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昭和初期株式市場の パフォーマンスインデックス算出による検証

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昭和初期株式市場の

パフォーマンスインデックス算出による検証

平 山 賢 一

要  旨

 本稿は,昭和初期の株式投資成果を検証するために,東京株式取引所の短期清 算取引市場銘柄を対象とした配当込株価指数である昭和初期株式パフォーマンス インデックス(EquityPerformanceIndex;EQPI)を算出し,その評価を試みた ものである。

 従来から,東京株式取引所の株価や主要株価指数(平均株価)が,戦前株式市 場の指標として金融史研究およびファイナンス研究では取り上げられてきたが,

配当を含めた投資成果の研究は,一部の海外の研究者に限られており,その算出 手法も十分に戦前株式市場の特性を反映したものではなかった。そこで,権利落 修正・追加払込修正・配当修正を実施した EQPI を算出し,他の指標との比較を 行ったうえで,戦前・戦時期の株式市場の特性について検証した。

 その結果,1924年 6 月から44年11月までの期間についての配当込の投資成果 は,短期金融市場(東京コール)や国債(昭和初期国債パフォーマンスインデッ クス)よりも優れているものの,この優位性は30年代後半以降に認められるもの であることが明らかになった。また,株式のシャープレシオや超過収益率,そし て物価指数(東京小売物価指数)を用いた実質株価指数を算出することで,戦時 期の株式市場のファクトファインディングを行った。

目   次

Ⅰ.はじめに   1 .課題   2 .先行研究   3 .研究手法

Ⅱ.戦前期の株式指標

  1 .東京株式取引所株価(東株・新東株)

  2 .戦前期の株価指数(平均株価)

  3 .戦後における戦前株式指標研究と配当込指数

Ⅲ.昭和初期株式パフォーマンスインデックスの評

  1 .EQPI のリターンおよびリスクの評価   2 .シャープレシオと株式超過収益率   3 .実質リターン

Ⅳ.おわりに

(2)

Ⅰ.はじめに

1.課題

 本稿は,昭和初期の株式投資成果や市場特性 を明らかにするために,短期清算取引市場銘柄 を対象として算出した昭和初期株式パフォーマ ン ス イ ン デ ッ ク ス(EquityPerformanceIn- dex;以下 EQPI と記す)の評価を試みたもの である。

 昭和初期の金融史研究において,金融統制が 強化された期間に,どのように株式市場の投資 成果が変化したのかについての重要性が指摘さ れ,さらにファイナンス理論の手法を用いて戦 前期の経済政策研究に対するニーズも高まって いる。しかし,昭和初期の株式市場分析する際 に使用可能なパフォーマンスデータは,一部の 個別銘柄の価格や不十分な指数に限られ,市場 全体のリターンやリスクを示す総合的な指標を 用いた研究は十分に行われてこなかった。具体 的には,権利落修正や追加払込修正による新株 と旧株に対する投資成果への影響や,配当を反 映した投資成果に関する研究は進んでいないの が現状である。代表的な東京株式取引所の株価 推移や,当時の諸機関が作成した株価指数は存 在していたが,配当を含めた投資成果を示す

「株式市場に投資した際のリターン(収益率)

およびそのリスク」算出の試みは少ないと言え よう。

 ところが,このデータを整備することは70年 以上前の膨大な市場データを収集しなければな らないと言いうデータ制約に加え,仕組みや制 度の違いを認識した上での修正手法の検討な ど,多くの判断を要する作業の積み上げが必要

となってくる。そのため,昭和初期の株式市場 について,大量の価格データを収集し,現代の 分析手法で活用可能な総合的な指標を算出する には,多くの困難が伴うのである。

 この地道な作業の成果は,決して小さいとは 言えないだろう。昭和初期の金融史研究におけ る資金循環と金融市場の関係を明らかにするこ とや,ファイナンス研究における金融市場のマ イクロストラクチャー分析の基礎データを提供 するだけではなく,金融史研究とファイナンス 研究の学際的研究成果が期待できると推察され るからである。そこで,本稿では,パフォーマ ンスインデックス算出を通して,金融統制が強 化された時期の株式市場の事実確認作業を行 い,昭和初期の株式市場の特性を明らかにした い。

2.先行研究

 戦前期の株式市場に関する研究は,市場制度 研究および主体別保有比率などの資金循環に関 する研究は多数あるものの,投資成果について の研究は決して多いとは言えない。現代の株式 市場制度との相違を反映することの難しさに加 え,データ収集の困難性から,特に投資成果の 指標となる配当効果を反映した株価指数につい ての研究は進んでいないのが現状である。

 一方で,戦時期においても,東京株式取引所 の株価(東株・新東株)だけでなく,株価指数 や平均株価を算出する試みは行われてきた。東 京株式取引所は,国際連盟による要請1)も受 け,多くの労力をかけて「株価大指数」,「花形 株価指数」を算出したが,東洋経済新報社や日 本銀行なども独自の指数を算出している。とこ ろが,戦後以降については,2000年前後に日経 平均銘柄入れ替え問題が発生したことから株価

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指数に関する議論が集中したものの,これまで 戦前の株価指数について体系的に検討されるこ とは多くなかった。当然ながら,データの不整 備などから,現在の株価指数と連結することは 難しいが,戦後に限定されているわが国の株式 投資の超過収益算出期間(無リスク資産のリ ターンもしくは国債リターン対比の超過リター ン)を,戦前まで拡張する意義はあると思われ る。戦後の経済環境だけではなく,多様な経済 環境の下での超過収益の実績を確認することを 通して,超長期にわたる株式リスクプレミアム 算定の基礎となるデータを提供することが可能 になるからである。米国の場合には,CRSP

