呼吸器感染症患者分離菌の薬剤感受性について(2006
年)
後藤 元・武田英紀・河合 伸
杏林大学医学部第一内科渡邊 卓・岡崎充宏
杏林大学医学部臨床検査医学教室島田 馨
元 東京大学医科学研究所佐藤哲夫
国際医療福祉大学三田病院森 健
順天堂大学医学部内科(血液学)近藤成美
順天堂大学医学部臨床検査医学科木戸健治
順天堂大学医学部附属練馬病院 呼吸器内科小栗豊子
順天堂大学医学部附属練馬病院臨床検査部山本 真
帯広厚生病院第一内科井上洋西・山内広平
岩手医科大学呼吸器 ・ アレルギー・膠原病内科遠藤重厚・中舘俊英
岩手医科大学救急医学講座諏訪部 章
岩手医科大学中央臨床検査部芦野有悟
東北大学医学部感染症呼吸器内科青木信樹
信楽園病院内科本間康夫
信楽園病院検査部工藤宏一郎・杉山温人
国立国際医療センター呼吸器科田中 司
国立国際医療センター臨床検査部吉村邦彦
国家公務員共済組合連合会虎の門病院 呼吸器センター内科中森祥隆
国家公務員共済組合連合会三宿病院呼吸器科住友みどり
横浜市立大学附属病院臨床検査部岡 三喜男・小橋吉博
川崎医科大学呼吸器内科税田直樹
熊本大学医学部呼吸器内科河野 茂
長崎大学医学部第二内科原克紀・近藤 晃・松田淳一・中野路子
長崎大学医学部・歯学部附属病院検査部及川 悟
元 山田エビデンスリサーチ検査部 (2013 年 9 月 27 日受付) 2006年 10 月∼2007 年 9 月の間に全国 14 医療機関(Table 1)において,呼吸器感染 症患者(上気道感染症患者を除く)356 例から採取された検体を対象とし,分離菌の 各種抗菌薬に対する感受性及び患者背景などを検討した。これらの検体(主として喀 痰)から分離され,起炎菌と推定された細菌 414 株のうち,407 株について薬剤感受 性 を 測 定 し た。主 な 分 離 菌 の 内 訳 は,Staphylococcus aureus 64 株,Streptococcus pneumoniae 96株,+DHPRSKLOXVLQÀXHQ]DH87株,非ムコイド型 Pseudomonas aeruginosa52株,ムコイド型 P. aeruginosa 11 株,Klebsiella pneumoniae 20 株,及び Moraxella catarrhalis 44株であった。
S. aureusのうち,Oxacillin(MPIPC)の MIC が 2 ȝg/ml 以下の株(Methicillin 感受 性 S. aureus: MSSA)及 び MPIPC の MIC が 4 ȝg/ml 以 上 の 株(Methicillin 耐 性 S. aureus: MRSA)は,それぞれ 27 株(42.2%)及び 37 株(57.8%)であった。MSSA に対しては,Imipenem(IPM)の抗菌力が最も強く,0.063 ȝg/ml 以下で全株の発育 を阻止した。MRSA に対しては,Vancomycin(VCM)及び Linezolid(LZD)の抗菌 力が最も強く,いずれも 1 ȝg/ml で全菌株の発育を阻止した。S. pneumoniae に対する 抗菌力は,カルバペネム系抗菌薬が良好であり,特に Panipenem(PAPM)は 0.063 ȝg/
ml以下で全菌株の発育を阻止した。IPM 及び Faropenem(FRPM)の抗菌力も良好で, そ れ ぞ れ 0.125 ȝg/ml 及 び 0.5 ȝg/ml で 全 菌 株 の 発 育 を 阻 止 し た。一 方 で,
Erythromycin(EM)及び Clindamycin(CLDM)では,高度耐性株(MIC: >128 ȝg/ml) が,それぞれ 44 株(45.8%)及び 20 株(20.8%)検出された。+LQÀXHQ]DH に対する抗 菌力は/HYRÀR[DFLQ(LVFX)が最も強く,その MIC90は 0.063 ȝg/ml 以下であった。 ムコイド型 P. aeruginosa に対しては,Meropenem(MEPM)が最も強い抗菌力を示 し,そ の MIC90は 0.5 ȝg/ml で あ っ た。非 ム コ イ ド 型 P. aeruginosa に 対 し て は,
Tobramycin(TOB)が最も良好な抗菌力を示し,その MIC90は 2 ȝg/ml であった。K. pneumoniaeに対する抗菌力は,Cefozopran(CZOP)が最も強く,0.063 ȝg/ml 以下で 全菌株の発育を阻止した。M. catarrhalis に対しては,Ampicillin(ABPC)を除くい ずれの薬剤も比較的強い抗菌力を示し,MIC90は 2 ȝg/ml 以下であった。 呼吸器感染症患者の年齢分布は,70 歳以上が全体の 50.6% と半数以上を占めた。疾 患別では,細菌性肺炎及び慢性気管支炎の頻度が高く,それぞれ 49.2% 及び 28.1% で あった。細菌性肺炎患者から多く分離された菌は,S. pneumoniae(29.2%),S. aureus (20.8%)及 び+LQÀXHQ]DH(12.9%)で あ り,慢 性 気 管 支 炎 患 者 に お い て は,H.
