Table 1 Classification of degree of activity modified based on The Judgment Standard of ADL Independency (Ministry of Health and Welfare)

原

著

日常生活 の活動度が換気機 能 に及 ぼす影響

―呼 吸器 疾 患 を持 た な い事 例 に つ い て―

昭 和 大 学 医 学 部 リハ ビ リテ ー シ ョ ン医 学 診 療 科(主 任:森 義 明 教授)

溝 呂 木

忠

(財)多 摩緑 成会緑 成会病院

吉 池

将 弘

要 約:日 常 生 活 の活 動 度 の 低 下 が 換 気 機 能 に及 ぼす 影 響 につ い て研 究 した.対 象 は 呼 吸 器 疾 患 を持 た な い65∼99歳(平 均77.7±8.2歳)の 自宅 で 生 活 す る者,施 設 入 所 者 な ど計163名 で,そ の う ち85 名 につ い て は生 活 時 間 構 造 の 分 析 も行 った.活 動 度 は厚 生 省 日常 生 活 自立 度 判 定 基 準 を も と に して 作 成 し,N(正 常),J1(電 車 ・バ ス で 外 出),J2(隣 近 所 へ 外 出),A1(屋 外 は要 介 助),A2(屋 内 も 要 介 助),B(長 時 間 ベ ッ ド上 で 過 ごす)の6段 階 と した.検 査 項 目 は%肺 活 量(%VC),一 秒 率,

ピ ー ク フ ロ ー(PEFR),v25/Ht,最 大 呼 気 圧(MEP),最 大 吸 気 圧(MIP),胸 郭 の 可 動 域,ADL 及 び生 活 時 間 構 造 で あ った.%VC,PEFR,MEP,MIP,胸 郭 の 可 動 域 は 活 動 度 の 低 下 に 伴 っ て 有 意 に減 少 した.と くに深 呼 吸 時 の 胸 部 の 可 動 域 はNとJ1で 既 に有 意 差 が あ り,下 胸 部 の 可 動 域 で はJ1とA1,J2とA2の 間 で も有 意 に低 下 した.%VCもNとJ2と の 間 で 有 意 に 減 少 し,そ の 後 も低 下 し続 け てJ1とA1,J2とA2,A1とA2と の 間 で 有 意 差 が あ っ た.ま た拘 束 性 換 気 障 害 (%VC<80%)の 者 の 割 合 は活 動 度 の 低 下 と と もに 増 加 し,N,J1で0%だ った もの が,J2で42%, A1で61%,A2で96%,Bで91%で あ った.呼 吸 器 疾 患 や 呼 吸 器 症 状 が な い 者 を対 象 に して い る こ とか ら,こ れ ら変 化 は 廃 用 に よ る もの と考 え られ た.一 秒 率 とV25/Htは 活 動 度 の 違 い に よ る 有 意 差 は なか った.閉 塞 性 換 気 障 害(一 秒 率 く70%)の 者 の 割 合 が 活 動 の 低 下 に よ り増 加 あ る い は 減 少 す る こ と も なか った.%VCへ の 影 響 が 大 きか った の は 活 動 度 の 他 に,下 胸 部 の 可 動域,MIP,趣 味 ・家 事 時 間,縦 に な って い る時 間 で あ っ た.反 対 に%VCへ の 影 響 が 少 な か っ た もの は,年 齢,一 秒 率, MEP,起 床 ・就 寝 時 間 で あ っ た.こ れ らの 事 実 か ら,呼 吸 器 疾 患 が な く 日常 生 活 が 自立 して い て も活 動 度 が 低 下 す る と極 め て 早 期 か ら拘 束性 換 気 障 害 が 進 行 す る こ と,そ の た め の 呼 吸理 学 療 法 と生活 の 活 性 化 が 必 要 で あ る こ とが 明 らか に な っ た. キ ー ワー ド:活 動 度,換 気 機 能,最 大 吸 気圧,胸 部 可 動域,生 活 時 間構 造 最 近,保 健 ・医療 ・福 祉 の 連携 が ます ます加 速 され, 病 院 か ら 「地域 」 まで 一 貫 した ケ ア が行 わ れ て い る.介 護保 険 法 で も リハ ビ リテ ー シ ョ ンに重 点 が 置 か れ,機 能 低 下 の 予 防 と改 善 に 大 きな 関心 が持 た れ て い る.し か し 呼 吸機 能 に対 して は 十 分 な 注 意 が 向 け られ て お らず,呼 吸 器疾 患 と診 断 され て い な い と換 気 機 能検 査 さえ行 わ れ な い こ とが 多 い.こ の よ うな状 況 が生 まれ た最 大 の理 由 は,換 気 機 能 の低 下 が い つ 頃 か ら,ど の程 度 起 こ る の か が 明 らか に され て い な い こ とで あ ろ う.著 者 の一 人 らは か つ て 施 設入 所 者 に つ い て調 査 しADLレ ベ ル が低 下 す る と換 気 機 能 に拘 束 性 変 化 が 生 じる こ と を 明 ら か に し た1).し か しそ れ は 活 動 度 の 幅 や 換 気 に影 響 す る 要 素 が ほ とん ど検 討 さ れ て い な か っ た.今 回.よ り多 くの 要 素 を調 査 し,日 常 生 活 に お け る活 動 量 の低 下 に よ り換 気 機 能 が どの よ うに低 下 し,ど の よ うな要 素 が そ の こ とに 関 連 す る の か を検 証 した の で報 告 す る.