(TheCenterforResearchinSecurityPrices)

や多くの研究者の試みにより,19世紀以降の株 式超過収益率のデータが蓄積されているが,わ が国においても同様の試みが行われるならば,

多角的な株式市場の検証が進むため,期待した いところである。

 戦前の株価指数については,小林[2000]

が,戦後の株価指数の発展の経緯と共に論じて いるが,益田[1929]など当時の株価指数に関 する優劣比較の論評も興味深いものがある。前 述したように,戦前の株価指数を代表するもの としては,株価大指数および花形株価指数(東 京株式取引所・株価大指数は新旧指数あり),

東京株式月末現物気配相場指数(東洋経済新報 社),主要有価証券価格指数(日本銀行・新旧 指数あり),勧銀調べ平均相場(日本勧業銀行)

がある。また,戦後に戦前期の株価指数を算出 した研究としては,藤野・秋山[1977]があ り,近年では,鈴木[2012]が,東京株式取引 所の平均株価算出を通して,太平洋戦争開戦ま で効率的であった短期清算取引市場が,開戦以 降には非効率性が高まったことを検証してい

る。

 ただし,これらは,市場価格データを指数化 しているためインカムゲイン(配当)が勘案さ れていないことや,権利落修正・追加払込修正 が実施されていないことから,資産としての株 式のリターン=リスク特性を代表する指標とは 言い難い。片岡・丸・寺西・[2004]が,明治 期の株式市場の効率性を検証し,ウィーク・

フォームでは効率的であるが,セミストロン グ・フォームでは効率的とは言えないとの結果 を得ているが,研究対象データの分割払込修正 と,配当修正が行われているものの,払込後の 株価を払込金に比例させて修正するという手法 により算出しているため,再検討の余地がある と考えられる。

 また,戦前期とは異なるが,現代の株式市場 指数に関する先行研究としては,宮川・花枝

[2002]が,各種の争点を網羅しているが,中 でも広田[1992]が示す株価指数の体系化は戦 前の株価指数を検討する上でも有効であろう。

そこでは,流動性・インカムゲイン(配当)算 出の観点から株価指数の特性区分を整理してい るが,EQPI を区分するならば,個別銘柄の収 益率(比数)を求めたうえで,時価加重平均す るリターンインデックスに位置付けることがで きるものである。多くの戦前期に算出された指 数が,比数による売買高加重平均もしくは単純 平均であり,株式市場の売買動向や経済指標と しての株価循環を把握するための指数等であっ た点で,EQPI とは一線を画するものと言えよ う。EQPI の場合には,投資成果を示すための 指数であり,国債の投資成果や海外の株式投資 成果などとの比較分析可能なトータルリターン 指数の一つでもある。

 これまでも海外の研究として,Dimsonet

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al.[2002]による世界16か国の101年間にわた る株式投資リターン算出は試みられてきた。し かし,この研究におけるわが国の株式リターン の算出方法は,得られるデータが十分に検討さ れたものとは言い難く,算出手法の異なる複数 のデータを継ぎ足したものになっているため,

再検討が必要である。

 尚,戦前の金融機関等の資産配分に関する研 究としては,南條・粕谷[2006]があり,現代 ポートフォリオ理論(ModernPortfolioTheo- ry)の手法を用いて,融資・債券を主軸とした 戦前期の銀行ポートフォリオの効率性を検証し ている。しかし,株式については,インカムゲ インの算出など技術的な問題が伴うため,ア セットクラスとして除外されている。戦時期の 銀行等は,株式の組入比率が低かったため妥当 性はあるものの,株式の組入比率が高かった保 険会社などにも領域を広げた分析をする際に は,株式の投資成果の算出は避けては通れない であろう。本稿での EQPI 算出は,この部分を 補完する意義もあると言えるだろう。

3.研究手法

 従来から昭和初期の株式市場の指標として は,詳細な検証なしに東京株式取引所株(東 株・新東株)の株価が用いられることが多かっ たが,東株等の株価をもって戦前の株式市場の 指標とすることには,いくつかの問題が指摘さ れるべきであろう。その問題とは,①権利落修 正や追加払込修正がされていない,②旧株と新 株の選択基準が明示されていない,③配当込み のリターンインデックスではない,④広範にわ たる多様な産業全体の動向を表現していないと いう 4 点である。東株等の指標性を改善するた めには,少なくともこれら 4 つの問題を解消す

る必要がある。

 戦前期の増資は,有償による株主割当増資中 心であり,既存株主にとっては,増資による権 利落が収益率を左右したことに注意しなければ ならない。投資成果を正確に算出する過程で は,権利落修正をする必要があるわけである。

また,戦前期の増資は,株主が額面満額を一度 に払い込むのではなく,複数回に分けて段階的 に払い込むという分割払込制度が採用されてい たため,未払込済株式(主に新株)の株主は,

企業の徴収決定に応じた追加払込負担が発生し ていた。未払込済株式の株主にとっては,追加 払込が収益率を左右するため,収益率算出では 追加払込修正をする必要がある。さらに,株式 を中長期的に保有する株主にとって,株式投資 成果は,株価の変化によるキャピタルゲインだ けでなく,配当収入もインカムゲインとして追 加する修正,即ち「配当修正」をする必要があ る。つまり戦前期の株式投資成果を算出するた めには,株価の原データから求めた価格差に,

「権利落修正」,「追加払込修正」,そして「配当 修正」という三つの修正を加えなければならな いのである。具体的な「権利落修正」および

「配当修正」の算出方法は,横山[1957]に詳 しいが,「追加払込修正」も含めた算出手法 は,平山[2017a]において検討した。

 平山[2017a]では,東株および新東株につ いて別々にトータルリターンを算出することで

②について対応している。また,株価の変動率 のみを連鎖させた価格指数(PriceIndex)に 加えて,権利落修正や追加払込修正を実施した 修正価格指数(AdjustedPriceIndex)を算出 することで①について対応している。さらに,

