論 説 名経法学 第41号 (2018年)
商標の譲渡とグッドウィル
アメリカの場合
測
麻依子
はじめに一問題設定
我 が 国 の 商 標 法 に お い て , 商 標 は 原 則 と し て 自 由 に 譲 渡 す る こ と が できる (24条 の 2)1。そこには何らの条件も付されていないも これは, 大 正10年 法 を 改 正 す る 際 に 大 き く 改 正 さ れ た 点 で あ る 。 す な わ ち , 大 正10年 法 の 下 で は , 商 標 の 移 転 は 事 業 の 移 転 を 伴 う 場 合 に の み 可 能 と さ れ , 商 標 の 使 用 許 諾 に つ い て 規 定 が な か っ た と こ ろ , 改 正 の 際 に 新 し く こ れ ら の 制 度 を 設 け る こ と に し た の で あ るら そ の 理 由 は 「経 済 の 要 求 に 即 応 す る た め の 措 置」で あ る と さ れ1
より具体的には, 旧 法 が , 出 所 の 混 同 が 生 ず る の は 妥当 で は な いとして品質 が 保 証 され l 商標法24条の2第l項は 「商標権の移転は,その指定商品又は指定役務 が二以上あるときは,指定商品又は指定役務ごとに分割してすることが できる」。 と規定する。ここにL、ぅ移転には,個別的移転および包括的移 転の双方を含むものとされる。平尾正樹 『商標法<第2 次改訂版>~ (学 陽書房,2015年)450頁。 2 もっとも, 24条の2第3号は, (1)国もしくは地方公共団体もしくはこ れらの機関, (2)公益に関する団体であって営利を目的としないもの, (3) 公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章 について,譲渡に制限を課している。 3 特許庁編 『工業所有権制度百年史(下巻)j(発明協会, 1985年)311-312 頁所収の 「工業所有権制度改正審議会商標部会答申(昭和31年12月 24 日付)J参照。 4 荒玉義人 「改正商標法答申案の立場」パテント7巻12号280頁 (1954年)。るか否かを問わず使用権を認めなかったのに対し,改正法では,品質 の保証が確保されていればよいという理由から使用権を導入し,それ と 同 じ 理 由 か ら 商 標 の 譲 渡 も 認 め た も の で あ っ た5。また,外国法の 状況も参照したとも説明されている60 さらには,商標を移転させたり許諾したりすることは, TRIPS協 定の要請でもある。すなわち, TRIPS協 定 21条は,グッドウィルを 伴わず商標を譲渡することを可能とするよう求めている70 こうした商標の移転について, 日本とは異なる規定を持つのがアメ リカである。後に紹介する通り,アメリカでは,商標は,商標が使用 されている事業のグッドウィルとともに譲渡されなければならないと 規定されている。それでは,アメリカでは,グッドウィルを伴わずし て商標を譲渡することは一切行われていないのかというと, 実際のと ころそのようにはなっていないようである九 た と え ば , 事 業 会 社 が 知的財産管理会社に商標を移転し,そこからライセンスを行うことに よって,巨額の節税を行うというスキームが作られている。こうした 商標の移転は,アメリカ国内において行われるだけでなく,国境を超 えて行われ,結果として,莫大な節税の効果を得ている企業があると L
、
ぅ
9叩 5 荒玉義人 「工業所有権制度改正の動向とその要点?商標権を中心として」 旬刊商事法務研究 53号4頁 (1957年)。 6 同上。 7 "1加盟国は,商標の使用許諾及び譲渡に関する条件を定めることができる。 もっとも,商標の強制使用許諾は認められないこと及び登録された商標 の権利者は,その商標が属する事業の移転が行われるか行われなL、かを 問わず,その商標を譲渡する権利を有することを了解する」と規定する。 尾島明 『逐条解説TRIPS協 定Jl(日本機械輸出組合, 1999年)93頁参照。 8 こうした状況を指摘するものとして, Irene Calboli, TrademαrkAssignment "with Goodwill": A Concept Whose Time Has Gone, 57 FLA. L. REV.,773, 774 (2005).
