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熱帯農業開発における技術的側面 : わが国における熱帯農業研究の課題 [Science and Technology for Agricultural Development in the Tropics]

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(1)

束南 ア ジア研 究 17巻2号 1979年9月

郎*

Sci

enceand Technol

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ShiroO KABE

Rclatively little agrlCultural technology as applied in thedeveloped countriesissuitablefわr directtransferto thedeveloping COuntriesIeven ifmodified bymeansofadaptlVeresearch. The creation orapproprlatetechnology suited to the localconditionsorthedeveloplngCOuntriesinthe troplCSistherefわrecrucial.

A comprehensiveplanf♭rtechnologlCaldevel op-rrent should be worked out. Ⅰt should be emphasized,however,thattheterm "Compr ehen-sive"precludesdevelopmentschemeswhichhave becomecomplicated by themereindiscriminate incorporation into theplan orvarioustechnical,

economl

C

, SOCial and cultural elements, even though these co-ponentsare indispe nsable・ It

Ⅰ は 熱帯 にある発 展途 上 国の農 業 開発 を論 じよ う とす る場 合 ,さまざ まな視 点 が あ る。 金 程 需 給の 問題を 中心 に据 えて考 え る と,生産 そ れ 白体 の増加 とと もに ,生産を支 え る基盤 整 備 や農民 の農 業 資材購 買力 向上の方 策 につ い て も論ず る必要 が あ る。 農 村 の経済発展全体 *農林水 産省熱帯 農 業 研 究 セ ン タ ー ;Tropical Agriculture Research Center,Ministry of Agriculture,ForestryandFisheries

3

6

4

is highly importallttherefわre to improve each el°-entin allOrderly way,to keep thevarious factors involved in harmony an d to promote gradualdevelopmentby alloting enough time

,

evenyears,forthecompletionofeachstage.

In thelong run,forthedevelopmentofagri -cultural technology in the troplCS,elaborate research programsundertaken by nationaland internationalagenciesshould becloselylinkedso astoobtainandaccumulaterelevantdata.

h addition,effortsshould bemadetofurther promoteresearch and in、・estlgation aimed atthe exploitation orsuch bio】oglCalresourcesin the troplCSStlCh assago palm,qulnOa and winged beanwllicharepresentlyunusedorunderused.

L

が き を対 象 に す る と, 農産 物生産 の 増 大 に加 え て ,労 働需 給 や雇用 とのか かわ りの問題 もと りあげな くて はな らな い。 また熱帯 地 域 に特 有 の農 業形態 で あ る農 園農業 と住民農業 の二 重構造 に も注 目す る必要 が あ る。 さ らに ,開 発事業 の計画 と実施 の主体 につ いて言 え ば , そ れ ぞれ の 国の農業 開発 政策 とその実施能 力 とと もに ,農 民 の 開発へ の参加 意 欲 と能力 が 問題 にな る6 この ほか多種 多様 な接近 の 仕壬

(2)

岡部 :熱帯農 業開 発 にお け る技術 的側面 が あ るが ,そ の いず れ を選 ぶ に して も,技 術 の 問 題 を 抜 き に して は論 ぜ られ な い 。 こ こで は ,主 と して 住 民 農 業 の 生 産 技 術 を め ぐる い くつ か の 問 題 を と りあ げて 考 え た い。 な お ,与 え られ た 課 題 は熱 帯 地 域 一 般 を 対 象 に した もの で あ ろ うが , こ こで は主 に ア ジ ア地 域 , と くに 東南 ア ジア に眼 を 向 けて , こ の 地 域 の 米 作 と畑 作 農 業 技 術 を 論 議 の 対 象 に した い。 東 南 ア ジアの 米 作 農 業 の技 術 を 論 ず る際 , そ の 地 域 の 農 家 の 経 営 規 模 が 零 細 で あ る こ と の 類 似 性 か ら , 日本 の 米 作 技 術 との対 比 が し ば しば 行 わ れ る。 日本 との類 似 性 か ら判 断 し て , この地 域 の 発 展 途 上国 に対 して は技 術 移 ⅠⅠ 段 階 まず 第 1に ,わ が 国 は ,農 家 レベ ル で の 技 術 水 準 の 向上 に きわ めて 長 い時 間 が か か った こ とを あ げた い 。 い ま ,技 術 の 進 歩 を あ らわ す ひ とつ の 指 標 と して , イ ネの 収 量 の 推 移 を 辿 って み よ う (図 1)。現 在 の ア ジア地 域 (た だ し 日本 ,韓 国 ,台 湾 お よ び 中 国を 除 く) の 粗 収 量 を 平 均 して ha当た り1.8トン前 後 と推 定 す る。 こ れ を わ が 国 の過 去 の 水 準 に 引 き当て る と ,そ 4 3 2 -0 モ ミ 米 の 単 位 面 稚 収 暮 (-/ ha ) 転 が 容 易 で あ ろ う と期 待 され るわ けで ,そ の 先 進 例 の ひ とつ と して 日本 の 技 術 が 引 き合 い に 出 され る。 他 方 , 日本 の 技 術 者 ・研 究 者 で あ るわ れ わ れ 白身 が 最 も慣 れ 親 しん で い るの は , 日本 の 稲 作 農 業 で あ り,技 術 で あ る。 し た が って ,途 上 国 の 住 民 農 業 の 技 術 を 挑 め る とき も ,無 意 識 の う ちに ,わ れ わ れ は身 の 周 りに あ る 日本 の 稲 作 や , 自 ら身 につ けた 日本 で の 稲 作 技 術 と試 験 研 究 の成 果 を もの さ しに して 考 え る こ とに な る。 この 意 味 で ,熱 帯 地 域 に あ る途 上 国 の農 業 技 術 の 諸 問 題 を 考 え る に 当た って , こ こで も, は じめ に 日本 の 稲 作 技 術 の 特徴 を 振 り返 る こ とか ら始 め た い 。 的 発 展 れ はお お よ そ 西 暦

13

00

年 ご ろの収 量 水 準 に相 当す る 。 い まか ら約

6

00

年 余 の む か しに遡 る こ とに な る。 そ の 日本 の イ ネ収 量 は徳 川 時 代 中期 の

1

8

00

年 代 に入 って 漸 く

2

トンを 超 え , 明治 維 新 ごろの

1

87

0

年 に いた って

2.

5

トンを 上 廻 る よ うにな った 。収 量 が 籾 で4トン台 に 達 した の は第

2

次 大 戦 前 の

1

93

0

年 ごろ にな っ て か らで あ る。つ ま り,平 均2トンの 時 代 か ら

4

トンの水 準 に到 達 す る まで に要 した期 間 (D原始農業時代 ⑧ かんがい農 #時代 ⑥ 技術 農業時代 @)構造改革農業時代 1 1 】 巨 l 1 i

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こ憲 」645大化改新 (米作点 ♯の成立) L 1603徳 川暮 府 L 1868明治維新 L 1945太平 洋戦 争 図 1 日本 における米作発展の歴史 (高激,1975b)

3

6

5

(3)

東南 ア ジア研究 17巻2号 は ,実 に

1

5

0

年近 い。 時 代 とと もに作 付面 積 が拡 大 して いるので ,収量 の みで稲 作技 術水 準 の推 移を推 定す るの は問 題が あるか も しれ な い。しか し,それ に して も,わ が 国の場 合, 農家 レベル での稲作技 術 の進歩 に は長 い時 間 がかか った こ とは否 定 で きな いで あ ろ う。 発展途 上 国で は ,い ま ,組織 的な試 験 研 究 が年 々拡充 強化 されつ つ あ り,高収量 品種 が 肯成 されて農 家 に も広 く普 及 す るよ うにな っ た 。 また ,か んが いや排水施 設 な どの基盤 整 備 もす す んで きて い る。 した が って ,米作技 術水 準 の進 歩 と,その 結果 と して の収 量水 準 の 向上 の速度 はむ か しよ り速 まる こ とは言 う まで もな い。 しか し,熱帯 の途上 国にお ける 今 後 の米 作技 術 の発 展 を考 え よ う とす る際 , かつて の 日本 が ,収量 水 準 あ るい は技 術水 準 の 向 ヒに長 い時 間を 要 した こ とは注 目 して よ いの で はなか ろ うか 。その理 由を 以下 に考 え て み た い。 「時 間がかか る. とい うことは , 技 術 の 面 か らみて , どの よ うな意 味が 含 まれて い るだ ろ うか。 第

1

に は ,技 術水 準の全体 と して の 向上 と 発展 に は段 階 が必 要 で ,これ を踏 ん でゆ くの に は 時 間を 要す る と い う こ と。 第2に は , 個 々の技 術 が 開発 に活か され るた め に は ,関 連 す る 多 くの 個 別技 術 間の 整 合性 が 必 要 で あ って ,全 体 と して バ ランスが とれ た整 合性 の ある技術体 系 が で きあが って ゆ くの に時 間 がか か る とい うこ と。第

3

に は ,個 々の技術 で あれ ,技 術 の 組 み合 わせ で あれ ,これ が実 際の 開発 に効果 を あげて ゆ くの に は,その技 術 に農 民 が習熟 し, これを 使 い こなす こ とが 必 要で ,これ に は時 間がかか る とい うこ とで あ る。 日本 の 稲作農

薬 20

0

0

一年 の 歴史を 振 り返 11 て,高瀬

-

(

1

9

7

5

b)

は,こ-れ を

4

段階 に分 けた。 第1段 階 は原 始農 業 時代 O大化 改新 (645) ま での時期 で収量 は

h

a

当た り

1

トン以 下。第 366

2

段 階 はか んが い農業 時代。明治維 新

(

1

8

6

8)

までの期 間で収量 は前記 の とお り

2.

