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【研究報告】「一帯一路」経済圏構想に見られる中国型アジア秩序とそれを支える血縁ネットワークの復活:地域文化学会 シンポジウム「地域文化と東アジアの国際関係」参加報告 利用統計を見る

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【研究報告】「一帯一路」経済圏構想に見られる中

国型アジア秩序とそれを支える血縁ネットワークの

復活:地域文化学会 シンポジウム「地域文化と東

アジアの国際関係」参加報告

著者

後藤 武秀

雑誌名

アジア文化研究所研究年報

52

ページ

191(176)-194(173)

発行年

2017

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00009926/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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「一帯一路」経済圏構想に見られる中国型アジア秩序

とそれを支える血縁ネットワークの復活

地域文化学会 シンポジウム

「地域文化と東アジアの国際関係」参加報告

後 藤 武 秀

1  はじめに  グローバル化の進む現代社会において,人の移動は不可避の現象となっている。かつての単一民 族,あるいは言語を共有する複数民族によって構成されてきた国家が人の移動によって変質を迫ら れている。すなわち,国家という枠組みに依存することなく,人々が意思決定を行い,経済活動, 交易に携わるという現象が生じてきている。このような傾向は,必然的にアジア地域の国際関係の 枠組みについても新たな認識を生み出すことになろう。  近年,このような状況を加速する動きが中国を中心として生まれてきた。それが習近平主席が提 唱し,彼の時代の中国の対外活動の標語となっている「一帯一路」経済圏構想である。日本は,そ れがアジアインフラ投資銀行(AIIB)と密接にかかわるだけに,一歩距離を置いているようであり, 必ずしも十分な理解を示しているようには思われない。この構想は,言うまでもなく中国主導の経 済活動の展開を主軸とするものではあるが,それを従来の国家と国家の関係という枠組みで見てい ると,その本質を見失うおそれがある。そこで,本報告では,「一帯一路」経済圏構想の背後でど のような国際関係が想定されているのか,主権国家と主権国家の関係で国際関係を理解しようとす る従来の認識をどのように改めなければならないかについて論じることとする。 2  「一帯一路」経済圏構想とは何か  「一帯一路」という文言で中国による対外投資を概括的に表現するようになったのは,₂₀₁₃年 ₉ 月, 習近平主席がカザフスタンで「シルクロード経済帯」という経済協力を提示し,同年₁₀月ASEAN 歴訪時に「₂₁世紀海上シルクロード」を提示したのが最初であり,さらに₂₀₁₄年₁₁月北京でAPEC が開催されたときに「一帯一路」構想を正式に発表したことにより用語として根付くようになった。  同年₁₂月には₄₀₀億ドルのシルクロード基金を創設,₂₀₁₅年₁₂月にはAIIBを設立した。そして, 本年₂₀₁₇年 ₅ 月には北京で₂₉カ国の首脳と₁₃₀カ国と₇₀以上の国際機関が参加して「一帯一路」サ ミットが開催された。  「一帯一路」とは,簡単に言えば,中国が主導してアジアからヨーロッパに至る道程の,主とし て開発途上にある国々と地域に対してインフラ建設を起爆剤として経済発展を促すという構想であ る。その道程は ₆ つに大別されるので「 ₆ 大回廊」と称される。すなわち,①新ユーラシアランド ブリッジ,②中国,モンゴル,ロシア,③中国,中央アジア,西アジア,④中国,インドシナ半島, (  )33 ─  ─12 (  )176 ─  ─191

