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[日本]混成アジア映画としての日本映画

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Academic year: 2021

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233映画に見るアジアのナショナリティの揺らぎ 232 近年の日本映画の状況の特徴として、世界的な傾向であ る映画の製作においてのボーダーレス化が進んでいること が挙げられるであろう。アート系映画が世界的に厳しくな るなか、映画祭をはじめとしたヨーロッパのファンドがア ジアのアート系映画を支援するという構図が目立ち、合作 映画が増えている。日本国内でも、まだまだ欧米に目を向 ける人も多いが、アジア、特に東南アジアに目を向ける映 画人が出ている。欧米よりも安い旅費で行けるし、英語が 通じる地域が多いし、製作費も安くあがる。そういった実 利的なこともあるだろうが、アジアに目を向ければ自然と 向き合わなければいけない、日本がアジアに残した負の遺 産に若い世代がきちんと向き合おうとしていることは単純 に喜ばしいことであろう。逆にさまざまな理由から、アジ アから日本への越境も増えている。アジアであることを自 覚 し た 日 本 映 画、 ア ジ ア と 繋 が り を 持 つ 日 本 映 画 が 今、 いったいどういう状況になっているのか模索することがこ の論の目的である。 そ れ で は さ っ そ く 具 体 的 な 映 画 作 家、 作 品 を 見 て い こ う。日本からアジアへ、アジアから日本へ。二つの越境に より多様な国籍や人種が入り混じる製作の現場から、どの ように「混成アジア映画」としての日本映画が立ち上がっ ているのだろうか。 日本からアジアへ ― ―アジアを舞台とした作品を作る日本人監督 ま ず 移 民 を テ ー マ の 一 つ と し て 製 作 し た 『 サ ウ ダ ー ヂ 』 で ブ レ イ ク し た 空 族 が 挙 げ ら れ る だ ろ う 。 空 族 の 脚 本 家 で も あ る 相 澤 虎 之 助 は 、 バ ッ ク パ ッ カ ー と し て 東 南 ア ジ ア を 回 っ て い た 学 生 時 代 か ら ア ジ ア 、 特 に 東 南 ア ジ ア の 歴 史 に 興 味 を 持 ち 、 ラ イ フ ワ ー ク と し て バ ビ ロ ン シ リ ー ズ を 製 作 し て い る 。 別 名 「 ア ジ ア 裏 経 済 シ リ ー ズ 」 と も 言 い 、 ま だ 二 作 目 ま で し か 完 成 し て い な い が 、 三 部 作 と し て 「 麻 薬 」 る。 『歓待』 『サウダーヂ』にも思うように言葉が通じない 状 況 が 描 か れ て い た が、 『 BAD FILM 』 で は 多 言 語 状 況 が い っ そ う 推 し 進 め ら れ て お り、 「神 風」 と「白 虎 幇」 の メ ン バ ー は 大 半 が 自 分 た ち の こ と ば し か 理 解 し な い。 そ こ で、相手に言いがかりをつけるにも交渉するにも通訳の存 在が欠かせないことになる。しかし両チームをつなぐパイ プ役となってしかるべき二人の通訳が、実はもっとも激し く対立を望んでいるのだ。コインランドリーで通訳どうし が 会 話 す る 場 面 で、 「神 風」 の 日 本 人 通 訳 は「お 前 た ち 漢 民 族 を 憎 ん で る」 「じ ゃ あ 帰 っ た ら?   そ ん な ご 大 層 な 国 な ら。 何 で 日 本 に 来 た の か ね」 と 吐 き 捨 て る。 「白 虎 幇」 の 中 国 人 通 訳 は「い い 質 問 だ ね」 と 受 け 流 し、 「中 国 人 は 日本も中国だと思ってんだなあ」と言って立ち去る。この 二人は、対立を煽るという点では意見が一致し、恋人どう しである日本と中国の少女が互いに相手チームによって殺 され死体を送りつけられたように偽装する。 互いのことばを学ぶことは相手を理解することにつなが る、と外国語教育の場ではよく口にされるが、この映画で は相手のことばを全く解さない少女たちが固い愛情で結ば れる一方、互いの言語に精通した通訳が憎悪を煽るという 点で痛烈な皮肉になっているとも受けとめられる。 右に挙げた三本の映画はいずれも、相手を理解すれば憎 悪は消えるとして異文化学習や外国人との交流を勧めるこ とを主眼とするような作品ではない。むしろ、理解できる 相手だから仲間として見なすとか、理解できない他者であ れば排除の対象になるといった前提そのものを覆す作品で あ る と い う べ き か も し れ な い。 理 解 で き よ う が で き ま い が、他者は自分の生活圏内に存在しており、さらには自分 も見方を変えれば他者として切り捨てられる対象にならな いとも限らない。そういった不透明な社会の様相が反映さ れているといえるだろう。 映画リスト BAD FILM 』…… ① BAD FILM 、 ② 園 子 温、 ③ 二 〇 一 二 年、 ④ 日 本、 ⑤ 日 本 語、 中 国 語、 広 東 語、 ⑥ カ ナ ザ ワ 映 画 祭 2012XXX (二 〇 一 二) 、 D V D 販 売( 『園 子 温 監 督 初 期 作 品 集 DVD-BOX 』所収) 。 『歓 待』 …… ① 歓 待 / hospitalite 、 ② 深 田 晃 司、 ③ 二 〇 一 〇 年、 ④ 日 本、 ⑤ 日 本 語、 英 語、 ⑥ 劇 場 公 開(二 〇 一 一) 、 D V D 販売。 『サ ヂ』 …… ① サ ウ ダ ー ヂ、 ② 富 田 克 也、 ③ 二 〇 一 一 年、 ④ 日 本、 ⑤ 日 本 語、 タ イ 語、 ポ ル ト ガ ル 語、 ⑥ 劇 場 公 開(二 〇一一) 。 著者紹介 一二五頁に掲載。

