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国 字 の 位 相 と 展 開

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(1)式中藩澤.∴誉ご一㌔き誓㌍照輝関取絆JJ.▲.、.・.そ,二才が,..・:さ′〇・.・..′㌣㌻′.、、㌦.一、√1、 ㌔▲ ▲ 一〜l一一 一. 論文概要書. 国字の位相と展開. 日本のことばを表記するために日本人が創作した漢字の類を意味する. ﹁国字﹂. は︑日本語学. に. 笹原 宏之. ︵国語学︶. おける文字に関する調査研究の中でも︑正面から扱われることがまれなものであった︒そのため︑まず定義. 付けを行うことが必要であり︑その後に︑個々の字が造られた原因や背景を探究し︑それが人々によって使. 用されることにより多様な歴史上の展開を呈するという動態として把握していく方法が求められる︒そして︑. その精微な理解のためには︑位相という概念を採り入れた研究を行わなくてはならない︒文字は︑書きこと. ばを中心とする言語表現の要素の一つであるとともに︑その受容と変容を通じて言語に関するもろもろの意. 識︑書記行動︑ひいては日常生活や社会思想等にまで直接︑間接に関連してきたものである︒漢和辞典など. の萌芽の跡をふまえ︑実践的. ﹁研究の目的と方針﹂一﹁国字研究の意義﹂︶︒. ﹁字詰﹂. における特に国字に対する静的︑表面的な記述ではなく︑現実の文字使用の歴史を捉えようとする研究は︑. ︵序章. 江戸時代には一定の高まりを見せるが︑そこで生じた実証的な手法と に引き継いでいくことが緊要である. ︵同二. ﹁本書の構成﹂︶︑また︑本稿における記述の表記法の原則を説明する. ︵同. 続けて︑本稿が︑序章︑本章︑終章からなり︑その本章は三部.に分かれ︑さらに細分化されるなどの形式 とそれらのあらましを示し. 頁.

(2) 三 ﹁表記の方針﹂︶︒. 二頁. 本章の第一部﹁国字とは何か﹂において︑国字という用語の指す内容はいかなるものであり︑他の文字と. いかに区別されるものであるのかを論じる︒初めに︑江戸時代の新井白石による﹃同文通考﹄︵一七〇五以. 前成立︑一七六〇刊︶などの先行する諸研究の内容について検証を加え︑その結果を踏まえ︑本稿において. は︑国字を中国において追出された漢字をもとに日本人が創造した漢字を指すことを原則とする︒そこに広. く国字と意識された漢字や︑国字に準ずる性質を具備する文字を合わせて考察の対象と定める︵第一章﹁国 字の定義と分類﹂ 第一節 ﹁国字の定義とその周辺﹂︶︒. 続けて︑近世の国学者伴直方による︑稿本ながら国字に関する専著として著名な﹃国字考﹄︵一八一八序︶. を取り上げ︑その編纂意図が国字のたぐいとみなされてきた字種に考証を加えることにあったことを明らか. にする︒その考証態度は実証主義的であり︑またその内容には字詰の萌芽が見られるものの︑量的にも質的. にもなお不足するといわざるをえない︒それとともに︑位相という視点が国字の歴史の記述になおいっそう. 求められるなど︑研究方法と研究内容上に不備があり︑後の研究に影を落としたことが指摘される︒国字の. 範囲も︑研究の進展によって更改しうるものなのである︵同第二節﹁国字の研究史上の問題﹂︶︒. ︵同第三節﹁国字と漢字との境界﹂︶︒. そして︑国字と漢字の狭間にありながら︑従来︑扱われたとしても個別的で︑しかも不明確な記述しか見 られなかったものの位置付けを確認する. まずは︑中国で作製された漢字でありながら︑漢籍において使用されたという形跡を失い︑日本の文字資. 料にしかその痕跡が残らなかった漢字を﹁侠存文字﹂と呼び︑﹁僑﹂や﹁匁﹂のたぐいを国字とみなすこと. は︑国字の本質である日本製という点に著しく釆離していることを示す︵同第一項﹁﹁侠存文字﹂に関する.

