御伽草子における和歌の位置 : 「鉢かづき」を中心に
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(2) . 北海道教育大学紀要 ( 第一 部A)第四十三巻 第二号 平成五年三月. ー 「 鉢 か づ き」 を中 心 に ー. 御伽草子における和歌の位置. 本研究のねらい 御伽草 子全 二十 三篇 にお いて、歌を収録 し て いるも のは多 い。「 鉢 かづ き」 には歌 が十六首 もあ り、 二番 目 に多 い作 品 である。「 和泉 . 式部」 には二十六首 の歌が見えるが、大半が数 え歌 であ るので、 そ れを引 いて考えれば 、「 鉢 かづき」 が最も多 い作 品と なる。 従 っ て 本論 では、 「 鉢 かづき」 中 の歌 が、ど のよう に位 置づ けられ て いる かを考察 する。. 上 方 に関連 する。. 岡. 勇. 司 ・劉. 少. 英. 御伽草 子全 二十 三篇 は 一般的 には、「 公家 に関 す るも の」 「 僧侶 ・. . 仏教 に関 するも の」 「 武家 に関 するも の」 「 庶 民 に関す るも の」 「 異. 国 に関 するも の」 「 異類 に関するも の」 の六 つに大別 され ている。. そ の中 でも、 「 鉢 かづ き」 は 「 公家 に関 するも の」 の中 には いる と 思 わ れ る。. ニ、「 鉢 かづき」 冒頭 の設定 は何 に関連し て いるのか. 中昔 のこと にやあ りげむ、河内 国交 野 の辺 に、備中守 きねたか. 御伽草 子 の各作品 の成立年時 はほとんど明 らか ではな いが、だ い. め暮 らし給 ひける。北 の御方 は、古今 ・万葉 ・伊勢物語 、数 の. こともま しま さず 。詩歌管絃 に心を寄 せけ るが、花 のもと に て は散 りなむ ことを悲 し み、歌を詠 み詩 を作 り、 のどけき空 を眺. と いふ人 ま しま しける。数 の宝を持 ち給 ふ。飽 き満ち て乏 しき. た い、南北朝 から江戸初期 にかけ て作 られたと いわれ て いる。成立. 草 子を御覧 じ て、月 の前 にて夜を明 かし、入りなむ ことを悲 し. 鉢かづき」の成立及び分類 一、「. 事情 に ついては、先行 の物語を受 け ては いるが、 むしろ、素材と し. 右 の中 に 「 詩歌管絃 ・古今 ・万葉 ・伊勢物 語」 と いう記述が出 て. み 明 か し暮 ら し 給 ひ つ つ、 心 に残 る こと も な し 。. ( 注3). ては民間 の昔話 から取 られたと いわれて いる。御伽草 子の創作 は個 人 の能力 よ りも、多数 の意志 にささえられ、民間 の口承文芸 のあ リ.
