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「戦略的リクルートメント─マルチレベルの視点」(PDF:236KB)

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Academic year: 2021

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104 No. 644/Feb.-Mar. 2014 労働市場が流動化したといわれて久しいが,日本で は労働移動の研究は決して豊富ではない。この状況は 労働経済学,社会学,経営学,心理学……様々な領域 において無数の研究が存在する欧米とは対照的でさえ ある。個人基点の研究はそれでもまだ存在するが,企 業の人材採用行動に関する研究はとりわけ乏しい。長 期雇用が根付いてきた日本では,外部労働市場よりも 内部労働市場にアカデミアの関心が寄せられてきたた めだろう。しかしながら雇用が個人と企業の結節点で 実現することを考えれば,個人基点の研究同様,企業 基点の研究が求められていることは論を待たない。 企業の採用行動を研究するための理論モデルと検証 すべき命題を提示し,既存研究の現状を整理したのが Gully らの論考である。なお,後述するように日本語 の「採用」と英語の「リクルートメント」の定義は厳 密には同一とはみなせないため,論文の紹介にあたっ ては原典の表記を優先する。 リクルートメントのマルチレベル・モデル Gully らはまず,SHRM(戦略的人的資源管理)の コンフィギュレーショナル・アプローチを発展させ, 戦略的リクルートメントのマルチレベル・モデルを提 示した(図 1)。コンフィギュレーショナル・アプロー チでは,企業業績を高めるためには経営戦略と HRM の 垂直的整合性(vertical alignment)と,人材採用 と育成……といった HRM 施策間の相互作用の水平的 整合性(horizontal alignment)に焦点をあてる。し かしながらこのような経営戦略と HRM 施策間の整合 性だけでは,組織・事業・個人と組織階層が異なれば リクルートメントの効果が変わりえる事象をとらえる ことができない。リクルートメントの効果を検証する ためには,HRM が行われている組織レベルを考慮す る必要がある。 そこで戦略的リクルートメントのマルチレベル・モ デルでは,横軸に外的環境に対する経営戦略「業務の 卓越性」「製品の差別化・革新性」「特定市場への特化 や顧客との親密性」を置き,奥行きの軸に「人材採用・ 配置」「能力開発・強化」等,水平的整合性に関する HRM 施策を並べる。さらに縦軸をマクロ・メゾ・ミ クロレベルに分解し,それぞれに組織・事業・個人の 3 つの階層をわりあてる。側面が濃色となっている最 前面の「人材採用・配置」の各ブロックが特定戦略や 特定階層における戦略的リクルートメントを表してい る。 図 1 戦略的リクルートメントのマルチレベル・モデル 戦略的リクルートメント 垂直的整合性 水平的整合性 報酬・インセンティブ 評価・査定 能力開発・強化 戦略・計画 採用・配置 ミクロ 個人 ・認知 ・施策や活動 ・アウトカム メゾ 事業ユニット/チーム ・局所的な価値観 ・実行のポリシー ・施策や活動 ・アウトカム マクロ 組織 ・タレント・フィロソフィー ・システムやポリシー ・資源配分 ・アウトカム 業務の卓越性のた めのリクルーティング を基軸とした組織の フィロソフィーや戦 略,ポリシー,資源 配分,システム 事業ユニットやチー ム,また組織全体の ための差別化やイノ ベーションをもたらす ような事業ユニットの リクルーティング活動 顧客との親密性を促 すような個人対象の リクルーティング活動 外的環境 業務の卓越性 製品の差別化・ 戦略類型 革新性 特定市場への特化・顧客との親密性 13 の命題と研究の現状 Gully らはさらに,リクルートメント研究において 今後検証すべき 13 の命題を提示した。命題は多岐に わたるため,代表的なもののみ紹介する。まず,戦 略論のコア・コンピタンスや RBV(resource-based view)の議論から導かれるのが命題 1 である。  命 題 1:戦略的リクルートメントシステムは,事業 戦略と整合的で HRM システムの他の要素と統合 的なとき,競争優位の永続的な源泉となる。 さらに水平的適合と垂直的適合に関する命題 4,5, マルチレベル・モデルで導入した組織階層に関する命 題 7 が提示される。  命 題 4:リクルートメントシステムは,他の HR の

戦略的リクルートメント─マルチレベルの視点

S. M. Gully, J. M. Phillips, and M. S. Kim(2013)“Strategic Recruitment: A Multilevel Perspective,”

The Oxford Handbook of Recruitment, pp.161-183.

