兵庫教育大学 研究紀要 第43巻 2013年 9 月 pp 37 49
聴覚障害児のイ ンク ルーシフ 教育の展開 ( 3 ) :
難聴学級 を持つ公立小学校での手話導入 ・ 活用の試み
Development of inclusive education for deaf and hard-of-hearing children (3) :
An attempt of signed language implementation to the primary school which had
sel f-contained special classes for hard-of-hearing pupils in Japan.
鳥 越 隆 士*
TORIGOE Takashi
通常の学校が聴覚障害児の主要な教育の場 と な り つつあ る。 本研究は, こ のよ う なイ ンク ルー シフ な聴覚障害児への教 育 プロ グ ラ ムと し て , 近年 欧米 を中心 に拡が り つつあ る co-enrollment プロ グラ ムについ て , 現地調査 に よ り 検討 を行 っ てき た。 本論文では, こ れら を踏まえ, 日本の公立小学校での 3 年間にわたる手話導入 と活用に関す る実践 を報告す る。 手話は, ろ う 者社会で使用 さ れてい る自然言語であり , 日本手話 と日本語と い う 2 つの言語 (言語接触によ る中間的形式 も含め) を取り 扱 う と い う 観点から進め ら れた。 対象校には難聴学級が設置 さ れ, 当初11名の難聴児が在籍 し ていた。 取 組は, 難聴児への手話指導, 聴児への手話指導, 手話に関す る教員研修, 交流学級での手話通訳の 4 つから構成 さ れ, 実 践の プロ セ スがエ ス ノ グラ フ イ ツク な視点か ら 記述 ・ 分析 さ れた。 難聴児 に対 し ての指導で , あ るいは通常の教室の中で の実践で, 成人 者の役割が重要 と な るこ と , ま た単に新 し い言語の導入に と どま らず, 新たな関わり 方や指導の枠組み な ど, ま さ に文化的実践が重要な契機にな る こ と が明 ら かにな っ た。 最後に, 欧米等 で の調査 を も 踏ま え , 今後の聴覚障 害児 に対す るバイ リ ン ガリ ズ ムと イ ンク ルー ジ ョ ンの取組に関 し て議論 し た。The numbers of deaf and hard-of-hearing (DHH) children who enroll in the regular schools have increased these days. In the previous papers, I dealt with the co-enrollment program for those inclusive DHH children in European countries and USA, in an attempt to clarify the present situations of these programs through observation of the classrooms and interviews with teachers. In the present paper, I reported ethnographically the results and limitations of the 3-year project of implementing the signed language, the natural language of Japanese Deaf Community, into a regular primary school which had the sel f-contained special classes for DHH pupils. The project was consisted of 4 parts: Instruction of the signed language to DHH pupils, Instruction of the signed language to teachers, Instruction of the signed language to hearing pupils, and signed language inter- pretation in the regular classrooms. Results showed that not only a new language but also the new ways of communication and interaction (that is, a new culture) were needed and the presence of Deaf adults would be a crucial factor for implement- ing the signed language in the inclusive classrooms. Finally, we discussed the plausible future of practices concerning bilin- gualism and inclusion for DHH children.
キーワ ー ド : 聴覚障害児教育, co-enrollment program, 手話, 文化的実践
Key words : education for deaf and hard-of-hearing, co-enrollment program, signed language, cultural practices
1 問題の所在 聴覚障害児教育が大き く 変化 し てき た。 1 つには, 手 話の活用が挙げ ら れる だ ろ う 。 長い間, 多 く の国や地域 で, 手話は, そ れに対す る偏見から , あ るいは音声言語 の獲得 を妨 げ る も の と し て, 教室から 排除 さ れて き た。 し か し ながら , 近年, 手話の自然言語 と し ての社会的認 識が進み, 学校で も教育言語の 1 つ と し て手話 を活用す る 取 組 が 進 め ら れつ つ あ る ( 鳥 越 ・ ク リ ス タ 一 ソ ン , 2003) 。 2 つには, 通常の学校や学級で教育 を受け る聴 覚障害児童 ・ 生徒の増加 であ る。 日本のみな ら ず欧米諸 * 兵庫教育大学大学院特別支援教育専攻障害科学 コ ース 国で も , ろ う 学校でな く 通常の学校が聴覚障害児の主要 な教育の場 と な っ て き てい る (Antia, Kreimeyer & Reed, 2010; Cemey, 2007; 鳥越, 2012a) 。 その背景には, 近年 の人工内耳等, 補聴機器技術の発展によ り , 聴覚活用の 可能性が格段に拡が っ て き たこ と があ ろ う 。 ただ聴覚障 害児 にと っ て, 通常の学校 (学級) での教育実践が, 時 には否定的 に捉え ら れて き た (Stinson & Antia, 1999;
Cemey, 2007) 。 例 え ば, イ ン ク ル ー シ フ 教育 の推 進 に お い て 重 要 な 役 割 を 担 っ た 「 サ ラ マ ン カ 声 明 」
(UNESCO, 1997) や現在批准の手続き が進め ら れつつ
あ る 「障害者の権利条約」 (United Nations, 2006) にお い て も , 聴覚障害児は コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン等, 他の障害 児 と 異 な る ニ ーズがあ り , 必ず し も イ ン ク ルー シフ な教 育環境が適切 と は言え ない こ と が議論 さ れてい る。 日本 におい て も , そのこ と が も た ら す様々な課題 につい て議 論 さ れて き た (岩田, 2006 ; 美濃 ・ 鳥越, 2007 ; 鳥越,
2008) 。
