1.目次 序章 はじめに 第 1 節 目的と背景 第 2 節 問題意識 第 3 節 分析の枠組みと研究方法 第 1 章 インターンシップの必要性 第 1 節 大学から職業への移行の必要性 第 2 節 経済社会が求める能力 第 3 節 社会が求める能力に関する先行研究 第 2 章 インターンシップ制度の背景 第 1 節 インターンシップの定義 第 2 節 インターンシップ制度 第 3 節 インターンシップの変遷 第 3 章 インターンシップに関する先行研究 第 1 節 インターンシップの目的意識に関する先行研 究 第 2 節 専門分野に対応したインターンシップの導入 の必要性と限界に関する先行研究 第 3 節 基礎的汎用的能力習得に関する先行研究 第 4 節 職業観、就職との関連性に関する先行研究 第 4 章 研究対象に関する調査概要 第 1 節 調査対象者、調査対象校の概要 第 2 節 インターンシップ導入背景 第 5 章 専門直結型インターンシップの理論と実践の融 合性に関する検討 第 1 節 低年次(1・2 年次)対象 第 2 節 高年次(3・4 年次)対象(主に、3 年次) 第 3 節 全学年対象(1~4 年次) 第 4 節 大学院生対象 第 5 節 小括 第 6 章 専門直結型インターンシップにおける学習面、 就職活動面の効果の検討 第 1 節 学習面における効果の検討 第 2 節 就職活動面における効果の検討 第 3 節 専門直結型インターンシップの学術性・実践 性を規定する要因 第 4 節 小括 第 7 章 結論 第 1 節 総括 第 2 節 今後の課題 2.研究の概要 序章 はじめに 本研究では、職業と結び付きの弱い社会科学系分野に おいて、専門直結型インターンシップを実施している大 学は少ないが、導入事例を調査することを通じて、今後、 社会科学系分野における専門直結型インターンシップが 普及する可能性を検討することを目的とする。 2008 年、中教審の答申「学士課程の構築に向けて」に おいて、「学士力」が提示されたことを受け、2012 年、 中教審の答申「新たな未来を築くための大学教育の質的 転換に向けて生涯学び続け、主体的に考える力を育成す る大学へ-」において、今後、経済社会において、生涯学 び続ける力と主体的に考える力が求められており、受動 的学修から能動的学修に転換する必要性が示された。そ こで、現在、能動的学修の一つの手法であるインターン シップの活用が積極的に求められている。 インターンシップは、1997 年に、文部省、通商産業省、 労働省の 3 省合意のもと、政策的に導入された。インタ ーンシップは、大学における学修と社会での経験を結び つけることで、大学生の大学における学修の深化や新た な学習意欲の喚起につながるとともに、大学生が自己の 職業適性や将来設計について考える機会となり、主体的 な職業選択や高い職業意識の育成が図られる有益な取組 みである、とされている。実際、単位認定が行われるイ ンターンシップは、70.3%の大学で実施されており、正 規課程の科目として認識されつつある。もっとも、日本 学術会議(2010)が、分野別に学士課程教育の質保証を 図る枠組みを構築することが必要であると示し、本田(
社会科学系分野における専門直結型インターンシップ
-学術性と実践性をめぐる比較考察-
キーワード:分野別質保証,柔軟な専門性,理論と実践の融合,学術性,実践性 教育システム専攻 坂巻 文彩2009)は「柔軟な専門性」を組み込んだ教育デザインを 求めているが、正規科目のインターンシップは、必ずし も、学部における専門分野と直結したインターンシップ というわけではない。全国公立大学、全私立大学(大学 院も含む)785 校の HP より、専門教育課程において専門 科目と関連した「インターンシップ」という名称の科目 を設置しているか、HP 上に、専門科目と関連したインタ ーンシップを実施していると明示している大学(文科系) を抽出したところ、国公立大学 28 校、私立大学 88 校(の べ数)と少ない。 導入事例数が少ないこともあるが、社会科学系分野の 専門直結型インターンシップにおいて、大学における学 修と社会での経験を結びつけることは不可能なのではな いだろうか。稲永(2001)は、社会科学系分野は、職業的 関連性が低く、専門分野に対応した特定の労働市場が明 確ではないため、教育カリキュラムとして積極的に位置 づけられにくい、と指摘している。また、専門直結型イ ンターンシップの先行研究は、観光分野等において若干 あるものの、蓄積がされていないことから、実態が明ら かにされていない。