつ、合計24試行をひとりの被験児について行った。なお、動画条 件と静止画条件は別個に編集を行った。 C.再認刺激. 一方、再臨時の提示刺激としてカラーの顔写真を用い、記銘刺激のビ デオ録画を行った直後に記銘刺激と同一・条件で撮影した。記忌寸の1試. 行ごとに、画像モニターに提示されるモデルと、それとは別の2名のモ デルの顔写真(distractor)の計3枚の顔写真を1組として再認刺激とし た(図1)。distractorとして用いる顔写真のモデルはその他の試行で提. 示されるモデル以外の人物であり、被験児にとって未知顔である。写真 の背景および服装の条件もビデオ録画したモデルと同一である。顔写真. 一20一.

(23) の表情はすべて「ほほえみ顔」(歯は見えない)とし正立顔提示である。. 顔写真のサイズは7c皿×8c皿で、27c皿×11cmの厚紙の台紙に3枚ならべ て貼り付けた。目標となる顔を貼り付けた位置は試行ごとにランダムに. なるようにした。再認刺激は1試行に1組ずつ、合計24組用いたことに なる。. 図1.顔写真3枚による再認刺激. (2)図形回転後の再認実験. 実験1終了後に参加した被験児に対して「図形回転後の再認実験」を. 実施した。なお、実験1に参加した被三児のうち自閉症児1名と精神遅 滞児1名については課題への集中に困難が見られた。そのため、 「図形. 回転後の再認実験」で対象としたのは最終的には自閉症児9名、精神遅 滞児8名であった。単純なi幾何学平面図形を提示し(記銘)、それを平面. 回転したのちの同一図形との再認の成績を見ることが目的である。そし. て、実験1で実施した顔の正立、倒立の向きによる再認の成績との関連 について調べることとする。自閉症児群が対象であるが、対照児群とし て精神遅滞児群が参加した。 一 21 一.

(24) A.記銘刺激および再認刺激 記銘刺激に用いた図形は、三角形、四角形(長方形および正方形)、五. 角形、六角形、平行四辺形、台形、だ円、および二等辺三角形である。. 記銘刺激はそれらのうちのひとつの図形をなかを黒く塗りつぶして9c皿 ×8c皿の厚紙に描いたものである。再認刺激は記三時に提示したひとつ の図形(亭亭刺激)と他に関連図形や類似図形(例えば、五角形と六角形、. 円とだ円、など)から2つの図形をdistractorとして含んだ3つの図形か らなる。それらは、25c皿×8c皿の厚紙に3つ並べてなかを黒く塗りつぶ して描かれている。. B.記銘刺激の提示条件. 記銘刺激が平面回転された状態で再認刺激に提示されている場合(回転 条件)と、平面回転されずに記銘刺激が提示された向きで再認刺激に提示 されている場合(非回転条件)がある(図2)。記銘刺激の図形の種類は9. 種類であり、両条件において同じである。つまり、両条件とも9試行行 うこととなる。なお、平面回転される角度は図形の種類によって異なり、. 1800が4試行、900が2試行、60。が2試行、72。が1試行であった。. 回転条件. 非回転条t牛. 節. [llllllll]. Y7V−N. 図2.「図形回転後の再認実験」に用いた刺激 図は、正三角形を60。回転(見かけ土は、上下が逆になっている}した場合 である。上が記銘刺激下が再認刺激である。. 一 22 一.

(25) (3)実験2. A.記銘刺激. 記晶晶の提示刺激は、実験1における「動画条件・正立顔提示」と同 様のものである。モデルはH教育大学大学院生および学部学生32名(男1 6名、女16名)であり、被験児にとっては未知顔(unfamiliar face)である。. ひとりのモデルについて、実験1と同じように3種類の表情が交代で表 現されているカラー画像による動画刺激を作る。実験1と同じようにひ とりのモデルの動画刺激の長さは15秒間である。また、表情の変化がス ムーズに行われていることが大切であり、表情の厳密性は問題とはなら ない。背景およびモデルの服装は同一とする。 B.再認刺激. 再認時の提示刺激として、実験1と同じくdistractorを2枚含む3枚 のカラーの顔写真の組を1試行ごとに作る。実験2においては次のよう に再認刺激に条件がつけられる。1つはモデルの輪郭をマスキングする 条件であり、髪、耳、あごといった顔の外周上にある要素が隠される (「輪郭」条件)。次に、モデルの両目をマスキングする条件(「目」条件). である。3つめは、モデルの口をマスキングする条件(「口」条件)であ る。最後に、顔写真のどこもマスキングしない条件(Full Face条件=FF 条件)である(図3)。マスキングは顔写真のそれぞれの部位の上に不透明 の同型の小紙片を貼り付けることによって行った。 「輪郭」条件につい. ては紙片を写真の大きさに切り、モデルの顔の輪郭部を隠すようにだ円 形に切り抜き、写真に貼り付けた。 C.記銘刺激のi提示条件. テストがFF条件→「輪郭」条件→「目」条件→「口」条件の順で8回 一23一.