5

トンに 到達 。第

3

段 階 は ,高瀬 の表現 によ る と技術 農 業 時代

(

1

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0

年 ごろ まで)。 試 験場 の活動 が活発 にな って ,新 品種 ,肥料 ,栽 培法 ,農 薬の 改良 な どが進 ん で ,収量 は一 躍 して4ト ン水 準 に はね あが った 。第4段 階 は ,それ以 後 最近

(

1

975)

にいた る期 間で ,構 造 改革農 業 時 代。農 地 改革 によ る農民 の意 欲 と近 代技 術の組 み合 わせ によ って

,1

97

0

年 に は

6

トン を越 え るに いた った 。高瀬 は以 上の こ とを総 合 して次 の よ うな仮説 を たて た 。

(1)

水 の コン トロール の な い土地 で は

1

トン以 上 の粗 収量 は望 めな い。 (2) 水 の コン トロール さ え う ま く い け ば, 無肥料 の在 来品種 で も

2.

5

トンま で はい く。

(3)

水 の コン トロール と肥料 ,新 品種 な どが組 み 合わ されば ,

4

トンまで はか たい。

(4) 4

トン以上 の 収量 に適 した 社 会 で は ,他産 業 との均衡 ,労働 力不足 な ど に対応 して ,農 業 の構 造 改善 ,機械 化 な どが必 要 とな る。 他方 ,図

2

に示 す よ うに ,ア ジア諸 国の年 収量 が農業 水 利の普及 率 に正 比例 して い る こ とか ら,結 論 と して ,か んが い排水 とい う水 の コン トロール こそ ア ジアの米作農業 の 大前 提 で あ り,それ に品種 ,肥料 ,農 薬 な どを 内 容 とす る技術 的要 素 ,さ らに は金 融 ,流通 , 農 協 ,水 利組 合 ,教 育訓 練 な どを 内容 とす る 社 会 的要 素を いか に有機 的 に組 み合 わせ るか が,ア ジア農 業 開発 の基 本戦 略 とな る と した。 熱帯 途 上 国の農 業 開発 に とって必 要 な技 術 的要 因 は,こ こに例 示 され た水利施 設,品種, 肥料 ,農 薬 の ほか に ,さ らにさ まざ まな要 因 が含 まれ る。土壌 改良,土 壌保 全,機械 器 具, 装 置等 々 ,要 因 は多種多様 で あ る。 高

輝 (

1

97

5b)

はその 主 張の なか で,いろい

(4)

岡 部 =熱帯 農 業開 発 におけ る技 術的側面 モ ミ 米 の 単 位 面 積 収 t T / ∩a ) 図 2 アジア米作農業の発妓過程 (高瀬, 19751)) ろな 要 因 ,要 素の なか か ら, と くこに水 を コ ン トロールす る技 術 が稲 作農 業 の 開 発 に と って 鹿 本 的 な 重要 さを もつ もの と して 強調 した (, ア ジアの 米作 面 積 は ,

t

円 司 ・H本 を 除 いて 約

8,

0

00

jJ

ha

と推 定 され て い る, そ して 現

は ,不 完 全 か ん が いの水 凹を 含 めて も,その わず か

2

0

,9

0

/,多 く見 積 も って もせ いぜ い

3

0

,㌔ 未満 の 面 積 しか か ん が い さ れ て い な い と い う。 この こ とか らみて ,水 コン トロール施 設 の普 及 の 重 要 さ は 「分 に理 解 で き る。 しか し,そ の施 設構 築 に要 す る魔 人 な費 用 と ,坐 産 され る米 の収 量 や 予想 され る価格 の 面 か ら 考 えて ,残 り

7

0

% の米 作 地 に ,少 な くと も

20

,3

0

年 とい う単 位 の期 間 和 こ,目に見 えて 水 利 施 設 が ひ ろが って ゆ くと期 待 す るの は現 実 的 でな い と考 え る。 もちろん その な か の あ る部分 で は水 利 制御 が で きる よ うにな って , それ を 基 礎 に農 業 開発 が進 展 す るで あ ろ う。 しか し,他 の 相 当部分 につ いて は ,あ る と こ ろで は ,た とえ ば 改良 品種 が 基 礎 の 役 割 を , 他 の と ころで は土 壌 管 理 の 技 術 導 入が 基礎 づ くりの 役 割 を 果 た す もの と推 定 され る。、 この よ うにみて くる と, どの よ うな 要 素 が 基礎 にな るか ば , 1_lI'.地 条 件 な どで 翼な るノ し か し,その 要 素 が 何 で あ るか ば別 に して,

(1975b)の 見 方で 重要な こ との ひ とつ は , 日本の 例 を と って ,米作農 業 が ,段 階 的 発 展 を 辿 って きた とい う指摘 で あ るr) こ こで ,逆 に ,段 階 的発 展 を 考 慮 しな い例 を あ げよ う。わ が 国 が ア ジアの 各地 で Jfi・な っ た 農 業技 術 協力 の 方 式 に ,いわ ゆ る 「デ モ ン ス ト レー シ ョン 農 場_」 が あ る。 ち ょう どH 本 で近 年 実施 され た水 出の 基 盤 整備 事業 にな ら って ,

ha

当た りに 換 算 して

1

00

メ ー トル を 越 え る水 路 密度 の か ん が い溝 を掘 り,そ れ とは別 に排 水 路 もと との え ,関

を均 平に し て ,周 到 な水 管 理 が で き るよ うに施 設 した 。 さ らに農道 をつ くって 作 業能 率 を 高 め る。 改 良 品種 の 採 用 や 施肥 は もち ろん の こ と,農 薬 を L1本 の 場 合 と同様 に多 量に 使 って 病 害 虫 の 適 期 防 除 に努 め る。結 果 と して ,

7

トンか ら 8トン も の 籾収 量 が得 られ た例 は 稀 で は な い。 そ して そ の で き具 合 の見 事 さ は土地 の 人 達 の 注 目を 集 め る に十 分 で あ った 。 しか し,ア ジー)'の 各地 で この

2

0

年 来行 わ れ た デ モ ン ス トレー シ ョン農場 が ,確 実 にそ の 業績 を い まに と どめ ,周 縁地 区- の波 及 効 果 が 著 しか った 例 はい くつ あ るだ ろ うか 。 ほ と ん ど特 例 的 に しか その 名残 を と どめて い る も の はな いり この よ うな デ モ ンス トレー シ ョン 367

(5)

東 南 ア ジ ア研 究 17巻 2弓・ 農 場 は ,上 地 生産 力 の可 能 性 を 展示 し,また その可 能 性 を現 実 に 引 き出す の に どの よ うな 資 材 と労 力 を投 入 しな くて ほ な ら ぬ か を 教 え , また どの よ うな栽 培 管 理 を必 要 とす るか を示 した 。 その 限 りに お いて は この方 式 は無 意 味 とは言 え な い 。 しか し,

7

トン穫 れ た とい うで きあが った 結果 と,それ に必 要 な投 入 資材 や 労 力 の 展示 だ けで は,現 実 の

2

トンか

2.

5

トンの水 準 を, どの よ うな プ ロセ スを経過 して デ モ ンス トレ ー シ ョン農場 の よ うな7トン以上 の レベル ま で 引 きあ げて ゆ くの か ,そ の 手順 を 示 す こ と に はな らな い。 この 手順 とプ ロセ ス こそが農 業 開発 の キ ー ポ イ ン トで あ る。 具体 的な 手順 を 踏 ん で成 果 を 積 み あげて ゆ くこ と , これ が す な わ ち段 階発 展 で あ り, この ゆ え に こそ技 術 水 準 の 向上 と発 展 に は 「時 間 が か か る. こ とにな る。 い まか ら

1

0

年 余 り前 ,当時 の 東 パ キス タ ン の水 田農 村 で , 日本 の 優 れ た あ る稲 作専 門家 が 実 際 に行 な った技 術 展 開の

法 が あ る。 そ こで は米 の 収 量 を あげて ゆ くの に , まず 最 初 は , 田面 を 均 平 にす る技 術 か ら始 めた 。何 年 か の苦 労 が み の って 均 平 化 が で き ,それ によ って さ さや か な が ら収量 の増 加 が得 られ る こ とを農 民 が 自 ら確 認 で き る よ う に な っ た と き , 適 正 な 苗 を 育 て る技 術 の 習 得 が 始 ま っ た 。 それ に あ る程 度 習 熟 す る と今 度 は肥 料 を 入 れ るよ うにな り,さ らにその量 を 増 や して い った。 施 肥量 の 増 加 が あ る レベ ル にな っ て ,作 付 す る品種 を 変 え る必 要 が 生 じた 。 同 時 に水 管 理 の方 法 も変 え る こ とにな った。 こ れ は 日本 か ら赴 いた 専 門家 の技 術 普及 の テ ク ニ ー クで あ る と同時 に ,技 術 水 準 の 向上 の た め に農 民 白身 が踏 ん だ ス テ ップで もあ った。 この卑 近 な例 で示 され るよ うに ,少 しず つ 368 資 金 と労力 投 下 の量 を 増 や し,また新 しい技 術 の 導入 を試 みて ゆ く。 その過 程 で ,農 民 自 身 が利益 の 増 大 を 自 らの 眼 で確 か め ,その 技 術 効 果 を 実 感 し,確 認 しな が ら次 の 手順 を 追 って ゆ く。 これ は個 々の農 民 の技 術水 準 の 向 上 の 例 で あ るが ,同 じよ うな ス テ ップを とる こ とが ,地 区 につ いて も,地 域 全 体 と して も 必 要 で あ る。 以 上 の よ うな手 順 を 追 う こ とは ,時 間 が か か る に は違 いな いが ,農 民 自身 を は じめ 関 係 者 が 自 ら納得 し,そ の技術 的効 果 とそ れ に よ って もた らされ た経 済 的な 利 益 を確 か めな が ら技 術 水 準 を あげて ゆ き うる点 で ,他 に代 え 難 い利 点 を もつ もの と考 え る。 技 術 の体 系化