LQÀXHQ]DH(25.0%)及び P. aeruginosa(21.7%)の分離頻度が高かった。抗菌薬投与 前の呼吸器感染症患者から多く分離された菌は,S. pneumoniae 及び+LQÀXHQ]DH で, その分離頻度はそれぞれ 27.5% 及び 22.5% であった。前投与抗菌薬別に分離菌種を 比較したところ,マクロライド系抗菌薬が前投与されていた患者から P. aeruginosa が多く分離され,その分離頻度は 39.4% であった。 各種感染症から分離される菌の様相及びその薬 剤感受性は,抗菌薬の汎用・多様化に伴って影響 を受け変遷する。そこで臨床上適切な薬剤の使用 に対する示唆を与えるために,1981 年以来全国各 地の病院・研究施設と共同で,呼吸器感染症分離 菌を収集し,分離菌の各種抗菌薬に対する感受 性,患者背景と分離状況などを経年的に調査して きた1∼24)。今回は,2006 年度の調査結果について 報告する。
I. 対象と方法
1. 対象 感染により急性増悪期にある細菌性肺炎,肺膿 瘍,膿胸,慢性気管支炎,びまん性汎細気管支炎 (DPB)及び気管支喘息などの呼吸器感染症患者 (上気道感染症患者を除く)から分離された菌を 対象とした。ただし,結核菌,真菌,マイコプラ ズマ,クラミジア,偏性嫌気性菌及びレジオネラ による感染症患者は,対象から除外した。 2. 起炎菌の分離同定 対象となる呼吸器感染症患者から分離された細 菌を,各医療機関で同定した。菌量を,+++(≧ 107∼108/ml),++(≧104∼106/ml),+(≦103/ml) の 3 段階で区分し,+++,++を起炎菌とした。 3. 分離菌の感受性測定 各医療機関で分離同定された菌株を輸送用培地 で穿刺培養後,山田エビデンスリサーチ検査部へ 送付し,再同定後,MIC2000 を用いた微量液体希 釈法にて,各種抗菌薬の最小発育阻止濃度(MIC) を測定した。対象薬剤は,Benzylpenicillin(PCG),Oxacillin(MPIPC),Ampicillin(ABPC),Piperacillin (PIPC), Cefazolin (CEZ), Cefotiam (CTM),
Cefmetazole(CMZ), Flomoxef (FMOX),
Cefotaxime(CTX), Cefmenoxime (CMX),
Ceftazidime(CAZ),Cefpirome(CPR),Cefepime (CFPM), Cefsulodin (CFS), Cefaclor (CCL),
Cefpodoxime(CPDX), Cefozopran (CZOP),
Cefditoren(CDTR), Faropenem (FRPM),
I m i p e n e m( I P M ), P a n i p e n e m ( PA P M ),
Meropenem(MEPM), Cefdinir (CFDN),
Sulbactam(SBT)/Ampicillin(ABPC),Sulbactam (SBT)/Cefoperazone(CPZ),Gentamicin(GM),
Tobramycin(TOB),Amikacin(AMK),Arbekacin Table 1. 呼吸器感染症分離菌感受性調査研究会参画施設
(ABK), Erythromycin (EM), Clindamycin (CLDM), Tetracycline (TC), Minocycline (MINO), Chloramphenicol (CP), Vancomycin (VCM), Sparfloxacin (SPFX), Ciprofloxacin (CPFX),/HYRÀR[DFLQ(LVFX),及 び Linezolid (LZD)とし,これら 39 薬剤の中から菌種に応じ て適宜選択し,使用した。 対象とした呼吸器感染症患者 356 例から分離さ れ,起炎菌と推定された 414 株のうち,MIC 測定 が可能であったのは,輸送中に死滅した菌株など を除く 407 株であった(Table 2)。
II. 成績
