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第 1 章 相続実務のための基本知識 図表 1-33 相続の発生から終了までの流れ 相続の発生 遺言書がない 遺言書がある 遺産分割協議が必要 1 遺産分割協議が不要 2 遺産分割協議 成立 不成立 3 家庭裁判所で調停 成立 不成立 家庭裁判所で審判 遺産分割の終了 ( 遺産の分配 名義変更等 )

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図表 1-32 遺産分割の方法 遺産分割の方法 説明 現物分割 現存する遺産をそのまま相続人間で分配する。 換価分割 遺産を売却して、売却代金を相続人間で分配する。 代償分割 特定の相続人が、遺産を多く承継する代わりに、他の相続人に現金を支払って、過不足分を調整する。   また、どのように遺産を分割するかについては、以下の 3 つの方法 を用いて決めます(図表 1-32)。 また、遺産分割について、相続の発生から終了までの流れをフロー チャートにすると、図表 1-33 のとおりです。

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遺産分割協議の当事者

遺産分割協議に参加しなくてはならない者は、「法定相続人」「包括受 遺者(例えば相続財産を 3 分の 1 を遺贈するといった包括的な割合で 遺贈を受けた受遺者)」「相続分の譲受人」「遺言執行者」等です(図表 1-34)。

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遺産分割の対象

①預貯金 預貯金については、従前は、可分債権であることを前提として、遺産 分割の対象外とされていました。 これは、最一判昭和 29 年4月8日の判例が「相続人数人ある場合に おいて、相続財産中に金銭の他の可分債権あるときは、その債権は法律 上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するもの と解すべきである」と判示しており、可分債権の一種である以上、預貯 金についても当然分割承継されるという扱いだったためです(最三判平 成 16 年 4 月 20 日等)。 しかし、最大決平成 28 年 12 月 19 日の判例が、これを変更して、「共

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第 1 章 相続実務のための基本知識 同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれ も、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺 産分割の対象となる」としました。 図表 1-33 相続の発生から終了までの流れ 相続の発生 遺言書がない 遺言書がある 遺産分割協議が必要 遺産分割協議が不要※1 遺産分割協議 家庭裁判所で調停※3 成立 成立 不成立 不成立 家庭裁判所で審判 遺産分割の終了(遺産の分配、名義変更等) ※2 ※ 1 遺言で、分割が必要な全ての遺産について分割方法が指定され、かつ、 遺留分の侵害がないような場合 ※ 2 遺産分割協議が不要な場合でも、当事者全員で遺産分割協議をして、遺 言の指定する遺産分割とは異なる遺産分割をすることは可能である。 ※ 3 審判の前に調停を必ずしなければならないわけではないが、実務上は、 ほぼ調停が先行する。

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かつて、定期郵便貯金は政策的な理由から、遺産分割の対象とされて いましたが(最二判平成 22 年 10 月8日)、この判例変更により、普通預金 債権、通常貯金債権及び定期貯金債権が遺産分割の対象になりました。 最大決平成 28 年 12 月 19 日の判例の理由を読むと、他の種類の預貯 金債権についても遺産分割の対象になると予想されていましたが、最一 判平成 29 年4月6日の判例が「共同相続された定期預金債権及び定期 積金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割さ れることはない」と判示しました。 現時点(平成 29 年7月1日時点)で、他に判例のない種類の預貯金 もありますが、原則として預貯金は、遺産分割の対象になると考えてよ いでしょう。 図表 1-34 遺産分割協議の参加者 参加者 説明・条文など 法定相続人 配偶者は、法律上の婚姻関係にある者(内縁を含まず)。行方不明者がいれば、不在者財産管理人が参加する。 未成年者がいれば、特別代理人が参加する※ 1 包括受遺者 「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する」とされているため(民法 990 条)。 相続分の譲受人 相続分を譲り受けた者(相続分は譲渡が可能とされてい※ 2)。 遺言執行者 「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができな い」(民法 1013 条)※ 3 ※ 1 親権者が先に相続放棄をした場合、親権を行使する未成年者 1 人を代理する ことは可能である(親権を行使する未成年者が 2 人いた場合は、双方の代理は できない)。 ※ 2 民法 905 条は「共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲 り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続 分を譲り受けることができる」として、相続分の取戻権を定めているが、これは、 相続分の譲渡が可能であることを前提とした条文である。 ※ 3 遺言執行者がいる場合に、遺言執行者の同意なく、相続人全員で遺言の内容 と異なる遺産分割協議を成立させることができるかについては、争いがあり、 通常は、遺言執行者がいれば、遺産分割協議に参加してもらい同意を得た方が よい。