(packaged technology) と か , 総 合 的技 術 (integrated technology) と い う 言 葉 が 使わ れ る。 これ は ,さ ま ざ まな 要 素 とな る技 術 が 適 切 にそれ ぞれ 所 を 得て 組 み合 わせ られ る状 態 を 指 して い るよ うで あ る。 しか し,現 実 に は ,時 間 的 フ ァクタ ーを 要 因 に と り入 れて , 基 本 とな る比 較 的単純 な技 術 要 因 か ら,次 第 に他 の 要 因を と り込 ん で ゆ くとい う段 階発 展 を 経 た総 合 で な くて はな らな い と考 え る。言 い換 え る と, 「時 間を か けた組 合 技 術. で な い と,発 展途 上 国の農 業 開発 に直 接 役立 つ 技 術 とはな り難 い と言 いた い。 この 点 か らみ る と ,現 在 国際 金 融 機 関 や 先 進 国が途 上 国 に融 資 して 実施 して い る農 業 開発 プ ロ ジ ェ ク ト は ,上 述 の こ とにつ いて の配 慮 が きわ めて 不 十 分 と言 わ な くて はな らな い 。 また ,試 験 研 究者 の行 な って い る技 術 の 開 発 改 良 が , いわ ゆ る "high input-high out -put"に偏 しが ちな 先進 的 な 研 究 志 向の た め

に ,結果 にお いて ,段 階発 展を 妨 げて いな い か を お それ る。

(6)

「:111部 :熱 帯 農 業開 発 に お け る技 術 的掛値1

経 済 計 算 の 有無 もう一 度 わ が 国の こ とに戻 って , こん どは 戦後 の農 業 技 術 , と くにその 中心 で あ った稲 作 技 術 とそれ を成 り立 たせ た 背 景 を みて み よ う 。 戦 前 ,戦 中 に くらべ る と,戦 後30年 間の収 量 の 伸 び は ま こ とに著 しい 。戦 後 間 もな くの ha当た り粗 で4.5トンの レベ ル か ら,現 在 は 既 に

6

トン ・レベル の収 量で あ るか ら,年 当 た り籾 で

5

0kg

の 増 加 で あ る。 これ は ,さ き に 記 した

1

50

年 か か って 漸 く

2

トン増 収 した 時 代 に くらべ る と,約

4

倍 もの 量で あ る。 この よ うな 増収 を もた ら した 要因 は何 で あ ろ うか 。第 1は ,政 府 の 高 米 価 政策 とい うバ ックボ ー ンで あ る。 しか も全量 政 府買 い入 れ とい う こ とで ,長 い間豊 作貧 乏 が 全 く考 え ら れ な い環 境 に あ った。 この こ とは ,熱帯 途 r二 国の現 実 に くらべ る と, はな はだ 異常 な状 況 と言 わ な くて はな らな い 。 ヒ地 制度 につ いて も同様 で , 臼 らの農 地 を て 有 利 な環 境 の な か に い る こ とは 言 うまで も な い。 試験 研 究 の 成果 は ,高収 量 の 新 品種 を つ ぎつ ぎ と提 供 し, また施 肥 ,病 害 虫 防除 か ら機 械 の 利 用 につ いて の 研 究成 果 に よ って 新 しい技 術 の積極 的 な採 用 が 可能 とな った。 無視 で きな いの は ,農 業 協 同組 合 の 組織 力 の 強 さで あ り,そ の活 発 な 活動 で あ る。 また 末 端 まで深 く湊 透 して い る濃 密 な 普及 事業 の

献 も特 筆 しな くて はな らな い。 途 上二国の 現 状 に くらべ た とき , 日本 に お いて み られ た こ の よ うな末 端 レベル で の官 民 の 組 織 的 な 活動 が ,技 術 効 果 の 高揚 に果 た した役 割 は測 り知 れ な い もの が あ る。 加 えて , 日本 で は ,農 業 機 資材 や基 盤 整備 事業 に対 す る政 府 の 直接 ,間接 の助 成 政 策 が あ り, これ が 強 力 な 行 政 力 によ って 裏 打 ち され て 農 業 開発 が 進 め られて きた (岡部 ,

1

9

7

5

)

。 以 Lが ,戦 後 の 日本 の稲 作 状 況 の 中で育 っ て きた い まの農 業 技 術 者 ,研 究 者 の 置 か れ た 環 境 で あ る。 こ う して ,高 米 価 と周 到 な イ ン フ ラス トラ クチ ャー に支 え られ た 米作 技 術 の 改良 に携 わ って い る と ,技 術 の 改 良 開 発 を受 け持 つ 試 験 研 究 者 は もち ろん の こ と,現 場 で 農 民 と接す る技 術 者 で さえ も,技 術 の 経 済 計 算 を忘 れて しま う。忘 れ る とい うよ り,は じ めか ら計 算す る こ との 重 要性 を知 らな いか , 知 って いて も軽 視す る癖 がつ いて しま う。 熱帯 の途 L国 で い ま現 にす す め られて い る わ が 国の技 術 者 に よ る開発 計画 につ いて , と もす れ ば 経 済 的 評 価 を 伴 わ な い技 術 が採 用 さ れ るの は ,上 述 の よ うな環 境 の 中で 育 って き た戦 後 の わ が 国の農 業 研 究 者 ,技 術 者 の とる 無意 識 の 行 動 と言 え るか も しれ な い 。 途 上 国の経 済 的 ,社 会 的 ,制度 的環 境 条 件 の Fで は , これ か ら も長期 間 にわ た って ,技 術 効 果 を 最 大限 に 発揮 させ るよ うな イ ン フ ラ ス トラクチ ャーの ト分 な 整備 改善 は期 待 で き な いで あ ろ う。 した が って ,開発 の た め に役 立て よ う とす るわ れ わ れ の 科 学技 術 も,わ が 国の既 存技 術 の単 な る移転 や修 正 で な く,逮 上 国の条 件 の もとで の経 済 的 評価 に耐 え られ る もの を 新 し く開発 して ゆ く努 力 が必 要 で あ る

。山凹 (

1

9

7

8)

は ,熱 帯 に お け る技 術 協力 の あ り

に関連 して , 「技 術 移 転 か , 技 術 開 発 か .の 問 題 を提起 し,温 帯 の技 術 の 熱帯 -の 移 転で な く,新 技 術 開発 -の 重 要性 を 強 調 し た 。 こ とに ,わ が 国の研 究者 や技 術 者 は ,節

1

にす す ん だ農 業 科 学 の蓄 積 を も って い る こ と ,第2に ,問題解 決 へ の ア プ ローチ ,す な わ ち科学 的方 法 論 につ いて 豊 か な経 験 を も っ て い る こ とを あ げて ,技 術 開 発 に 日本 の 科学 369

(7)

東 南 ア シア研究 17巻 2r/3・ 技 術者 が十分 ポテ ンシ ャルを もって い る こ と を 指摘 した。 熱帯農 業 につ いて のわ れわれ の 経験 は浅 い。 しか し,山田の強 調 して い るよ うに ,「新 技術 の 開発 .とい う基本 姿勢を も っ て 対応 す る ことが ,熱帯 農 業 に参画す るわれ われ の道 で あ る。

体 系 化 技 術 わ が 国の 地 域農業 開発 の た め の 技 術 改善 や ,それ 古を必 要 な試 験研 究の経過 を振 り返 る と,戦 前 にお いて は,体 系技 術 の組 み立 て を 正 面 か ら指 向 した試 験研 究 は ,特別 な ケ ース を 除 いて 少 なか った よ うで あ る。 一 部 に病 害 虫 の総 合 防除技術体 系 の研究 とか ,経営試験 研 究 が あ った。 た とえば後者 の場 合 は,経 営 試 験農 場 を設 けて ,そ こで は ,経営 的な 評価 を含 めて 総 合 的な実用技 術組 み立 て を試 みて い る。 しか し, これ は どち らか とい うと,既 存技術 の応用 が主体 で ,い くつ かの既 存 技術 の組 み合わせ 方を変 えて , どれ が経 営 的 にみ て 利益 が大 きいか ,経 営 が Lやす いか ,また 営農 上 の 問題 は何か を 明 らか に しよ うとす る もの で あ った 。わ が 国の場 合 は,当初 の研 究 段 階か ら積極 的 に体 系技 術の組 み立 て を志 向 しな くと も,試 験場 や大 学 ,研 究所 の個 々の 試 験研究 か ら得 られ た成 果 を受 け取 って , こ れ らを体 系 と して 組 み立 て ,末 端 で利用 で き るよ うな形 に総 合化 す る力 が高 か った と考え る。 それ は農 民 自身 の力 であ り,また農 業 協 同組合 の技術 指導力 も含 めて ,現場 の農 業 改 良普及 組織 の力 で もあ った。 これ によ って , さ まざ まな水 準の個 々の技術 も,末 端 で は試 行 錯誤を経 な が ら, そ れ ぞ れ の地 域 にお い て ,条件 に合 うよ うに体 系化 された技術 と し て 比較 的短 い期 間の うちに組 み立 て られ ,開 発 に役立 ったO これ に対 して 熱帯 の途 上 国で は どうで あ ろ うか 。末 端 での力 は一般 に きわ めて弱 い。 ま た 国や地 方 の公共機 関 も,個 々の技 術を体 系 化 して 指導す るほ どの行 政能力 を持 ち合 わせ て いな いO この状態 は ,おそ ら くまだ長期 間 370 続 くで あろ う。 こ う した状況か らみて ,途 上 国の農業 開発 で は ,当初 か ら意 図的 に体 系化 を 目論 んだ技 術 開発 の ア プ ローチが必 要 で なか ろ うか 。そ して ,この 際 は ,さきに述べ た よ うに ,体系 内の個 々の技 術 の役割 や ,それ らの技術 によ って達 成 しよ う とす るそれ ぞれ の 目標水 準 に つ いて整 合性を保 って い る ことが大事 な こ と は もちろん ,それ と同時 に ,各 発展段 階 との 集 合惟 につ いて の 配慮 が と くに重 要で あ る。 これ によ って ,技 術体 系 にそれ ぞれの地 域 や 農 民 の経済 的 ,社 会的条件 や 自然環境 を反 映 させ る こ とがで きる。 ところで ,戦後 わが 国で は,全 国的 に ,政 府 主導型 の地 域 開発計 画 がすす め られ ,地域 ごとに具体 的な実行 案 がたて られ 実施 に移 さ れ た。 そ こで ,計 画 に含 まれ る多 くの技 術要 素 につ いて ,それ によ って達 成 しよ う とす る 目標 に関 して ち ぐは ぐがな いよ う細か い配慮●● ●● が加え られた 。 しか し,多 くの計 画で は ,段 階 的発 展 とい う方 式を と らず ,また その 計画 地 域 に含 ま れ る 環 境条 件 の 多様 性 に 拘泥 せ ず ,全 体 と して 画一 的 な実施 計 画を たて ,一 挙 に高 い レベルの最終 目標 に到達 しよ うとい う開発方 式 が と られた 。わ が 国の場 合 は,政 府 の行 政力 と農民 の経 済 的な負担 能力 ,実行 能 力 の高 さに支 え られ ,また と くに農 業 生産 外 か らの資金 の導 入 に助 け られ た た め ,上述 の よ うな 開発方式 が成 り立 った。 しか し, こ の 方式 を その まま途上 国に持 ち込 もう と して ら,さ きに述 べ たデ モ ンス トレー シ ョン農 場 の例 と同様 に ,普及 はお ろか ,定 着 させ る こ と も難 しい と思 われ る。