1. 各種抗菌薬に対する感受性 1)Staphylococcus aureus S. aureus 64株の17薬剤に対する感受性を測定し,MPIPCの MIC が≦2 ȝg/ml の株(Methicillin 感受性 S. aureus: MSSA)の感受性測定結果をFig. 1, Table 3
に,MPIPC の MIC が≧4 ȝg/ml の株(Methicillin 耐 性 S. aureus: MRSA)の感受性測定結果を Fig. 2,
Table 4にそれぞれ示した。
MSSA(27 株)に対するȕ - ラクタム系抗菌薬の 抗菌力は,全般的に良好であり,MIC90は≦0.063∼
2 ȝg/ml であった。抗菌力は IPM が最も良好で,
0.063 ȝg/ml 以下で全菌株の発育を阻止した。次い
で,FMOX が 0.5 ȝg/ml, CEZ, CTM, CZOP,並 び に CMZ が 1 ȝg/ml で全菌株の発育を阻止した。そ の他の薬剤では,MINO 及び CLDM の抗菌力が比 較 的 強 く,MIC90は そ れ ぞ れ 0.125 ȝg/ml 及 び 0.25 ȝg/ml であった。一方,アミノグリコシド系 抗 菌 薬 の MIC90は,1∼16 ȝg/ml で あ っ た。抗 MRSA薬の ABK, VCM は,それぞれ 2 ȝg/ml, 1 ȝg/ mlで全菌株の発育を阻止した。 MRSA(37 株)に対しては,抗 MRSA 薬である VCM及び LZD の抗菌力が最も強く,1 ȝg/ml で全 菌株の発育を阻止した。次いで,ABK が 4 ȝg/ml, MINOが 16 ȝg/ml で全菌株の発育を阻止した。そ Table 2. 呼吸器感染症起炎菌の菌種・菌株並びにMIC測定菌株数(2006年)
Fig. 1. Oxacillin(MPIPC)(MIC: ≦2 ȝg/ml)の Methicillin 感 受 性 Staphylococcus aureus の 感受性累積度数曲線(2006 年)
の他の薬剤については,MIC90はいずれも 32 ȝg/ ml以上であった。 2)Streptococcus pneumoniae S. pneumoniae 96株の 18 薬剤に対する感受性の 成績を Fig. 3, Table 5 に示した。 S. pneumoniaeに対する抗菌力は,カルバペネム 系及びペネム系抗菌薬が強く,PAPM は 0.063 ȝg/ ml以下,IPM は 0.125 ȝg/ml, FRPM は 0.5 ȝg/ml で 全菌株の発育を阻止した。VCM の抗菌力も良好 で,0.5 ȝg/ml で全菌株の発育を阻止した。その他 の 薬 剤 で は,CPR, CDTR 及 び CTX の MIC90が 0.5 ȝg/ml, CZOP, PCG の MIC90が 1 ȝg/ml と良好で あった。一方,EM 及び CLDM に対する感受性は 不良であり,高度耐性株(MIC: >128 ȝg/ml)が それぞれ 44 株(45.8%)及び 20 株(20.8%)検出 された。なお,今回の調査では,PCG の MIC が ≧8 ȝg/ml で あ る ペ ニ シ リ ン 耐 性 S. pneumoniae (PRSP)は分離されなかったが,4 ȝg/ml であるペ Table 3. 各種抗菌薬のOxacillin(MPIPC)(MIC: ≦2 ȝg/ml)のMethicillin 感受性 Staphylococcus
aureus(27 株)に対する抗菌力
Table 4. 各種抗菌薬のOxacillin(MPIPC)(MIC: ≧4 ȝg/ml)のMethicillin耐性Staphylococcus aureus(37 株)に対する抗菌力
Fig. 2. Oxacillin(MPIPC)(MIC: ≧4 ȝg/ml)の Methicillin 耐性 Staphylococcus aureus の感受 性累積度数曲線(2006 年)
Table 5. 各種抗菌薬のStreptococcus pneumoniae(96株)に対する抗菌力
