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日本感性工学会論文誌

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1. 人事コンサルティングと「現場の理解」

1.1 人事コンサルティングにおける課題

1990年代前半以後多くの日本の企業組織においては,「成 果主義的」な人事制度の導入が進められ,今日に至っている.

その様態は各様であるが,平野[1]によれば,「人事は流 行に従う」傾向にあるという.すなわち,組織内で制度設計 に携わる担当者は,自組織の制度設計を行うに際し,他組織 のベストプラクティスを学習・模倣する傾向にあるためであ る.さらに,平野は,このベストプラクティスへの「制度的 同調行動」においては,他組織における特定の人事管理がパ フォーマンスに対して機能的であることの因果関係のロジッ クに関心を払われることが少なく,財務的パフォーマンスと 当該組織の固有の人事管理の仕方が同時に生起していれば,

それを参照する理由として十分であると考える傾向があるこ とを指摘する.そして,真に自組織において制度が定着・進 化していくためには,自組織内部の諸変数の因果関係のロ ジック発見が重要であり,ベストプラクティスのカスタマイ ズ(「独自性指向行動」)が不可欠であるとしている.

通常,人事コンサルティングとは,上記で指摘したベスト プラクティス(コンサルティング対象のクライアント組織に とっては,一つの仮説である)の提示と当該組織固有のカス タマイズを支援することであると捉えられる[注1].しか しながら,多くの人事制度改革のコンサルティングに従事し てきた吉田[2]によれば,実際には,制度設計段階でコン

サルタントがプロダクトアウト的に主導して制度構築作業を すすめ,制度構築後にクライアントに引き継ぐというスタイ ルが多かったと指摘する.

つまり,クライアント組織の固有の課題を踏まえて新たな 制度設計を行なうためには,コンサルタントが考える「ベス トプラクティス仮説」をカスタマイズするための,組織内部 者との協働による制度構築が必要となるわけであるが,その ためには設計期間の長期化が避けられず,効率性の観点から それを軽視してきたところがあったこと,その結果として,

現場での定着・運用に混乱をもたらすこともあったという.

したがって人事コンサルティングのあり方としては,新制度 導入後のクライアント組織の現場で制度が定着・運用される ことを前提として,現場の実情に応じたカスタマイズを行う ために,時間と労力がかかるとしても内部者を参加させた協 働のプロセスを経ることが重要であると指摘する.

上記の吉田の指摘は妥当なところではあるが,クライアン ト組織内部者との協働において,(暗黙のうちに)内部者の 理性的認識を前提としたところから議論が行われていること に注意する必要がある.すなわち,カスタマイズを行う前提 として内部者による組織内部の明確な課題認識が必要とされ るが,内部者(組織内の当事者)において,既に明確な課題 認識がなされているものと捉えることへの疑問である[注 2].多くの場合,それは漠然とした「思い」であることに 過ぎず,それを「課題認識」にまで明確化させる支援が,ま ずコンサルタントには求められると言える.それは同時に,

コンサルタントが,クライアント組織内部者が示す漠然とし

人事コンサルティングにおける理性と感性

− 「現場エスノグラフィー」の可能性 −

伊藤 精男

人事コンサルタント

Reason and Kansei on Human Resource Management Consulting

− Possibility in Ethnography of Genba −

Morio ITOH

HRM consultant, 1-5-101 Nishikoen, Chuo-ku, Fukuoka-shi, Fukuoka 810-0061, Japan

Abstract : The purpose of this paper is to clarify the applied possibility and the meaning of the ethnography to “Understanding of the genba” in a human resource management consulting from the viewpoint of the kansei communication. As a result of consideration, the following conclusions were obtained. In“Understanding of the genba”biased to rational recognition in a past human resource management consulting, the possibility of causing the problem in the consensus building process with the client is high. The consultant puts his body on the genba spending fixed time to avoid it, and the experience of sharing the space of the client organization is indispensable. The obtained inclusive understanding through it, enables the emergent collaboration, and promotes the consensus building in the customizing process with the person in charge of the client organization.

Keywords : Human resource management consulting, Ethnography of genba, Kansei communication

原 著 論 文

(2)

た「思い」を,どの程度まで共有することができるかという ことでもある.

一般にコンサルティングにおいて,「現場を知る」ことは 重要視されるが,人事制度改革(例えば,等級制度,賃金制度,

評価制度等)に携わる人事コンサルティングでは「モノ」的 要素が少なく,コンサルティング方法としては,目に見えな い制度内容を諸資料を頼りに検討することと,不定期にクラ イアント先を短期訪問し,資料を介して相互検討を行うこと が中心となる.コンサルティング・プロセスの実務的な議論 においては,諸資料に基づく両者の討議コミュニケーション による情報共有が可能であることを暗黙の前提としており,

それ以上の掘り下げた議論はなされていない状況である.

言い換えれば,理性的認識を前提とした「現場の理解」が 目指されているわけであるが,暗黙知の概念を持ち出すまで もなく,言明できることには限界があり,また,当該組織に 住んでいない者(現場に身を置かない者)が理解できる範囲 は,ある一定レベルまでのものにとどまる.クライアント組 織における従来の制度が,どのような履歴を経て今日に至っ たのか,それが組織の日常において,どのように具体的に機 能しているか,そして,それに対する内部者の「思い」につ いて,背景を理解しながら実感を伴って把握することは,人 事コンサルティングにおける「現場の理解」の一端であるが,

それは,極めて重要ではあるが容易なことではない.そして,

実務的には,ここにコンサルタントとクライアント間の微妙 な認識のズレが生じ,カスタマイズを目指す制度設計におけ る合意形成プロセスで,問題が顕在化することが見られるの である.

