本間哲夫先生を偲んで
令和元年(2019年)8月21日、東北膝関節研究会会長 本間哲夫先生が急逝されました。 ある研究会の座長をされた後の懇親会で急に倒れられたもので、未だに信じ難いのですが、本 研究会を代表して本間先生を偲びたいと思います。 本間先生は、昭和47年(1972年)東北大学医学部を卒業され、青森県立中央病院外科で2 年間の研修を終えられた後、昭和49(1974年)東北大学整形外科に入局されました。翌昭和 50年(1975年)より、東北大学第2病理学教室に出向して主に骨病理について研鑽を積まれ た後、昭和53年(1978年)に東北大学整形外科助手、昭和57年(1982年)に講師となられ、 当時の若松英吉教授のお仕事の中心であった「骨粗鬆症の硬組織学的研究」の中核を担われま した。私たちの世代では多くの者が本間先生のご指導の下で学位を取らせていただきました。 また膝関節外来に関しては、これも若松教授に2度にわたって2段重ねの鰻重をご馳走になっ て、断るに断れなくなって始めたというお話を聞いております。これが昭和59年(1984年) のことでして、東北大学の膝関節外来のスタートは決して早かったわけではありませんでした が、関節鏡視下手術などの手技を瞬く間に習得されて、膝関連の学会、研究会でも全国デビュー を果たされました。私事になりますが、この頃大学に戻った私は、学位の仕事ばかりでなく膝 関節外来にも誘っていただきまして、以来30年以上にわたってご指導を頂いてきたことにな ります。その後、平成元年(1989年)にはNTT東北病院整形外科部長に転任、平成5年(1993 年)には本間記念東北整形外科を開院され、膝関節疾患の診療ばかりでなく、数多くの後輩の 指導にも心を砕いてこられました。 さて、東北膝関節研究会は、昭和52年(1977年)に大平信廣先生のご尽力により、東北大 学整形外科談論会のうちの1回を借りて行うという形で始まっておりますが、昭和62年(1987 年)の第11回からは、東北各県の幹事を中心に会が運営されてきました。会長は、東北大学 の若松英吉教授、福島県立医科大学の松本淳教授、大平先生と続き、平成14年(2002年)か ら本間先生が17年間にわたって務めてこられました。その間、「膝関節への理解・興味を広め るためには、膝以外の領域を専門としている先生方や手術をしない開業医の先生方にも参加し て頂くことが必要」との大平先生のお考えを踏襲して、膝関節疾患の基本的な診断学や保存的 治療に関する講演も設けるようにしながら会を運営してこられました。 本研究会では、「東北膝関節研究会会誌」という会誌を発刊しておりますが、地方の研究会 で会誌を発刊しているということは非常にまれであり、誇っていいことだと思われます。これ 東北膝関節研究会会誌 Vol. 29 (2020) 1は、平成3年(1991 年)に「発表演題を記録として保存するとともに、内容を全国に向けて 発信しよう」という、当時の大平会長のお考えから始まったものですが、以来、東北整形外科 に事務局を置いて本間先生が発刊を続けてこられ、令和元年(2019年)現在28巻となってい ます(東日本大震災の際には休刊)。最近では、世界中からのフリーアクセスが可能となり、 現時点で約15万件検索され、マサチューセッツ工科大学やピッツバーグ大学からも検索があっ たとのことです。このように東北膝関節研究会は、本間先生が膝関節外科医としての人生の中 で最も力を注いできたことの一つだったことは間違いがないと思います。 本間先生には、膝疾患に関することばかりでなく、整形外科医として、あるいは医者とし ての心構えなど、実に多くのことをご指導いただきました。「レントゲンではmalignant tumor だけは絶対見逃すなよ」、「分からない時は分からないと説明しなさい。患者は別の医者にかか り、そこで原因が見つかるかもしれないのに、お前が大丈夫だというと、見逃されたままにな るよ」、「前医の診断や治療に疑問を持っても、その先生を非難するようなことは言うなよ」、 「教科書は通読しなさい。アンダーラインなど引く必要はない。大事なことは何度も出てくる から自然と覚えられる」、「疾患は病因別に分けて考えなさい。変性疾患、炎症性疾患、外傷性 疾患、腫瘍性疾患、代謝性疾患などだよ」等々ですが、特に印象に残っているのは、「新しい 術式を考えても、時間が経ってより良い術式ができればすたれてしまう。しかし、病気の本質 に迫るような研究は、時代が変わっても色あせない。だからそのような研究をしなさい」とい うものです。酒を飲みながら、「東北膝での発表、ディスカッションの中からこういう研究が 出てくるといいんだよな」と語り合ったのも懐かしい思い出です。臨床家である我々にとって は、診断、治療が大切なのは言うまでもありませんが、「病気の本質に迫るような研究」にも 目を向けてみてはいかがでしょうか。本間先生も、東北膝の中からこういう研究が出てくるの を期待していると思います。 最後になりますが、本会会員を代表して本間哲夫先生のこれまでのご指導、ご尽力に心より 感謝申し上げます。本間哲夫先生、本当にありがとうございました。 令和2年(2020年)9月 東北膝関節研究会 会長代行 杉田健彦 東北膝関節研究会会誌 Vol. 29 (2020) 2