(3) . . 革ハ 少 上岡 勇司・劉. いる。. 『 袋草紙」 の本文 では次 のごとく清水観音が女 に示 した歌 と な って. 二 いる。漢詩 や和歌、音楽 は平安時代 には、 いず れも貴族 の教養 とし. ナ ラ タ ノ メ シ メジ ガ ハラ ノ サ セ モグ サ 我 ヨ ノ中 ニア ラ ン カ ギ. 清水観音御歌、. 伊勢物語」 は和歌 古今集』 『 万葉集」 「 て重 んじられ て いた。特 に 『 鉢 かづき」 の冒頭 にあげ て いる の を学 ぶ上 で重要 であ ったから、 「. リハ. 歌」 が頻繁 に 鉢 かづ き」 に 「 は当 然 と言 ってよ いかも知 れ な い。 「 伊勢物 説巴 を出 古今集」 『 歌」 にかかわりの深 い 『 出現するので、「. 物 思 ケ ル女 ノ ハカ ハ\ シカ ル マジ ク ハシナ ムト申 ケ ル ニ示 ケ. 、 ら さ れ る と 思 って い る の で は な か ろ う か 。 こ の場 合 は 母 親 が そ れ. た であ ろうし、それがとも すると、具体性を欠く叙述 と な った ので 歌」 を詠 めば 、 いい効 果がも た はなか ったか。そ の上 で、作者 は 「. 具体的 に書 かなくとも、その当時 の読者 たち によくわか っ から こそ、. 歌」 があ る を省略 したため ではな いであろう。観世音 にかかわる 「. 歌」 を利用 して、約束 の部 分 できるの であ る。もちろん、作者 が 「. 鉢 かづき」 には見 えな 母君と観世音とが約束 した具体的 記述 は 「 歌」 から、 そ の約束があ ったと推測 いが、母君 の観世音 に詠ず る 「. であ る 。. 、 約束 通 りのことは致 しましたから、どう か自 分 の死後 姫 君 のこと 、 をよろしくお願 い致 しますと言 って、観世音 に頼 ん で 亡 くなるの. 、 るよう に、以前 、母君と観世音 とが約束 した ことがあ り 母君 は. 母君 はなぜ姫 に頭 の上 から鉢を かぶせたのであろう。母 の歌 にあ 、. ル. ( 注6). し て く る の は 、そ の影 響 を 如 実 に示 し て い る も の で あ る と 思 わ れ る 。. 鉢 かづ き」 の話 は長谷観音 に導 かれなが ら、 一人 の女性が伴侶 「 鉢 かづ き」 は宗教 と愛情 を得 て、幸福 になる話 であ る。従 って、「. 注4v {. 歌」 は その中 でど の の問題 にそ って話 が進 ん で行 く の であ るが、 「 よ う に か か わ る の であ ろ う か 。. 鉢かづき」 の宗教上 の 「 歌」 三、「 歌」 が見 られ、宗教 ・信仰 ・ 鉢 かづき」 には宗教 にかかわる 「 「 霊験 にかかわる思想が伝え られ ている。 そう いうと ころを抜 き出 し て、 見 て み よ う 。. a母上 は、流 るる涙を押 しとど め、傍 なる手箱を取 り出 し、中 に は何を か入れられけむ、世 に重 げ なるを姫 君 の御髪 に戴 かせ、 その上 に肩 の隠 るるほど の鉢を着 せ参 らせ て、母上 かく こそ詠 じ給 ひけ る 。. 鉢 かづ き」 な の であ る。作者 と言 って であ る。利益を受 けるのは 「 も、先 に触 れたよう に個人 ではなく、民衆 とし ての多数 の人びとと. さしも草 深くぞ頼 む観世音誓 ひのまま に戴 かせ ぬる. 考 えた方 がよく、 ここでも、当時 の人び と の 一般的 な考 えを代表 し. か や う に う ち 詠 め 給 ひ て 、 つひ に空 し く な り給 ふ 。. ー 」 の歌 は文中 よ り、長谷観音 に対 して詠 じた母親 の 「さしも・ て いる 。. 鉢 かづ き」 にも、 こう いう描 写 の場面 が出 てき た の た であろ う。「. 歌」 を詠 めば 、神仏 にも納 受 し ても らえ ると思 って い 力 があ り、 「. 歌」 に いろ いろ ていると思われる。だ から、 そ の当時 の人び とは 「. 新古今」 の歌を踏 まえると いわれ 歌 と推測される。 この歌 は次 の 『 注5v {. 沙石集」 五など にも引 かれ て いる。 『. なほ頼 めしめぢが原 のさせも草 わが世 の中 にあ らむ限 りは. 袋草紙』 -; この歌は 『.
