Title
嚢胞状腎癌の4例
Author(s)
松下, 靖; 鈴木, 薫; 田村, 健; 前田, 憲一; 藤岡, 知昭
Citation
泌尿器科紀要 (1997), 43(10): 719-722
Issue Date
1997-10
URL
http://hdl.handle.net/2433/116050
Right
Type
Departmental Bulletin Paper
Textversion
publisher
嚢
胞
状
腎
癌
の4例
山 本組 合総 合病 院泌 尿 器 科(科 長:鈴 木 薫)
松 下 靖,鈴 木 薫
岩 手 医 科 大 学 医 学 部 泌 尿 器科 学 教 室(主 任:藤 岡知 昭 教 授) 田 村 健,前 田 憲 一,藤 岡 知 昭
CYSTIC RENAL CELL CARCINOMA : REPORT OF FOUR CASES
Yasushi MATSUSHITA and Kaoru SUZUKI
From the Department of Urology, Yamamoto Kumiai Hospital
Takeshi TAMURA, Ken-ichi MAEDA and Tomoaki FujioxA
From the Department of Urology,
Iwate Medical University
We report 4 cases of cystic renal cell carcinoma (RCC), one of simple cystic type (case 2) and three
of multilocular cystic type (case 1, 3 and 4). All cases were diagnosed preoperatively as malignant
neoplasms on the basis of radiological examinations, including CT scan and angiography.
Pathological examination revealed that intrinsic cystic growth was the probable cause in the three cases
of multilocular cystic RCC, while the simple cystic case was probably caused by secondary cyst
formation as a result of tumor necrosis.
Radical nephrectomy was performed in cases 1, 2 and 4 and
partial nephrectomy in case 3. We recommend nephron-sparing surgery as an option in the
management of select cystic RCC, given that many cystic RCCs are low grade and enveloped by
distinct pseudocapsules with fibrous tissues.
(Acta Urol. Jpn. 43: 719-722, 1997)
Key words : Renal cell carcinoma, Cystic type
緒 言 腎 癌 は通 常,充 実 性 腫 瘍 で あ る場 合 が 多 い が,時 に 嚢 胞 状 を示 す こ とが あ り,そ の頻 度 は4--15%と 言 わ れ て い る1)最 近,画 像 診 断 法 の発 達 ・普 及 に よ り, そ の報 告 例 は増 加 して い る.今 回,わ れ われ は嚢 胞状 構 造 を呈 した 腎 癌4例 を経 験 したの で,若 干 の 文 献 的 考 察 を加 えて 報 告 す る. 症 例 症 例1 患 者 は,65歳,男 性.1991年9月 胃部 不 快 感 に よ り 当 院 消化 器科 を受 診,腹 部 超 音 波検 査 で左 腎 に嚢 胞 性 腫 瘤 を認 め た た め,当 科 紹 介 とな り,精 査 ・加 療 目的 で 同 年10月28日 入 院 した. CTで は,左 腎 中極 に直 径 約4cmで 隔壁 を伴 う嚢 胞 状 腫 瘤 が 認 め られ た.嚢 胞 壁 は 厚 く,造 影 に よ り enhanceさ れ た(Fig。1A).ま た,左 腎 動 脈 造 影 で は,左 腎 中極 に新 生 血 管 の増 生 を伴 う腫 瘍 が認 め られ た. 以 上 よ り,多 房 性 嚢 胞 状 腎癌 と診 断 し,同 年ll月26 日根 治 的 左 腎 摘 除術 を施 行 した. 摘 出標 本:左 腎 中部 に,表 面 を厚 い被 膜 で 覆 わ れ た 径4cmの 球 状 の 腫 瘍 を 認 め た.割 面 で 嚢 胞 壁 の 一 部 に結 節 性 病 変 を認 め,嚢 胞 内 溶 液 は 血 性 で あ っ た. 病 理 組 織 所 見:嚢 胞 壁 は 明 る い 胞 体 を 有 す る 腫 瘍 細 胞 で 覆 わ れ て お り,renalcellcarcinoma,alveolar type,commontype,clearcellsubtype,Gl,INF一 α,pT2で あ っ た(Fig.IB). 症 例2 患 者 は73歳,男 性.1995年2月 集 団 健 診 の 際,腹 部 超 音 波 検 査 で 左 腎 に 嚢 胞 状 の 腫 瘤 を 認 め た た め,当 科 紹 介 と な り,精 査 ・加 療 目 的 で 同 年3月28日 入 院 し た. CTで は 左 腎 上 極 に 直 径 約9cmの 嚢 胞 性 腫 瘤 を 認 め,嚢 胞 壁 の 一 部 に 造 影 に よ りenhanceさ れ る 充 実 性 の 腫 瘤 を 認 め た(Fig.2A).ま た,左 腎 動 脈 造 影 で は,CTで 見 ら れ た 充 実 性 の 部 分 に 一 致 し て 新 生 血 管 の 増 生 が 認 め ら れ た. 以 上 よ り,腎 嚢 胞 に 合 併 し た 腎 癌 と診 断 し,同 年4 月21日 根 治 的 左 腎 摘 除 術 を施 行 した. 病 理 組 織 所 見:単 房 性 の 嚢 胞 内 腔 に は,壊 死 物 質 お よ び 凝 血 塊 が 充 満 し て お り,腫 瘍 細 胞 はrenalcell. carcinoma,tubulartype,commontype,granular cellsubtype,G2,INF一 α,pT2で あ っ た(Fig。2B).