研 究 方 法

1.対 象 平 成9年 度 に福 祉 会 館,特 別 養 護 老 人 ホ ー ム,老 人 病 院 な どを利 用 して い た65歳 以 上 の者 で,以 下 の 基 準 を 満 た した163人 を分 析 の対 象 と した.a.現 在 の 活 動 度 が お お よ そ1年 以 上 続 い て い るb.呼 吸 器 疾 患 の 診 断 を 受 け た こ とが な いc.呼 吸 器 症 状 が ないd.調 査 の 主 旨 を理 解 し協 力 に 同意 して い るe.検 査 項 目 をす べ て 実 施 で き た.こ の う ち,後 述 す る各 活 動 度 か ら ラ ン ダム に対

日常生活の活動度が換気機能 に及 ぼす影響

Table 1 Classification of degree of activity

modified based on The Judgment Standard of ADL Independency (Ministry of Health and Welfare)

象 者 を抽 出 して 生 活 時 間構 造 の 調 査 を行 い,全 項 目 に 回 答 で き た85人 で 生 活 面 の 分 析 を した. 2.日 常 生 活 の 活 動 度(以 下 単 に活 動 度 とい う) 厚 生 省 の 日常 生 活 自立 度 判 定 基 準 を基 礎 に した活 動 度 表(Table1)を 作 成 し,面 接 法 に よ り調 査 した.N (正常)は,具 体 的 に は 「障 害 」 が な い,日 常 生 活 が 自 立 してい る,毎 日外 出す る,体 を動 かす 仕 事 が 毎 日 あ る な ど を 目安 と した. 3.換 気 機 能 本 研 究 の性 質 上,簡 便 さ と機 動 性 を重 視 して検 査 項 目 と使 用 す る機 器 の種 類 を選 ん だ.被 検 者 は椅 子 座 位 で 検 査 概 要 を 聞 い た後,ミ ナ ト医 科 学 社 製 オ ー トス パ イ ロ AS-500を 用 い て3回 試 み,最 大 値 を採 用 した.肺 活 量 測 定 で は,基 準 位 の安 定 を待 たず に呼 気 ・吸 気 ・呼 気 の 順 に 行 っ た.そ の 他,一 秒 率,ピ ー ク フ ロ ー(Peak Expiratory Flow Rate,以 下PEFRと い う),V25/