そこで、専門直結型インターンシッ プを導入している事例を調査し、大学における学修と社 会での経験を結びつける具体的な取組みについて把握し、 社会科学系分野における理論と実践の融合の可能性につ いて検討する。 次に、もし、社会科学系分野における理論と実践の融 合が可能ならば、専門直結型インターンシップは、学習 面、就職活動面において、どのような効果を獲得するこ とを狙ったものなのか、検討する。新名主(2005)等が、 インターンシップの経験が大学での学びにフィードバッ クされていないという指摘をしているが、Kolb(1984)の 学習理論が成立するかどうか検証する。 先行研究は、学生を対象にした調査が、大半を占め、 インターンシップを担当している教員に対して調査した 文献は少ない。教員への半構造化面接によるインタビュ ーから学習面、就職活動面における効果を把握すること はできないが、いかなる効果を獲得することを狙ったも のか、検討する。 さらに、Teichler(2013)は、高等教育は、学術性、 実践性の機能を有すると示唆しているが、社会科学系分 野における専門直結型インターンシップの学術性、実践 性を規定する要因を挙げ、考察する。 研究方法であるが、専門直結型インターンシップを担 当している教員に対して、インタビュー調査を行う。 まず、全国公立大学、全私立大学(大学院も含む)785 校のホームページやシラバスを参考に、社会科学系分野 で「インターンシップ」という名称が含まれた学部の専 門分野と実践が結びついた正規カリキュラムを実施して いる大学、大学院 54 校を抽出した。さらに、その中で、 大学 HP や個人ブログにて、アドレスを公開している 34 校の教員を抽出し、メールにて依頼をしたところ、10 校 12 人の教員の承諾を得られた。この 10 校 12 人の教員に 対して、インタビュー調査を実施した。調査対象校は、 首都圏(5 校)、関西地域(4 校)、九州地域(1 校)にある国 立大学 3 校、私立大学 7 校である。政策系、経営系、観 光系のインターンシップを実施しており、単位数は、1 ~34 単位である。 第 1 章 インターンシップの必要性 第 1 章では、インターンシップを導入する必要が生じ た背景として、大学から職業への移行に取り組む必要性 と、大学教育において経済社会が求める能力を習得する ことを求められていることを挙げた。後者については、 行政側が示した能力だけではなく、学生側の認識も把握 するために、大学卒業生が認識する社会が求める能力や 大学教育効果に関する先行研究を検討した。 第 2 章 インターンシップ制度の背景 インターンシップの必要性を認識した上で、第 2 章で は、インターンシップ制度の概要について示した。 第 1 節では、インターンシップの定義について示した。 今回の研究における調査対象校では、受入先で調査をす るものの、就業体験をしないものも含まれているので、 インターンシップを「学生が在学中に自らの専攻、将来 のキャリアに関連した『職業体験』を行うこと」と定義 する。第 2 節では、現在、実施されているインターンシ ップ制度の現状について述べ、第 3 節では、米国と日本 に関するインターンシップの今日までの変遷について示 した。 第 3 章 インターンシップに関する先行研究 第 3 章では、本研究と関連するインターンシップの先 行研究について集約した。 第 1 節では、インターンシップの目的意識について検 討し、雇用情報センター(1998)、堀(2006)等は、目的 意識が明確であるほど、満足度を高め職業観の醸成等に 効果があることを明らかにした。第 2 節では、専門分野 に対応したインターンシップの導入の必要性と限界につ いて示した。新名主(2005)等は、通常のインターンシ ップは、大学での学びにフィードバックされていない、 と指摘しているほか、亀野(2004)、浦坂(2006) は、教育
的意義を高めるプログラムを提示する必要性を示してい る。ゆえに、専門分野と対応したインターンシップの導 入が求められていると思われる。 もっとも、専門分野に対応したインターンシップを導 入するにあたって、課題がある。稲永(2001)は、文科 系学部は、工学部のように、専門分野に対応した特定の 労働市場領域が明確でなく、インターンシップが教育カ リキュラムとして積極的に位置づけられにくい、と述べ ている。また、教員の負担も大きいという(稲永 2001)。 文科系分野でも専門分野に対応したインターンシップ の実施が求められているものの、導入するには、課題が あることが明らかになった。