修正価格指数に配当修正を行い,配当込修正価 格指数(TotalReturnIndex)を算出すること

(5)

で,③の問題についても対応したが,④につい ては,東京株式取引所という単独企業(個別銘 柄)のリターンを算出しているため限界があっ た。④の問題点を克服するためには,特定の個 別銘柄により株式市場全体の動きを表現するこ との限界性を考慮して,戦前期の株式市場を代 表する指標として,複数にわたる銘柄を集約す る株価指数算出することが求められよう。そこ で,本来であれば,主たる株式取引所に上場す る全銘柄を対象とすべきであるが2),本稿で は,東京株式取引所の短期清算取引の総計38銘 柄をユニバースとして1924年 6 月から44年11月 までの20年超の期間にわたる EQPI を算出し,

重工業化が進む戦時期にも,重化学工業に類す る企業の株式パフォーマンスを反映できる指標 として評価を行った。東京株式取引所の短期清 算取引は,1943年 6 月に東京株式取引所が日本 証券取引所に改組後しばらくの期間は継続され ていたが,同年 8 月に短期清算取引が終了し,

実物取引に一本化された。そのため,43年 8 月 現在の同市場上場銘柄の株価を,実物取引株価 で代替して,統計月報で確認することが可能な 44年11月までの収益率を算出している。

 尚,戦前期の増資権利落は,既存株主に対し て自社の新株を割当てる増資と,保有している 他社株を割当てる増資の二種類があった。東京 株式取引所及び日本証券取引所の統計月報で は,前者を「新株落」,後者を「権利落」と称 して区分して表記しているが,収益率算出手法 が異なることから注意が必要である。前者は有 償増資に伴う収益率調整を行うことで対応可能 だが,後者は他社株の割り当てであることか ら,個別対応が必要になってくるためである。

そこで,平山[2017b]では,短期清算取引銘 柄については,新株落および権利落を区分した

上で,銘柄毎に価格指数,修正価格指数,配当 込修正価格指数を算出した。EQPI は,この各 銘柄の価格指数,修正価格指数,配当込修正価 格指数を,短期清算取引市場における対象銘柄 の時価総額に応じて加重平均して算出したもの である。戦前期の株価指数算出では,他社株の 既存株主への割当が存在していたため,戦後の ように全体修正方式を採用することが難しく,

個別銘柄修正方式を取らざるを得ないのであ 3)

 以下では,戦前期の各種株式市場の指標を整 理した上で,EQPI のリターンおよびリスクと 比較し,さらに平山[2018]で算出した昭和初 期国債パフォーマンスインデックス(GBPI)

や東京小売物価指数から,EQPI の超過リター ン・実質リターンの評価を試みたい。

Ⅱ.戦前期の株式指標

 EQPI を評価する前に,戦前・戦時期に株式 市場の動向を示す指標として把握されてきた東 京株式取引所の株式について概観し,その上で 主たる株価指数(平均株価)についても整理し ておきたい。

1.東京株式取引所株価(東株・新東株)

 東京株式取引所株は,1878(明治11)年 7 月 から,1943(昭和18)年 6 月に日本証券取引所 に統合されるまでの64年間超にわたって上場さ れていた。後述するように,株式分割払込制度 に則り,額面満額まで払い込まれた後に増資が 実施され,旧株(東株)に加え,新株が発行さ れて,1907(明治30)年 8 月から取引されるよ うになる。いわゆる「新東株」である。1924

(大正13)年 6 月からの短期清算取引では,旧

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株ではなく新株が取引され,各種新聞紙上でも 株式市場動向を示す指標として新東株の株価に より解説記事が記される事例が多い。

 投機性が高かったと言われる明治期の株式市 場では,長期的な投資の成果を測定することよ りも,株式市場全体の過熱度を測定すること や,景気変動を判断するための指標としての機 能が重視されてきた。そのため,敢えて手間の かかる株価指数を構築するよりも,東京株式取 引所という個別企業の株価推移を見ることで十 分と見なされていたのである。東京株式取引所 株(東株)は,1878(明治11)年 7 月15日に上 場したが,定期取引4)で売買が成立した「初手 合」は 9 月16日の136.00円であった。その後,

廣瀬[1921]によれば,しばしば売買が成立し なかった「売買取引出来不申5)」月や「出来値 一回限り6)」月がある。

 特に,「明治年間には市場全体を,あるいは 重要な構成部分を,一つの指数にまとめ上げて 判断の材料にする株価指数又はこれに類似のも のはまったく存在しなかった7)」ため,明治期 の株式市場の動静は,個別企業の株価,そのな かでも圧倒的に売買高が多かった東京株式取引 所株価の動きをもって判断,評価されたのであ る。さらに,この傾向は大正期にも引き継が れ,「株式流通市場が狭隘で,過度に投機的で あり,財閥系優良株式が上場されていなかった という特殊な事情の下ではあるが,『東株』取 引量は長期清算取引の一割前後,より投機的な 短期清算取引では過半を占めたのである8)」と いう指摘もされている。

2.戦前期の株価指数(平均株価)

 戦前に算出された株価指数は,主として東洋 経済新報社,日本銀行,東京株式取引所による

株価指数に,日本勧業銀行調による平均株価を 加えた 4 種の株価指数(平均株価)を挙げるこ とができる9)。以下では,東洋経済新報[1931]

を参考にして 4 指数(平均株価)の特徴を確認 し(図表 1 ),次章での指数間比較のために現 代でも取得可能な各指数データの出所を明らか にしておきたい10)