(8)

聞 葦 :熱帯 農業 開発 にお け る技術 的側 面 Ⅴ 生物 災 害, 自然 災害 の リスク対応 の技術 山田 (1978)揺 ,熱帯 の住民農業 の もつ 頚 要な特徴 と して ,早魅 や洪水 な ど自然災害 を 頻 繁 に受 ける ことを あげ ,それを 軽減す るた めの対策 の重要性を指摘 して いるoその一 例 と して ,タイの早魅 や洪水 によ る被 害例を示 して い るが ,それ によ る と,1907年か ら1965 年 にいた る58年 間に ,作付面 積の10%以上 で 収穫皆 無の年 が

2

4

ll11,つ ま り

2-

3

年 に

1

度 の 割合で災害 が お こ って い る。15rJo以 r二の年 は 9恒1,年 によ って は30-40%に通 した年 もあ る という 。 この よ うな 自然災害 に対す る安 定度の 大小 とかん が い施 設 との 関係を 国間で比較 して , 高瀬 (1975b)は,図 3に示す よ うな結果 を報 告 した。 す なわ ち,農 業水 利 普及 率 が20%以 下の 国 (カ ンボ ジア ,ビル マ ,ベ トナム , ラ オス) と,40%以 上の 国 (台湾,フ ィ リピン, イ ン ドネシア ,ス リラ ンカ) に分 けた とき, 前者 で は毎年 の収量変 動 が著 し く大 きいの に 対 して ,後者 で はそれ が小 さいく)変 動 の主要 因 は気 象変 動 と推 定 され るが ,これ が農業水 利の普 及 によ って和 らげ られ る と結論 した 。 近 年 イ ン ドネ シアで は,優良 品種 ,肥料 , 農 薬 ,それ に営農 資金 ク レジ ッ トを パ ッケー ジと し,これ に技術指導 も合わせ て (これ を 「ーBIMAS計 画 」とい って いる)多収化技 術の 定着 普及 を図 って きた 。 これ によ って

I

R

型 短程 品種 の作付面 積の増大 が著 しか ったが , 1969年 ツ ング ロウ イル スが外 領地域 に多発 , 1974年 以 降 は ジ ャワ本 島にお いて , トビイ ロ ウ ンカが激発 した 。)これ に対 して イ ン ドネ シ ア政府 は耐虫性 品

種 I

R2

6

号を 増殖 普及 し, 解決を 囲 った ,J しか るに この 品種 が ひろが る につ れて , トビイ ロウ ンカに新 しい タイプが 生 じ, このた め

I

R2

6

号 も激 しい被 害を受 け るよ うにな った 。 これ に対処 す るた め さ らに

I

R3

2

,3

6

号な どが 代替普及 に 移 されて い る が , こ れ も侵 さ れ る懸念 が あ る とい うこ と で , このた め新 品種への信頼 を大 き く損 な う 結果 を招 いて い る とい う (橘高,1979)。この た め , 耐虫性新 品種へ の不信 感が強 くな っ て , もとの在 来種- の後 戻 りの現 象が各地 に み られ始 めて い る と報告 されて い る。 以 上は ご く卑近 な例 で あ るが ,熱帯途上 国 で は,この よ うな 自然災 害 ,生物災害 の例を あげる とほ とん ど枚挙 にい とまが ない ほ どで -′ \ _ー _ブイ 960 7961 ]962 I963 1

9

6

4 79 6 5 f966

1

967 1968 19 69 1970 19711912 図3 米収量安定度とかんがい施設の関係 (高瀬,1975b) 371

(9)

東 南 ア ジア研究 17巻 2号 あ る。 しか も ,先 進 国の よ うな いわ ゆ る農 業 共済 の 制 度 的補 償 もな く,政 府 や 関 係 団体 の 強力 な救 済 も期 待 で きな い 。つ ま る と ころ,身 を護 るの は 自分 の力 だ け とい うこ とにな る。 この よ うな状 況 下 で農 業 を 営む農 民 は ,当 然 の こ とな が ら,投 資 した ときの リス クを 強 く警 戒 す る。逆 に言 う と, リス クの 大 きい こ とに対 して は強 い警 戒 心 が働 いて ,投 資を し な いか , して も極 力 控 え 目に して お く。 この よ うな警 戒心 を もっ こ とは ,新 しい技 術 の採 用 につ いて も全 く同様 で あ る。 国際 稲研 究 所 (IRRI)の研 究 プ ログ ラムの 進 展 を み る と,IR5,IR8な どの 育成 の 当初 は ,多 収 性 の 育 種 目標 の達 成 に ほ とん ど全 力 を傾 けて いた よ うで あ る。 しか し,最 近 は,耐 病 性,耐 虫 性,耐 暑 性 ,耐 冷性,耐 塩 性 な ど, 品種 の もつ 潜 在 能 力 の発 現 を 妨 げ る さ まざ ま な減 収 要 因 を軽 減 す る た め の 試 験 研 究 に 大 きな勢 力 を 投 入 して い る (IRRI,1978)。 こ の よ う な 傾 向 は ,IRRIに限 らず ,CIAT, CIMMYT,ICRISAT な ど国際 研 究機 関 は も とよ り,途 上 国 の試 験 研 究機 関 に お いて もみ られ る。 た だ 問 題 は , 自然 災 害 とい い生 物災 害 とい って も,そ の発 生機 構 は一 般 に きわ めて複 雑 ∞ oo 00 oo 8 6 4 2 ト ビ イ ロ ウ ン カ 幼 虫 数 372 多様 で あ り,それ に対 す る防御 の技 術 を 組 み 立て る こ とは容 易 で な い こ とで あ る。 この こ とを は じめか ら覚 悟 して か か る必 要 が あ る。 た とえば , イ ネ品種 の い もち病 抵抗 性 ひ とつ を と りあ げて も,わ が 国で 何十 年 とい う長 い 研 究 の積 み重 ね と多 数 の研 究 者 の努 力 の傾 注 が あ った に もか か わ らず ,い まな お有 効 的確 な安 定 した い もち病 抵 抗性 品種 の育 成 方 法 が 判 って いな い とい うの が現 実 で あ る。 また別 な 例 と して , イ ネに ウ イル ス病 を 媒 介 す る昆 虫 の ひ とつ で あ る トビイ ロウ ンカ と防 除 薬剤 の 関係を あ げよ う。 この 害 虫 は い ま東 南 ア ジ アの いた る と ころで イ ネに直 接食 害 を 与 え た り, ウ イル ス病 を媒 介 伝 染 して 大 きな被 害 を 与 えて い る重 要 害 虫 で あ る。 これ を 防 ぐた め に薬 剤 を 散布 す る と ,一 時 的 に は効 果 が あ る が ,そ の後 か え って被 害 が 増 大す る とい う現 象 が しば しば み られ る。 その 理 由 と して ,秦 剤 が トビ イ ロウ ンカ と と もに天敵 を も殺 して しま うか ら とい う こ とで説 明 され る ケ ー スが 多 い。 と ころが 近 年 ,問題 はそれ ほ ど単純 で はな いの で はな いか とい う こ とを示 す 現 象 が 見 出 され た 。す な わ ち ,あ る濃 度 で農 薬 を 散 布 す る と , トビイ ロウ ンカの産 卵 数 が無 散布 の ときよ り倍 以 上 に多 くな る こ とが あ る とい 綬 虫 剤 散布は移植後の20日後,30日後および40日後の3回。 最終散布の15日後に雌成虫5匹/株放飼, 7日間産卵。殺虫剤の散布量は毎回,有効成分量750g/ha(ただ し,NRDC161は100gノha)0 図4 殺虫剤散布後のイネ上での トビイロウンカの増殖 (IRRI,1978)

(10)

岡部 :熱帯農業 開発 にお け る技術 的側而 う実験 結果 で あ る (

図4)