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日本労働研究雑誌 105 論文 Today 機能や活動と統合され束ねられていると,より戦 略的に有効である。  命 題 5:リクルートメントシステムは,戦略や外的 環境,組織階層と垂直的に整合的であれば,より 戦略的に有効である。 マルチレベル・モデルではマクロの階層に組織をお いていたが,より上位の階層として労働市場や経済状 況などの「組織外要因」も研究に組み入れる必要性を Gully らは指摘し,命題 9 や 10 を導出する。  命 題 9:労働市場が逼迫しているか緩慢かによって, リクルートメントのリソースを内部労働市場に求 めるか,外部労働市場に求めるかは異なる。 この他に,タレントに関する命題 8,グローバル化 に関する命題 11,ダイバーシティに関する命題 12 な どがある。 そのうえで Gully らは,既存研究の進展度合いをイ ンプットとアウトカムのマトリックスで整理した。イ ンプット変数はマルチレベル・モデルで用いた組織・ 事業・個人の 3 階層に加え「組織外要因」「仕事や役割」 の 5 つに,アウトカム変数は 3 階層に分類し,5 × 3 の 15 セルそれぞれの現状をまとめている。その結果, 組織や個人レベルに比べ,事業レベルの研究はほとん ど手がつけられていないことなどが明らかになってい る。 日本の採用研究への示唆 最後に Gully らの論考が今後の研究に与える示唆に ついてふれておこう。まず,マルチレベル・モデルを 用いることによって,いかなる経営戦略にもとづき, どの組織階層の採用行動を分析しているのかを明示的 に取り扱うことができる。「人材採用・配置」とその 他の HRM 施策の関係性について考察するうえでも論 点を明確にしやすい。このことは,理念型であるコン フィギュレーショナル・アプローチでは,検証可能な 枠組みを組み上げる必要があるといわれていることと も整合的である。さらに 13 の命題や現状整理のマト リックスから先行研究をたどることによって,貢献余 地の大きい研究テーマを効率的に見出すことができ る。このように今後のリクルートメント研究の針路を 提示した論考とみなすことができる。 さらに日本の採用研究に Gully らの論考はどのよう な示唆を与えるのだろうか。日本の採用研究を検討す るうえで最も重要なことは,Gully らの研究に限らず 欧米のリクルートメント研究の結果は,いわゆる日本 型雇用システムで特徴づけられる労働市場の違いか ら,そのまま日本の結果として解釈できるわけではな いということである。日本の採用研究では,とりわけ 新卒採用の比重の高さと人事部の権限の強さについて 考慮する必要がある。このような留意点に対してもマ ルチレベル・モデルは有効だと筆者は考えている。例 えば,人材調達における新卒採用と経験者採用の分化 は,マルチレベル・モデルの水平的整合性の軸におい て HRM 施策をより分類することによって,採用行動 における人事部というアクターの存在は,垂直的整合 性の軸におけるアクターの置き換えを行うことによっ てフレームワークをつくることができるからだ。 なお日本で採用を研究するためには,概念の明確化 も今後の課題である。一般に英語文献の「採用」研究 では「リクルートメント」「セレクション」の2種類 の言葉が用いられるが,これらの指す範囲が違うだけ でなく,包括的なプロセスを指すという点で日本語の 「採用」にどちらかといえば近い「リクルートメント」 の定義も研究によって異なっている。また,「採用」 が暗黙的に外部労働市場からの人材調達のみを想定し ているのに対し,「リクルートメント」や「セレクショ ン」は内部労働市場からの人材調達も含んでいること がある。日本で採用研究を発展させていくためには, 欧米研究との異同を明確化するところから取り組まな ければならない。欧米の研究を整理した Gully らの論 考は,その点でも参考になるだろう。 なかむら・あきえ リクルートワークス研究所主任研究員, 一橋大学大学院商学研究科後期博士課程。最近の論文に「海 外拠点の経営を担う人材の採用プロセス」『Works Review』 vol.8,2013 年。人的資源管理専攻。

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