(3) 考察﹂︶︒. また︑文字の製造は︑長い歴史の中で様々な文字の使用者により行われてきたことであるために︑全く別. ﹁衝突﹂. を起こした文字として扱うことを提唱し︑. の生じた文字として処理すると同. などを具体例に用いてその有り様に. 個の動機や過程により変化し︑また生み出された複数の漢字が︑字体と用法の両面で偶然に一致するという. などのケースは. ﹁暗合﹂. 現象の見られることを明示し︑1ISの原典資料を対象に据え︑﹁閏﹂. ﹁録﹂. よりパターン化し︑分類のうえ実態を確認する︒そうしたものを 時に︑同様に字体のみが一致する. ﹁妾﹂ など︑その両方が認められるものさえも存在する事実を示す ︵同第二項 ﹁﹁暗合﹂ と ﹁衝突﹂ に関す る考察﹂︶︒. さらに︑国字か否かという認定に際しては︑国字と中r国製の異体字とを峻別すべきであることはもちろん. であるが︑日本製の単なる異体字とも区別することが求められる︒中国製の漢字の日本における変化が︑崩. のケースを用いて字詰的な方法により述. し字を介した俗解などを経て生じた字体だけにとどまらず︑用法にも及ぶ場合には︑それはやはり国字と意 識され︑国字と呼ぶことができるものとみなしうることを︑﹁蛸﹂ べる ︵同第四節 ﹁国字と異体字との関係﹂︶︒. このように国字は︑中国製の漢字はもちろんであるが︑中国で創造された漢字だが日本にだけ伝わった侠. ︵いわゆる幽霊文字を含む︶︑また︑日本での字種や字義の造出や既存の漢字義などの用. 存文字︑日本における会意化などの俗解︑類推︑誤認などの書写者の精神的な作用により字体が変化した日 本製異体字や誤字. 法が派生︑転用されることにより暗合︑衝突が起きることが要因となって生じたいわゆる国訓など︑様々な. 変容を遂げたものとは︑種々の共通性を有するものである︒むろん︑それらについては︑出自という点で国. 頁.

(4) 四頁. 字とは慎重に区別されなければならないものであったが︑江戸時代以降の研究においては︑概念規定︑調査. 方法とその範囲において︑必ずしも明確なものとされてこなかったのであった︒これらの諸点を批判的に踏 まえ︑本稿の記述を行うこととする︒. まず︑国字が発生するに至るまでの歴史的な状況を明らかにする︵第二章﹁国字の発生﹂︶︒すなわち︑. 中国において漢字は語そのものを表記する傾向を強く有しており︑中国だけでなく朝鮮を含めた当時の漢字. 圏において︑既存の漢字に対して構成要素を付加ないし置換し︑さらに新たに組成を施してしばしば造字が. なされるという︑国字産出への基盤的な状況がすでに醸成されていたのである︒中国で生み出された漢字の. 構造と造字や偏の付加︑置換などによる字体の改造という行為とを模倣し︑奈良時代以前より長期にわたり︑. 主に会意の手法を用いて︑新たに国字を幅広く創造し続けることとなる︒形声文字の造字法を主とする漢字. と異なり︑国字は会意文字の方法が選ばれる傾向をもつことについては︑日本人が和語である字訓を表記す. る際に︑字音︵漢語︶を声符により直接示そうとする形声文字ではなく︑字源や字義を惹起するのに適して. いた会意文字を好んだことが想定される︒こうした環境と状況が・いわば国字の前史として存在していたの である ︵同第一節 ﹁国字発生の前史﹂︶︒. そして天武朝から藤原京時代にかけて︑すでに漢字には見出しがたい日本独自の概念が存したこともあり. 日本においても漢字による表記を新たに工夫する機運が高まり︑会意文字や合字という手法を中心として. ﹁鞠﹂や﹁日下﹂などの国字が産出されるに至った︒その発生期は︑天武紀に伝えられる﹁新字﹂編纂の時期. ︵六八四︶とおおむね符合する︒日本における国字の生産の胎動は︑こうした個々の事象の集積と記述によ. り明確に捕捉されるように︑もはや止めようのないものとなっていたことがうかがえるのである︵同第二節.