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第 1 章 相続実務のための基本知識 なお、最大決平成 28 年 12 月 19 日の判例が変更したのは、預貯金債 権を遺産分割の対象にしたという点であって、他の可分債権(貸金債権 や損害賠償請求権等)は引き続き最一判昭和 29 年 4 月 8 日の判例によ り当然分割承継になりますので、注意して下さい。 ② 「相続させる」旨の遺言がある場合 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」という遺言があった場合 はどうでしょうか? この点について、最二判平成 3 年 4 月 19 日は、「特定の遺産を特定 の相続人に『相続させる』趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨 が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のな い限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法 が指定されたものと解すべきである」とした上で、「特定の遺産を特定 の相続人に『相続させる』趣旨の遺言があった場合には、当該遺言にお いて相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせた(「委ねた」「依 存させた」などの意味合い)などの特段の事情のない限り、何らの行為 を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時にただちに相続により 承継される」(下線筆者)と判示しています。 したがって、このような場合も、遺産分割の対象にはなりません。 ③ 預貯金と遺産分割協議 従前は、預貯金は遺産分割の対象外とされていたため、相続人全員の 合意をもって預貯金を遺産分割協議の対象とできない場合は、遺産分割 調停や審判では対応することができませんでした。 つまり、不動産等相続財産については、遺産分割調停や審判で分割が なされる一方、預貯金をめぐる相続争いは、通常の民事訴訟で決着をつ ける必要がありました。 実務を担当する弁護士として、遺産分割調停を「○○家庭裁判所△△ 出張所」に起こして、別途預貯金については民事訴訟を「○○地方裁判 所 ×× 支部」に起こしたことがあります。

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上記で、確認された子について、被相続人欄の父母欄と兄弟姉妹の父 母欄を確認します。父母双方が一緒の場合は、全血兄弟姉妹です。父母 片方が一緒の場合は、半血兄弟姉妹です。半血兄弟姉妹の相続分は、全 血兄弟姉妹の相続分の 2 分の 1 です。 ⑥ その他の注意事項 上記によって相続人の範囲が確定しても、以下の場合には、注意が必 要です。 イ.胎児がいる場合 戸籍上に表れません。 ロ.廃除・欠格があった場合 廃除・欠格があると相続人でなくなりますが、廃除があったか否かは 推定相続人の身分事項欄で確認をすることができます。 欠格は、戸籍上に表れません。

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法定相続情報証明制度

① 従前の法定相続人の確定手続について 従前は、3で述べた「相続人の範囲の確定」が終わったら、相続人 は相続関係図とともに、各金融機関に対して、戸籍謄本類一式を提出し ていました。 しかし、戸籍謄本類一式といっても、1通で終わることはなく、改製 前原戸籍やその前の戸籍、さらには除籍等、通常であれば5〜 10 通、 多い場合(第三順位相続等)には数十通もの戸籍謄本類一式が必要でし た(以下、「戸除籍謄本類」といいます)。 金融機関によっては、「原本提出。原本還付せず」という実務をして いたところもあり、相続人の手間だけではなく、戸除籍謄本類一式を取 り寄せるための費用もかなりの金額になっていました。 また、相続財産の不動産の名義変更でも戸除籍謄本類一式が必要でし