Htを 分 析 の対 象 と した. 4.最 大 呼 気 ・吸 気 圧 チ ェ ス ト社 製 バ イ タ ロ パ ワ ーKH-101を 用 い て 口 腔 内圧 を測 定 した.最 大 呼 気 圧(以 下MEPと い う)は で きる だ け全 肺 気 量 の位 置,最 大 吸 気 圧(以 下MIPと い う)は で きる だ け残 気 量 の位 置 で測 定 した.頬 筋 に よる 影 響 を最 少 にす る た め,セ ンサ ー部 に0.8mmの 通 気 孔 を取 り付 け た2).呼 気(吸 気)の 持 続 が困難 な者 が多 か っ た の で3秒 以上 を 目標 と し,積 分 値 は測 定 しな い こ と と した.身 体 の大 き さに よる 影響3)を避 け る た め,身 長 で 除 した値 を 用 い た. 5.胸 郭 の可 動 域 最 大 呼 気 時 と最 大 吸気 時 で の胸 郭 の周 径 差 に よ り可動 域 を測 定 した.布 製 の テ ー プ メ ジ ャー を腋 窩 の 高 さ(以 下 上胸 部 とい う)と 第10肋 骨 の 高 さ(以 下 下 胸 部 と い う)に 巻 い て測 定 した4).テ ー プ メ ジ ャ ー の 張 力 が で き る だ け 一 定 に な る よ うに 巻 き上 げ機 構 の 力 を利 用 し,か つ 同 じ験 者 が 測 定 した.ま た,胸 椎 の 前 後 屈 可 動 域(以 下 前 後 屈 とい う)を 測 定 した.上 田 商 事 株 式 会社 製UD 型 自在 曲線 定 規 を第7頚 椎 か ら第12胸 椎 の 脊 椎 棘 突 起 にあ てが い,最 大 屈 曲時 と最 大 伸 展 時 の 形 を写 し取 り, 2つ の 線 が 最 も離 れ た 個 所 の 距 離 を測 定 した.4と 同 様 の 理 由で,身 長 で 除 した 値 を用 い た. 6.生 活 時 間構 造 活 動 度 を裏 付 け る生 活 実 態 を示 す デ ー タ と して,最 近 1週 間の 平 均 的 な一 日の 過 ご し方 を面 接 調 査 した.a. 起 床 時 間,b.就 寝 時 間,c.覚 醒 時 間(b-a),d.縦 の 時 間(ベ ッ ドに寝 てい な い時 間),e.散 歩 買 物 の 時 間, f.趣 味 ・家 事 の時 間の6項 目につ い て 分 析 し た.ま た 以 下 のADLを 調 査 した.(1)食 事 動 作(用 意 さ れ た 食 事 を箸,ス プ ー ンな どで)(2)入 浴 動 作(浴 槽 の 出入 り,体 を洗 う ・拭 く)(3)ト イ レ動 作(便 器 との 移 乗 ・衣 服 の 上 げ下 げ ・後 始 末,オ ム ツ の取 り替 え)(4)更 衣 動 作(普 段 の衣 服 ・靴 下 ・靴 ・装 具 な ど)(5)移 乗 動 作(ベ ッ ドと車 いす)(6)移 動 動 作(50m,杖 ・車 い す 等 も可).判 定 は 自立,部 分 介 助(要 監 視 も),全 面 介 助 の 三 段 階 と した. 7.分 析 の方 法 分 散 の均 一 性 の 検 定 はバ ー トレ ッ ト検 定,群 間の 差 の 検 定 は一 元 配 置 分 散 分 析 ま た は ク ラス カ ル ・ウ ォ ー リス 検 定,各 群 間 の多 重 比 較 は シ ュ ッフ ェ の検 定 を行 っ た. 各 ア イ テ ム 間 の 関連 につ い て は数 量 化 理 論1類 に よ る分 析 を行 っ た.そ の際 カ テ ゴ リ ー を,主 疾 患 は,正 常 者 (1),整 形 外 科 疾 患 と 「虚 弱 者 」(2),中 枢 性 神 経 筋 疾 患 (3)の3段 階 と した.活 動 度 は 動 きが 広 範 囲 なNとJ1 (1),室 内 と近 所 で活 動 す るJ2とA1(2),日 中 も ベ ッ ド上 で過 ごすA2とB(3)の3段 階 と した.年 齢 は75 歳 未 満(1),85歳 未 満(2),85歳 以 上(3)の3段 階 と した.他 の ア イテ ム は全 て 多(1),中(2),少(3)の3 カ テ ゴ リ ー と した.分 析 の た め の 統 計 パ ッ ケ ー ジ は SPSS,HALBAUお よ びStat123/Winを 用 い た.

結 果 1.対 象 者 の特 性 性 別 は 男 性48名,女 性115名,計163名,年 齢 は 65∼99歳,平 均77.7±8.2歳 で あ り,活 動 度 間 に年 齢 の 有 意 差 は なか った が,身 長 で はNとA2,Bと の 間,お よ びJ1とBと の 間 に有 意 差 が あ った(Table2,3). そ の 他 は 表 に示 した 通 りで あ っ た. 2.測 定 結 果 及 び 有 意 差 各 指 標 の測 定 結 果(Fig.1)及 び 活 動 度 間 の 有 意 差 の有 無(Table3)は 以 下 の通 りで あ っ た.%肺 活 量 は J1ま で は90%以 上 だが,活 動 度 の 低 下 と共 に 減 少 し, A2以 下 で は50%台 で あ っ た.NとJ2以 下 で 既 に有 意 差 が あ り,J1とA1以 下,J2とA2以 下,A1とA2以 下 との 間 で も有 意 差 が あ った.PEFR,MEP,MIP,

下 胸 部 の 可 動 域,上 胸 部 の 可 動 域,前 後 屈 も活 動 度 の低 下 と共 に減 少 す る 傾 向 が あ っ た.PEFRはNとJ2以

下,J1とA2以 下,J2とA2お よびBと の 間 で 有 意 差

Table 2 Degree of activity and characteristics of 163 people

Ht : height, FEV : FEVI0%, PFR : PEFR, V25 : V25/Ht, UC : upper chest, LC : lower chest, F/E : flexion/extension

