東電福島事故の原因究明 最新情報の分析評価に基づく炉心冷却機能喪失に対する新見解
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(2) 東電福島事故の原因究明. 75. 第一の要因であるが,東日本大震災で被災した原子力発. める」と「冷やす」が相反する場合には事故直後から必要. 電所 15 基中,炉心溶融・水素爆発した福島第一の 1~4. な「冷やす」(短期的な冷やす機能)はそれを優先するが,. 号機を除いた 11 基は直流および交流電源系が曲がりなり. それ以外は「閉じ込める」を優先している。その後運転員. にも活きていたので,安全に炉心冷却を維持したままプラ. が判断して,「冷やす」が必要なものはそのラインが破損. ント停止できた。一方,福島第一の 1,2,4 号機は津波. 等を起こしていないことを確認した後「冷やす」(長期的. による建屋浸水後すぐに交流と直流電源系が両方とも全喪. な冷やす機能)を活かすという設計となっている。この. 失し,運転中の 1,2 号機は制御・冷却不能で炉心溶融と. 「閉じ込める」を優先したことが今回の炉心溶融事故の第. なり,停止中の 4 号機は 3 号機からの水素が廻り込み水. 二の要因となった。. 素爆発を起こした。また運転中の 3 号機では,交流電源. この 2 つの要因が今回の炉心溶融事故の主原因である. 系は全喪失したが直流電源系の一部が活きていたので,運. ということについては,国や民間で発表された事故調査報. 転員の制御の下,炉心冷却運転が続けられた。しかしなが. 告書等で記載されたものはない。次章では設計指針や基本. らその後直流電源容量不足で炉心水位計が消え,それが致. 設計の知見から事故進展を分析しそれらを明らかにする。. 命傷となり運転不能になり,炉心溶融へとつながった。結 局運転中の 1,2,3 号機とも全直流電源系喪失で炉心溶. III. 炉心冷却機能喪失の要因分析と新見解. 融となった。なお,直流系は交流系から交直流変換器で変. 本章では,前記東京電力の「第 5 回進捗報告」(以下こ. 換されバッテリーがバックアップしているので,全直流電. の中の添付資料からの引用部分を「 」で示す)をもとに,. 源系喪失とはすべての電流・電源がなくなったことを意味. 1,2,3 号機における炉心冷却機能喪失についての要因分. する。. 析を行った。1 号機の IC 系の機能喪失は「冷やす」より. 現行の軽水炉(本報中の「現行の」とは事故後の新規制. 「閉じ込める」を優先したためであり,2 号機の RCIC の. 基準導入前の当初設計を意味する,以下同)は,交流電源. 機能喪失はタービン動ポンプの蒸気配管内蒸気水 2 相流. 系の全喪失については想定して設計しており 8 時間ほど. が不安定化したためであり,3 号機の HPCI の機能喪失は. の喪失に対して設計上の対応もしている。それ以上の時間. 水位表示喪失後の制御不能のためであると分析した。これ. でもその延長である程度運転員は対処できたが,さらに長. らは全く新しい筆者独自の分析および見解であり節立てし. 引くと設計が対応できるかどうかは検討されていなかっ. て記載する。. た。 一方,直流電源系に関しては,直流電源(バッテリー)系 というのは,静的な部品で構成されていて信頼性が高く複. 1. 1 号機の事故経緯の概要と問題点 地震後の 15 時 35 分の津波の浸水で全電源(交・直流). 数系統設置すれば全喪失することはないとして,実設計で. 系が喪失した。特に想定もしていなかった全直流電源系喪. もそういう前提で設計されている。これは世界的にも共通. 失の結果,全交流電源系喪失時に炉心で発生した蒸気を冷. の考えである。この直流電源系が全喪失すると,直流で構. 却して戻すための非常用復水器(IC)系(Fig. 1)は直流電. 