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保全異議と保全取消との関係

著者名(日)

丹野 達

雑誌名

東洋法学

40

2

ページ

3-35

発行年

1997-03-01

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000480/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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︻論  説︼

保全異議と保全取消との関係

本稿の目的

東洋法学

 民事保全は緊急性が要請される。それは保全債権者の権利の保全のためであり、保全債務者による不当な責任 財産の隠匿、処分等による散逸を防止するためであることは言うまでもない。そのため保全命令は、原則として 保全債権者の一方的審尋によって発令され、保全債務者への保全命令の送達前に執行に着手することが承認され ている︵民保四三条三項︶。他方、民事訴訟は、双方審尋主義が原則であり、本来その一翼を担う民事保全もその例 外ではありえない。ただ前記の緊急性の要請から、暫定的に例外的処理が承認されているにすぎない。そうであ れば、保全命令の発令・執行により、その目的が一応達成された以上、速やかに原則に立ち戻るべきことは当然 である。そして一方的審尋による保全命令の発令が誤っていた場合には、その保全命令は即刻取り消されなけれ        ︵−︶ ばならない。これが民事保全における復元性である。保全命令の発令・執行により不当に大きく保全債権者側に

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保全異議と保全取消との関係 傾いた法律状態を水平に戻すことが要求される。また、一応の保全状態が形成・保持されており、保全債権者の 執行不能の危険は払拭されているのであるから、その保全命令の当否の審理は、双方審尋主義に立ち戻らなけれ ばならない。この重要な役割を担うのが民事保全における不服申立制度である。  本案判決は訴訟物たる権利の存否の判断であって、その判断は単一かつ確定的であるため、これに対する不服 申立は、統一的・包括的な単一の不服申立方法である上訴で足りる。これに対して、民事保全における訴訟物︵本 案訴訟における訴訟物と区別するため、以下﹁保全物﹂と言う。︶は、被保全権利及びその保全の必要性から成る 複合的性格をもつうえ、民事保全の暫定性・復元性から、これに対してより適切に対応しうる多様な不服申立方 法が必要となる。そのため、民事保全における不服申立方法として、保全異議、起訴命令不遵守に基づく取消申        ︵2﹀ 立、事情変更に基づく取消申立及び特別事情に基づく取消申立の四種が用意されている。このうち、保全異議及 び事情変更に基づく取消は、保全物自体の存否に関わり、保全命令の審理の延長に位置付けされる。これに対し        ︵3V て、起訴命令不遵守に基づく取消及び特別事情に基づく取消は、保全命令の発令手続外の原因に基づく取消であ る。これらの不服申立方法は、前述のように保全命令発令手続における特別な取扱−一度流れ込んだ傍流から 本流に押し戻す働きをする。民事保全における復元性を最も顕著に体現するものと言える。したがって、その取 扱は、これらの特質、目的及び機能にふさわしいものでなければならないであろう。  民事保全における審理方式は、裁判についてオール決定主義を採用したことから、任意的口頭弁論となり、書 面審理が原則となった。このことは、審理の機動性.柔軟性をもたらすことになり、審理の個別化が容易になっ

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た。このことが不服申立の審理についても相当な影響を及ぼしはしないかと予想される。  本稿は、このような見地から、民事保全における不服申立制度の処理はいかにあるべきか、特に民事保全法の 制定に伴い、それ以前の実務処理がそのままでよいのか、あるいは何らかの変容がなされるべきであるのかにつ いて若干の考察を試みようとするものである。 二 各不服申立の目的、特質及び機能

東洋法学

 1 不服申立の流れ  不服申立には二つの流れがある。一は保全物についての蝦疵を対象とするものである。民事裁判は、訴訟物で ある民事上の権利の存否をめぐる争いである。民事上の権利は、時間的経過と共に変動する可能性があるから、 この権利の存否の判断及び判断の基準時以後における右権利の変動が審理の中心である。したがって、これにつ いて不服があれば、まずこれを第一に据えるべきであろう。二は、民事裁判は一定の手続に従って進められる。 この手続の運用いかんが当事者双方の訴訟上の地位の保障及び満足︵裁判に対する信頼ないし服従感︶に直結す る。それが適正に行われていること、あるいは行われていると当事者に認識させることが不可欠である。これに ついて不服があれば、これを争いうることとすべきである。前者は、審理手続の開始以後その終了に至るまで常 に審理の中心に存在し、終始一貫して特定の権利を追求するということで連続性がある。これに対して、後者は、 単発的であり、審理の対象となる場合も、他の同種の事由との関連性がないか希薄であるのが通例である。

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保全異議と保全取消との関係  およそ手続は、特定の事項を処理するための手段である。手段は目的に奉仕する。ある手段を設定する場合に は、それが奉仕すべき目的が存在するはずであるから、その目的達成について最も効率的な方法の創出と運用と を図るべきである。当該手続にそのような機能をもたせ、運用面においてもその機能を十分に活かせるような工 夫がなければならない。ある不服申立方法について考察する場合には、その目的は何か、その手続の特質はどこ にあるか、その手続はいかなる機能をもつかを的確にとらえることである。

 2 保全異議

      ︵4︶  保全異議︵民保二六条以下︶は、保全命令申立自体の再審査である。ただ保全命令が既に存在しているため、結 果的には既存の保全命令の当否を判断することになる。保全異議における審理判断の対象は、保全命令申立につ いての手続上の毅疵も含まれるが、主たるものは保全命令の対象︵保全物︶である。  保全命令は、保全債権者の一方的な主張・立証に基づいて発令されている。したがって、なるべく早期に双方 審尋の機会を保全債務者に与える必要がある。その実現を直接の目的とするのが保全異議である。保全命令発令 についての審理は、その目的ないし必要性の面から、証拠は疎明で足りるとされており、手続的にも、実体判断 の面においても、本案訴訟に比して十分なものではない。民事訴訟の大原則である二当事者対立構造に実質的に       ︵5︶ 立ち帰り、双方審尋の下に債権者の保全命令の申立の当否について審理を続行し、裁判をする機能を与えている が、審理の内容は発令手続と同様であり、等質な手続であることがその特質である。  保全異議の申立は、保全命令の発令によって一段落のついた民事保全手続について、再審理を開始する一つの

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きっかけを与えるにすぎない。これによって当事者の審理手続上の地位に変更はなく、保全債権者は原告として の、保全債務者は被告としての各地位に立つ。当事者の主張・立証は一般原則に従ってなされる。すなわち、保 全債権者は、保全命令発令前の主張・立証に引き続いて、保全物の特定及びその発生原因についての主張及び証 拠の提出活動を行うことになる。保全債務者は、保全債権者の主張についての認否を行い、抗弁として保全物に 係る消滅、発生障害、阻止原因について主張・立証すべきことになる。更に、これらの実体的事由のみに限られ ず、保全命令の違法ないしは不当を招来する管轄違いその他の手続上の蝦疵、担保の低額に過ぎることなどをも 主張することができるが、それらは従たるものである。保全債務者の主張である異議事由は、保全異議手続にお いて保全債権者から提出される保全命令発令の申立に係る主張に対して、保全債務者が提出する防御方法として の主張一般であるが、それは一個の保全物に対する防御方法なのであるから、各異議事由ごとに別個に保全異議       ︵6︶ の申立をすることは許されず、一個の保全異議手続においてすべての異議事由を主張することを要する。保全異 議が保全命令に対する一般的、包括的不服申立方法であるゆえんである。保全異議の審理における判断の基準時        ︵7︶ は審理の終結時であるから、保全命令発令後に生じた事実も保全異議手続の係属中は保全命令の当否の判断の原 因となりうるのであって、当事者は、原則としてこれを主張することができるし、主張しなければならないはず である。特に、保全物自体に対する抗弁事由に該当する事情変更に基づく取消事由は、保全異議の申立があれば、 その保全異議手続で主張すべきことになる。ただ民事保全法においては、これが別個独立の不服申立方法とされ ているため、それとの関係が問題となる。この点については、後記三及び四において再述する。

