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酸化グラフェンからの高結晶グラフェンの合成 利用統計を見る

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酸化グラフェンからの高結晶グラフェンの合成

著者

根岸 良太

著者別名

NEGISHI Ryota

雑誌名

工業技術

43

ページ

37-40

発行年

2021-02-24

URL

http://doi.org/10.34428/00012420

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

対誤差が 10%以下、3%以下、1%以下になる最大誤差半径 について n を変化させて計算した結果を図 5 に示す。 横軸は式(3)における打切り項数 n を示し、縦軸は最大 誤差半径を示す。つまり、このプロット点よりも上側の 領域であれば、相対誤差が 10, 3, 1%以内で厳密解と一 致することを示す。なお、展開項数 n が奇数のみになっ ているのは式(3)に偶数項が現れないためである。 この結果より、n=9 程度までは誤差半径は急激に小さ くなるが、それ以降は n を増やしても大きな改善は見ら れず、最終的に原点から点電荷までの距離 r=l/2 [m]に 漸近することが確認できる。これは式(3)の適用範囲と 一致する。n が大きくなるにつれて最大誤差半径の差が 小さくなっていることから、誤差の勾配が急峻になって いることが分かる。これは図 4 で示したように展開項数 を増やすと誤差の山が急峻になる結果と一致する。また、 n=1 のダイポール近似の場合、1%誤差半径は r=6.1 m、 3%誤差半径は r=3.6 m、10%誤差半径は r=2.0 m であり、 電荷間の距離 l=1 m で規格化すると、r=6.1l, 3.6l, 2.0l 以上離れていれば 1%, 3%, 10%以下の誤差で厳密 解と一致することが分かった。n=3, 5 と増やしたとき、 一例として 3%誤差半径に着目すると r=1.4l, 1.1l まで 小さくすることができるが、式の見通しは悪くなり物理 的イメージが薄れるデメリットもある。 図 5 多重極展開の打切り項数の検討 4.まとめ ダイポール近傍の静電界分布について、1)単独電荷の 重ね合わせによる厳密解、2)ダイポール近似式、3)多重 極展開表現における展開項数の打切りの影響を含めて 3 つの表現方法を比較した。 電位分布の比較においては、厳密解は点電荷の置かれ た特異点のみで発散するが、近似解は原点のみで正負に 発散することが分かった。これが原点近傍の誤差を増大 させる原因であることが分かった。 また、真のパーセント相対誤差分布の比較からは、誤 差の大きい領域は原点を中心とした円形に近い領域に 集中し、多重極展開の展開項数を増やすほどこの領域が 小さくなることは確認できたが、最終的には理論通り原 点から正負点電荷までの距離に収束することが分かっ た。例として、n=1 のダイポール近似が 1%, 3%, 10%以 内の誤差で成立するのは r>6.1l, 3.6l, 2.0l の領域で あることが分かり、これまで多くの教科書で「十分離れ た」という定性的な説明を具体的な数値で定量化して示 すことができた。本報告は 2017 年度日本物理教育学会 第 34 回物理教育研究大会の予稿[8]に基づいている。 参考文献 1) 安達三郎、大貫繁雄、電気磁気学 第 2 版・新装版、pp.33-34、 森北出版、 2014 2) 川村康文ほか、わかりやすい理工系の電磁気学、pp.40-43、 講談社、 2012 3) 新田英雄、物理と特殊関数-入門セミナー-、pp.37-50、 共 立出版、 1997

4) D. J. Griffiths, Introduction to Electrodynamics 3rd ed., pp. 146-148, Prentice Hall, 1999

5) 新田英雄、山本将史、Excel で学ぶ電磁気学、pp.32-39、 オ

ーム社、 2005

6) 寺沢寛一、自然科学者のための数学概論[増補版]、p.400、岩

波書店、2010

7) S. C. Chapra, R. P. Canale, Numerical Methods for Engineers 5th ed., pp. 53-56, McGraw-Hill, 2006