1.2 エスノグラフィーへの着目

前節での論点を,直接考察した論考は見受けられないが,

経営組織論における組織エスノグラフィーの可能性について 考察した金井[4]は,「臨床的アプローチ」によってコンサ ルタントがクライアントの問題解決をサポートするうえで,

現場の全体的雰囲気を肌で感じることの重要性に触れ,エス ノグラファーとしてのコンサルタントにおける「感性的」直 感が,実践的な役割を担う可能性について言及した.その指 摘は示唆の域を超えるものではなく,掘り下げた議論にまで 至っていないが,組織問題の理解・解決における感性あるい は感性的認識,エスノグラフィーへの着目は,人事コンサル ティングの方法論に対し示唆を与えるものとなりうる[注3].

エスノグラフィーへの着目は,たとえば,消費者理解の方 法としての,マーケティングにおける参与観察による「共感 デザイン手法」への応用や[6,7],製品開発におけるデザ インワークショップへの応用[8],情報システムの開発・

導入におけるユーザーの活動把握についてのエスノグラ フィックな調査[9],熟練者の観察とインタビューによる「技 の伝承」研修への応用[10]など,多方面に見受けられる.

また,近年,業務プロセス改善などのコンサルティングにお いて,「ビジネス・フィールドワーク」あるいは「ビジネス・ エスノグラフィー」として手法化もなされ,その有用性が認

識されている.

多分野においてエスノグラフィーが着目される理由は,

Leonard[6]が指摘するように,サーベイ,インタビュー を中心とした調査では,顧客(対象者)自身が気づいていな い(非反省的に行っている)行動や「思い」を言明すること ができないという限界があり,参与観察によって日常行為を 観察する方が,言語化できない多くの潜在的情報を得られる という点にある.石井[11]は,このようなエスノグラフィー における「対象に棲み込む」ことを通じて得た共感的理解の 重要性を指摘し,状況理解における身体を通じた認識様態,

すなわち,非反省的な感性的認識による「現場理解」の意義 を論じているが,その人事コンサルティングへの応用可能性 を考察することは,有意義であると思われる.

本稿では,人事コンサルティングにおける「現場の理解」

へのエスノグラフィーの応用可能性とその意義を,事例を踏 まえながら,感性的認識,感性コミュニケーションの視点か ら明らかにすることを目的とする.

2. 人類学的知見のアナロジー:人事コンサルティング への応用

2.1 「翻訳的適応」の概念

開発人類学[注4]において蓄積されてきた開発援助者と 現地の人々(住民,受益者)との関係に関する知見は,人事 コンサルティングにおけるコンサルタントとクライアントの 関係に置き換えて考察することが可能であり,そのアナロ ジーは人事コンサルティングの方法論において,有益な示唆 を与えるものである.人事コンサルティングにおける「現場 の理解」へのエスノグラフィーの応用可能性についても,こ こから有益な示唆を得ることが可能である.まず本章では,

この点を明らかにしたい.

先に,人事制度改革において,真に自組織において制度が 定着・進化していくためには,ベストプラクティスのカスタ マイズが不可欠であると指摘したが,この点については,前 川[12]の「翻訳的適応」という概念が示唆的である.前 川は,マクロな近代世界システムがミクロの地域システムに どのように接合されていくかをフィールドワークし,外来の 文化的要素の受容は,従来からの基本的な文化形態を全面的 に変えてしまうという形で行われるのではなく,翻訳(読み 換え)することによって,従来の観念や価値を半ば存続させ ながら適応させていくことで行われることを見出した.そし て,このような受容の形態こそが,「定着」において重要で あることを示唆している[注5].

つまり,人事制度改革における「ベストプラクティス」と いう外来の制度は,そのままの形で全面的に受容するのでは なく,これまで機能してきた内部の類似の概念で「読み換え」

的な変換を行って理解し,取り入れていく(カスタマイズ)

ことが,制度定着を考えるうえで重要であることを示唆して いると言える.もちろん,「翻訳的適応」には唯一解がある わけではなく,偶有性を有するものであろう.そして,この

(3)

「翻訳的適応」という適応的変容を本来的に行いうるのは,

自組織内部の人たちであるわけであるが,漠然とした問題意 識を明確化させ変化を促進することが,「ベストプラクティ ス仮説」を提示し,カスタマイズを支援するコンサルタント の役割である.

小國[14]によれば,開発援助における援助者の役割は,「住 民の主体性を引き出し,計画,実施,合意形成プロセスを機 能させる手伝い」を行うことであり,当事者による判断・行 動を側面支援するものへと認識が変化してきているという.

そして,援助者の有する「問い,語りかける他者」という「よ そ者性」が,対象社会との相互作用性を高め,変化因子とな ることを指摘し,問いを通じて当事者の「気づき」を促すこ とが重要であるとする.そのためには,現場を実感すること による,五感を通して獲得された当該社会への「共感に基づ く包括的理解」が基盤にあることが求められるという.