こ のよ う な中, 近年, 聴覚障害児へのイ ン ク ルー シフ 教 育 の新 た な 取 組 と し て co-enrollment プ ロ グ ラ ム ( あ る い は co-teaching) が 試 み ら れ つ つ あ る (Kirchner,1994; Kreimeyer et al, 2000; Bowen, 2008) 。 こ れら の プロ グラ ムでは, 教室に聴児 と 聴覚障害児がと も にい る こ と ( し かも聴覚障害児が一人で な く , 複数人数い る こ と ) , 聴児 と 聴覚障害児の相互の コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ンに 十分 な配慮 が な さ れてい る こ と , そのために手話環境が 整備 さ れてい る こ と , 通常の学級の教師 と 聴覚障害教育 専門の教師 (あ るいは聲教師) が協働的 に関わっ てい る こ と な どがそ の特徴 と し て挙 げ ら れてい る (Stinson & Kluwin, 2003; Cemey, 2007) 。 いわば, 教室環境が聴覚 障害児 に と っ てイ ン ク ルー シフ で あ り なが ら , 同時 に手 話 と 音声言語のバイ リ ン ガル教育実践がな さ れる試 みと 言え る だ ろ う 。 その成果 につい ては, 聴覚障害児の ク ラ
スへの参加や統合が進 んだ (Wauters & Knoors, 2008) , 学業 に関 し て も 成績が良か っ た (Kreimeyer ら , 2000) , 聴児 に も肯定的 な影響が見 ら れた (Bowen, 2008) 等, 断片的 なが ら肯定的 な報告がな さ れつつあ る。 本研 究 の先行 論文 で は , こ れ ら の co-enrollment プ ロ グラ ムに おい て, 具体的に どのよ う に 2 つの言語が教室 に存在 し, 教師がどのよ う に協働 し , また聴覚障害児や 聴児 に対 し て どのよ う に指導 や支援が な さ れてい るのか 等, 実践の具体的な様子を報告した (鳥越, 2011, 2012b)。 通常の学級に おけ るバイ リ ン ガルモ デル と し ては, 2 つ の モ デル ; モ ダリ テ イ 分離 (modality-separate) モ デル と モ ダ リ テ イ 混交 (modality-mixed) モ デ ル , が あ り (Simonsen ら , 2009) , 紹介 し た米国と イ タ リ アの プロ グ ラ ムが前者 に , ノ ルウ ェ ーの プロ グラ ムが後 者にあ た る と 考え ら れた。 いず れにおい て も , 教室内 に 2 つの言語 が存在 し , 生徒 たちはいずれかの言語 を通 し て, 情報へ の ア ク セ ス が図 ら れて い た。 し か し な が ら , 単線的 な ( フ ォ ーマ ルな) 情報の流 れに比 し て, 複線的 な ( イ ン フ ォ ーマ ルな , ロ ー カ ルな) 情報の流 れに対 す る ア ク セ ス に, 時 に困難があ る こ と も 明 ら かに な っ た。 学習が社 会的に構築 さ れ( ワ ー チ, 2004) , そのためには成員間で 質的に高い対話や相互交渉が重要であるこ と を考え る と , さ ら に様々な支援の方途の検討が必要であ る こ と が示唆 さ れた。 本論文 では, こ れら の結果 を踏まえ , 日本の公立小学 校 での 3 年間にわた る手話導入 と 活用の取組につい て報 告す る。 対象校は, 難聴学級 を併設 し てい る小学校で, 当初11名の難聴児が在籍 し ていた。 手話は日本のろ う 者 社会で使用 さ れてい る自然言語であ り , 手話の導入は, 学校 での 2 言語の使用 (バイ リ ン ガリ ズ ム) を意味す る と の考え に基づ き , 本取組が実施 さ れた。 こ れま で こ の種 の取組につい て日本 でほ と ん ど報告 さ れた こ と がない。 そこ で, 本論文では, 取組をで き るだけ詳細に記述 し , エ ス ノ グラ フ イ ツク な観点 か ら質的 に分析す る。 そ し て 日 本 の 現 状 を 踏 ま え た , 聴 覚 障 害 児 の た め の co- enrollment プロ グラ ムの在 り 方 を検討す る こ と を目的 と す る。 2 取組の概要
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1 対象校 対象校は, A 市立 B 小学校で あ る。 市の中心街に位 置 し , 在籍児童数は180名程度で, 1 学年単学級の小規 模校 で あ る。 B 小学校は A 市 の唯一の難聴学級設置校 であ り , 難聴児教育のセ ンタ ー校 と 位置付け ら れてい る。 ま た隣接す る中学校に も 難聴学級が設置 さ れてい る。 難 聴児は当初11名が在籍 し てい た ( 3 年日 には15名) 。 難 聴児は, 通常, 国語と算数は難聴学級で授業 を受け るが, それ以外の科目は交流学級 (難聴児にと っ ては 「交流学 級」 で あ るが, 以下, 「通常学級」 と 記す) で授業 を受 け てい た。 難聴学級では, 10年ほ ど前から , 難聴学級担当教員 に よ り , 手話 (通常, 音声語併用がな さ れてい る) の導入 が始 ま っ た。 ただ授業 のキーワ ー ド と し て手話単語 を単 発的 に表現す る レ ベルか ら , 音声語 を発話 し ながら一貫 し て手話単語 を表現す る な ど, 教員 によ る違いはあ る。 行事等 を除い て, 通常学級の授業 で手話通訳等の配置は な さ れてい ない。 難聴児の手話使用の実態 も様々であ る。 多 く は高度難聴で あ るが, 人工内耳 あ るいはデ ジ タ ル補 聴器 を装用 し てお り , 通常は音声言語によ る生活 を行 っ てい る。 従 っ て, ほと んど手話 を使用 し ない者から , 難 聴児同士 で, あ るいは難聴学級担任に対 し て音声語と 併 用 し て手話 を使用す る者ま でい た。 聴児 に対す る手話に 関わる日常的 な取組はないが, 単学級であり , 6 年間 ク ラ ス替え がない ため, 高学年 にな る と 難聴児 と 手話で積 極的に会話 をす る者 も い る。 通常学級の授業で も , 聴児 によ る簡単 な手話や指文字 な どによ る自発的 な支援が散 見 さ れる。 年 に 1 回程度, 通常学級で難聴学級担当教員 に よ る 難聴理解教育 が実施 さ れて い る。 ま た週 に 1 回 ( 1 校時) 難聴児全員が集ま り , 自立活動にあた る学習 活動が継続 し て実施 さ れてい る。 なお本対象 校に対 し て, 著者の研究 グルー プは, こ れ ま で障害認識や コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンの実態把握等 の調査 研 究 を実 施 し て き た ( 藤本 ・ 鳥 越, 2012; 細見 ・ 鳥 越, 2011; 山本 ・ 鳥越, 2011) 。 た だ し , こ れら は参与観察を主な調査方法 と し た も のであ り , 本研究のよ う な手話 導入に関わる介入的取組は, こ れま で実施 さ れてい ない。
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2 取組内容と 期間 取組内容及び期間, 実施の具体的方法等は, 事前の難 聴学級担当教員 と の協議に基づ き決定 し た。 内容は, ① 難聴児への手話指導, ②聴児への手話指導, ③手話に関 す る教員研修, ④通常学級での手話通訳配置, の 4 つ と し た。 そ れぞれの実施期間は, ①は 1 年目 2 学期から 3 年目の終了ま で, ②は 3 年目 1 学期及び 2 学期, ③は 2 年目及び 3 年目の夏期休業中, ④は 2 年目の 2 学期及び 3 学期 であ っ た。 なお取組につい ての保護者への説明は, 難聴学級担当教員 を通 し て行 われ, 了承 を得た。 3 難聴児への手話指導3