8) 草間裕介、 ダイポール近傍静電界の誤差解析、 日本物理教 育学会物理教育研究大会、 pp.31-32, 2017 0 1 2 3 4 5 6 7 0 10 20 30 40 50 Maxi mu m er ror radi us [m] Number of truncation n 1% 3% 10% r=0.5

酸化グラフェンからの高結晶グラフェンの合成

Synthesis of highly crystalline graphene from defective graphene oxide material

根岸 良太* 1.はじめに Geim、Novoselov らによる高配向性熱分解グラファイト からのスコッチテープにより抽出した数層グラフェン の驚くべき高いキャリア移動度の報告1, 2)を契機に、グ ラフェンのディラック・コーン型の線形分散に起因した 得意な物性探索やデバイス応用に関する研究が活発に 進展している 3-6)。現在の主要なグラフェン形成技術と して、シリコンカーバイド(SiC)のシリコン表面熱分 解法 7, 8)や触媒となる貴金属(ニッケル、鉄、銅など) や固体成長核を用いた化学気相成長(CVD: Chemical Vapor Deposition)法 9-13)、化学的処理法(Modified

Hummers’ method)14により合成した酸化グラフェン

(GO: Graphene oxide)の還元法15, 16)などが挙げられ

る。特に、大量製造可能な GO はグラフェンを大面積に 形成させるスケーラブルな手法として注目されており、 化学・物理学・生物学の枠を越えた広範な分野でその合 成法や応用に関する研究が活発に進められている17-22) 電子デバイス材料への応用には、絶縁性である GO の還 元が必須となる。従来のヒドラジンなどによる化学還元 処理23-25)や真空中・不活性ガス(アルゴンなどカーボン と化学反応を起こさないガス)中での加熱処理26-28)では、 酸化過程で形成した欠陥構造が還元処理後も多く残る 24, 29)。そのため、還元した GO 薄膜のキャリア(電子あ るいはホール)は、局在した電子準位間をホッピングす る伝導(VRH)機構を示し、移動度はせいぜい 1-10 cm2/Vs 程度に留まる 30, 31)。このことは、従来の還元法で生成 される GO 薄膜の電子構造は、空乏欠陥やsp2sp3ドメ インとが混在したアモルファス構造により π 電子共役 系が空間的に局在した状態であり、グラフェンとは全く 異なった物性を示す結晶性の低い材料であることを意 味している。より欠陥を低減し、グラフェン本来の高移 動度を示す薄膜形成法の確立が課題である。本稿では、 還元過程において微量の炭素源ガス(エタノール)を添 加した高温加熱還元による欠陥構造の修復促進効果に ついて、著者の研究成果の事例を紹介する32-35) 2.実験方法 2.1 酸化グラフェン薄膜の作製 酸化グラフェンは、水晶基板(日本電波工業社製:厚み 0.5 mm、ST カット面)上にシランカップリング処理を することで均一な薄膜を形成させた36) 2.2 エタノール気相雰囲気での高温加熱処理 による酸化グラフェン薄膜の還元 著者らが開発した多温度ゾーン CVD 装置12, 37, 38)を用い て GO 薄膜の不活性ガス(アルゴン)、反応性ガス(エタ ノール)中における加熱還元処理を行った。それぞれの ガスはマスフローコントローラーで流量制御し、エタノ ールの濃度は 2000 ppm(分圧:0.5 Pa)、全圧は 250 Pa とし、キャリアガスとしてアルゴンを用いた。 3.実験結果と考察 3.1 不活性・活性ガス雰囲気での加熱還元処 理した GO 薄膜のキャリア伝導特性 チャネル材料のキャリア移動度は、デバイスの性能を決 める重要なパラメータの一つである。図 1 に、様々な条 件で加熱還元処理した GO 薄膜のキャリア移動度を示す。 エタノール中で加熱処理した GO 薄膜の移動度は、van der Pauw 法によるホール測定から求められた。一方、 アルゴン中加熱処理した GO 薄膜では、伝導度の薄膜面 内の不均一性により外部磁場に対するホール電位の明 瞭な応答を観察することはできなかった。そのため、還 元した GO 薄膜をチャネルとした電界効果トランジスタ (FET)のゲート電圧特性、すなわち相互コンダクタン

