謝罪発話行為とポライトネス
――データ収集方法の差異に着目して―― 羽 成 拓 史 Ⅰ はじめに Ⅱ 本研究での用語及び理論的背景 Ⅲ DCT とロールプレイ Ⅳ 本研究における調査 Ⅴ 調査結果の分析・考察 Ⅵ おわりに Ⅰ はじめに 本研究の目的は,謝罪発話行為における言語ポライトネスの実現の一端を担 うと思われる‘shared expectations’という概念の妥当性を検証する際に, データ収集方法の差異が,その検証に与えうる影響を考察することである.発 話行為のデータ収集方法は大きく分けて 3 つある.自然発話の観測,談話完成 テスト(DCT : Discourse Completion Test),そしてロールプレイである.本 研究では,これら 3 つのうち,謝罪が行われる状況や,対話者の関係性などを コントロールすることがある程度可能な DCT と,ロールプレイを用いてデー タ収集を行った.上述した 2 つの方法で収集したデータを比較,考察した結果,両者の共通点 と相違点が明らかになった.これらのデータ収集方法で得られるデータには差 がないという意見もあるが(Rintell and Mitchel, 1989),謝罪発話行為におい ては必ずしもそうではない可能性が示唆された.
本稿では,まず謝罪発話行為を言語ポライトネスという観点で分析,考察す る際に重要だと思われる概念及びその理論的背景について説明する.その後, 本研究で比較対象としたそれぞれのデータ収集方法の特徴を述べ,今回の調査
で得られた実際のデータを比較,分析する.そのうえで,謝罪発話行為の分析 に調査方法の差異が与えうる影響について考察する. Ⅱ 本研究での用語及び理論的背景 Ⅱ-1 謝罪ストラテジー 謝罪という言語行動をする際,私たちは「すみません」などの明確に謝意を 示す表現以外にも様々な表現を用いている.そのような謝罪が行われる際に用 いられる単一あるいは複数の発話をいくつかの謝罪ストラテジーに分類するこ とが出来る.研究者によって,多少分類の仕方は異なるが,概ね同様の謝罪ス トラテジーが提案,報告されている 1).これらの先行研究で報告されている謝 罪ストラテジーの分類に,更に必要だと思われる下位分類のストラテジーを足 したものが以下の謝罪ストラテジーの分類である. A-1.明確な謝罪の表現(後悔を示す表現) 具体例:「ごめん」 A-2.明確な謝罪の表現(相手の許しをこう表現) 具体例:「ゆるして」 A-3.明確な謝罪の表現の複数回使用 具体例:「ごめん」 B.説明・弁解 具体例:「30 分くらい寝坊して」 C.責任承認 具体例:「遅刻した」・「ケースにひびが入っちゃった」 D.補償の申し出 具体例:「チロル食べる?」・「換えたほうがいい?」 E.二度と起きない旨の表明 具体例:「もうしないから」
謝罪発話行為をこのようなストラテジーに分類することで,より包括的な分 析が可能となる.そのため本研究では,上記の謝罪ストラテジーの分類に従っ て,分析,考察を進めていく.
Ⅱ-2 ポライトネス
謝罪を発話行為として捉えポライトネスとの関わりで論じている研究(Kum-agai, 1993 ; Holmes, 1990, 1995 ; Taki, 2001)の多くは,ポライトネス理論の枠 組みとして Brown & Levinson(1987)のものを利用している.
彼らの主張するポライトネスを簡潔に定義すると,他者との円滑なコミュニ ケーション(あるいは人間関係)を遂行,維持するための言語行動に関わる原 理や方略(ストラテジー)であると言える.よって他者とのコミュニケーショ ンにおけるポライトネスの実現とは,そのコミュニケーションが,(円滑に行 おうとする意図及びその意図に起因する言語行動によって)円滑に行われてい る状態を指すことになる.