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1 目的 本取組は, 難聴児に対 し て手話の指導 を行 う も のであ る。 前述 し た通り , 難聴学級担当教員 によ り , 手話の活 用がな さ れてい るが, 2 言語使用 と し ての視点 で な く , あ く ま で も 音声言語の補助手段 と し ての役割 であ っ た。 使用 さ れる手話 も , 手話単語のみの レベルであ り , 音声 語に併用 し て使用 さ れてい た。 難聴学級担当教員は, 難 聴児 と 聴児の間 での, あ るいは難聴児同士 での コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンの難 し さ を常 に感 じ てお り , ま た難聴児が将 来手話 を使 っ た生活 をす る可能性 も あり , で き れば児童 期から手話の世界や大人の聴覚障害者にも接 し て欲 し い と の希望 を持 っ てい る と 語 っ てい る。 ま た こ れら の考え は保護者 と も共有 さ れてい る と の こ と で あ っ た。 そこ で 1 年目 2 学期よ り , 成人ろ う 者によ る日本手話 に よ る手話指導 を導入す る取組が始 ま っ た。 た だ本論文 では, 紙面の関係から , 特に, 指導の初期の段階に焦点 をあて, 難聴児の手話学習の様子 を報告す る ( 3 年間の 難聴児 の手話学習 過程全体に つい ては別稿 に 譲 る) 。 具 体的には, 日本手話と い う 新 し い言語や日本手話話者に 対 し て, 難聴児がま ず どのよ う に関わり , ま た どのよ う な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ・ ス ト ラ テ ジ ー (例え ば, 声 の使 用) を と るのか, 学習の進行 に伴い , こ れら が どのよ う に変化す るのか等, 手話学習空間の構築過程につい て記 述的 に分析す る。 さ ら に, そ れら を も と に社会 ・ 文化的 な視点 から今後の難聴児への手話指導のあ り 方 につい て 検討 し たい。3
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2 方法 対象児 難聴学級に在籍す る難聴児11名であ っ た ( 1 年生, 4 名 ; 2 年生, 2 名 ; 3 年生, 1 名 ; 4 年生, 2 名 ; 5 年 生, 2 名 ; 男子 7 名, 女子 4 名) 。 多 く は高度難聴であ るが, 人工内耳あるいはデジタ ル補聴器を装用 し ており , 通常は音声言語に よ る生活 を行 っ てい る。 いず れも両親 と も に聴者であ り , 第一言語は音声日本語と 考え ら れる。 手話に関 し ては, ほと んど使用 し ない者から , 難聴児同 士 で, あ るいは難聴学級担任に対 し て音声語と 併用 し て 手話 を使用す る者ま でい た。 継続的 に日本手話あ るいは 成人 ろ う 者 と 接 し てい る者はい ない。 手続き 指導者は, 成人 ろう 者で, 日常的に日本手話 を使用 し てい る。 ま たナ チ ュ ラ ルア プロ ーチ に よ る手話指導の研 修を受け た経験を持ち, 現在も大学等で手話指導を行 っ てい る。 概ね 2 週間 ごと に, 難聴学級で手話指導が行わ れた。 指導は 2 グループ ( 1 ~ 3 年生 7 名, 4 , 5 年生 4 名) に分け て行われ, 1 回の指導時間は45分であ っ た。 1 年目には計10回の指導が行われた。 表 1 に10回分の凡 その指導内容 を示 し た。 指導は, ナチ ュ ラ ルア プロ ーチ を基本 と し て, 手話によ る対話や相互交渉 を通 し て (身 振り や絵な ど視覚的教材等 も利用 し て) 行われた。 指導 の様子はすべ て ビデオ収録 さ れた。 表 1 . 難聴児に対する凡その手話指導内容 回 指導内容 1 名前, 色, 色 さ が し ゲーム, 数字 2 家族, 家族かる た, お話 し を演 じ る 3 空間の表現, 伝言ゲーム (CL 表現 を使 っ て) 4 絵本の読み聞かせ, 動物かる た 5 1 日の生活 6 絵本の読 み聞かせ, 手遊 び 7 喫茶店, お金の手話 8 絵本の読み聞かせ, 間違い探 し ク イ ズ 9 対話 (お正月の経験) , 絵本の読み聞かせ 10 対話, お話 しの間違い探 し , お話 し を演 じ る 分析 収録 さ れた手話指導場面から , 対話や相互交渉に関わ るエ ピ ソ ー ド を抽出 し た。 特 に ミ ス ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン場面に着目 し , そ れら を社会 ・ 文化的 な視点から , 質 的に分析 し た。 最終的には, 手話学習場面で, 何が起こ っ てい るのか, 仮説 を構築す る こ と を試みた。3
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3 結果及び考察 手話指導の場面か ら抽出 さ れたエ ピ ソ ー ド を分析 し た 結果, 大 き く 3 つに分類す る こ と がで き た。 「声の文化 と声のない文化」, 「身振り と手話の拮抗」, 「視覚的ルー ル」 で あ る。 以下 , そ れぞれを代表的 なエ ピ ソ ー ド と と も に, 詳述す る (エ ピ ソ ー ド部分はイ タ リ ッ ク 体で示 し た) 。 「声の文化」 と 「声のない文化」 難聴児 たちは, 普段の生活では音声言語環境の中にお り , 手話を使用する時も, 音声 を併用 し ていた。 しかし ながら , ろ う 講師の手話に接 し , 手話表出に声が伴わな く な っ た。 ま た声が併用 さ れる場合 に も , さ さ やき声 に な っ た り , 口型のみに な っ た り す る こ と があ っ た (エ ピ 聴覚障害児のイ ンク ルーシフ教育の展開 ( 3 ) : 難聴学級を持つ公立小学校での手話導入 ・ 活用の試みソ ー ト 1 ) 。 ま た指 さ し な ど身振 り の使用時に も 音声 を 伴わず, 口 を固 く 閉 じ て表出す るこ と もあ っ た (エ ピ ソ ー ド 2 ) 。 こ れら声のない振 る舞いは, ろ う 講師 に対 し て だけでな く , 難聴児同士の関わり で も見 ら れた (エ ピ ソ ー ド 3 ) 。 エ ピ ソ ー f
、l .' 色名の学習のあと, 教室内の色を探す
課題が与えられる。 児童は色 (マジッ ク, 磁石, 貼り紙
など) を見つけると, それらを次々に手話で講師に報告 する。 一人の児童が, 自分の服の青いとこ ろを見つける。「青」 の手話が分からなかったのであろう。 講師に手 を
振って, そこ を指 さ して, 口 を大 き く 開けて ( さ さやき声で) 「 ! 青 l 青 l _/ と言う。 講師は, 口形を見て, 青
を理解, 児童に青の手話を教える。
エ ピソード 2 . 児童は一通り自分たちの名前の手話表
現を学んだ。 講師は 「次に, 手話で名前を言うから, 言
われたら手を挙げて
_/ と言う。 一人ずつ手話で名前を言
う。 児童は手話で名前 を言われると黙 っ て手 を挙げる
(日常場面では, 名前 を呼ばれると挙手と と もに / ハイー/
と声 を伴っている)。
エ ピソード 3 .' ゲームで順番 を決めるため, みんなで ジ ヤンケ ン をす る。 ジ ヤンケ ンが, さ さや き声で な され る o 日本手話は視覚言語であり , 通常音声 を伴わずに表出 さ れる。 難聴児の日常場面 で使用 さ れる手話はあ く ま で も音声語の補助手段 と し て使用 さ れてい る ため, 音声が 伴 っ てい る。 ろ う 講師の日本手話に接 し て, 手話の表出 に声が必要で ない こ と と , ま た講師から む し ろ声がない 方が好 ま し い こ と を学 んだのだ ろ う 。 ろ う 講師 と の手話 の対 話 では声 を伴 わな く な っ てい っ た。 た だ通常声 を伴 う 日本語の発話や ジ ェ スチ ヤー に も声 を伴 わない こ と が 見 ら れた。 声 を伴わない と い う ス ト ラ テ ジーが手話以外 に も過剰 に般化 し てい るのだ ろ う 。 言わば 「声のない文 化」 が手話学習場面 で構築 さ れた と 言え よ う 。 た だ学習場面 で , 「声の文化」 がな く な っ た わけ では ない。 状況 に応 じ て, 「声の文化」 が再出 し , 両者の間 を行 っ た り 来 た り す る こ と も あ っ た (エ ピ ソ ー ド 4 ) 。 ま た 「声のない文化」 に戸惑い, 必ず し も な じ んでい な い と 思われるよ う な振 る舞い も見 ら れた (エ ピ ソ ー ド 5 ) 。 エ ピ ソ ー f、4 .' 児童と講師で, 扇風機やエ アコンにつ
いての対話。 一人の児童は, 関連 して 「 う ちわもある_/
と声のみで講師に話 しかけるが, 講師はそれに気づかな い様子。 児童は講師に手を振り, 自分の方に注意を向け, 手話のみで 「 う ちわ ある_/ と表現し, 講師に伝わる。
エ ピソード 5 . 色の学習場面。 講師が赤の紙を示す。
一人の児童は, 「赤」 と声のみで発声 し, 次に講師の真
似 を し て 「赤」 と手話表現。 そのあと, 「大 きい声」 と声のみで言う (講師に 「声 を出して