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保全異議と保全取滑との関係  3 保全取消の取消事由  保全異議手続が保全命令発令手続の続行であるのに対し、保全取消の申立は、保全命令発令手続後に存する事 由、発令された保全命令の存在を前提とし、その存在を不当とする特別の事由に基づく不服申立である。この場 合には、保全債務者が原告としての地位に立つ。申立により、保全命令発令手続とは別個に新たな手続が開始さ れることになる。取消事由は保全命令発令の要件とは別個︵少なくとも手続上は︶である。取消申立の要件事実 は、①保全命令が発令されていること、②取消事由が存在すること、である。この手続において審理判断の対象 となるのは、各取消事由の存否であり、保全命令の申立の当否については判断されない。したがって、保全債務 者の申立を認容して保全命令を取り消す場合であっても、保全異議におけるように、保全命令の申立を却下する        ︵8﹀ 旨を主文に謳うことは必要ではない。もっとも、実体形成面において、次のe以下に述べるように、取消事由が 実体関係上のものと手続上のものとがあるため、発令手続との連続性を有するものと有しないものとがある。   ⑭ 起訴命令不遵守に基づく取消     民事保全手続は、本案訴訟の先駆的手続にすぎず、保全命令の当否の終局的決定は、本案判決の判断に かかっている。したがって、保全債権者において本案訴訟を提起することが当然に予定されている。しかるに、 往々にして保全命令を得た保全債権者が自己の有利な法律的地位に居坐ろうとして、本案訴訟の提起をしない場 合がある。これに備えて、民事保全法は、保全債務者に起訴命令の申立権を与え、起訴命令が発令されたにも拘 らず、保全債権者が本案訴訟を提起しない場合には、保全命令を取り消すこととしている。これが起訴命令不遵

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守に基づく取消である︵民保法三七条︶。  この取消申立は、保全債権者に本案訴訟の提起を強制することを目的とするものであり、その審判は、保全命 令の保全物の存否には全く関わらない手続上の事由の存否の判断に終始するものである。したがって、保全命令 発令手続との間に実体関係上の連続性がないことを特質とする。手続上の蝦疵のみから、保全債務者の法律上の 不利な地位からの解放を図る機能をもつ。  その審理手続においては、保全債務者は、起訴命令が存在することだけを主張・立証すれば足り、保全債権者 が本案訴訟を提起してその旨の証明書を提出していないことまで主張・立証する必要はない。保全債権者が抗弁 として、保全命令についてその本案の関係に立つ訴等を提起するとともに、その提起を証明する書面か、既に提        ︵9︶ 起しているときは、その係属を証明する書面を提出しなければならず、更に保全債務者は再抗弁として訴の取下、        ︵−o︶ 訴の却下等債務名義成立の可能性が消滅したことを主張・立証しなければならない。   ⇔ 事情変更に基づく取消     事情変更に基づく取消の申立は、保全命令の発令後、保全物  被保全権利又は保全の必要性の消滅等 の変動により、保全命令を維持することが不当となった場合に、保全債務者を保全命令ないしその執行による栓 桔から迅速に解放することを目的とする。前述のように、被保全権利H本案の訴訟物の存否の確定は、本案判決 の決定するところによる。しかし、保全命令が疎明による一応の証明をもって発令されるのであるから、保全物 の変更が疎明によって認められる以上、保全命令をなお維持することは妥当ではない。保全物の変動に連動して、

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保全異議と保全取滑との関係 速やかに保全命令は取り消されるべきである。保全命令が発令された後であるから、手続は別個となり、手続面 における連続性はない。しかし、実体関係においては発令手続と等質であり、連続性がある。特に実体上の関連 性中被保全権利の帰すうについては、本案訴訟との間においても同様である。そのため本案訴訟において生じた        ︵1 1︶ 事情が色濃く本取消手続に反映する。これが本取消手続の特質である。保全命令発令前の事実は、原則として本 取消事由となりえず、発令後に生じた事実に限局される。逆に言えば、争点が発令後に生じた事実にしぽられる ことによって、速やかな決着を図ることができる。  保全債務者は、被保全権利又は保全の必要性の消滅等の変動事由、すなわち発令手続ないし保全異議手続で言 えばその抗弁ないし異議事由に当たる事由ではあるが、これを取消事由として独立の申立の原因に昇格させてい るのであるから、この取消手続においては原告の地位に立つことにより、まず積極的にこれらの事由を主張・立 証しなければならないという現象面の違いはあっても、保全命令発令手続ないし保全異議手続における保全債務 者の主張・立証内容と異なるところはない。保全命令の存在が前提となるという手続上の相違が、本取消手続に どれだけ影響するのかが考察のポイントとなる。実体面を重視すれば、取消事由を保全異議の異議事由として主 張することが許されるということになろうし、手続面を重視するならば、取消事由︵保全物の変動︶を完全に独 立させ、保全異議において異議事由を主張することを許さず、申立の併合として処理するという方向に傾むこう。   日 特別事情に基づく取消     特別事情に基づく取消の申立︵民保三九条一項︶は、仮処分命令に限られる。仮処分命令は、保全債権者 10

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の被保全権利の保全を目的とするものであるが、その可否が疎明によって判断される仮定的・暫定的処分である。 それにより保全債務者に致命的損害を与えるおそれのある場合には、被保全権利の存在の可能性と保全の必要性 の一応の存在が認められるからといって、保全債務者に対して仮処分の執行による抑制を加えてよいとは言い難 い。したがって、このような状況下にあるときは、仮処分の執行による保全債務者に対する抑制を排除する余地 を認めたものである。保全債務者を仮処分命令の執行による絶体絶命の状態から解放することを目的とするもの である。仮処分命令の存在を一応是認したうえで、そうではあってもなお保全債務者を救済すべき必要性の有無 を判断する点では、発令手続とは一線が引かれうるのであり、仮処分命令の発令手続とは連続性を欠くものと言 える。争点をこの点にしぼって保全債務者の早急な救済を図る機能を営むものである。  特別事情とは、一義的な事実概念ではなく、いわゆる評価概念であり、﹁償うことのできない損害を生ずるおそ れ﹂との例示が明文上なされてはいるが、この例示自体も評価概念から出るものではない。したがって、第一次 的には、保全債務者側の事情が重視されることは当然であるが、保全債権者側の事情−被保全権利が金銭的補 償によってほぽ終局的な目的を達することが可能なものかなどのその内容、仮処分の特別な必要性の程度等の事       ︵12V 情と比較考量されることとなろう。このような要件事実の通例として、その具体化には判例の集積を待たざるを えない。  保全債務者は、この手続においては原告の地位に立つのであり、取消事由となる特別事情の積極的な基礎とな る具体的事実︵重要な間接事実・準主要事実︶を主張・立証すべきである。これに対して、保全債権者は、被告 11