但し、専門分野に対応した インターンシップは、導入されれば、通常のインターン シップ同様に、学習面、就職活動面において効果がある と思われる。そこで、第 3 節では、通常のインターンシ ップにおける基礎的汎用的能力の習得に関して検討した が、吉本(1999)、松繁(2004)等が「主体性」「課題発見 力」「ストレスコントロール力」等を習得できることを示 した。第 4 節では、就職活動面の効果について検討した が、楠奥(2006)は、インターンシップは自己効力観を 高め職業観の醸成に有用であるほか就職内定率に影響が あることを述べている。また、亀野(2013)は、専門職、 学校での専門分野と卒業後の仕事の関係が明確な分野等 であれば、インターンシップと関連のある分野に就職し やすいと示している。 第 4 章 研究対象に関する調査概要 第 4 章では、調査対象校に関する制度的な特色につい て検討した。 第 1 節では、調査対象校、調査対象者の概要について 示した。調査対象校の特色として、10 校中 7 校の前身学 校が実学教育の学校であり、2 年次にコースを選択する 制度を導入している。また、2 大学において、教員の半 数が、1 大学において 3 割が実務家出身であった。調査 対象者のうち、5 人が実務家出身、4 人がインターンシッ プ設定者または責任者であった。第 2 節では、インター ンシップ対象者を、低年次(1・2 年次)、高年次(3・4 年次)、全学年対象(1~4 年次)、大学院生、の 4 つに分 類して、専門直結型インターンシップを導入された背景 について検討した。高年次を対象とした場合、専門分野 に関する基礎教育を受けているので、本研究の調査対象 校においても、「理論と実践を融合」することを目的とし ている。ただ、低年次を対象とした場合、「学生の動機付 け」「専門演習科目への接続」等を、全学年を対象とした 場合、「地域連携」を、大学院生を対象とした場合、「研 究」を目的としており、必ずしも、「理論と実践を融合」 させることを主な目的として導入したのではないことを 示した。 第 5 章 専門直結型インターンシップの理論と実践の融 合性に関する検討 第 5 章では、本研究の調査対象校で実施されている専 門直結型インターンシップを具体的に示し、第 4 章での 分類をもとに、各大学において実践しているインターン シップの取組み(事前学習・事後学習)から理論と実践 の融合可能性について検討した。本研究の調査対象校で は、多くの大学で大学斡旋型が取り入れられているほか、 学部生を対象とし、チーム学習ではないインターンシッ プを実施する場合、全て選抜が行われており、参加学生 の目的意識が高い、という特色がある。 主に、事前学習・事後学習を重視しているのは、高年 次を対象としたものである。事前学習における取組みと しては、業界研究や理論的な専門科目の履修、課題設定 が挙げられる。業界研究は、高年次を対象とする 6 大学 のうち 4 大学において実施されており、中には、経済関 連の専門知識を活用した業界研究を実施している大学も ある。理論的な専門科目の履修については、先修条件と して設定されている大学が、2 大学あるが、事後学習も 含めて体系的なカリキュラムとして設定されている。 高年次対象の場合、インターンシップが「仕上げ科目」 または「専門科目の一部」として設定されている。事後 学習における取組みとしては、「仕上げ科目」の場合、報 告書作成、事後報告会、「専門科目の一部」である場合、 「仕上げ科目」の取組みに加え、専門科目の履修(が挙 げられる。高年次対象の場合、報告書作成や事後報告会 の際には、専門分野と関連付けて振り返ることが求めら れる。 一方、低年次対象の場合または全学年対象の場合、事 前学習を実施していない。事後学習は実施しているが、 全て、チームで課題に取り組む形式である。「低年次の場 合、情報を取捨選択して理論構築をすることは、難しい」 という教員の意見もあったが、チームで切磋琢磨し、モ チベーションを維持することの方が重要視される傾向に あるかもしれない。もっとも、専門直結型インターンシ ップが「導入科目」等として設定されているので、高年 次等に理論科目を履修することにより、理論と実践の融 合を図ることはできると思われる。 以上から、特に、高年次対象の場合、理論と実践を融 合するために事前学習、事後学習において様々な取組み がされているが、いずれの段階でも、社会科学系分野に