日常生活の活動度が換気機 能に及ぼす影響

Fig. 1 Degree of activity and values of measurement SD : standard deviation, U : upper, L : lower, Flex/Ext : flexion/extension

Table 4 Correlation

coefficient of % VC

(163 people)

Fig. 2 Restrictive and obstructive

abnormality

Restr : restricitve

(%VC<80% ), Obstr :

obstructive

(FEV~.o% <70%)

が あ っ た.MEPはNとJ2以 下,J1とB,J2とBと の 間 で 有 意 差 が あ っ た.MIPはNとA1以 下 との 間, J1とA2以 下 との 間,J2とA2以 下 と の 間 で 有 意 差 が あ っ た.下 胸 部 の 可 動域 はNとJ1以 下 との 間 で既 に 有 意差 が あ り,J1とA1以 下 との 間,J2とA2以 下 と の 間 で も有 意 差 が あ っ た.上 胸 部 の 可動 域 で もNとJ1以 下 との 間 で既 に有 意差 が あ り,J1とA2以 下 との 間, J2とBと の 間,A1とBと の 間 で も有 意 差 が あ っ た. 前 後 屈 はNとA1以 下 との 間,J1とA2以 下 との 間, J2とBと の 間 で 有 意差 が あ っ た.1秒 率 とV25/Htは 横 ば い状 態 で,活 動 度 間 で 有 意差 が 見 られ な か っ た. 3.換 気 障 害 以 上 か ら活動 度 の低 下 と共 に換 気 機 能 と くに%肺 活量 が 減 少 す る こ とが 分 か っ た.そ れ が どの程 度正 常値 か ら 逸脱 して い る か を検 討 す る た め,%肺 活 量 が80%未 満 の者(拘 束性 換 気 障 害)の 割 合 を調 査 した(Fig.2). 各 活 動 度 の うちNとJ1ま で は で は0%だ っ た が,J2 か ら増加 し始 めA2とBで は90%を 超 え た.一 方 閉塞 性 換 気 障 害(一 秒 率 く70%)の 者 は,J2とA1で や や 増加 した がA2とBで は 再 び 減 少 し,と くに 活 動 度 の 低 下 に伴 っ て増 減 す る傾 向 は み られ な か っ た.こ れ らは %肺 活 量 ・一秒 率 の 活動 度 との 関係 と類 似 して い た. 4.各 項 目相 互 の 関 連

CC : correlation coefficient, P : partial Det : determination

日常生活 の活動度が換気機能 に及 ぼす影響

Table 5 Degree of activity and characteristics of 85 people

nerve : central nervous system disorder, ortho : orthopaedic disorder

%肺 活 量 が 活 動 度 の 低 下 に伴 って 減 少 す る こ とが 明 ら か に な っ たが,%肺 活 量 と各 項 目相 互 の 関 連 をみ るた め 数 量 化 理 論1類 を用 い て 検 討 した(Table4).偏 相 関 係 数 か ら み た%肺 活 量 へ の 影 響 は 下 胸 部 の 可 動 域 (0.542),活 動 度(0.510),MIP(0.405)の 順 に 大 きい こ とが わ か った.た だ しMIPは カテ ゴ リー が1,3,2 の 順 で%肺 活 量 を高 く して い た.こ の こ とか ら活 動 度 と 下 胸 部 の 可 動 域 が%肺 活 章 に大 き く影 響す るこ とが わ かっ た.ま た 呼 気 筋 力 よ りも吸 気 筋(横 隔 膜)力 の 影 響 が 大 き く,か つ 低 下 初 期 に著 しい こ とが 示 唆 され た.ま た 主 疾 患(0.344)で は2,1,3の 順 で%肺 活 量 を高 く して い た.つ ま り 「正 常 」 で あ る こ とで%肺 活 量 増 加 に最 も 影 響 が 大 きい とい う こ とは な く,「中 枢 」 は%肺 活 量 減 少 へ の 関 与 が 大 きか っ た.影 響 が 少 な か っ た の は 年 齢 (0.115),一 秒 率(0.134),MEP(0.168)で あ っ た. 重 相 関 係 数 は0.895(決 定 係 数0.801)で あ った. 5.活 動 度 とADL 85名 の 内 訳 は,男 性26名,女 性59名,年 齢 は65∼ 95歳,平 均76.4±6.6歳 で あ っ た(Table5).そ の 他 は 表 の 通 りで あ っ た.ま た これ らの 者 のADLは,入 浴 動作 はJ2か らBま で急 速 に 要介 助 者 が 増加 してい るが, Nで は全 項 目が 自立 して お り,食 事 動 作 で は 全 活 動 度 で 自立 して い た(Table6).移 乗 動作 と移 動動 作 はA2 まで全 員 が 自立 して い た(車 い す 利 用 者50%).ADL 自立 度 で 分析 す る対 象 と,活 動度 に よる対 象 の 層 の違 い が 改 め て 明確 に され た. 6.生 活 時 間構 造 覚 醒 時 間 はJ2ま で は約16時 間 台,A1,A2で は14 時 間 台 で あ り,Bで は再 び15時 間台 であ った(Fig.3). NとA1お よびA2と の 間,J1とA1お よ びA2と の 間

