成功文学としての Adam Bede
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(2) 62. there's such a thing as being over-spential; we must have something beside Gospel 1 this world. Look at the canals, an th aqueducs, an th coal-pit engines, and Arkwright s mills there at Cromford; a man must learn summat beside Gospel. to. make. them. things,. I. reckon..‥there's. the spernt o'God in all things and all timesweekday as weユ1 as Sunday-and i'the great. 学における範例と同じ様に,この中流階級的な独立独行 を重んじる自助の精神の具現とみなすことができる。特 に第19章と第21章で語られる, Adamが夜学に通って多 少の学問を納め,進んで自己陶冶に努める姿は,注目に 値する。 "Knowledgeis Power.というのが, Victoria時代に好まれていた金言であり,独学・自己陶冶 は成功の主要な要素として,当時しきりに勧められてい たものだからであるO. works and inventions, and 1 the figuring and the mechanics. And God helps us with our headpieces and. our. hands. as. well. as. with. our. souls‥='(53). Adamによる,炭坑のエンジンやアークライトの機械へ の肯定的な言及は,進行中の産業革命とそれが表象する 文明の進歩に与する,彼の態度を示唆するものであり, ここでAdamの言わんとする「神の福音以外のもの」 (something beside Gospel)とは,労働の尊厳に基づ く, -種の仕事の福音に他ならない。 次に,仕事の福音とも相互に結ばれている,自助の精 神に関して言えば,そもそも自助は,労働者階級によっ て,社会的状態を自ら改善すべく,自発的に実践されて いたものであった。労働者により,個々人として一人で は出来ないことを一緒にやるために設立された共同組織相互改善協会(the mutual improvement society)や 友愛協会(the friendly society),協同組合販売店(the cooperative store)や労働組合(the trade union)等が,その例であり,いわゆる相互扶助の精神に支えられ た自助として,その形態は集団主義的なものであった。 しかし,世紀中葉に,この自助の精神は変化を被り,倭 勢な中流階級の個人主義哲学の中に統合されていく。 7 中流階級は,社会の弊害に対する,集団的ないしは共同 的責任という考えに対立し,レッセ・フェールを積極的 に支持するものとして,自助の遺徳的後を強調するよう になっていくからである。つまり,元来,新しい産業社 会で文化的・物質的恩恵のいくつかを掴みとろうとする, 労働者階級の工夫であったものが,今や,より良い社会. (ii)労働貴族層としてのAdam ところで,成功即ち出世とは低い階層からより高い階 層への上昇を意味する社会移動であれば, 「すでに成上っ た者」 8として,土地を購入し,伝統的な有閑階級を志 向する上・中層ブルジョア階級にとって,仕事の福音と 自助の精神は,レッセ・フェ-ルに味方する,対社会的 な理想としては大いに尊重し,吹聴すべきものではあっ ても,もはや自己の信条としてはそれ程大きな意味を持っ てはいなかった。同様に,劣悪な労働条件下で苦しみ, 日々の生計をたてるのが精一杯であった,賃金労働者の 大部分にとって,現実には,仕事の福音はむしろ近づき がたいものであり,自助の精神は単に困難な状況を自力 で進むためのアドヴァイスに過ぎなかった。それゆえ, これらの思想の実質的な社会的担い手は,労働貴族層と 呼ばれる上層労働者階級,つまり熟練労働者層であった と指摘されている。