おける専門直結型インターンシップの場合、理論と実践 が融合する可能性があることが明らかになった。 第 6 章 専門直結型インターンシップにおける学習面、 就職活動面の効果の検討 第 6 章では、第 5 章における検討を踏まえ、専門直結 型インターンシップの効果の狙いについて把握するため、 専門直結型インターンシップの学習面、就職活動面にお ける効果を検討した。さらに、高等教育は、学術性、実 践性の機能を有すると考えられることから、専門直結型 インターンシップの学術性、実践性を規定要因について 考察した。 学習面については、インターンシップ後の授業で、理 論と実践を融合させることができることによりモチベー ションに変化があるということから、Kolb(1984)の学習 理論が成立することを確認できたほか、学習意欲の向上 があることが分かった。その他にも、時間の重要性の理 解等学習生活態度に変化があったほか、吉本(1999)、松 繁(2004)が示した「コミュニケーション能力」「主体性」 「課題発見力」「発信力」等基礎的汎用的能力の習得に関 する効果があることが明らかになった。 就職活動面においても、楠奥(2006)が示しているよ うに、職業観が明確になったりする等、職業観が醸成さ れることが分かった。また、就職先の内定についても、 人気企業内定率の上昇、インターンシップ非参加者より 高い内々定率等就職活動にも影響があると示された。 インターンシップ先と就職の関連性については、3 大 学より、インターンシップ参加者の就職データの提示を 受け、3 大学以外のインタビュー調査と併せて検討した。 その結果、インターンシップは就職先の選択に関して関 連性があると言えないが、影響があると言えることが明 らかになった。 以上から、専門直結型インターンシップは、学習意欲 向上、基礎的汎用的能力の習得等、学習面において効果 があるほか、職業観醸成、就職先の内定等就職活動面に おいて効果があることが明らかになった。そして、専門 直結型インターンシップの学習面、就職活動面における 効果の狙いを把握することができた。 専門直結型インターンシップの学術性、実践性を規定 要因として、大学設立背景、コース制度、教員構成、理 論と実践を融合させようとするカリキュラムを挙げ、考 察した。考察して明らかになったことは、実践性が強い 専門直結型インターンシップを実施している場合でも、 実践性だけではなく学術的な側面も併せ持っている、と いうことである。これは、Teichler(2013)が高等教育機 能は、学術性と実践性を有すると示したことを実証して いる可能性や、本田(2009)が求める「柔軟な専門性」 を組み込んだ教育カリキュラムを構築するためには、学 術性、実践性を有する必要があることを示唆しているの かもしれない。 第 7 章 結論 本研究では、社会科学系分野の専門直結型インターン シップでは、理論と実践が融合する可能性があり、理論 と実践が融合する場合、学習面、就職活動面において、 先述のような効果を狙い普及させることができる、と結 論づけた。 2014 年の文部科学省の有識者会議で、大学を 2 極化さ せる案が提示されたが、今後、各大学において特色のあ る教育カリキュラムを構築し大学としての位置づけを明 確にする必要があると考えられる。そのため、今後、経 営戦略的な視点から専門直結型インターンシップの導入 を一つの選択肢として考える大学が増加するのではない だろうか。そして、本研究は、今後、専門直結型インタ ーンシップの導入を検討している大学に対して、示唆を 与えることができ、意義があったと言える。ただ、本研 究は、社会科学系分野で、導入数の多い社会学系、法学・ 政治学系統において調査することができなかったので、 分野ごとのインターンシップ事情を把握することができ なかった。また、今後、調査する際に、調査対象者を拡 大させたとしても、必ずしも、社会科学系分野すべての インターンシップについて把握することができるとはい えず、研究には、限界があるといえよう。 今後の課題として、2 点挙げる。1 点は、調査対象者を 拡げ本研究の実証性を高めることである。もう 1 点は、 社会科学系分野におけるインターンシップの機能を把握 することである。2015 年からの就職活動解禁時期の変更 による影響も含め、今後のインターンシップのあり方に ついて検討していく必要がある。 3.主要参考文献 本田由紀(2009)『教育の職業的意義』ちくま新書. 高良和武(2007)『インターンシップとキャリア』学文社. 雇用情報センター(1998)『インターンシップの導入に関 する調査研究報告書』. 佐藤博樹、堀有喜衣、堀田聰子(2006)『人材育成として のインターンシップ』労働新聞社. 吉本圭一(2001)『高校・大学・企業におけるインターン シップの展開と課題(カシオ科学振興財団第 17 回研 究助成報告書)』.