 第一に,東洋経済新報社による「東京株式月 末現物気配相場指数(総平均)」は,1916(大 正 5 )年 1 月から1943(昭和18)年12月までの 約28年間にわたり,業種別に算出された各業種 別指数の値を合計して業種数で除した「平均の 平均」として算出されたものである。指数の基 準年は,1913(大正 2 )年の平均値を100とし て算出している11)。業種は,1916(大正 5 )年 1 月から1925(大正14)年までは15業種92銘 柄,それ以降は,それまで「雑種」として区分 されてきた業種を細分化して合計20業種とし て,計91銘柄が対象とされた12)。さらに1937年 6 月を100とした新指数が算出されているが,

1941年における新旧指数の比を新指数に乗じ て,1940年以前の旧指数に接続させている。

データ出所は,1921(大正10)年12月までは東 洋経済新報社『日本の景気変動』,その後1943

(昭和18)年12月までは,東洋経済新報社編

『経済年鑑』,1944(昭和19)年 5 月までは,

『日本経済年報』第57輯で確認することができ る。

 尚,東洋経済新報社は,後述する東京株式取 引所が「株価大指数」を算出したことに刺激さ れて,売買高加重平均(フィッシャー理想算 式)による「二十種花形株價指數」を発表して いる。東洋経済新報社[1929a,1929b]に特 徴が詳述されているが,指数対象から東京株式 取引所株をはずし,増減資や配当落・権利落修

(7)

正を行う指数であった点は興味深いが,各種史 料で取り上げられる頻度は多く無かった。この

「二十種花形株價指數」と東京株式取引所によ る「株価大指数」は,売買高加重平均に基づ き,「騰る時も下る時も,暴騰又は暴落する株 式の賣買高が殖えて其ウエートが重くなり,平 均指數の騰落を激しからしむる傾向を持つ13) ため,投機熱の消長を最もよく表現している。

一方,東洋経済新報社[1929b]では発行現在 高による時価総額加重平均に基づく指数を「投 資株價指數」と称し,「東京株式月末現物気配 相場指数」に近いと捉え評価している。

 第二に,日本銀行による「株式価格指数」

は,1914(大正 3 )年 7 月から1942(昭和17)

年 6 月までの約28年間にわたり,実物取引(現 物相場)を対象に算出されたものである。指数 の基準年は,旧指数(「主要有價證券價格指數」)

が1914(大正 3 年) 7 月を100として1928(昭 和 3 )年12月まで算出されているのに対して,

新指数(「主要株式竝國債市債社債總價格及價 格指數」)が1924(大正13)年 1 月を100として 1942(昭和17)年 6 月まで算出されている。

データ出所は,1941(昭和16)年12月までは日 本銀行『本邦経済統計』により確認することが でき14),それ以降は,1942(昭和17)年 6 月ま では,大蔵省『金融事項参考書』で確認でき る。

 第三に,東京株式取引所による「株価大指数

(価格指数・数量指数・流通代金指数)」は,

1921(大正10)年 1 月から1938(昭和13)年 9 月までの17年超の期間にわたり,長期清算取引 と実物取引の売買高を基準に加重平均(フィッ シャーの理想算式)により算出されている15) これを旧指数とすれば,1938(昭和13)年 5 月 に大幅な銘柄入れ替えが実施されて新指数が算 出され,1933(昭和 8 )年 6 月の指数値まで遡 及計算され,1945(昭和20)年 8 月まで算出さ れたため,新旧指数を合わせると24年超とな 図表 1  戦前期を対象とした主要株価指数(平均株価)とその特徴

算出主体 東洋経済新報 日本銀行 東京株式取引所 日本勧業銀行 藤野・秋山[1977]

指数名

(平均株価名)

東京株式月末 現物気配相場

指数

株式価格指数

(旧指数)

株式価格指数

(新指数)

株価大指数

(価格指数)

主要株式相場

(平均株価)

全産業新旧 総合株価指数

直取引-実物 取引株価指数

対象市場 実物 実物 実物 長期・短期・実物 実物 長期 実物

対象期間 1916/01-44/05 1914/07-28/12 1924/01-42/06 1921/01-45/08 1910/12-45/01 1878-1940年 1893-1940年 基準年

(=100) 1913年平均値 1914年 7 月 1924年 1 月 1921年 1 月 1934~36年 1934~36年

頻度 月次 月次 月次 月次 月次 年次 年次

算出法 業種別平均の

平均 単純算術平均 単純算術平均 売買高加重平均 単純算術平均 売買高・受渡高

加重平均 単純算術平均

配当込み × × × × × × ×

(注) 1) 対象期間は,本稿の検証に用いた(一般に取得可能な)データ期間であるため,実際に算出された期間よりも短い可 能性がある。

(注) 2) 東京株式取引所算出の株価大指数は,1938年 5 月に行われた大幅な銘柄入れ替えにより遡及計算された新指数。

(注) 3) 売買高加重平均は,東京株式取引所算出ではフィッシャー式(連鎖式),藤野・秋山[1977]ではラスパオレス・パー シェ・フィッシャー式。

(注) 4) 藤野・秋山[1977]の直取引-実物取引による指数には,ラスパイレス式の1928~1940年指数(408銘柄)と単純算 術平均の1893~1940年株価指数( 9 銘柄)がある。

(8)