_/ と要望 を出 してい るのだろう )。 これは講師には伝わっていない。 講師に話 しかけたい気持ちが高 じたり (エ ピソ ー ド 6 ) , ゲームな どで興奮 し た り (エ ピ ソ ー ド 7 ) す る と , 新 し い文化 での振 る舞いが困 難に な り , 声のみで話 し 続け る こ と も あ っ た。 エ ピ ソ ー f、、6 .' 色の手話 を学んだあ と , みんな で色 さがし をする。 一人の児童が 「先生, 先生, 先生」 と声の
みで呼びかけ, 自分の靴 (色) を差し示すが, 講師は気
づかない。 しばら く して, 講師は, この児童が呼びかけ
ているこ とに気付 く。 児童の指 し示 している色を見 て,
「青」 の手話を示す。 児童はこれを真似る。
エ ピ ソ ー ド 7 .' 児童た ちがゲ ームで興奮 し て く る。 「離れろ, 離れろ (力一 f、 か ら)」 「え一, も う 一回やっ て _/ な ど声だけで話すよう になる。 ジヤンケ ン をす ると き も大きな声でやっていた。 ろう講師がいるので何とか 手話 も併用 しよう とするが, 声だけで どんどん会話が進行 してい く。
「声の文化」 と 「声のない文化」 をつな ごう と す る試 みも 見 ら れた。 下記のエ ピ ソ ー ド のよ う に, 比較的手話 の習得の進 んでい る児童が, 進 んでい ない児童 をサポー ト す る姿勢も見 ら れた。 エ ピ ソ ー f、
、8 .' 一人の児童が, ろう講師の質問がわか
らない。 す る とその隣の児童が, その児童に向かっ て, 教師はこ う言っているよ と声で伝えよう とする。 児童は それを理解 して, ろう講師の質問に答えるこ とがで きた。 「声のない文化」 は, 難聴児 と ろ う 講師 と の相互交渉 の場面 で生ま れた。 ろ う 講師側か ら見 れば, そ れはい わ ゆる 「聲文化」 と 言え るか も し れないが, 日本手話だけ で な く , 音声日本語 ( さ さ やき声) , 身振り , 読話, 視 覚的工夫 な ど も そ こ に含 ま れて い た。 ろ う 講師 に よ る (日 本手 話 の 1 つ の レ ジ ス タ ー と し て の) テ イ ー チ ヤー ズ ・ ト ー ク と 難聴児 側の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンへの試 み と の相互作用 によ っ て新 たに生ま れた 「文化」 と 言え る だ ろ う o 身振 り と 手話の拮抗 ろう 講師は, 手話で話す と き, 実物や絵な ども多用 し, 児童には概 ね意味が伝 わっ てい た。 児童が ろ う 講師 に話 そう と す る と き , 手話や指文字, 日本語 (口型) な どで 伝え てい たが, いつも う ま く 伝わっ てい たわけ ではない。 そのよ う な時, 身振り を使用す るこ と も あっ た。 身振り と 手話は必ず し も同 じ意味 を表 し てい る ( あ るいは同 じ 機能 を担 っ てい る) ので な く , そ のた めに時 に ミ ス ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンが生 ま れ る。 以下 関連す るエ ピ ソ ー ド を示す。 エ ピ ソ ー ド 9 .'「夏」 が学習のテーマ。 講師は, エ ア
コ ンや扇風機について話 をしていた。 児童の家にそれぞ' れい く つあるか, 講師が一人ひと りにたずね る。 ある児 童は 「エ アコ ン1 つ, 扇風機 3 つ
_ _/ と答える。 講師
は, その隣の児童に同 じ質問 をする。 この児童はまだ手聴覚障害児のイ ンク ルーシフ 教育の展開 ( 3 ) : 難聴学級を持つ公立小学校での手話導入 ・ 活用の試み
話の表出に自 信がないよ う であったが, (音声語で答え
るので な く ) 口 を閉 さ、、し, 左手で_1 , 右手でゼロ を示 し
た。 「え ? 10?家にエ アコ ンが10個もあるの?
_/ と講師
が確認すると, 児童は手を振って( 「違う_/ ), また同様
に 1 とゼロ を示 した。 他児が 「エ アコ ンが1個だよ_
/ と
講師に教える。 講師はこの児童の数字の表現の仕方が間
違っていると判断 して, 1 から10まで順番に手話を示し
た。 本人は (納得 していないふう に) 首 をかしげたまま,今度は 「 5 (片手を広げる)」 を表現。 講師は, 本人が少
し前う ちわの話 をしていたので, それと関連付けるこ と がで き / あ, う ちわは 5 つあるんだ_/ と確認して, その
こ と を他の児童にも伝えた。
こ のエ ピ ソ ー ド で は, 児 童は 「 (家 にエ ア コ ンは) 1 つ, (扇風機は) ない」 と 伝え たか っ たので あ ろ う 。 両 手 を使 っ て 2 つの情報を対比的に示す, 手話の文法的 な 表現形式 も学 びつつあ り , こ の表現方法 を使 っ たのであ ろ う 。 し か し なが ら , 講師は, こ の児童が以前に自分の 年齢を身振り で10 (左手で 1 , 右手でゼロ を示す) と示 し ていたの を覚え てお り , 彼の表現 を手話で な く , 身振 り と 考え て, 10 を表現 し た と 判断 し た。 その後, 「 5 」 を表現す る と き , 児童は手話でな く 身振り で表現 し てい る。 こ のよ う に児童の示す表現には, 身振り と 手話が入 り 混 じ っ てお り , こ れによ り 誤解が生ま れてい た。 身振 り と 手話は互い に補い合 う こ と も あ るが, 時にそ れら が 拮抗す る こ と も あ る こ と を示 し てい る。エ ピソード10 .' 講師が, 過去の体験について語ってい
る。 その語りの中で, 教室の後ろで見学 している教師の
こ とにも話がおよび, その際, 後ろの教師への指 さ しがたびたび生 じる (手話の代名詞と して)。 すると, 児童
はろう講師から後ろの教師の方に視線 を移 して しまう。 教師への指 さ しがあると, みんなそ っ ち を見 て しまう の で, 手話の語りが途絶えてしまう。 講師はあわ てて, こ っ ち をみて と言 って話 を続けよう とする。 こ のエ ピ ソ ー ド で も , 手話 と 身振 り の拮抗が示 さ れて い る。 手話では, 指 さ しは人称代名詞と し て使用 さ れる。 以前 に示 さ れた名詞句 に照応す る ために用い ら れてい る ので , 指 さ し があ っ たから と 言 っ て, 受け手は視線 を話 者から 逸 ら し , そ ち ら を見 る こ と はない。 し か し ながら , 身振 り では, 指 さ し は, 指 さ し た方向に何かが生 じ る こ と を示 し てい る。 従 っ て, 聞き手は指 さ し の方向に視線 を向け る で あ ろ う 。 こ のエ ピ ソ ー ド で は, 指 さ し は, ろ う 講師 に と っ ては手話の一部であ るが, 児童に と っ ては 身振 り と し て機能 し てい て, その間に拮抗が生 じ てい る。 身振り と手話は同 じ視覚一 身振り モー ド を使用する点, 音声語や声のよ う に聴覚 一音声 モ ー ド と は異 な るが, 特 に手話学習 の初期段階におい て, 「声のない文化」 を構 成す る要素間 で も誤解 を生 じ さ せ る契機 と な る こ と は興 味深い。 視覚的注意の利用 手話は視覚的言語であり , 視覚的 な注意が話者と 聞き 手 の間 で 共有 さ れてい る こ と が, コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンの 成立の前提 と な る。 そ れに対 す る気づ き がない と , た と え手話 を使 っ てい て も , あ るいは 「声のない文化」 で振 る舞 っ てい て も , 誤解や ミ ス ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンが生 じ る。 以下のエ ピ ソ ー ド は, こ れに関連す る事例であ る。エ ピソード11 . この児童は, 他児と比べ手話の習得が
遅 く , 手話の対話に取 り残 されるこ とが しば しばある。 ろう講師は, この児童にも, 様々な視覚的手がかり を与 えながら, 手話で積極的に話 しかけよう とする。 誕生日 がテーマで, 講師は, 黒板に男の子とケーキ (ロ ー ソクが 3 本) の絵を貼 り付ける。 1
「男の子は何歳 ?