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保全異議と保全取滑との関孫 の地位に立ち、特別事情の消極的な基礎となる具体的事実、つまり保全債権者側の自己に有利な事情︵間接反証 的事実︶を主張・立証すべきこととなる。仮処分命令の当否!被保全権利と仮処分の一般的な必要性の存否に       ︵13︶ ついては審理すべきではない。 三 保全異議事由と保全取消事由との関係  取消事由を異議事由として主張しうるかということと両申立を併行してなしうるかということとは、本来別個 の問題であり、切り離して論ぜられるべきものである。前者は一個の申立の内部のことであり、後者は各申立相 互間のいわば対外的関係である。前者が肯定されるならば、各事由が統合され、後者の問題は生じないわけであ るし、後者が肯定されるならば、その前提として前者は否定されるはずである。しかるに、民事保全においては、 その特質から、本来親近性のある異議事由と取消事由とについて別個の不服申立方法が法定されたことにより、 理論的には起らないはずの問題が生じている。ただ前述したように、不服申立の審理方法として、旧法では判決 手続をとったのに対して、民事保全法はオール決定主義をとったことから、任意的口頭弁論︵原則としての書面 審理︶となることの影響をも配慮することが必要である。  1 事情変更に基づく取消事由との関係  前述のとおり、保全異議手続は、保全命令発令手続の続行であり、異議事由も事情変更に基づく取消事由も、 発令手続においては、共に保全債務者の抗弁となる事項であり、右取消事由は、他の取消事由に比し保全異議と 12

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の親近性が最も強い。そして保全異議手続においては、その審理終結時を基準時として保全命令申立の当否の判 断がなされる。したがって、その限りにおいて、それまでに生じた事情変更に基づく取消事由を異議事由として        ︵M︶ 主張しうることは当然であるし、そのように解されている。ところで、事情変更に基づく取消申立が別個に存在 する以上、これとの関係を除いて異議事由として主張された取消事由、あるいは主張することができたのに主張 されなかった取消事由の消長︵既判力あるいは遮断効の存否︶について論ずることは適当ではないので、後記四 において検討する。  2 特別事情に基づく取消事由との関係  特別事情は、保全の必要性に対する一種の阻却事由たる性質をもつとして、通常保全命令発令の際に保全の必        ︵1 5︶ 要性の存否を判断するに当たって考慮されるべき事項であるから、異議事由となりうるとするのが一般である。 また民保法三二条三項︵旧法七四五条二項に当たる︶が保全異議手続の決定において、保全債務者が担保を立てるこ とを条件として保全命令の取消を認めていることは、保全命令の要件が認められない場合には無条件で取り消す       ︵蛤︶       ︵η︶ べきであることに照らすと、この取消事由に基づく場合を予想したものと言えよう、とする。  たしかに以上のような考え方にも一理はある。特別事情が発令の段階で主張・立証されるならば、保全命令発        ︵18︶ 令の阻却事由に当たると見られないではない。その意味では、保全の必要性に対する抗弁ないし間接反証事実と して位置付けられ、異議事由としても主張することを許容すべき余地があ惹。しかし、特別事情の重要な構成要 素として、民事保全法以前において被保全権利が金銭的補償に親しむことがあげられていたが、仮処分の被保全 13

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保全異議と保全取滑との関係 権利は金銭債権ではないから、このことを理由として目的物を担保に換えうることを認めるのは例外的事例であ り、本来被保全権利の保全を目的とする民事保全の將外にある効果を生じさせるものであって、保全の必要性の 要因とは異質の事情である。のみならず、特別事情とは、前述したように被保全権利が存在し、一般の保全の必 要性があるにも拘らず、保全命令の申立を認容することが正義衡平の原則上相当でないとされる場合である。こ のことが特別の取消方法として立法をまたざるをえない理由と言いうるのではなかろうか。しかも、一方的審尋 が通例となっている発令手続においてこれが問題となることは事実上皆無に近いと言えようし、場合によっては 仮処分解放金を定めることの当否として解決されよう。異議事由として認めるか否かは立法政策ないし法解釈の 枠内として選択可能な問題であり、民事保全法は、別個の取消申立方法としているのである。前述の民保法三二 条三項も、保全債務者の抗弁が成功した場合であっても、その立証は疎明であるから、異議事由に当たる事実の 存在の蓋然性に従って担保を条件とすることは、保全命令を発令する場合において担保の提供を条件とするのと        ︵19︶ 同様に考えることができ、特別事情の存在の場合に限られることではない。特別事情は多くは保全命令発令時に も存在するにも拘らず、本取消に係る取消事由として保全命令発令後に生じた場合に限定しないで、別個独立の取 消申立としていることは、その特殊性にかんがみ、むしろ保全異議における異議事由として主張することを許さ ず、別個に審理・裁判すべきことを予定したものとみるのが相当である。しかも、この事由に審理を集中するこ とは事件の迅速処理に資するであろうし、民事保全法が審理方式を決定手続とし、申立、審理及び裁判の簡易迅 速化を図っていることも、別個の申立をすることによる当事者の手数や裁判所の負担を軽減し、申立をし易くし 14

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      ︹20︶ ているのであり、右のような取扱を支持する理由に加えることができると考えられる。  3 起訴命令不遵守に基づく取消との関係  異議事由について制限的規定が存在しないこと、この取消も保全異議と同様に保全命令の取消を目的とするこ と、あるいは申立の利益の阻却事由に当たる︵保全命令は、保全執行を目的とするから、執行の可能性がない保 全命令の申立は、申立の利益を欠くものである。︶ことを理由として、異議事由とすることができる、とする考え ︵21︶ 方がある。  しかし、この取消申立は、特別事情に基づく取消申立よりもより強い手続上の事由を取消事由としているから、 その審理の独立性を強調する理由としては、特別事情に基づく取消事由において述べたところをすべて援用しう ると言える。また異議事由として管轄違等の手続上の事由をも主張することも許されるが、異議事由の主たるも のは、保全命令の実体的要件の存在に係る。これに対して、起訴命令の不遵守は、全く特別の手続上の事由︵起 訴命令の発令、命令の遵守及びその旨の証明書の提出︶に限定されているのであって、その存否の判断は簡明・ 容易である。これを保全異議として他の事由と併せて主張させることは迂遠でもあるし、繁雑でもある。したがっ        ︵22︶ て、保全異議においては、この取消事由を主張することは許されないとするのが相当である。  4 保全取消手続において異議事由を主張することの許否  保全取消の申立は、保全命令の存在することを前提としたうえでなされ、かつ、取消事由が限定されているか ら、各取消手続における審理の範囲は、本案訴訟等の提起及びその旨の証明書の提出の有無︵起訴命令不遵守に 15