成されている中央制御室は真っ暗闇となり監視だけではな. 源喪失による閉弁信号発信で閉弁(Fail Close)し,炉心冷. く操作もできなくなる。そういう事態を想定していなかっ. 却できなくなった。さらには中央制御室が真っ暗闇になっ. たから,全喪失後のプラントの挙動・進展がどうなるかわ. たのでプラントの状態も確認できずに運転員は IC 系を閉. からなかった。今回の事故で,なってみて初めてどうなる. 弁状態のままにした。その結果,IC 系による炉心冷却が. かがわかった。 次に第二の要因について述べる。原子力発電所の安全設 計には,(核分裂反応を)「止める」 ,(崩壊熱を)「冷や す」,(放射性物質を)「閉じ込める」という 3 機能があ る。この中で「止める」は制御棒を炉心に挿入することに より達成できる。今回被災した 15 の原子力発電所(停止 中も含む)ですべて,地震発生直後(14 時 46 分)全制御棒 は炉心に挿入され炉心の核分裂反応を止めることができ た。また,今回被災した 15 のすべてのプラントで制御棒 以外の安全上重要な設備も,地震により安全に支障をきた すような破損・損傷は起きていない。これらは我が国の耐 震設計が非常に優れていたことを示したものといえる。 一方,「冷やす」と「閉じ込める」については,どちら を優先するかで事故後の進展が大きく変わった。国の設計 指針では優先順位は決めていないが,実設計では「閉じ込. Fig. 1. 1) Isolation Condenser System(IC). 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).
(3) コメント(松岡. 76. 強). ウンダリー隔離弁は 2 重に隔離するようになっている。 一方,MS–1 の緩和機能である炉心冷却機能の位置付けは 微妙で,電源(交・直流)系喪失対応との関係をどうみるか で設備対応が変わり,今回の事故要因の 1 つとなった。 すなわち,IC 系は全交流電源系喪失対応設備なので交流 喪失時は冷やす機能を優先し,弁は交流電源喪失時現状維 持(Fail As Is)設計としている。一方,直流電源系喪失に 関しては単一故障基準を満足するために,A,B の 2 系統 設けている(IC 系には交流と直流電動弁が混在している)。 それでは,その単一故障として喪失を仮定した A または B ラインの弁は直流電源喪失時隔離(Fail Close)設計とす Fig. 2. Containment Vessel. 1). べきか Fail As Is(あるいは Fail Open)設計とすべきかで ある。これは単一故障を考えた上にさらに,配管破断を考 えるか全直流系喪失を考えるかの多重故障を考えたとき に,「閉じ込める」を優先すべきか「冷やす」を優先すべ きかにより決まる。 今回の事故では原子力発電の安全設計の 3 機能「止め る」「冷やす」「閉じ込める」の中で,「冷やす」と「閉じ 込める」が相反するときどちらを優先すべきかという設計 の考え方の違いで炉心溶融にまでつながった。1 号機 IC 系でこの問題が生じた。単一故障基準までは設計基準とし て考えていたが,多重故障である全電源系喪失時にこの問 題をどうすべきかについては決められていなかった。すな. Fig. 3. Safety Relief Valve(SRV)1). わち,現行基準・指針では単一故障を考えた上にさらに, 配管破断を考えるか全直流電源系喪失を考えるかの多重故 障のときの「冷やす」と「閉じ込める」の優先順位は明確 には規定されていない。「閉じ込める」を優先する場合の. できずに炉心の崩壊熱による発生蒸気が主蒸気逃がし安全. 考えは,直流系が喪失して破断検知が機能しないので,. 弁(SRV)から圧力抑制室(Fig. 3)へ放出され続け(格納容. PS–1 とはいえ破断の可能性があるので Fail Close にする. 