(26) 繰り返して実施できるように、かつ、モデルの男女の順がランダムにな るように画品時の提示刺激であるビデオ画像を編集した。15秒の画像と 画像の間には5秒の間隔をあけるようにした。. 國國巡 回回團 「輪郭」条件. FF条件. 回回[豆] 「目」条件. 圓團回. 「□」条件. 図3.実験2における再認刺激の4条件. 3.手続き (1)予備テスト. 予備テストとして、表情の変化している(「ほほえみ顔」→「驚き顔」. →「怒り顔」→「ほほえみ顔」)モデルの顔のカラービデオ画像を11イン チカラーモニターテレビに提示して、その直後にそのモデルの顔写真と. 他に2枚のdistractorを含む3枚の顔写真を提示した。課題はモニター に提示されたモデルの顔を3枚の顔写真のなかから正しく選ぶことであ った。モデルは被験児にとって未知顔であり、 「動画条件・正立顔提示」. による記銘刺激に対する再認課題であった。ひとりのモデルのビデオ画 像の長さは15秒であった。連続3試行再認が正答であった者、あるいは 誤答が見られたり、やり方のわからない場合には、練習を繰り返し連続. 一24一.

(27) 3試行が正答となった者について本研究での被験児とした。 (2)実験方法. 実験1および実験2の場面設定は図4のとおりである。つまり、実験 者と被験児は三二の前に横に並んで座る。実験者の前には再生専用ビデ オデッキ、被験児の前には11インチカラーモニターテレビ(ナショナル TMIIOV(N))を設置する。カラーモニターテレビは被験児から見やすく、. かつ被面心との間に再認刺激が提示できる間隔をあけて置く。1試行ご との被験児の反応はビデオカメラによって記録する。その際、特に被験 児の再認刺激に対する選択行動が明確となるようにセットする。. ビデオカメラ. ビデオデッキ. ぐ)…. モニター. 間. ([S) ?stiwaye.. 図4.実験場面の設定. 実験者は、 「今からビデオを映します。顔が映りますから、その人を. 覚えてください。後で写真を見せますから、その人を指でさして教えて ください」などと被験児に指示する。実験者は1試行目のモデルの映像 をビデオデッキを操作してスタートさせる。そして、被験児がモニター. に注目するようにモニターの画像を指さししたり、実験者の視線を画像 に集中させる。 「この人を見てね」などと被験児に声をかけるが、モデ. ルの性別や年齢に関すること、あるいは画像から受ける印象に関するこ. 一25一.

(28) とにはふれないように注意する。15秒の動画像が終われば、実験者はビ デオデッキを操作して止める。そして直後に再認刺激を被験児とモニタ ーの間に提示して置き、 「今のビデオの人を教えてください」などと声. をかける。再認刺激に提示される3枚のうち1枚の顔写真を被験児が指 でさしたり、あるいは顔写真の上に手を置くなどして選択した時点で、. 再認の正誤を実験者は記録用紙に記録する。再認の正誤の記録は、その. 場で1試行ずつ行った場合と、ビデオカメラに録画された実験場面の記 録からのちに行った場合があった。特に健常児あるいは予備テストにお いて実験者の行う記録に興味を示してモニターへの集中が困難となった 被験直については、後者のやり方によって記録を行う方法をとった。こ のようにして、 ひとりの被験児について実験1においては24試行、実験 2においては32試行を行った。 なお、 「図形回転後の再認実験」についても手続きは基本的には実験. 1および実験2と同じであった。 「図形回転後の再認実験」の場合、実. 験者が記銘刺激を被験児の前に提示し、10秒後にそれを取り去った。実 験者はその直後に再認刺激を被験児の前に提示し、 「さっきのと同じも. のはどれかな」などと声をかけた。被上編が再認刺激の3つの図形のう ち、指さしあるいは手を置くなどしてひとつの図形を選んだ時点で再認 の正誤を記録用紙に記録した。このようにして「非回転条件」9試行を. 行い、その後「回転条件」9試行を行った。実験1および実験2の場合 と異なり、 ビデオモニターやビデオデッキは用いず、またビデオカメラ による記録も取らなかった。. 一26一.