(3)

スから移動度を評価した 39)。アルゴン中加熱処理した GO 薄膜の移動度は 10 cm2/Vs 以下であり、化学還元や 真空中・不活性雰囲気加熱処理した GO 薄膜の報告値と 良く一致している30, 31)。一方で、エタノール中加熱処 理した GO 薄膜では、移動度の飛躍的な向上が観察され ている。1130 °C の加熱処理では、移動度が~210 cm2/Vs にも達しており、還元した GO 薄膜としては現状 最高レベルの値である。 図 2 に、エタノール中加熱処理した GO 薄膜の移動度 における観察温度依存性を示す。ここで、移動度(μ(T)) は室温の移動度(μ(300K))で規格化されている。処 理温度 1000 °C 以下では、観察温度の低下と共に移動 度が著しく減少している。この傾向は、2次元のバリア ブルレンジホッピング(2D-VRH)伝導の典型的な振る舞 いであり、局在した電子準位間をキャリアがホッピング して伝導していることが分かる。このような現象は、不 活性ガス中加熱処理や化学還元処理した GO 薄膜で観察 されている31, 40, 41)1100°C 以上の高温加熱処理では、 温度特性の傾向が明らかに異なり、室温から 160 K 付 近まで移動度の増加が観察されている。これは、伝導に おける散乱の支配要因が、局在した電子準位間の障壁で はなく、フォノンであることを示唆している。すなわち、 観察温度の低下と共にフォノン散乱が抑制されて、移動 度が向上したものと考えられる42) 図 3 に、エタノール中加熱処理した GO 薄膜のコンダ クタンス温度依存性(σ(T))および、フィッティング 解析の結果を示す。σ(T)は 2D-VRH 伝導モデルにより (1)式のように表わせる43)

13

exp ∝ ) (T BT VRH

(1) ここで、パラメータBは(2)式となる。 3 1 2 ) ( 3        L E N k B F B (2) (kBはボルツマン定数、N(EF)はフェルミ準位付近の状 態密度、Lは π 電子の波動関数長) 900°C の比較的低温でのエタノール中加熱処理では、 (1)式に示した 2D-VRH 伝導モデルで精度よくフィッテ ィングすることができる(図 3(a))。一方、1000ºC 以 上のエタノール中加熱処理した GO 薄膜の場合、観察温 度が低温領域において 2D-VRH 伝導モデルで精度よくフ ィッティングできるものの、室温付近でのコンダクタン スの対数はT-1/3に対して非線形的な変化を示す。図 2 で 示したように、高温エタノール加熱処理した GO 薄膜の 伝導では、室温付近においてフォノン散乱が支配的であ ると考えられる。このことを踏まえて、バンドギャップ を仮定した熱活性型(TA: Thermal Activation)伝導モ デルを導入したフィッティング解析結果を次に示す。 シリコンなどの無機半導体はキャリアが熱励起によ り伝導帯もしくは荷電子帯に励起され、バンド伝導を示 す。この場合、コンダクタンスの温度依存性は(3)式 で表わされる44)

E

k

T

T

a B TA

(

)

exp

-

(3) 図 3(b)・(c)で示されているように、高温エタノール 中加熱処理した GO 薄膜の σ(T)は、2D-VRH と TA の足 し合わせでフィッティングできる。このようなコンダク タンス特性は、アモルファス半導体 45)や2層グラフェ ン構造46)で観察されており、還元型 GO 薄膜では初めて の観察例となる。表1に、フィッティング解析から評価 した活性化エネルギー(Ea)および、波動関数の局在長 (L)を示す。Eaは、キャリアが移動度端を越えて非局 在化した電子準位へ励起するために必要なエネルギー 処理温度 (C) 800 900 1000 1100 1200 移動 度 (c m 2/Vs) 10 100 1 1000 0.1 エタノール中処理 アルゴン中処理 Ethanol at 1130C Temperature (K)  (T )/  (300 K ) 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 1.1 0 100 200 300 at 1000C at 900C 図 1 様々な条件で還元した GO 薄膜のキャリア移動度。 Reprinted from R. Negishi et al., Sci. Rep.32) with the permission of Nature Publishing Group.

