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重症心身障害児・者の視覚認知活動に関する生理心理的研究

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Academic year: 2021

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(1)

重症心身障害児・者の視覚認知活動に関する生理心

理的研究

著者

寺田 信一

100

発行年

2000

URL

http://hdl.handle.net/10097/14970

(2)

学 位 の 種 類 博 士(教 育 学)

学 位 記 番 号

第100号

学位授与年月日

学位授与の要件

平 成13年2月21日 学 位 規 則 第4条 第2項 該 当 い ち

学 位 論 文 題 目

論 文 審 査 委 員

重症心身障害児 ・者の視覚認知活動に関する生理心理的研究

(主査) 教 授 細 川 徹

助教授

論 文 内 容 の 要 旨

本 論 文 は,重 症 心 身 障 害 児 ・者 の 視 覚 的 認 知 活 動 に 関 与 す る 神 経 機 構 の機 能 状 態 を,視 覚 情 報 の 大 まか な 処 理 や 動 く対 象 の認 知 に 関 わ るM系 と,視 覚 情 報 の 細 部 の処 理 や 色 を 伴 う対 象 の 認 知 に 関 わ るP系 とい う2つ の 並 列 分 散 処 理 サ ブ シ ス テ ム の 働 き を軸 に,誘 発 電 位 を 中 心 とす る各 種 の 指 標 か ら評 価 し,そ の 結 果 に 基 づ い て 発 達 障 害 水 準 モ デ ル(脳 幹 優 位 水 準,過 渡 期,大 脳 皮 質 低 次 水 準 大 脳 皮 質 高 次 水 準)を 提 案 し,そ の モ デ ル が 重 症 心 身 障 害 児 ・者 の 療 育 ・指 導 に果 た す 役 割 に つ い て 論 じた も の で あ る。 論 文 の 構 成 と 内 容 は 以 下 の通 りで あ る。 第1部 は 単 純 光 刺 激 に基 づ く応 答 性 を検 討 し た5つ の 章 か ら構 成 さ れ て い る 。 第1章 で は,視 覚 認 知 活 動 の 神 経 機 構 の近 年 の研 究 をP・M系 と い うサ ブ シ ス テ ム の 働 き を 中 心 に ま と め,M系 がP系 よ り早 期 に 発 達 す る こ とを 示 した 。 第2章 で は,早 期 に 発 達 す るM系 の 応 答 が 優 位 な 単 純 光 に対 す る 応 答 に 関 して,瞳 孔 対 光 反 射, 閃光 誘 発 電 位(FEP),視 覚 応 答 行 動 の3指 標 を 用 い,多 水 準 的 評 価 を 行 う こ とで,重 症 心 身 障 害 児 ・者 で は 大 脳 皮 質 高 次 水 準 に 障 害 の あ る 事 例 が 多 く,閃 光 誘 発 電 位 が み られ る 大 脳 皮 質 低 次 水 準 に と ど ま る事 例 と,そ の電 位 が み られ ず 瞳 孔 対 光 反 射 が 出 現 す る 脳 幹 優 位 水 準 に あ る事 例 に