。 つ ま り農 薬 散布 によ って 害虫 の増殖 率 が大 き くな る こ とが あ るわ けで ,薬剤 によ る害虫 防除 の効果 につ い て 基本 的な 問題 がでて きた こ とにな る。 この よ うな難 問を解 決 し,各種 の病 虫 害 防 止の技 術 的手段 を 組 み立て るに は ,試 験研 究 の面 で ,まだ まだ 多 くの基 礎 デ ー タを 積 み重 ねて ゆか な くて はな らな い。 同様 の こ とが , 干魅 ,冠水 ,低温 ,高温 な どに よ る被 害 の 防 山 こつ いて も当て はまる。 自然災 害 ,生物災 害 の軽 減 を 目標 に基礎 デ ー タを着 実 に集 積 し て ゆ くこ と, これ は研 究者 ,技 術 者が担 う今 後 の 最 重要任 務 で あ る。

VI

「畑 作 物 」 の 研究 ・「畑 作 」 の研究 熱帯 の畑 作農 業 の 開発 に と って ,畑 作物 F'1 体 の研 究 が必 要 な こ とは言 うまで もな い。 品 種 改良 によ る収量 性 の 向上 ,品質 改 善 ,病 虫 害 抵 抗性 の強化 は もとよ り,水分 要求 特 性 そ の他 作 物 の生 理 生 態 的性質 や種 子 の休 眠性 の 問題 な ど, 熱帯 の どの畑 作物 を と り あ げ て ち,畑 作物 白身 に関 して まだ 判 って いな い こ とが 山積 して い る。 しか し,その 重 要性 に も増 して 緊 要な こ と は ,畑 作農 法 とい うか ,広 い意味 での作 付体 系 に関す る研 究 で あ る。これ に は,作 物 の単, 間 ,混 作 や作 付順 序 の 問題 ,耕 うん方 法 ,水 管 理 ,雑草 防除 ,緑 肥作 物 や庇 蔭作物 の導入 利用 の 問題を は じめ ,土 壌管 理 や施 肥 ,病 害 虫対策 な どが含 まれて ,それ らが互 いに関連 し合 って い る。さ らに は生産 した もの の利 用, 調製貯蔵 か ら,輸送 を含 む市場 の 問題 まで も 強 くか か わ って くるケ ースが 多 い。 む しろ , この よ うな総 合研 究 が先行 的 にす す め られて こそ ,個 々の畑 作 物 自体 につ いて 何を研 究 の 重点対 象 に した らよ いか が 明 らか にな り,ま た研 究 の 成 果 も活 か さ れ て くる と言 って よ い。 その一 例 は ,イ ン ドネ シア , スマ トラ南 部 の ラ ンボ ン州 にお ける トウモ ロ コシの大面 積 栽培 にみ られ る。 同地 は ジ ャワ島か らの移住 民 によ る入 植地 で , 自給 自足 的な畑 作農 業地 と して 開拓 され た 。農 民 は政府 の移民 計 画 に よ って

2ha

の分 譲地 を 受 け畑 作 物 を 栽 培 し て い るが ,彼 らに とって まず 重 要 な こ とは , 年 間の食 糧を どの よ うに して 安 定 して確 保 す るか で あ る。 そ こで , 自力 で 耕起 で きる 約

0.

5-0.

7ha

に陸稲 , トウモ ロ コ シ,キ ャ ッサ バを 間混 作 で数 年栽 培 し,その後 放棄 して 他 の休耕地 に移 るOこ う して 約

0.

7ha

ず つ

3

年 栽 培 し,約

1

0

年 目に最 初 の耕 作地 に戻 る方 式 を と って い る (広 瀬

,1

97

8)

0 ところで,同地 域 に は,移住農 家 とと もに, 多 くの 企業農 園が あ るが ,なか に は

1

,

000ha

以 上の 大面 積 に トウモ ロ コシを単 一 栽 培 す る 農 園 が でて きた 。 ところが

,1

973

年 ,

1

企業 農 園 に トウモ ロ コシベ と病 が突 然 大発 生 し, その後 非常 な勢 いで全州 に蔓延 して ,つ い に は ランボ ン州 の トウモ ロ コシ生 産 に致 命 的 な 打 撃を 与え るに いた った。 この よ うな激 しい 被 害 の発 生 は ,移住農 民 が個 別 に小 さな面 積 ず つ 他 の作物 と間混 作 の方 式 で トウモ ロ コシ を栽 培 して いた ときに はみ られ な い こ とだ っ た とい う。 しか るにい まは , この地 域 で は, 収 益性 を安 定 して 得 な が ら トウモ ロ コシを 大 面 積 に作 付 け る こ とな どほ とん ど不 可能 と言 って よ い状 況 に あ る とい う。 しか し, こ こで仮 に ,べ と病 発 生 に対す る 対策 が ,た とえ ば 抵抗性 品種 が育成 され た と か ,あ るい は薬剤 防除 の方 法 が見 出 され た と か で見通 しがたて られ た とす る。この ときは, トウモ ロ コシの単一 大面 積栽 培 に は もう大 き な 問題 はな いで あ ろ うか 。 トウモ ロ コシに対 373

(11)

東南 アジア研究 17巻 2号 す る市 場 の要求 や ,栽 培管理 の単純 化 を 図 る 上か らは , この よ うな単一 作 付形態 が望 ま し いで あろ う。 しか しな が らこの作物 は , ソル ガ ムな どと と もに ,栽 培畑地 の土 壌 侵蝕 を 伴 いやす い 作物 の ひ とつ と いわれ る (広瀬 ,

1

97

8)。

この よ うな観 点 か らす る と, た とえ 病 害 の 問題 が片付 いた と して も, トウモ ロ コ シの単一 大面横 栽 培 に と りか か る前 に ,多 く の未 解 決 の 問題を 総 合 的 に捉 えて ,対 応 策 を たてて お く必 要 が あ る こ とにな る。 こ とに熱帯 諸 国の畑 作地帯 で は ,い くつ か の種類 の作 物を 間混 作方 式 で栽培 す る こ とに よ って , 自家用食 糧 を年 間継 続 して確 保 で き るよ うに して い る ところが多 い。単 一 作物 を 栽培 した とき ,この食糧 自給 自足 の農 村 生活 の様 式 が脅 か され な いか どうか ,あ るい はそ の様 式 が崩 れた とき どの よ うな対処 策 を とる か の判 断 は ,畑 作地 帯 での重要 な作物選択 の 要 因 で あ る。 熱帯 地 域 にお いて 畑 作物 の単 作輪 換 方式 を とる場 合 ,広 瀬

(

1

9

7

8)

は次 の よ うな ア プ ロ ーチを とる こ とを提 唱 した。 そ こで は ,上述 の さ まざ まな 問題 を整理 して ,それ らに ひ と つ の順序 付 けを行 な って い る。す なわ ち , (1) まず 作物 の組 み合 わせ を決 め る。 そ の選 択 の基 準 は, a) その地 域 に以前か ら適 応 して い る作 物 を主 体 とす る。 b) さ らに ,その地 域 住民 の食 糧 と して の 要求 と経 済 的要 求を顧 慮 す る。 食 糧作 物 と し て は ,まず 短期 作 物 が と りあげ られ よ う。 陸 棉 , トウモ ロ コシその 他 の雑穀 ,い も類 が最 初 に対 象 とな る。 C) これ に カバ ー ク ロ ップ と して の緑 肥作 物 や敷革 マル チ ングを 組 み合 わせ て ,土 壌保 全 と改良 に配 慮す る必 要 が ある。 この 目的 に 添 うマ メ科 ,禾本 科 の植 物 の選 択 が重 要 な ス テ ップで あ る。 d) 加 えて ,窒 素 固定量 の 高 い熱帯 マ メ科 作物 を組 み合 わせ る。 e) さ らに ,で きるだ け被 覆 度 の大 きい永 年 性 作物 を輪 作 に序 々に加えて ゆ くの が望 ま しい。 (2) 以 上 の組 み合 わせ が決 ま った ところ で ,それ ぞれ の作 物 につ いて ,作 型 ,品種 の 選 択 を行 う。 (3) その作型 ,品種 に適 した施 肥 ,雑 草 防除 ,病 虫害 防除 な ど栽 培 法 を ,経 済性 を配 慮 しなが ら確 定 して ゆ く。 以 上の選 択 は ,現在 の熱帯 畑 作 の技 術水 準 で は容易 でな い。 仮 に技術 的 に は望 ま しい こ とが 判 って いて も経 済 性 が 伴わ な い こ とが多 い。 した が って ,熱帯 の短期 畑 作物 の安 定 と 発 展 に は,個 々の畑 作物 の研 究 と と もに ,香 む しろそれ に先行 して で も,畑 作農 法 な い し 広 義 の作 付体 系の研 究 が重要 で あ る こ とを 強 調 した

い。

VI

I

伝統 的農 業 技術 の活 用 伝統 的農業 技 術 といい ,天水農 業 の技術 と いい ,近 代 的で な い。 また生産 効率 の面 か ら みて 低 いのが一 般 で あ る。 しか し永 年 にわ た る経 験 によ って農 民 がつ くりあげた技 術 は, 熱帯 の それ ぞれ の地 域 の条 件 によ く適 応 して い る もの が多 い。 た とえ ば ,半 乾燥地 の農 法 と して よ く例 に 374 だ され るの で あるが ,そ こで は ,土 壌保 全 と 水分 の効率 的な維 持 利 用を 目的 と して ,等 高 線 に沿 って の うね立 て ,モ ンス ー ン後 の表土 浅耕 ,有 機 物 マル チ ,薄播 き ,中耕 ,間混作 方式 の採用 ,意 図 的 な休 耕 をす るな ど,一連 の農 法 が み られ る。 この古 くか ら農 民 が実行 して きた農 法 に は ,明 らか に理 にか な った技

(12)