人事コンサルティングにおいては,コンサルタントが,ク ライアント組織における変化を促進させることを目的とし て,変化プロセスに介入する「プロセス・コンサルテーショ ン」の有効性が指摘されているが,上記の議論はそのまま通 ずるものである.開発人類学の知見から得られた,クライア ントの「翻訳的適応」を支援するためには,コンサルタント の共感に基づく「クライアント組織に対する包括的理解」が 必要であるとの指摘は,重要であろう.

2.2 「ミドルマン」としてのコンサルタントと内部担当者 人事コンサルティングの実務を考えるうえで,前節で見た コンサルタントとクライアント組織との係わり方について は,更なる考察が必要とされる.

人事コンサルティングの実務で,前節で指摘した「翻訳的 適応」を支援するには,クライアント組織内部者との協働が 不可欠であり,通常,内部の制度設計担当者(単独あるいは 複数名)と外部コンサルタントとでプロジェクトを設けるこ ととなる.そして,この両者の位置づけと役割は,開発人類 学で示された「ミドルマン(middleman)」の概念での説明 が可能である.

開発人類学でいう「ミドルマン」とは,一般的には,より 大きな社会システムとローカルの小さな社会システムという 2者間を媒介する者であり,ローカルな価値観を持ちながら も戦略的に近代システムに適応していく境界的な位置にいる 現地住民を意味する.しかしながら,関根[15]によれば,

現地住民の視点に近いところからの解釈も交えながら関与す る,開発援助を実施する担当者をも境界的位置にいる「ミド ルマン」として捉えることが可能であるとする.つまり,内 部者の視点を持って「内と外」をつなぐか,外部者の視点を 持って「外と内」をつなぐかの方向性は異なっていても,境 界的位置における「つなぐ」という行為に着目すれば,同様 の役割を果たしているというわけである.そして,この異な る方向性を有する「ミドルマン」相互の係わりからもたらさ れる「創発的協働」[16]こそが,「翻訳的適応」の実現に むけて重要な役割を有するのである.

このような「創発的協働」が可能となるためには,内部「ミ ドルマン」における漠然とした問題意識の明確化と,外部「ミ ドルマン」によるその支援が必要となる.そのためには,と りわけ,前節で指摘した,外部「ミドルマン」としてのコン サルタントの,共感に基づく「クライアント組織に対する包 括的理解」が必要不可欠である.そして,「包括的」とは理 性的認識のみで実現することは困難であり,感性的認識をも 必要とするものである.つまり,言語化されうるもののみで はなく,言語化することはできない雰囲気ともいえるものを も捉えるという理解の仕方を必要とする.

関根[17]は,開発援助の文脈において,短期間の視察 という形で現場を訪れることのみでは現場を理解することは 不可能であり,現場の社会や文化に関する洞察,現場の人々 に近いところから事象を捉えられるようになるには,一定の 時間,現場の日常の中に身を置くことが不可欠であると指摘 する.「現場の包括的理解」のためには,このような現場に 身を置く経験が不可欠であり,そこでの身体性の変容に対す る着目が必要であるということである.

先に,人事コンサルティングの実務において,コンサルタ ントとクライアント間の微妙な認識のズレが生じ,制度設計 における合意形成プロセスで,問題が顕在化することがある ことを指摘した.その要因の一つとして,現場に身を置く経 験がないまま,資料分析や討議コミュニケーションによる理 性的認識のみに頼り,「現場をわかったつもり」になってい た従来の人事コンサルティングにおける「現場理解」のあり 方を挙げることも可能であろう.

境界的位置づけにある,異なる方向性を有する「ミドルマ ン」相互の「創発的協働」を通して「翻訳的適応」を実現す るうえで,コンサルタントが現場に身を置くことによって現 場の包括的理解を得ることの意義は,極めて大きなものであ ると言えよう.これは,「現場の理解」を目的とした,エス ノグラフィーにおける参与観察の実施に他ならないもので ある.

3. 「ミドルマン」の認識様態

3.1 認識様態のモデル

前章までの議論で,「ミドルマン」としてのコンサルタン トと内部担当者の「創発的協働」による「翻訳的適応」(カ スタマイズ)の実現の意義が指摘された.その前提として,

コンサルタントにおける現場の包括的理解が必要であるこ と,そしてそのためには,現場に身を置く経験が不可欠であ ることも指摘された.本章では,さらに「ミドルマン」の認 識様態について考察を深め,「現場の理解」と制度設計にお ける「翻訳的適応」へ向けた合意形成において,エスノグラ フィーが果たしうる可能性を論じる.

「ミドルマン」としてのコンサルタントと内部担当者の認 識様態の特徴を明確化することは,「創発的協働」の方法論 を考えるうえで必要とされる.その際,伊藤[18]が提示 したモデルは示唆に富む(図1).伊藤[18]は,4つの領域

(4)

ンに重要な役割を果たすことを指摘する.そして,資料に基 づく言葉や理性的思考による議論を,テーブルコミュニケー ション(討議コミュニケーション)として,一方,現場に出て,

そこでの空間の体験を共有して行うコミュニケーションを フィールドコミュニケーションとして対比する[20].

フィールドコミュニケーションにおいては,同じ空間を他 者とともに共有するが,その同じ体験を共有することによる 相互理解が可能であるとする.つまり,共通の体験による「思 い」の共有や日常において自明とされていることへの気づ き,さらに,相互の価値観への気づきなどが可能となりうる のである.このフィールドコミュニケーションは,空間的協 働行為としてのコミュニケーション行為であり,非言語的な

「感性コミュニケーション」であると言える[注6].