ニシリン中等度耐性 S. pneumoniae(PISP)の分離 率は,2.1% であった。また,EM の MIC が 0.5 ȝg/ mlである中等度耐性株及び≧1 ȝg/ml である耐性 株は,それぞれ 0% 及び 78.1% 分離された。 3)+DHPRSKLOXVLQÀXHQ]DH +LQÀXHQ]DH 85 株の 17 薬剤に対する感受性の 成績を Fig. 4, Table 6 に示した。 +LQÀXHQ]DH に対する抗菌力は,LVFX が最も 強く,その MIC90は 0.063 ȝg/ml 以下であった。次 い で,CMX 及 び CDTR の MIC90が 0.25 ȝg/ml,
CAZ及 び MINO の MIC90が 0.5 ȝg/ml で あ っ た。 その他の薬剤の MIC90は 1∼32 ȝg/ml の範囲内で あった。 4)Pseudomonas aeruginosa ムコイド型 P. aeruginosa 11 株の 16 薬剤に対す る感受性の成績を Fig. 5, Table 7 に示した。 MEPMが最も強い抗菌力を示し,その MIC90は 0.5 ȝg/mlであった。次いで,IPM 及び TOBのMIC90 が 2 ȝg/ml, CZOP 及 び GM の MIC90が 4 ȝg/ml で あった。その他の薬剤の MIC90は,8∼32 ȝg/ml の 範囲内であった。 非ムコイド型 P. aeruginosa 51 株の 16 薬剤に対 する感受性の成績を Fig. 6, Table 8 に示した。 いずれの抗菌薬に対しても感受性は不良であ り,MIC90が良好であったのは TOB の 2 ȝg/ml, GM 及び CPFX の 4 ȝg/ml であった。その他の抗菌薬の MIC90は,8∼32 ȝg/ml の範囲であり,PIPC, CFS, MEPMに対して高度耐性株(MIC: >128 ȝg/ml) が 1∼2 株検出された。
さらに,IPM, AMK 及び CPFX の MIC がそれぞ れ≧16 ȝg/ml, ≧32 ȝg/ml, ≧4 ȝg/ml を示す多剤耐 性 P. aeruginosa(MDRP)が 1 株検出された(Fig. 7)。 5)Klebsiella pneumoniae K. pneumoniae 19株の 16 薬剤に対する感受性 の成績を Fig. 8, Table 9 に示した。 K. pneumoniaeに対する抗菌力は,ABPC を除 くいずれの抗菌薬も比較的良好で,MIC90は≦ 0.063∼4 ȝg/ml の範囲内を示した。特に CZOP の 抗菌力は最も強く,0.063 ȝg/ml 以下で全菌株の発 育を阻止した。一方,ABPC の MIC90は 128 ȝg/ml で,MIC が>128 ȝg/ml の高度耐性株を1 株(5.3%) 認めた。 6)Moraxella catarrhalis M. catarrhalis 44株の 17 薬剤に対する感受性の 成績を Fig. 9, Table 10 に示した。 M. catarrhalisに対しては,ABPC を除き,いず れの薬剤も抗菌力は良好であり,MIC90はすべて 2 ȝg/ml 以下であった。特に,IPM は 0.063 ȝg/ml 以 下,MINO は 0.125 ȝg/ml で,全菌株の発育を阻止 した。 2. 呼吸器感染症患者の背景と起炎菌について 呼吸器感染症患者 356 例の臨床材料から分離さ れた細菌 414 株のうち,407 株について,その患 者背景と疾患及び起炎菌との関連を検討した。 1)呼吸器感染症患者の年齢別分布の推移 呼吸器感染症患者の年齢別分布の推移を 2002∼ 2005年のデータとともに Fig. 10 に示した。 2006年度調査において,70 歳以上の症例は,全 体の 50.6% を占めた。 2)呼吸器感染症患者の疾患別及び年齢別分布の 推移 呼吸器感染症疾患別の推移を Fig. 11 に,また年 齢及び疾患別の推移を Fig. 12 に,いずれも2002∼ 2005年のデータとともに示した。 2006年度は細菌性肺炎(49.2%),慢性気管支炎 (28.1%)が多く,全体の 7 割以上を占め,例年と 同様の傾向であった。 年齢別では,30 歳未満で細菌性肺炎が 30.8%, 慢性気管支炎が 38.5%,気管支拡張症が 7.7%,肺 線維症が 15.4%,気管支喘息が 7.7% であった。 30∼69 歳では,細菌性肺炎及び慢性気管支炎の割 合はそれぞれ 37.4% 及び 33.7% であり,気管支拡
