360 度 VR 映像によるユーザ体験の人間工学的評価
Ergonomic evaluation of user experience by viewing 360-degree VR images
1W120345-9 塚田 将太 指導教員 河合 隆史 教授TSUKADA Shota Prof. KAWAI Takashi
概要: 本研究では、近年注目されている没入型HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を、ユーザの観察行動と 生体影響の観点から実証実験を行い、新たなメディアとして登場した没入型HMDの特性について明らかにした。
実験ではHMDとPCを使用する2つの観察条件を用いて、刺激観察中の観察行動の違いを調べた。その結果、
HMD使用時の総回転量は、刺激画像の特徴を明らかにすることが分かった。また、最初の10秒から次の10秒 にかけて体の動きが急激に増すことが分かった。これは360度のVR(バーチャルリアリティ)空間で現在位置の 状況把握といった認知的な行動に時間を費やしているため、刺激呈示から最初の10秒間において体の動きが少な くなったことを示唆する。また、生体影響とコンテンツへの興味との繋がりに関しての調査も行った。
キーワード:バーチャルリアリティ、ヘッドマウントディスプレイ、360 度、Google Cardboard Keywords: VR, HMD, 360-degree, Google Cardboard
1.はじめに
没入型 HMD は、ユーザの頭部に装置を装着し、
視野内に情報を映し出すディスプレイ装置を意 味する。Google Cardboard のような簡易型 HMD の急速な普及により誰もが手軽に 360 度で VR を 体験できるようになった。動作原理は、HMD 画面 に写るコンテンツと頭部の動きが連動すること で VR を体験が可能となる。簡易型 HMD での 360 度 VR 映像観察の形態は身体を動かして行う。体 を回転させながら観察するため、観察時の行動が 非常にダイナミックなものになった。本研究では、
ユーザの観察行動という観点から。没入型 HMD での 360 度 VR 映像観察という新たなメディアの 特性を明らかにすることを目的とした。
2.実験方法
実験刺激には 360 度の静止画を 4 つ用いた。刺 激画像中の人物の数や場面が偏らないように抽 出 し た 。 実 験 刺 激 の 観 察 条 件 と し て 、 Google Cardboard のような簡易型の HMD を用いた場合の HMD 条件、十字キーにて 360 度 VR 映像を観察す る PC 条件の 2 つを設けた。HMD 条件では Google Cardboard と Nexus5 を呈示デバイスとして用い た。HMD 条件において動画解析を行うため、椅子
と肩にマーカーポイントを付着させた。ディスプ レイサイズの統一を行う為、PC 条件では 23 イン チディスプレイ(LG CINEMA 3D MONITOR)を用い、
視距離を 360mm とした。(図 1)
実験参加者は 20 代の男性 10 名、女性 2 名の計 12 名で、実験前にインフォムドコンセントを行 った。刺激映像は、10 秒間キャリブレーション を行ってから、60 秒間呈示した。キャリブレー ション用の画像として黒背景に白の十字を呈示 し、刺激画像が呈示されるまでの 10 秒間はその 白十字を注視してもらうよう指示した。参加者に は、キャリブレーション後の刺激呈示中 60 秒間 自由に観察するように指示した。これを 1 試行と し、計 8 回(4 刺激画像×2 観察条件)行った。1 試行終了するごとに十分な休憩を行った。
図1 実験の様子
2 3.実験結果
解析用のデータとして刺激呈示中の 60 秒間に 実験参加者がどれだけ体を回転させたかを算出 した。HMD 観察時は椅子・肩・首の 3 つの回転部 位に注目し、マーカーポイントを追跡することで 回転角を算出した。また視点の移動としては刺激 観察中の HMD 画面をキャプチャし、その中心点を 実験参加者の視点の位置として算出した。
60 秒間で刺激画像ごとに回転部位を何度回 転させたかを明らかにするため、全実験参加者の 総回転量データを加算したものを算出した(図 2)。 首の回転は Yaw 角と Pitch 角に分けた。刺 激 C で椅子・肩の回転量は最下位なのに対し、首 の回転量では上位にくることが分かった。
さらに、この 60 秒間を刺激呈示から 10 秒ごと、
計 6 区画に分けた場合を示す。刺激呈示開始 0〜
10 秒から次の 11〜20 秒にかけてどの回転部位に 対しても総回転量が急激に上昇した。図 3 に刺激 A について 10 秒区画で分けた場合のグラフを示 す。なお、全刺激において同じ特徴が表れた。
4.考察
没入型 HMD を用いた際の総回転量は刺激画像 の特徴を表していることが明らかになった。刺激 C において椅子・肩の回転が他の刺激に比べて少 ないのに対し、首振りの回転は上位にきている。
これは刺激 C の画像中の注視点の多さにより首 を振る頻度が高まったことが示唆される。また、
インタビューにて面白かった刺激画像のランク 付けを行ってもらった結果、その順位が首_Pitch の総回転量の順位と一致する結果になった。刺激 呈示時間を 10 秒ごとの 6 区画に分けた場合の最 初の 10 秒で回転量が少ない理由としては、VR 空 間での現在位置の状況把握といった認知的な行 動に時間を費やしていることが分かった。11 秒 から総回転量はピークに向かい増加していく動 きがあることも分かった。
5.まとめ
本研究より、没入型 HMD を用いた際の 360 度 VR 映像観察という新たなメディアの特徴をユー ザ体験の観点から明らかにすることができた。没 入型 HMD は PC と違って身体を動かしての観察に なる。身体な動きが体の総回転量として現れ、コ ンテンツごとの特徴を示す重要な要因となり、首 の総回転量の多さがコンテンツへの興味につな がることが示唆された。今後はコンテンツの時間 的変化やインタラクティブな表現の加わったも のといったコンテンツの表現手法とユーザ体験 についての調査を深めていくことが望まれる。
参考文献
[1] T.Kawai et al.:Ergonomic evaluation of ubiquitous computing with monocular head-mounted deisplay, Proc. SPIE 7542, 754202-1-9, 2010
[2] 山本哲也, 他:HMD を用いた各種映像 刺激による映像酔いの影響評価, シンポジ ウ ム モ バ イ ル 研 究 集
2010, pp.129-132, 2010
図2 HMD観察での総回転量
図3 HMD観察での総回転量(10秒区画)