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保全異議と保全取滑との関係 基づく取消︶、保全命令発令後これを維持することを不当とするに足りる事情の変更の有無︵事情変更に基づく取 消︶、特別事情の有無︵特別事情に基づく取消︶等の各取消について定められている取消事由の存否に限られ、保 全命令の申立の当否について審理することは許されない。したがって、保全取消の申立において保全命令の発令        ︵23︶ の当時における不当性についての異議事由を主張することは、原則として許されないことになる。  なお、事情変更に基づく取消事由は、保全異議事由、ひいては保全命令の申立に係る攻撃防御方法と等質のも のであり、連続性を有することは前述したが、既に保全異議手続を経た後に本取消申立がなされた場合はもちろ ん、保全異議の申立がなされる前に本取消申立がなされた場合であっても、両者において共通するのは事情変更 に係る部分のみであり、それ以外は取消の審理の範囲外であるから、本取消には、その他の異議事由を抱え込む 容量は存しない。また保全異議の本来の異議事由と特別事情とは、内容的にも時期的にも密接な関係にあるから、 特別事情の存否の判断を被保全権利や保全の必要性に関する事項と無関係にすることはできないという理由で、       ︵24︶ 特別事情に基づく取消手続においては、仮処分命令自体の当否も審理の対象とすべきである、とする考え方もあ        ︹25︶  ︵26V るが、この取消手続においては、専ら特別事情の有無を審理、判断すべきであるとするのが判例、通説である。 16    四 保全異議手続と保全取消手続との関係  前項において、各手続における攻撃防御方法について見てみたのであるが、それは多かれ少なかれ同一の保全 命令の保全の要件に係るものであり、各不服申立は、いずれも保全命令の当否の判断を目的とするという点で、

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共通性をもち、同種の決定手続によるものである。にも拘らず、別個の手続とされていることから、この手続間 の関係はどうなるのかを見てみる必要がある。もっとも、この関係は、各手続の裁判を判決とし、必要的口頭弁 論を開くこととした旧法とは異なり、オール決定主義をとることとなった民事保全法の下においては、特に口頭 弁論を開くこととしたり、必要的双方審尋期日において若干の影響を与えるにすぎないこととなり、理論的な興 味はともかく、実務上の意味が薄れていることは否定できない。  保全異議手続における判断の基準時は審理終結時であり、保全取消事由を異議事由として主張することもでき る、とする考え方が一般であることは前述したところであり、保全命令発令当時に存在していた民事保全の要件 の欠敏︵本来の異議事由︶であっても、発令後に判明した場合には事情変更に基づく取消手続においてこれを主 張することができるとするのが、前述したようにむしろ通説的考え方である。しかし、一回の手続ですべての異 議事由や取消事由を解決するとすることは必ずしも訴訟経済に合致するとは限らないし、現に民事保全法は、こ        ︵27︶ れらの事由を別個独立の不服申立事由として主張することを認めている。そこで、同時に存在する可能性のある 各申立について、どのように取り扱うべきであろうか。まず保全異議と各保全取消との競合の許否について、更 に競合が許されるとする場合には、その手続の併合は許されるのか、併合する場合にはその態様はどうかについ て順次検討する。なお、これらの問題については、異議事由や取消事由の主張が他の手続においてどれだけ主張 することが許されるのかについての考え方に左右されることに注意を要する。 17

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保全異議と保全取消との関係  1 保全異議申立と保全取消申立との競合の許否   ⑭ 競合否定説         ︵28︶     この考え方は、取消事由を異議事由として主張することを肯定する一方、両手続が同時に存在すること を否定するものであるが、一方の手続が終了した後に他の手続が行われることまで否定するものではない。その 根拠は、①保全異議は、保全命令の申立に対する審理手続の続行であり、その係属中は保全命令発令手続は完了 せず、その間の保全取消の申立は二重起訴の禁止には反しないとしても、その立法趣旨に抵触すること、②保全 異議の異議事由として取消事由を主張しうる以上、保全異議と並んで保全取消を認める必要︵申立の利益︶がな いこと、③競合を認めると、審理が重複し、かつ裁判の抵触を生ずるおそれがあること、である。この考え方の 多くは、保全異議と保全取消とにつき保全債務者に選択権のあることを前提としながら、その併存を否定するも のであるが、更に進んで、保全債務者はまず保全異議により防御を尽すべきであって、それをすることなしに保        ︵29︶ 全取消の申立をすることは許されない、として、選択権自体を否定するものもある︵したがって、保全取消の申       ︵30︶ 立は、保全異議の終了後に、その後に生じた事由に基づく場合に限られることになる。︶。なお、この考え方には、       ︵3 1︶ 保全取消の申立後に保全異議の申立があった場合にも、保全取消の申立が不適法となる、とするものと、保全異 議の係属が同時に存在し、又は先行する場合は、保全取消は許されないが、保全取消が先行する場合には競合は          ︵32︶ 許される、とするものとがある。 18

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  ⇔ 競合肯定説        ︵33︶    この考え方は、取消事由を異議事由として主張することを肯定するとともに、両手続が併用されることを も肯定するものである。その根拠は、①制度としての保全異議と保全取消とは、別個の目的と存在理由とを有す ること、②保全異議手続において取消事由を異議事由として主張することを許すのは、これを常に主張しなけれ ばならないとまで言うものではなく、実務の取扱や審理の便宜を尊重するものであって、否定説の挙げる理由だ けではまだ競合を認めないとするには根拠が不十分であること、である。  なお、前述したように、取消事由の主張を保全異議手続において主張できないとする考え方に立つならば、競 合は当然ということになる。   旬 実務の取扱         ︵34︶     従前の実務は、通説である取消事由を異議事由として主張することを肯定するとともに両手続の競合を も肯定する立場をとったうえで、審理の重複、裁判の抵触を避けるため、運用面で工夫をし、審理の単純化を図っ ていた。すなわち、保全異議と保全取消とが競合した場合には、保全債務者の意向を質したうえ、その希望に従っ て、保全債権者の同意を得て保全異議手続の進行を事実上停止︵取消手続と同じ日時に期日を入れて実質審理を しないで延期し、あるいは期日を追って指定として進行を事実上停止する。︶して取消手続を先に進行させ、又は その逆に、保全異議手続だけを進行させたり、保全取消の申立を取り下げさせ、保全異議手続において取消事由 を異議事由として主張させるなどの方法がとられていた。民事保全法施行後も、特に口頭弁論を開いた場合に限 19

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保全異議と保全取滑との関係 られるが、大きな変化はないものと考えられる。  2 保全異議の申立と保全取消の申立との併合   8 併合の許否     保全異議の申立と保全取消の申立との選択ひいてはその競合が許されるとすると、その場合には両手続 の併合が許されるかが問われる。    ︵35︶  消極説は、①保全異議は、保全命令発令手続の内部における不服申立方法︵保全命令発令手続との一連の審理 手続︶であるから、当事者の手続上の地位に変更はないが、保全取消は、保全命令発令手続の外部における不服 申立方法︵保全命令発令手続の終了、少なくとも一段落後の、それとは別個の審理手続︶であって、当事者の手 続上の地位は逆となり、両者は審理構造を異にすること、②訴の客観的併合が認められるためには、当事者の人 格が同一であるだけでは足りず、その訴訟上の地位も同一であることが必要であること︵このことは反訴に関す る特別規定︵民訴二一二九条︶が存することからも肯定することができる。︶を根拠として、両手続の併合を否定する。          ︵36﹀ これに対して、積極説は、①両手続の併合を禁止する明文の規定がないこと、②両手続は、いずれも決定手続で、 立証手段が疎明で足りるなど同種の手続と言いうること、③請求の併合には、当事者の訴訟上の地位が同一であ ることを要するとする理論上の要請はなく、むしろ通常訴訟においては、訴訟上の地位が異なる場合でも、他の 併合要件を満たせば併合しているのが実務の取扱であることを根拠として、管轄裁判所が異ならない限り︵例え ば、本案裁判所と発令裁判所とが異なるときには、管轄裁判所を異にすることになる。︶、併合は許される、とす 20