(4) . 御伽草子における和歌の位置. ( 注7). だと言え るのであ る。 ここには 「 神仏納受 の徳」 の思想が見 られる の であ る 。. 姫君が家 から追放 され、川 に身 を投げようと する時 に、 b・ ー ・ か く こ そ 一首 連 ね け り 。. 次 は、宗教的な記述 ではな いが、歌 の要素 が多 い部 分 であ る。 そ れを引 用 し、検討を加 え てみる。. c 苦 しき は折 り焚 く柴 の夕煙憂 き身ととも に立 ち や消 えま し. と 、 か や う に う ち 詠 め 、 「いか な る 因 果 の 報 い に や 。 か か る 憂. き世 に住 みそめ て、 い つま で命 なが ら へ、かほど に物を思 ひ寝. の、昔を思 ひ出 の里、胸 は駿河 の富士 の獄 、袖 は清見 が関 なれ や。 い つま で命 ながら へて、饗 き には絶 え ぬ涙川、流 れ て末 も. 川岸 の柳 の糸 の 一筋 に思 ひ切 る身 を神 も助 けよ かやう にうち詠 め、御身 を投げ沈 みけれども、鉢 に引 かれ て. 頼 まれず 、菊 の裏葉 に置 く霧 の、何 となり行 く この身 ぞ」 と、. の三人 の幸福 な生活を思えば 、現在 の境 遇 の つらさは ひとしお で、. と は、とも に姫 君 の嘆 きも訴 える叙述と な って いる。過去 の父母と. す語 などを表 して いる ことば であ る。 これらと姫 君 の二首 の独詠歌. 右 の引用 に見える傍線部 はそれぞれ、歌 の序詞 ・枕 詞 や季節 を示. か や う に詠 じ 、 足 の 湯 を ぞ 沸 か し け る 。. 松 風の空吹き払 ふ夜 に出 でてさやけき月を い つか眺 めむ. 一人 く ど き て か く ば か り 。. 御 顔 ば か り さ し 出 で て流 れ け る ほ ど に 、漁 す る 舟 の通 り け る が 、. 「ここに鉢 の流 れける、何物 ぞ」 と いひて揚 げ見 れば 、頭 は鉢 に て 、 下 は 人 な り 。 舟 人 こ れ を 見 て、 「あ ら お も し ろ や 、 い か. なる物 やらむ」 と て、川 の岸 へ投げ揚 ぐる。 と いうよう に、その鉢 あるが故 に顔が水面 に浮 ん で流 れ、姫 君は死 ななか ったの であ り、更 にその鉢あ るが故 に漁師 に見 つかり、川 の 岸 に投げ上げ られたの であ る。 つま り、姫 君は鉢 に救 われたと いう ことが できる。母君 は観世音 と の約束 の通 り、鉢を姫 君 にかぶせた ので、姫 君は 「 鉢」 に保護 されたと いう こと になる。観世音が母君. か つ未来 になん の希望 もな い姫君 の苦 しみも告白 され て いるの であ る。右 の引用文中 の二首 の歌 のほかに、他 の文 の中 に歌 の要素 が多. 数表 れ て いる部分を見 てみよう。過去 の幸福 な生活を 思 い出 す点 を. の願 いを 果 し て い る と いう こと が で き る の であ る 。. そう いう非 現実的 な設定 は宗教的 であ るが、姫 君は身投げ の前 に. は駿 河 の富 士 の搬」 「 袖 は清見 が関 なれや」 で表 現 し、 か つ姫 君 の. 歌」 と 「 「 歌 の要素」 でなされる ことが より効 果的 であ ると思 われ. はか な い身 の上 を 「 菊 の裏葉」 「 置 く露 の」 で表 現 した の であ る。. 「 思 ひ出 の里」で表 現し、その現在 の気持 ちを 「 物を 思 ひ寝 の」、「 胸. 先 の歌 で 「 神 も助 けよ」 と詠ん でいるのであ る。歌 に観世音が感応 して、姫 君が救助 されると いう発想 があ る であろう。母君と観世音 と の約束 があ るから、姫 君が助 けられたと いう設定ば かり でなく、 詠 歌」によ って観世音を 「 「 感応」させ、「 救助」 へと続く構 図 には、 歌」 には 「 「 神仏を感応 させる」 力があ ると いう要素も重 ん じられ. る。. このような短 か い言葉 で、姫君 の境遇と心境とを反映 でき るのは、. て い る の であ る 。 従 って こ こ にも 「歌 」 は な け れ ば な ら な いも の な の であ る 。. 三.