る。旧指数の銘柄は当初181銘柄が採用されて いたが,新指数を算出する際には,解散や新規 変更などにより206銘柄まで増やされ,その後 は適時銘柄入れ替えが実施されている16)。その 他に同取引所が算出した指数として「花形株価 指数」があるが,こちらは1921(大正10)年 1 月以降から1943(昭和18)年 3 月まで,主要10 銘柄について恒常比率(売買高基準)に基づく 加重平均により算出されたものである17)。他の 指数が単純算術平均により求められているのに 対して,東京株式取引所の指数が売買高加重平 均(連鎖式)により求められているため,売買 高の大きい銘柄の影響を強く受ける。そのた め,株価が大幅に変動する銘柄の売買高が増加 する傾向があるため,「二十種花形株價指數」

と同じく,その推移にも変動率が大きいといっ た特徴が確認できる。旧指数のデータ出所は,

1937(昭和12)年12月までは,『東京株式取引 所史』第三巻,1938(昭和13)年 9 月までは

『日本証券史資料 戦前編』第七巻で確認でき る。新指数のデータ出所は,1933(昭和 8 )年 6 月から1938(昭和13)年 9 月までは『日本証 券史資料 戦前編』第七巻,同10月から1943

(昭和18)年12月までは東洋経済新報社編『経 済年鑑』,1944(昭和19)年 1 月から12月まで は日本証券取引所『統計月報』,1945(昭和20)

年 1 月から 8 月までは,野村證券株式会社調査 部『証券統計要覧』にて,東京証券取引所が推 計した数値を確認することができる18)  第四に,日本勧業銀行調による「主要株式相 場」は,1910(明治43)年12月から1945(昭和 20)年 1 月までの約34年間にわたり,単純算術 平均(実数)により算出された19)。「主要株式 相場」は,各株価の平均値であり,各株価の変 化率を基に計算していない点で,他の株価指数

とは異なる。データ出所は,1927(昭和 2 )年 12月までは朝日新聞社編『明治・大正期日本経 済統計総観・下巻』,1943(昭和18)年12月ま では,東洋経済新報社編『経済年鑑』により確 認することができる。その後のデータについて は,1944(昭和19)年 1 月から 3 月までは『主 要株式利廻調』,同年 4 月から1945(昭和20)

年 1 月までは『債券及株式利廻調』という具合 に原典を参照する必要がある。尚,1938(昭和 13)年 5 月以前は「月初調」, 6 月以降は「月 中調」となっているため,他のデータと比較す る際には1938年 5 月までは期間差が生じるため 調整が必要である20)

3.戦後における戦前株式指標研究と配 当込指数

 以上の株価指数もしくは平均株価は月次で算 出されているが,藤野・秋山[1977]による

「全産業新旧総合指数」は,戦後に売買高・受 渡 高 加 重 平 均( ラ ス パ イ レ ス・ パ ー シ ェ・

フィッシャー式)により算出された年次指数で ある。年次であるものの算出期間が62年間にわ たり,他の指数と比べて長期である点が特徴で ある。この指数が長期清算取引市場を対象とし ているのに対して,「直取引-実物取引株価指 数」は,実物取引を対象としているものの,銘 柄数は 9 銘柄と限られ,ラスパイレス指数では 変動が大きくなることから単純算術平均による 指数も算出されている。

 尚,これらの指数等は,戦後に算出されてい るものの配当込みではないことから,株式リ ターンに大きな影響を与えるインカムゲインが 勘案されていない点には注意が必要である。現 代の年金運用等が運用評価に用いているベンチ マークとしての株価指数は,配当を含まないも

(9)

のから配当込み株価指数に変化してきている が,これは現代の市場参加者が,正確な運用評 価をすることを前提に行動するようになってき ているからと言えよう。現代では,そのニーズ から配当込みの株価指数が重要視され市場参加 者の投資行動を左右するようになっているもの の,戦前の市場参加者にとっては,このニーズ が低かったために配当修正を前提にしていな かったものと推察される。

 しかし,敢えて配当込みの株価指数を戦前期 にも算出する意味は大きいと考えている。ま ず,短期金融市場や国債などの債券市場への投 資から得られる投資成果と比較する場合には,

クーポンや配当といったインカムゲインを勘案 すべきであり,投機性の高い市場参加者ではな く,有価証券を保有している金融機関や投資家 の資産配分効果の検証の際には必要とされるた めである。

 その上,戦前期の株式市場では,主として投 機目的の市場参加者が多かったため,インカム ゲインに着目しての売買動機は低く,配当を勘 案する必要はないとの見解も有力であろう。し かし,株式保有構成比率は,40年代こそ政府に よる保有比率が上昇するものの,過半数は個人 投資家が保有し続けており,投機性の強い個人 投資家であっても,配当による恩恵を持続的受 けていたことは無視できないだろう21)。また,

たとえ戦時期における株式は,他の有価証券と 合理的に比較されて投資方針が決定されていな かったとしても,現代ポートフォリオ理論に即 した分析を通して,戦前期の投資家行動との相 違点を明らかにするためには,パフォーマンス インデックスを戦時期においても算出する意義 があると言えよう。現代と同じ尺度を用いるこ とで,戦時期の市場構造の相違点や市場参加者

の行動特性を浮かび上がらせることができるか らである。

Ⅲ.昭和初期株式パフォーマンス インデックスの評価

1.EQPIのリターンおよびリスクの評

 各銘柄の価格変化率を時価総額加重平均して 求めた価格指数 PI,および PI に権利落修正や 追加払込修正を反映した API,それに配当修 正を加味した TRI を図表 2 に記載した。PI お よ び API は1924年 6 月 を100.00と し て,1926 年 2 月に最高値を記録し,1930年10月に最安値 を経て,徐々に水準を切り上げることになる が,44年11月迄の期間で,1926年の最高値を上 回ることは無かった。指数最終月の1944年11月 には110.134,127.227であり年率換算リターン