9 JEFFREY A.恥I[AINE & X UAN-THAO NGUYEN, T HE INTELLEcTuAL PROPERTY HOLDING COMPANY (2017)たとえば,アメリカ国内の事案に おいては、州、│法人税の税率が低いデラウェア州に知的財産管理会社を設
商標の譲渡とグッドウィル (洲) しかしながら,企業が知的財産管理会社に商標を移転し節税を行う というスキームそのものは,法に正面から反するものではなく,むし ろ,法をよく知り,よく活用したことによって作られるものである。 このスキームが,各国の税収の額に大きな影響を与えていることは間 違いないが,ただ道徳的な観点から批判を行うというのは建設的では ないだろう。税法の見地からこうしたスキームのどのような点が不適 切 で あ る の か11と い う 議 論 も 行 わ れ て は い る が , 同 時 に , 知 的 財 産 法 の見地からは何が指摘できるかも検討する必要がある。本稿は,その 第 一 歩 と し て , 商 標 の 譲 渡 に つ い て , ア メ リ カ で ど の よ う な 立 法 や 議 論が行われてきたかを整理することを主眼とするものである九 なお,アメリカにおける商標の譲渡,あるいは,ライセンスの問題 につき,これまで我が国において紹介がなかったわけではない。現行 商標法の制定前後にアメリカの商標法の規定を紹介する文献を見るこ とができる13140 しかしながら, 当 時 考え ら れ て い た , そ も そ も 商 標 置する。また,国際的な事案においては,知的財産管理会社を法人税率 が極端に低い国(,、わゆるタックスへイブン)に設置する。 10実際には,知的財産管理会社に移転するものは商標に限られなL、。実際 に生じた事例には,ノウハウの移転を行ったものもあったという。しか しながら,本稿では,移転にそもそも制限がかかっている商標を取り上 げて,知的財産権の移転に関する議論の突破口としたL、。 11 税法の議論においては, 事業会社から知的財産管理会社に商標を移転し, その商標について事業会社がライセンスを受けるというスキーム自体は 肯定した上で,事業会社から知的財産管理会社に支払われるライセンス 料の額の妥当性を問うのが現在の状況であるという。 12 本稿の問題設定については.MAINE
&
NGUYEN・前掲注9)から着想を 千尋たものである。 13 染野啓子 「商標権の自由譲渡と法規制の限界」パテント8巻3号64頁 (1955年)をはじめ, 尊優美「アメリカ法における商標権の譲渡と使用許 諾の問題(1)・(2)Jパテント9巻11号309頁 (1956年).パテント 9巻 12号337頁(1956年)がある。 14 また,商標の譲渡や使用許諾について商標の機能の観点から考察するも のとして,大西育子 「商標の譲渡と使用許諾 商標の機能からの一考察」 パテント64巻5号160頁 (2011年).粛藤崇・小川宗一「商標の自由譲 渡及び使用許諾と商標の機能」日本大学知財ジャーナル11号69頁 (2018 年)がある。を移転することができるのか否かという問題を超えて,知的財産権を 「活用」 した問題に対応するために,本稿において,あらためてアメ リカにおける商標の移転の議論状況について整理を行いたい。したがっ て,本稿で扱う商標の本質あるいは機能の議論については,特に言及 しなし、かぎり,アメリカの商標法に関するものである。
2
ア メ リ 力 法 に お け る 商 標 の 譲 渡 お よ び ラ イ セ ン ス 2.1ランハム法の規定 (1)規定およびその趣旨 現在,連邦レベルの商標法の問題を扱うのは,1
9
4
6
年に規定され たいわゆるランハム法 (LanhamAct; Trademark Act of1
9
4
6
)
15 である。ランハム法は商標の譲渡について以下のような規定を持つ。 第1
0
条(15U
.
S
.
C
.