器(Fig. 2)は圧力抑制室(S/C)とドライウェル(D/W)に分. というものである。一方,「冷やす」を優先する場合は,. かれている) ,炉心は水位が下がりついには 3/11 の夕刻. 単一故障基準を考える限りはもう一系統あるので問題ない. 以降空焚き状態となり燃料破損・炉心溶融となった。現状. が,今回の事故のように全直流系が喪失したときに冷却不. ではいまだなぜに IC 系は閉弁のままで開弁できなかった. 能となるので,Fail As Is (ないしは Fail Open)にすると. のか明確な解明はなされていない。その解明のためには原. いうものである。現状設計では,「閉じ込める」を優先し. 子力発電所の安全設計の基本的考え方まで遡る必要がある. て Fail Close としていたので,今回のように長期の全電. のになされていない。. 源系喪失では IC 系の弁がすべて閉じてしまい,冷やす機 能が不能となった。途中運転員は弁を開閉チェックした. 2. 1 号機非常用復水器(IC)系の機能喪失に対する 新見解. が,設計上は電源回復するまでは閉弁状態が安全であると. 原子力発電所の設備・系はすべて安全機能区分で重要度. 中プラント状態の確認作業に集中した。. いう Fail Close 設計なので,閉弁状態にしたまま暗闇の. が分かれている。安全機能区分は,異常発生防止系(PS–. 「閉じ込める」と「冷やす」のどちらを優先すべきかに. 1,2,3)と異常事象緩和系(MS–1,2,3)に分けられ重要. ついては,直流系が喪失している間に PS–1 である IC 系. 度の高い順に 1,2,3 と番号が付けられ,1 つの設備・系. が破断する可能性と,全直流系が喪失し炉心冷却不能とな. は両機能を合わせもつ。. る可能性とはどちらが高いか,またその後の進展でどちら. IC 系は原子炉圧力 (RCP)バウンダリーなので,安全機. の方が最悪事態(炉心溶融)になる可能性が高いかで判断す. 能区分でも異常発生防止系としては一番重要な PS–1 に,. べきである。今回の事故でわかったことは,たとえ「閉じ. また異常事象緩和系としても一番重要な MS-1 に位置付け. 込める」をしても「冷やす」を維持していなければいずれ. られる。IC 系の配管破断については PS–1 機能維持のた. は「閉じ込める」のいわゆる「5 つの壁」 (燃料ペレット,. めに確実に閉弁する必要があり,破断検知回路で RCP バ. 燃料被覆管,原子炉圧力容器,格納容器,原子炉建屋)は. 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).
(4) 東電福島事故の原因究明. 77. すべて破られるということである。しかしながら「冷や. 4. 2 号機 RCIC 系の機能喪失に対する新見解. す」を維持していれば 5 つの壁は各々活かすことができ. 筆者は格納容器圧力(Fig. 5)や原子炉圧力(Figs. 6,7). る,すなわち,「冷やす」は「閉じ込める」より優先すべ. の変化と RCIC 蒸気配管内の流れについて考察し,3/14. きであるというのが今回の事故の教訓である。. の 09 時以降については,記録も証言もない運転操作の 「仮定」をしなくとも,蒸気・水の 2 相流の流動様式の変. 3. 2 号機の事故経緯の概要と問題点. 化により実測値に示される変化が生じたと推定する。. 東京電力の第 5 回進捗報告の添付資料 2–4,p1 による. RCIC 系(Fig. 4)はポンプ側で復水貯蔵タンク水(また. と,2 号機では炉心で発生した蒸気を利用したタービン動. は S/C 水)を炉心へ注水し,発生した蒸気をタービン側に. ポンプで冷却水を炉心に注水する隔離時冷却(RCIC)系. 