Brown & Levinson(1987)は人間には「ポジティブ・フェイス(positive face)」と「ネガティブ・フェイス(negative face)」という 2 つの基本的欲求 があると主張する.前者は他者に認められたい,好かれたいなどの人との関わ りを能動的に求める欲求であり,後者は他者に立ち入られたくない,必要以上 に関わってほしくないといったような,人との関わりを忌避するような欲求で ある.彼らはこの人間の基本的欲求としての 2 つのフェイスを脅かさないよう にするための言語的方略(言語ストラテジー)の総体をポライトネスと呼ぶ. 彼らの主張に対しては多くの研究者から,様々な批判や修正が提案されてき た.その中にポライトネスを 2 種類に区別するべきであるという主張(Eelen, 2001 ; Watts, 2003)がある.この 2 種類のポライトネスはそれぞれ politeness 1 と politeness 2 として区別される.前者は,特定の社会や文化の慣習,規範 に受動的に従い,その規範意識に基づいた制約に従うことによってポライトネ スの実現を図る言語行動であり,後者は,話者が積極的に相手に敬意を示した り,距離を調節したりすることによってポライトネスの実現を図る言語行動で
あるとされる. 上記の議論を踏まえて,本稿においては,ポライトネスには politeness 1 と politeness 2 の両方が存在すること,及びコミュニケーションの当事者(話者, 聞き手)が,この 2 つに配慮した言語行動によってポライトネスの実現を図る ことを前提とする. Ⅱ-3 Shared expectations 2) 本稿においては,謝罪をする人物(以下話者とする)が,謝罪をされる人物 (以下聞き手とする)のフェイスを脅かす行為をしたことを認めた上で,聞き 手の侵害されたフェイスを修復しようとする言語行動を取ることを謝罪発話行 為であると定義する. この上で,そのような言語行動の中に含まれる種々の発話をⅡ-1 で示した 謝罪ストラテジーの分類に沿って区別する.それぞれの謝罪ストラテジーは話 者の判断によって選択,使用されるわけだが,本研究ではその判断の一部が一 種の規範意識的なものに沿って行われていると考える.より具体的に言えば, 話者が選択する謝罪ストラテジーには特定の共同体において共有される規範意 識に従って使用されるものと,そうではないものの 2 種類が存在していると考 えるということである.前者の区分に属する謝罪ストラテジーを‘shared ex-pectations’とし,前述の politeness 1 に配慮した言語行動としてみなす.そ して後者の区分に属する謝罪ストラテジーを前述の politeness 2 に配慮した言 語行動とみなす. 非常に簡潔に述べれば,特定の状況において,話者の使用比率が高い謝罪ス トラテジーは,その状況において‘shared expectations’に含まれる謝罪ス トラテジーとなり,話者の使用比率が低い謝罪ストラテジーは,その状況にお いて‘shared expectations’には含まれないものであることになる. 【注】
2) shared expectations の詳細については羽成(2012, 2013)を参照されたい. Ⅲ DCT とロールプレイ Ⅲ-1 DCT DCT とは対話の状況が調査紙に印刷されていて,それぞれの状況で被験者 が通常すると思われる発話を書いてもらうデータ収集方法である.DCT は自 由記述式のアンケートなので,一度に大量のデータを収集できること,変数の コントロールが比較的容易なことなどから中間言語語用論や発話行為の分野で データを集めるのに広く使われている.DCT の欠点としては,話し言葉を書 かせる不自然さがある(Rose, 1994).それゆえ調査対象者の調査時における 発話が,彼らが現実場面で,実際に行う発話と一致しない可能性がある(Gola-to, 2003). Ⅲ-2 ロールプレイ ロールプレイは,調査対象者に詳細な状況設定を示し,その状況下における 特定の役割を演じてもらう調査方法である.一口にロールプレイと言ってもい くつか種類があり,収集されるデータの量や種類によって,クローズドロール プレイ(closed role-plays)とオープンロールプレイ(open role-plays)の区 別がある(Kasper and Roever, 2005).前者は,特定の指示を含む詳細に示さ れた状況設定に対して,調査対象者が一度だけ発話する形式であり,後者は調 査対象者に対して,状況設定だけが示されていて,それに従って自由に対話を してもらう形式である.発話データの収集は一般的にこのオープンロールプレ イで行われる.調査者が調査の対象者を選び変数のコントロールが行えるこ と,及び分析対象とする発話行為が行われる場面を設定することが可能な点が ロールプレイの特徴であると言える.前述の DCT に対して,ロールプレイは 音声言語でなされるので,DCT の欠点である話し言葉を書かせるという不自 然さはない.また,調査対象者が,実際に対面で会話をするため,その点も
DCT と比較すると,発話行為などを観察することが目的であれば,利点であ ると言える.しかしながら,DCT に比べると,一度に大量のデータを収集す ることが難しいこと,データの処理(音声を書き起こす作業など)に時間がか かることなどの欠点もある.