~1
0
6
0
)
譲渡 (a)(1)登録標章または登録出願がされている標章は,その標章が 使用されている事業に係るグッドウィルとともに,または事業に係る グッドウィルの一部であって,その標章の使用に関連しており,かつ, その標章によって象徴されているものとともに, 譲渡することができ る。(以下略)16 ランハム法1
0
条が定めるような,グッドウィルを伴わない場合に 15 Pub. L.No.79-489.15U.8.C.1051-11411
6
原文は以下の通りである。 15 U.S.Code 13 1060-Assignment (a)(1)A registered mark or a mark forwhich an application toregis terhasbeen filedshallbeassignable with thegood willofthe business inwhichthe mark is used, orwiththatpart ofthegood willof the businessconnectedwith theuse of and symbolizedby themark商標の譲渡とグッドウィル (洲) は商標を譲渡することができないとするルールは "anti -assignmen t -in-gross rule"と呼ばれている九 本稿では,このルールをさしあた り「単独譲渡禁止ルール」と呼ぶことにしたい。アメリカの商標法に おける単独譲渡禁止ルールは,コモンローに由来するものであるとい よ18 ノ O 単独譲渡禁止ルールの背後にあるのは,消費者保護の考え方である と言われている九 すなわち,商標の譲渡に必ずグッドウィルが伴う ことを通じて,商標の譲受人が,同じ商標を用いた異なる品質の商品 を販売することを避ける狙いがある。同一商標の下での品質の継続の 保障を通じて消費者を保護することを目的とするのでで、ある叩 なお,この単独譲渡禁止ルールに違反してなされた商標の譲渡は, そもそも無効 (void)であると解されている九 さらには,グッドウィ ルを伴わず単独で譲渡 さ れ た 商 標 に つ い て は,その意 義 (signifi -cance)を喪失したとして放棄されたもの (abandonment)とみなさ れる可能性もある九 (2)ランハム法制定の経緯 このように,ランハム法は,商標を営業と切り離して単独で譲渡す ることを禁じているが,そもそもこのような規定がランハム法に存在 するのはどのような経緯によるものであろうか。 既に述べた通り, 単独譲渡禁止ルールは, 19世紀の終わりから 20 17 "Anti-assignment-in-grossrule"について, 3 J.THOMASMCCARTHY, MCCARTHY ON TRADEMARKS AND UNFAIRCOMPETITION e 18:3(5thed. 2018)参照。 18 Id 19 See恥1CCARTHY,suprαnote 15, e 18:3. 20 こうした考え方は, 近時の裁判例においても維持されているという。See MCCARTHY, suprαnote 15, e 18・3. 21 PepsiCo. Inc.v. Grapette Co., 416F. 2d 285, 290(1969) 22 Lanham Acte 45, 15 U.S.C目 e1127.
世紀初頭時期にコモンロー上のものとして裁判所において支持されて きたものであった。そして,グッドウィルの移転を伴わない商標の譲 渡は無効なものであり,その商標は放棄されたものであるとみなされ ることもあったという九 こうした単独譲渡禁止ルールは,連邦レベ ルの商標法である 1905年法において明文のものとなった九 また, 1923年に出された最高裁判決25は,商標は,原告が買収する事業のグッ ドウィルとともに売却され得るものであると述べていた。 ところが,ランハム法制定に先立つ連邦議会における検討において は,単独譲渡禁止ルールを維持するかどうかについて議論が生じた。 具体的には,単独譲渡禁止ルールを定めるランハム法10条は,その 草案の段階 (1939年の下院特許委員会商標小委員会で検討した草案) では,
I
登録標章は,事業にかかるグッドウィルとともに,あるいは, グッドウィルをともなわずとも譲渡することができる」というもので あったのである260 このようにグッドウィルを伴わずに商標を譲渡す ることができると条文を変更すべきかどうか,賛成反対両方の立場か ら激しく議論が行われたことが記録されている。そこで両派が主張し たのは,特許をはじめとする他の権利(特に知的財産権)との違いで あり,商標の起源といった歴史的経緯であり,また,商標の機能であっ た。そして,商標の自由な譲渡に関する世界的な動向にも目配りされ た議論がなされている九 特に,グッドウィルの移転を問わず商標の 23 SeeCalboli, supranote8, at788-789この時期における判例の状況につ いて整理されている。 24 Trademark Act of1905, 3110商標の譲渡は,事業に関するグッドウィル と共に(inconnection with the goodwill ofthe business inwhich the mark is used)行われるべきことが示されている。 25 A.Bourjois& Co. v. Katzel, 260U.S. 689, 692(1923) 26 SeeHouseHearings, HR 4744, 76thCong., 1st Sess., p.79CMarch 3, 1939) この時点において,商標の譲渡に関する規定は"A