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第 2 章 金融機関における相続手続の基本知識 た。 つまり、「相続手続では、被相続人の戸除籍謄本等の束を、相続手続 を取り扱う各種窓口に何度も出し直す必要があった」のです。 ② 法定相続情報証明制度の導入 そこで、平成 29 年5月 29 日、不動産登記規則の一部を改正する省 令(平成 29 年法務省令第 20 号)が施行されて、「法定相続情報証明制度」 がスタートしました。 この制度は、相続人等が、登記所(法務局)に戸除籍謄本等の束を提 出し、併せて相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を提出 すれば、登記官がその一覧図に認証文を付した写し(=法定相続情報一 覧図の写し)を無料で交付するという制度です。 相続人等は、その後の相続手続において、法定相続情報一覧図の写し を利用することにより、戸除籍謄本等の束を何度も出し直す必要がなく なります。 また、金融機関や登記所における相続手続においても、金融機関や登 記所は戸除籍謄本等の束を一回一回確認する手間がなくなります。 具体的には、法定相続情報である、 (ⅰ)被相続人の氏名、生年月日、最後の住所及び死亡の年月日 (ⅱ)相続開始の時における同順位の相続人の氏名、生年月日及び相 続人との続柄 を記載した書面(これを「法定相続情報一覧図」といいます)の保管、 写しの交付を登記官に依頼することができるようになります(不動産登 記規則 247 条1項1号、2号)。 ③ 法定相続情報証明制度の利用手続 イ.利用者 法定相続情報証明制度の利用者は、相続人、二次(それ以降も)相続

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人です。 共同相続人全員ではなく、共同相続人の1名でも利用が可能です。 また、代理人によっても利用は可能で、任意代理人になれるのは、戸 籍法 10 条の2第3項に規定されている士業である弁護士、司法書士、 土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政 書士(各その法人、例えば弁護士法人等を含む)です。 ロ.利用場所 以下の場所を関する登記所になります(不動産登記規則 247 条1項本文)。 (ⅰ)被相続人の本籍地もしくは最後の住所地 (ⅱ)申出人の住所地 (ⅲ)被相続人を表題部所有者もしくは所有権の登記名義人とする不 動産の所在地 ハ.利用方法(申請方法) これについては、3つのステップを踏みます。 〔第1ステップ〕相続人の確定作業 今までと同じく、戸除籍謄本類を集める。 具体的には、 ① 被相続人の出生時からの戸除籍謄本または全部事項証明 ② 被相続人の最後の住所を証する書類 ③ 相続人全員の戸籍謄本(抄本)または記載事項証明 ④ 二次相続の場合は、その証明書類 ⑤ 申出人の住所・氏名の確認書類 等です(不動産登記規則 247 条3項2号から6号)。 相続人の住所も記載してほしいときには、 ⑥ 相続人の住所の証明書類 もつけます(同条4項)が、これは任意です。

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第 2 章 金融機関における相続手続の基本知識 〔第2ステップ〕一覧図の作成 申出人は、被相続人と法定相続人を一覧にした一覧図を作成し ます。 書式は任意ですが、法務省のホームページに見本が掲載されて いますので、参考書式になるでしょう。 一例として、配偶者と子ども2名の場合を示しておきます(図 表 2-7)。 もっとも、これ以外の図や表であっても構いません。 〔第3ステップ〕申出書の記入・登記所への申出 最後に、申出人は、申出書(図表 2-8)に必要事項を記載して、 ・第1ステップで集めた戸除籍謄本類等の書類と ・第2ステップで作成した法定相続情報一覧図 を添えて、登記所に提出します。 併せて、一覧図の保管および一覧図写しの交付を申請します。 ニ.申請後の流れ(一覧図の写しの交付) 上記ハ.の流れで申請がなされると、登記所の登記官が、提出された 戸除籍謄本類等の記載内容と一覧図の記載内容が合致していることを確 認します。 登記官が確認した場合は、認証文言を付した一覧図の写しの交付がな される(図表 2-9)ので、金融機関としてはこの提出を受けて法定相続 人を確認することになります。