(29) N. 結果. 1.実験1の結果 自閉症児群、および、精神遅滞児群、健常児群のそれぞれの画像提示. 条件での再認の正答数は表5および図5に示されている。 表5.各提示条件における3群の再認の正答数(max−6) 静止画条件 動画条件 正立顔提示 倒立顔提示 正立顔提示 倒立顔提示 平均 SD 平均 SD 平均 SD 平均 SD 4.40 自閉症児群 4.00 1.09 4.00 1.02 3.90 1.04 4.00 精神遅滞児群 3,89 O.87 2.22 0.94 2.44 1.07 4.10 健常児群 1.30 ’2.00 1.41 4.40 O.92 2,80. 6. 1.00 1.03 1.17. +自閉症児群 +精神遅滞児群 +健常児群. 5 4 舗日3 周. 2 1. 0 静止画正立 静止画倒立 動画正立. 動画倒立. 記銘刺激の提示条件 図5.各提示条件における3群の再認の平均正答数(max=6). 以下の本研究の分析では、分散分析およびその下位検定においてフll, 一ソフト“ANOVA4(桐木,1990)”を用いた。 s. 障害×画像の静動×画像の向きの3要因分散分析を行ったところ、障 一 27 一.

(30) 害の要因に主効果が見られ(F(2,26)一4.036,p<.05)、また画像の向きの 要因にも主効果が見られた(F(1,26)=45.967,p<。001)。さらに、障害の. 要因と画像の向きの要因に交互作用が見られた(F(2,26)一7.459,p<.00. 5)。交互作用についての下位検定の結果、倒立顔提示の場合において自. 閉症児群の再認の正答数は精神遅滞児群および健常児群の再認の正答数 よりも高かった(t=3.866,df=52, p<.005、および、 t・・3.808, df−52, p 〈.oos).. 次に、障害ごとに、画像の静動×画像の向きの2要因分散分析を行っ た。その結果、精神遅滞児群においては画像の向きの要因に主効果が見 られた(F(1,8)一17.989,pく.005)。下位検定の結果、正立顔提示の場合. の再認の正答数の方が倒立顔提示の場合のそれよりも高かった(t・=4.24 1,df=8, pく.005)。同じように健常児群においても画像の向きの要因に 主効果が見られた(F(1,9)一61.299,p〈.OOI)。下位検定の結果、この場. 合も正立顔提示の場合の再認の正答数の方が倒立顔提示の場合のそれよ りも高かった(t=7.829,df=9, p<.oo1)。. 一方、 自閉症児群の場合は画像の静動および向きのいずれの要因につ いても主効果は見られず、それらの要因の交互作用もなかった。. 2.実験2の結果 再認時の顔写真の各部分をマスキングした場合の自閉症児群および精. 神遅滞山群の再認の正答数は表6および図6に示されている。 表6.各マスキング条件による2群の再認の正答数(max=8) FF条件 SD. 「輪郭」条件. 平均. 「目」条件. 「口」条件. 平均 平均 SD 平均 SD 自閉症児群 6.44 0.96 4.89 1.59 5.33 1.33 5.44 1.71 ’精神遅滞一群 6.22 1.03 3.44 1,34 4.44 1.34 4.56 0.96. 一28一. SD.