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る。後者が通説である。  手続の併合は、審理の重複や裁判の抵触を避けるために有用な場合が多く、その採否は裁判所の訴訟指揮に委 ねられているから、法が明文で禁止しない以上、なるべく緩やかに解するのが相当である。他方、一般的な不服 申立方法である保全異議のほかに保全取消が認められているのは、特別な場合に要件を限局してなされているこ とにかんがみると、安易に併合を許すことはその趣旨に反するか、必ずしも審判の合理化に資するとは言い難い ものがあるから、その運用に当たっては慎重を期することが必要である。前記の実務の取扱は、このような配慮 に出ていることがうかがわれる。   ⇔ 併合の態様     併合された数個の事件は、併合後もその事件の性質を失わず、特別の事情のない限り審理の順序等はな        ︵37︶ く、並列的併合となる、とする考え方と、保全取消を併合しても、保全異議と同位的なものとすることはできず、        ︵38︶ 選択的又は予備的併合となる、とする考え方とがある。保全異議と保全取消とは、論理的には先後の関係にある から、特段の事情のない以上、保全異議から審理することとなろうが、それに限られるわけではない。保全異議 あるいは一の保全取消が認容されないときは、更に他の保全取消について審理すべきことになる。前者の考え方 において、先に審理された申立が認容されても、当然に他の申立についての審理が不要となるわけではない。こ れに対して、後者の考え方であれば、任意の一の、あるいは本位的申立から審理し、それが認容されれば、他は 審判の必要がなくなる。しかし、これらの申立は、いずれも結果的には保全命令の取消を目的とし、かつ取消決 21

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保全異議と保全取滑との関係 定には必ず担保提供の有無が伴うから、それらの点についても斜酌することが必要となる。すなわち、審理の利 益から言えば、先行の結論が無担保の申立認容であれば、後の手続においてより有利な取消決定はありえないか ら、その余の申立についての審判の利益がなくなるが、先行の結論が担保提供を条件とする申立認容であれば、 なおより有利な取消決定を得る可能性があるから、無担保の可能性のあるその余の申立について更に審判するこ とになろう。このように見ると、併合の態様を論ずる実質的な意味は少なく、主文がどうなるかに止まると考え られる。  いずれにせよ、具体的事件の処理に当たっては、各不服申立方法の特質、機能、短所・長所を考え、どのよう にすれば保全債務者がより迅速簡易に保全命令の重圧から脱却できるかという見地から、どの不服申立を先行さ        ︵39︶ せるか、あるいは併用するか、それについて別個に審理するか、併合するかを選択することが必要である。  3 保全異議と保全取消との相互の決定の効力  一方の手続における決定が確定した場合、その手続において主張した事由を他の手続において再度主張するこ とが許されるか。  まず、決定について他の訴訟手続における主張ないし判断に影響する意味での既判力が存しないことは明らか である。ただ両当事者の平等な関与が保障された同様の同種の決定手続間、いわば同じ土俵で勝負する手続間に おいては、先行する手続においてなされた終局的決定が、他の手続に影響する効力をももちうるかどうかについ       ︵40︶ ては積極に解すべきであろう。審理の重複や裁判の抵触は、訴訟制度の運営において避けるべきであるからであ 22

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る。  ところで、異議事由と取消事由とが等質であるとみるか、別個独立したものとみるか、すなわち、取消事由が すべて異議事由に取り込めるのか、それとも別個の申立において主張されなければならないとみるかによって、 決定の効力の影響にも差違を生ずる。前者の見方に立ち、異議事由として取消事由をも主張しうるとするなら、 異議事由は請求を理由付ける事実に位置付けられるのであり、当該取消事由も同様である。他方、保全異議と保 全取消とは制度的には訴訟物を異にするものとみるべきであるから、保全異議裁判所の決定の効力は保全取消裁 判所を拘束しないし、当該保全異議において異議事由として主張された取消事由についてなされた判断も、理由       ︵41︶ 中の判断であるから、保全取消裁判所を拘束しないということになろう。これに対して、後者であれば、保全異 議と保全取消とは訴訟物を異にすることはもちろんであるが、保全取消手続においては、取消事由は請求を理由        ︹42﹀ 付ける事実であるとともに、請求を特定する事実ないしはこれに準ずる事実でもあることになる。このような取       ︵43︶ 消事由について既判力が生ずるとみることは、必ずしも異とするに足りないのではなかろうか。保全異議手続に 取消事由が登場するとしても、実質的には、それは保全取消の取消事由として機能しているとみることができる。 このようにみるならば、主文は申立の併合の数に応じて表示すべきであり、かりに主文が同一の文言であること から併記することを避けているにすぎず、保全取消についても判示されていると解することも十分に可能である。 たまたま取消事由が異議事由として主張され、それについて保全異議の決定がなされている場合でも、その内容 は取消事由と同一なのであって、形式的には保全異議における異議事由ではあるが、実質的には保全取消の取消 23

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保全異議と保全取消との関係 事由であり、申立の併合なのである。保全取消の申立をして排斥された後、再度同一の申立を許容する考え方は あるまい。そうだとすれば、異議事由として主張したか、取消事由として主張したかの違いだけによって区別す ることは、余りにも形式論に過ぎるのではなかろうか。このような手続間においては、決定であっても、既判力        ︵44︶ 類似の効力を認めるのが相当である。逆に保全異議において保全取消事由を主張することなく敗訴した保全債務 者は、保全取消の申立をすることができるし、先行の保全異議の決定に拘束されることのないことは当然である。  また、派生的な効力として、担保付取消決定がなされ、担保を提供して執行の取消がなされた後、無担保取消 決定がなされた場合において、後者が前者に係る担保の取消原因となりうるか、という問題がある。ことは前者 がなされた後における後者の申立の利益の有無にも関わる。取消原因とならないとすれば、申立の利益は半減す るであろうからである。民事保全における担保の取消原因は、担保権利者において損害賠償請求権発生の可能性 が消滅したことであり、保全物の不存在が確定することである。被保全権利の存否は本案判決をまって確定する が、保全の必要性は本案訴訟の対象とはならないので、保全異議及び保全取消手続の決定の確定で足りるとされ   ︵45︶ ている。そうであれば、この場合の後の決定も同様に考えられよう。無担保取消決定は法が定めている場合や損 害の発生のないことが確実である場合に限られるから、無担保取消決定が確定した以上、担保の事由が止んだこ とに当たると解することができる。 24

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五 ま と め

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 保全異議と保全取消とは、いずれも保全命令に対する不服申立方法であり、保全命令の当否の判断を内容とす る点で、共通性、親近性をもつ。したがって、本案判決手続における上訴のような統一的・包括的な不服申立方 法を構築することも可能ではある。しかるに、民事保全法︵旧法も含めて︶では、別個の複数の不服申立方法を 設けている。これは民事保全の暫定性、緊急性、復元性に基因するものであるから、それらの各不服申立方法の 目的、特質及び機能に注目する必要がある。それらは、右の点についてそれぞれ異なったものを具有しており、 一般的な不服申立方法である保全異議に単純に包括させるような取扱は相当ではない。このような多様な、いわ ば木目の細かい不服申立方法が設定されているのであるから、一見審理の便宜、経済に沿うことができると考え られるということだけで、保全異議に吸収し、保全取消をこれに従属させるのは、決して得策ではない。むしろ 不服申立方法を多様化した立法の趣旨に従って、これを別個に取り扱うべきである。民事保全の裁判がすべて決 定とされ、必要的口頭弁論から任意的口頭弁論へと審理方法が切り換えられ、書面審理が原則となったことに照 らしても、不服申立の個別化がより前進を見ることになるであろうと考えられる。 ︵1︶ 民事保全の特質として通常あげられるのは、暫定性、緊急性、従属性及び密行性の四つであるが、その他に﹁復元  性﹂をその一つとして考えるべきではなかろうか。民事保全は緊急・密行を要するから、多くの場合保全債権者の一 25