(5) ﹁国字の発生﹂︶︒. ﹁廿二. ﹁菩薩﹂. をその草冠二つだけを重ねることで示. という略記が早く正倉院文書に頻出しているように︑日本でも上代前後から確認しうる︒文字の. 文字における位相による違いは︑例えば僧侶の間における した. 使用範囲は︑一つの時代︑つまり時間的なある区切りにおける文字の使用者︑受容者全体のほかに︑職業︑. 信仰︑趣味を等しくするなど特定の社会的集団としての特徴を備え︑情報媒体やその内容などにより文字の. 使用︑受容にも共通性をもつ人々ほか︑地域という地理的︑空間的な広がりをともにする社会の中に暮らす. そうした人々︑さらに識字力をもつ個々人︑と大別される︒言い換えると︑個人という小さな単位に加えて︑. 地域的集団や社会的集団などの概念を内包するものである︒それらは︑さらに場合によっては文字を使用な いし受容する場面によって区別されうるものである︒. 国字という中国製の漢字とは異なる出自を持つ文字の展開は︑漢和辞典のごとき二刀的かつ平面的な記載. で捕捉しうるものではなく︑また時代により異なる相を示すものという認識だけでも十全ではなかった︒国. 字は︑日本において人々が日本のことばを紙面上に表現する際に独自の着想などに基づき創出し︑さらにそ. の実際に使用の実績により文字としての地位を得てきたものであることから︑位相という概念をとりいれる. ことにより︑字源にかかわる史実に接近するとともに︑その動態すなわち時代的な変遷の歴史と︑空間的な. 拡大ないし縮小による地域的な分布︑さらに社会的集団の有り様を立体的かつ統合的に把握することが可能 となるのである︒. 個々の国字の創出には︑文献で確認できるものはそう多くはないが︑ほとんどの場合︑具体的な個人があ. ったことが想定される︒むろん一人の筆記者といえども︑地域社会に根ざしており︑また職業集団︑宗教勢. 五 頁.

(6) 力など︑何らかの社会的集団に属することで・同一集団内の他の人々とのつながりを持ち︑さらに著述を通 じて他者へと個々の文字の理解と使用の契機を伝播する可能性を有したのである︒. 文字を扱う者の範囲はそのように多様であり︵第三章﹁国字の使用範囲による分類﹂第一節﹁国字の使用. 範囲﹂︶︑その範囲の状況によって個人文字︑地域文字︑位相文字︑表的な文字といった分類がなしうる. のである︒これに国字という出自に基づく観点を交差させることで︑それぞれの位置と変遷を明らかにする ことが可能になると考えられる︵同第二節﹁国字の分類﹂︶︒. 本章の第二部は︑﹁国字の位相﹂と題して︑文字研究の分野に位相という観点を体系的に導入し︑種々の. 国字の位相による違いを鮮明にする︒文字を使用する人々の層は︑時代とともに飛躍的に拡大すると同時に︑. また細分化︑分極化が進んでいくが︑それぞれ受字使用者の位置が比較的戟然とし︑明確な展開を呈する. 近世期以降に主軸を据え︑具体的な国字について検討を加える︒それぞれの実際の状況と位置付けとを各々. の初めに僻轍する︵第四章﹁個人文字﹂・第五章﹁地域文字﹂・第六章﹁位相文字﹂の各第一節﹁個人文字 の位置と諸相﹂﹁地域文字の位置と諸相﹂﹁位相文字の位置と諸相﹂︶︒. それら各々の検討に基づき︑まず個人文字については︑具体的な対象として江戸時代の思想家である安藤. 昌益を据え︑その著書﹃私制字書﹄︵三五五自序︶を中心としてあまたの造字が行われ︑自らによ︒用い. られていたことを明らかにするとともに︑そ畳字の態度︑傾向と文字としての性質やそれらの背景を浮き. 彫りにする︒文字は︑社会性を帯びることがその性質上必要であるが︑それを有する最も狭いレベルのもの. といいうる︒しかし︑こうしたものであっても︑その研究者の間で知られ︑引用の中だけでなく術語の表記. に用いるところとなれば位相文字の段階に入るともみなしうるなど︑展開が生じる可能性を帯びているので.