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分 か れ る こ と を示 し た。 第3章 で は,閃 光 誘 発 電 位 が 出現 した 重 症 心 身 障 害 児 ・者 に 対 して,そ の 成 分 の ピ ー ク 数 を整 理 し,眼 球 運 動 の 制 御 機 構 の 機 能 状 態 と比 較 す る こ とで,大 脳 皮 質 水 準 の 中 で も,低 次 水 準 と高 次 水 準 の 機 能 的 な 相 違 を明 らか に した 。健 常 乳 児 に認 め られ る 陽 性 一陰 性 陽性 のW形 成 分 が200ミ リ秒 以 内 に 出現 す る 事 例 で は,定 位 的 な 眼 球 運 動 パ タ ン を 示 し,ま た,予 測 的 な 眼 球 運 動 も 観 察 さ れ た 。 単 一 の 陽 性 成 分 の み が 認 め られ た 事 例 で は,定 位 的 運 動 パ タ ン を 生 じ る 刺 激 に 制 約 が あ り,ま た 予 測 的 運 動 が 観 察 さ れ ず,オ ー バ ー シ ュー トと い っ た 運 動 制 御 の 障 害 もみ られ た た め, そ れ ら に 関 わ る 大 脳 皮 質 高 次 水 準 に 障 害 が あ る と推 測 し た 。 第4章 で は,療 育 者 が 日常 の取 り組 み の 中 で 行 っ て い る 重 症 心 身 障 害 児 ・者 の 視 覚 認 知 活 動 に 関 す る 評 価 を,閃 光 誘 発 電 位 や 注 視 ・追 視 検 査 と比 較 し,そ の 妥 当 性 を 確 か め る と と も に,評 価 の 際 の 留 意 点 を ま と め た 。 第5章 で は,第1部 の ま とめ と し て,M系 が 優 位 な 単 純 光 に よ る 多 水 準 的 な 評 価 に よ る 発 達 障 害 モ デ ル を 示 した 。 第2部 は,バ タ ン刺 激 に対 す る 応 答 性 を検 討 した6つ の 章 か ら構 成 さ れ て い る 。 まず,第6章 で パ タ ン刺 激 に対 す る 誘 発 電 の新 た な 成 分 同 定 法 を提 案 した 。 第7章 で は,そ の 同定 法 に 基 づ き,重 症 心 身 障 害 児 ・者 の パ タ ン誘 発 電 位 に つ い て 検 討 し,P系 ・M系 と い う視 覚 認 知 機 構 の サ ブ シ ス テ ム の 障 害 状 況 を 明 らか に した 。 第8章 で は,パ タ ン刺 激 に 対 す る 注 意 反 応 を検 討 し,発 達 障 害 水 準 が 最 重 度 の 重 症 心 身 障 害 児 ・者 で は ,大 きなサ イ ズの刺 激へ の注視 率 が他 のチ ェ ックサイ ズ に比べ 高 く,P系 の サ ブ シ ス テ ム に 障 害 が あ る こ とが 示 唆 さ れ た。 逆 に,発 達 障 害 水 準 が 相 対 的 に 軽 い 事 例 で は,注 視 率 が 高 く と も注 視 の 持 続 時 間 が 短 い事 例 が あ り,こ の こ とは 反 復 的 な 刺 激 に対 して 慣 れ が 生 じた た め 注 意 を 喚 起 ・維 持 しな くな っ た こ と に起 因 す る と考 え られ,単 純 な 刺 激 に 対 す る注 意 の 持 続 の 短 さ は, か え っ て,認 知 レ ベ ル の 高 さ を表 して い る こ と を 指 摘 し た 。 第9章 で は,顔 型 の刺 激 に 対 す る 事 象 関 連 電 位 を検 討 した 。 発 達 障 害 水 準 が7ヶ 月 以 上 の事 例 の 中 に は,そ の 分 布 が 前 方 領 域 優 位 な 分 布 を 示 す 事 例 が み られ,低 頻 度 に提 示 さ れ た 顔 型 に対 し て,選 択 的 な 注 意 が 働 い た 可 能 性 を指 摘 した 。 一 方,7ヶ 月 以 上 の 発 達 障 害 水 準 で は,後 方 領 域 優 位 に 認 め られ,そ の選 択 的 注 意 の 制 御 に 関 わ る 前 頭 領 域 の 活 動 の 未 熟 性 が 推 定 され た 。 第10章 で は,同 一 対 象 者 に 対 して,パ タ ン誘 発 電 位 と事 象 関 連 電 位 を 同 日 に記 録 し,そ の相 互 の 関 連 性 を 検 討 し,さ ら に,こ う し た 電 気 生 理 学 的 指 標 に よ り推 定 され た 視 覚 的 神 経 機 構 の 障 害 像 と療 育 記 録 と比 較 を 行 っ た 。 第11章 で は,第2部 を ま と め,パ タ ン刺 激 に よ る発 達 障 害 水 準 モ デ ル を示 し た 。 終 章 で は,健 常 乳 児 の 発 達 的 変 化 と比 較 し つ つ,重 症 心 身 障 害 児 ・者 の視 覚 認 知 活 動 に 関 わ る 神 経 機 構 の 機 能 状 態 に 関 す る 包 括 的 な 発 達 障 害 水 準 モ デ ル を提 案 し,そ の モ デ ル の療 育 ・指 導 上 の 役 割 を 述 べ た 。