(幾何平均)は通期で0.47%,1.19%であっ た。 

 一方,TRI は,1926年 2 月に高値を記録し,

1930年10月に最安値を経て,35年11月には26年 2 月の水準を上回ることになる。指数最終月の 1944年11月には392.034になり,通期のリター ン(同)は6.92%となった。配当再投資の効果 が発揮され,TRI は PI や API とは大きく差を つけて上昇していることが確認できる。戦前・

戦時期(1924年 7 月から44年11月)の株式のリ ターンは,株価水準が大幅に上昇しなかったこ とから,僅かなプラス・リターンでしかなかっ たものの,配当効果を勘案すれば 7 %近いリ ターンであったわけである。これは,PI もし くは API が,1921年 1 月から44年 5 月までを 対象とした JorionandGoetzmann[1999]の

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幾何平均投資収益率1.23%とほぼ同水準である ことから整合的であると共に,TRI を算出す ることの意義を再確認させる数値であると言え よう。海外の先行研究のひとつである Jorion andGoetzmann[1999]は,配当効果を勘案 していないため,株価の変化を示す指標とは なっても,株式投資成果を示す指標としては十 分なものでは無かったと言えよう22)。尚,TRI は,インカムゲインを勘案していない藤野・秋 山[1977] の 年 間 変 化 率 も, 大 き く 上 回 っ 23)

 ところで,1924年 6 月から東京株式取引所が 改組されるまでの期間(1943年 4 月)で,新東 株のリターン水準は,0.73%と非常に低かった ものの(平山[2017a]参照),このデータだけ から,特に昭和初期(戦時まで)の株式投資成 果の低さを認識すべきではなないことが,

EQPI の年率換算リターン6.92%から明らかに なる。当該期間における東京株式取引所の業績

は,1920年前後までと比較して著しく低下して おり,他の業種と比較しても劣後したことが想 定され,パフォーマンスも相対的に低位になっ ているものと推察される。つまり,戦時期の株 式パフォーマンスを,東株および新東株を基に 評価すると過小評価してしまうのである。

 次に TRI の年間リスク(月次標準偏差)の 推移を確認すると,1927年の昭和金融恐慌時の リスク水準よりも,金解禁が実施されると共に 世界的な大恐慌の影響を受けた1930年のリスク 水準が高いことが確認できる。特に1930年の年 間リターンは PI ベースでは-35.56%,TRI ベースでも-31.11%であったことから,株式 市場は混乱を極めていたことが推測される。興 味深いことに,平山[2018]で算出した昭和初 期国債パフォーマンス・インデックス(GBPI)

の年間リスクは,1931年が最高値を記録してい る一方,株式市場のリスクは,1932年に1930年 の水準を上回り最高値更新(33.45%)を果た 図表 2  昭和初期株式パフォーマンスインデックス

(11)

すという時間差が生じている点である。これ は,第一に,井上財政による1931年の金融引き 締めが国債市場に大きな衝撃を与えたものの,

1932年には,金輸出再禁止と国債引受開始によ る長期債利回りが急低下する過程で落ち着きを 取り戻していったこと。第二に,金輸出再禁止 が株式市場のリターンを極大化させる(年率 56.76%)と共に,それまでにない激震をもた らしたことなどが推測される24)。1930年代末以 降については,政府機関等によるによる株価統 制が強まったことも影響して,株式市場のリス ク水準が12%程度に低下することが確認され た。特に1943年は,極端にリスク水準が低下

(5.18%)したが,41年の株式価格統制令によ る株価維持オペレーション,42年の会社所有株 式評価臨時措置令25)の影響が推察される。

 図表 3 は,EQPI と GBPI の年間リターンと 年次リスク(月次変動率12カ月分の標準偏差)

を時系列で表記したものである。国債のリター

ンは,1931年に悪化するものの32年に16.75%

でピークを迎え,その後は安定的に推移してい る一方,株式のリターンは1932年と39年に大暴 騰する一方で,1927年,29年,30年,38年,40 年にはマイナスリターンを経験するという具合 に,大きく変動しているのが確認できる。

 次に,前章で確認した戦前期の主な株価指数

(平均株価)と該当期間のコール収益率と比較 すると図表 4 のようになる。いずれの株価指数 等もコールの収益率を下回っており,1910年代 から40年代にかけての戦前期の株価指数等の変 化率は,短期金融市場に劣位していたことにな る。これは,価格指数である EQPI の PI 及び API にも同様のことが言え,概ね他の株価指 数も含め,年率換算-0.90%から3.01%の低水 準であったことが確認される。一方,投資成果 を示す EQPI の TRI の場合には,当該期間の コール収益率を 3 %程度上回り,リターンが上 回っている。従来の研究では,敢えて投資成果 図表 3  昭和初期株式(EQPI)・国債(GBPI)市場の年次リターンとリスク推移

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の計測のために配当込の株価指数が算出される ケースが少なかったものの,改めて戦前期にお いても投資対象としての株式はハイリスク・ハ イリターンであったことが確認されよう。リス ク水準については日本銀行算出の株式価格指数

(新指数)は11.61%と低いものの,他の指数 は,15.09%から18.41%であり,概ねレンジが 収束しており,今回算出した EQPI もこのレン

ジ内に収まっている。

 各指数の算出開始時は異なるが,一覧するた めにグラフ化したものが図表 5 であるが,平均 株価である日本勧業銀行の主要株式相場は,株 価そのものの平均値であり低位で推移している ものの総じて同方向での推移となっている。

 また,東京株式取引所の価格指数は,売買高 加重平均であることから,上昇期には,上昇銘 図表 4  戦前期を対象とした主要株価指数(平均株価)とその収益率等

算出主体 東洋経済新報 日本銀行 東京株式取引所 日本勧業銀行 EQPI

指数名

(平均株価名)