(5) . . 上岡 勇司・劉. 鉢 か づ き 」 の恋 歌 四、 「 ^ 注8}. 歌」 があ り、 それらは愛情 の深 鉢 かづき」 には愛情 に関 す る 「 「 、 歌」 化 ・成立 の叙述 と な って いる。前述 したよう に、口承文芸 では 「 歌」 を有 す る説話 など は、当時 の人び が重 ん じ られ て いた の で、 「 伊 古今 集」 『 万葉集』 『 と によく受 け入 れ られ た であ ろう。特 に、 『 、鉢 勢物語』は和歌世界を構成 す る代表的 なも のと見られ て いたし 「 鉢か かづ き」 の作者 も、 も ちろん、 そう思 って いたと思 わ れる。「 歌」 を有 する場面も それら の影響 がある のではな いか。 づき」 の 「 その点を次 に考 え てみる。 かの宰相 の君、 い つよ りも華 やかに装束 し て、湯殿 の傍 の柴 の. 、 、 ゐ て 、 河 内 へい ぬ る が ほ に て 見 れ ば こ の女 いと よ う 化 粧 じ て 、 う ち な が め て、. 、 河 内 へも い. 風吹 けば沖 つしら浪 た った山夜半 にや君が ひと りこゅ らむ { 注9). と よ み け るを 聞 き て、 かぎ り な く か な し と 思 ひ て かず な り に け り 。. 伊勢物語』 は以 下 の点 で類似点 があ ると思 われ 鉢 かづ き」 と 「 「 鉢 かづ き」 の場合 、宰相 殿が柴 の臥 戸 の傍 でたた る。共 通点 は、 「. 。 ず ん でいる ことを知 らず に、鉢 かづ きは思慕 を こめた歌 を よんだ 、契 りを かわし. 宰相 殿が それを聞 いて、詠歌を し、 二人 は浅 からず. を案 じ て、歌 をよみ、そ の結 果、男 はほかの女 の所 へも いかなくな っ. 、 伊勢 物語』 の場合、女 は男 のかくれ ている ことを知 らず に 男 『. た の であ る 。. て し ま う の であ る 。. 暮 れば」 臥 戸 にたたず み給 ふ。鉢 かづ き これを知 らず し て、 「 、 と契 りし兼 言 の、はや宵 の間もうち過ぎ ぬ、人を各 むる里 の犬. など と う ち詠 め 、 ま た鉢 か づ き か く な む. 注7) (. 、. わが思 ふ心 の中も涌 きか へる岩 間 の水 を見 る に つけ ても. 0 め/. と、 かやう に遊ば し立 ち出 でむと し給 ふ時. 君思 ふ心 の中 は涌 きか へる岩 間 の水 にたぐ へても見 よ 、鉢 かづ きかくば か. 次 の愛情展開 の部分 にも強 く表 現される のであ る。 る作者 の発想 が、. 愛情獲得深化回復 の徳」 の力 があると考 え 歌」 に 「 このような 「. 思 わ れ る の であ る 。. など の記述 の 一貫性が 、ますます重 要な部分 になる のではな いかと. 伊勢物甑襟 古 今集』 『 万葉集』 「 るから こそ、冒頭 に現われ ている 『. 歌」 によ るも のな のである。 このような設定 があ な設定と描 写 は 「. 。 結 果、愛情 が深ま って行 く、あ る いは、愛情が回復 す る このよう. 、 、 両作品、男女 間 の歌 、あ る いは相手 の歌を聞 いて 感動 し そ の. 声 するほど になりにけり。来 むま でと の形見 の枕 と笛竹を取 り 添 へ持 ち て 、 か く な ん 。. 君来 むと つげ の枕 や笛竹 のなど節多き契 りなるらむ とうち詠 めければ 、御曹 子取 りあ へず、. 、 それは. 幾千代 と臥 し添 ひて見 む呉竹 の契 りは絶 えじ黄楊 の枕 に さ て宰相 殿 は、比翼連 理と浅 からず 契 らせ給 ふ。 以上 のような設定 及び描 写 に類似 のも のがあ るとすれば. 伊勢物誰巴 の本文を示 し てお 伊勢物語」 二十三段 である。次 に 『 『 こー つ。. 、も 、あ. 、 高 安 の郡. さ て年 ご ろ ふ る ほ ど に 、 女 、 親 な く 、 頼 り な く な る ま ま に ろ と も に い ふ か ひ な く てあ ら む や は と て 、 河 内 の 国. 、 こと 心 あ. に 、 いき 通 ふ 所 い でき に け り 。 さ り け れ ど 、 こ の も と の女 し と 思 へる け し き も な く て 、 いだ し や り け れ ば 、 男. り て か か る に や あ ら む と 思 ひ う た が ひ て、 前 栽 の な か に か く れ.