この点で, Adamが職人頭を務める 熟練した大工であるということが重要な関連を持ってく m 労働貴族層が出現するのは1850年代であり,それは 「新型組合」の設立により,再び労働運動が活発化して いく時期に当たる。当時,機械工や大工の組合が新たに 結成され, 9これらの活発化していく労働運動のリーダー となったのが彼らであった。そもそも18世紀末期の熟練 した大工職人であるAdamとは,歴史的にみれば,労働 貴族層の祖先にあたる人物なのである。しかも,両者の -..一・v蝣サ'a. ABの場合,個人の主導性を重んじて行動し,自らの 福祉向上に努力する,勤勉で多分に合理的な人物として,. 親近性は単に歴史的なそれにとどまらない。 Malcolm も指摘しているように10Adamにはその風貌と特性の両 面において,労働貴族層の主要な特徴が刻印されている のであるo繰り返し言及されている,そのむき出しの遥 しい腕と広い肩幅を特徴とするAdamの容姿(Chs. 1, 19)は, 1850年代の労働組合運動に見られる職人の図像 を反映している。11そしてAdamの特性をなす,勤勉と 熟練した技量(Chs. 1. 19, 50),信頼性と堅い意志 (Chs. 4, 5, 33),他者が払う敬意とプライド(Chs. 9, 21, 24),軽薄さと不節制への嫌悪(Chs. 1,4, 25),自 立心と苦学(Chs. 19, 21, 33)等は,いわゆる社会的. Adamが大工の職人頭から,やがてJonathan Bergeの 事業の共同経営者,地主の森林管理人へと出世して経済 的自立を達成していく過程そのものが,ちょうど成功文. 英雄たちの特質と分かち合う点を持ちながらも,それら には,明らかにその英雄たちを進んで見習おうとした, 19世紀中葉の労働貴族層の特質がこだましているのであ. 状態に対する労働者階級の諸々の要求への万能薬として 使われるようになり,もし労働者階級が貧乏で無知であ れば,それは究極的には,彼らが道徳的に欠陥があるか らだとみなされるようになっていくのである。そして, 時代のモットーと化していくこの中流階級的な社会哲学 香,通俗的な形で提示したのが,いわゆる成功文学なの であった。.
(3) 成功文学としてのAdam Bede. る。. 63. 殴り倒してしまった後で,己の短気と思いやりのなさを. そしてそのようなAdamが社会的に出世し,最終的に. 反省するAdamの姿の中に,彼の持つ欠点が最もドラマ. Dinahと結婚して幸せな家庭を築くことで物語が閉じら. ティックな形で描き出されていると言えよう。次に引用. れていく結末には,一面において,自助の精神の変容に. する,語り手が告げる些細なェピソードには,有徳の職. 即して世俗化したVictoria朝的な成功観の投影を見るこ. 人Adamに欠けているものの本質が簡潔に示唆されてい. とができそうである。なぜならば,幸福な家庭の理想が. る: "The idle tramps always felt sure they could. 声高にたたえられていた当時にあっては,家庭生活の成. get a copper from Seth; they scarecely ever spoke. 功は仕事の成功にまさるとも劣らず,重要なものであり, 賢明な結婚をし,幸福な家庭を建設することは,成功の. to Adam. " (50)このAdamに見られるcharity (慈善) の行為の欠如は, Eliotがドグマは否認しながらもその. 重要な一部であったからである。 Adamが示す結婚に対. 倫理は尊重していたキリスト教の倫理的本質をなすchar-. する慎重な配慮一例えば, 「家族が増えるにつれて貧乏. ity (愛)の精神-つまり,隣人愛という他者への思い やり-の欠如を端的に示唆していると言えよう。. もひどくなっていくという見通ししかないのに,匂うよ うな若い娘と結婚するのは,馬鹿げているだけでなく,. この点において, Adamは彼が尊敬するIrwin牧師と. 間違っている」 (256)と決心し, 「前もって家財を整え,. は多分に対照的な人物である。 Irwin牧師は「余り高遠. 