東京株式月末現物 気配相場指数

株式価格指数

(旧指数)

株式価格指数

(新指数)

株価大指数

(価格指数)

主要株式相場

(平均株価) PI TRI 対象期間 1916/01-44/05 1914/07-28/12 1924/01-42/06 1921/01-45/08 1910/12-45/01 1924/06-44/11 変化率(年率) -0.46% 0.77% 1.35% 3.01% -0.90% 0.47% 6.92%

標準偏差(年) 16.77% 18.41% 11.61% 17.32% 15.09% 16.41% 16.39%

コール収益率 4.27% 5.35% 3.78% 4.08% 4.28% 3.64% 3.64%

(注) 1) 変化率及び標準偏差は,対象期間に関する年換算値。日本勧業銀行算出の平均株価は,1938年 5 月以前は月初値のた め,対象期間は1910年11月から45年 1 月までと読み替えた。

(注) 2) コール収益率は,対象期間の東京コールで資金運用した場合の収益率(年率)であり,各指数により対象期間が異な る。データは,藤野・秋山[1977]の東京コールマネー(翌日物)等にて1910年12月から1940年12月まで,日本銀行統 計局『戦時中金融統計要覧』東京コール日歩・無条件・普通にて1941年 1 月から1945年 3 月まで( 4 月~ 8 月までの データは 3 月データを延長)を採用した。

図表 5   戦前主要株価指数(平均株価)の推移

(13)

柄の売買高が増加する傾向があるため30年代後 半から上方乖離しているのが確認できる。今回 算出した図表 2 の EQPI と比較するならば,PI 及び API は図表 5 の株価指数等と同様の動き をしている一方で,TRI が明らかに戦前を代 表するとした株価指数等とは乖離しているのが 確認されるだろう。

2.シャープレシオと株式超過収益率

 EQPI と GBPI からみるリスク水準は,株式 市場が総じて高く,戦時期には国債のリスクは 消失したに等しいまでに極小化している(図表 3 )。国債市場リスク水準が極端に低かったこ とから,リスク調整後のリターンという尺度 は,圧倒的に国債が優位にたっているわけであ る。このリスク調整後のリターンは,ある資産 への投資で得られる投資効率を,負担するリス ク対比で,どの程度のリターンが得られるか

(リターン÷リスク)という視点から計測する 指標である。一般的には,資本資産評価モデル

(CAPM)の創始者であるウイリアム ・ シャー プ(WilliamSharp)が考案した資産運用効率 の尺度として,シャープレシオが活用され,具 体的には「(平均リターン-安全資産利子率)

÷標準偏差」で計算される尺度である。銀行間 信用リスクが伴うものの,コール市場のリター ンをもって安全資産利子率とすれば,1924年 7 月から44年11月までの期間では株式のシャープ レシオが(6.92-3.64)/16.39=0.20であるの に対して,国債が(5.71-3.64)/2.04=1.01 であり,分母のリスク水準の低さから,圧倒的 に後者が高かった。同じリスクを取るならば,

株式よりも国債に投資した方が,リターンを獲 得できたことを意味している。特に,40年 1 月 から44年11月までの期間では株式のシャープレ

シオが(5.21-3.07)/11.78=0.18であるのに 対して,国債が(3.81-3.07)/0.21=3.52で あり,株式のシャープレシオ水準は,通期と40 年代が同水準であったにもかかわらず,国債の リスク水準が極端に低下したため,格段に国債 投資のリスク調整後リターンが高まったわけで ある。

 現代ポートフォリオ理論では,投資前のリス ク資産と安全資産利子率(無リスク資産の予想 収益率)の差をリスクプレミアムと呼び,この リスクプレミアムを投資の意思決定をする際の 期待リターン推定に活用している。リスクプレ ミアム推定の際には,過去のリスク資産と無リ スク資産の収益率の格差即ち超過収益率(リ ターン)を基礎データとして活用することが多 く,過去の平均値がアンカーとしての役割を果 たすわけである。この過去の超過リターンの対 象とする期間は,経済変化の影響を極力捨象す ることを意図して,より長期にすることが推奨 されることが多い。たとえば,米国の年金基金 では,株式のリスクプレミアムを推定する際 に,1870年以降の米国株式の超過リターンを参 照にしているケースなどがあり,過去における 超過リターンの期間が 1 世紀を超える期間に拡 張されていることで,市場の循環的変化の影響 を排除する工夫がなされているわけである。同 様に,わが国にあっても,長期にわたる株式の 超過リターンの数値を推定する試みがあってよ いはずだが,前記したように第二次世界大戦に よる経済データの断層や金融市場の構造変化が 非連続的であったことから,研究の対象となる ことは無かった。

 そのため,今後は,この期間を延長して戦前 期のデータも包含する長期にわたる超過リター ン算出というアプローチがあってもよいだろ

(14)

う。本稿では,戦前・戦時期における国債と株 式市場の基礎データを整備することを対象とし ているが,この期間の超過リターンは次のよう に整理できる。

 1924年 7 月から44年11月までの株式の超過リ ターンは,3.28%(=6.92%-3.64%)となる が,概ね 5 年毎に期間を区切り,株式だけでは なく国債との関係を明らかにするならば,図表 6 のようになる。20年代後半(24年 7 月以降)

の株式リターンは,国債のリターンよりも低 く,さらにコール市場(短期金融市場)による リターンよりも低かったが,30年代後半は,株 式のリターンは短期金融市場のリターンを上回 ることになった。また,わが国の株価は,1920 年前後にピークアウトし,さらに30年代前半は 米国株式市場の大暴落と経済危機の影響を受 け,30年代前半までの投資成果の絶対水準は,