(6) . よしさらば 野辺 の草 ともなりも せ で君を霧 ともとも に消 えな む と遊ば しければ、ま た宰相 殿かくば かり。 道 の辺 の萩 の末葉 の露 ほども契 り て知 るぞわれも溜 らむ この四首 の歌 は、御曹 子 の両親が鉢 かづきを追 い出 そうとしたた め、鉢 かづきが、ど こか へ行 かなければ ならなく な った時 の、 二人 の歌 であ る。歌 で、二人 の愛情 が岩間 の涌き水 のよう に絶 え間 なく、 ^ 注0). 1 勢 い よ く 、 わ き 出 る 思 いを 生 き 生 き と 描 き 出 し て い る 。 これ ほ ど に. 契 りの深 いも のであるから、御曹子 は鉢 かづ き 一人 で行 かせたくな く 、 ど こ ま で も 、 つ い て行 く 決 心 を す る の で あ る 。 要 す る に 、 「捨. てる命 は鱒塵 ほども惜 しくなく、あ なた様を露と思 ってとも に消 え ま し ょ う 」 と 姫 君 が 言 え ば 、 「私 も そ な た と 同 じ 露 と な って 、 し ば し と ど ま ろ う 。」 と い って 、 御 曹 子 は 姫 君 に つ い て い く こと を 誓 う. のであ る。御曹 子が 「 君思 ふ」と詠ず れば、鉢 かづ きが 「 わが思ふ」 と唱和 し、鉢 かづ きが 「 野 べの草」 と詠ず れば、御曹 子が 「 道 の辺 の」 と唱和 す る。深 い愛情 の現われとも いう べき 二人 の心 の交流が 繰 り 返 さ れ る の であ る 。. この辺 の、 二人を心底 ま で結び つけ ている 「 歌」 による愛情描 写 は、歌が重 んじられ ている時代 の反映 であ る。男女 の歌 によるかけ 合 いが み ご と に示 さ れ て い る と ころ な の であ る 。 少 な く と も 、 作 者. は 「 歌」 を詠 ん で、愛情 を伝 え、それ によ って、 その愛情 が深化 し ( 注7) て行 く、「 歌」 の 「 愛情獲得深化回復」 の力を示 して いる のである。 そ れ が こ の 場 面 の構 図 を な し て い る の で は な か ろ う か 。. 次は 「 歌」 に直接関連 し ている所を見よう。. 五、「 鉢かづき」中の 「 歌」の徳. 御伽草子における和歌の位置. 嫁 くら べにお いて、三人 の兄嫁 は鉢 かづき に 「 和琴調 べ候 へ」 と. 難題を出 したのであ るが、鉢 かづ きは 「 傍 な る和琴引 き寄 せ、 三返 調 べ給 ひける」 とあ るよう に難 なく和琴を奏 す の であ る。ま た、. 御前 たち御覧 じ て、 「 歌 を詠 み、手書 く事 も、後 には宰相 殿御. 教 へあ る べ し 。 た だ 今 の中 に は 教 ゆ る 事 も な る ま じ 。 さ ら ば 歌. を詠 ま せ笑 は む」 と談 合 な され、「これ御 覧 ぜ よ、姫 君。桜 が 枝 に藤 の花 、春 と夏とは隣 りな り。秋 は こと さら菊 の花。 これ. に つき、姫君、 一首遊ば し候 へ」. と いう難題 で、鉢 かづ きは次 の 一首を詠 む の である。. 