万一に備えて貯金する」 (256)余裕が持てるまでは結婚. な目的や神学的熱意を持たず」 (112),その精神的好み. しない,という「乗り越えるべき障害」 (254) -の冷静. は「むしろ異教的」 (113)で, 「今日の,いわゆる『真. で十分な考慮など-は,当時,幸せな結婚-の手引き. 面目な』 ( `earnest')人」 (112)とは無縁である。し. として,成功文学で繰り返し唱えられていた内容を,多. かし,彼には「非常に高名な美徳に時に欠けている愛. 少敷宿したものにすぎない。. (charity)がある。」 (113) Irwin牧師が母親や妹達,同 胞の仲間に日々示している「思いやり深い心配り」. n Adamの精神的成長とEliotのエトス批判. (113)こそ,人間的なcharityの精神の具現に他ならな い。物言吾のクライマックスをなす, Dinahの獄中の. (i) Adamの遺徳的欠点とエトス批判 このように, 19世紀中葉のエトスを体現し,当時の立 役者的存在であった労働貴族層の姿が重ね合わされてい. Hetty訪問で描き出されているものも,同様である。こ の場面はDinahのモデルとなったEliotの叔母のEliza-. るAdamであるが, Eliotはそこに少しばかりのアイロ. bethの体験に基づくものと言われているが,そもそも囚. ニーを潜ませ, Adamのこの多分に理想的な職人像は微. 人を訪れる行為は聖マタイのいう「慈悲の六つの行い」. 妙な浸食を受けることになる。例えば,第1章において,. の一つをなす。13本来キリスト教でいう愛(charity)と は,神への愛(caritas Dei)と隣人愛(caritas. Adamは明らかに他の四人よりも優った職人として措か れてはいるが,うっかり者のSethがドアを仕上げたと思っ たら,羽目板を忘れていたことに対して, Wiry Benが 冗談を繰り出すヒュ-モラスなタッチで描き出された一. proximi)という不可分の二側面を持っものであるが, これらの慈悲の行いはむしろ後者の,先にキリスト教の 倫理的本質をなすものとして言及した,人間的な愛と密. 場面において,彼は他の者と一緒に「声を出して笑うこ. 接に結ばれている行為である。敬度なDinahにおいて一. ともなく」 (51), Benの悪気のない冗談を阻止しようと. 貫して強調されていたもの,そしてとりわけこの場面で. さえする。 Benを描写する語り手のヒューモアは, Bar-. 彼女が体現しているもの-それはこの牢獄訪問に象徴. rettも指摘しているようにBenの軽薄さよりもむしろ,. される,隣人愛という人間的な愛の精神なのである。そ. Adamの余りにもピューリタン的な,厳格すぎる生真面. してこの意味におけるcharityこそ,後に見ていくよう に,仕事と並んで,この物語を貫くキー.ワードとなっ. 目さを暴露するものである。 職人としてのAdamが持っ,この行き過ぎた生真面目. ていく言葉であると言えよう。. さは,実は,彼の持っ道徳的欠点の一つの表れとみなす. さて, Adamが同僚の職人に対して示す厳しさは、. ことができる。勤勉,実直を旨とし,それを完壁に遵守. Hayslope村の模範的な借地農であるPoyser氏が怠惰な. できるだけの立派な身体と強い意志を持ったAdamであ. 農民に対して示す厳しさや過ちを犯したHettyに対して. るが,まさにそれゆえに,彼は人の弱さを許すというこ. 示す無慈悲さと通底するものを持っている。 Poyser氏. とを知らず,他人にも彼と同様の勤勉さ,誠実さを要求. はAdamと同様,ピューリタン的な勤勉と質素を重んじ. してしまうBenの冗談を叱責するAdamの厳しさに宙. 平素, Porser夫人の貧乏な身内にも親切に振る舞う「心. えるように,彼の心底にある,この思いやりのなさは,. の優しい」 (459)人物であるが,同じ農業に従事するも のとして,ずさんな農業経営を行うLuke Brittonのよ. 彼の場合,短気で自尊心が強く,人に厳しすぎる,とい う欠点となって人の目に表れるのである。第27章と続く. うな借地農に対しては「北東の風同様に,厳しく無情」. 第28章, Hettyを誘惑したArthurを激しく責め,思わず. (188)である。また,裕福な借地農の家長として,誇り.