_/ とたず
ね る。 この児童は, 黒板の方に歩 いて行き, 絵を見 て,
席に戻 る と き, さ っ と 「 3_/ を手 で示 し, 1 「3
_/ と発声
する。 手をすく゛に / っこめたため, 講師には彼の回答が
わからなかった。 「い く つ ? わからない ?_/ と再度たず
ね られるが, 児童は黙つたまま。 他児が 1
「3 歳」 と答え
た。
こ のエ ピ ソ ー ド の児童は, 声 と 併用 し て手話 を産出す る こ と も 少 し ずつ多 く な っ てい たが, そ れを相手が見 て い るか どう かに, 十分に注意 し ていない。 こ の児童にと っ て手話 をす る こ と は単 に手 を動 かす こ と で あ っ て, そ れ を他者が見 てい るか どう かは考慮 し てい ない。 通常の生 活場面 であ れば, そ れで も周 り は声に反応 し て, う ま く 伝 わる こ と も あ る だ ろ う が, 手話学習場面の 「声のない 文化」 では, そ れがう ま く 機能せず, その結果, ミ ス ・ コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ンが生 じ た と 考え ら れよ う 。 次のエ ピ ソ ー ド は, こ れと 反対 に, 視覚的注意の共有 が コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ンに重要 と 認識 し てい る こ と を う か が わせ る も の で あ る。エ ピソ ー ド12 .' 2 人の児童 A と B が講師と話 してい
る。 A が初め講師と話していた (手話が
一f
一分でないので,たどたどし く ) が, 隣の児童 B が, 内容に関連 して,
2 人の間に割って, 話 し始める。 講師が児童 B の話 を
聞 く 。 初めに話 していた児童 A は少 しイ ライ ラ しなが ら話が終わるのを待っている。 やっ と区切 りがつき, また児童 A が先ほどの話の続き を話 しは じめる。 が, す
く゛に児童 B がまた割 り込んで話し始める。 A は手話で
何 とか講師に話そう とするが, たどたどしいため, なか なか自分の方に講師の注意を向け させるこ とがで きない様子。 A は B に 「終わ り, 終わ り
_/ と何度も言う。 さ
らに手話 を し てい る B の腕 を持 っ て, 手話 をで きない よ う に し よう とする。 B は話 し続け, A は, 今度は, Bと講師の間で, 両手を振って両者間の視線 を遮断 しよう
と する。 こ のエ ピ ソ ー ド では, 手話の対話に視線の共有が不可 欠 で あ り , A は対話 をやめ さ せ る た めに, B と ろ う 講師と の間の視線の遮断 を試みてい た。 ま と め 難聴児は普段, 音声中心の言語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン環 境 にあ る。 そのよ う な難聴児が音声 に依存 し ない手話言 語に接 し , そ れを学ぶこ と で, 様々な社会 ・ 文化的な葛 藤や コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン方略が も た ら さ れた。 本論文 で は, こ れは 1 つ 1 つの行動 と し て と ら え る よ り は, ま さ に手話学習場面で現れた, 新たな 「文化」 と分析 し た。 こ の 「声 の ない文化」 は , 上述のエ ピ ソ ー ド に見 ら れた よ う に, まず音声 を使用 し ない振 る舞いや態度に現れた。 難聴児 にと っ ての日本手話の学習は, 新たな言語の学習 と い う よ り も , ま ずは声 を使わず コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を す る こ と であ っ た。 こ れが生 じ る契機 と し ては, 音声のみで一方的 に講師 に話 し て も伝わら ない こ と を何度 も経験 し た り , ろ う 講 師が音声 を使 っ てい なか っ た り , 児童の声の有無や質 に ろ う 講師が無関心であ る ( 日常生活では, 教師や親は声 につい て関心 を持 っ てい る) こ と に気付い た り し た こ と があ る だ ろ う 。 「声 のない文化」 は単 に手話の表現 に と どま ら ず, 他の コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン方法 にも広が っ てい っ た。 例え ば, 音声語が使用 さ れる状況では, 身振 り は通 常音声語 と 併用 さ れるが, 手話学習場面では, 身振り 表 出に音声が伴 わな く な っ た。 ま た手話能力 の不十分 さ に よ り , 音声語に頼 ら ざる を得 ない時 に も , さ さ やき声 に な っ た り , 口 型のみに な っ た り す る方 略が生 み出 さ れて い た。 た だ 「声 の ない文化」 の中 にあ っ て も , 身振 り と 手話の拮抗 や視覚的注意 を考慮 し ない こ と に よ る ミ ス ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンが生 じ てい た。 手話の指導 ・ 学習場 面 におい ては, 単 に新 し い言語 を取り 扱 う に と どま ら ず, 新 た な文化の学習 と 実践 と い う 側面 も持 つ こ と が, 本分 析 か ら明 ら かに な っ た。 通常学級の中で, 手話は音声語によ る コ ミ ュ ニケ ーシ ョ ンを補完す る役割 を持つ。 難聴児が学 んだ手話が通常学 級の中で十分に機能す る ためには, 声のない文化が, 声 の文化 と 同様 に, 価値 を持つ も のと し て通常学級の中に 浸透 し てい く こ と が必要であ ろ う 。 現実には通常学級の 中で も , 難聴児 と聴児 と の間に声のない手話で プライ ベー ト な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン (私語な ど) が成立 し てい る こ と も観察 さ れてい る。 今後, 難聴児の日本手話の習得が 進むのに伴い, 手話の使用 に関わる社会 ・ 文化的 な様相 が どのよ う に変容 し てい く のか, さ ら に検討 を進めたい。
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通常学級での手話通訳活動
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1 目的 本研究では, 難聴児が参加す る通常学級の授業に手話 通訳の配置 を試みた。 こ こ ではその取組につい て報告す る。 難聴学級担当教員 に よ る と , 難聴児は音声言語 を中 心 に生活 し てお り , 1 対 1 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン環境で は, 十分に音声語のみで対話が可能であ る と し てい るが, ざわ ざわと し た教室環境や複数の声が飛 び交 う よ う な学 習環境 では, 時に聴児 によ る自発的 な支援はあ るが, 授 業 に十分 に参加す る こ と の困 難な と き があ る と のこ と で あ っ た。 そこ で, 音声語の聴取能力や発音 ・ 発語の明瞭度が比 較的低 く , 手話通訳によ る支援のニ ーズが高い と 考え ら れる 2 名に対 し て, 手話通訳配置の取組 を試みた。 本論 文 では, 通常学級の授業の中で具体的に どのよ う に手話 通訳 を行 っ たのか, どのよ う な場面で手話通訳の難 し さ が見 ら れたのか等, 手話通訳者の内省 を も と に, 質的に 分析 を行 う 。 特 に授業 では, 情報の流れが複雑で あ る。 一方向的でな く , 双方向的であっ たり , 複数の同時的な 発言や小 グループ活動のよ う に, 複層的 であ っ た り す る。 ま た視覚的 な教材の提示 と 手話通訳によ る情報の提供 と い う 同時進行 に よ る視覚的注意の配分 ・ コ ン ト ロ ールの 問題 も あ る。 通訳によ る情報の時間的ず れも活動への参 加 を困難にす る可能性があ ろ う 。 こ のよ う な状況で, そ の都度 , どのよ う に手話通訳がな さ れた (あ るいはで き なか っ た) のか を明 ら かに し , その結果 を も と に, 通常 学級の授業におけ る手話通訳の在 り 方 を考え たい。4