で 有 意 差 が あ った(Table7).縦 の 時 間 はNとJ1で は 約16時 間 で あ っ た が 活 動 度 の低 下 と共 に 減 少 し,B で は0.7時 間 台 で あ っ た.NとA1以 下,J1とA1以 下,J2とA1以 下,A2とBと の 間 に 有 意 差 が あ っ た. 散 歩 ・買 物 時 間 はNで7時 間 台 で あ っ た が 以 後減 少 し, Bで は0時 間 で あ っ た.NとA1以 下 との 間,J1とA1 以 下 との 間,J2とA1以 下 との 間 で 有 意 差 が あ っ た. 趣 味 ・家 事 時 間 も 自立 度 の低 下 に伴 っ て 減 少 し,Bで は 0.1時 間 で あ っ た.NとJ1以 下,J1とJ2以 下,J2と A2以 下 との 間 で 有 意 差 が あ っ た.活 動 度 の低 下 に伴 い, 趣 味 活 動 や 家事 の 時 間 が 早期 に低 下 し,つ い で散 歩 や買 物 の 時 間,縦 に な っ て い る 時 間 が減 少 す る様 子 が伺 える. 起 床 時 間 と就寝 時 間 は 変化 が 少 な く,有 意差 は なか った. 7.各 項 目相 互 の 関 連 活動 度 に よっ て上 記 の よ うな生 活 時 間構 造 の変 化 が あ る こ とが わ か っ た が,%肺 活 量 へ の影 響 を検 討 す る た め に 数量 化 理 論1類 に よる分 析 を 行 っ た(Table8).偏 相 関係 数 か らみ て%肺 活 量 へ の影 響 が大 きか っ た もの は 家 事 ・趣 味 の 時 間(0.339),縦 の時 間(0.306)で あ った. 反対 に影 響 が小 さ か っ た の は,起 床 時 間(0.027)と 就 寝 時 間(0.081)で あ っ た.日 中 覚 醒 し て い る だ け で は 不 十分 で あ り,ベ ッ ドか ら起 きて活 動 す る こ との 重 要 性 が 示 唆 さ れ た.重 相 関係 数 は0.7(決 定係 数0.49)で あ っ た. 考 察 1.%肺 活 量 の減 少 %肺 活 量 の減 少 は 当然 加 齢 や 呼 吸 器 疾 患 に よ って も起 こ る.し か し対 象 の 各 活 動 度 別 の 平 均 年 齢 間 に有 意 差 が な く,呼 吸 器 疾 患 の 既 往 や 症 状 も ない.し た が っ て そ れ

Table 6 Degree of activity and ADL

I : independent, PD: partly dependent, TD : totally dependent

は加 齢 や呼 吸 器 疾 患 に よ る もの で は な く,廃 用 に よ る機 能低 下 の 一 つ と考 え られ る.同 様 に,活 動 度 の低 下 が% 肺 活 量 を減 少 させ る の で は な く,%肺 活 量 の減 少 が 活 動 度 を低 下 させ てい るの で は ない か とい う仮 説 も否 定 され る.%肺 活 量 の 減 少 は,ADLが 自立 して い て 近 所 へ 出 歩 い て い る生 活(J2)で 既 に 有 意 と な る.そ して そ の