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事例1-3-2

 被相続人名義の口座からの一部相

続人による生活費の払戻請求

事 案 X 銀行には、A 名義の多額の預金(1億 2,000 万円)があったが、 今般 A が死亡した。 法定相続人は、認知症の配偶者である B と同居して B の面倒を見 ている C(長女・姉)と独立して世帯を構える D(長男・弟)の3 名である。 B と C は、A の生前、A の預貯金と年金に頼って生活をしていたが、 D はこの点について不満を持っており、「なぜ B について世帯分離 して、介護保険等を利用して施設に入れないのか。C も働いて自分 の生活費は自分で稼ぐべきである。また、多額の生前贈与が、A か ら C になされている。A が受け継いだ先祖代々の遺産を B と C が 喰いつぶしている」との主張をしていた。 かかる中で、今般、C から A 名義の預金について払戻請求があった。 BとCの生活費の払戻請求 C(姉) A(被相続人) D(弟) B(認知症) X 銀行 亡 A の預金 1 億 2000 万円 結 論 たとえ、B と C の法定相続分の範囲(6,000 万円+ 3,000 万円= 9,000 万円)以内で支払ったとしても、X 銀行にはリスクがあります。 金額も多額であることから、「遺産の分割の審判事件を本案とする保 全処分として、例えば、特定の共同相続人の急迫の危険を防止するため

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第 4 章 事例研究(預金・融資) に、相続財産中の特定の預貯金債権を当該共同相続人に仮に取得させる 仮処分(仮分割の仮処分。家事事件手続法 200 条2項)等を活用するこ とが考えられ」(最大決平成 28 年 12 月 19 日の補足意見)ますが、時間 的・費用的に現実的でない場合は、X 銀行としては、事実上の C に対 する与信として払戻しに応じるか否かを検討します。   解説 ① 従前の当然分割承継説による場合 平成 29 年 12 月 19 日の最高裁判所大法廷の決定以前は、預貯金につ いては、相続の発生と同時に法定相続人に対して、法定相続分で当然に 分割承継されるものとされていました。 したがって、A が死亡した瞬間に、B に 6,000 万円、C に 3,000 万円、 D に 3,000 万円で帰属することになったため、X 銀行としては、法定 相続の範囲であれば、遺言書等がないなどの前提の下では、実質的なリ スクはなかったと言えます。 ② 預貯金が遺産分割の対象になったことによる変更 しかし、平成 29 年 12 月 19 日の最高裁判所大法廷の決定で、預貯金も 遺産分割の対象となったことから、預貯金の帰属は遺産分割の結果によっ て確定することになります。 事案では、B や C が多額の生前贈与を受けていたような場合、特別受益 による持ち戻しがなされて、X 銀行の預金が全て D に帰属するという遺産 分割審判が確定する可能性もあります。 このような場合に、X 銀行がすでに B 及び C に 9,000 万円を払い戻し ていた場合は、D との関係で二重払いを余儀なくされる可能性が高いとい えます。

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致して、日本法によって相続手続をすることになります。 <実務のポイント> 被相続人が外国籍の場合は、①本国法を確認する、②反致の有無を確 認し、預金に適用される法律が、被相続人の本国法か日本法かを確認す る、③適用される法律に従って、対応する、の手順を踏みますが、戸籍 制度がある日本と異なり、相続人の確定すら大変なことになります。 営業店の担当者が一人で抱え込んでも進みませんから、本部と相談し て、対応することが重要です。

事例1-11-1

 ‌‌一部相続人から法定相続分によ

る相続預金の払戻請求

事 案 X 銀行の預金取引先である A が死亡した。 A の長男 C が X 銀行に来店して、「X 銀行にある A の預金について、 法定相続分である 4 分の 1 を自分に払い戻してほしい」との依頼があった。 戸籍謄本を確認したところ、相続人は B、C、D の 3 名である。 X 銀行が、C に「B と D は手続に協力できるか?」と依頼したところ、 C は「法定相続分であれば、自分一人で払戻しができるはずだ」と応じない。 X 銀行としてはどうすべきか。 B(妻) A(被相続人) 亡 A の預金 X 銀行 法定相続分を払戻請求 D(妹) C(兄)