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2 方法 対象児 難聴学級在籍児 2 名 ( 4 年生, 6 年生 ; いずれも女児) を対象 と し た。 いず れも 補聴 器 を両耳 装用 し てい るが, 音声語のみの コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンに困 難 さ を持 つてお り , ま た難聴児の中では比較的手話 を習得 し ており , 手話通 訳に よ る支援のニ ーズが高い と 判断 さ れた。 本人や家族 か ら も手話通訳 に よ る支援の要望 があ っ た。 手続 き 手話通訳者は 3 名が交替で あた っ た。 1 人は, 手話通 訳士 (著者) であり , 2 人は, 聴覚障害児教育 を専攻す る大学院生であ っ た。 手話通訳は, 難聴児が通常学級で 授業 を受け る 「社会」 と 「理科」 に配置 さ れた。 期間は, 本研究の 2 年目の 2 学期及び3 学期であ っ た ( 3 年目は, 1 人が卒業 を し たこ と , も う 1 人が人工内耳装用の手術 を受け たこ と によ り , 難聴学級担当教員 と の相談の結果, 実施 を取り やめた) 。 ま た人的な問題で, こ の期間, 2 つの教科のすべ ての授業 に配置で き たわけ ではない。 こ れも担当教員 と の相談によ り , 可能な範囲での配置と な っ た。 総配置時間は, 73時間 (校時) であっ た。 手話通訳 は, 原則 と し て, 授業担当教師の横で行 われた。 分析 手話通訳実施後 に記 さ れた メ モ か ら , 通訳場面におけ る困難 さ や考慮事項等 を抽出 し た。 それら を社会 ・ 文化 的 な視点から , 質的に分析 し た。 最終的には, 手話通訳 場面 で, 何が起こ っ てい るのか, 仮説 を構築す る こ と を 試みた。聴覚障害児のイ ンク ルーシフ教育の展開 ( 3 ) : 難聴学級を持つ公立小学校での手話導入 ・ 活用の試み
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3 結果及び考察 手話通訳記録から , 特に, 手話通訳の困難な状況やそ れに関連す るエ ピ ソ ー ド を抽出 し た。 手話通訳が困難 と な る原因 と し て, ①難聴児本人に関わる も の, ②手話通 訳者に関わ る も の, ③授業形態 に関わる も のの 3 つ に大 き く 分け るこ と がで き た。 難聴児本人に関わる困難 こ れには, 本人の手話運用能力 に関す る も のと 本人の 手話通訳利用経験が乏 し い こ と に関す る も のがあ っ た。 前者は, 手話その も のの習得が十分で な く , 手話通訳 を 見 て も手話が分から ない と い う 状況があ っ た。 ま た日常 生活で使用す る手話では問題はないが, 授業で使用す る よ う な こ と ばの手話に慣 れてい ない と い う 状況 も あ っ た。 後者は, 手話通訳 を利用す る経験が乏 し い ため, 通訳 を十分に生かせない場合 であ る。 例え ば, 日常生活では 通常通訳がな く , 教師や生徒の発言 を直接聞いたり , 見 た り し なが ら , その理解に努めてい るが, 通訳が配置 さ れた場合, 通訳 を見 るのか, 発言者 を見 るのか, 戸惑 う 場面があ っ た。 まず発言者 を見 て, 途中で理解で き な く な る と , 通訳者 を見 る と い う こ と も た びた びあ っ た。 そ の際, 通訳者は難聴児が自分 を見 てい ない状況で, 手話 通訳 を行 う こ と に戸惑いがあ っ た。 難聴児が通訳者 を見 た段階で , その前の発言内容 も 合 わせて, 通訳 を行 っ て い た。 その際, 通訳が遅 れ気味 に な っ た。 ま た通訳 を最 後ま で見ずに, 途中で視線 を別の方向に向け る (例えば, 映像資料や自分の教科書) こ と も た びた びあ っ た。 いず れの場合 も , 通訳から与え ら れる情報が断片的に な っ て し ま う 印象 を受けた。 通訳者に関わる困難 こ れは主 と し て, 手話通訳者の能力 に関す る も ので あ る。 記録には, 授業内容が十分に理解で き なかっ た り , 教師が早口 で 話 し てい て ( い ろ んな事情があ り ) , 通訳 が追い つけ なか っ た り し た ために , 通訳が困難 と な っ た な どと 記 さ れてい た。 例え ば, 前の時間に行 っ た テ ス ト を返却す る際, 教師が素早 く 子 ども の名前 を読み上げた。 通訳者は児童の名前 に不慣 れな ため, そ れに付い てい く こ と が難 し かっ た。 通訳者に関わる困難 さ の原因 と し て, 通訳者の手話通訳能力 その も のの課題 も あ るが, 学校の 授業 と い う 特殊 な状況に不慣 れな ために十分 に通訳がで き なか っ た場合 も あ る。 後者 に関 し ては, 準備時間 を十 分 に と る こ と に よ っ て , その困 難 さ を軽減で き よ う 。 ま た, 上述の① と も 関連す るが, 社会や理科で使用す る専門的 な用語 (例え ば, 水溶液, リ ト マ ス試験紙, ア ル カ リ 性 な ど) に手話単語がな っ た り , あ っ た と し て も 難聴児 と 共有 さ れてい なか っ た り す る場合には通訳が困 難 と な っ た。 実際には, その都度, 手話の表現方法 を難 聴児 に聞 き なが ら 手話通訳 を行 っ た。 ま た そ も そ も 表現 方法がない, あ るいは難聴児自身が知 ら ない場合 も多 く あり , その場合には指文字 を使用 し たり , 書い て示 し た り し た。 いず れにせよ , 本人と 表現方法 を相談 し て決め たため, そ れに時間がかかり , 通訳が音声語に著 し く 遅 れて し ま う こ と も 生 じ た。 授業形態に関わる困難 授業の形態 によ っ て, 通訳が困難と な っ た場合で あ る。 授業の形態 と し ては, 一斉指導場面, 小 グループ学習場 面, 個別作業場面があ っ た。-
;青指導場面 一斉授業場面では, し ば し ば複数の児童の同時的な発 言 やつ ぶや き が あ っ た り , ま た児童のあ る つぶやき を教 師が特に取 り 上げて, そこ から授業が展開 し たり す る こ と があ っ た。 その場合, その発言者名 (難聴児が通訳 を 見 てい る と 誰が発言 し たかわか ら ない ため) と 発言内容 をすべ て手話で表現す る と , 通訳が時間的 に難 し く な っ た。 た だ通訳者が聴児の名前 を知 ら ない場合, 発言者の 方 を指 さ し て示すが, 難聴児が振 り 返 っ た と き , すで に 発言が終わっ てい て, 誰が発言 し たのかわから ない時 も あ っ た。 つぶやき の通訳に関 し て, 聴児 であ れば, 重要 で ない ( と 思われる) 他児の発言やつぶやき は聞 き 流す こ と が可能であ るが, 通訳者が教師の発言 と 同 じ よ う に 通訳 を行 う と , 直接関係のない話が含ま れ, 時に難聴児 が混乱す る こ と も あ っ た (必ず し も 授業 に関連す る つぶ やき ばかり では ない ため) 。 通訳者が難聴児 の学 びと い う 視点 か ら , 情報 を取捨選択せ ざる を得 ない状況 も た び た びあ っ た。 同様 に同時的 な発言 ( つぶやき も 含 め) が 多 く あ る と すべ て を手話通訳す る こ と がで き ないが, 教 師が時にそ れら に反応 し て, 授業 を展開 させるこ と も多々 あ り , そ の場合 , 通訳内容が断片的 に な っ て し ま っ た (例え ば, 通訳が で き て い な い つぶや き に教師 が コ メ ン ト をするよ う な場合) 。 