日常生活の活動度が換気機 能に及ぼす 影響

Fig. 3 Degree of activity and the time frame

Stand : standing/sitting, Walk : walking/shopping, Hobby : hobby and housekeeping (*) : o'clock (* *) : hours 後 も減 少 が続 き,拘 束性 換 気 障 害(%VC<80%)の 割 合 が急 速 に増 加 す る.活 動 度 の低 下 に伴 い,こ れ ほ どに %肺 活 量 が低 下 す る とい う事 実 は注 目に値 す る.な お, %肺 活 量 の算 定 はBaldwinら の予 測 式 を用 い てい るが, 本 研 究 の年 齢 層 に応 用 して も問題 は な い と考 え た5,6). 2.肺 活 量 へ の影 響 因子 %肺 活 量 に大 き く影響 した ア イ テ ム は活 動 度,下 胸 部 の可 動 域 とMIP(吸 気 筋 力)で あ っ た.下 胸 部 の 拡 大 と横 隔膜 の 引 き下 げ は両 者 と も横 隔膜 の作 用 で あ り,% 肺 活 量 の 決定 に お け る横 隔膜 筋 力 の重 要 性が 示唆 された. 肺 活 量 を 決定 す る の は,肺 と胸 郭 の弾 性 抵 抗 と呼 吸 筋 力 で あ る が,下 胸 部 の可 動 域 は胸 郭 の弾 性 を示 す もの と し て も重 要 な指 標 とな る.ま たMIPの 増 加 は 予 備 吸 気 量 を増 加 して全 肺 容 量 を増 加 す るが,MEP(呼 気 筋 力) の増 加 は予 備 呼 気 量 を増 大 して残 気 量 を減 少 す る7).す な わ ち残 気 量 が増 加 し て い な い 拘 束 性 換 気 障 害 で は, MIPの 増 加 は%肺 活 量 を増 加 す るが,MEPが 増 加 し て も%肺 活 量 の増 加 に結 びつ きに くい と考 え られ る.し か し閉塞 性 換 気 障 害 の 治 療 で はMEPの 強 化 に よ り予 備 呼 気 量 を増 加 し,残 気 量 を減 少 させ る こ とが 重 要 な治 療 目 標 と な る8).胸 郭 の 可 動 域 は 活 動 度 がJ1の と き既 に 有 意 差 が み ら れ,呼 吸 筋 力 の 変 化 に先 駆 けて 胸 郭 の 可 動 域 が 低 下 して い る.こ の 事 実 は,運 動 負 荷 が 大 き くな る と 横 隔 膜 よ り も胸 郭 の 運 動 で 補 お う とす る傾 向 が あ る9)の で,QOLを 維 持 向 上 させ る ため に も重 要 で あ る.ま た MIPの カ テ ゴ リ ーの 数 量 が1,3,2の 順 に な っ て い る こ とか ら,吸 気 筋 力 の 低 下 に よ る%肺 活 量 へ の 影 響 は 初 期 で 大 き く,あ る程 度 低 下 して しま う と影 響 が 少 な くな る と考 え られ る.す な わ ち呼 吸 理 学 療 法 は,一 般 に考 え られ てい る よ り早 期 に開 始 す る必 要 が あ る.ま た,本 研 究 で は上 胸 部 の 可 動 域 の 関 与 は大 き くなか った が,若 年 者 で は上 胸 部 が 換 気 量 に大 き く関 与 す る とい う報 告 もあ る10).胸 郭 の 老化 に伴 う弾性 低 下 と関係 が あ る と考 え ら れ る.主 疾 患 は,4番 目 に大 き な影 響 をお よぼ す ア イ テ

Table 7 Significant difference of 85 people

Ht : height, Stand : standing/sitting, Walk : walk-ing/shopping, Hobby : hobby and housekeeping

* : p<0.05, ** : p<0,01 ム とな っ て い る が,数 量 の順 序 か らみ て正 常 者 で あ る こ とは そ れ ほ ど影響 して い な い が 中枢 神 経 系 疾 患 は影 響 が 大 きい.こ れ らの 多 くな っ たA1とBの 判 断 に は 注 意 を要 す る. 3.閉 塞性 変化 加 齢 に伴 っ て 一秒 率 が低 下 す る こ と も広 く知 られ て お り,私 た ち は 臨床 の場 で 日常 的 に そ の よ うな高 齢 者 に遭 遇 す る.し か し活 動 度 との 関係 で は一 秒 率 に一 定 の傾 向 は見 られ な か っ た.活 動 度 の低 い者 ほ ど%肺 活 量 は減 少 して い る の に 一秒 率 が連 動 して減 少 しな い理 由 の一 つ は 肺 活 量 の 減 少 と一秒 量 の 減少 が 同 時 に起 こる こ とで あ る. 実 際 に%一 秒 量 はN∼Bで106.7±22.5,108.5±23.6, 93.8±21.2,84.2±28.7,84.4±32.0,82.0±41.3%で あ っ た.%肺 活量 が 変化 す る と 自動 的 に変 化 して しま う一 秒 率 よ り,一 秒 量 の 方 が 臨床 的 な 意 味が あ る とい う見 方 も で きる11).し か し閉 塞 性 変 化 の 指 標 と して 取 り上 げ た V25/Htが 活 動 度 との 間 に有 意 差 が な い こ とは,活 動 度 の低 下 と閉塞 性 換 気 障害 の発 生 との 間 に 関連 が な い とい うこ とで あ る.し た が っ て一 秒 量 の減 少 が 単 に肺 活 量 の 減 少 に伴 う変化 で あ る可 能性 もあ り,そ の ま ま 閉塞 性 換 気 障 害 の 目安 とす る こ とは で きな い.本 研 究 で は 閉塞 性