図 2 エタノール中加熱 処理により得られた GO 薄 膜のコンダクタンス温度 依存性。Reprinted from R. Negishi et al., Sci. Rep.32) with the permission of Nature Publishing Group. と定義される44)。エタノール中加熱処理において、処理 温度の高温化に伴いLが著しく増大している。Lは伝導 に寄与する π 電子共役系の波動関数長に対応している ことから、π 電子系の空間的な拡張、つまり欠陥の少 ないsp2ドメインが拡大していることを意味する。従っ て、Eaの起源はsp2ドメインの拡大に伴う非局在化した 電子構造に由来しているものと考えられる。 3.1 高結晶化した GO 薄膜の構造と伝導機構 図 4 に、(a)900ºC と(b)1100ºC で加熱したエタノー ル中還元処理後の GO 薄膜に対する透過型電子顕微鏡 (TEM)像を示す。低温処理では、アモルファス状のド メインや空乏など多くの欠陥構造が観察されている。一 方、高温条件では周期的な輝点が観察されており、結晶 性が飛躍的に向上していることが分かる。この構造的特 徴は、XPS やラマン、XAFS、PES による実験結果と整合 している32) これまでの結果を踏まえて、エタノール加熱処理した GO 薄膜のキャリア伝導機構について、さらに詳しく議 論する。900ºC 以下の低温エタノール中加熱処理では構 造修復は十分に進行しないため、伝導に寄与するsp2 成軌道をもつ炭素原子のドメインサイズは小さく、空乏 など欠陥領域に囲まれる。これら欠陥構造は高いエネル ギー障壁となるため、小さなsp2ドメインは電子の閉じ 込め効果によって大きなバンドギャップを持つ 40)。室 温付近での電子・ホールの熱励起エネルギーはバンドギ ャップよりも小さいため、キャリアはギャップ内の局在 準位間をホッピング伝導する。一方、1000ºC 以上の高 温エタノール中加熱では、構造修復が効率的に進行し、 sp2ドメインが空間的に拡張する。障壁となる欠陥構造 の領域が著しく減少するため、隣接したsp2ドメイン間 の波動関数が互いに重なり、バンドギャップエネルギー や障壁の縮小と共に連続的なバンド構造を形成する。こ れらエネルギーの縮小は、活性化エネルギー(Ea)の減 少やフェルミ準位近傍の DOS の増加を導く(表1)。こ の場合、キャリアは価電子帯上端から伝導帯の下端へ励 起し、バンドを介在して伝導する。その結果、高い伝導 度や移動度が観察されたものと考えられる。 4.まとめ 本稿では、GO 薄膜の還元過程において欠陥構造を修復 するという新たな技術について紹介した。観察された伝 導機構は、従来の還元法で見られる VRH 機構ではなく、 グラフェンの電子構造を反映したバンド伝導を示し、本 技術は GO からグラフェン本来の電子物性を引き出すこ とが可能であることを意味している。近年、反応性ガス を利用した 1500℃以上の超高温プロセスの導入により、 ln ) T-1/3(K-1/3) -11.0 -10.6 -10.4 -10.8 0.14 0.16 0.22 0.24 300 200T (K)150 100 -10.2 0.18 0.20 (a) Exp. (Ethanol at 900ºC) VRH 50 300 50T (K)20 10 T-1/3(K-1/3) 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 ln ) -9.0 -8.8 -8.7 -8.6 -8.5 -8.9 -8.4 (c) Exp. (1130ºC) VRH VRH + TA ln ) T-1/3(K-1/3) -10.3 -10.1 -9.7 -9.5 -9.3 -9.9 0.1 300 T (K)20 10 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.14 0.16 0.18 T-1/3(K-1/3) -9.45 -9.40 -9.35 -9.30 ln ) 296 244 204 171T (K) (b) VRH VRH + TA Exp. (1000ºC) -8.60 -8.50 -8.45 ln ) -8.65 -8.55 0.15 0.20 0.25 T-1/3(K-1/3) 296 125 64T (K) H2/Ar treatment at 1130ºC Ethanol treatment at 900ºC 1130ºC Ea/meV 84.6 16.3±4.0 L/nm 4.3±1.0 6.3±1.3 30 184.0±39.4 1000ºC Transport