(7) ある ︵第四章第二節 ﹁安藤昌益の個人文字﹂︶︒. ︵第五章第二節. ﹁地名における漢字と国字﹂︶︒その初めに︑日本の地名に関する文字の. 次に︑地域文字については︑その宝庫であり︑かつ歴史と分布とを総合的に把握しうるものとして地名を 中心に取り上げる. 概説を行い︑その中で地名表記のために既製の国字が用いられ︑さらに地域的な造字がなされたことを示す. ︵同第二項﹁﹁雪﹂. を構成要素として含む漢字と国字﹂︶︒. ﹁艦﹂などを対象とし︑歴史的な視点に︑地理的な視点を加え︑漢字. ︵同第一項﹁地名と文字﹂︶︒そうした国字の中で︑特に日本的な情緒の表現や用法上などで様々な特徴を 有する﹁雪﹂を構成要素に含む﹁鱈﹂ と比較しっつ個々の字の実態について論ずる. 地域文字は︑その例が豊富に存在することから︑字の形と表記される語という二つの視座を中心に置き︑. 地理的な広がりをとらえながら歴史についての記述を進める︒前者では︑まず︑国字の訓などの用法に生じ. る地域差が︑主に用法の転化という現象によるものとしてとらえられることを字誌的な記述を通じて明らか. にする︵同第三節﹁字体︑用法から見た地域文字﹂第一項﹁﹁硲﹂について﹂︶︒続けて︑一般化した国字で. ︵同第二項﹁﹁臥﹂. について﹂︶︒. はなく︑使用される地域が尾張地方などに局限されたケースとして﹁臥﹂を取り上げて字詰的記述を行い︑ 別々の造字の衝突としてとらえられることが多いという実情を確かめる. ﹁がけ﹂. ﹁仙﹂などの造字がなされ. について﹂︶︒あ. についても︑同様に小地名をも. ﹁表記から見た地域文字﹂第一項﹁﹁まま﹂. ﹁欄﹂. ﹁まま﹂が文学作品において漢字表記を定着さ. さらに︑語の表記から見た地域文字の位置という観点を設け︑いわば表記誌を記すことで︑古くから東日 本を中心として用いられた方言であり︑数多くの用例をもつ. ︵第四節. せることなく︑各地で主に地名において諸々の表記が生まれる中で︑﹁壌﹂ るに及ぶ過程を表記誌により捕捉する. わせて︑その類義の新興語が共通語としての地位を得るようになる. 七 頁.