(4) 64. 高く,何よりもリスベクタビリティを重んじるPoyser. (1861)における産業都市のスラムと化して消滅していっ. 氏は, Hettyの転落によって一家にもたらされた「胸を. たLantern Yardの描写の中にも明白に安えるわけであ. 焦がすような恥辱感」 (459)に激怒し,それに打ちのめ. るが, Eliotは自助努力の要請を強化したものと言われ. されてしまったために, old Martin Poyserと同様,彼. ている新救貧法(1834)の施行,あるいは一連の工場法. はHettyに対する同情を一切抱くことができなくなる。. の規制が逆説的に暴露する,当時の劣悪な労働条件-. Poyser氏がHettyの養父の役を果たしていることを考え. これらのものが示唆する,世紀中葉のエトスがはらむ偏. るならば, 「恥辱感」に打ちのめされた彼が,罪を犯し. 狭さを看取し,一見すると豊かだがその奥底に自己満足. た彼女を見捨てることは, Hettyが「恥辱の恐怖」 (425) にかられて放浪した揚げ句,我が子を遺棄した行為と本. 的で狭陰な自助の精神が潜在するLoamshire-Hayslope 世界を,一面において,表面上はthe Great Exhibition. 質的には同じものであると言えようHettyと同様,心. に象徴される繁栄を誼歌しながらも同様の道徳的欠点を. 底において他者への思いやりに欠け,強いリスベクタビ. はらむVictoria朝社会とアナロジーを持っもの,として. リティの観念にとらわれているPoyser氏には,そのこ. 描き出しているのである。 15. とが分からないのである。 このように,それぞれ模範的な大工,模範的な借地農 としてHayslope村を代表するAdamとPoyser氏が同僚. (ii) Adamの精神的成長とEliotのvision EliotがGeorge Stephensonのことを「私の偉大なヒー. の者たちに示す厳しさに潜む思いやりのなさ,あるいは,. ロー達の一人」 16と公言していることからも推察される. Hettyの嬰児殺しを巡って明らかにされるHettyと. ように, Stephensonによって代表され,彼女の父親Rob-. Poyser氏の無情さは,単にそれぞれの人物の特性を表. ertが実践していった仕事の福音と自助の精神そのもの. すだけでなく,相互に一つに結ばれて,彼らが住む. は, Eliot自身も本質的には是認する信条であったと思. Loamshire-Hayslope世界の道徳的欠陥をも具体的に暴. われる。結局, EliotがABで問題としているのは,世紀. 露するものとなっている。 「恥辱の恐怖」にかられて. 中葉に変化した自助の精神の行き過ぎとそれと裏腹の人. Hettyがさまよう「絶望の旅」 (Ch. 37の章題)を記し. 間的なcharityの精神の喪失への憂慮であったと言える. た第37章で,語り手はHayslope村の村人達の心的態度. であろう。それは,また, "Knowledge is Power. " という時代の標語に端的に示唆されているロゴスの原理. (attitude of mind)を次のように,描き出している:. の偏重に対する,人と人を関係づけるエロスの原理の尊 `The Parish!'You can perhaps hardly understand. 重,と言い換えることもできる。時代のエトスを体現し. the effect of that word on a mind like Hetty's,. ているAdamがその道徳的欠点を克服し最終的に達成し. brought up among people who were somewhat. ていく精神的成長に, Eliotが理想とするエトスの姿が. hard in their feelings even towards poverty, who. 示唆されていると言えよう。ここでは紙幅の関係上,. lived among the fields, and had little pity for. Adamの精神的成長に関しては,その要点だけを指摘す. want and rags as a hard inevitable fate such as. るにとどめ, Eliotがそこに託したvisionを見ていくこ. they sometimes seem in cities, but held them a mark of idleness and vice-and it was idleness. ととする。. and vice that brought burthens on the parish.. 者への思いやりのなさを認識したAdamは,やがて. (424). Arthur-Hetty事件という一大試練に見舞われる。その. 父親の死に直面してはじめて,自分の心の中にある他. 大いなる悲しみの下, 「深い言いようのない苦悩」 (471) という「火の洗礼」 (472)を経て, Adamは再生し,. Hayslopeの人々は「田園に住み,欠乏やぼろ服に対し て,都市で時に見られるような残酷で避けがたい運命と. 「新たな畏敬の念と哀れみの情で満ちた魂」 (472)を持っ. して同情することは殆どなく,それらを怠慢と悪徳の印. て,苦しむ人間すべてへの共感に目覚めていくのである。. と考えて」いる。ここに示されている,独我論的で偏狭. そしてこの新しい感受性は,以前にも増して一心に仕事. な自助の精神が, AdamとPorser氏そしてHettyがもつ 厳しさと無情さの背後に控えているのである。総じて. にいそしむAdamの心の中に, Dinahに対して, Hetty の時の未熟で盲目的なものとは異なる,成熟した愛を育. 「ゴセンの地」 (80)のように豊かな土地で「パンに事欠. んでいく。そしてそのような彼には,自分自身が「新た な力」 (574)を加えられ, 「拡大された存在」 (574)の. くこともなく」 (134-35)暮らしているHayslope村の人々 には「神の言葉に対する不思議な無感動が存在する」. ように感じられるのである。物語も終りに近い第52章で、. (137)とDinahも認めている。. 神への愛と世俗のAdamへの愛に心の分裂を感じる Dinahに対して, Adamは次のように述べている:. 「救貧法制度全体が取り除かれるべき一つの弊害であ る。」 14というEliotが抱いていた確信やSilas Marner.