mechanism VRH VRH TA+VRH TA+VRH

図 3 エタノール中加熱処理 により得られた GO 薄膜のコン ダ ク タ ン ス 温 度 依 存 性 。 Reprinted from R. Negishi et al., Sci. Rep.16) with the permission of Nature Publishing Group.

図 4(a)900ºC と(b)1100ºC で加熱したエタノール中還 元処理により得られた GO 薄 膜の TEM 像。Reproduced from R. Negishi et al., Sci. Rep.32) with the permission of Nature Publishing Group.

表1フィッティング解析から見積もられた活性化エネルギー (Ea)と波動関数の局在長(L)。Reproduced from R. Negishi et al., Sci. Rep.32) with the permission of Nature Publishing Group.

酸化グラフェンからの高結晶グラフェンの合成

Synthesis of highly crystalline graphene from defective graphene oxide material 根岸 良太

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スから移動度を評価した 39)。アルゴン中加熱処理した GO 薄膜の移動度は 10 cm2/Vs 以下であり、化学還元や 真空中・不活性雰囲気加熱処理した GO 薄膜の報告値と 良く一致している30, 31)。一方で、エタノール中加熱処 理した GO 薄膜では、移動度の飛躍的な向上が観察され ている。1130 °C の加熱処理では、移動度が~210 cm2/Vs にも達しており、還元した GO 薄膜としては現状 最高レベルの値である。 図 2 に、エタノール中加熱処理した GO 薄膜の移動度 における観察温度依存性を示す。ここで、移動度(μ(T)) は室温の移動度(μ(300K))で規格化されている。処 理温度 1000 °C 以下では、観察温度の低下と共に移動 度が著しく減少している。この傾向は、2次元のバリア ブルレンジホッピング(2D-VRH)伝導の典型的な振る舞 いであり、局在した電子準位間をキャリアがホッピング して伝導していることが分かる。このような現象は、不 活性ガス中加熱処理や化学還元処理した GO 薄膜で観察 されている31, 40, 41)1100°C 以上の高温加熱処理では、 温度特性の傾向が明らかに異なり、室温から 160 K 付 近まで移動度の増加が観察されている。これは、伝導に おける散乱の支配要因が、局在した電子準位間の障壁で はなく、フォノンであることを示唆している。すなわち、 観察温度の低下と共にフォノン散乱が抑制されて、移動 度が向上したものと考えられる42) 図 3 に、エタノール中加熱処理した GO 薄膜のコンダ クタンス温度依存性(σ(T))および、フィッティング 解析の結果を示す。σ(T)は 2D-VRH 伝導モデルにより (1)式のように表わせる43)