流し S/C 水に戻す(最終的に図にはないが S/C 水を海水. (Fig. 4)が「手動起動した直後に津波来襲により全電源喪. で冷やす)設計となっていた。しかしながら長期電源喪失. 失に陥った。その後計測された原子炉水位・原子炉圧力等. で海水冷却が不可となり,しかも外部への蒸気放出のため. のパラメータから,津波により制御電源を喪失した後にも. の S/C 上部のベント弁 (Fig. 2)は非常用設備であり常時. RCIC は約 3 日間に渡たって注水を継続していた」,「津波. 閉で,電源喪失時も閉(Fail Close)になっていたために炉. 後の原子炉圧力の計測値は通常運転圧力より低く維持され. 心の崩壊熱は S/C 水の顕熱上昇と格納容器への蒸発だけ. ており,主蒸気逃がし安全弁(SRV)の作動設定圧力に至っ. の除熱となった。したがって崩壊熱は原子炉と格納容器内. ていない。このような挙動を再現できる制御電源喪失時の. に閉じ込められることになり,格納容器圧は徐々に上昇し. RCIC 運転状態として,原子炉水位が制御されずに」(制. ていき,RCIC のタービン動ポンプの蒸気配管内の 2 相流. 御電源が喪失すると加減弁が全開となる)上昇し,原子炉. の様相が変わることになる。典型的な鉛直配管の上昇流の. 水が主蒸気配管に接続されている「RCIC タービンの抽気. 2 相流の流動様式は蒸気の体積流量比率が上がるにつれ. レベル付近まで流れ込み,蒸気と水の二相流が RCIC ター. て,「水単相流,気泡流,ピストン流(気泡流と水柱流とが. ビンへ崩壊熱相当のエネルギーを流出させるとともに,定. 交互に流れる),環状流(管壁に環状の水流が,中央を蒸気. 格流量よりも低い流量で原子炉へ注水がなされていた」 。. が流れる) ,ミスト流(噴霧状の流れ) ,蒸気単層流」へと. このような状態で炉心冷却が維持されていたが,3/14 の. 変化していくが,今回の場合は水平管や下降流も含む複雑. 09 時から原子炉圧力が急上昇しだした。これが炉心冷却. な配管系なので,2 相流の流動様式の変化が非常に複雑で. 機能喪失に直接つながったのであるが,その最も重要な急. 定量評価は困難であるが定性的には次のことがいえる。. 上昇の原因として,添付資料 2–6,p4 では「何らかの理. すなわち,全電源系喪失後加減弁が全開し流量大となり. 由 で 」 と し て「09:00 炉 心 注 水 停 止 」「11:00 注 水 再. いったん減圧後再昇圧し,3/13 の 0:00 時頃に 2 相流が. 開」「12:00RCIC トリップ」等の「仮定」をおいて解析. 確立しその後崩壊熱の漸減とともに原子炉圧が低下して. し,実測値に合うようにしている(Fig. 7 の実線)。しかも. いった(Fig. 6)。しかしながら 3/13 の 09 時以降,筆者は. 「ポンプ機能が喪失しても格納容器圧が上昇」(3/14 の 12 時~13 時半頃)については未解明事項としている。. Fig. 4. 2 相流の流動様式の変化で事象が進展したと考察した。そ れは,この蒸気配管のチョーク点である(蒸気)加減弁前後. 1) Reactor Core Isolation Cooling System(RCIC)/High Pressure Coolant Injection System(HPCI). 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).
(5) コメント(松岡. 78. Fig. 5. Containment Pressure of Unit 21). Fig. 6. Fig. 7. 強). Reactor Pressure of Unit 21). Reactor Pressure(expand)of Unit 21). 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).