(5) 成功文学としてのAdam Bede. 65. `-I don t believe your loving me could shut up. の精力的な活動において示される,自助の精神」 -即. your heart; it s only adding to what you've been before, not taking away from it; for it seems to. ち,彼が言うところの「精力的な個人主義」 (energetic individualism)19-は,すでに触れたように, 「より弱. me it s the same with love and happiness as with. き者,より不幸な者は置き去りにする」,20レッセ・フェー. sorrow-the more we know of it the better we. ル的,中流階級的な個人主義哲学に統合され,それを代. can feel what other peoples lives are or might. 弁するものして受容されていったのであった. ABが当. be, and so we shall only be more tender to em,. 時隆盛を誇っている通俗的な成功文学と決定的にその決. and wishful to help em. The more knowledge a. を分かつのは,まさにこの点であると言えよう。. man has the better hell do s work; and feelings a sort o'knowledge.'(553). Ⅳ結び 以上見てきたように,労働貴族層の姿が重ね合わされ,. 「悲しみ」と「愛や幸せ」は本質的には同じものであり,. 仕事の福音と自助の精神を体現している職人Adamの物. 他者-の思いやりを増す,というこのAdamの述懐は,. 語は,まさに一種の成功文学と見なせるものである。し. これまでの人生を通して,人を愛することの真の意味を. かしながら,当時の成功文学が担うエトスの偏狭さを告. 知ったAdamの姿を示すものである。彼がなした精神的. 発し,それを是正していく視点を自らに内包している. 成長は"feeling's a sort o'knowledge. "という一文. ABは,その意味では,当時の通俗的な成功文学を批判. に集約されていると言えよう。 「知識」 (knowledge)ば. する, Eliot独自の成功文学となりえていると言えるで. かりでなく,他者との共感を育む「感情」 (feeling)の 尊さを身をもって体得していったAdamとは,一個の人. あろう。. 間として見た場合,明らかに, Eliotが共鳴した. た「全体的人間」において具体化される,自助の精神と. Feuerbachの説く, 「頑」 (head-knowledge)と「心」 (heart-feeling)が止揚・統合された「全体的人間」. 人間的なcharityの精神の融和,というヒュ-マニスティッ クなvisionは,具体的・実際的な社会的改革でなく,む. (the total man)"へ成長していったと結論づけること. しろその具体的な改革の前提となる,時代のエトスの変. ができる。. 革を志向し,人々の心的態度の理想的なあり方を示した. そしてそのことを我々のコンテクストにそって言い換. しかも, EliotがAdamの精神的成長を通して提示し. ものである。それゆえ,そのvisionは,多かれ少なかれ,. えるならば、 「労働賛歌」として幕を上げたAdamの物. 労働を尊び,独立独行と自助努力をよしとする,広く近. 語は,人間的なcharityの精神を称える「愛の賛歌」の 物語と融合し, Eliotによる「人間賛歌」としてその幕. 代以降の個人主義的な欧米の資本主義社会-とりわけ,. を閉じていくと言うことができよう。この労働(work). ピューリタン的な伝統の感化を強く受けた英米のそれπ における,近代人の心的態度についての一つのモデルを. と愛(charity)の融合こそ, Eliotが職人Adamの物語. 示唆したものとして, Victoria時代という時間的制約を. で描き出そうとしたものに他ならない。それゆえ,そこ. 越えた普遍性を含んでいると言えよう。その意味では,. には、ロゴスの原理に裏打ちされた世紀中葉のエトスの. ABはイングランドの田園生活を記録した「大衆的古典」. 否定というよりもむしろ,そのエトスがEliot流に是正. としてだけでなく,21今なお現代的意義をはらむEliot独. された,自助の精神と人間的なcharityの精神の融和, という極めてヒューマニスティックなvisionをはっきり. 自の成功文学として,読まれるべき価値を持った作品で ある,と言えるであろう。. と認めることができるように思われる。 18 これに関連して興味深いのは, Self-Helpの最終章が 「人格一兵のジェントルマン」と題され, Smilesの説く. 荏. 教説の最終目標が人格の完成に置かれているということ である。