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exp ∝ ) (T BT VRH

(1) ここで、パラメータBは(2)式となる。 3 1 2 ) ( 3        L E N k B F B (2) (kBはボルツマン定数、N(EF)はフェルミ準位付近の状 態密度、Lは π 電子の波動関数長) 900°C の比較的低温でのエタノール中加熱処理では、 (1)式に示した 2D-VRH 伝導モデルで精度よくフィッテ ィングすることができる(図 3(a))。一方、1000ºC 以 上のエタノール中加熱処理した GO 薄膜の場合、観察温 度が低温領域において 2D-VRH 伝導モデルで精度よくフ ィッティングできるものの、室温付近でのコンダクタン スの対数はT-1/3に対して非線形的な変化を示す。図 2 で 示したように、高温エタノール加熱処理した GO 薄膜の 伝導では、室温付近においてフォノン散乱が支配的であ ると考えられる。このことを踏まえて、バンドギャップ を仮定した熱活性型(TA: Thermal Activation)伝導モ デルを導入したフィッティング解析結果を次に示す。 シリコンなどの無機半導体はキャリアが熱励起によ り伝導帯もしくは荷電子帯に励起され、バンド伝導を示 す。この場合、コンダクタンスの温度依存性は(3)式 で表わされる44)

E

k

T

T

a B TA

(

)

exp

-

(3) 図 3(b)・(c)で示されているように、高温エタノール 中加熱処理した GO 薄膜の σ(T)は、2D-VRH と TA の足 し合わせでフィッティングできる。このようなコンダク タンス特性は、アモルファス半導体 45)や2層グラフェ ン構造46)で観察されており、還元型 GO 薄膜では初めて の観察例となる。表1に、フィッティング解析から評価 した活性化エネルギー(Ea)および、波動関数の局在長 (L)を示す。Eaは、キャリアが移動度端を越えて非局 在化した電子準位へ励起するために必要なエネルギー 処理温度 (C) 800 900 1000 1100 1200 移動 度 (c m 2/Vs) 10 100 1 1000 0.1 エタノール中処理 アルゴン中処理 Ethanol at 1130C Temperature (K)  (T )/  (300 K ) 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 1.1 0 100 200 300 at 1000C at 900C 図 1 様々な条件で還元した GO 薄膜のキャリア移動度。 Reprinted from R. Negishi et al., Sci. Rep.32) with the permission of Nature Publishing Group.

図 2 エタノール中加熱 処理により得られた GO 薄 膜のコンダクタンス温度 依存性。Reprinted from R. Negishi et al., Sci. Rep.32) with the permission of Nature Publishing Group. と定義される44)。エタノール中加熱処理において、処理 温度の高温化に伴いLが著しく増大している。Lは伝導 に寄与する π 電子共役系の波動関数長に対応している ことから、π 電子系の空間的な拡張、つまり欠陥の少 ないsp2ドメインが拡大していることを意味する。従っ て、Eaの起源はsp2ドメインの拡大に伴う非局在化した 電子構造に由来しているものと考えられる。 3.1 高結晶化した GO 薄膜の構造と伝導機構 図 4 に、(a)900ºC と(b)1100ºC で加熱したエタノー ル中還元処理後の GO 薄膜に対する透過型電子顕微鏡 (TEM)像を示す。低温処理では、アモルファス状のド メインや空乏など多くの欠陥構造が観察されている。一 方、高温条件では周期的な輝点が観察されており、結晶 性が飛躍的に向上していることが分かる。この構造的特 徴は、XPS やラマン、XAFS、PES による実験結果と整合 している32) これまでの結果を踏まえて、エタノール加熱処理した GO 薄膜のキャリア伝導機構について、さらに詳しく議 論する。900ºC 以下の低温エタノール中加熱処理では構 造修復は十分に進行しないため、伝導に寄与するsp2 成軌道をもつ炭素原子のドメインサイズは小さく、空乏 など欠陥領域に囲まれる。これら欠陥構造は高いエネル ギー障壁となるため、小さなsp2ドメインは電子の閉じ 込め効果によって大きなバンドギャップを持つ 40)。室 温付近での電子・ホールの熱励起エネルギーはバンドギ ャップよりも小さいため、キャリアはギャップ内の局在 準位間をホッピング伝導する。一方、1000ºC 以上の高 温エタノール中加熱では、構造修復が効率的に進行し、 sp2ドメインが空間的に拡張する。障壁となる欠陥構造 の領域が著しく減少するため、隣接したsp2ドメイン間 の波動関数が互いに重なり、バンドギャップエネルギー や障壁の縮小と共に連続的なバンド構造を形成する。こ れらエネルギーの縮小は、活性化エネルギー(Ea)の減 少やフェルミ準位近傍の DOS の増加を導く(表1)。こ の場合、キャリアは価電子帯上端から伝導帯の下端へ励 起し、バンドを介在して伝導する。その結果、高い伝導 度や移動度が観察されたものと考えられる。 4.まとめ 本稿では、GO 薄膜の還元過程において欠陥構造を修復 するという新たな技術について紹介した。観察された伝 導機構は、従来の還元法で見られる VRH 機構ではなく、 グラフェンの電子構造を反映したバンド伝導を示し、本 技術は GO からグラフェン本来の電子物性を引き出すこ とが可能であることを意味している。近年、反応性ガス を利用した 1500℃以上の超高温プロセスの導入により、 ln ) T-1/3(K-1/3) -11.0 -10.6 -10.4 -10.8 0.14 0.16 0.22 0.24 300 200T (K)150 100 -10.2 0.18 0.20 (a) Exp. (Ethanol at 900ºC) VRH 50 300 50T (K)20 10 T-1/3(K-1/3) 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 ln ) -9.0 -8.8 -8.7 -8.6 -8.5 -8.9 -8.4 (c) Exp. (1130ºC) VRH VRH + TA ln ) T-1/3(K-1/3) -10.3 -10.1 -9.7 -9.5 -9.3 -9.9 0.1 300 T (K)20 10 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.14 0.16 0.18 T-1/3(K-1/3) -9.45 -9.40 -9.35 -9.30 ln ) 296 244 204 171T (K) (b) VRH VRH + TA Exp. (1000ºC) -8.60 -8.50 -8.45 ln ) -8.65 -8.55 0.15 0.20 0.25 T-1/3(K-1/3) 296 125 64T (K) H2/Ar treatment at 1130ºC Ethanol treatment at 900ºC 1130ºC Ea/meV 84.6 16.3±4.0 L/nm 4.3±1.0 6.3±1.3 30 184.0±39.4 1000ºC Transport