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第 4 章 事例研究(預金・融資) 結 論 X 銀行としては、遺産分割の結果(遺産分割協議の成立、遺産分割調 停の成立、遺産分割審判の確定)を待って、A 名義の預金の帰属の決 着がついてから払戻しをします。 C に法定相続分のみを払い戻すことはできません。   解説 ① 預金の相続について(従来の判例・実務) 従前、金融機関の預貯金は、「相続人数人ある場合において、相続財 産中に金銭の他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され 各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解すべきであ る」(最一判昭和 29 年4月8日民集8巻4号 819 頁)という判例のもと、預 貯金債権も可分債権であることから、A の死亡と同時に B、C、D に法 定相続分に従って当然に分割承継され、遺産分割の対象にならないとい う扱いがなされていました(最三判平成 16 年 4 月 20 日集民 214 号 13 頁等)。 したがって、C が X 銀行に法定相続分の払戻しについて、訴訟を提 起した場合は、多くの場合は、C が勝訴していました。 ② 預金の相続について(判例変更後の実務) しかし、最高裁判所大法廷は、平成 28 年 12 月 19 日、「共同相続さ れた普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続 開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の 対象となる」として平成 16 年の判例について、変更しました(最大決平 成 28 年 12 月 19 日民集 70 巻8号 2121 頁)。 したがって、C は、法定相続分だけを払い戻せという請求を X 銀行 にすることはできません。 なお、その後、「共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は、

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時効管理上一番安全なのは、相続人全員の合意で B に対して免責的 債務引受をさせた上で、A 及び C に連帯保証をさせることですが、そ のようなことができない場合には個別に時効管理が必要である点に留意 してください。

事例2-5-1

 ‌‌相続債権者(被相続人の債権者)

である金融機関の相殺

事 案 X 銀行は、Y に対して、1,200 万円を貸し付けしていたが、今般 Y が 死亡した。 Y の法定相続人は、A、B 及び C であるが、相続人は遺産分割で揉め ており、当面遺産分割の決着はつきそうにない。 相続発生の前に Y の約定弁済は滞っており、すでに期限の利益の喪失 通知は生前に Y に送付済みである。 X 銀行には、Y 名義の預金が 900 万円あるので、X 銀行は、相殺によっ て 900 万円を回収したいと考えている。 X 銀行としては、どのように債権回収をしたらよいか。 C(妹) B(兄) A(妻) Y(被相続人) X 銀行 証書貸付 1,200 万円 (期限の利益は既に喪失) 亡 Y の預金 900 万円 結 論 亡 Y の預金は、Y の死亡により、A、B 及び C の準共有状態、亡 Y

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第 4 章 事例研究(預金・融資) に対する貸金は、A、B 及び C に当然分割承継されて、それぞれが単独 の債務者の状態です(事例 2 - 1 参照)。 この状態で相殺できるか否かは議論の余地がありますが、X 銀行が Y の生前に有していた相殺の期待権が Y の死亡により奪われる謂れはな いので、相殺はできるものとして取り扱うべきです。 相殺通知の記載方法は、解説をご参照ください。   解説 ①従前の相続債権者である金融機関の相殺実務 従前は、預金も貸金も Y の死亡によって当然に分割承継されたので、 Y が死亡した瞬間に、X 銀行は、A に対して 1,200 万円 ×1 / 2 = 600 万円の貸金債権を有する一方で、900 万円 ×1 / 2 = 450 万円の預金 債務を負うことになりました。 したがって、A 宛ての相殺通知は、600 万円の貸金債権と 450 万円 の預金債務を対当額で相殺する旨を記載すればよかったのです。 同様に、B 宛ての相殺通知は、300 万円の貸金債権と 225 万円の預 金債務を対当額で相殺する旨を記載し、C 宛ての相殺通知も 300 万円 の貸金債権と 225 万円の預金債務を対当額で相殺する旨を記載して、A 宛て、B 宛て、C 宛てにそれぞれ送付すれば相殺は完了しました。 その結果、X 銀行は、A に対して 150 万円、B に対して 75 万円、C に対して 75 万円の貸金債権を分割して有する状態になったのです。 ②判例変更後の相続債権者である金融機関の相殺実務 しかし、判例変更により、亡 Y 名義の預金は、遺産分割の決着がつ く前は、Y の死亡により A、B 及び C の共同相続人 3 名による準共有 の状態になっています(最大決平成 28 年 12 月 19 日民集 70 巻 8 号 2121 頁、 最一判平成 29 年 4 月 6 日)。 他方、X 銀行の Y に対する貸金債権は、当然分割承継されて、A は

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