Ⅲ-3 DCT とロールプレイのデータの有効性
Houck and Gass(1996)は,ロールプレイ方式の調査における,データの 処理の煩わしさと,調査対象者の話し方が,現実の生活で本当に使用されてい るかどうかについては疑問が残されていることは認めた上で,一般的なデータ 収集方法の中では,オープンロールプレイが,最も個人の実際の言語行動を反 映していると思われると主張している(Houck and Gass, 1996 : 47).彼らは DCT の有効性を直接的に否定しているわけではないが,上記の主張からすれ ば,DCT の有効性に対して一定程度,懐疑的であると考えられる.
Houck and Gass(1996)のような主張がある一方で,DCT とロールプレイ で得られるデータには差がないと主張するのが Rintel and Mitchel(1989)で ある.彼らは DCT とロールプレイの両方でデータを収集し,双方のデータに 差がないことを示した.彼らが用いた DCT は,リジョインダーと呼ばれる調 査対象者の回答をコントロールするために調査者が回答欄の下に付けるセリフ を,削除したものである.彼らは,DCT とロールプレイという調査方法の違 いは,得られるデータに違いを生じさせるような影響を与えることはないと結 論付けている. これらの先行研究は謝罪発話行為を扱ったものでは必ずしもない.そのた め,報告されている DCT とロールプレイのデータに関する共通点や相違点 が,謝罪発話行為のデータ収集に関してもそのまま当てはまるかどうかは不明 である.よって実際に,謝罪発話行為に調査対象を絞って調査を行った場合 に,差異があるのかないのか,差異があるとしたらどの様なものなのかを実際 に確かめる必要があるだろう.次章では本研究で実際に行った調査について説 明していく.
Ⅳ 本研究における調査 Ⅳ-1-1 DCT の概要 まず DCT を用いた調査の概要について述べる(以下,調査(1)とする).調 査対象者は日本の某大学院の大学院生 10 名である(男性 5 人,女性 5 人).状 況設定として調査対象者に示したものは以下の 2 つである. (a)友人との待ち合わせに遅刻した(以下,「遅刻」とする). (b) 友人から借りた CD のケースに傷をつけてしまった(以下,「CD」とす る). これらの 2 つの状況において,相手に対してどのようなことを言うかについ て自由に記述してもらった.Rintel and Mitchel(1989)ではリジョインダー を外した形式で調査していたため本調査においても,リジョインダーは設定せ ず,自由記述形式とした. Ⅳ-1-2 ロールプレイの概要 次に,ロールプレイを用いた調査の概要を述べる(以下,調査(2)とする). 調査対象者は日本の某大学院の大学院生 5 名(男性 4 人,女性 1 人)である. 状況設定として調査対象者に示したものは調査(1)と同様であるため省略する. 記録方法としてはビデオカメラを設置した.調査対象者に対して状況設定以外 の指示は与えていないため,本調査はオープンロールプレイ方式であることに なる. Ⅳ-2 調査結果 本項では,Ⅳ-1 で概要を述べた各調査の結果を示す.それぞれの調査で得 られた謝罪発話行為の例において使用されていた謝罪ストラテジーの比率を, Ⅱ-1 で示した分類に沿って,状況設定(侵害行為)の種類別に表 1,表 2 に示 した.まず表 1 から,状況(a)とした「遅刻」では,DCT とロールプレイで得
られたデータ双方において,謝罪ストラテジー A-1(明確な謝罪の表現(後 悔を示す表現)),B(説明・弁解),C(責任承認)の使用比率が一定の割合を 超えている.これらの謝罪ストラテジーに関していえば,データ収集方法が DCT であれ,ロールプレイであれ大きな差はなかったことになり,データ上 では共通している点であると言える. 一方で,謝罪ストラテジー A-3(明確な謝罪の表現の複数使用)の使用比 率に関しては,双方のデータに大きな差が見られる.この謝罪ストラテジーに 関しては,ロールプレイのデータにおいて,DCT のデータよりも大幅に使用 比率が上昇する傾向が見て取れる.