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保全異議と保全取滑との関係 ︵2︶

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語感として民事保全の静的状態を示す概念であり、この状態を変動させる要因まで示すのに適切ではない。暫定性の  復元性は、暫定性の一内容にすぎず、いたずらに異を立てるにすぎないとの批判が予想される。しかし、暫定性は、 常に当事者の平衡を考え、強度の復元性を保障することである。その典型の一つが特別の不服申立制度である。 不可能であるならば、迅速かつ十分な損害の補損をする機能を民事保全制度に具えさせることが必要である。いわば 保全債権者に有利に傾いても、それが違法・不当な場合には、できるだけ早く原状に復元させ、あるいは原状回復が 用な損害を与えることは、当事者の衡平上できるだけ避けるよう留意されるべきである。すなわち、事態がいったん あり、保全債務者に損害を与えることが多い。この事態はやむを得ないものではあるが、そのために保全債務者に無 方的な主張・疎明のみに基づいて発令され、執行される。しかもその結果は保全債権者にとって極めて有利なもので 一内容とも考えることができる従属性が、民事保全と本案訴訟との関係を示すもの  民事保全の静的状態を揺り 動かす要因として民事保全の特質の一つとされている。復元性はこれと同様と見られるのであり、民事保全における 動的要因を示すものとして有意義な概念であると考えられる。  一個の不服申立の中で、すべての不服事由を主張することができることにすれば、それで足りるし、手続的にも簡 略であるといえないことはない。にも拘らず、多種の不服申立方法を設けている意味はどこにあるのであろうか。こ のことを考えてみる必要があろう。  この点については反対の考え方があり、むしろ通説である。  保全異議の本質については、①一方審尋により︵旧法では口頭弁論を経ないで︶なされた保全命令について保全債 務者から双方審尋︵旧法では口頭弁論を開くこと︶によりその発令申立の当否についての再審理を求める申立とする もの︵大判大正五・丁二六民録二二輯一九二頁、東京高判昭和二八・六・二六下級民集四巻九三七頁、大阪高判昭 和三七・一〇・三〇高民集一五巻五七五頁、東京高決昭和三九・三・三一東高時報一五巻七三頁。兼子一・増補強制 執行法三一〇頁、藤原弘道﹁保全異議とその裁判﹂︵竹下守夫目鈴木正裕編・民事保全法の基本構造︶二七九頁、入 江正信﹁仮処分決定に対する異議事由と事情変更および特別事情による取消事由との相互関係﹂︵村松俊夫還暦記 26

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︵5︶ ︵6︶ ︵7︶ 念・仮処分の研究上巻︶二五三頁、中務俊昌﹁保全訴訟の手続﹂︵中田淳一H三ヶ月章編・民事訴訟法演習H︶二七 一頁︶、②同様にして双方審尋︵旧法では口頭弁論︶により原決定の当否の審判を求める申立とするもの︵東京高判 昭和二八・九・一九下級民集四巻一三二頁、東京高判昭和二九・七・三判例時報三二号二八頁、大阪高判昭和三四・ 一〇・三〇下級民集一〇巻二二四五頁。松岡義正・保全訴訟仮差押仮処分要論一六九、一七一頁、菊井維大11村松11 西山俊彦・仮差押仮処分三九五頁、西山・新版保全処分概論一七二頁、西山随林屋礼二編・実務法律大系8仮差押・ 仮処分二四∼五頁︵林屋︶、野村秀敏﹁保全処分に対する不服申立方法﹂︵丹野達H青山善充編・裁判実務大系4保 全訴訟法︶三九四頁、吉川大二郎﹁保全処分命令に対する異議﹂︵増補保全訴訟の基本問題︶四二九∼三〇頁、沢栄 三﹁保全命令に対する異議﹂︵吉川還暦記念・保全処分の体系上巻︶三六九∼七〇頁、︵保全訴訟の理論と実務︶二二 一∼二頁︶、松浦馨“三宅弘人編・基本法コンメンタール民事保全法一九三∼四頁︵笠井勝彦︶、③原決定の取消変更 を求める申立とするもの︵大判明治四四・五二民録一七輯二四七頁、前野順丁改正強制執行法保全訴訟篇八九頁︶ との考え方がある。  旧法においては、判決手続により行うこととし、自動的に双方審尋が行われることとされていたが、民事保全法で は、オール決定主義により、双方審尋は手続的には自動的に確保されることがないことから、口頭弁論を開かない場 合には、必ず一回は双方審尋期日を開かなければならないこととし、手続上の保障を図っている︵民保二三条四項︶。  大判昭和一丁九二七民集一五巻一七一〇頁。原井竜一郎H河合伸一編著・実務民事保全法三九三頁、新堂幸司日 竹下編・民事執行・民事保全法三三三頁︵鈴木俊光︶、柳川真佐夫・保全訴訟︹補訂版︺三六二頁、入江・前掲︵4︶ 一六七頁、鈴木忠一目三ヶ月編・注解民事執行法㈲一一一∼二頁︵大石忠生︶、赤塚信雄﹁保全処分決定に対する異 議事由﹂︵丹野H青山編・裁判実務大系4保全訴訟法︶四〇二頁。  大判昭和一二・八・七大審院判決全集四輯一五号二一頁、大判昭和一五・一〇・二九民集一九巻二〇一三頁、仙台 高判昭和二九・七・二八下級民集五巻一一八四頁。原井日河合・前掲︵6︶四〇五頁、西山・前掲︵4︶一八六頁、菊井・ 民事手続法三六七頁、鈴木”三ヶ月11宮脇幸彦編・注解強制執行法㈲三三一頁︵大石︶、大石・前掲︵6︶二二頁、 27