教師の一斉指導の際に, 教師の示す視覚的情報と 通訳 者の手話 と が競合す る こ と があ っ た。 授業 で, プロ ジェ ク タ ーや ビデ オ, 板書, 掲示物 , 教科書の拡大 コ ピ ー, 実物 な ど様々な視覚的教材が用い ら れてい た。 難聴児 が 教室 にい る こ と か ら (あ るいは聴児 に と っ て も 理解が容 易 にな る こ と か ら) , 通常学級担任や教科担当教師が視 覚的教材 を工夫 し て, 多用 し ており , それらは児童の指 導内容の理解 を深 め る ために効果があ る と予想 さ れるが, 時 に視覚的情報 と 通訳者の手話 と が競合す る場合があ っ た。 例え ば, 教師がそ れら を参照 し ながら発言 をす る と ( さ ら に関連 し て児童の発言があ っ た り す る と ) , 難聴児 は通訳者の手話 と そ れら視覚的教材 と 両方 を見 なけ れば な ら ず, 注意の配分が困難にな る (手話 を見 る と , 教材 を見 る こ と がで き ず, 教材 を見 る と 手話 を見 る こ と がで き ない) 。 例え ば, プロ ジ ェ ク タ ーに映 し 出 さ れた教科 書 を見 なが ら , 教師が解説す る場合 ( し かも さ ら に児童 の教科書に下線 を引 かせたり , ノ ー ト に記録 さ せたり する場合) , 注意の配分が困難 と な っ た。 通訳者は, 難聴 児が教材の方 を見 てい る と き は通訳 を中断 し , 通訳者の 方 を再度見 た と き に, 通訳 を再開す るが, その間に授業 が展開 し てい つた場合 , し ば し ば手話通訳が困難にな っ た。 教師が教室の前に立 っ て話す と き , 通訳者はその横に 立 っ て通訳 を行 っ てい る。 た だ教室内 を動 き回 り ながら , 話す と きは, 通訳者は前にい たま ま通訳 を行 う (机の間 が狭 く , 通訳者が一緒に動 く こ と が困難だ っ た) 。 難聴 児はま ず教師 を見, 内容が分かり づ ら く な る と 通訳 を見 る と い う こ と が し ば し ばあ っ た ( ま た教師が必ず し も 難 聴児 が見え る位置にい ない時 も あ る) 。 教師が前 にい る 場合, 難聴児は, 教師の顔 (口型も含め) と 通訳者を行っ た り 来 た り , あ るいは同時に見 る こ と がで き るが, 教師 が動 き回 る場合, 難聴児が通訳者 を見 てから , 通訳 を始 め る ため, 内容が断片的に な っ て し ま う 。 授業で, 教師が教科書を朗読 し たり , 児童に朗読 させ た り す る こ と も よ く あ る。 難聴児は自分の教科書 と 通訳 を同時に見 る こ と も で き ない ため, 基本的には手話通訳 せず, 読む部分 を手話で示 し , あ と は本人が自分のべ一 スで教科書 を読 んだ。 ただ途中で教師が解説 し たり , 追 加 で コ メ ン ト を加え たり す る場合 , そ れを通訳す る こ と が難 し か っ た。 本人が読 み終 わり , 頭 を上げ, 通訳者の 方 を見 た と き に, (後に) その内容 を手話で伝え た。 教 師が教科書の読むべき べ一 ジ を言 っ て, 児童に順番 に読 ま せ る場合 も あ る。 通訳者が難聴児の近 く にい るのであ れば, 読ま れてい る教科書の部分 を指 さ す こ と が可能で あ る (時に, 隣の児童がそのよ う な支援 を行 う こ と があ る) が, 主 と し て教師の横 で通訳 を し てい る ため, そ れ は難 し い。 ま た読ま れてい る内容 を通訳す る と 本人が読 んだこ と に な ら ない だ ろ う 。 そ れで通訳者が読むべ き部 分 を難聴児に伝え , 難聴児は自分の教科書 を読 んだ。 読 んでい る間は, 通訳者の方は見 ない。 た だ児童の読むス ピ ー ド と 難聴児が読むス ピ ー ドが違う ため (概 し て難聴 児 の方が遅 か っ た) , 児童が読 み終わっ て教師が コ メ ン ト し始 めてい て も , 難聴児がま だ読 んでい る こ と があ っ た。 こ ち ら を見 さ せ て通訳す る と , 読むの を中断 さ せて し ま う し , そのま ま最後ま で読ま せてい る と , 授業が先 に進 んで し ま う と い う 状況があ っ た。 授業で教科書 を使用 し てい る と き の通訳の難 し さ を示 す事例 と し て, 以下のよ う な状況 も あ っ た。 理科の授業 で, 教師は児童に各自教科書から昆虫やバ ッ タ の写真 を 探 さ せ る課題 を与え た。 児童はそ れぞれ自分の教科書 を め く り なが ら , 見つけ る と 「 あ っ た ! 」 「 0 ペ ー ジに ト ンボの写真 ! 」 等 と 報告 し た。 難聴児 も自分の教科書で 探 し てい たが, 他児童の発言 を通訳す る と , 自分が探す 活動 を やめ て, その頁 を開け て, 写真 を確認 し てい た。 聴児の場合, 聞 き 流 し ながら , 自分の活動 を続け る こ と が で き るが, 難聴児 の場合 , 通訳か ら 与 え ら れた情報 ( そ ち ら の方 を見 る た め) が本人 の活動 を中断 さ せ て し ま う 。 その結果, 授業 を受け る姿勢が受け身的にな っ て し ま う 印象 を受け た。 授業 では, 児童に ノ ー ト を記入 さ せ る こ と も し ば し ば あ る。 ノ ー ト を記入 し てい る と き , 時に教師が追加の指 示 を与え る場合があ っ た。 その際, 聴児はノ ー ト を記入 し なが ら , 聞 く こ と がで き るが, 難聴児はで き ない。 通 訳者は, 状況 を判断 し て, 作業 を中断 さ せて通訳 を し た り , あ る程度作業 を し た後, 少 し前に遡っ て通訳 を し た り し てい た。 小 グループ活動場面 小 グルー プ活動場面 で は, グルー プで図書館 に行 っ て 調べ活動 し たり , 運動場で一緒に観察 し たり , 実験 し た り , 教室で話 し合い活動 を行 っ たり し ていた。 教室での 小 グルー プの話 し活動 では, 教室が狭 く , なかなか難聴 児 と も に グルー プに入 っ ての通訳が困 難で あ っ た。 いず れにおい て も , 通訳者が難聴児 と 他児 と の間に入 っ て通 訳す る こ と は なか っ た ( た だ通訳の要請が子 ども た ち か ら あ っ た場合は, 通訳 を行 っ た) 。 小 グルー プの活動 で , 通訳者の空間的な場所の確保が難 し かっ たこ と も あ るが, 聴児が難聴児 を自発的に支援する 「文化」 がク ラ スに育つ てお り , 間に通訳が入 る こ と によ り , その 「文化」 を壊 す可能性があ る と 考え たこ と も あ る。 グルー プでは, 比較的よ く 手話がで き る児童がい る場 合 も あり , その時は十分で ないに し て も , 手話や指文字 で話 し合 っ た内容 を難聴児 に通訳 し てい た。 難聴児自身 も積極的に聴児 に情報 を求め, 聴児が簡単 な手話や指文 字, 口話で支援 をす る こ と がた びた び見 ら れた。 ま た運 動場では, 難聴児に話 し かけ る と き , 肩 を少 し たたい て 自分の方に顔 を向け さ せ, 指 さ し な ども多用 し ながら話 し てい た。 た だ, 教室での話 し合い場面では, 他 グルー プの声 も入 り , 教室全体が ざわ ざわと な り , 音環境が悪 く , 必ず し も友達の発言 を聞 き取 っ てい る と 思われない 状況 も多 々あ っ た。 ま た結果 だけ教 え ら れ, その プロ セ スは伝 わ っ てい なか っ た り , 伝え ら れる情報 も 断片的 に な り が ち で あ っ たり し てい た。 例え ば, グルー プで花の 観察 を し て, 記録す る場合, い ろい ろ と 話 し合われたが, そ れが難聴児 に伝 わっ てお ら ず, 結局, 最後に友達の描 い た ノ ー ト を そのま ま写 し てい た。 他の例 では, 社会の 時間, 教師の質問に関連 し て, 小 グループで話 し合い, グラ フ に ま と め る課題 で あ っ た ( グラ フ は丸い シール を 貼 っ て数 を示す) 。 話 し合い では難聴児は見 る だけ だ っ た。 最後 に シール を貼 る と き , 聴児 に 「 こ こ に シールを 貼 る よ」 と 言 われ, シール を貼 っ た。 なぜ貼 る のか (