すなわち,「遅刻」という状況においては, ロールプレイでデータを収集すると,DCT でデータ収集をする場合に比べて, 「ごめん」などの明確な謝罪の表現の繰り返しが増える傾向があると言える. また DCT のデータでは同じ状況設定で使用されなかった謝罪ストラテジーで ある E(二度と起きない旨の表明)が,使用比率はかなり低いが,ロールプレ イのデータでは使用されている(この謝罪ストラテジー以外のものに関して は,全て DCT のデータでの使用比率が,ロールプレイのものを微妙に上回っ ている). 表 1.謝罪ストラテジーの使用比率の全体平均(遅刻) 1) 謝罪ストラテジーの種類 使用比率(DCT) 使用比率(ロールプレイ) A-1. 明確な謝罪の表現 (後悔を示す表現) 26% 18% A-2. 明確な謝罪の表現 (相手の許しをこう表現) 10% 5% A-3. 明確な謝罪の表現の複数 使用 8% 36% B.説明・弁解 17% 13% C.責任承認 25% 18% D.補償の申し出 11% 5% E. 二度と起きない旨の表明 0% 5%
次に,表 2 から,状況(b)とした「CD ケースの破損」では,C(責任承 認),D(補償の申し出)の 2 つが,どちらのデータでも使用比率が一定の割 合を超えている.よってこの 2 つの謝罪ストラテジーの使用比率に関していえ ば,DCT とロールプレイという 2 つのデータ収集方法で得られるデータは一 定程度,一致するということになる. 逆に,双方のデータにおける相違点としては,まず謝罪ストラテジー A-1 (明確な謝罪の表現(後悔を示す表現))の使用比率が,ロールプレイでは, DCT に比べて,大幅に下がっている.相対的に,謝罪ストラテジー C(責任 承認)と D(補償の申し出)に関しては,ロールプレイにおける使用比率が, DCT に比べて,10% 近く(あるいはそれ以上)上昇していることがわかる. 【注】 1) 表 1,2 の数値に関して,使用比率は,小数点第一位で四捨五入してある. 表 2.謝罪ストラテジーの使用比率の全体平均(CD) 謝罪ストラテジーの種類 使用比率(DCT) 使用比率(ロールプレイ) A-1. 明確な謝罪の表現 (後悔を示す表現) 33% 10% A-2. 明確な謝罪の表現 (相手の許しをこう表現) 0% 0% A-3. 明確な謝罪の表現の複数 使用 3% 10% B.説明・弁解 4% 0% C.責任承認 34% 45% D.補償の申し出 25% 34% E.二度と起きない旨の表明 0% 0%
Ⅴ 調査結果の分析・考察 DCT とロールプレイという 2 つの異なるデータ収集方法で得られたデータ を比較すると,明確な謝罪の表現という謝罪ストラテジー A に分類される謝 罪ストラテジー群の使用に関する差が最も注目に値するように思われる. 「遅刻」においては,謝罪ストラテジー A-3(明確な謝罪の表現の複数使 用)のロールプレイにおける使用比率が DCT の 4 倍になっている.この違い を生み出しているのは恐らくインターアクション(interaction)の有無である と思われる.DCT は質問紙調査であるため,当然ながら,調査対象者は一人 で,どのような発話をするかを考える.そのため,調査対象者の発話に対して 相手から反応があるわけではなく,相手とのやり取りであるインターアクショ ンは発生しない.その点,ロールプレイではやり取りをする相手が存在するた め,インターアクションが生じる.事実,ロールプレイのデータにおいて,謝 罪する役の調査対象者による謝罪ストラテジー A-3(明確な謝罪表現の複数 使用)の使用が確認できたのは,全て聞き手役の調査対象者が,何かしらの発 話をした後だった. 「CD」においては,「遅刻」と対照的に,明確な謝罪の表現を含む謝罪スト ラテジー A に属するストラテジーの使用比率がロールプレイにおいて大きく 減少し,相対的に謝罪ストラテジー C(責任承認)と D(補償の申し出)の使 用比率が上昇している.この点について詳しくデータを分析したところ, DCT では,まず明確な謝罪の表現が使用され,そのあとに他の謝罪ストラテ ジーが続く順番になっている回答が多かった.しかしながら,ロールプレイで は,まずストラテジー C(責任承認)が,使用され,その後ストラテジー D (補償の申し出)が使用されるという順番が多かった.そして,ストラテジー D(補償の申し出)が使用された結果,聞き手が,その補償の申し出(CD ケースを買って取り換えるなど)を断るかあるいは受諾することなどによっ て,謝罪が終了する(他の話題に移行するなど)というケースが目立ってい