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保全異議と保全取消との関係 ︵8︶ ︵9︶ ︵10︶ ︵n︶ 宮川種一郎﹁仮処分異議訴訟における判断の基準時﹂判例タイムズ一九七号一六六頁。発令時を基準とするもの 柳 川・前掲㈲三六二頁。なお沢田直也・保全執行法試釈一五〇∼三頁は、債権者の利益のためには命令発令時、債務者 の利益のためには異議訴訟の口頭弁論終結時を基準時とすべきである。とする。  但し、起訴命令不遵守に基づく取消申立については、保全命令の申立を却下しておくのが相当であるとする考え方 がある︵原井“河合・前掲︵6︶四二四頁、原田晃治﹁本案の不提起等による保全命令の取消し﹂︵三宅11荒井史男口 岨野悌介編・民事保全法の理論と実務国︶四二六頁、西山・前掲︵4︶二一二頁︶。  旧法時においては、保全債権者は取消訴訟の第二審口頭弁論終結時までに本案訴訟を提起することにより取消を 免れることができる、とし︵大判昭和一〇二・二五民集一四巻三九頁、最判昭和二三・六二五民集二巻一四八頁、 東京高判昭和四五・四・八判例タイムズニ五一号二九三頁。菊井・民事訴訟法口三三四頁︵但し審級を明示していな い。︶、西山・前掲︵4︶一コ一頁、松岡・前掲︵4︶二〇九∼一〇、一二二∼三頁、鈴木11三ヶ月H宮脇・前掲︵7︶三四 三頁︵西山︶、鈴木H三ヶ月・前掲︵6︶一二六頁︵同︶、斉藤秀夫・判例民事法昭和一〇年度︹四︺事件︶、極めて緩 やかに解釈されていたため、起訴命令が有名無実の感があった。民事保全法ではこの点を厳格なものとし、起訴命令 の空洞化の防止を立法的に解決した。  菊井ー村松“西山・前掲︵4︶三四〇、四〇六頁、西山・前掲︵4︶二〇八頁、柳川・前掲︵6︶四二二頁︵岩井正子︶、 吉川﹁保全処分の取消と起訴命令﹂︵保全処分の研究︶三〇八頁。  一は、本案判決で被保全権利の不存在が確定した場合であり、これにより保全命令が当然には失効しないから、本 取消を経ることを要する︵大判大正一一・一二・二三民集一巻七九一頁。菊井ロ村松日西山・前掲︵4︶四一六頁、松 岡・前掲︵4︶二二二∼三頁、沢・前掲︵4︶三七八頁。これに対し、当然失効し取消の余地がないとするもの 西山・ 前掲︵4︶一二五∼六、三〇〇∼一頁、吉川・判例保全処分二九四頁︶。二は、未確定の判決であっても、上訴審でそ の判決が維持される蓋然性が高い場合である︵大判昭和二⊥・二五民集六巻二七頁、大判昭和五・二・三民集九巻 四三頁、大判昭和一二・三・二四民集一六巻五一七頁、最判昭和二六二〇⊥八民集五巻六〇〇頁、最判昭和二七・ 28

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︵12︶ ︵13︶ 二・二〇民集六巻一〇〇八頁。菊井・前掲︵9︶三三六頁、柳川・前掲︵6︶三七一∼二頁、西山・前掲︵4︶一二五頁、 吉川﹁事情変更と保全処分の取消﹂︵保全処分の研究︶三四一∼二頁、三ヶ月﹁事情変更による保全命令の取消﹂︵菊 井編・法律学演習講座全訂民事訴訟法下巻︶三八O頁、上田徹一郎﹁事情変更と保全命令の取消﹂︵吉川還暦記念・ 保全処分の体系下巻︶八六二∼四頁、特に八六四頁︶。  旧法時においては、特別事情について、①被保全権利について金銭的補償が可能であるかどうか︵金銭的補償の可 能性︶と、②当事者双方の衡平の見地から債務者が仮処分によって通常受ける損害︵債務者が受忍せざるをえない程 度の損害︶よりも多大な損害を被むる場合であるかどうか︵異常損害の発生の可能性︶が考えられ、このどちらかの 一つの事情があればよい、とされていた︵大判昭和一四・三・一法律新聞四三九〇号一七頁、大判昭和一七・七・三 法律学説判例評論全集三一巻民訴一一九頁、大判昭和二二・三・二七判例総覧民事編一巻一三二頁、最判昭和二六・ 二・六民集五巻二一頁、最判昭和二七・四・四民集六巻四〇四頁、最判昭和二七・ニマニ五民集六巻二三一頁。菊 井・前掲︵9︶三七五頁、兼子・前掲︵4︶三三二∼三頁、吉川﹁特別事情に基く仮処分の取消﹂︵保全処分の研究︶四 二四頁以下、特に四二六、四三三頁、同﹁仮処分に関する最高裁判所の判例回顧﹂︵増補保全訴訟の基本問題︶六〇 二頁、菊井・前掲︵7︶四〇三頁以下、特に四一六∼七頁、同・判例民事法大正一四年度︹八七︺事件、三ヶ月・判例 民事法昭和二六年度︹三︺事件、原井﹁特別事情による仮処分取消﹂︵吉川還暦記念・保全処分の体系下巻︶八九八 頁、吉村徳重﹁仮処分と特別事情﹂︵中田H三ヶ月編・民事訴訟法演習H︶二八九頁、林屋・保全判例百選一二五頁、 中務﹁戦後の仮処分判例の研究﹂民事訴訟雑誌一号一八三頁。反対 大判昭和二・三・七法律新聞二六七六号一四頁、 大判昭和一一・二・二二民集一五巻一九六七頁。沢田・前掲︵6︶四四七頁以下、特に四五二頁。  最判昭和二三・一一・九民集二巻四〇五頁、最判昭和二四・九・一〇民集三巻四〇九頁、名古屋高判昭和三四・九・ 二五高裁民集一二巻三九〇頁。菊井U村松11西山・前掲︵4︶三五二頁、西山・前掲︵4︶一三二頁、吉川・前掲︵12︶︵増 補保全訴訟の基本問題︶五九九頁、同・前掲︵11︶︵判例保全処分︶四七七頁。柳川・前掲︵6︶四〇五頁は、原則とし てこの考え方を支持しながら、実際の特別事情の存否の判断において切り離し難いことを指摘する。 29

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 大判昭和一五・一〇・二九民集一九巻二〇二二頁、大判昭和一七・一・二九判例総覧民事編二巻二三八頁、東京高 判昭和四三・四・一〇下級民集一九巻一八七頁。藤原・前掲︵4︶二八一頁、鈴木︵正︶﹁各種の保全取消しとその問 題点﹂︵竹下“鈴木編・民事保全法の基本構造︶三一八頁、松浦”三宅・前掲︵4︶一八二頁︵高橋譲︶、二一九頁︵栗 田隆︶、竹下“藤田耕三編・注解民事保全法上巻三六七頁︵青山︶、四四六頁︵上田︶、松岡・前掲︵4︶二一七∼八頁、 西山・前掲︵4︶一八二ー三頁、大石・前掲︵6︶三三〇頁、同・前掲︵5と一二頁、林屋・前掲︵4︶二二九∼四〇頁、 吉川・前掲︵n︶三五八頁、同・前掲︵4︶四六〇∼一頁、沢・前掲︵4︶三七五頁、入江・前掲︵4︶一六一∼二頁、赤塚・ 前掲︵6︶四〇三頁。なお、判断の基準時についての保全命令発令時説によれば、否定の結論になるはずであるが、柳 川・前掲︵6︶三六三頁は、緊急性、迅速性、訴訟経済の要請を根拠にこれを肯定する。  最判昭和二九・四・三〇民集八巻八九七頁。藤原・前掲︵4︶二八一頁、鈴木︵正︶・前掲︵14︶一=八頁、原井・前 掲︵n︶九一六頁、原井旺河合・前掲︵6︶四五六頁、入江・前掲︵4と六一∼二頁、高橋・前掲︵Mと八二頁、栗田・ 前掲︵14︶二二四頁。  保全要件が認められない場合には二つの場合がある。一はその発生原因が認められない場合であり、保全命令の申 立であれば無条件で却下されることになるし、保全異議の場合も無条件で保全命令は取り消されるべきである。二は 抗弁が認められる場合である。この場合には疎明責任は保全債務者にあるから、疎明の証明度によっては、担保付で 取り消すのが相当であることもありえよう。  西山・前掲︵4︶一八九頁、原井・前掲︵12︶九一七∼八頁、栗田・前掲︵14︶二二四頁。  仮処分の申立に当たって、保全債務者側に生じる損害が債権者側に生じる損害を上回るときはそもそも保全の必 要性が認められず、保全裁判所はそのことを理由に仮処分命令の申立を却下すべきである、とする考え方︵鈴木 ︵正︶・前掲︵14︶コニ六頁は、山崎潮・新民事保全法の解説︹増補改訂版︺二四三頁、鈴木11三ヶ月編・前掲︵6︶三〇 五頁︵小笠原昭夫︶がこの考え方であると引用するが、後者については疑問である。︶や仮処分発令前に保全債務者 の審尋などにより特別事情の存在が明らかになったときは、保全裁判所は民事保全法三二条三項を類推適用し、保全 30