(8) 対象に含め︑種々の表記の中から﹁崖﹂が一般的な漢字として定着に至る一方で︑﹁析﹂︵﹁射﹂︶から国字. との認識を得る﹁桁﹂が生じるなどの歴史的な変遷を跡づける︵同第二項﹁﹁がけ﹂について﹂︶︒. 続けて︑位相文字については︑それと位置付けうるものが古代より存し︑秘匿を目的とするものもかつて. は少なからずあったことや︑現在でも図書館関係者が書記経済のために用いる﹁田﹂︵図書館︶が顕在して. いるはか︑他集団との差別化︑表記の整理などを目的とした造字の使用が見られることを説く︵第六章第二 節 ﹁諸分野における位相文字の性格と実態﹂︶︒. このように︑日本人にとって漢字のいわば源泉であった漢籍という典拠をもたない国字においても︑歴史. 的な国書を出典とするもののほか︑個人によって作り出された新たな文字が︑あたかも方言の場合のように. 地域内での慣用を経て理解︑使用される地域文字となり︑あるいは特定の社会において伝承され︑習慣化す. ることで位相語と同様に位相文字としての位置を得るものが現れるのである︒それが理解され︑また使用さ. れた時代の隔たりやその社会的︑地域的な範囲の違いは︑歴史のある時点で列島のどこかで偶然にも同じ字. 体が繰り返し出現する現象を誘発し︑結果として衝突を引き起こすこともまれではなかったのである︒また︑. 周圏分布のごとき状況も見られ︑文字のもつ性質や方言資料としての意義についても問い直す必要がうかが われる︒. さらに︑同義の漢字が筆録者や書写者の所有する文字体系のうちに欠落し︑あるいは存していても当人に. とってそれが意識的ないし説得的なものでなくとも︑規範を示したり実用を促す役割を備えることのできた. 国語辞典や漢和辞書などへの搭載や著名な文献での使用︑さらに地名など固有名詞としての定着や︑さらに. その時代の政治︑学問︑芸術︑文化︑実用など面から得られた要請など︑諸々の条件が重なれば︑淘汰の圧.

(9) 力を経てなお全国的に通用し︑一般化するもの︑さらに字音を獲得し︑言語の差を超えて他の漢字圏へ波及. していくものが出現しえたのである︒それらの中には︑字音語などの成分として語そのものに対する影響を. もたらすものまで現れ︑ついには伝播した中国や韓国などで新たな造語を生じることまでが確かめられる︒. こうしたことから︑近年の漢和辞典への搭載や法令︑教科書︑文学作品における使用︑また国語施策によ. る公認︑戸籍行政や工業規格等での追認とコンピュータ上での実用などは︑あくまでもそうした状況のもと. にあるできごとであるが︑諸事象間の因果関係を循環させ︑また史的な展開を加速させる要因となりうると 位置付けることが可能であろう︒. そのコンピュータと深いかかわりをもつ︑経済産業省が所管する日本工業規格の一つである﹁JIS漢字﹂. ︵同第三節. ﹁コンピュータの位相文字﹂︶︒そこには︑各. を対象に据え︑そこに含まれる位相文字について︑用法︑表記のほか文字を伝達するメディアなどの観点を 取り入れながら︑その実相と背景を明らかにする. 分野の位相文字などが部分的ながら採用されたことがうかがえたほか︑1IS漢字制定過程において誤写に. よって生じたいわば幽霊文字までが採用されてしまっていたことがかいま見える︒今後︑この文字集合の実. ﹁国字の展開﹂. においては︑位相に着目した国字のさまざまな変遷の歴史について説く︒. 装がさらに広まることにより︑国字の使用にも新たな進展が起こることが考えられる︒ 本章の第三部. 初めに︑﹁濯﹂ という字が︑江戸時代後期の儒宮林述斎により ﹁墨田川﹂ ﹁墨江﹂ といった漢字表記に基. づき造出された個人文字に端を発し︑それが成島柳北︑永井荷風などの文人の間で文芸作品上に受け継がれ. ︵第七章. ﹁個人文字から位相文字へ・位相文字から一般的な国字へ﹂. 第一節. ﹁個. ることで︑新たな命脈を保有し︑辞書や教科書においてさえも主に固有名詞の表記に使われ続ける結果とな ったものであることを示す. 九 頁. 写珊m. 取払華梨か尋常謹揺.