Table 6. 各種抗菌薬の+DHPRSKLOXVLQÀXHQ]DH(85株)に対する抗菌力
Table 7. 各種抗菌薬のムコイド型Pseudomonas aeruginosa(11株)に対する抗菌力
張 症 は 8.0%,肺 線 維 症 は 2.5%,気 管 支 喘 息 は 8.0%であった。70 歳以上の症例では,細菌性肺炎 が最も多く61.1%,次いで,慢性気管支炎が 22.2% であり,両感染症で全体の 8 割以上を占めた。 3)呼吸器感染症疾患別の分離菌 呼吸器感染症から検出された主な起炎菌の種類 及び頻度を Fig. 13 に示した。 細菌性肺炎(分離株数:202株)からは,S. aureus, S. pneumoniae,並 び に+LQÀXHQ]DH が そ れ ぞ れ 20.8%,29.2%,及び 12.9% 分離された。慢性気管 支炎(分離株数:120 株)では,S. aureus が 10.0%, S. pneumoniaeが 17.5%,+LQÀXHQ]DH が 25.0%, P. aeruginosaが 21.7% で あ っ た。気 管 支 拡 張 症 (分離株数:31 株)では,P. aeruginosa の分離頻度 が38.7%と最も多く,次いで,+LQÀXHQ]DH が 29.0% 分離された。気管支喘息(分離株数:19 株)では, S. pneumoniaeが 36.8%,+LQÀXHQ]DH が 26.3%, M. catarrhalisが 31.6% であった。 4)抗菌薬投与状況と分離菌 呼吸器感染症から分離された細菌について,検 Table 8. 各種抗菌薬の非ムコイド型Pseudomonas aeruginosa(51株)に対する抗菌力
Table 9. 各種抗菌薬のKlebsiella pneumoniae(19株)に対する抗菌力
体採取時期を抗菌薬の投与前・後で分け,分離状 況を比較したものを Fig. 14 に,また検体採取前に 投与されていた抗菌薬の種類別の分離状況を Fig. 15に示した。 抗菌薬投与前の症例から多く分離された菌種 は,S. pneumoniae 及び+LQÀXHQ]DH で,その分離 頻度はそれぞれ 27.5% 及び 22.5% であった。その 他 菌 種 で は M. catarrhalis 及 び S. aureus が 12.5% 及び 12.2% と多かった。一方,抗菌薬の投与後の 症例では,S. pneumoniae 及び+LQÀXHQ]DH の分離 Table 10. 各種抗菌薬のMoraxella catarrhalis(44株)に対する抗菌力
頻度は減少し,S. aureus 及び P. aeruginosa の分離 頻度は,それぞれ 26.6%,27.7% と上昇した。 検体採取前にセフェム系抗菌薬が投与されて いた症例(19 例)では,S. pneumoniae の分離頻度 が 高 く(26.3%),次 い で,S. aureus が 21.1%,H. LQÀXHQ]DH が 15.8% であった。マクロライド系抗 菌 薬 が 投 与 さ れ て い た 症 例(33 例)で は,P. aeruginosaの分離頻度が最も高く 39.4%,次いで, +LQÀXHQ]DH の分離頻度が 27.3% であった。ペニ シリン系抗菌薬が投与されていた症例は 6 例で, その半数は S. aureus であった。キノロン系抗菌薬 が投与されていた症例は 4 例,アミノグリコシド 系抗菌薬が投与されていた症例は 1 例であり,分 離菌の傾向については不明であった。 5)MRSA分離頻度の推移 宿主抵抗性に影響があると考えられる因子・手 術(以下,因子・手術)の有無別及び入院・外来 別の MRSA 分離頻度の推移を Fig. 16 に示した。 2006年度における全体での MRSA 分離頻度は 57.8%(37/64)であり,前年度(45.7%)よりも 増加した。因子・手術の有無では,因子・手術有 りの症例からの MRSA 分離頻度は,57.4%(31/54), 因子・手術無しの症例では,60.0%(6/10)であ り,分離頻度に明確な差はなかった。