そしてそこにおいては, ABと同様,他者への. 的なものとして, Small Beginnings, or The Way to Get on (1850's) ; Men Who Have Risen (1850's) ;. 思いやりがやはり重要なものとして指摘されている。し. Success in Life: A Book for Young Men (1852). かしSelf-Helpでは,経済的な独立という世俗の成功は, 人格完成という目的のための手段として位置付けられ,. The Elements of Success: Illustrated in the Life of. 1 Smilesの著作以外の,英国における成功文学の代表. Smilesの説く「真のジェントルマン」は, EliotがAdam. Amos Lawrence; A Book for Young Men (1850's) 等がある。なお,本稿における成功文学と時代のエトス. の精神的成長を通して行っているように,自助の精神が. に関しては,主としてSmilesの著作と以下に列挙する研. はらむ問題点を告発し,それを克服するものとして提示. 究論文及び研究書に依拠している: J. F. C. Harrison,. されてはいない。それゆえ, Smiles自身に.は,元来,そ. "Early Victorian Gospel of Success, " Victorian. のような意図はなかったにしろ,彼が描き出した「個人. Studies, 1 (Sep. 1957) ; J. F. C. Harrison, Early.
(6) 66. Victorian Britain, 1832-51 (Glasgow: Fontana,. 8 E. J. Hobsbawm, Industry and Empire (1969;. 1988) ; Kennith Fielden, "Samuel Smiles and. rpt. Harmondsworth: Penguin, 1974) 186.. Self-Help, " Victorian Studies, 12 (Dec. 1968) ; G.. 9例えば, Amalgamated Society of Engineers. D. Cole, A Short History of the British Working-. (1851), Building Labourers Union (1859), Amalga-. Class Movement 1789-1947 (London: Allen, 1948);. mated Society of Carpenters and Joiners (1860),. Asa Briggs, Victorian People (1965; rpt. Harmonds-. Associated Carpenters and Joiners (1861)などが結. worth: Penguin, 1985) ;村岡健次, 『ヴィクトリア時. 成されている。. 代の政治と社会』 (ミネルヴァ書房, 1980).. 10 David Malcolm, "Adam Bede and the Unions:. 2 ABの最初の年の売り上げは,当初の3巻本が3,350. `a…proletarian. novel,'". Zeit. fur. Anglistik. und. 部, 2巻の廉価版が1,1000部に達するものであった。. Amerikanistic, 31 (1983) : 5-16.. Saturday Reviewはその年の「年間最優秀小説」とし. 11労働組合員証や労働組合の旗(banner)に描かれ. てABを称えている。また, SmilesのSelf-Helpの最初の. ている職人の図像は,当初は腕をむき出しにはしていな. 年の売り上げは, 20,000部であった。 Altickの分類によ. いけれども, 1850年代には,肩幅が広く,柚がまくられ. れば, ABは`fiction'の部門で, Self-HelpIま`miscel-. てその道しい腕を見せている図像が確立する。そしてこ. laneous'の部門で, 1859年のベスト・セラーとなって. の図像は,その後,現代に至るまで引き継がれていくこ. いる(Richard D. Altick, The English Common. とになる(See, for example, ``Trade Union, " /See. Reader [1957;rpt. Chicago: U of Chicago P, 1983]. All, and the reproductions in Industrialization and. 385, 390.). Culture 1830-1914, ed. Christopher Harvie, Graham. 