registered trade-markshall beassignable eitheror with or withoutthe good will ofthe business. C以下略)"とされていた。 27 Id.at 79-81.商標の譲渡とグッドウィル (洲) 譲渡を認めようとする立場からは,商標は,たしかに,歴史的には, 氏名等が使われていることが多いものの,商標は人格的なものではな いということ主張された。これに対して,グッ ドウィルと共にでなく ては商標の移転は認められないとする立場拍からは,それまでの判例 を引いた上で,コモンロー上のルールを変更すべきではないという主 張が行われている目。 また,合衆国憲法の州際通商条項(第 1編第 8 節
3
項)との関係で,そもそも,連邦法で商標についての規定を行う ことの可否についても議論の姐上に載せられた九 単独譲渡禁止ルールを廃止するかどうかの議論は,その後,議会に おいて繰り返し行われ3
1
結果,ランハム法として1
9
4
6
年に成立した 法では,グッドウィルを伴わない商標の譲渡は認められないという単 独譲渡禁止ルールを維持するものとなったのである。 2.2単独譲渡禁止ルールが正当化される理由 このようにコモンロー上のものとして発展し連邦法で条文化された 単独譲渡禁止ルールであるが,これが正当化されている理由は,既に 述べた通り消費者を保護するためであるという。この点についてもう 少し詳しく見てみたい。 そもそも,商標はグッドウィルを象徴するものであり,その象徴す る製品やサービスと切り離しては存在できないはずのものである320 そして,単独譲渡禁止ルールは,商標がグッドウィルを伴わず譲渡さ れた場合には,商標の譲受人は,ただちに譲渡人がそれまでその商標 28反対派の代表格がFritzG. Lanhamであり,その名前から明らかな通り, のちに成立するこの法律全体がランハム法と呼ばれることになるこの改 正に関して中心的な役割を果たす人物である。29 SeeHouse Hearings, suprαnote 26, at88-89. 30Id.
31 議会記録として残されているものとしても計 6回のものがある。 32 See恥ICCARTHY,suprαnote 15, e 2・15
の下に販売してきた品質と異なる商品やサービスを提供するという仮 定の上に成り立つルールである九 同ーの商標であるにも関わらず, 異なる品質の商品やサービスを受けることになる消費者を保護するこ と,それが単独譲渡禁止ルールが正当化される理由である。 2.3グッドウィルの移転とは何か? さて,単独譲渡禁止ルールの下で商標の譲渡を有効なものとするた めには,商標とともにグッドウィルが移転していることが必要である。 それでは,そもそもグッドウィルとは何であろうか。グッドウィル とは,アメリカにおいて, 19世紀のコモンローの下で,詐欺的な使 用から商標を守るための判例理論に由来するものであるMとされてき たことは既に述べた。しかし,グッドウィルとは何かを正確に定義づ けること自体が難問であり出品,さらには,単独譲渡禁止ルールの要 件をみたすかたちでグッドウィルが商標とともに移転しているかどう かという点も判断が難しいという。この点については,結局のところ, 商標の譲渡人の事業に関する有形資産 Ctangibleassets) が商標の譲 受人に移転したかによって判断するとコモンローの下では判断されて いた九 しかも, もし譲渡人が商標の譲渡の後に異なる商標の下で同 様の製品を販売していた場合には, もとの商標の譲渡は無効であると すらされていたのであるへ ところが,裁判所はこのような厳格な態
33 See MCCARTHY, supra note 15, 1318:10. 34 See Calboli, supra note8, at 799. 35 Id. 36 我が国にもアメリカにおけるグッドウィルが何であるかについて検討を 行う先行研究がある。小野昌延 「商標法と GoodwilU 日本工業所有権 法学会年報 31号137頁 (2007年)。ここでは,
I
good willとは,営業の 経験,秘訣,信用,技術,商品の品質等から生ずる営業の顧客吸引力で ある」と整理されている。同 140頁参照。37 SeeMCCARTHY, suprαnote 15, 13 18:23.また, Macmahan Pharmacal Co. v. Denver Chem. Mfg. Co., 113F.468(1901).