mechanism VRH VRH TA+VRH TA+VRH

図 3 エタノール中加熱処理 により得られた GO 薄膜のコン ダ ク タ ン ス 温 度 依 存 性 。 Reprinted from R. Negishi et al., Sci. Rep.16) with the permission of Nature Publishing Group.

図 4(a)900ºC と(b)1100ºC で加熱したエタノール中還 元処理により得られた GO 薄 膜の TEM 像。Reproduced from R. Negishi et al., Sci. Rep.32) with the permission of Nature Publishing Group.

表1フィッティング解析から見積もられた活性化エネルギー (Ea)と波動関数の局在長(L)。Reproduced from R. Negishi et al., Sci. Rep.32) with the permission of Nature Publishing Group.

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無欠陥に近いグラフェンの合成が可能になりつつある。 ただし、超高温プロセスではデバイス基板として高融点 材料が必要であることなど、課題も残る。今後は、修復 過程における反応性ガスの熱分解生成物の寄与を原子 スケールで解明し、構造修復の反応に対する緻密な制御 を実現することで、より低温での高結晶化技術の開拓を 目指す。 謝辞 本研究は、小林慶裕教授(大阪大学大学院)との共同で 行われたものであり、深く感謝いたします。本研究の一 部は科研費、阪大フォトニクスセンター、JAIST ナノテ クノロジープラットフォーム事業、「低炭素研究ネット ワーク」京大ナノテクノロジーハブ拠点の助成を受けた ものです。最後に、今回の寄稿の貴重な機会を賜りまし た工業技術研究所 所長 勝亦徹先生、編集委員長 佐 野勇司先生、編集委員 田代基慶先生、新田将之先生に 心より感謝申し上げます。 参考文献

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気候変動に対するコンクリートによるカーボンリサイクル技術