(31) 8 7 6 5 灘4. H3. +自閉症児群 一一gs一一精神遅滞児群. 2 1 e Full Face輪享重目. ロ. マスキング条件 図6.各マスキング条件における2群の再認の正答数(㎜x=8). 障害×マスキング条件の2要因分散分析を行った。障害の要因に主効 果が見られ(F(1,16)=5.058,p<.05)、またマスキング条件の要因にも主 効果が見られた(F(3,48)一8.664,p<.◎01>。要因間の交互作用は見られな. かった。下位検定を行ったところ、障害要因に関しては自閉症児群の再 認の正答数の方が精神遅滞児群のそれよりも有意に高かった(t=2.249, df・16, p<.05)。またマスキング条件に関しては、なにもマスキングし. ない“Full Face”条件では他の「輪郭」条件、 「目」条件、および「口」 条件のいずれよりも再認の正答数が高かった(それぞれ、t−4.993, df−4 8, p〈.Ol; t=3.329, df−48, p〈.Ol; t−3.073, dt−48, p〈.Ol) .. そこで次に、 自閉症児群および精神遅滞児群それぞれについて、それ. ぞれのマスキング条件における再認の正答数の成績の差を調べるために、. マスキング条件の要因に関しての分散分析を行った。その結果、精神遅 滞児群においてはマスキング条件の要因に主効果が見られた(F(3,24)= 7.297,pく.005)。下位検定の結果、 “Full Face”条件での正答数が他の. 一29一.

(32) 「輪郭」条件、 「目」条件、および「口」条件のいずれよりも高かった (それぞれ、t−4.609, df=24, p<.oo5;t−2.950, df隅24, p<.05;t−2.7. 66,df=24, p〈.05)。一方、 自閉症児群においては“Full Face”条件お. よび他の3マスキング条件間での再認の正答数には有意な差がなかった (F(3,24)一2.211, p>.10).. 3,・「図形回転後の再認実験」の結果. 「図形回転後の再認実験」の結果は表7および図7に示されている。. 表7.図形の「回転条件」および「非回転条件」での2群の再認の正答数(max−9) 非回転条件 平均 SD 自閉症児群 精神遅滞児群. 8.89 O.31 7,75 O.66. 9 8. 回転条件 平均 SD 8.67 O.47 5.63 O.99. ・一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一.. 7 坤6 田 5. +自閉症児群 +精神遅滞児群. 4 3 非回転条件. 回転条件. 回転の条件 図7.図形回転の条件による2群の再認の平均正答数(max=9). 障害×図形回転の有無の2要因分散分析を行ったところ、それぞれの要 一30一.

(33) 因に主効果が見られた(F(1,15)一91.782,p<.001;F(1,15)=21.303, p<.. 001)。そして、これらの要因には交互作用が見られた(F(1,15)=13.999,. p<.005)。交互作用についての下位検定の結果、精神遅滞児群では「回. 転条件」の正答数と「非回転条件」の正答数において有意な差が見られ た(F(1,15)一34.920,p<.001)。一方、自閉症児群ではそのような有意な. 差は見られなかった。. 一31一.

(34) V. 考察. 本研究の目的は、自閉症児は社会的、清緒的な情報を多く担う顔につ いて知覚的な情報処理をいかに行っているのかを表情のdynamic場面での. 再認過程を通じて考えてみることである。その際、顔認識過程での知覚 処理における顔情報のコード化との関連において検討を行う。なお、本 研究に参加した自閉症児群はMA4歳前後の重度(CARS得点による)年長自. 閉症児であり、本研究はこのような条件の自閉症児の顔情報の知覚処理 過程について検討するものである。. 実験1の結果から、自閉症児群は提示される顔が静止画であっても表 情のdynamic場面としての動画であっても、正立顔として提示された場合 と倒立顔として提示された場合の再認の成績とに見るべき差はなかった。. そして、いずれの場合も比較的よい成績を示した。対照児群においては 静止画であっても表情のdynamic場面であっても、正立顔として提示され た場合は:再認の成績は比較的よかった。しかし、倒立顔として提示され. ると再認が困難となった。また、実験2の結果から、自閉症児群は顔の 輪郭、 目、口(Haig(1984,1986)は、これらの要素についての情報は顔の. 再認に大きく影響するものとしている)がマスキングされても、あるいは マスキングされていなくても再認の成績に統計的な差はなかった。そし. て、いずれのマスキング条件でも比較的よい成績であった。一方、頬心 痛群では顔のいくつかの重要な特徴がマスキングされると再認が困難と なった。これらのことから、表情のdynamic場面において自閉症児群は対 照語群とは異なる過程によって顔情報の知覚処理を行っていたと考えら れる。. Velkmar(1989)らはCAが10歳以上でMA平均が5.1歳である年長自閉症児. を被験児とした実験から、彼らは顔の部分の正しい配置については理解 一32一.