苛部 :熱帯農業 開発 にお け る技術 的倒面 術が含 まれ る。 北 部 タイで は ,水 稲 作 の あ とに ダ イズを栽 培 す る際 ,

地 を 排起 せ ず に , イネの刈 り株 を その ままに して ,刈 り取 ったわ らを 田面に 敷 き, ダ イズ の種 子は刈 り株 内 に播 く。 これ によ って ,ダ イズ は適 度 な水 分 を刈り株 の 中 か ら得 て発 芽 す る こ とが で き る。稲 わ らを 敷 革 とす る こ とは ,早 天 によ る土壌 水 分 の損 失 を軽減 す る効果 を もち ,ダ イズの生 育 に必 要 な水 分 が確 保 され る。 また雑 草抑 制 に も役立 つ とい う (山 田,1976)っ 天水 農 業 の代 表 的な例 は ,タ イや バ ング ラ デ ッシュな どの広 大な地 域 に ひ ろが る浮 稲 の 栽 培 で あ る。 その 面積 は ,中 国大 陸を 除 く東 南 ア ジアの 稲 作

積 の10% に及 ぶ と言 わ れて い るが ,そ こで は浮 稲 とい う特殊 な稲 が栽 培 され る。雨期 に水 嵩 が増 す と,水深 が 1mか ら2m,ときに はそれ 以 上 の深 さにな る。普 通 の稲 は水 没 して 枯 死 して しま う ところだが , 浮 稲 は水 深 が増 す につ れて 茎 が伸 び ,上 部 の 盛 は常 に水 面よ り 上にでて 生 育す る とい う特 徴 を もつ 。生 長 に必 要 な栄 養 分 を 根 に よ って 土 壌 か ら吸収 す るばか りで な く,水 中 に浮 か ぶ茎 の節 か ら根 を 伸ば して ,水 中か ら も吸収 摂取 す る。 水 深 が 1m,2m にお よぷ 条 件 が 改 め られ な い限 り, この種 の特徴 を もつ 水 稲 品種 の必 要性 は続 く。 この よ うにみて くる と,伝 統農 業 ,天水 農 業 に使 わ れて い る技 術 や材 料 な どに は , 自然 条 件 に適 った合 理 件 の あ る こ とが 判 る。 しか し,いか に合理 性 が あ るに して も,そ の ま ま で は土地 生産 性 が 低 く,生 産 効 率 も小 さい こ とが多 いの で ,改 良技術 に直接 に は入 れ られ な い。 その近 代 化 は必 須 の 要 件 で あ り,今 後 試 験研 究 によ って 解 決 を 図 らね ば な らぬ技 術 的 課 題が 山積 して い る。 た だ こ こで 重 要 な の は ,天水 農 業 や 伝統農 業方 式 の 改 善 に取 り組 む技 術 者 ,研 究者 の視 点 の 問題 で あ る。 わ れ わ れ は ,た とえ ば モ ン ス - ン気 候 その もの を変 えて 望 む方 向 に振 向 け るわ けに はゆか な い。 しか し,モ ンスー ン と と もに生 き る (livewith)こ とはで きるO 天水 農 業 の技 術 改善 に は ,いか に 自然 と生 物 を 上手 に利 用 し,活 用 して ゆ くか が成 否 を 大 き く左 右 す る。 その ひ とつ の例 と して , タ イの浮 稲 品種 利 用 の 品種 改良 が あ げ られ よ う。 タイの農 業 局 はIRRIの 協 力を得 て , 浮 稲 品種 Leb Mue Nahngに短 梓 種 の IR95を 交 配 した 交雑 種 か ら系 統 T442-57を得 た 。 この新 しい系 統 は , 水 が深 くな い と き は短程 の 品種 で あ る が ,水 深 の深 い ところで は浮 稲性 を 発 揮 して =茎が伸 びて 水 没を 免れ ,収量 も普通 の浮 稲 よ り多 い とい う (IRRI,1975;山 田,1976)。 また 熱帯 の 畑 作 地 に は キ ャ ッサ バ とい う塊 根 作物 が栽 培 され て い る。ア フ リカ,中南 米, ア ジアの熱帯 地 域 にあ る国 々の

3

億 以 上 の 人 達 の主 食 とな って い る重 要作 物 で あ り,他 の 作物 の満 足 に育 た な い よ うな不 良土 壌 で も生 育 で きる。 と くに強酸 性 の りん酸欠 乏 で 作物 の生 育に対 して アル ミニ ウムの毒性 を もつ よ うな土 壌 は ,多量 の石灰 と りん 酸 を施 さな い と他 の 作 物 はよ い 生 育 を しな い。 しか し, キ ャ ッサ バ は ,その よ うな 土壌 条 件 の 下 で も, 長 い生 育期 閥の過 程 で土 壌 中の りん 酸分 を 吸 収 利用 で きる特 性 を もち , と くに石灰 と りん 酸を少 量 で も施 用 す る こ とによ って か な り高 い収量 を あげ ,経 済 的 に も引 き合 い うる 可能 性 を もつ こ とが期 待 され るo LLl田 (1978)の 試 算 に よ る と,塊 根生 垂収 量 を50トン/ha.年 と して ,剥 皮 歩 留 り85% ,乾 物率35%と して 肉質 部 の乾 物 重 を求 め る と,15トン/ha/′年 と な る。 これ を米 と くらべ る と,国際稲研 究 所 で IR8その他 の短期 高収 性 品種 を用 いて 年 間4作 ,連 続 して栽 培 した 実績 が ,最 高25.7 トン (級)′ha′年 で , これ は米 乾物 重 に して 的15トンで あ る。 さ きに示 した キ ャ ッサ バの 塊根 肉質 部 乾物 の生 産 は この 高収 性 品種 によ 375

(13)

東南 ア ジア研究 17巻2号 る米 の生産 に匹 敵す る もの で あ る。熱帯 の畑 作 の振 興 に と って , この キ ャ ッサバ の利 用 活 用 は今後 ます ます 重要 性 を 加 え る もの と考 え られ ,品種 改良を基 幹 とす る研 究の進 展 は今 後 の重 要 な技術 上 の課 題 で あ る。

ⅤⅠ

将 来 の農 業発 展 に備 えて (1) 基 礎 的デ ー タの集 積 農 業技 術 の発 展過 程 を み る と,何 らか の画 期 的な発 明や発 見 が技 術 改善 に大 きな転 機 を もた ら した ケー スが あ る。 た とえ ば ,周知 の 雑 種 強勢利 用 の

1

代雑 種 の育成 ,短 程 種 によ る多収性 の イネ , コムギ品種 の育成 ,除草 剤 の発 明 ,田植機械 の 開発 な ど,これ らは農 業 発 展 の歴 史 に とって 見事 に開花 ,結 実 した 科 学 と技術 の成 果 で あ る。 しか し, この よ うな画期 的 と言 われ る成 功 の ケ ースを 含 めて ,農 業 技術 の発 展 は ,必ず しも, 「き らびやか . な研 究 の業 績 によ って 一 挙 に実現 で きた わ けで はな い。長 い間の基 礎 的な知 識 と経 験 の積 み あげ によ って 下地 が で き ,それ に支 え られて ,成 果 が現 われ るよ うにな った の が普通 で あ る。熱帯 地 域 の 開発 途 上 国 にお ける技 術 開発 も, これ か ら,長 期 的視 点 に立 った基 礎 的なデ ー タの蓄 積 が必 要 で あ る。 わ が 国を含 め先進 国の農 業研 究分 野 にお ける協 力 の役 割 と して ,い まや ,基 礎 的 デ ー タの蓄 積 に貢 献 す る こ との重要 さが いよ いよ増 して きて い る と考え る。

(2)

国 内 ・国外 とい う区別 に捉 わ れ な い研 究 の展 開 技 術 は, 「具体 的な 諸 条 件 によ って 規 制 さ れ る

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Cな もの . (山 田

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97

8)

で あ る。 その意 味 で は ,熱帯 に適 す る技 術 を 組 み立 て よ う とす るに は ,温帯 技術 ,先進 国 技 術 と厳 し く区別 して対応 しな くて はな らな い。 こ とに熱帯農 業 につ いて の経 験 が浅 いわ れ わ れ 日本 の技 術 者 ,研 究者 に は , この点 の 376 区別 が重要 で あ る。 しか し,その よ うに 「国 内. と 「国外 . と を峻 別 しなが ら も,これを全 く切 り離 して し ま うこ とは適 当でな い。 何故 な ら,将 来 にわ た る農 業 技術 発 展 の長期 的な視 点 か らみた と き ,国 内 と国外 は互 い に独立 すべ き もの でな く,相 互 依存の 関係 に あ る もの と して 捉 え ら れ るか らで あ る。その こ とを示 す一 ,二 の例 を あ げた い。 第 1は, 「資源 と情 報 の相 互利 用 . とい う 問題 で あ る。わ が 国の農 業 は ,そ こで栽 培 さ れて い る作 物 の種類 ひ とつ を と って も,対 外 依存度 の きわ めて 大 きな 農 業 で あ る。 明峯

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1

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によ る と, 世界 の全 作物 数 は , 材 木 と観 賞用植 物を 除 いて 約

1,

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, 日本 の それ は約

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と推 定 されて い るが ,その作物 の ほ とん どすべて ,少 な くと も主 要作物 のすべ て は ,

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年 を 越 え る 日本農 業 の 歴 史 の な か で 国外か ら導入 され た もの とい う。 この よ う に対外 依存度 の きわ めて 大 きな特徴 を もちな が ら,い まわ が 国で は ,経 済作 物 の選 択 の 幅 は ます ます 狭 くな りつ つ あ る。 また ,た とえ ば 国 内で新 た な い もち病 抵 抗性遺 伝 子 が現在 発見 し難 くな って いる こ と で み られ る よ う に ,有 用遺 伝 資源 につ いて も,その選 択 の 幅 が 国 内で は狭 くな りつつ あ り,国外 か らの導 入 を必 要 と して い る。 この よ うな傾 向 は ,ひ と りわ が 国 に限 った 特 別 な現 象 でな く,熱帯 の途 上 国で も,放蜘 して お く場 合 は ,同 じよ うな道 を 今後 辿 る こ とにな ろ う。 どの 国 も どの地 域 も, ここに述 べ た よ うな意 味 で 「対 外 依存度 .が今後 大 き くな る と予想 され る。