た.話者が聞き手に与えてしまった不利益が,CD のケースの破損という物理 的に補償可能なことであるために,その点が解消されることで謝罪が終了した と話者が考えていたと思われる.これは正直に言って意外だったが,このよう な傾向もまた,相手の反応があるがゆえ,すなわちインターアクションがある ために生じたものであると言えるだろう. Ⅱ-3 で述べた通り,特定の状況において,使用比率が高い謝罪ストラテ ジーが,その状況における shared expectations に含まれる謝罪ストラテジー となると考えられる.しかしながら,DCT とロールプレイで得られたデータ を比較すると,DCT で使用比率が高い謝罪ストラテジーが(一定以上の使用 比率は保っているものの)ロールプレイにおいては,その使用比率が減少する 傾向が見られた.つまり,shared expectations に含まれると考えられる謝罪 ストラテジーが,データ収集方法によって変化してしまう可能性もある. 謝罪のデータを自然発話で収集し,そのデータと比較しない限り,DCT と ロールプレイで得られたデータのどちらが現実の言語行動をより正確に反映し ているのかは確かめる術はない.そのため,現時点では,どちらのデータの有 効性がより高いかを断定することは出来ない.しかしながら,今回の調査結果 から,2 つのデータ収集方法で得られたデータに見られる差異を引き起こす要 因が,データ収集時のインターアクションの有無である可能性が高いことは示 唆されたと考えていいだろう. Ⅵ おわりに 本稿では,謝罪発話行為における言語ポライトネスの実現に関わると思われ る shared expectations という概念の妥当性を検証する際に,謝罪発話のデー タ収集方法の差異がその検証に与えうる影響を考察した.謝罪が行われる状況 や,対話者の関係性などの変数をある程度コントロール可能な DCT とロール プレイという 2 つの異なったデータ収集方法を用いて,実際に調査を行い,得 られたデータを謝罪ストラテジーの使用比率という観点で比較した.その結
果,DCT とロールプレイで得られる謝罪発話のデータには,一定程度以上の 共通点も見いだせるが,一部の謝罪ストラテジーの使用比率において,比較的 大きな変化が生じる可能性が示唆された.前述したように,このような変化を 生じさせる要因としては,インターアクションの有無が考えられる.現実場面 での謝罪には,当然インターアクションが存在するため,条件的に近いロール プレイの方が自然発話における謝罪に近いのではないかと予想される. では DCT による調査が無意味かと言うとそうではないだろう.Kasper (2000:329)が指摘する通り,DCT は,特定の状況においてどのような言語 形式やストラテジーが適切であるかに関する話者の使用意識を明らかにする場 合には非常に有効なデータ収集方法である.それゆえ,今回の調査で見られた DCT のデータは,調査対象者が,謝罪をする際にはこうするべきという意識 を反映しているはずである.つまり,相手に対してこう謝罪しようと頭の中で 思い描いているある意味での謝罪の理想形であると思われる.他者に謝罪する という行為は一般的に難しいものであり,自分の思ったように相手に謝ること が出来なかったというような経験は非常に身近なものである.ロールプレイで 得られるデータが現実場面での謝罪発話に近いものであると仮定しての話では あるが,そのデータが調査対象者の謝罪の理想形(と思われる)DCT で得ら れるデータとずれてしまうのは,そのような「思ったように謝れない」という 感覚を実際のデータが示しているようにも思える.今後,謝罪発話のデータを 収集する際,調査対象者に対して,フォローアップインタビューを行うことな どによって,この点についても検証していくことが可能であると思われる. 今後の研究では,フォローアップインタビューを含むロールプレイ方式によ るデータを更に出来るだけ多く収集し,今回の調査で示唆された可能性につい てより詳細な分析及び検証をしていく必要があるだろう. 【参考文献】
[1] Brown, P., & Levinson, S. :
Cam-bridge : CamCam-bridge University Press, 1987.