桑子[20]が指摘するように,その空間に住みつき生活 している内部者だけでは,その空間が持つ意味はわからず,

そこを訪れる外部者の視点から捉えられた情報とつきあわせ ていかなければ,その空間に関する理解が得られず,そこに 生活する内部者の意見の奥底にあるものまでを掘り起こすこ とはできない.一方,外部者は,このようなフィールドコミュ ニケーションによる空間共有(現場の共有)という「感性コ ミュニケーション」なしに,理性的認識に基づくテーブルコ ミュニケーションのみで,内部者の言語化困難な「思い」や その背景を理解することは不可能であると言える.

前節で指摘した内部担当者とコンサルタントの認識様態の 特徴と,本節での議論を踏まえるならば,両者による「創発 的協働」の具体的方法についての示唆が得られたものと思わ れる.次節において,これらを踏まえた人事コンサルティン グにおける「現場の理解」と,それに基づく「創発的協働」

のモデルを提示したい.

3.3 理性と感性の往還による「創発的協働」

3.1節および3.2節の議論から,図2に示すような現場理解 を前提とする「創発的協働」モデルを提示することが可能で あ る.な お,図2に お け る領 域 区 分は,図1に示さ れ た

ABCD4領域の各特徴を代表して示すものとして捉えている.

従来の人事コンサルティングにおいては,「ベストプラク ティス仮説」を有するコンサルタント(a1)が,クライアン ト組織における状況を主に理性的認識を基にして把握したう えで,カスタマイズの提案をしていたと考えられる(a2の 位置).その際の「現場の理解」とは,あくまでも理性的な 範疇を超えるものではなかったと思われる.一方,通常,組 織内のことがらが自明化している内部担当者(b1)にとっ て,自ら問題を明確化することを求められた状態で(図中の 感性コミュニケーションを経ずに)(b3)の位置に達し,コ ンサルタント(a2)との討議に臨むことには,困難が伴った ものと考えられる.

もちろん,ここには,両者間の「討議コミュニケーション」

があるが,内部担当者においては状況の自明化,言語化の限 界により,現場の状況や組織成員の「思い」を十分説明する ことに困難が見られたものと思われる.一方,現場に身を置 が,そのときどきの状況に応じてそれらの割合を変更しなが

ら認識の様態を形作ることを示し,特定の空間(現場)に住 みついている内部者の認識様態の特徴は,自明化領域が大き いものであり,非反省的な感性的認識に依拠しながら時々の 状況に応じた実践を生み出しているとする.したがって,内 部者は,実践していることがらを常に反省的に認識している わけではなく,そのため,その実践についての意味ある言明 には困難が伴うと指摘する.

一方,エスノグラフィーにおけるエスノグラファーの認識 様態の特徴は,自らの仮説に基づく「観察者の視点」で現場 を解釈することにあるが,その解釈の妥当性を高めるため に,現場における自らの身体感覚=実感による仮説検証を行 うものであるとする.つまり,エスノグラファーは,自らの 仮説(明確化領域)と身体がその空間に「なじんでいる」と いう身体感覚(自明化領域)による仮説検証という,理性的 認識と感性的認識との往還を繰り返す中で,その解釈の妥当 性を高めることができると指摘する.身体感覚という感性的 認識による状況理解の可能性を示したこと,さらに「なじむ」

という身体性の変容に着目し,一定の時間をかけて現場に身 を置くことの必要性を指摘した点に,注目する必要がある.

上記のモデルによれば,本稿の議論で示された内部担当者 の認識様態は,「内部者」の特徴を有するものとして,また,

コンサルタントにおける認識様態は,「エスノグラファー」

の特徴を有するものとして捉えることが可能である.両者の このような認識様態の特徴を踏まえることから,効果的な「創 発的協働」の方法を検討することが可能となる.

3.2 テーブルコミュニケーションとフィールドコミュニ ケーション

感性を「外界すなわち環境と身体的自己との相関関係を感 知する能力」であると捉える桑子[19]は,コミュニケーショ ンの中に織り込まれた感性に着目し,感性がコミュニケーショ

反省的

(理性的認識)

非反省的

(感性的認識)

落ち 動揺 つき

A 違和感領域 B 推測領域

D 自明化領域 C 明確化領域

図1 認識の様態モデル(伊藤[18]p.61を一部改変)

(5)

いた経験がないコンサルタントにおいては,内部担当者に よって言語化しにくい現場の状況や組織成員の「思い」など を「包括的に」理解することは困難であったことが推測され る.そして,このような「現場の理解」における微妙なズレ が,制度設計における合意形成プロセスに影響を及ぼしてい たと思われる.

一方,コンサルタントが一定の時間,内部担当者とともに 現場に身を置き空間を共有することで行われる「感性コミュ ニケーション」を経て(a4およびb2の位置を経験したうえ で),(a5)と(b3)の間で行われる「討議コミュニケーショ ン」は,従来のものとは質的に大きく異なるものであると言 える.内部担当者の言語化しにくい「思い」は,空間を共有 する同じ体験から相互理解がもたらされる可能性が広がる.

また,その際の,コンサルタントによる問いかけが,内部担 当者における問題の明確化を促進していく.