(14)

岡部 :熱帯農業 開発 にお け る技術 的側面 以 上の 対外 依存性 は ,ひ と り資源 の利 用 に 限 らな い 。研 究成 果 を含 む技 術 情 報 につ いて も同様 で あ る。 資源 と情 報 の利 用 につ いて ,榔互交流 の道 を 積極 的 に ひ らいて お くこ とは ,将 来 の 世非 の農 業 技 術 の 発展 に と って 必 須 の 要件 と言 う べ く,そ の意 味 で ,国 内 ・国外 とい う区別 に 捉 われ な い研 究 の 展 開が望 まれ る。 (3) 熱帯 の未 利月上 低利用農 業 資源 の 開 発 改良 熱帯 地 域 に は ,温帯 地 域 に得 られ な い 自然 環 境 と立 地 条 件 を 高度 に活 か した 植 物 が数 多 くあ る。その うち少数 の もの は農 園農 業 作物 と して ,あ るい は一 般 栽 培 用 の作 物 と して と りあげ られ ,研 究 と開発 が行 われ た 。 パ ラゴ ム ,棉 ,サ トウキ ビ,油 ヤ シ,バ ナ ナ ,パ イ ナア ップル , コ コヤ シ,胡椴 な どが そ の例 と して あ げ られ る。 しか し,その ほか の 多 くの 熱 帯 作 物 は組 織 的 に研 究 され る こ と もな く, 産 業 的 に も顧 み られ る こ とな しに放 置 されて きた 。 その背 景 と して は ,世界 市場 が な い こ と,開発 に必 要 な 資金 の不 足 , さ らに は熱帯 諸 国の研 究者 の教 育研 修 が 主 に温 帯 の 国で行 わ れて きた こ とな どが 指摘 され る (山 田 , 1978)。 しか し, これ まで の経緯 は と もか く と して ,将 来 に お け る農 業 資源 , と くに各種 植 物 資 源 の 利 用 の道 を ひ ら くこ とは二 つ の 意 味 で きわ めて 重 要 と考 え る。 第1に は ,先進 国 ,途 上 国を含 めて 世 界 の 植 物 資源 に対 す る依存 度 が将 来 さ ま ざ まな分 野 で増 大 す る と予 想 され る こ と ,第

2

に は , 今後 予 想 され る熱帯 途 上 国 間 あ るい は地 域 間 の農 産 物 市場 で の競 争 関係 を 緩和 す る こ とで あ る。 石 油化 学 の発 達 に よ って ,繊維 ,人造 ゴ ム その ほか数 多 くの石 油 を原 料 とす る製 品が世 界 に広 くひ ろが った。 しか し石 油の供 給 につ いて 楽 観 で きな い見通 しが 強 ま った こ と と関 連 して ,い まや にわ か に植 物 資源 につ いて の 見 直 し諭 が 昂 ま って きて い る。 その ひ とつ の 例 に , ミ ド リサ ンゴ また はア オサ ンゴ と呼 ば れ る熱帯 植 物 が あ るo トウダ イ グサ属

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な ど,英名 で はCandelilla)の

植物 で ,石 油 と同類 の 炭化 水 素 を 生体 重 の 約

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(乾物 の約

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%) 含 む とい う。 従 来有 毒 植物 と して 顧 み られ なか った が ,そ の汁液 は 石 油 と 同類 の 化 学成 分 よ り 成 る 有 用 資源 と して 注 目 され る に いた った

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Nielsenほか,1977)。東南 ア ジア ほか か な り 広 い地 域 に分 布 す る野生植 物 といわ れ ,わ が 国で も沖縄地 方 に野 生 して い る。 これ は工 業 用 原 料 を抽 出す る資 源 で あ るが ,直 接農 業 生 産 に役立 つ と期 待 され る例 と して ,ギ ンネム (銀 合 歓) が あ げ られ る。 早 くか ら実 際 的な 関心 を示 して きた の が フ ィ リピンで , このた め フィ リピ ン名 の イ ピル イ ピル (IpiLipil,学 名

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.Gillis)で 呼ば れ る こ とが多 いが ,世 界 の熱帯 ・亜 熱帯 いた る と ころに野 生 し,わ が 国で も沖縄 地 方 に繁茂 し て い る植 物 で あ る。 若 葉

,

苦い豆 の 英 や種 子 は食用 に した り,成 熟 豆 を コー ヒーの代 用 に す る こ と もあ る。 葉 に は乾 垂 で

2

5

% 以 上 の蛋 白質 を 含 み ,高蛋 白の家 畜飼 料 に もな る。 こ れ はマ メ科 植 物 なの で根 に根 粒 菌 をつ け ,や せ 地 に もよ く生育 す る。 深根 性 で ,ほほ樹 高 に匹 敵す る ほ どの長 い直根 を もち ,乾燥 時 に も地 中深 くの水 分 を 利用 す る こ とが で きる。 また普通 の植 物 で は利用 しに くい地 中深 くの りん酸分 な どを 吸収 す る。 糞 に は多 くの カ リ ウ ム , りんを 含 み ,分解 しや す い緑 肥 と して も有用 で あ る。 低木 型 と高木 型 の2種類 が あ るが , 高木型 は 良 好 な 条 件 下 で は5年 間で 20m,直径20-30cm に生 長 す る。伐 った後 も よ く新 芽更 新 す るの で薪 炭用 材 に は きわ めて 適 して い る。 この よ うに食用 ,飼 料用 ,肥料 木 か ら緑 化 樹 ,砂 防用 樹 ,木 材 ときわ めて 広 い用 途 を もつ た め"miracletree''と呼ば れ る 377

(15)

東南 ア ジア研 究 17巻2号 こ とが あ る (緒方

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9

7

9

)

Oた だ飼 料 と して 用 い る際 に問題なの は,動物 に有害 な アル カ ロ イ ドの ミモ シンが含 まれて い る こ とで ,午 , 羊 な ど反す う動物 に は害 が少 な いが ,豚 や鶏 に は書 が あ る点 ,今後 の改良が必 要 で あ る。 肥料節減 ,購 入飼 料 へ の依存度軽 減 な ど多 角 的視 点か ら,ギ ンネムや これ と同類 の利 点を もつ 植物資源 の重要性 は将 来 ます ます増 大 し て くる もの と思 われ る。 次 に考慮 すべ き ことは ,発展途 上 国が将来 直面 す る こ とが懸念 され る農 産物貿 易市 場 に お ける競 合の 問題 で ある。 た とえば ,現在 は タ イ,イ ン ドネ シア,フ ィ リピンその他熱帯, 亜熱帯 の多 くの 国で ,イ ネ , トウモ ロ コシ, ダ イズ ,あ るい は キ ャ ッサバな ど限 られ た種 類 の作物を選 んで各 国が生産 の増大を 図 って い る。 自給 を 目的 と して い る限 りと くに大 き な問題 はな いに して も, この状況 が長期 間続 普 ,将 来 これ らの諸 国が その 限 られた種類 の 農 産 物 につ いて過 剰基調 に転 じた とき ,深刻 な事 態 にた ちいた る こ とはな いで あろ うか 。 これ に対 して は ,食糧 ,非食糧 を含 めて ,多

お 熱帯農 業 の 開発 に役立つ 技術 は ,先進 国 に あ る既製 の 農 業技術 の 機械 的な 移植 で は な く,また単純 な修 正 で も済 まされ な い こ とを 本文 で述べて きた 。必 要 なの は熱帯 の発 展途 上 国の実態 に即 した適 正 技術 を新 た に創 りだ す こ とで あ る。 この こ とは 「昨 日の仕事 を よ りうま くこなす .式 の器用 さだ けで実現 で き る もので はな く,地道 な試 験研究 の積 み あげ によ って は じめて 可能 とな る。 現 状 で は,熱 帯 の農 業技 術を第一 義 的 に支配す る気 象 ,土 壌 ,生物 ,水 な どの 自然環境 の解 明 は まだ緒

3

7

8

種類 の農 業 資源の 開発 と利用を 図 り,各地 蟻 に特産 的な作 目を 育成 して お くことが重要 と 考え る。 しか し現 在 は ,その技 術 的開発 は著 し く遅 れて お り,今後 の研 究 に侠 つ ところが 大 きい。 この 場 合対 象 と な る もの と して , キ ャ ッサ

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,キ スア

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,シ カ クマ メ (通 称 ,

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あ る い は サ ゴヤ シ

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(山田

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;佐藤 ,

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の ほか ,多 くの穀衣 類 ,根菜 類 ,野菜 類 ,油糧植 物 ,飼 料植物 ,繊維 植物 , ワ ック ス汁 液用植 物 が あ る。 具体 的な事 例 と して は

1

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年米 国

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に36種類 の 植 物 が あげ られて い るので参考 に された い (義 1)

資源 の一 大 消費 国 と して のわ が 国 は ,わ が 国 自身 の た め に も,また発展途 上 国を含 む世 界 の未利用 ,低利 用農業 資源 の 開発 と利 用の 拡 大 のた め に も,この分 野 にお ける研 究推進 に積極 的 に参加 し,責献す る必 要 が あ る。 わ り に につ いた ばか りと言 って よい。 また技術発 展 に深 くか か わ る 開発途 上 国の 社 会 的 , 経済 的 ,政治 的動態 の把握 も今後 の 大 きな課 題で あ る。 この よ うな複 雑 な 問題の解 明 は ,ひ と り外 国 か ら来訪 した 研 究者 や 技 術者の 「外

側.