混成

アジア

映画

としての

日本映画

夏目深雪

【日本】

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235映画に見るアジアのナショナリティの揺らぎ 234 ク ・ レ イ ン 』 の よ う に 日 本 の 異 国 情 緒 を 強 調 し 、 ア メ リ カ 映画が 日本を舞台に しただけといっ たものが多 かった 。今 から取 り上げる作品 が新しいのは 、 さまざまな理 由でアジ アの監督が日本で映画を撮るようになったということ自体 ももち ろんだが 、日本 が資本を提供 している日本 映画か合 作映画 であることが 多く 、マーケッ トに日本を想 定してい る こ と も あ っ て か 、 日 本 人 俳 優 を 起 用 し て い る こ と だ ろ う 。 時代順に紹介していこう。まずはトラン・アン・ユンの 『ノルウェイの森』 。一二歳の時からベトナム戦争を逃れる ためフランス在住だったトランはもともと越境者であり、 地域性を厳密に再現することには興味がなかった節がある が、村上春樹のベストセラーを映画化した『ノルウェイの 森』でも大胆な演出をしている。まず、この映画ではトラ ンが日本人俳優の起用を希望し、全員日本人俳優が演じて いる。その意味では日本人にとって違和感が少ないはずで あるのに、妻で女優でもあるトラン・アン・イエン・ケー の仕事であるベトナム風の室内装飾、リー・ピンビンのカ メ ラ ワ ー ク な ど に よ り、 「ど こ で も な い」 風 景 が 広 が っ て いるという印象が強い。台詞も小説の台詞をそのまま喋っ て い る (こ れ は 主 演 の 松 山 ケ ン イ チ の 希 望 だ っ た と い う) ので生硬で、日本人にとっては違和感が残るものとなって いる。しかし、それが小説世界の特異性を表すのに結果的 に 役 立 っ て い る と も 言 え る の だ。 登 場 人 物 の 浮 遊 感 は 際 立 っ た も の で あ り、 「今 ど こ に い る の?」 と 緑 に 問 わ れ て 主人公が所在無げに辺りを見回すラストシーンが文学的な 意匠にとどまらず圧倒的なリアリティを持っている。 次にアッバス・キアロスタミの『ライク・サムワン・イ ン・ラブ』を紹介しよう。イランでは二〇〇五年のアフマ ディネジャド大統領選出後、検閲の問題が頻出するように なっていた。この頃からモフセン・マフマルバフに代表さ れるように、自主的にイランを離れ、国外に拠点を置く作 家が出てくる。ついに二〇一〇年春にジャファール・パナ ヒとモハマド・ラスロフが反政府的な映画を準備した容疑 で逮捕され、同年末に有罪判決が言い渡されるという事件 が起きた。そんな状況もあってか、あの巨匠、キアロスタ ミが日本で映画を撮るという快挙が成し遂げられた。 『 ラ イ ク ・ サ ム ワ ン ・ イ ン ・ ラ ブ 』 は 日 本 と フ ラ ン ス の 合 作 で 、 俳 優 は 全 て オ ー デ ィ シ ョ ン で 選 び 、 製 作 費 の う ち 五 〇 〇 万 円 あ ま り を 日 本 で の ク ラ ウ ド ・ フ ァ ウ ン デ ィ ン グ で 集 め た こ と も 話 題 と な っ た 。 八 四 歳 の 元 大 学 教 授 ・ タ カ シ は デ ー ト ク ラ ブ を 通 じ て 女 子 大 生 の 明 子 を 家 に 呼 ぶ 。 