春 は花夏 は橘秋 は菊 いづれ の霧 に置 くも のぞ憂 き 詠 まれた 「 歌」には、春 ・夏 ・秋 の季 語が、よく組 み合 わせ られ、. 春 ・夏 ・秋 の情趣 に優劣 のな いことが歌 われ て いる。 この部分 を読 むと、 「 鉢 かづき」 の冒頭 に母親 と父親 の信仰 ・教養 に ついて述 べ た記述部 分を 、 この場面 の伏線 にす る作者 の心づ か いがうかが え る の であ る。 そ し て、 鉢 かづ き自 身 、. 何 と 申 す べ き や う も な し 。 母 に か し づ か れ し 時 は 、 琴 ・琵 琶 ・. . 和琴 ・壁 ・華集 ・古今 ・万葉 ・伊勢物語 ・法華経 八巻 、数 の御. 経ども読 みしよりほか の能 もなし. と、才能を みが いていたから こそ、「 玉藻 の前 か」 と いう評 判 が 下. さ れ る し 、 御 前 か ら の 、 次 の よ う な 褒 美 も 出 る の であ る 。. わが所領七百 町と は申 せども、 二干 三百町 の所 な り。 一千 町を ば姫 君 に参 らする。また、 一千 町をば宰相 の君 に取 らすべし。. このようなすば らし い才能 の姫 君 に褒美を与 え るのはあ たりまえ であ るが、その才能 は 「 歌」 を詠 む こと によ ってあらわれる の であ. る 。こ こ ま で読 ん でき た読 者 た ち は こ う いう 結 果 を 期 待 し て い る し 、. 作者 は 「 歌」 に全篇を つなぐ役割を担わ したと言 える であ ろう。. 五.
(7) . 歌」 の役割 に ついて 鉢 かづき」 中 の 「 六、「. . 、 内 容 的 に も 、 深 く か か わ って お り 、. 、 、 歌」 が、宗教 ・恋愛 の二 つの要素 にそ って 説話中 に 頻繁 に使 「 わ れ 、 形 式 的 にば か り で な く. 、 大 きな役割を果 たし て いる のであ る。 それが強 く主張 され 不可欠 な 部 分 を 担 って い る の であ る 。. 。. 、 上 岡著 『 和歌説話 の研究 中古篤』 の中 で 説話中 の和歌 の位 置. 注. に着 目 し て 、 次 の 三点 を あ げ て お い た. 。 ① 和歌が エピ ソードと し ての役割を果 たすも の 。 、 ②説話 の構成上 、あ る いは性格上 から 何 らか の役割を示 すも の 。 、 ③ 説話 と形式的 にば かりでなく、内容的 にも 深く かかわるも の 。. ⑳さいき 五首 ⑩ 一寸法師 一首 ⑭横笛草紙 九首 ⑪浦島太郎 五首 ( ただし、連歌形式のものは除 いた) ⑳酒呑童子 ○首 大島建彦氏 )による 御伽草子集」 の解説 ( 2 同前 「 鉢 全訳注 講談社文庫 一九九 一年十二月)所収 「 おとぎ草子』( 3 本文は、「 かづき」 によ った。以下同じ。 釈教歌 さしも草…:」 :・ 4 「 神紙歌 :…神も助けよ」:・ 河岸・ 「 新古今和歌集」- 巻第二十釈教 5 『 昭和四九年三月 堀書房刊) 袋草子紙注釈」上 ( 6 「 6、 尾道短期大学紀要2 歌徳の種 々相 ー 歌徳説話論その三 ー 」 ( 7 森山茂氏 「 昭和五二年 一月). 