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﹁一帯一路﹂経済政策による中国経済の海外展開とその関係諸地域に及ぼす文化的影響 「一帯一路」経済圏構想に見られる中国型アジア秩序とそれを支える血縁ネットワークの復活 地域文化学会 シンポジウム「地域文化と東アジアの国際関係」参加報告 ⑤中国,パキスタン,⑥バングラデシュ,中国,インド,ミャンマー,がそれである。 3  「一帯一路」経済圏構想の背景  この構想は一見,発展途上国に対する経済協力に見えるが,その背景には中国国内の事情が潜ん でいる。  それは,第 ₁ に,過剰化している外貨準備高の解消である。現在 ₃ 兆ドルを保有しておりアメリ カの最大の債権国であり,これを理由として人民元の引き上げが求められている。もしそうなれば 中国の輸出経済に打撃が及ぶ。ちなみに,この ₁ 年間で ₁ 兆ドルのアメリカ債権を減らして ₃ 兆ド ルになった。これを対外投資に回そうとしている。  第 ₂ に,中国国内で過剰化した生産能力の海外移転である。現状では,政府系会社は過剰在庫と 設備を抱えながらも倒産していない(ゾンビ企業)が,これを海外に移転することによって企業再 生の活路を見いだそうとする。  第 ₃ に,石油などの資源確保である。  第 ₄ に,中国国内の沿海部と中西部との経済格差の解消である。  これらの要因は,いずれも中国国内の問題であり,国内で解決することが望ましいのであろうが, 中国経済の規模が巨大化しすぎており,もはや国内で処理することは不可能になっている。それゆ えに,蓄積した外貨を周辺諸国・諸地域への投資に回し,同時に国内問題をも解決しようとするの である。 4  「一帯一路」に基く投資の特質  中国は,AIIBを経由した融資を行うとしているが,この融資はいわゆるハードルが低く,資金 の回収が可能かどうか疑念が持たれている。  中国による投資は,相手国は,土地を用意するだけでよく,資金と技術は中国から援助するとい うものである。しかしこれには今少し説明が必要である。中国は資金と技術だけでなく,インフラ 建設に要する人材も派遣している。そのために,相手国の国民に就業の機会が提供されることはあ まりない。結局,投資対象国にとっては,中国の資金と人材が入ってくるだけであり,それが本当 に自国の発展に寄与するのかどうか,疑問がある。 5  「一帯一路」経済圏構想の前提条件の形成―遠大なる大中国化構想,在外華人の中国への文化 的同化―  それにもかかわらず,多数の国家元首らが今回の会議に参加し,「一帯一路」構想に期待するの はなぜか。経済発展に対する期待はもちろんであるが,それ以上に,この構想に乗らなければなら ない国内的要因がある。それが,関係各国における華人人口の増加である。  いわゆる華人とは,何世代か前に華僑として中国以外の国・地域に居住し始めた中華系の人々の 子孫である。例えば,マレーシアでは₆₇₈万人の華人がおり,同国総人口の₂₃.₆%を占めている。 インドネシアでは₈₁₂万人,₃.₃%,タイでは₇₅₁万人,₁₁.₂%である。これら華人の国内政治におけ る地位は決して低くない。  しかも,これら東南アジアにおける華人は,もともとの出身は福建省,広東省が多く,言語もこ れらの地域の言語であり,その縁由から台湾,香港との関係が強かった。しかし,中国政府は,こ (  )34 ─  ─11 (  )175 ─  ─192

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﹁一帯一路﹂経済政策による中国経済の海外展開とその関係諸地域に及ぼす文化的影響 れら華人を中国人のネットワークに取り組むために,標準中国語(北京官話)教育を実施してきた。 華人学校における言語教育に標準中国語を組み入れ,さらに孔子学院などの機関を通じて標準中国 語の教育にあたってきた。マレーシアでは,現地の大学と提携して設置される孔子学院こそ ₂ 校で あるが,タイでは₁₂校を数える。ちなみに日本は₁₇校である。  このようにして,在外華人の中国への文化的同化政策が進展する一方で,華僑および新華僑の増 加が進展しつつある。 6  各国における華人・華僑・新華僑の増加と中国への文化的同化のもたらすもの  華人には特有の経済活動様式がある。それが血縁,地縁をネットワークとする経済活動である。 このような華人のネットワークが崩壊することなく残存し,拡大してきている台湾では,「没有国 那裡,会有家」とか,「同里心」と言われるように,血縁と地縁は国家以上に頼れるものである。 一例として,台湾李氏宗祠と称される李氏の同族組織は,祖先祭祀を主目的とする組織ではあるが, その事業の一環として公共関係委員会が設置されており,「他の宗親会の訪問,交流」を事業とし ており,全世界の李氏宗親会との交流を続けている。その効果は,単に同族の誼の維持にあるので はなく,経済活動の相互協力にある。  このような血縁,さらには地縁のネットワークは,中国社会が革命のスローガンの中で禁じたと ころであった。毛沢東は,族権からの解放,神権からの解放を革命のスローガンとしたからである。 ところが,改革開放以来,血縁のネットワークが公認され,族権からの解放はもはや過去の遺物と なってしまった。一例として,₂₀₀₈年に組織章程が作られた四川省濾県の林氏宗親会の規定を見る と,その主要な任務として,「相互の往来を増加する」,「宗族の誼を通じる」といった表現がみら れる。実際,この宗親会は温州の林氏組織との間に交流があり,経済活動を展開している。温州商 人のビジネスの成功に便乗して世界展開を考えているのである。血縁,地縁によるビジネス展開を 推進してきた台湾型のビジネスモデルが中国においても行われだしたのであり,しかも各国の華人 の中国文化への同化が進んでいることから,その規模は台湾型を遙かに上回るようになることが予 測される。 7  「一帯一路」経済圏構想に見え隠れする中国型家族主義  習近平主席の提唱する「一帯一路」経済圏構想は,本年 ₅ 月の国際会議においてその全体像が示 されたが,開幕式から閉幕式に至るまでの様々な機会の演説で,「合作」という表現が₁₂₈回,「発展」 が₉₆回,「建設」が₈₈回と,群を抜いて何度も用いられた。その ₃ つの言葉をつなげると,諸国と の協力によりインフラ建設を行い,諸国の発展に寄与するということになる。バラ色の夢にも思え る表現である。しかし他方において,開幕式の演説で,「陸上,海上,天上,網上の四位一体の流通」 を推進することを提唱し,さらに,それらを通じて「調和ある共存の大家庭」を作り上げると論じ る。大家庭という表現は,世界人類を ₁ つの運命共同体とする考え方であると見れば,誰しも納得 のいく見解である。しかし,家庭の構成員を家族と見れば,それは血縁のある者の共同体というこ とになる。いささか穿った見方かもしれないが,先に見た華人の拡大という現象と重ねると,華人 を中心とする世界共同体という構造が見えてくる。しかも,四位一体の流通となると,そこには最 早,従来の意味での国境は存在しない。基調報告にあるように,海を誰しもが利用できる流通の場 とする見解に通じるものがあるが,しかし,ことはそれに留まるものではない。 (  )35 ─  ─10 (  )174 ─  ─193