入院・外来 患者別にみると,入院患者からの MRSA 分離頻度 は 60.0%(36/60),外 来 患 者 か ら の 分 離 頻 度 は 25.0%(1/4)であり,例年どおり入院患者におけ る分離頻度の方が高かった。 6)ȕ-lactamase非産生Ampicillin耐性+LQÀXHQ]DH (以下,BLNAR)の分離頻度 +LQÀXHQ]DH85 株について,ȕ-lactamase 産生の 有無及び BLNAR の分離頻度を Fig. 17 に示した。 ȕ-lactamase 産生株は 2 株(2.4%),非産生株は 83株(97.6%)であった。また,ABPC の MIC が ≧2 ȝg/ml を示す BLNAR は 31 株(36.5%)が分離 され,例年並の分離頻度であった。 Fig. 11. 呼吸器感染症疾患別の推移(2002∼2006年)
III. 考察
我々は 1981 年以来,呼吸器感染症患者から分 離した細菌の種類及びこれらの薬剤感受性,さら にその患者背景などについて調査し,考察してき た1∼24)。今回は,2006 年度の集計結果をもとに, 種々考察を加えた。 今回感受性を測定した S. aureus 64 株のうち, MSSAと MRSA は,それぞれ 27 株と 37 株であっ た。MSSA に対して,IPM の抗菌力が最も強く,FMOX, CEZ, CTM, CZOP, CMZも良好な抗菌力 を示し,MINO 及び CLDM の抗菌力も比較的良好 であった。アミノグリコシド系抗菌薬の MIC90 は,1∼16 ȝg/ml であった。2004 年度23)に認めら れ た TOB に 対 す る 高 度 耐 性 株(MIC: >128 ȝg/ ml)は検出されなかったが,GM 及び CLDM に対 する高度耐性株が,それぞれ 1 株及び 2 株検出さ れた。 第 3 世代セフェム系抗菌薬の使用頻度が高まる につれ MRSA が増加し25),近年では,臨床材料か ら分離される S. aureus の 60% 前後を占めること が報告されている26,27)。我々の過去の調査では, 2001年の MRSA の分離頻度が 43.5%,2005 年の 分離頻度が 45.7% であった以外は,1990 年以降, 例年 50% 以上の高値を維持しており,2006 年度 も 57.8% であった。抗 MRSA 薬である VCM 及び ABKに対して,それぞれ VCM 低感受性株28,29)及 Fig. 13. 呼吸器感染症疾患別分離菌(2006年) Fig. 14. 抗菌薬の投与状況別分離菌(2006年)
び ABK 耐性株30,31)の出現が報告されているが, 2005年度に引き続き,今回の調査結果でも VCM 及び ABK の MRSA に対する抗菌力は良好であっ た。また,今回新たに検討した VCM 耐性菌に有 効な LZD の抗菌力も強く,1 ȝg/ml で全菌株の発 育を阻止した。 近年,ペニシリンに中等度耐性あるいは耐性を 示す PISP や PRSP の検出率が上昇し,耐性化の進 行が問題となっている。今回の調査において, PRSPは分離されなかったが,PISP の分離頻度は,
2.1%で あ っ た。尚,CLSI(Clinical and Laboratory
Standards Institute)の 2008 年 1 月改訂前のブレイ クポイントでは PISP 及び PRSP の分離頻度は,そ れぞれ 38.5% 及び 7.3% であり,PISP の分離頻度 は 2005 年度より高かった24)。一方,EM 耐性 S. pneumoniaeの分離頻度は年々増加傾向にあり, 今回の調査においても EM 高度耐性株の分離頻度 は 45.8% であった。マクロライド系抗菌薬は,外 来 の 呼 吸 器 感 染 症 患 者 や 慢 性 閉 塞 性 肺 疾 患 (COPD)患者などにおいて汎用されていることか ら,今後も,耐性菌の動向に注意していく必要が あると考えられた。 +LQÀXHQ]DH に対する抗菌力は,全般的に強く, 最も強い抗菌力を示した薬剤は LVFX であり,例 年どおり強い抗菌力を維持していた。近年,呼吸 器感染症における BLNAR の増加が問題となって いる。