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債務者に担保を立てさせることを条件として、仮処分命令を却下すべきである、そうでないと、保全債務者に保全異 議を申し立てさせ、その審理中に特別事情を主張立証させたり、特別事情による取消申立をさせたりして、その裁判 が確定するまで待っていると、その間に保全債務者側に生じてくる損害を防止し切れないおそれがある、もし発令裁 判所がこの特別事情に目をつむり、仮処分命令を発令すると、それに対して保全異議の申立がなされ、保全異議裁判 所は保全債務者に担保を立てることを条件として仮処分命令を取り消すことになる︵民保法三二条三項︶、保全異議 裁判所は仮処分命令の当否を判定する裁判所であり、その裁判所にこのような形の原命令の取消が認められている としたら、原命令発令の段階でも同じようなパターンを認めておかないと、理論上つじつまが合わず、原︵発令︶裁 判所にとって酷な事態となる、とする考え方︵鈴木︵正︶・前掲︵14︶ご二六∼七頁︶がある。  保全の必要性の存否は単に当事者双方の損害の比較によって決せられるものではあるまい。損害は被保全権利の 存否に関わる。保全債権者の損害とは、被保全権利が認められる場合に民事保全がなされないことによる損害︵逆に 言えば民事保全が認められることによる利益︶であり、保全債務者の損害とは、被保全権利が認められない場合に民 事保全がなされることにより被むる損害である。保全命令の発令に当たって必要性が問題となるのは、被保全権利が 疎明された後である。その段階では、保全命令の執行によって保全債務者に損害が生ずるとしても、保全債務者は将 来被保全権利の執行不能の可能性のある限り、民事保全を甘受せざるをえない。にも拘らず保全債務者の損害が保全 債権者の利益を上廻るということだけで民事保全が否定されるとすることは当を得ないであろう。また、発令段階に おいて特別事情が認められると、必要性の存在が認められないこととなるので、民事保全の申立を却下すべきものと し、保全債務者が担保を提供することを条件として申立を却下した場合において、担保が提供されないときはどうな るのであろうか。主文は却下のみであるから、保全債権者は被保全権利と一般の保全の必要性とが存在するのに仮処 分は執行することのできないことは明らかである。保全債権者が再度民事保全の申立をしても、特別事情に変更のな い限り再度却下されることになる。それとも担保を提供しないことが特別事情を消滅させる事由となると解する余 地があるとしても、再度の申立を要する点では、いったん保全命令を発令した後に特別事情に基づく取消の申立をさ 31

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保全異議と保全取滑との関係 ︵19︶ ︵20︶        28 27 26 25 24 23 22 21 )    )    )    )    )    )    )    ) 損害の確実な補償を目的とするが、第二次的には、疎明による証明度の低さ︵これにより損害発生の蓋然性の高まる  担保は、第一次的には、保全命令の執行又は執行の取消によって保全債務者又は保全債権者の被むることあるべき り勝ると考えられる。 で、特別事情に基づく取消の申立をさせるとすることの方が明文の規定に副わない構成をしないということではよ せるのとそれ程の差違はないであろう。むしろ一般的な必要性が存在するのであるから、仮処分命令を発令したうえ こと︶に対する補完的機能のあることも否定できない︵赤塚・前掲︵6︶六八∼九頁参照︶。なお、抗弁の疎明につい ては、請求原因︵被保全権利の発生原因と保全の必要性︶の疎明と同程度でよいと考えられるが︵赤塚・前掲︵6︶六 九頁V、より強度であることを要するとする考え方︵西山・前掲︵9︶︵注解強執法︶二八八頁︶がある。申立の却下 を無条件とする含みが考えられているのであろうか。  書面審理と口頭弁論による審理との手続上の煩項度の違いは著しい。それは、手続の主体である裁判所にとっても 当事者にとっても、主張・立証、裁判書の作成などの個々の訴訟活動においても同様である。また個別審理と併合審 理との簡素化の効用の差も決定手続においては顕著ではない。  入江・前掲︵4︶一六一頁を除く前掲︵14︶に掲げる諸文献。  入江・前掲︵4︶一六一頁。  反対 原井旺河合・前掲︵6︶三九三、四五六頁。  柳川・前掲︵6︶四〇五頁。  最判昭和二四・九・一〇民集三巻四〇九頁、最判昭和二六・二・六民集五巻二一頁。  原井H河合・前掲︵6︶四五六頁、西山・前掲︵4︶二三〇頁など。  入江・前掲︵4︶一六五∼六頁。  保全異議と保全取消の決定的相違点は、保全異議には独立の原保全命令取消請求権が存在しないことである。保全 異議における保全債務者勝訴の決定の要素は保全命令の申立の却下︵棄却︶であり、原保全命令の取消は、たまたま 32

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︵31︶ ︵32︶ ︵33︶

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原保全命令が発令されているからにすぎない。保全異議の申立により実質的には保全命令は失効し、あらためて保全 命令の申立の当否が審理されるのである。これに対して、保全取消は、原保全命令の取消請求権の存否についての審 理・判断が姐上にのるのである。保全物の消滅等の変動事由は、保全異議における抗弁事由と実質的内容は同じであ るにしても、当該手続における位置付けを異にする。それは、保全異議においては、保全物に対する抗弁であって、 脇役にすぎないが、保全取消においては、取消請求権の発生原因であって、主役を演ずる。  入江・前掲︵4︶一六五頁。  入江・前掲︵4と六七頁︵特別事情についてであるが、特別事情に関する事情変更であるから、事情変更に基づく 取消申立として許される、とする。︶。  奈良次郎﹁仮処分命令に対する事情変更または特別事情による取消事件が係属する場合、該事件に異議事件を併合 できるか﹂判例タイムズ一九七号一五七頁注︵4︶参照。  吉村・前掲︵12︶二入七頁、菊井・前掲︵7︶三六七頁、鈴木︵俊︶﹁異議と取消申立て﹂︵宮崎富哉U中野編・仮差押・ 仮処分の基礎︶二四三ー四頁。  鈴木︵正︶・前掲︵14︶一一二九頁、原井11河合・前掲︵6︶四五六頁、上田・前掲︵14︶四四六頁、中野編・民事執行・ 保全法概説三〇〇頁︵谷口安平︶、笠井・前掲︵4︶一七三頁、栗田・前掲︵14︶二一九、二四四頁。奈良・前掲︵3 1︶一 五七頁参照。  柳川・前掲︵6︶三三三頁︵岩井正子︶、司法研修所・保全訴訟手続の解説七四頁。  吉川・前掲︵n︶︵保全処分の研究︶三六〇頁、同・前掲︵n︶︵判例保全処分︶二二、四八二ー三、五二三頁。  西山・前掲︵4︶一九九頁、大石・前掲︵7︶三三六頁、同・前掲︵6︶二七頁、司法研修所・前掲︵3 4︶九二ー三頁、 奈良・前掲︵3 1︶一五九頁、鈴木︵正Y前掲︵3 1︶三二一頁。  奈良・前掲︵3 1︶一五九、一六〇頁注︵7︶。  司法研修所・前掲︵34︶九二頁参照。 33

参照

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