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連の活動 も含 め) わか ら ない ま ま , シールを貼 る と い う 最後の活動 だけ を一緒に行 っ てい た と 言え る だ ろ う 。 聴 児から の情報が断片化 し , 学習全体の流れが見え ない中,聴覚障害児のイ ンク ルーシフ教育の展開 ( 3 ) : 難聴学級を持つ公立小学校での手話導入 ・ 活用の試み 難聴児はなかなか主体的 に学習活動 に参加す る こ と がで き ない でい る と の印象 を受け た。 個別作業場面 児 童そ れぞれのべ一 ス で個別 に学習 を進め る場面 で あ る。 教師が教室内 を机間巡視 し ながら個別に指導 を行う 。 その際, 難聴児 に直接指導す る と き , 通訳者が間に入 っ て通訳 し たり , 教師が直接口話等で指導 し通訳者が関わ ら なか っ たり し た。 他児 を指導 し てい る場合 (教師が指 示 を与え たり , 感想 を言 っ たり ) , その内容 を難聴児 に 通訳す るか どう か, 判断が難 し かっ た。 ま た聴児同士の イ ン フ ォ ーマ ル な発言 な ど も あ る。 聴児 で あ れば, そ れ ら を オ ーバ ー ヒ ア リ ン グで き , 自分の判断で そ れら を取 り 入 れたり , 聞き流 し たり す る こ と がで き る。 難聴児の 場合, そ れら を通訳す る と , 本人の作業 を中断 さ せて し ま う 。 し か し そ れら には時 に重要 な情報 を含 んでい るか も し れない。 実際には, 通訳者の工夫 と し て, 難聴児が 作業 を終え た り , 作業が一段落 し て, 途中で顔 を上げた と き , そ れま での話 し を要約 し て, 難聴児 に伝え た。 本人の作業中, 教師が追加の指示 を与え たり , 説明 を 加え た り す る と き , どの タ イ ミ ン グで通訳 を行 う かも 課 題 と な っ た。 こ れについ て も , 聴児は作業 を継続 し なが ら , 耳 で指示 を聞 く こ と がで き るが, 難聴児は作業 を中 断 さ せ, 通訳に注意 を向け さ せる必要があ る。 個別作業場面 では, 通訳者は通訳の役割 を越え , い わ ばサ ブチ ュ ー タ ーのよ う な役割 を担 う こ と も あ っ た。 例 え ば, 教師の指示が分かり に く かっ たと き , 難聴児はよ く 通訳者にたずねてい た。 その際, 通訳者が分かる範囲 で情報 を補足 す る こ と も あ っ たが, 通訳者の役割に徹す るので あ れば, そ れを仲介 し て, 教師に その質問 を返す べ き であ ろ う 。 ま た聴児 であ れば, 教師に個別的に質問 し た こ と も , 他児 に オ ーバーリ ア リ ン グさ れ, 教室全体 で共有 さ れるが, 難聴児 と 通訳者と の対話は, 2 人の間 だけ に閉 じ て し ま い , 教師や他児 に共有 さ れな く な っ て し ま う 。 ま と め 本取組に対 し て, 難聴学級の担任よ り , 本人から イ ン フ ォ ーマ ルに 「 手話 があ る ので わか り やす か っ た」 「教 師の話 だけ で な く , 友達の発言な ども 分か る よ う にな っ た」 と 断片的 なが ら , 肯定的 な感想が得 ら れてい る。 本 研究 では, 直接本人から イ ン タ ビュ ー等によ り , 手話通 訳の効果 に関す る組織的 な調査 を行 っ てはい ない。 こ れ ま での研究では, 教師以外の成人が直接授業場面に関わ る こ と によ る難聴児の心理的 な抵抗等が報告 さ れてい る (Cemey, 2007) 。 こ の観点か ら も今後検討が必要で あ ろ う o ま た本取組では, 手話通訳は音声語 を手話に変換す る のみであ っ た。 対象児の特性に よ っ て, 例え ば, 発語が 不明瞭 な場合, 本人の発話 し た手話 を音声語に変換す る こ と も 必要 だ ろ う 。 そのよ う な作業 が さ ら に加 わ っ た場 合, 手話通訳者が情報の流れに関わる場面が上述 し た も のよ り 増え , 通訳作業はよ り 複雑にな る。 し かも手話通 訳 に本質的 に時間的 な ラ グが存在す る ために, そ れによ り 難聴児の リ アル タ イ ムな授業参加がよ り 困 難にな る可 能性 も あ る (発言 し よ う と 思 っ て も , その時点 ですで に その話題が展開 し てい る可能性) 。 今後の検討課題で あ る o 難聴児本人が手話通訳 を積極的に活用す るための力量 の形成が必要で あ ろ う 。 自身 の聴覚のみによ る授業参加 の度合い と 手話通訳 を利用す る こ と によ る利点は, 個々 の難聴児 によ っ て異 な る だ ろ う 。 どの程度, 手話通訳 を 利用す るのか, そ れによ り 本人が主体的に授業 に参加す る ための手立 て と な っ てい る か (授業 が受け身的 に な っ て し ま っ てい る場合が多 い よ う に感 じ る) 等から検討が 必要だ ろ う 。
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手話に関する教員研修
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1 目的 通常学級 をバイ リ ン ガルにす る ためには, 手話通訳者 の配置だけ でな く , 通常学級の担任の手話使用が重要で あ ろう 。 こ こ では, 通常学級担当の教員に対す る手話指 導について報告す る。 一般的には, 手話学習は日常的に 行 う こ と が当然好 ま し いが, 学校 シス テ ムの現状 では, それが難し く , 夏期休業中の 3 日間の集中講義形式によ る研修 と な っ た。 研修は, 2 年目 と 3 年目に行 っ た。5
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2 方法 対象者 対象者は, 本小学校に在職し てい る教員全員 と し た。 ま た隣接 し てい る中学校 (難聴学級が設置 さ れてい る) の教員 に も呼 びかけ た。 学校行事等の関係で, 全日程の 出席が困難な も のも い たが, 研修参加者は, 1 年目は24 名 (小学校14名, 中学校10名) , 2 年目は12名 (小学校 9 名, 中学校 3 名, う ち 8 名は 2 回と も参加) と な った。 参加者の難聴児 と の関 わり の年数は, 1 年未満が18名(64%) , 1 年から 2 年が3 名 (11%) , 3 年から 5 年が
5 名 (18%) , 5 年以上が2 名 ( 7 %) であった ( ア ン ケー ト の自己申告によ る) 。 手続き 手話指導者は, 成人ろう 者で, 日常的に日本手話 を使 用 し てい る。 ま たナ チ ュ ラ ルア プロ ーチ に よ る手話指導 の研修を受け た経験を持ち, 現在も大学等で手話指導を 行 っ ている。 各日 4 時間で, 全12時間のプロ グラ ムであっ た。 音声 を使用 せず, ナチ ュ ラ ルア プロ ーチ によ る手話 指導 を行 っ た。 出席者は半円状 に座り , 講師と対話によ り 学習 を進め てい た。 プロ グラ ムの凡 その内容は, 自己 紹介 (名前, 住所, 仕事, 家族, 趣味等) , 色や数字, CL, 季節や月日, 時間表現, 生活に関わる こ と (食事,飲み物, 病気等) , 学校に関するこ と (挨拶, 時間割, 教科, 遊 びやけ んか, マナ ー, 気持 ちの表現) 等であ っ た。 学校に関 し ての事項では, 夏休み終了後の 2 学期に 使え る手話 を中心 に指導がな さ れた。 参加者には, 全講 義終了後, ア ンケ ー ト 調査が実施 さ れた。 内容は, 講義 に対す る感想, 要望等で, 自由記述形式 であ っ た。 分析 ア ンケ ー ト に記述 さ れた内容 を , 質的 に分析 し た。