Carbon recycling technology by using concrete against climate change

横関 康祐* 1.はじめに 気候変動や地球温暖化の問題が議論されはじめてか ら30 年以上が経過している。その間、世界は劇的な変 化を遂げ、30 年前とは人やモノ、生活環境など様変わ りしているのは言うまでもない。人口は増加し、SNS な どの発達や観光産業の振興により世界の行動範囲が広 がった。これに伴い、エネルギー需要は増加する一方、 震災や原子力発電所の停止など様々な社会変化も起き ている。一昔前までは 300ppm 弱であった大気中の二 酸化炭素濃度が近年では400ppm 弱にまで近づいてき ているという。これに伴い、様々な気候変動が起きてい ると言われるが、これらに対する画期的な解決策が見い 出せていないのが現状である。 そんな中、2019 年には地球温暖化に関する議論が特 に活性化し、新聞やTV などで報道されない日がないく らいに様々な活動が行われた。SDGs や ESG 投資など といった言葉がごく当たり前に社会の中に溶け込んで きていると感じるようになり、世界各国で、再生可能エ ネルギー、水素エネルギー、CCS、CO2のメタン化、炭 酸塩化など新しい技術開発が急速に進んでいることが 明らかになった。 我が国では、安倍首相がイノベーションや CO2有効 利用の重要性を世界経済フォーラム年次総会「ダボス会 議」(2019 年 1 月 23 日)で訴え、2 月には経済産業省 にカーボンリサイクル室が発足、大阪での G20(2019 6 月 28 日、29 日、インテックス大阪)でカーボンリ サイクルロードマップを公開するなど、我が国は世界を 牽引すべく積極的な動きを見せた。マドリードで行われ たCOP25(2019 年 12 月 2 〜15 日)では、IPCC(国 連気象変動に関する政府間パネル)の報告に基づき、野 心的目標として1.5℃シナリオ(2050 年の正味排出量 をゼロにするもの)が共有目標とされ、わが国は大きな リーダーシップを発揮したものの、パリ協定の実施ルー ル作りの合意には至らなかった。 一方、近年、栃木、広島、岡山での水害や土砂災害、 関西空港などでの台風被害、2019 年は台風 15、19 号 により日本全国で甚大な水害が引き起こされているこ とは記憶に新しい。二酸化炭素の排出と地球温暖化の因 果関係は定かではないが、インフラ施設と気候変動や地 球温暖化の関係の重要性が改めて認識されはじめてい ると思われる。 本稿では、このような背景のもとで脚光を浴びはじめ ている、建設セクターによる脱炭素化と CO2吸収コン クリートに関わる動きを紹介する。 2.建設セクターにおける脱炭素化 我が国における建設セクターの CO2排出量は、全排 出量の約 10%を占めている。世界的には、建設セクタ ーが産業全体の1/4 を占めているとの報告もあり、発展 途上国の急速な近代化に伴い、この割合が増加すること が予測されている。建設セクターの CO2排出量のうち セメント産業が約半分と多くの部分を占めることから、 建設セクターとして材料起因の CO2排出を抑制するこ とが重要であることがわかる。 そのような中、(一社)日本建設業連合会では京都議 定書が採択された1998 年に CO2削減目標値を定めた 「建設業の環境自主行動計画」1)を策定しており、2014 年にはその数値を2020 年までに 20%、2030 年までに 25% 削減としている。これに対し各社では、LED など の高効率照明や低燃費重機の使用、BDF(Bio Diesel Fuel)の活用や ICT 施工などの取り組みが行われてい る。また、セメント協会では長寿命化やヒートアイラン ド現象に資するコンクリート舗装の推奨なども行われ ている。一方、国土交通省としては、物流や防災に関わ 酸化グラフェンからの高結晶グラフェンの合成

Synthesis of highly crystalline graphene from defective graphene oxide material 根岸 良太

図 2  エタノール中加熱 処理により得られた GO 薄 膜のコンダクタンス温度 依存性。Reprinted  from  R. Negishi et al., Sci.

参照

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