(6) 東電福島事故の原因究明. 79. で流れは大きく変わり,その上流に比べ下流は臨界流近く. る,すなわち全電源系の長期喪失の結果必然的になること. になるからである。上流側では,蒸気泡は原子炉圧に支配. が考察できる。逆にいうと,全電源(交・直流)系が喪失し. され,3/13 の 0:00 頃は 6 MPa( 蒸気比体積 0.0324 m /. ても,運転員操作に頼ることなく約 3 日間は RCIC で炉. kg)の気泡流であったが減圧とともに蒸気泡が大きくな. 心冷却できるということである。しかも RCIC の動力源. 3 り,3/14 の 09 時頃には 5.3 MPa(蒸気比体積 0.0373 m /. は崩壊熱なので,基本設計から見直すことにより,例えば. 3. kg)と比体積が約 15%増え,ピストン流に変化したと考え. S/C ベントラインのラプチャーディスクを取り除き,空. られる。そうなると脈動流となり配管内の圧損が増加し原. 気作動の第一隔離ベント弁(接近性が悪い)を Fail Close. 子炉圧力が上昇する(Figs. 6,7)。この変化は 2 相流特有. から Fail Open または Fail As Is へ変更する等の簡単な. で不可逆変化なので圧力が再上昇しても気泡流には戻らず. 設計変更(「閉じ込める」より「冷やす」を優先)でさらに. 圧損増加に見合うように圧力上昇する。一方下流では,加. 長期に炉心冷却維持は可能である。. 減弁近くは臨界流に近いので 2 相流への影響は少ないが, タービン側近くでは蒸気泡は格納容器圧に支配され,3/13. 5. 3 号機の事故経緯の概要と問題点. 3 の 0:00 頃 0.3 MPa( 蒸 気 比 体 積 0.606 m /kg)あ っ た も. 3 号機では津波後交流電源系は全喪失したが,直流電源. の が 3/14 の 12 時 頃 に は 0.48 MPa ( 蒸 気 比 体 積 0.393. 系は一部活きていたので中央制御室での監視・操作が可能. m3/kg)と比体積が 65%も減少した(Fig. 5)ので,当初ミ. であった。RCIC 系が約 1 日順調に運転されたが,2 号機. スト流であったものが環状流へと変化したものと考えられ. では直流系喪失のため作動しなかった排気圧高トリップ. る。環状流になるとタービンの羽根の外周を水がふさぐこ. (Fig. 4 中 PT)が作動し停止してしまった(事故後この信. とになるので駆動力は極端に落ちてポンプ機能が低下し,. 号 は 不 要 と 判 明 )。 そ の 後 第 5 回 進 捗 報 告 の 添 付 資 料. 炉心注水量が急減し原子炉圧力は急増し(Figs. 6,7),原. 3–3,p12 に よ る と,「3/12 の 12:35 に HPCI が 原 子 炉. 子炉水位が急低下する。以上の流動様式の変化が複雑に絡. 水位低で自動起動した。運転員は原子炉水位高に水位が到. み 合 い 3/14 の 09 時 以 降 の 原 子 炉 圧 力 の 複 雑 な 上 昇 に. 達して HPCI が自動停止しないよう,流量制御器(FIC)に. なったものと思われる。その場合でも,蒸気流量は急減す. よる流量調整と,テストラインを用いて注水の一部を復水. るものの高温水流は十分に流れるので原子炉から格納容器. 貯蔵タンク(CST)に戻す運転を行っていた。3/12 の 20:. (S/C)内への放出エネルギーはそれほど影響を受けなく,. 36 頃,原子炉水位計の電源が喪失し原子炉水位の監視が. 原子炉圧力は 3/14 の 12 時から急増するが格納容器圧力. できなくなった。運転員は原子炉へ確実に注水されるよ. はそのまま 13 時半頃まで上昇していく。「原子炉水位の. う,HPCI の流量の設定値を若干上げて,原子炉圧力と. 急激な低下から,運転員は 3/14 の 13 時 25 分に RCIC 運. HPCI の吐出圧力等により,HPCI の運転状態を確認し. 転停止を判断した」とあり,RCIC を手動閉止(タービン. た」。HPCI 排気圧力は S/C スプレイにより一定に維持さ. 蒸気止め弁閉)していると想定され得る。それで蒸気や高. れているので,HPCI ポンプ流量は原子炉圧力だけに依存. 温水流も止まるので格納容器圧力は格納容器壁面からの放. することになる。原子炉圧力(Fig. 8)は 3/12 の 19 時頃. 熱等のヒートシンクにより急減している。. から 1 MPa 弱に維持されているが 20:36 の水位表示喪. 複雑な配管系の 2 相流は定性評価しかできないが,運. 失以降変化する。それ以降の推移について,第 5 回進捗. 転員操作の色々な「仮定」を置かずにこのような事態にな. 報告の中ではシステムの動きと運転員の関係についての記. Fig. 8. Reactor Pressure of Unit 31) 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).