国債>株式という関係になった。一方,30年代

後半以降は,株式>国債>短金融資産という関 係になるのは興味深い(図表 7 )。

 リターンの絶対水準は,金融統制が強化され ていく過程で,株式市場が国債を上回ってお り,国債利回りの絶対水準が低下したことも手 伝い,市場参加者が得た投資成果は,戦時期に は株式の方が優れていたのである。政府による 金融統制が強化されたのであるから,株式市場 のパフォーマンスが悪化したと考えがちである が,インカムゲインである配当も含む株式の投 資成果は,同じくクーポン収入を含む国債の投 資成果よりも高かったという点は重要であろ う。一般的には,東株や新東株の株価水準が低 下したことや,その他の株価指数も優れなかっ たことから,パフォーマンス面からも株式市場 に対する評価は低かったからである。30年代前 半までの株式は,国債よりも劣位になり,30年 代後半以降は逆転して株式が優位に立つこと 図表 6  昭和初期・金融市場リターン(年率)

(15)

図表7 昭和初期株式パフォーマンスインデックスと超過収益率(超過リターン) 年末値等株式指数(EQPI)国債指数(GBPI) TRI 短期金融市場 東京コール

超過収益率 対短期金融市場PI(価格指数)API(修正価格指数)TRI(配当込修正価格指数) 指数リターン指数リターン指数リターンリスク指数リターンリスク指数リターンリスク株式国債 24/06100.000100.000100.000100.000100.000 24/12126.72026.72%126.72026.72%128.88428.88%17.82%103.8773.88%0.70%103.2093.21%0.18%25.68%0.67% 25/12155.17722.46%155.17722.46%164.20727.41%13.13%111.9827.80%0.64%109.6566.25%0.14%21.16%1.56% 26/12157.0971.24%154.278-0.58%170.7834.00%13.12%118.9356.21%0.71%116.7586.48%0.06%-2.47%-0.27% 27/12131.577-16.24%130.275-15.56%152.406-10.76%14.48%130.7699.95%1.61%122.2334.69%0.23%-15.45%5.26% 28/12130.644-0.71%129.351-0.71%161.0295.66%9.03%139.2946.52%3.13%126.5283.51%0.09%2.14%3.01% 29/1296.277-26.31%97.705-24.47%129.793-19.40%12.29%146.0434.85%1.85%131.1153.63%0.04%-23.02%1.22% 30/1262.043-35.56%62.647-35.88%89.418-31.11%31.23%153.1774.88%2.00%136.1853.87%0.05%-34.97%1.02% 31/1259.046-4.83%59.621-4.83%90.9391.70%22.56%154.6330.95%5.28%141.4033.83%0.32%-2.13%-2.88% 32/1292.46656.60%88.88349.08%142.55256.76%33.45%180.54116.75%3.67%148.0094.67%0.36%52.09%12.08% 33/12104.44512.95%96.8478.96%161.00312.94%17.54%197.1229.18%2.56%152.1312.78%0.07%10.16%6.40% 34/12106.1961.68%96.221-0.65%166.5683.46%9.97%206.0714.54%1.43%156.1472.64%0.03%0.82%1.90% 35/12113.6617.03%102.9136.96%188.29813.05%11.24%218.2115.89%0.40%160.3762.71%0.03%10.34%3.18% 36/12116.0772.13%104.7801.81%203.2267.93%8.01%224.7703.01%1.85%164.9932.88%0.06%5.05%0.13% 37/12129.65011.69%116.14010.84%238.37417.30%18.05%236.2115.09%0.90%169.6532.82%0.04%14.47%2.27% 38/12108.365-16.42%102.443-11.79%223.920-6.06%8.77%248.0875.03%0.44%174.1322.64%0.01%-8.70%2.39% 39/12137.29626.70%131.31028.18%305.33936.36%8.02%258.6134.24%0.15%178.8772.73%0.05%33.64%1.52% 40/12106.831-22.19%109.018-16.98%268.838-11.95%13.56%267.8723.58%0.43%184.4923.14%0.04%-15.09%0.44% 41/12109.8482.82%113.5114.12%298.31110.96%14.80%278.6694.03%0.18%189.6862.81%0.05%8.15%1.22% 42/12113.0932.95%122.2927.74%339.33913.75%11.16%289.9784.06%0.08%195.2482.93%0.05%10.82%1.13% 43/12108.023-4.48%116.605-4.65%341.3650.60%5.18%300.6813.69%0.02%201.4913.20%0.03%-2.60%0.49% 44/11110.1341.95%127.2279.11%392.03414.84%11.98%310.7773.36%0.03%207.5483.01%0.02%11.84%0.35% 期間区分リターンリターンリターンリスクリターンリスクリターンリスク株式国債 24/07-29/12-0.69%-0.42%4.86%13.98%7.13%1.75%5.05%0.38%-0.19%2.08% 30/01-34/121.98%-0.31%5.12%24.91%7.13%3.49%3.56%0.30%1.56%3.57% 35/01-39/125.27%6.42%12.89%11.63%4.65%0.96%2.76%0.05%10.13%1.89% 40/01-44/11-4.38%-0.64%5.21%11.78%3.81%0.21%3.07%0.06%2.14%0.74% 24/07-44/110.47%1.19%6.92%16.39%5.71%2.04%3.64%0.35%3.28%2.07% (注) 1) 短期金利は,1937年6月迄は 藤野・秋山[1977]の東京コールマネー(無条件物),7月以降は日本銀行統計局[1947]の東京コール・無条件(年率換算) ) ) リターンは年収益率(幾何平均),リスクは月次標準偏差の年換算値,超過収益率は短期金融市場リターンに対する超過リターン。国債指数は,比較のため1924/06=100基準 で算出。

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