Table 8 Correlation

coefficient of % VC

(85 people)

CC : correlation coefficient, P : partial Det : determination 換 気 障 害 の判 定 の た め に一 秒 率 を と りあ げた. 4.生 活 時 間構 造 胸 郭 の可 動 域 が 有 意 に減 少 したJ1の 時 期 に,「 趣味 ・ 家 事 」 の時 間 も減 少 してい た.基 本 的 な生 活 構 造 に大 き な変 化 が な く,ADLが 自立 して い て も,日 常 の 活 動 量 が 減 少 してい る とい う こ とで あ る.活 動 量 の 減 少 に よ る 全 身的 な 身体 機 能 の 低 下 が,た また ま換 気 運 動 の 変 化 と して計 測 され た と考 え られ る.偏 相 関 係 数 で み て も,趣 味 ・家 事 活 動 の 時 間 は%肺 活 量 へ の 関 与 が 最 も大 きい. J2で 有 意 差 が 現 れ る%肺 活 量 と と も に,活 動 度 が 十 分 か ど う か を計 る指 標 と して も重 要 で あ る.覚 醒 時 間,縦 の時 間,散 歩 買 物 がA1で 有 意 に低 下 して い た が,介 助 が な い と外 出で きず,家 の 中 にい るた め 横 にな りや す い こ と な どが わか る.身 体 の 活 動 度 が 高 い 方 が 死 亡 の リス クが 低 い とす る報 告 が あ るが12,13),換気 機 能 の 低 下 も影 響 して い る と考 え られ る.家 の 中 に引 き こ も りが ち な 高 齢 者 に体 を動 か す 機 会 や 外 出 の 機 会 を増 や そ う とす る リ

日常生活の活動度が換気機 能に及ぼす影響

ハ ビ リ テ ー シ ョンの 考 え方 は,換 気 機 能 を維 持 す る 意 味 か ら も大 変 に重 要 で あ る. 5.呼 吸 理 学 療 法 の 必 要 性 高 齢 者 の 呼 吸 機 能 を考 え る と き,呼 吸 器 疾 患 に よる 症 状 や 閉 塞 性 換 気 障 害 に注 目す る こ とが 多 い.し か し本研 究 の 結 果 か ら,呼 吸 器 疾 患 を持 た ない 者,本 来 健 康 と さ れ て きた 者 に も,拘 束 性 の 換 気 機 能 低 下 に十 分 な 注 意 を 向 け るべ きで あ る こ とが 明 らか にな った.こ れ らの 人 々 に対 し活 動 度 を維 持 ・向 上 す るた め の 生 活 設 計 が 必 要 で あ る.さ ら に低 下 した 換 気 機 能 に対 して は,胸 郭 の 可 動 域,呼 吸 筋 の 筋 力 と耐 久 力,換 気 運 動 パ ター ンな どの 改 善 に向 け た 十 分 な呼 吸 理 学 療 法8)が必 要 で あ る.本 研 究 の 対 象 の う ち,施 設 入 所 者 の 割 合 はNか ら順 に0,0, 19.2,78.6,95.8,91.6%で あ っ た.最 近,施 設 で は 日 中ベ ッ ドか ら離 れ て 生 活 す る こ とが 一 般 的 に な り,今 以 上 に活 動 度 を上 げ る には 人 手 の 問 題 が あ る.一 方,介 護 保 険 の 実 施 で よ り介 護 を必 要 とす る 人 々 にケ アが集 中 し, 自立 して い る人 々 は ます ます ケ アの 対 象 にな りに く くな る.こ れ らの 人 々 に どの よ う に呼 吸 理 学 療 法 を提 供 す る の か,緊 急 な対 策 が 望 まれ る. 稿 を終 え る にあ た り,ご 指 導,ご 校 閲 を賜 り ま した 昭 和 大 学 医 学 部 リハ ビ リテ ー シ ョ ン医 学 診 療 科,森 義 明 教 授 に深 謝 い た し ます.ま た 調 査 に ご協 力 頂 い た 小 川 ホ ー ム,喜 久 松 苑,第 二 喜 久 松 苑,上 宮 園,上 宮 病 院,立 川 市 福 祉 会 館 ・健 康 福 祉 セ ン ター,小 平 市 ほ の ぼ の 館,横 田 ホ ーム の 皆 様 にお 礼 を 申 し上 げ ます.