(7) コメント(松岡. 80. Fig. 9. 強). Reactor Water Level of Unit 31). 述はない。一方,解析の結果(Fig. 9 の実線)「HPCI 停止. を点線で結んだもの) ,5~6 時間経過すると燃料上部が露. 時点で燃料は冠水(水位+2 m)していたので問題ない」 (添. 出ないしは気泡で覆われるようになったであろう。そうな. 付資料 3–1,p1)としているが,計測再開後の 3/13 の 04. ると崩壊熱の一部(γ 線)は素通りし蒸発に消費されなくな. 時からの実測値(水位-2 m)と大きく異なっている。とこ. るのでさらに原子炉圧が下がり(Fig. 8 の②の手前) ,S/C. ろがこの大きい違いについては HPCI の注水能力がすで. との差圧が減少しタービン回転数が減少しますます炉心注. に喪失していたからだとして,再解析するのではなく解析. 水 量 が 減 っ て い っ た。 具 体 的 に は,3/13 の 02 時 に 1. 値の妥当性根拠としている(添付資料 3–3,p12)のは大い. MPa( 蒸気比体積 0.19 m3/kg)あった原子炉圧は 42 分後. に疑問である。特に炉心冷却に最も重要な水位表示が消え. 3 の HPCI 停止時には 0.7 MPa( 蒸気比体積 0.27 m /kg)に. たことの影響に関する検討・記述がないのは非常に問題で. まで低下し,比体積は 1.4 倍も上昇し,燃料上部は蒸気泡. ある。. に覆われたであろう。1 MPa 以下の低圧での炉心冷却運 転は比体積の変化が著しいので水位と圧力の監視は非常に. 6. 3 号機 HPCI の機能喪失に対する新見解. 重要であることも今回の事故の教訓である。. そこで筆者は原子炉圧力の変化をもとに炉心流量および. このように配管破断用の大流量 HPCI 系を使用して,. 水位変化と運転員の行動を考察した。3/12 の 20:36 の. 大量のバイパス(テストライン)をしながら,かつ原子炉水. 水位表示喪失後,「流量設定値を若干上げた」とき,炉心. 位を保持しつつ崩壊熱に見合う炉心注水を行うことは水位. 圧がいったん下がり,その後すぐに再上昇している(Fig. 8. 計をみながらでも難しい。水位計が消えた段階で運転員は. の①) 。これは,炉心注入量が上がるとその分冷却され炉. 「若干設定点を上げた」といっているが,これは運転員の. 心圧がいったん下がる,すると圧力抑制室(S/C)圧との差. 感覚としてそれ以前から若干水位が下がり気味(実際は 2. 圧が減少するのでタービン駆動力が落ち,その結果,ポン. ~3 cm/分程度,Fig. 9 の?部点線)であったからであろ. プ流量が下がり炉心注水が減り,逆に炉心圧が再上昇した. う。. ためであろう。運転員は「設定値を上げた後炉心圧が下. 「その後,HPCI のタービンの回転数が操作手順書に記. がった」のをみて,「炉心注入量が上がったことを確認し. 載のある運転範囲を下回る低速度となり,13 日 02 時 42. た」と思ったが,それは一時的なものであった。その後. 分に HPCI を手動停止した」。停止後原子炉圧は急増し. タービン駆動力が落ちて注入量は下がった。それは,その. (Fig. 8 の②以降),炉心溶融へと進んだ。ここで重要なこ. 後 5~6 時間原子炉圧力が高めに維持されている(Fig. 8. とは,この履歴は運転員操作の結果ではなく,直流電源系. の①と②の間)ことでわかる。それは,流量設定値を上げ. が喪失した結果の必然的な運転履歴であり,直流電源系が. たのに炉心圧は(いったん下がったが)上がったのでバイパ. 一部活きていた 3 号機も,結局は 1,2 号機同様に全直流. ス流 (テストラインから CST への循環流)が増え,炉心注. 電源系喪失と同じになったということである。. 水流が減少したからであろう。すなわちシステム体系自. 以上 1 節から 6 節に示したように,炉心冷却系がすべ. 体,少し減少した流量が安定流量となっていたからであろ. て喪失した状態では,1,2,3 号機の運転員のすることは. う。そのために炉心水位は減少し続け(Fig. 9 の?部の点. 限られており,現行設計では炉心溶融を避けることは無理. 線部は水位表示が消えた時間帯で,その実測値(補正値)間. であった。しかし運転員の努力により,本来炉心溶融は 1. 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).