か らの援 助の みで よ く為 しうる ものでな く,途上 国 自体 の研 究者 ,技術 者 らとの共 同 協力 の努力 によ って成果 が期待 で きる もので あ る。「援 助か ら協力へ . これ がわ が 国 に お いて 熱帯農 業研 究 に携わ る者 の とるべ き姿勢 と考え る。

(16)

間 部 :熱帯 農業 開 発 におけ る技術 的側 面

表 1 低 利 用 , 未 利 用 農 業 資 源 の 例 (NationalAcademyofSciences,1975)

朋 貞 f 植 物 名 代 表 的 な 用 途

戟 Echinochloatumerana(ヒエ属 , タ- ネ ラナ ) 飼料用穀 粒

GrainAmananths(ヒエ 属 , アマ ラ ン ス) 食用 穀 粒

頬 QuiZosnua(te,ⅥmarCheinnoa (アマ モ )poditlm quinoa)(ア カザ 属, キ ヌア ) 製 粉// 用 野 Arracacha(Ar71aCaCktmnthorrhiza)(ニ ン ジン イ モ ) 食 用 莱 Cocoyams(XanthosomasagittlfolilJtm)(ア メ リカ里 芋 ) //

頬 Taroお よびDasheens(ColocaskleSCulenta)(サ トイモ属,タロ) ∫/

野 Chaya(Cnidoscolusaconitlfoliusな ど )(チ ヤヤ ) 食 用 莱

瓶 HeartsofPalm(EuterPe,jおctn'Sな ど)(パー ム - 一 日 //

WaxGourd(BenicasaJlispida)(冬 瓜 ) //

WingedBean(Aophocarp,zLStehlagOnOlobtLb,)(シ カ クマ メ ) //

莱樹

Durian(am'ospp.)(ド リ7 ン ) 食 用

Mangosteen(Garcl'm-anuZFZgOSttlnJlL)(マ ン ゴス チ ン ) // Naranjilla(SolanlLm qu['fo{mse)(ナ ラ ン ジ ラ) // Pejibaya(GzLl'[ielmagasipaes)(ペ ジバ エ ) // Pummelo(CllrlLtb,g7-andis)(ザ ボ ン ) // Soursop(A7川 0-7W mZm 'Cab7)(サ ワ- ソ t./7-) /∫

Uv川a(PnzLrn7{nM CeCrOPlbefoh'a)(ウ- ど- l上や) 】 〝

油 Babassd(OrbignyaSf)eciosa)(バ バ スヤ シ) ∃ 食 桐

植 BuffaloGourd(CILCtirbilafoetidissi,ma)(バ フ ア ロ- ウリ ) ∫∫l/I/

Caryocar属 (カ リオ カ頬 )

Jesseniapolyca7.Pa (ジエ七 二 ア )

J

ojoba(Simmo;ldsiachinejlSis)(ホホバ ) .工業 用(潤滑油 )液状 ワ、ソクス 飼 AcackTalbida(ア カ シア属 , ア ル ヒ ダ) 飼 料 周

fiFf_ BrSalC

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ostssbuskimum allShes(turtiiiAtc(ス トウル テ ィ)asrtiniplemx属 )(?そ > )(塩 の 木 ) ////// 物 Tamarugo(ProsoL)iskl〃∽rugO)(タマ ル ゴ ) //

そ BurCEllatithf(ealMazutem .ati(ル テア )ajlexuosa)(ブ リチ ャ ン ) でん粉,食用果実,せ ん錐,木材ワ ッ ク ス の Candelilla(

E

u

phorbklanh'syPhi!itica)(カ ンテ リラ ) ワ ッ ク ス

他 の

植 Guar(Cyamopsistetragonoloba)(グア- ) 食用 お よび工 業 用 (ガム )

Guayule(Purthenium argcntatum,)(グアエ ー ル ) 工 業 用 (ゴム 用乳 液 )

Paspal/./m L)aginatum(シル トグラ ス ) 海 岸 砂 防 用, 飼 料 用

Ramie(Boehmey由 niuea) (ラ ミー ) せ ん 維 周

物 Spirulina(SpirlLlinaphZtenSisお よびSpiruti'nanW ima) 食 用

引 用 文 献

1. 明峯 英夫 (1978):「自然 と 農 業 技 術 の 関 わ 4. 一一一一- - (1978): Research Highlight for

り. 『科 学。Vol.48,No.10. 1977.

農 業 の 諸 問堪 . 『柘 植学 研究。No,11・12合 併 現 状 と 開 発 の 課 題 - tl 国 際農 林 業 協 力 協 会 ,

号 〔 海 外 農 業 開 発 調 査 シ リーズ 。

3. International Rice Research lnstitute 6. NationalAcademy ol S/ciellCeS (!9751:

(1975):_ThelRRIRL,Porter.No.3. UndeT・en:]・l()2'Ied TmficalI'la〃ts?I,ithPr

(17)

東南アジア研究 17巻2号

lb・2ng EconomicValue.Washington.

D.

C.

(訳 本 :吉 田 よ し子, 吉 田 昌一 訳 『21世紀 の 熱 帯 植 物 資源 』 農 政 調査 委 員 会 刊,1979.) 7. Nielsen,P.E.efal.(1977): "PlantCrops

asaSourceofFueland Hydrocarbon-like Material

,

"

Science.Vol.198. 8. 緒 方 健 (1979):「イ ピル イ ピ ル ・Ipil-ipil. 『熱 帯 林 業 。 9. 岡部 四郎 (1975):「東 南 ア ジア 農 業 の 発 展 に対 す る 農 業 技 術 の 役 割 と限界. 『関西 土壌 肥 料 協 議 会 講 演要 旨。 第45号。 10. 佐 藤 孝 (1967):「東 南 ア ジア の ヤシ . 正1束 南 ア ジア研 究 。 第5巻, 第 2号 。 「熱帯 農 業 技 術の 研 究 に 当 って は , 社 会 経 済 要 因 を 十 分 考 慮 した体 系 化 技 術 を 指 向す べ きで あ る. と岡 部 氏 は主 張 した。 これ は ,誠 に も っ と もな こ とで ,そ の よ うな 技 術 で な け れ ば ,実 際 の 技 術 と して 定 着 す る こ とは困難 で あ る。 しか し,現 在 の 熱帯 に お け る小 農 が ,資 力 を 持 た ず ,また 教 育 が な く,増 産 意 欲 もな く, さ らに ,圃 場 の 生 産 基 盤 も劣 悪 で あ る とい っ た こ とに , あ ま りに もこだ わ るな らば , これ らを 前 提 と した 体 系化 技 術 と して は ,現 在 , 小 農 が 実施 して い る伝 統 的 な技 術 の み が 生 き 残 り, ほ とん ど生 産 の 向上 は実 現 しな い可 能 性 が極 めて 高 い 。 農 業 技 術 研 究 者 に と って は

,

上 記 の 社 会 経 済 的 な 生 産 阻 害 諸 要 因 の 改 善 は守 備 領 域 外 の こ とで,(a)これ らの 生 産 阻害 要 因 中 ,現 状 で最 も深 刻 に生 産 を 制 限 して い る要 因 を 指 摘 し,当事 者 に そ の 改 善 を 要 望 す る と と もに , (b)や がて そ れ らの要 因 が 改 善 され て い った 時 点 で の 増 収 技 術 体 系 の 開発 を して い くの が 任 務 で あ る と考 え て い る 。 *北海道大学農学部 380

ll. Science(1976)・. "The Petroleum Plant.

PerhapsWeCanGrow Gasoline," vol.194. 12. 山 田 登 (1976):「農 業 協力 の 課 題 -技 術 の 諸 問題 . 『国 際農 業 協 力 の現 状 と課 題。 (小 倉 ・山田共編 )農 政研 究 セ ンタ ー編 0 13. ---- ----(1978):「熱 帯 にお け る 技 術 協 力 の 問題 点 . 『国 際農 林 業 協 力t。Vol.1,No.1. 14. 高瀬 国雄(1975a):「ア ジ アの 農 業 と水 利 革 命J ∑ M.H.T.三 菱 重 工業 株 式 会 社 刊 。 15. --- -(1975b):「経 済 開発 と農 業 プ ロ ジ ェ ク ト. F基 金 調査 季 報 。 第20号, 海 外 経 済 協力 基 金 調査 開発 部。

什I

中 明 * High inpuトhigh outputを 志 向す る技 術 が ,現 在 の 熱 帯 に は不 適 当 で あ り,low input, minimum input, さ らに no inputの 技 術 を 求 め るべ きで あ る とす る主 張 が あ る。しか し, 餌 を や らな けれ ば ,鶏 は卵 を 産 まな い とい う 単 純 な 原 理 を 忘 れ て はな らな い こ とを , こ こ で あ らた めて ,指 摘 して お きた い。 も う少 し 具 体 的 に い う と ,た とえ ば ,稲 が 高 収 を あ げ るた め に は ,窒 素 , りん ,加 里 な どの 必 須 要 素 を 多 量 に吸収 す る必 要 が あ る。 これ らの 要 素 が土 壌 中 に十 分 存 在 して い な い とき に は , 肥 料 と して , こ れ らを 補 給 して や らな けれ ば ,た とえ ,他 の 生 産 条 件 が どん な に整 って いて も,高 収 は絶 対 期 待 で きな いの で あ る 。 熱帯 に お け る作 物 の 生 産 は ,従 来 極 めて 停 滞 的 で あ った。 しか し,熱 帯 に お いて は これ まで 生 産 向上 の た め の研 究 活 動 が皆 無 で あ っ た わ けで はな

い。

た とえ ば , イ ン ドに お け る 農 業試 験 場 の 活 動 の歴 史 は古 く,稲 につ いて は ,生 産 性 を 高 め るた めの 育 種 や栽 培 法 の研 究 が長 年 な され て いた 。 しか し

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年 ごろ まで の試 験 結 果 を み る と ,改 良 品種 を 十 分 管 理 した 場 合 に 得 られ る 最 高 収 量 は

3.

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表 1 低 利 用 , 未 利 用 農 業 資 源 の 例 ( Nat i onalAcademyofSci ences ,1 975)

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