3 David Moldstad, "George Eliot's Adam Bede. Martin & Aaron Scharf [London: Macmillan,. and Smiles's Life of George Stephenson, " English. 1970] 136 and John Gorman, Banner Bright. Language Notes, 14 (March 1977) : 189-92; Joseph. [London: 1973] 68, 70, 71, 79, 159.)なお, Eliotが. Wiesenfarth, ed., George Eliot: A Writer's. 労働組合とその旗に少なからず関心を寄せていたことは,. Notebook, 1854-1879 and Uncollected Writings. "Address to Working Men, by Felix Holt" (1868). (1981; rpt. Charlottesville: UP of Virginia, 1981). というエッセイでのそれらへの言及によっても推察され. xxi, 163.. る。. See Thomas Carlyle, Past and Present,. 12 Dorothea Barrett, Vocation and Desire (London. Everyman's Library (1912; rpt. London: J. M. Dent. and New York: Routledge, 1989) 38.. & Sons, 1928) 141, 189: "Idleness is worst, Idleness. 13慈悲の行いは,元来,飢えた者に食物を与え,渇い た者に飲みものをやり,旅人に宿を貸し,裸の者に衣服 を着せ,病人を見舞い,獄にある者を訪れること,の六. alone is without hope: work earnestly at anything, you will by degrees learn to work at almost all things.. There. is. endless. hope. in. work.…". ``The. latest Gospel in this world is, Know thy work and doit. ". つであったc (Matt. 25:35-36)しかし後に,死者の埋 葬が加えられ,七っになる。. 5 George Eliot, Adam Bede (Harmondsworth:. 14 The George Eliot Letters, ed. Gordon S. Haight, vol. 6 (New Haven and London: Yale UP, 1954) 4.. Penguin, 1980) 532.以下ABからの引用はこの版によ. 15 EliotがEngelsのThe Condition of the Working. る。なお,引用文の日本語訳に関しては,阿波保喬訳 (『アダム・ピード』 [開文杜, 1979])を参考にした。. Class in England (1844)を読んだという証拠はない ようであるが、 ABにおいて語り手が指摘している,. 6 John Ruskin, The Stones of Venice, II (1907;. Adamをはじめとして豊かなHayslope村の村人一般に見. rpt. London: J. M. Dent & Sons, 1925) 150-51;岡 田隆彦編著, 『ウィリアム・モリスとその仲間たち』 (岩 崎美術社, 1978) 6. 7この変化は,従来の共済組織にも影響を及ぼしてい く。例えば,友愛協会の共済鍍金制度は,それまでの 「相互扶助」 (mutual assistance)から合理的な「相互 保険」 (mutual insurance)へと変わっていくのである。 (中野保男, 「19世紀初期のイギリス友愛協会と相互扶助」,. られる,人間的なcharityの精神の欠如は, Engelsが上. 『社会福祉評論』 44 [大阪女子大学, 1977] : 26-27を参 照。). 述の本の中で指摘している, Victoria朝英国の中流階級 の,貧困に対する自己満足的で冷淡な態度を想起させる ものである: "The workman is far more humane in ordinary life than the bourgeois. I have already mentioned the fact that the beggars are accustomed to turn almost exclusively to the workers, and that, in general, more is done by the workers than by the bourgeoisie. for. the. maintenance. of. the. poor‥‥In. other ways, too, the humanity of workers is.