商標の譲渡とグッドウィル (洲) 度から徐々に距離を置くようになる。たとえば, 1930年代には,必 ずしも事業全部を移転する必要はない,すなわち,譲渡人が製品の製 造のために必要な事業の一部でも譲渡を受けるかぎり当該商標の譲渡 は有効であるという立場への転換が見られるへ そして,ランハム法 の制定からしばらくの 1962年の判決は,ついに,商標の譲受人は, 商標の譲渡人と正確に同じ種類の商品に商標を使わない場合にも商標 の譲渡が認められる場合があることを示した九 さらには,取引社会 における商標の役割の拡張に応じ,判決の流れはよりゆるやかなもの となり, 1990年代においては,譲渡人の事業と譲受人の事業との間 に本質的な関連性 (substantialsimilarity) があればよいという基 準41が定着するに至ったのである。 ただし,こうした流れが主流であるものの,その後の判決において は,旧来的なコモンロー下の基準,つまり,商標の譲渡にはグッドウィ ルが伴わなくてはならないという原則に回帰するものもあり,若干の 揺らぎがある状況にあるという指摘もなされている九 1969年には,著名なドーナツチェーンの商標の移転に関する事案43 において,第
9
巡回区控訴裁判所は,商標それ自体にはなんの権利も ない (norights) のであり,商標に関連する事業と切り離してはな んの権利も移転することはできないことを法は定めていることを明ら かにした。また, 1980年代に入っても,あらためて,グッドウィル と切り離した場合には商標には何らの価値もない旨述べる第2巡回区 控訴裁判所による判決も見られる44。 39恥1ulhens&
Kropff, Tnc.v.Ferd恥1uelhens,Inc., 43F.2d937(1930) 40 Hy-Cross Hatchery, Inc.v.Osborne, 303F. 2d. 947(1962) 41 その発端は PepsiCo,Inc.v. Grapette Co., 416F 2d. 288 (1969)に見る ことができる。 42 この点につき, Calboli, suprαnote 8, at788-795. 43 Mr.Donut, Incv. MisterDonut 418F 2d.838(1969). 44 Marshak v.Green, 746 F 2d.927(1984)2.4アメリカにおける商標の性質 財 産 権 な の か ? さて,アメリカにおいても,知的財産権に財産的な価値があるとい う意味において 「財産権」 であることは一定の了解を得ているのが今 日の状況であろう450 しかし,その財産 権としての性質は,有体物に 関する財産権と同様のものではないということもまた議論のさかんな ところである。たとえば, McCarthyは商標を 「普通 で は な く , 繊 細な Cunusualand delicate)J財産権であると表現する九
財産権の本質が何であるかについてはし、ろいろな側面からの議論が ある47が, ことに英米法の領域において,ある権利が 「財産権」であ るかを考えるときに考慮、要素となるものの
1
つに,その権利が譲渡可 能 Calienable)であるかという点がある。そして,知的財産 権 が 財 産権かという問いに対しては,この譲渡可能性 Calienability ) を 有 するかという観点からの議論の蓄積が見られる九 この譲渡可能性の 議論は, これまでのところ著作権について多く見られる49ょうである が,商標の譲渡について考えるとき,このような財産権一般と比べた45 See MCCARTHY, supra note15, e 2:15, e 18:1.McCarthyは,商標権は 「財産権」であるとする。したがって, 譲渡やライセンスの対象となりう ると説明する。 46 Id 47 商標にかぎらず知的財産権が財産権であるかについて, トレードシーク レットに関する連邦最高裁判例を素材に,政府による収用との関係で合 衆国憲法にいう財産権にあたるのかを検討したものとして,抑l麻依子 「知的財産権は合衆国憲法第五修正にいう「財産 (property)Jlかつ ト
レードシークレットに関する Ruckelshausv. Monsanto (1986)を素材
に 」同志社法学 68巻2号785頁(2016年)。
48 OLE-ANDREAS ROGNSTAD. PROPERTY ASPECTS OF INTELLECTUAL PROPERTY (2018)は,さまざまな角度から財産権としての知的財産権の
性質を分析するが, Chapter 7 Conclusions to Be Drawn from IPRs as Assetsにおいて譲渡可能性についての議論も行う。
49 たとえば, Shyamkrishna Balganesh, "Alienαbilityαnd Copyright Lαω" in CONCEPTS OF PROPERTY IN INTELLECTUAL PROP-ERTY LAW (Helena R. Howe & Jonathan Griffiths eds., 2013)なと