文

献

1)溝 呂 木 忠,溝 呂 木絢 子:老 人 の換 気 機 能― 特 別 養 護 老 人 ホ ー ム 入 所 者 の 調 査 結 果―.理 学 療 法 と作 業 療 法16:357-363,1982. 2)宮 川 哲 夫,溝 呂 木 忠,市 川 秀 行,ほ か:呼 吸 筋 力 の 評 価― 特 に 横 隔 膜 筋 力 に つ い て―.理 学 療 法5:148-156,1988.

3) Devito E and Grassino

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4)溝 呂 木 忠:呼 吸 器 疾 患.理 学 療 法 ハ ン ド ブ ッ ク(細 田 多 穂,ほ か 編),2版rpp.863-929,協 同 医 書 出 版 社,東 京,1991. 5)三 藤 信:日 本 人 の 換 気 機 能 正 常 値 に 関 す る 推 計 学 的 検 討.1.男 子 健 常 例 に つ い て.呼 と 循 16:1059-1065,1968. 6)三 藤 信:日 本 人 の 換 気 機 能 正 常 値 に 関 す る 推 計 学 的 検 討.2.女 子 健 常 例 に つ い て.呼 と 循 16:1067-1073,1968.

7 } Hahn A, Bach JR,

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8)溝 呂 木 忠:内 科 呼 吸 器 疾 患 の 理 学 療 法.臨 床 理 学 療 法4:37-51,1977.

9) Grimby

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11)溝 呂 木 忠:慢 性 閉 塞 性 肺 疾 患 の 評 価.臨 床 理 学 療 法3:3-14,1976. 12)藤 田 利 治,籏 野 脩 一:地 域 老 人 の 生 命 予 後 関 連 要 因 に つ い て の3地 域 追 跡 研 究.日 公 衛 誌37: 1-8,1990. 13)林 真 矢,橋 本 美 知 子:在 宅 「ね た き り 老 人 」 の 精 神 ・身 体 集 団 特 性 と そ れ に 関 連 す る 病 因 に つ い て の 研 究.日 公 衛 誌38:842-851,1991.

THE INFLUENCE

OF LOW ACTIVITY

LEVEL

ON VENTILATORY

FUNCTION

-In

Case of Subjects Without Respiratory

Disease-Tadashi

MIZOROGI

Department of Rehabilitation Medicine, Showa University School of Medicine

(Director

: Prof. Yoshiaki

MORI)

Masahiro YOSHIIKE

Ryokuseikai Hospital, Dept of Rehabilitation

Abstract - This paper discusses the influence of the degree of activity on ventilatory function.

The subjects were 163 people from 65 to 99 years of age (mean 77.7±8.2yrs) with no respiratory

disease. The degree of activity was designated in accordance with The Judgement Standard of

ADL Dependency (the Ministry of Health and Welfare), and was divided into 6 levels : N

(normal), J1 (goes out by bus or train), J2 (goes out in the neighborhood), Al (needs help for

outdoor activities), A2 (needs help for indoor activities), B (spends a long time in bed). %VC,

FEV10%, PEFR, VSHt, MEP, MIP, chest girth, ROM of thoracic spine were measured. ADL

and the time frame of daily life was also analyzed for 85 of the subjects. %VC, PEFR, MEP,

MIP, chest girth and ROM of spine significantly decreased with a lowering of activity level.

Chest girth significantly decreased in J1, and %VC also decreased in J2. The rate of restrictive

ventilatory disorder (%VC<80%) increased according to the activity level : 0 % in N and J1,

42% in J2, 61% in A1, and over 90% in A2 and B. Because of the characteristics of the

subjects, it was thought that these changes were due to the disuse syndrome. There was no

significant change in FEVLO%

and Vn/Ht with the change of the degree of activity.

Moreover,

no certain tendency was found in obstructive ventilatory change. Factors which contributed a

great deal to an increase of %VC were the degree of activity, lower chest girth, MIP, the

duration of hobby or housekeeping and the duration of upright position.

Conversely, factors

which contributed less to the amount of %VC were age, FEVI.o%, MEP and time of getting up

or going to bed. These factors mean that restrictive changes of the ventilatory system occur at

a very early stage of activity decline despite independent ADL or absence of respiratory disorder.

Physical therapy and activation of daily life are needed.

Key words : activity level, ventilation, MIP, chest girth, time frame