(10) 人文字から位相文字二般的な国字へ﹂第一項﹁﹁糧﹂について﹂︶︒国字という︑漢籍に典拠を有さない文. 字の存在と多彩な変化の実相を︑位相という視点を加えて捉え直すことにより︑この国字がいかにして国語. ︵日本語︶史の中で展開してきたのかをよ︒明確かつ動的にとらえられると考えられる︒国字が日本語を表. 記する要素として人々の間でいかにして位置を獲得してきたのかという変容の動態は︑字詰という記述方法 を用いることで具体的に把握しうるのである︒. 続けて︑江戸時代の蘭医︑宇田川榛斎により造られた個人文字﹁腺﹂﹁膵﹂を取り上げ︑それらの国字が︑. 江戸時代のうちに他の訳語を圧倒し︑明治以降︑医学用語や一般化した語の表記のために定着するに及び︑. ことに前者は文部省による公認を得るほどに一般にも用いられるに至った過程を文献類にたどる︵同第二項. ﹁﹁腺﹂﹁膵﹂について﹂︶︒これらの字をとりまく社会の変容がそれらの使用範囲の拡大につながるという. 展開は︑位相の動態に着目することにより確実なものとして捕捉されるのである︒中国や韓国など他の漢字. 文化圏を視野に入れた記述を行うと︑さらに言語の差を超えて中国や韓国でも新たな用語を表記するものと. してこれらが受け入れられた実態も明らかになる︒こうした展開を把握する字詰は︑日本に生まれた国字が︑. 日本語表記にとどきらず︑その他の言語の中において位置を得るに及ぶ経過を具体的におさえる上でも有効 であると考えられる︒. また︑﹁撃﹁粍﹂﹁紛﹂などのメートル法の単位を表の字訓として表すための国字が︑明治期に中央気. 象台によって組織的に造られ︑一八九一年から用いられ始めた位相文字であったもので︑その生じる背景に. 既存の訳語に字義のずれが生じたことと字数の多さの回避があったことを説く︵同第二節﹁位相文字から一. 般的な国字へ﹂︶︒それらは︑法規︑算術書︑新聞などで広く使用され︑体系性を整えるなどの目的から新.

(11) 山」ゝ土二二・:・1.■ナ∴∵・.川、1−こ.Ll. 規の造字を生む一方で︑使用されない字は淘汰されながら辞書等に掲載され︑その一部が戦前に文部省の公 認を得るに至るという一般化への径庭が捉えられる︒. さらに︑短期間の内に中国︑満州や朝鮮などへ拡散し︑日本以外の地で新たな造字を呼び起こす契機とも. なる︒その一方で︑それらの国字は批判をこうむるようになり︑文部省の公認も失い︑片仮名表記やローマ. ﹁一般的な国字. の第二水準は︑﹃標準コード. ︵同第三節. 字表記が主流となり︑一部が元とは異なる複数の分野における位相文字と考えうるものとなり︑さらに︑中. ﹁1IS漢字﹂. 国などでも使われなくなるといった衰微の経過と社会情勢などの背景を解明する から位相文字・死字へ﹂︶︒ 先に触れたコンピュータという新たな電子機器がもたらした. 用漢字表 ︵試案︶﹄ と ﹃国土行政区画総覧﹄ を出所とする文字により主要部分が構成されているが︑それら. の資料特有の字に地名における地域文字などが含まれることを1IS漢字の原典を対象とする悉皆調査から. ︵第八章. ﹁コンピュータにかかわる展開﹂. 第一節. ﹁地域文字等の位相文字化﹂︶︒これらは︑コン. 明らかにするとともに︑そうした字が1IS漢字を体系としての位相文字と意味付けている現状について詳 細を示す. ピュータにかかわる国字の新たな局面における動向であり︑今後の国字について展望する上で︑一つの方向. のように暗合する用例も衝突する用例も見出しがたい︑つまり1IS策定. を指し示すものといえる︒lIS漢字には︑先に触れたとおり他に原典が現存しない字さえも含まれており︑ それに対する考察により︑﹁裔﹂. 過程で新たに生まれたとしか考えられない ﹁文字﹂ の含まれていたことが判明する ︵同第二節 ﹁典拠不詳字 等の位相文字化﹂︶︒. 国字を用いる契機は︑日本のことばに対する表記の創製や改善︑凝縮︑俗解︑造語など︑様々なものであ. 一一頁.