6 「 小学館刊 ・昭和四九年九月)によ って 御伽草子集』 ( 1 日本古典文学全集 3 調査した結果次のようになる。 ②鉢かづき 十六首 ①文正草子 八首 ④御曹子島渡 一首 ③小町草紙 十四首 ⑥木幡狐 四首 ⑤唐糸草子 一首 ⑧猿源氏草子 十 一首 ⑦七草草紙 ○首 ⑨ものくさ太郎 九首 ⑩ さざれ石 一首 ⑮小敦盛 一首 ⑪蛤の草紙 ○首 ⑭鷲天国 ○首 ⑱ 二十四孝 0首 ⑮猫 の草子 三首 ⑮ のせ猿草子 三首 ⑮和泉式部 二十七首 ⑰浜出草紙 ○首. 歌」 の役割 は、右 の③ に基 い 鉢 かづ き」中 の 「 本論 の考察 では 「 て い る も の と 考 え ら れ る の であ る 。. 0類 に分 け 歌 の徳」 を次 の1 更 に、具体的 に言 えば 、森山茂氏 は 「 て いる の で、 そ れ を 示 し て考 え て み よ う. 1 名声栄誉 の徳 2 神 仏納受 の徳 3 褒賞拝受 の徳. 英 少 劉. 4 愛情獲得深化回復の徳 6 赦 罪釈 放 の徳. 5 任官 昇進 の徳. 輔 岡 上. 7 悪行禁止変更の徳 8 疾病治癒復活の徳 9 鎮魂慰霊往生の徳 0 気象好転 の徳 1 。 鉢 かづ き」 の中 には、 それに該当 す るも のがあ る 本論 の考察 「 愛 情獲 得 深 神 仏納 受 の徳」 に、 「四」 は 4の 「 の 「三」 には 2の 「 褒賞 拝 受 の徳」 にもとづ いている 五」 は 3の 「 化回復 の徳」 に、 「 も のと 思 わ れ る 。. 、 、 鉢 かづ き」 では、歌 の要素、あ る いは 歌 で 全篇 の内容を つ 「 。 、 なぎ なが ら、最初 から、最後ま で 歌を生 かす こと に専念 し て いる.
(8) . 御伽草子における和歌の位置. 8 「 苦しきは…:L の歌の 「 恋しき方 へ」 「 君来んと::こ の歌 の 「 契なるらん」 「いく千代::こ の歌の 「 契りは絶えじ」 「 人待ちて…:L の歌の 「 人待ちて」 「 君思ふ::こ の歌の 「 君思ふ」 「 わが思ふ::こ の歌の 「 わが思ふ」. わ き か へり いはま の水 の いはぱ や と おも ふ心 を いか でも ら さん」 など の歌 が. よしさらば:;こ の歌の 「 「 ともに消えなん」 道 の辺の::こ の歌 の 「 「 契りて知るぞ」 右 の歌語に 「 恋歌」として位置づけられるものがある。 9 「 竹取物語 ・伊勢物語 ・大和物語 ・平中物語丈小学館刊 ・昭和四七年十二月) 。 の本 文 に よ る 0 続千載和歌集 ・巻第十 一恋歌 一 (一〇六四 1 )「 恋歌 の中 に、待賢門院堀河/ 踏 ま え ら れ て いると 思 わ れ る。. くな. n 「 玉藻 の前」ーー 金毛九尾の狐が化したと いう美女。西域 で班足王の夫人 となり、中国で周の幽王の后となり、日本 で鳥羽院の寵愛をうけるなど、三 国の帝王を惑わせたという。……ここでは鉢かづきの姫君の能力のすばらし さを た た え て、恐 ろ し いほど だ と い って いる の であ って、悪 意 は ま った. 。 い( 全訳注二二九。「 語釈」参照). 七.
(9)
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