同時に,コンサルタントが有する「ベストプラクティス仮 説」についても,現場を共有する中で実感を伴った仮説検証 が行われ,当初の内容と異なるものとなってカスタマイズへ の提示が可能となるのである.このような理性と感性の往還 を基盤とする,「ミドルマン」相互における「創発的協働」が,

「翻訳的適応」を可能にするものと考える.

なお,このときの両者の認識様態の変容は,図1のモデル を用いて,図3のように示すことが可能である.

3.4 「現場エスノグラフィー」と合意形成の方法論

小田[5]は,現場とは歴史的文脈によって「すでに」決 定されている側面と,不確定で予測不可能な「これから」に 向けて開かれている側面があり,「これまで」と「これから」

の間で進行し続ける「現在進行形の社会的状況」であると指 摘する.そして,このような現場の特異性を踏まえたエスノ

○a1 

コンサルタント

(外部者)

■ b1

内部担当者

□b3 △a5 ○a2

●a3

(組織境界)

《自明化した空間》

《明確化された空間》

感性

コミュニケーション

● a4

■ b2

図2 「創発的協働」のモデル

b3 b1

a5 a1

a3

仮説 推測 仮説

実感

(仮説 検証)

a2

仮説´

自明化

明確化

a4

実感

(仮説 検証)

b2

自明化 明確化 仮説

仮説

自明化 図3 認識様態の変容

グラフィーを「現場エスノグラフィー」と称し,それは,エ スノグラファーが現場における事の進行に内在し,時々刻々 と変化し,生成し続ける状況の中に参入することを示すもの であること,つまり,「アクチュアルな現場」の一部となる ことであるとした.この指摘は,時間的な意味合いが強いも のではあるが,桑子[21]が指摘するように,同じ空間を 経験することは,同じ履歴を共有することを意味するもので あり,それは同一の空間と時間の共有であると考えることが 可能であろう.

「現場エスノグラフィー」における現場とは,対象とする フィールドの人々の問題を空間的・時間的に共有し,そこで

「協働する」ところである.これまで論じてきた「ミドルマン」

相互による「創発的協働」とは,このような「現場エスノグ ラフィー」の捉え方の中で見出すことが可能であり,人事コ ンサルティングにおけるエスノグラフィーの可能性は,ここ にあるものと思われる.

さて,本稿における問題意識は,従来の人事コンサルティ ングの「現場理解」の方法に由来する,コンサルタントとク

(6)

ライアント間に存在する微妙な認識のズレが,制度設計にお ける合意形成において問題化すること,その結果として納得 できるカスタマイズが困難となる可能性が存することにあっ た.コンサルタントと内部担当者とのコミュニケーションに 基づいて合意形成してきた内容を,最終決定するのはクライ アント組織(代表としての内部担当者)であり,最終決定段 階において,両者間で意見が異なった場合の意思決定は,最 終決定者であるクライアント組織に委ねられることは,本稿 の議論においても変わるところはない.問題となるのは,そ れに至るプロセスにある.

ここまで議論してきたとおり,従来のコンサルティング・

プロセスにおいては,理性的認識による理解を暗黙の前提と してきたため,クライアント組織における漠然とした「思い」

を明確化できないまま,あるいは状況についての包括的理解 が不十分なまま,コンサルタントの「ベストプラクティス仮 説」主導で合意形成プロセスが進行し,最終決定段階にまで 至るところに問題があった[注7].本稿で論じてきた,「ミ ドルマン」としてのコンサルタントと内部担当者との間で行 われる,理性と感性の往還を基盤とする「創発的協働」に基 づく「現場エスノグラフィー」とは,このような問題点を乗 り越え,最終的にクライアント組織が納得できるカスタマイ ズが行えること,すなわち,「翻訳的適応」を支援するため の合意形成の方法論に他ならないものである.

4. 制度改革コンサルティングの事例

4.1 事 例 の 概 要

本章では,前章までの議論を,論者が実際に経験した事例 に基づいて検討してみたい.本事例は,論者がかつて所属し た企業組織(S社)において,内部担当者の立場で人事制度 改革に携わったときのものである.

S社は,社員数1500名ほどの企業であり,そのおよそ 80%が営業部門に属し,50箇所ほどの営業拠点に分散して 事業を行っていた.会社創立40年を経過し,高度経済成長 を背景として構築・運用されてきた「職能資格制度」を基幹 とする人事制度は,今後の社会経済状況の変化を踏まえた経 営戦略の推進を図るうえで,変革を要すると判断され,新た な人事制度の構築が求められていた.その内容は,等級制度 の再編,賃金制度,評価制度の再構築等多岐に渡るものであっ たが,ここでは,そのうちの「等級制度の再編」に関するコ ンサルティング事例について,検討するものとしたい.

旧人事制度では,各自の有する能力に着目する「職能資格 制度」が基幹的制度として採用されていた.これは,「職務 遂行能力」の高まりに応じて「職能等級」が上昇し,それに 伴い賃金等の処遇が高まり,ポスト上の昇進につながるとい うものであった.この制度では,原則として処遇とポストと は分離して考えることが特徴であるが,ポスト不足となり処 遇に見合わない役割の低いポストしか提供できなくなった場 合には,その矛盾が顕在化する.既にS社においては,主力 事業の成熟化に伴いその矛盾が見られる状況を呈していた.