(7) 成功文学としてのAdam Bede constantly manifesting itself pleasantly. They have experienced hard times themselves, and can therefore feel for those in trouble. " (Frederick Engels, The Condition of the Working Class in England [London: Granada, 1969] 154-55.) なお,同様の趣旨のことは, Mrs. GaskellのMary Barton (1848)の初めの章においても見出される。第 6章でJohn BartonとGeorge WilsonがDavenport一家 に示す,貧者の美徳は,その代表的な一例であろうEliotは1857年3月, Scenes of Clerical Life執筆中に, 初めてCranford (1853)を読み,翌年の4月, AB執筆 中にMary Bartonの初めの方の章を読んでいる.そし てAB出版後, SeeJzes of Clerical LifeとABに関する Mrs. Gaskellの称賛の手紙に返答して, Eliotは自分が 人生と芸術に対して抱いている感情がCranfordやMary Bartonの初めの方の章を書くように霊感を与えた感情 とかなり親近性を持っていることに自ら気付いていたと 述べている{The George Eliot Letters, vol. 2: 198) ABにEngelsやMrs. Gaskellがどの程度影響を与えて いるかは即座に判断しかねる問題であるが,少なくとも, 弱者の側に立ってcharityの問題を見つめる,これら三 者のまなざしには,注目すべき相似点を認めることがで きるであろう。 16 The George Eliot Letters, vol. 4: ll. 17 Ludwig Feuerbach, The Essence of Christianity, trans. George Eliot (New York: Harper, 1954) 67: "But love [heart] with understanding [head] and understanding with love is mind, and mind is the totality of man as such-the total man.". 18 CarlyleもEliotと同様に,仕事の福音を称えると同 時に,レッセ・フェ-ル的で偏狭な自助の精神を「教化 された利己主義」 (Carlyle 28,32)と呼んで批判してい る。しかし,もっとも賢明な支配者階級による貴族政治 を説くCarlyleの新封建主義をEliotは分かちもってはい ないEliotの場合,来るべき時代と社会を担うべき人 間像は,意義深くも人類の始祖の名を持つ職人Adamに 見られるような,精神的成長を遂げた庶民,すなわち万 人なのである.そこにEliotのヒューマニスティックで. 民主主義的な人間観・社会観を認めることができるであ ォ* 19 Samuel Smiles, Self-Help (London: John Murray, 1958) 38, 39. 20 G. M. Trevelyan, English Social History (1967; rpt. Harmondsworth: 1982) 492. 21 F. R. Leavis, The Great Tradition (1972; rpt. Harmondsworth: Penguin, 1974) 49; Ellen Moers, Literary Women (1978; rpt. London: The Women's Press, 1986) 5ト52.. 67.
(8) 68. Adam Bede as Success Literature. Hiroshi Oshima. Success literature was very popular and widely read in the mid-nineteenth century Britain. It was informed by two dominant themes-the gospel of work and the spirit of self-help, both of which constituted the ethos of the period. Indeed Adam is a Georgian carpenter, but he unquestionably embodies such a Victorian ethos. For instance, far from the division of labour and specialization in the factory system, Adam's skills and tasks are many-sided and his work is always part of his religion. Also, he is a man of personal initiative and self-reliance; his success in business and marriage can be regarded as something like model examples, earnestly. recommended in the success literature. Furthermore, as David Malcolm pointed out, Adam s mam featureshis broad chest and bare arms, his hard work and seriousness, and the like-reflect those of the mid-nineteenth century labour aristocracy. In the Victorian age, these labour aristocrats only could practice, in substance, the contemporary ethos. Thus, Adam is an idealized artisan to a great extent, but he has too little fellow-feeling, as depicted in his seventy toward the frivolous Ben and the idle tramps. This moral defect of Adam's is closely connected with the cruelty and relentlessness of Mr Poyser's and Hetty's hearts. These instances demonstrate the solipsistic, narrow-minded spirit of self-help, latent in the Loamshire-Hayslope world. In this respect, the rural world has some analogy with the Victorian society, which is apparently prosperous but morally deficient in the same way. We may recognize m Adams mature love for Dinah that his moral defect is finally remedied; consequently, he is developed into `the total man'in the Feuerbachian sense, and at last the antagonism between the spirits of self-help and of charity is brought into harmony in him. In conclusion, we may say that Adam Bede is George Eliot's own success literature. It includes not only her criticism on the mid-nineteenth century ethos, but also her own humanistic vision of harmony between. self-help and charity. Moreover, this vision has some universal aspect, because it will serve as a model to the attitude of mind in the modern, individualistic and capitalist societies in general..
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