(12) ったが︑それを支えた中心的なものは︑やはり日本人が︑記そうとする日本のことば︑それは主に和語の名. 詞︑固有名詞であるが︑外来語︑位相語や方言を含めた語を︑他の漢字表記と対照しうる効果あるかたちで. 紙面に残したいという哀話にかかわる意識であると考えられ︑そこに構成要素や構成方法などの選択が日本. 人の意識に沿ってなされたのである︒その際には︑既述のとおり中国語としての字音を介在させる必然性は. 低く︑形声の方法を採ることはまれであったのである︒しかし︑後には﹁腺﹂のようなケースも認められる. ように︑造語力の強さ︑同音語の存在なども・その字を用いるかどうかの選択に影響を与えることもあった︒. また︑そのように一般化した一部の字のほか︑特異な思想の表象としての個人文字と方言地名を表記する一 部の地域文字を中心として︑形声という造字法が利用されていたことも確かめられる︒. 様々な社会による文字の差異は︑字の使用される範囲による違いという様相論的な位相に属する観点に基. づき見出されたものであるが︑さらには表現主体の場面による様式の差を含む広義の位相をここに尉酌する. ことで︑国字の位置がより鮮明なものとなる場合がある︒数多く創出された国字は︑人々の間で必要性︑妥. 当性などに基づく選択を受け︑使用につながってきたが︑その国字という素材が運用される場面によっても. 種々の異なる面を呈することがあった︒漢籍に典拠を欠くといという根本的な性質のために︑そこに規範を. 求める意識からは正しくないものとして文章作成の際に除外され︵それは当然︑中国の字書にそもそも探索. しぇないものでもあった︶︑同一の筆録者であっても︑たとえば日記には用いることができても︑漢詩文に. ぉいては文体上の制約もあり取り入れにくいものであった︒しかし︑そうした中でも︑歴代の日本の人々に. は︑日本の現実のことばを表記するための必要からそれを造︒だし︑また使用するものがあったのである︒. 国字は︑その運用実績すなわち用例の蓄積こそがその命脈を保つ原動力となり︑また日本で編まれる辞書類.

(13) へ収録されることにより︑新たな典拠を得てその地位を確固たるものとしてきたといえる︒. 国字は︑コンピュータが盛んに用いられ︑マスメディアなど種々の情報媒体の発達を見た現在においても︑. 新たなメディア環境の中で︑従来とは異なる制約を受けながらも変容と再生の姿を随所に呈しっつある︒不. 特定多数の人々の目に触れるインターネット上では︑1ISに入った国字の再生や︑新たな用法の発生のほ. か︑みずからの個人文字を画像などにより示すページさえも現れている︒すなわち新たな位相の出現もうか. がうことができるのである︒国字を含めた漢字は︑様々な条件において多様な変容の経過をたどってきたも のであり︑今なおその過程にあるとさえいえよう︒. 中国製の漢字とともに一字ずつの字詰が蓄積されていくことと並行して︑文字資料ごとにおける使用実態. の調査の積み重ねにより︑そうした歴史の実像が解明されていくのである︒将来は︑過去の文献資料の精確. な電子化がさらに進むと思われる︒それらに︑少なくとも現代における文字使用者の複雑な意識の実態を確. 認する作業を重ねることで︑より新しい知見が加わり︑細かな点で文字の歴史を書き換える作業も活性化す. るものと思われる︒そうした集積に対して︑国字の適時的な展開を位相を意識し立体的かつ多面的に見極め. ようとする複眼的な視点を失わずに捉えつづ▲けていくならば︑個々の国字のもつ意義もより確かなものとな. るとともに︑国字を含めた日本の文字やそれに基づく表記の歴史的な展開の軌跡の全容を明らかにすること につながっていくと考えられる ︵終章 ﹁国字研究の展望﹂︶︒. 貢.

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