また,処遇の根拠となる「職務遂行能力」を厳密に把握する ことは難しく,結果的に年功的な処遇にならざるをえないも のであった.つまり,経営戦略実現との相互充足性が弱いも のであった.

新しい人事制度は,「経営戦略と相互充足すること」が主 眼とされ,「各自の担当する役割=等級」となる役割等級制 度への再編が模索されていた.そして,その方向性を踏まえ てコンサルティング依頼先が検討され,P社を選定した.

P社のコンサルティング・スタンスは,前述のテーブルコ ミュニケーションに基づくものであった.地理的に離れてい たこともあり,資料分析と月に一度程度の企業訪問におい て,内部担当者との討議・検討を重ねるというプロセスで,

制度設計の合意形成がなされていった.直接討議で不足する 分については,電子メール等の方法で質問,回答をやりとり することで対応した.時間的な都合もあり,実際に営業現場 を見ることは極めて限られた範囲にとどまった.したがっ て,「現場の理解」という点においては,理性的認識に基づ く範疇を超えるものではなかった.

P社の提示する「ベストプラクティス仮説」は,内容的に 十分納得がいくものであり,概ね受容できるものと考えられ た.しかしながら,カスタマイズにおいて本稿で議論してき た認識のズレが見られ,それは大きな課題となっていった.

4.2 人事制度(等級制度)再編の実態

人事制度の改革は,必然的に組織成員における利害の変更 を伴うものであるが,これまで旧制度がたどってきた経緯 や,それが実際に現場で機能している実態を考慮することな く,機械的に(望ましいとされる)新制度へと再編すること は,組織内に混乱を招く恐れがあり,定着において問題が生 じることも予想される.P社との討議コミュニケーションに おいて,最後まで議論が平行線をたどり,合意形成ができな かった点はここにあった.

旧制度およびそれを再編移行し最終的に構築した新制度,

そして,P社が最後まで主張した原案を図4に示す[注8].

問題となったのは,所長職の等級設定についてであった.

P社の主張は,「ベストプラクティス仮説」としての役割等 級制度の原則に基づき,「各自の担当する役割=等級」とす

(旧制度) (新制度) (コンサルタント案)

職能

等級 役職 役割

等級 役職 役割 等級 役職

8 部長 7 部長 6 部長

7 所長 6 上席所長

5 所長

6 係長 5 所長

5 主任 4 係長 4 係長

4 3 主任 3 主任

3

一般 2

一般 2 2 一般

1 1

1

図4 等級の構造

(7)

べきであり,質的に役割の差異が見られないのであれば,そ の担当する組織の大小に関わらず,所長職は5等級として一 本化するべきとの見解であった.

しかしながら,この主張については,内部担当者としては,

不安を感じるものであった.確かに,所長職としての職務内 容は,その担当する組織の大小において異なるものではない が,現実にマネジメントする人員数や予算管理の大きさ等,

量的な負荷や責任の重さ等を考慮すれば,組織の大小におい て差異が見られるものであった.したがって,旧制度では,

現実的には規模が小さな組織を担当する所長は職能等級6等 級とし,大規模な組織を担当する所長は職能等級7等級とす ることで,差異を設けていた.また,この差異は負うべき責 任の大きさから,当然のこととして,組織内では現実に受け 入れられているものであった.また,この措置は,組織の拡 大に伴う対応として,歴史的経緯を有するものでもあった.

したがって,内部担当者としては,新制度においても,旧制 度を活かす形で「上席所長」と「所長」という区分を設ける ことが妥当であると考えた.それは,組織で生活してきた者 としての実感に沿うものであった.しかしながら,それは,

P社の主張する「ベストプラクティス仮説」の原則からは,

許容し難いものであった.

もちろん,P社も,旧制度におけるそのような現実的な差 異を全く理解できないというわけではなかったが,その「理 解」は理性的な範囲を超えるものではなかったと推察され る.結局のところ,「ベストプラクティス仮説」のカスタマ イズへ向けた合意形成はできないままであった.一定の時間 をかけて,現場に身を置くという経験がない状況では,履歴 を有するこの事態を実感することは困難なことであった[注 9].本稿で論じてきた「感性コミュニケーション」の不足 に由来する限界であったと言いうる.

結果的には,内部担当者の最終決定により,これまでの「所 長職」にはない「新たに期待される役割業務」を付加し,「所 長職」とは質的に異なるものとしての「上席所長職」を設定 することで,役割等級制度の原則に沿う形で新制度の等級構 成を行った.この点に関しては,評価が分かれるところでも ある.クライアントにおける「翻訳的適応」であると見なす ことも可能であるが,一方,既存のものを温存するだけであ り,改革とは言い難いとの評価もありうる.唯一解のない偶 有性を特徴とする課題解決においては避けられないところで あろう.この決定がどのような意味を有するかについては,

しばらく経過を見なければ判断しがたいものである.

石井[11]は,このような偶有性を特徴とする中では,「共 生的価値を創出する」ことへ向けた取り組みが意義を持つと指 摘する.最終決定は当時者(クライアント)が行わざるをえな いが,その決定を支援する支援者(コンサルタント)による合 意形成のプロセスが重要である.この点において,内部担当者 の立場から見て,結果はさておき,本事例における合意形成プ ロセスでは,現場の状況を理解したうえでの提案であったかと いう点において「納得性」が低いものがあり,「現場の包括的 理解」不足に由来する問題が見られたものと考える.