商標の譲渡とグッドウィル (洲) 議論もまた意義のあるものとなろう。 そもそも,知的財産権の譲渡について考えるときには,有体物に関 する財産権との比較はもとより,知的財産権と分類されるものの中で も,特許権や著作権,商標権など,それぞれの権利の性質や機能によっ て異なる規律に服する必要があるように思われる。つまり,創作への インセンティブを与えることを目的とする著作権と,権利が存続して いるあいだ継続的に消費者を保護することを目的とする商標とでは, その譲渡の自由度に相違があってもやむを得ないのではなかろうか。 こうした議論を積み重ねることによって,ひるがえって,財産権と しての知的財産権の性質という本質的な議論が進化すると考えられる。
3
結びにかえて一今後の検討事項
本稿では,アメリカにおいて商標の移転がどのように規律されてい るかについておおまかな整理を行った。アメリカにおいてグッドウィ ルを伴うことなく商標を譲渡できるとする議論の傾向に対しては,有 力な論者である Lemleyによる批判的な見解印もある。すなわち, Lemleyは,創作へのインセンティブを付与するための装置である特 許権や著作権と商標権との間にある性質の違いに着目すべきであると する。つまり,商標本来の機能を歴史を振り返って再確認すべきであ ると指摘するのである。 筆者の研究は,このあと,以下の方向へ進むことを予定する。 まず,使用主義に基づくアメリカの商標権と,登録主義に基づくわ が国の商標権では,そもそもの出発点に大きな違いがあり,これを比 較したからといってただちに何らかの結論を導くことができるわけで50Mark A.Lemley, The Modern LαnhαmAct αnd the Death 01Common Sense, 108YALE L.J.1687, at1709-1710(1999)
はな L、かもしれなし、。また,世界的に見ても,世界のほとんどの国は アメリカのような単独譲渡禁止ルールを維持しておらず5152,また,
TRIPS
協定でも商標の譲渡に条件を付していないことは既に述べた由。 したがって,アメリカ商標法の研究にはそれほどの意味はないように も思われるかもしれない。しかしながら,商標の持つ本来の機能を考 えるとき,その無制限な譲渡に何らかの制約が必要な場面もあるので はなかろうか。この点に関して検討を行うとき,アメリカにおける議 論の蓄積に見るべきものがあるように思われる。アメリカの議論を参 照することによって,我が国の商標の譲渡のあり方に対して得られる 示唆があるのではないか。 もうl
つは商標権の財産権としての側面に注目することにあるヘ 少なくとも, 日本,あるいは,世界の多くの国において商標は自由に 譲渡や許諾を行うことが認められており,取引の対象としての性質を 無視することはできなくなっている。 単に譲渡や許諾が行われるかぎ りでは,その契約の範囲において,消費者の混同を防止するといった 商標の本来的な機能を維持する条件をなんらかのかたちで付すことも 可能であろう。しかし,商標の経済的な価値を考えれば,とりわけ, その価値が大きければ大きいほど,担保権の設定が行われるような事 態も考えられるへ そうすると,設定された担保権が実行されるにい51 See恥1cCarlhy,suprαnole 15, 1318:10
5
2
たとえば,イギリス商標法は,長らく商標の譲渡にはグッドウィルの移 転が必要であるとしていたが, 1994年の法改正にあたり,このルールを 放棄し,商標を単独で譲渡可能であるとした。こうしたイギリスの議論 の経緯も今後の課題としたL、。 53 もっとも, TRTPS協定21条は,あくまで 「了解する(原文では "being understood") Jと述べるものである。 54 現行法が制定されてから版を重ねている概説書は,旧法が商標の本質た る出所表示作用と品質保証作用の確保を第ーに商標の譲渡を禁じていた のに対し,現行法は財産権としての商標権の価値を重視し,商標権の自 由譲渡を求めることにしたのであるという見解を示す。豊崎光衛『工業 所有権法[新版・増補J
J
(有斐閣, 1980年)440頁以下参照。商標の譲渡とグッドウィル (洲) たる場合には,どこまで商標の本質的な機能を確保することができる か,という問題が生じる。商標の財産権的な性質を重視する議論がこ のような問題にどこまで配慮、を行っているかについてあらためて見直 す必要があるように思われる九 そして,冒頭に述べた通り,本稿は,商標が道具的に活用され,節 税のためのスキームが組まれているところから着想を得たものであっ た。こうした商標権の活用は,無制限に行うことができるのか,商標 法の側から何らかの歯止めをかける理論があるのかどうか,まずは, こうしたスキームがさかんに用いられているアメリカ商標法の状況を 整理することを本稿は試みたものである。商標を用いた節税のスキー ムは国境を超えた世界的な枠組みで展開されている。本稿を序論とし, グローパル化する商標の移転はどのように規律されるべきかという問 題について今後研究を深めてゆきたいと考えている。 *本稿は,平成