し か し明子の恋人で嫉妬深いノリアキが二人が車に同乗してい る と こ ろ を 目 撃 し 、 物 語 は 思 わ ぬ 方 向 に 転 ん で い く … … 。 話は単純なのだが、この映画はキアロスタミの手練れの技 術によって、非常に面白いものになっている。まず、外国 人が日本人を撮った映画を日本人が観る場合、自然とあら 「 戦 争 」「 売 春 」 を 順 に テ ー マ に す る と 言 う 。 一 作 目 『 花 物 語 バ ビ ロ ン 』 で は 、 タ イ の 日 本 人 旅 行 者 を 映 し た フ ィ ル ム 映像にモン族のアヘンにまつわる歴史についての字幕が挿 入 さ れ る ( 写 真 ) 。 二 作 目 『 バ ビ ロ ン 2 ― ― THE OZAWA ― ― 』 で は 、 日 本 か ら ベ ト ナ ム に 逃 げ て き た 男 が 「 自 称 〝 革 命 家 〟」 の 怪 し い 男 と 出 会 い 、 い つ し か ベ ト ナ ム の 戦 場 に 紛 れ 込 む 。 空 族 の 富 田 克 也 作 品 と し て も 、 売 れ な い 役 者 が バ ン コ ク を 訪 れ 、 そ こ で 出 会 っ た 二 人 の 女 性 と タ イ 北 部 の 町 チ ェ ン ラ イ を 目 指 す ロ ー ド ム ー ビ ー の 短 編 『 チ ェ ン ラ イ の 娘 』 と い う 作 品 が あ る 。 ド キ ュ メ ン タ リ ー で は 、 二 〇 〇 五 年 よ り バ ン コ ク を 拠 点 に テ レ ビ 番 組 の 取 材 と 並 行 し て 、 イ ン ド ネ シ ア 、 タ イ ・ ビ ル マ 国 境 付 近 に い る 日 本 未 帰 還 兵 の 取 材 を 始 め 、『 花 と 兵 隊 』 と し て ま と め た 松 林 要 樹 が い る 。 こう書いただけでも、まだ三十代の相澤、富田、松林が ア ジ ア の (日 本 も も ち ろ ん 莫 大 な 負 の 遺 産 を 残 し て い る) 血塗られた歴史および現在の問題点に真正面から向き合お う と し て い る の が わ か る だ ろ う。 『バ ビ ロ ン 2― ― THE OZAWA ― ― 』 では、 幼い現地の娼婦を欧米人とおぼしき 男性が連れている映像が出てくる。松林も、からゆきさん に関するドキュメンタリーを観たことが記録映画の世界に 進むきっかけだったと言う。アジアで映画を撮った監督と し て は 柳 町 光 男 や 池 谷 薫 な ど 先 人 が い な い わ け で は な い が、まだ若いインディーズの映画作家である彼らは、必要 であればアジアに長期滞在し、現地に溶け込むフットワー クの軽さが身上であり、それが作風の自由さや一貫性に繋 がり少なくない固定ファンを獲得している。特に空族の相 澤と富田が作る作品は、日本人がアジアを訪ねるという設 定の多さからわかるように、常に「アジア/日本」の二項 対立を問題意識として持ち、日本に対しての風刺を込めて いる。しかしそういったテーマのわりに生真面目になり過 ぎず、東南アジアにはまったことがある人なら覚えがある であろう、その麻薬的な魅力を十二分に表している。 アジアから日本へ ― ―日本を舞台に作品を作る外国人監督 日 本 を 舞 台 に し た 外 国 映 画 は 昔 か ら あ っ た が 、『 ブ ラ ッ 写真 『花物語バビロン』より