(35) できているとしている。本研究に参加した自閉症児群も顔を顔としての 全体的ゲシュタルトにおいては理解できていると考えられる。以下、自 閉症児群において考えられる顔情報の知覚処理について考察を行う。. 1.実験1の結果についての考察 顔の再認過程での知覚的な情報処理においては、顔情報についての 「特徴に関する情報」の処理と「全体的配置に関する情報」の処理の2 つの情報に関するコード化が重要である。これらの顔情報はCA3歳以上 の健常児を被験児としたいくつかの研究から、未知顔であっても既知顔 であっても、年齢に関係なく処理されていることが示されている(Flin,. 1985;Beanninger,1994;Chung&Thomson,1995:Chung&Thomsonは研 究のレビュー)。 「ブルース・ヤングの顔認識モデル」では、これらは顔. の知覚的符号化の結果生成される表象である「構造コード」として顔の 形態的特徴を記述する機能を果たしているくBruce&Young,1986;Bruce, 1988)。Yin(1969)は、倒立顔の写真が提示されると、健常者は「全体的 な印象(general i皿pression)」よりも「目立つ特徴(distinguishing. feature)」を認識の手がかりにしていたことを報告している。あるいは、 「サッチャーの錯視(Thompson,1980)」のように目と口を正しい位置で上. 下逆にした顔写真では倒立提示の場合には顔面の奇妙さにはほとんど気 づかない。しかし、それが正立提示されると非常にグロテスクな顔とし て見えることが知られている。Carey(1992)はこのように顔に見られる特. 異的な要因として顔の各部分の配置に関する知識をあげ、倒立顔が提示 されると顔の全体的な(holistic)情報のコード化が妨げられるとしてい る。また、Bruce&Yeung(1986)やBruce(1988)は、顔は他の対象と異な. り、観察者中心の視点から(つまり、正立方向の顔として)のみ認識され. 一33一.

(36) ればよく、通常生じることのない倒立顔のような場合について事物中心 の視点から顔認識の処理過程について論じることはふさわしくないとし ている。つまり、顔が倒立顔として提示されると顔の再認過程で重要な 働きをするとされる「構造コード」による機能は妨げられることになる。 それはおもに各特徴についての「全体的配置に関する情報」の処理が困 難iとなる(Sergent,1984;Rhodes et a1.,1989;Chung&Th6mson,1995). からであるとされる。. 実験1の静止画条件では記銘時と再認時で同一表情のともに正面から 見た顔を提示した。この意味ではBruceが顔情報の処理実験の際に混同を 避けないといけないとした「画像の知覚(picture perception)」実験の. 要素を含んでいることになる。しかし、倒立顔提示において参加した対 照児群の再認が極端に妨げられたことは「顔の再認」実験として課題が 処理されていたことを示している。このように再認が困難となったのは 顔情報のコード化(特に「全体的配置に関する情報」の処理)が倒立顔提. 示では妨げられたためと言える。一方、自閉症児群においては倒立顔と して提示されても、正立顔として提示された場合と同じように再認が可. 能であった。このことは、自閉症児は情報のコード化によらない顔情報 の知覚処理の方法を用いていた可能性を示している。. 自閉症児の顔情報の知覚処理に関する研究は少ない。顔写真を提示に 用いたそれらの研究においては、次のように考えられている。まず、 Langde11(1978)はCAが10歳以上の年長自閉症児について、顔を見るとき. に“focal center”を持たないとしている。そこから、自閉症児は顔を 「単純パターン」として認識していると考えた。また、Hobsonら(1988). は各特徴を知覚し再認の手がかりとはしているが、顔の全体像が持つ意 味性は重視していないとしている。そして、顔を「抽象パターン」とし 一34一.