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﹁一帯一路﹂経済政策による中国経済の海外展開とその関係諸地域に及ぼす文化的影響 「一帯一路」経済圏構想に見られる中国型アジア秩序とそれを支える血縁ネットワークの復活 地域文化学会 シンポジウム「地域文化と東アジアの国際関係」参加報告 8  新たな国際関係の創出  従来,国際関係は主権国家と主権国家の関係と理解されてきた。しかしながら,華人の拡大,さ らには四位一体の流通という構想を背景として考えると,そこには新たな国際関係理解の枠組みが 必要となってくる。  第一に,国境という枠組みの形骸化である。各国に居住する華人と中国国内の中国人の血縁,地 縁ネットワークの拡大が,流通の自由拡大と結びつくとき,そこには最早国境という枠組みは必要 とされない経済活動が展開される。今でこそ,国家の枠組みの中で中国と他国との関係が論じられ ているが,もし,将来を予測することが許されるならば,そう遠くない将来において,中国という 枠組みの中で中国居住中国人と各国の華人が直接つながることになるであろう。  第二に,では,そのような中国居住中国人と各国の華人がつながることになると,従来の国家と 国家の関係はどうなるのか。中国は,伝統的に中華思想という思考方法を有してきたが,それが復 活することになる。すなわち,大中国の枠の中にそれぞれの国が存在するという構造が生まれる。 国際関係は,大中国の枠の中における中国と各国の関係として捉えられる。  このような国際関係の構造は,主権国家と主権国家の関係という現代国際法の国家認識と相容れ ない。しかし,現代までの国際法が西洋国際法であることを考えると,将来的に東アジア起源の国 際法があっても不思議ではない。実際,中国が南沙諸島問題について西洋国際法の論理による判断 に従わないのは,東アジアには東アジアの国際法があるとする認識に基づいているとしか考えられ ない。現代国際法学では,この点に全く言及がないようであるが,再検討を願いたいところである。  さて,どうしてそのように考えるかということについて,中国国内における国際法学のある傾向 について述べておかなければならない。現在,中国の法学会では国際法の研究に対して多大な研究 費が投じられている。法解釈学者だけでなく,歴史家も,国際法を対象とする研究を進めている。 そのような中で, ₁ つの成果が古代の周代における国際法研究である。紀元前₁₁世紀から前 ₈ 世紀 まで,あるいは理解の仕方によっては前₂₂₁年の始皇帝による皇帝制国家の建設まで存在した周王 朝は,その中にいくつもの都市国家を抱えている。多数の都市国家と都市国家の関係性,周王朝と 都市国家の関係性を国際法と称するのである。このような国際法理解は,大きな国家の中に複数の 小さな国家があるという構造を認めるものであり,西洋国際法における主権国家と主権国家の関係 がすべてであり,その上位に位置する国家は存在しないという考え方とは一線を画する。  古代,東アジアに存在した大国と都市国家の共存関係をも国際法の中に取り入れ,これを東アジ ア型国際法理解とするならば,中国と各国の関係性も大中国の中の小さな国家とする見方が生まれ てくる。そこに至るかどうか,将来の予測は困難であるが,各国の中の華人の占める比率が高くな り,華人ネットワークの構築が拡大していけば,各国の意思決定に中国が大きな役割を果たすこと になろう。その段階を過渡的な段階と見れば,将来的に中華思想に基づく国際関係が生まれてくる ことも不自然ではない。  東アジアの国際関係についても,従来の国際法学の枠組みでいう主権国家と主権国家の関係とい う理解から脱却しなければ,事態が理解できない時代になってきている。  本稿は,₂₀₁₇年 ₆ 月₁₀日に開催された地域文化学会第₂₀回研究大会におけるシンポジウム「地域 文化と東アジアの国際関係」に参加して報告した内容を基にしたものである。 (  )36 ─  ─9 (  )173 ─  ─194

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