31(1), pp. 113-134, 1981.
[3] Eelen, G. . Manchester : St Jerome Publishing, 2001
[4] Golato, :
, 24, pp. 90-121,2003
[5] Holmes, J. , 19(1), pp.
155-199, 1990.
[6] ―― New York : Longman, 1995.
[7] Houck, N., and Gass, S. M. - : . In S.
M. Gass, and J. Neu(Eds.), , pp. 45-64. New York : Mouton de Gruyter, 1996.
[8] Kasper, G. . In H. Spencer Oatey(Ed.),
(pp. 316-341). Lon-don and New York : Continuum, 2000.
[9] Kasper, G. & Roever, C. . In E. Hinkel
(Ed.), (pp.
317-334). Mahwah, New Jersey : Lawrence Erlbaum Associates, 2005.
[10] Kumagai, T. - :
:
(pp. 278-300). Tokyo : Iwasaki Linguistic Circle, 1993.
[11] Taki, Y. :
20(2), pp. 29-45, 2001.
[12] Rintell, E. M., and Mitchell C. J. : . In S. Blum-Kulka, J. House, and G. Kasper(Eds.),
: , pp. 248-272. Norwood, NJ : Ablex, 1989.
[13] Rose, K. R.
-, 15-, pp. 1-14-,1994.
[14] Watts, Richard J. . Cambridge : Cambridge University Press, 2003. [15] 羽成拓史『謝罪ストラテジーに関する一考察―受け手側からの評価を中心に―』,
,日本プラグマティックス学会,2012 年,第 21 号,pp. 1-17.
[16] ――『謝罪発話行為におけるポライトネス実現に聞き手が果たす役割に関する一考 察』,『シルフェ』,シルフェ英語英米文学会,2013 年,pp. 71-85
A Study on the Speech Act of Apology and Politeness
――Focusing on the Difference in the Data Collection Instruments―― by
Takushi Hanari
A number of studies have been conducted to investigate how politeness is realized in the speech act of apology. Some researchers suggest that the act of apology should be classified into several apology strategies, and that how these apology strategies are used is greatly relevant to realization patterns of politeness in the speech act of apology(Cohen and Olshtain, 1981 ; Holmes, 1990, 1995). Hanari(2012b)claims that some of these apology strategies should be included into the category of shared expectations, de-pending on how often they are used in certain situations. There are three different types of data collection methods for the study on the speech act of apology(i.e. naturally occurring speech, discourse completion tests and oral role-plays). Especially, the role-plays and the discourse completion tests have been the most widely used data collection instruments. As mentioned above, how often certain apology strategy is used is important to identify shared expectations. Thus, if the data differs from one data collection instru-ment to another, the classification may vary.
Therefore, the aim of this research note is to investigate whether(or how)the difference in data collection instruments affects the analysis of re-alization patterns of politeness in the speech act of apology. To fulfill the purpose of this study, two different types of data collection instruments are employed(i.e. oral role-plays and discourse completion tests). Some re-searchers report that the data yielded from discourse completion tests is mostly the same as that collected with oral role-plays. However, by compar-ing the data, certain differences have been identified. One of the most
signifi-cant differences is that the speaker s use of explicit expressions of apology varies when the data collection instruments are changed. It is possible that this difference can affect the analysis of the speech act of apology.