5. まとめ:「現場エスノグラフィー」によるコンサルティ ングの可能性

本稿で論じてきた,「ミドルマン」としてのコンサルタン トと内部担当者との間で行われる,理性と感性の往還を基盤 とする「創発的協働」に基づく「現場エスノグラフィー」と は,クライアント組織における「翻訳的適応」を支援するた めの合意形成の方法論と言えるものであった.

従来の人事コンサルティングにおける,理性的認識に偏っ た「現場の理解」では,合意形成プロセスにおいて問題を生 じる可能性が高いと言える.それを避けるためには,コンサ ルタントが一定の時間をかけて現場に身を置き,クライアン ト組織の空間を共有するという経験が不可欠である.そのこ とを通じて得られる包括的理解から,ミドルマン相互の「創 発的協働」の可能性が高まるのである.人事コンサルティン グのような,唯一解のない偶有性を特徴とする課題解決にお いては,このことは重要な意義を有するものと考える.

「現場の理解」を研究目的としたエスノグラフィーは,こ れまでにも見られたが[25,26],このような「現場エスノ グラフィー」の視点を有するコンサルティング実践事例は,

数少ないものである[注10].課題は,一定の時間をかけて 現場に身を置くことに要するプロセスの効率性を,どのよう に考えるかにあるが[注11],その方法論的な有用性が期待 できるものであるだけに,人事コンサルティング分野におけ る具体化が切望される.そして,たとえそれがどのような形 態であれ,人事コンサルティングではこれまで着目されるこ とがなかった,「感性コミュニケーション」の意義を理解し たものであるならば,従来とは異なるコンサルティングの展 開が期待できるものと考える.

[注1] 人事コンサルティングは,人材マネジメント・システ ム全般に及ぶ範囲を有するものであるが,本稿では,

「人事制度改革」に関する事項を念頭において論を進 めるものとする.

[注2] 金井[3]は,自らがどっぷりと浸りきっている組織 の特徴を内部者だけの力で「解読」するのは難しいと する.内部者の間では多くのことが「当然のこと」の ように自明視されており,それを問題化することは困 難である.

[注3] 「エスノグラフィー」という用語には,方法論として の側面とフィールドワークの結果を示す報告としての 側面があるが,本稿では,方法論として捉えるものと する.小田[5]は,エスノグラフィーを「ある社会 的場における事象を,そこに固有の関係性の中で理解 し,その理解を踏まえながら理論化を展開していく質 的方法論の一つ」と定義しているが,基本的にこの定 義に拠るものとしたい.そのための具体的方法は,参

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与観察である.

[注4] 「開発人類学」の定義に関しては様々な観点があるが,

ここでは,開発援助に実践的に係わる人類学として,

ODAやNGOの実践過程に直接関与するものと捉える.

[注5] このような視点は,東アジア諸国におけるマクドナル ドの固有の受容内容について論じたワトソン他[13] にも見られる.すなわち,マクドナルドの受容は,外 来文化と既存の文化が相互に変容しながら結びつき,

新たな文化が構築されるという形態で行われるのであ る.日本におけるマクドナルドの意味づけと北京にお けるそれとは異なるのであり,様々な時代と生活の中 で,状況に見合ったものを象徴していると言える.グ ローバルなものがそのまま受容されるわけではなく,

ローカルなものと結びつく「グローカリゼーション」

という形態によって,定着が図られると論じている.

[注6] 空間を共有することによる他者理解の可能性について は,伊藤[18]における議論を参照されたい.「非人 称的なはたらき」としての身体は,特定の空間の中に 埋め込まれ,経験してはいるが意識する手前ですでに 働き出す前意識的なものとして存在していると考えら れること,そしてそこでは,相互の身体性が共有され ることによる身体的引き込みといった共振作用の繰り 返しによる相互了解が可能となることなどの議論が展 開されている.

[注7] 医療現場における生死に関わる方針選択をめぐる合意 形成を論じた論考[22]においても,医療方針の決定 には「状況についての共通理解」が必要であり,それ は医学的情報という理性的情報だけではなく,患者の 人生や価値観などへの「思い」をも含む,「状況の包 括的理解」を踏まえたうえでの意思決定プロセスであ ることが望ましいと指摘している.また,吉武[23]は,

同じく医療場面における「インフォームド・コンセン ト」に関わる合意形成のあり方を論じ,それが患者の 明確な意向を前提としたものであること,そして,実 際には明確な意向を持つ患者は少なく,「漠然とした 思い」を有するにすぎないことが多いとする.そして,

その「思い」を「意向」へとつなぐための,最善の方 法を見出すための相互理解プロセスが不可欠であると 指摘する.

[注8] ここでは,指示命令系統を有する,営業部門における 役職を中心とした役割等級を示す.

[注9] 自ら経験した自動車製造ラインの現場をルポルター ジュした鎌田[24]は,「(製造ラインの)ベルトコン ベアは,見ているのと実際仕事をしているのではス ピードが違う」と指摘し,見る取材の中で「単調労働」

という表現で「理解」していたと思っていたことは,

実際には「わかったつもりになっていた」に過ぎなかっ たことを述懐している.それは,視察というレベルで はなく,一定の時間をかけて現場を実感する経験の中 で,初めて「理解」できるものであったとしている.