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論 文 審 査 結 果 の 要 旨

重 度 な 運 動 障 害 と知 的 障 害 を 併 せ もつ 重 症 心 身 障 害 児 ・者 で は,彼 らが ど の程 度 周 りの 世 界 が 見 え て い る の か,ま た,ど の 程 度 周 りの 世 界 を 理 解 し て い る の か,正 確 に捉 え る こ と は きわ め て 難 し い こ と で あ る。 本 論 文 は,彼 らの 視 覚 的 認 知 活 動 を 生 理 学 的 指 標 に基 づ い て 適 切 に 測 定 ・評 価 す る こ と を 目 指 した も の で あ る。 こ の 試 み は2つ の点 で 意 義 の あ る も の で あ る。 第1に,重 症 心 身 障 害 児 ・者 の 視 覚 認 知 活 動 をM系 ・P系 に 関 す る最 近 の 知 見 に基 づ き解 明 し た研 究 は 国 内 外 を 問 わ ず 見 当 た ら な い こ と。 第2に,本 論 文 の 目指 す と こ ろ は 重 症 心 身 障 害 児 ・者 の 療 育 に 携 わ る 人 々 が ま さ に 知 りた い と願 う こ と と一 致 し,研 究 成 果 の 応 用 的 価 値 が きわ め て 高 い こ とで あ る 。 第1点 に 関 し て,P・M両 系 を 内 包 す る 視 覚 神 経 機 構 の 機 能 状 態 を 明 らか に す る た め に,著 者 は 閃 光 誘 発 電 位,パ タ ン刺 激 誘 発 電 位 及 び 事 象 関 連 電 位 な ど を用 い,多 水 準 的 ア プ ロ ー チ を 試 み た 。 重 症 心 身 障 害 児 ・者 に 対 す る この よ う な研 究 が 無 い こ と の大 き な 理 由 と して,測 定 そ の も の が き わ め て 困 難 な こ とが 挙 げ られ る 。 実 際 に,著 者 は 方 法 に 改 良 を重 ね な が ら十 数 年 に わ た る 地 道 な 蓄 積 の も と に本 論 文 を ま とめ あ げ た 。 そ の 成 果 は 「論 文 内 容 の 要 旨」 で 詳 し く述 べ た が,本 論 文 の 価 値 は 希 有 の研 究 で あ る と い う だ け で は な い 。測 定 に 用 い た 複 数 の 生 理 学 的 指 標 に基 づ き, 重 症 心 身 障 害 児 ・者 の 視 覚 認 知 活 動 の機 能 的 状 態 に 関 す る 包 括 的 な モ デ ル(発 達 障 害 水 準 モ デ ル) を提 唱 した こ と は,き わ め て 独 創 的 な 点 と して 高 く評 価 で き る。 第2点 す な わ ち 本 論 文 の 目標 が 療 育 の 現 場 にお け る ニ ー ズ と も合 致 す る と い う点 で あ る が,著 者 の モ デ ル にお け る 幾 つ か の評 価 軸 に沿 っ て,個 々 の 重 症 心 身 障 害 児 ・者 は ど の発 達 水 準 に位 置 す る か,ど の 程 度 の 視 覚 認 知 機 能 を も つ か が わ か る こ ど に な る。 た と えば,「○ ○ を よ く見 る」 児 が い る と,療 育 者 は 「この 子 は これ を見 る こ とが 好 き な の だ 」 と判 断 しや す い 。 しか し,P系 の 機 能 が 未 熟 な 場 合,M系 の 感 受 性 が 高 い 視 覚 的 現 象 に注 視 や 追 視 が 生 じ て い る 可 能 性 が あ る。 と く に脳 幹 優 位 水 準 に あ る 場 合,形 態 の 認 識 は 困 難 で あ る。 これ らを 「好 み 」 と誤 って 判 断 す る こ とは,児 の視 覚 認 知 活 動 の促 進 に と っ て マ イ ナ ス の 影 響 を 与 え か ね な い。 逆 に,維 持 継 続 時 間 が 短 い 児 は 「よ く見 な い」 と判 断 さ れ や す い が,発 達 水 準 が 高 い 児 で あ れ ば 単 純 刺 激 に 対 して 速 や か に慣 れ が 生 じ,見 る時 間 が 短 縮 す る の で,そ の 場 合 は 認 知 能 力 に 合 わ せ た 視 覚 教 材 の 選 択 を考 え な け れ ば な ら な い 。 こ の よ う に 本 論 文 の研 究 成 果 は き わ め て 実 践 的 ・応 用 的 な 価 値 も 併 せ も つ と い え る。 重 症 心 身 障 害 児 ・者 は,こ れ ま で そ の障 害 の 重 さ ゆ え に,心 理 を 推 し量 る こ と は難 し く,療 育 者 は 主 観 と経 験 に 頼 る しか な か っ た。 本 論 文 の 生 理 心 理 学 的 ア プ ロー チ は 彼 らの 視 覚 認 知 を 客 観 的 に評 価 す る 可 能 性 を 開 く も の で あ る 。 体 系 づ け られ た種 々 の 生 理 学 的 指 標 は,重 症 心 身 障 害 児

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・者 の 視 覚 世 界 あ る い は 外 界 を見 る 心 を窺 い知 る窓 の よ うな 役 割 を果 た す も の と期 待 で き る 。 本 論 文 で は,多 様 な 重 症 心 身 障 害 児 ・者 を基 礎 疾 患 に か か わ らず 一 括 して 扱 う こ と の 問 題 や, 提 案 し た モ デ ル の 妥 当 性 の検 証 な ど,残 さ れ た 課 題 も あ る も の の,こ の 領 域 に お け る 新 た な研 究 の 視 座 と そ れ に基 づ く成 果 を得 る こ と に成 功 した とい え る 。 これ は 斯 学 の発 展 に 寄 与 す る と こ ろ が 大 き い 。 よ っ て,本 論 文 は 博 士(教 育 学)の 学 位 論 文 と して 合 格 と 認 め る 。

参照

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