我々の調査では,2002 年から検討している BLNARの分離頻度は,30.8%∼35.8%である21∼24)。 今回の分離頻度は 36.5% で,近年報告されている 分離頻度の 34.8%32)とほぼ同等であった。今後 も,BLNAR の分離頻度の経年変化について調査 を続けていく予定である。 ムコイド型 P. aeruginosa に対しては,MEPM の 抗菌力が強く,その MIC90は 0.5 ȝg/ml であった。 CZOPの 抗 菌 力 も 比 較 的 良 好 で,そ の MIC90は 4 ȝg/ml であり,2003 年度の調査22)で認められた Fig. 15. 前投与抗菌薬の種類別分離菌(2006年)
高度耐性株(MIC: >128 ȝg/ml)は検出されなかっ た。また,2004 年度の調査結果23)と同様に,GM に対する高度耐性株(MIC: >128 ȝg/ml)が 1 株認 められた。一方,非ムコイド型 P. aeruginosa では, 高度耐性株(MIC: >128 ȝg/ml)がペニシリン系, セフェム系,カルバペネム系抗菌薬に対して認め られた。IPM, AMK 及び CPFX のいずれにも耐性 である MDRP の分離頻度は,1996 年以降のデー タでは,1996 年に 2 株,1997 年,2000 年,2004 年,2005 年,2006 年に各 1 株検出されたのみで, 特に,増加傾向は認めなかった。 K. pneumoniaeに対する抗菌力は,ABPC を除 Fig. 16. 因子・手術の有無別,入院・外来別 Methicillin 耐性 Staphylococcus aureus の分離頻度
(1997∼2006 年)
Fig. 17. +DHPRSKLOXVLQÀXHQ]DH 85株における ȕ-lactamase産生,非産生株比率及びȕ-lactamase 非産生 Ampicillin 耐性+DHPRSKLOXVLQÀXHQ]DH の分離頻度
き,いずれの薬剤も良好であった。特に CZOP の 抗菌力は最も強く,0.063 ȝg/ml 以下で全菌株の発 育を阻止した。 M. catarrhalisの各薬剤に対する感受性も良好 で,いずれの薬剤に対しても, MIC が≧16 ȝg/ml を示す株は認められなかった。 呼吸器感染症患者の年齢別分布の推移では,70 歳以上の患者が約半数近くを占める傾向は,これ までと変わっていない。また,呼吸器感染症の中 で多くを占める疾患は,細菌性肺炎及び慢性気管 支炎であり,これまでと同様の傾向であった。30 歳未満,30∼69 歳,70 歳以上の年齢別で患者を分 けた場合でも,この傾向は変わらなかった。また, 疾患別に分離菌を比較したところ,細菌性肺炎で は S. aureus,及び S. pneumoniae が,気管支拡張症 では,P. aeruginosa が比較的多く分離され,2005 年度と同様の結果であったが,慢性気管支炎では, 前年度と比較して+LQÀXHQ]DH 及び P. aeruginosa が比較的多く分離され,S. aureus が減少した。気 管支喘息では 2005 年度と同様,S. pneumoniae, H. LQÀXHQ]DH,並びに M. catarrhalis の分離頻度が高 かった。 検体採取時の抗菌薬投与状況別での分離頻度で は,抗菌薬投与前の症例からは,S. pneumoniae と +LQÀXHQ]DH の分離頻度が高く,両菌種で 50% を 占めた。抗菌薬投与後の症例からは,P. aeruginosa が比較的多く分離された。特に,マクロライド系 抗菌薬が投与されていた症例からは,P. aeruginosa の分離頻度が高く,2005 年度の結果と同様であ り,今後も,耐性菌の動向に注意する必要がある と考えられた。最新の感受性データや分離動向 は,医療現場に適切な抗菌薬選択の情報を提供 し,院内感染対策に役立つものと考えている。今 後も,我々は呼吸器感染症における調査(サーベ イランス)を実施していく予定であるが,これら の情報が役立てられることを願っている。
文献
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