[注10] 露木[27]が紹介する前川製作所の事例は,示唆に富 む.老舗の冷凍機メーカーである前川製作所のコンサ ルティングは,「顧客との共創」によって革新的な知 識を生み出すことにより,独創的な製品づくりをする ことを意識的に実施するものである.顧客との「共創 の場」をつくるためには,「現場への棲み込み」が不 可欠であり,そこから背景を理解し問題状況に関する 暗黙知を体得できるとする点に,身体性や感性へ着目 した「現場エスノグラフィー」の視点が見受けられる.

[注11] 前川他[28]は,富士通におけるフィールドワークの 事業化(「ビジネス・フィールドワーク」)について論 じている.事業化するにあたり問題となったのは,

フィールドワークの期間であり,研究目的のものとは 異なり,短期間で結果を出すことができ,かつコスト があまりかからない形にすることが求められたことを 指摘している.結果的に,人類学的なフィールドワー クを導入しながら,事業として成立可能なマーケティ ング・リサーチに近い形に転換していったことが紹介 されている.

参 考 文 献

[1]平野光俊:日本型人事管理−進化型の発生プロセスと機能 性−,中央経済社,2006.

[2]吉田寿:ミドルを覚醒させる人材マネジメント,日本経済 新聞出版社,2008.

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定 性 的 研 究 方 法へ の一 視 角−,組 織 科 学,24,1, pp.46-59,1991.

[4]金井壽宏:経営組織論における臨床的アプローチと民俗誌 的アプローチ−定性的研究方法の基礎と多様性を探る−,

国民経済雑誌(神戸大学),159,1,pp.55-87,1989.

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[6] Leonard, D. and Rayport, J.F.: Spark innovation through em- pathic design, Harvard Business Review, 75, 6, pp.102-113, 1997.

[7]西川英彦:共感デザインにおける観察情報〜行為とデザイ ンとの相互作用〜,季刊マーケティング・ジャーナル,

27,2,pp.18-28,2007.

[8]深澤直人:デザインの輪郭,TOTO出版,2005.

[9]上野直樹・田丸恵理子:情報エコロジーにもとづいたシス テムのデザイン,武蔵工業大学環境情報学部情報メディア センタージャーナル,3,pp.2-9,2002.

[10]岸本孝治・竹田博之・塩田武志:フィールドワークを活用 したSE匠の技の伝承,FUJITSU,59,6,pp.630-635, 2008.

[11]石井淳蔵:ビジネス・インサイト−創造の知とは何か,岩

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波書店,2009.

[12]前川啓治:開発の人類学 文化接合から翻訳的適応へ,新 曜社,2000.

[13]ワトソン,J.編,前川啓治・竹内惠行・岡部曜子訳:マク ドナルドはグローバルか 東アジアのファーストフード,

新曜社,2003.

[14]小國和子:農村開発フィールドワークと援助−共感から始 まる介入に向けて,アジ研ワールド・トレンド,14,4, pp.12-15,2008.

[15]関根久雄:「つなぐ」−開発実践における人類学の役割,

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[16]関根久雄:特集人類学と開発援助 特集によせて,国際 開発研究,17,2,pp.1-7,2008.

[17]関根久雄:「人類学的」,その意味するもの,アジ研ワール ド・トレンド,14,4,pp.8-11,2008.

[18]伊藤精男:「調査する身体」と「実践する身体」 エスノグ ラフィーにおける認識と身体性,日本感性工学会研究論文 集,6,4,pp.59-66,2006.

[19]桑 子 敏 雄:感 性と「住む」の哲 学,感 性 哲 学,2, pp.3-16, 2002.

[20]桑子敏雄:感性哲学とコミュニケーション,人口知能学会 誌,21,2,pp.177-182,2006.

[21]桑子敏雄:感性の哲学,日本放送出版協会,p.67,2001.

[22]清水哲郎:医療現場における意思決定のプロセス−生死に 関わ る方 針 選 択を め ぐ っ て−,思 想,976,pp.4-22, 2005.

[23]吉武久美子:医療倫理と合意形成−治療・ケアの現場での 意思決定−,東信堂,2007.

[24]鎌田慧:自動車絶望工場−ある季節工の日記,講談社,

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[25]吉田誠:A社特装車組立工程の職場の相貌−参与観察に基 づ く一 考 察−,日 本 労 働 社 会 学 会 年 報,4,pp.29-50, 1993.

[26]大野威:A自動車の労働過程−A自動車における参与観察 に基づいて,大原社会問題研究所雑誌,470,pp.14-40, 1998.

[27]露木恵美子:前川製作所 顧客との「場の共創」,一橋ビ ジネスレビュー,49,1,pp.132-150,2001.

[28]前川佳一・椙山泰生・姜聖淑・八巻惠子:フィールドワーク の事業化−富士通におけるサービスビジネスへの転換−,組 織科学,42,4,pp.21-36,2009.

伊藤 精男(正会員)

2001年九州大学大学院人間環境学研究科博 士後期課程単位取得退学.博士(人間環境 学).民間企業等勤務を経て,現在,人事コ ンサルタント.研究領域は,身体の社会学,

組織行動論,人材マネジメント論,ワークプ レイスラーニング論.経営学的なテーマを身体性の視点から研 究している.人材育成学会,組織学会,日本社会分析学会など の会員.

参照

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