(8) 東電福島事故の原因究明. 81. 号機と同様に 8 時間ほどで始まるが,2 号機は 3 日間,3. 炉心水位をみながら(タービン排気系は蒸気単相流で). 号機は 1.5 日間ほど炉心冷却が継続でき,もしその間に電. RCIC 系の運転を行った。しかし長期電源喪失を想定して. 源復旧していれば炉心溶融は避けられた。それは実らな. いなかったので,排気圧高トリップ信号が発信し(2 号機. かったが運転員の隠れた功績といえる。. RCIC 系が止まり,その後自動起 は直流喪失で発信せず). IV. 結 言. 動した HPCI も途中で直流電源消耗の結果水位計がみえ なくなり停止せざるを得なくなった。結局 1,2,3 号機. 炉心冷却の設計からみた今回の事故原因は,全電源(直. とも長期全電源系喪失と「閉じ込める」優先の設計の 2. 流・交流)系が配電系を含め長期に喪失(第一の要因)して. つの要因により炉心冷却機能喪失となり,その結果炉心溶. しまい,特に設計上想定もしていなかった直流系の全喪失. 融となった。. で炉心冷却機能の喪失となった。さらには,その結果中央. 事故原因の 2 つの要因は設計指針や基本設計の見直し. 制御室は真っ暗闇となり運転員は操作も監視も十分にでき. が必要であるが,第一の要因については電源強化という個. ず,「閉じ込める」を優先していた(第二の要因)ために,. 別対応はなされているが「全電源系の長期喪失下で炉心冷. 全電源系喪失下ではその後の「冷やす」(炉心冷却)操作が. 却維持可能なシステム」という基本設計に戻っての検討は. できなくなっていたことを明らかにした。具体的には,全. なされていない。第二の要因の「冷やす」より「閉じ込め. 電源系が喪失した 1 号機では,「閉じ込める」を優先して. る」を優先していた設計の見直しについても十分な議論が. 電源喪失時閉弁としていた IC 系が機能喪失し炉心冷却不. なされているようには思われない。現行軽水炉(PWR,. 能になった。また,同一システムで構成されている 2 号. BWR)は崩壊熱を利用するタービン動ポンプをもっている. 機と 3 号機を比較すると,初めから全電源系喪失の 2 号. ので設備上の対応は容易である。今後基本設計や設計指針. 機においては,RCIC 系がタービン排気系の加減弁全開の. に立ち戻っての議論や対応がなされることを期待したい。. 無制御運転となり,蒸気配管まで炉心水が上昇し蒸気水 2 相流で 3 日間運転できた。しかしベント弁が「閉じ込め る」優先の Fail Close 設計だったために閉弁しており, 崩壊熱は原子炉および格納容器内に閉じ込められていたの で,結局は 2 相流が不安定化し RCIC 系停止となった。 一方,3 号機は直流電源系が一部活きていたので運転員は. ̶参考文献̶ 1)TEPCO, Unconfirmed items in Fukushima meltdown accidents(5th Report), Yahoo! JAPAN(online)available from 〈https://www.tepco.co.jp/decommission/information/ accident_unconfirmed/〉,(accessed on 20 Dec., 2020),[in Japanese].. 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).
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