(37) て認識していると考えた。これらの実験では本実験と同じ倒立顔提示の 方法が用いられていた。しかし、顔情報のコード化の観点からは考察さ. れていない。また「パターン」として知覚されたのちの再認ないし照合 に至るまでの回転操作の可能性についても考察されていない。 自閉症児は心像(mental image)の操作が苦手である(Hermelin,1978;. Shah&Frith,1983)とされる。本研究の顔の再認実験で対象とした自閉. 症児群について「図形回転後の再認実験」を行い、単純図形についての 心的平面回転の能力について調べた。自閉症児群および対照一群ともに 非回転条件での成績は比較的よく、歯群とも図形の形態の差異は認識で きていたと考えられる。また、回転条件での自閉症児群の再認の成績は 対照虚言のそれとは異なり天井効果に近く、非回転条件とかわらなかっ. た。これらのことから、参加した自閉症児群は単純図形については心的 平面回転が可能であったと考えることができる。また他の研究において、 年長(10歳∼)自閉症児はWISCの■ド再検査である「積木模様」課題で他の. 下位検査よりもよい成績を示すことが報告されている(Ohta,1987; Lincoln et a1.,1988;Allen, Lincoln,&Kaufman,1991)。簡単な埋没. 画課題に見られるように、彼らは構成する各部分の要素を分離してとら えることは比較的たやすくできる(Shah and Frith,1983)。そのためにそ. れら要素の個々の空間的配置状況についての情報は得やすい(Frith,198 9)とされる。 「積木模様」課題ではこのような機能以外にも「積木模様」. を構成する要素の心的回転も行うことができたと考えられる。. さて、本研究に参加した自閉症児群のうち3名については静止画条件 での倒立顔提示の成績および「図形回転後の再認実験:」の回転条件の成. 績がともに天井効果を示していた。ここから彼らが両課題を同じ性格の ものとして、同じ処理を行っていた可能性が考えられる。他の自閉症児 一35一.

(38) についても両課題の得点はともに比較的高く、そこでの処理についても 同様のことが考えられる。つまり、本研究に参加した自閉症児群は Langde11やHobs◎nらの考えたように提示された顔画像を何らかの「パタ ーン」として知覚しており、かつ、それを心的平面回転(実験1の場合は 180。)することが可能であった(「仮説1」)。そのような「仮説1」に. よるなら、実験1の倒立顔提示の場合においては「パターン」として知 覚した顔画像をそのままの形で180。回転し、再認刺激と画像の照合を行 っていたと言うことができる。そのために再認の成績は、同じように画. 像の照合による処理を行っていたと考えられる正立顔提示の場合とかわ らない結果となった。. 次に、本研究の主題である表情のdynamic場面における実験1の結果に ついて考えてみる。その際、まず自閉症児の知覚処理に関するいくつか の研究から自閉症児において考えられる情報処理の特異性について検討 してみる。そして、本研究の実験1において静止画条件と動画条件で再 認の成績がかわらなかったことについて考察を行うこととする。. 自閉症児は論客的に提示された数個の文字を視空間的に再生、再認し ていたり(Hermelin,1978)、言語性MAが高くない自閉症児は情報の継時的. 処理では同時的処理にくらべて効果的に能力を発揮することができない (Allen, Lincoln,&Kaufman,1991)ことが報告されている。あるいは、. 自閉症児にみられる「右脳タイプのことば(繰り返し、具体性、機械的な 話しかけなど)」は分析を行わずに、いわば視空間的な認識を象徴するも のであり、継時的処理スキルや分析的スキルの失敗がみられる(Prior,1. 979)とされる。さらに、提示された顔のイラスト画やその他の対象物に. 対する自閉症児群の注視時間は対照晶群とくらべて短いことが報告され ている(0’Conner,1971;川岸,1984)。これらのことから自閉症児は時間. 一36一.

(39) の経過とともに継時的に情報が入力される動画条件ではその情報量を充 分に利用できていないと考えられる。あるいは、そのような情報につい ては処理が困難である可能性が考えられる。 Hermelin(1976)は、自閉症児は赤と緑のおはじきの並び方を再生する 課題においてそこに示される冗長性(redundancy)を利用するのではなく、. 並び方を機械的に記憶することによっていたとしている。また、Frith &Hermelin(1969)は、横並び6枚のジグソーパズル課題において、視覚. 的手がかりとして描かれた一本線の効果は自閉症児群においては対照児 群と違って認められなかったとしている。ここから、Her恥elinは、自閉 症児は提示される視覚刺激について「情報のコード化」に失敗しており、. 情報処理は入力される情報を短期記憶体系を用いた機械的記憶によって いるとしている。. また、石州(1990)は自閉症児における動画の認識抑制効果を報告して. いる。その実験結果では、例えば動画で示された顔の表情は、静止画と して示された場合よりも目標刺激である表情の静止画像との照!合に反応. 時間が長くかかったのである。しかし、その一方で正答率はかわらなか ったのである。自閉症児は表情の意味理解が困難であったり、それに失 敗していることが多い(Hobson,1986a,1986b,1987;Weeks&Hobson,1 987;若松,1989)。つまり、そのような情緒的な意味性を手がかりとした. 処理ではなく、別の手がかりによって処理を行っていたことも充分考え られるのである。. 以上のような自閉症児の情報の知覚的な処理に関連する研究から、自 閉症児は継時的な視覚情報である動的画像については特定の状態の画像 を短期記憶体系において機械的に記憶することにより同時的な方法によ. って知覚処理している可能性が考えられる。そのように考えるなら、石 一37一.