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237映画に見るアジアのナショナリティの揺らぎ 236 映画リスト 『C T』 …… ① C U T、 ② ア ミ ー ル・ ナ デ リ、 ③ 二 〇 一 一 年、 ④日本、⑤日本語、⑥劇場公開(二〇一一) 、DVD販売。 『サ ヂ』 …… ① サ ウ ダ ー ヂ、 ② 富 田 克 也、 ③ 二 〇 一 一 年、 ④ 日 本、 ⑤ 日 本 語、 タ イ 語、 ポ ル ト ガ ル 語、 ⑥ 劇 場 公 開(二 〇一一) 。 『チ 娘』 …… ① チ ェ ン ラ イ の 娘(オ ム ニ バ ス 作 品『同 じ星の下、それぞれの夜』内) 、②富田克也、③二〇一二年、 ④日本、⑤日本語、タイ語、⑥劇場公開(二〇一三) 。 『ノ 森』 …… ① ノ ル ウ ェ イ の 森、 ② ト ラ ン・ ア ン・ ユ ン、 ③ 二 〇 一 〇 年、 ④ 日 本、 ⑤ 日 本 語、 ⑥ 劇 場 公 開(二 〇 一 〇) 、DVD販売。 『花 隊』 …… ① 花 と 兵 隊、 ② 松 林 要 樹、 ③ 二 〇 〇 九 年、 ④ 日 本、 ⑤日本語、 ビルマ語、 タイ語ほか、 ⑥劇場公開 (二〇〇九) 。 『花 ン』 …… ① 花 物 語 バ ビ ロ ン、 ② 相 澤 虎 之 助、 ③ 一 九 九 七 年、 ④ 日 本、 ⑤ 日 本 語、 英 語、 タ イ 語、 ⑥ 爆 音 映 画 祭、アップリンクにて特集上映等。 『バ ―― THE OZAWA ―― 』…… ① バ ビ ロ ン 2―― THE OZAWA ――、②相澤虎之助、③二〇一二年、④日本、 ⑤日本語、英語、ベトナム語、⑥劇場公開(二〇一二) 。 『ブ ク・ ン』 …… ① Black Rain 、 ② リ ド リ ー・ ス コ ッ ト、 ③ 一 九 八 九 年、 ④ ア メ リ カ、 ⑤ 英 語、 日 本 語、 ⑥ 劇 場 公 開(一九八九) 、DVD販売。 』… … ① Like Someone in Love 、 ② ア ッ バ ス ・ キ ア ロ ス タ ミ 、 ③ 二 〇 一 二 年 、 ④ 日 本 、 フ ラ ン ス、⑤日本語、⑥劇場公開(二〇一二) 。 著者紹介 ①氏名…… 夏目深雪(なつめ・みゆき) 。 ②所属・職名…… フリーランス。 ③生年・出身地…… 静岡県。 ④ 専 門 分 野・ 地 域 …… 映 画・ 演 劇、 地 域 は 最 近 ア ジ ア 映 画 の 仕 事が多いが元々はあまりこだわっていない。 ⑤学歴…… 明治学院大学文学部フランス文学科卒。 ⑥ 職 歴 …… 大 学 卒 業 後、 出 版 社 で 編 集・ 制 作 な ど に 四 年 ほ ど 従 事、 そ の 後 も 編 集・ 執 筆・ 校 正 な ど に 携 わ る。 共 著 書『ゼ ロ 年 代 ア メ リ カ 映 画 一 〇 〇』 (芸 術 新 聞 社) 、 共 編 書『ア ジ ア 映 画の森   新世紀の映画地図』 (作品社) 。 ⑦ 現 地 滞 在 経 験 …… 二 六 歳 か ら 一 年 間 フ ラ ン ス・ パ リ に 私 費 留 学。フランス語を勉強し直しながらシネフィル生活を送る。 ⑩ 研 究 上 の 画 期 … … 三 ・ 一 一 。 九 ・ 一 一 か ら 三 ・ 一 一 へ と 、 世 界 は 私 に 映 画 を 嫌 わ せ よ う と し て い る よ う な 気 が し た 。 繰 り 返 し 流 さ れ た 津 波 の 映 像 も 、 そ の 後 の 原 発 事 故 の ゴ タ ゴ タ も 、 私 に は 何 故 か 映 画 そ の も の の よ う に 思 え た 。 そ こ か ら ア ジ ア 映 画 研 究 と 演 劇 鑑 賞 に の め り 込 む よ う に な っ た の だ が 結 果 は ま だ 出 て い な い 。 ⑪ 推 薦 図 書 …… 共 編 書『ア ジ ア 映 画 の 森   新 世 紀 の 映 画 地 図』 (作 品 社、 二 〇 一 二 年) 。 ア ジ ア 映 画 の バ イ ブ ル と し て 家 に 一 冊置いてほしい。 ⑫ 推 薦 す る 映 画 作 品 … …『 ラ イ ク ・ サ ム ワ ン ・ イ ン ・ ラ ブ 』( ア ッ バ ス ・ キ ア ロ ス タ ミ 監 督 、 二 〇 一 二 年 、 日 本 ・ フ ラ ン ス )。 今 の 日 本 へ の 挑 戦 。 捜しをしながら観ると思うのだが、この映画では「元大学 教授の老人」 「尻の軽い女子大生」 「嫉妬深く粗野な男」そ れぞれの登場人物の情報は極力抑えられる。明子がノリア キの嫉妬に苦しめられている情報が与えられるくらいで、 観客もタカシと一緒に初めて明子に、そしてノリアキに逢 う。 観 客 は 自 然 と 登 場 人 物 と シ ン ク ロ す る。 さ ら に 撮 影 中、脚本は俳優にその日の分しか渡されないという撮影方 法から、俳優=登場人物=観客の三者がシンクロする。そ れ ぞ れ の キ ャ ラ ク タ ー は 日 本 の 初 老 男 性 の ム ッ ツ リ 助 平 さ、若い女性のしたたかな愚かさ、ガテン系の若い男の苛 立ちなど、日本社会の特徴が的確に反映されているので、 ノリアキが唐突に車中のタカシに話しかけるただそれだけ のシーンに、思わぬ劇的さが起生する。観客自身が映画の 中で登場人物となって体験しているような臨場感があり、 かつ日本人も、日本を風刺的に外から観ることができるよ うな、刺激的な「日本映画」となっている。 故国を離れて各国で映画を撮っている二人の巨匠の「日 本映画」を見てみた。日本を異化し「どこでもない場所」 を立ち上げてしまうトラン・アン・ユン、戯画化された舞 台=日本を登場人物=俳優=観客の三位一体が冒険すると い っ た 体 の『ラ イ ク・ サ ム ワ ン・ イ ン・ ラ ブ』 。 そ れ ぞ れ さ ま ざ ま な 理 由 で 国 を 追 わ れ た (あ る い は 自 ら 捨 て た) 彼 ら だ か ら こ そ の ワ ク ワ ク す る よ う な 冒 険 で は な い だ ろ う か。他にも外国人が日本で撮った作品としてはアミール・ ナ デ リ (イ ラ ン) が 西 島 秀 俊 を 主 演 に 全 編 日 本 ロ ケ で 撮 っ た「まさに日本映画」とも言える『CUT』などがある。 混成アジア映画としての日本映画 日本においての映画の公開状況に目を向けてみれば、一 番の特徴は洋画が弱く邦画が強くなったことであろう。二 〇〇五年についに公開本数・配給収入ともに邦画が洋画を 追い越した。人々、特に若者が内向きになっているのは世 界的な傾向であるというし、もちろん不況が影響してもい るだろう。日本社会全体が右傾化していると言われ、尖閣 諸 島 に 端 を 発 す る 中 国 と の 軋 轢 は、 そ の 年 (二 〇 一 二 年) の東京国際映画祭の出品拒否、上映ボイコット告知など映 画界にも影響を与えた。韓国との竹島をめぐる問題や慰安 婦 問 題 な ど の さ ま ざ ま な 問 題 も 決 し て 解 決 し た と は 言 え ず、何が真実なのかの歴史の検証や さまざま な見解が新聞 を、煽情的な記事が週刊誌を賑わしたのも記憶に新しい。 が、あえてトランに倣って「国などない。人間がいるだけ だ」とうそぶき、キアロスタミに倣って「真実などない。 それぞれ当事者にとっての真実があるだけだ」とうそぶく 時が来たのではないだろうか。国境を軽やかに超える巨匠 たちが笑っているようだ。

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