(40) 川の実験結果は次のように説明ができることになる。つまり、参加した 自閉症児は提示された動画についての継時的な情報の処理は行っていな. かった。そうではなく、顔のある状態画像を記憶することによって再認 の処理に用いていた。そのために照合すべき表情の状態画像が選ばれる. までの時間つまり反旛時間は長くかかることになった。しかし、視空間 的な状態画像の照合であったために正答率は高かったのである。. つまり、実験1の動画条件においては、自閉症児群は表情のdynamic画 像のうちのある時点での特定の表情状態の顔画像(再認刺激と同じ「ほほ えみ顔」)を記憶していた(「仮説2」)と言える。そのように考えるなら、. 実験1の動画条件では静止画条件におけると同じような状況での処理を 想定することができる。したがって、自閉症児群において実験1の動画 条件と静止画条件での再認の成績はかわらなかったことが説明できる。. 2.実験2の結果についての考察 Sergent(1984)は、顔の異同判断はもっとも大きな影響をおよぼす特徴. の変化に加えて、他の特徴の変化を加えるとさらに大きな影響がおよぼ されるgとを示している。ここから、 「特徴に関する情報」の変化は独. 立ではあり得ず「全体的配置に関する情報」にも変化を生じさせるとし ている。さて、実験2においては重:要な特徴をマスキングし、 「特徴に. 関する情報」を操作した。それによって顔の特徴をマスキングすること が顔の再認過程での知覚処理におよぼす影響について調べた。その結果、. 対照児群ではいずれのマスキング条件でも、マスキングされない条件に くらべて再認の成績が悪くなった。これは提示される顔が未知顔のため に「構造コード」の貯えがなく、 「特徴に関する情報」のコード化の変. 化によって記銘時と再認時の「構造コード」に大きなズレが生じたため. 一38一.

(41) と考えることができる。一方、自閉症児群においてそのようなコード化. の処理が行われていたとすると、未知顔であったにもかかわらず記銘時 と再認時で「構造コード」には大きなズレが生じなかったことになる。 しかし、 「特徴に関する情報」のコード化が変化したにもかかわらず全 体のコード化が変化しなかったと考えることは、 「構造コード」の貯え. のない未知顔の場合には無理があると言わざるを得ない。むしろ、その ようなコード化によらない処理を行っていたと考えられる。. ここで、実験2の結果について先の「仮説1」および「仮説2」に基 づいて考察を行ってみる。 「仮説2」によるなら、自閉症児群は記出時. のマスキングされていない状態の表情のdynamic画像のうちの特定の表情 状態の顔画像について、それをそのままの形で記憶していたと考えられ る。そして「仮説1」によるなら、その記憶した顔画像とマスキング部 分のある再認刺激を画像照合していたと言うことができる。すなわち、. 再認刺激のマスキングの部分とその有無にかかわらず再認成績に差はな く、しかも比較的よかったことが説明される。これは、実験2において 自閉症児群は顔情報に関する「特徴に関する情報」の処理および「全体 的配置に関する情報」の処理によるコード化とは異なる別の処理を用い ていたことを示唆するものである。. 3.まとめ このように、実験1の結果から考えた自閉症児群における表情のdy− namic場面での顔情報の知覚処理についての仮説に基づいて、刺激の提示. 条件は異なるが同じ表情のdynamic場面での再認課題であった実験2の結 果を説明することができた。ここから、自閉症児群は表情のdynamic場面. である実験1および実験2において、そのような同じ特異な方法により 一39一.

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