720 泌 尿 紀 要43巻10号1997年
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Fig.2.A:EnhancedCTshowsasolidInass Iesioninle丘renalcyst.B:Microsco-pic丘ndingsshowthatthesolidmass lesionandcysticwalloomposedof renalcellcarcinoma.Necrotictissue andbloodclotarepresentintherenal cyst・ commontype,clearcellsubtype,Gl,INF一 β, pT2で あ っ た(Fig,3c). 症 例4 患 者 は55歳,男 性.1994年1月,当 院 の 人 間 ドッグ の超 音 波 検 査 で,右 腎 に 内部 に 隔壁 を有 す る多 房 性 嚢 胞 状 病 変 を指 摘 され,精 査 目的 で 同 年2月2日 当科 紹 介 と な った.多 房 性 腎 嚢 胞 と診 断 し経 過 観 察 して い た.し か し,腫 瘤 の増 大傾 向 を認 め たた め,腎 動 脈 造 影 を施 行 した.そ の結 果 腎癌 が 疑 わ れ た ので,1996年 ll月5日 入 院 した. CTで は 右 腎 下 極 に直 径 約8cmの 多 房 性 嚢 胞 状 腫 瘤 を 認 め,造 影 に よ り嚢 胞 壁 お よ び 隔 壁 がenhance され た(Fig.4A).ま た,右 腎 動 脈 造 影 で は,腫 瘤 の 一 部 に 新 生 血 管 の 増 生 お よ び腫 瘍 濃 染 像 が 認 め られ た. 以 上 よ り,多 房 性 嚢 胞 状 腎 癌 と診 断 し,同 年lI月15 日根 治 的 右 腎 摘 除術 を施 行 した. 摘 出 標 本:腫 瘍 の 大 き さ は7×6×5cmで あ っ た. 腫瘍 は繊 維性 の 被 膜 で 覆 わ れ,多 房 性 嚢 胞 状 で,嚢 胞 壁 の 一 部 に黄 色 の 腫 瘍 を認 め た.内 溶 液 は 黄 色 透 明 でA
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察
腎 に お け る 腫 瘍 と嚢 胞 の 合 併 形 式 と し てGibson は2),腫 瘍 と嚢 胞 が 離 れ て存 在 す る1型,腫 瘍 内 部 が 嚢胞 化 したll型,嚢 胞 壁 か ら腫 瘍 の発 生 した 皿型,腫 瘍 の圧 迫 で 末 梢 部 に嚢 胞 が 生 じた]V型 に 分 類 して い る.し か し,実 際 にす べ て の 症 例 をGibson分 類 に よ り明 確 に分 類 す る こ と は難 し く3'4),ま た 嚢 胞 が 悪 性 化 す る こ とは な い との 報 告 もあ り5),本 分 類 を疑 問視 す る意 見 もあ る.症 例2で は,Gibson分 類 のll型 あ るい は 皿型 か の 区 別 は困 難 で あ った が,嚢 胞 壁 の ほぼ 全域 が腫 瘍細 胞 で 覆 わ れ て お り二 次 的 に嚢胞 が 形 成 さ れ た と判 断 し,Gibsonの 分 類 の 」型 に 相 当 す る もの と考 え られ た.一 方,多 房 性 嚢 胞 状 の 形 態 を呈 す る場 合 は,Hartmanら の6)分 類 か ら,腫 瘍 が 内 因 性 に 多 房性 嚢 胞 状 に 発 育 す る場 合 と既 存 の 嚢 胞 上 皮 か ら腫 瘍 が発 生 す る場 合 の 大 き く2つ の 機 序 が 考 え られ る.す なわ ち,前 者 が 多 房 性 嚢 胞 状 腎 癌,後 者 が 多 房 性 腎 嚢 胞 に合併 した 腎癌 に相 当 す る.こ の 両 者 の鑑 別 の方 法 と して,多 房 性 腎 嚢 胞 にお け る 固有 の組 織 す な わ ち 嚢 胞 内 腔 に突 出 す る好 酸 性 の立 方 状 上 皮 細 胞,い わ ゆ722 泌 尿 紀 要43巻10号1997年 るHob-nail細 胞 で 履 われ た嚢 胞 の存 在 が 指 摘 さ れ て い る7)症 例1,3,4で は,嚢 胞 壁 に認 め られ る上 皮 細 胞 は いず れ も癌 細 胞 で あ り,嚢 胞 固有 組 織 は認 め ら れ な か った.従 って,こ れ らの 症例 はHartmanの 分 類 で は 内 因性 に多 房 性 嚢 胞 状 に発 育 した 腎 癌 に相 当 す る もの と考 え られ た. 腎 嚢 胞 性 病 変 の 診 断 に関 して は,そ れ が 良性 の 嚢胞 状 腎 疾 患 で あ るか,嚢 胞 状構 造 を と る腎癌 で あ る か を 鑑 別 す る こ とが 臨 床 上 重 要 で あ る.症 例1,2,3で は,CT検 査 で 嚢胞 壁 や 中 隔 の肥 厚 像 が 認 め られ,ま た 血 管 造 影 で は新 生血 管 の増 生 が 見 られ た た め,術 前 に腎 癌 と診 断 した.症 例4に 関 して は,CT検 査 で は 嚢胞 内 に 明 らか な 充実 性 の腫 瘤 は認 め な か っ たが,血 管造 影検 査 で新 生 血 管 の増 生 お よび腫 瘍 濃 染 像 が 見 ら れ た た め 腎癌 と診 断 した.こ の よう に,自 験 例 で は画 像 診 断 に お い て,腫 瘍 の存 在 の判 定 に は血 管 造 影 が 最 も有 用 で あ っ た. 嚢 胞 状 腎癌 の予 後 につ い て は,比 較 的 良 好 とす る報 告 が 多 い8)こ れ は,腫 瘍 が 繊 維 性 被 膜 を有 し て お り,腫 瘍 の 腎 外 お よ び 腎 実 質 へ の 浸 潤 が ほ と ん どな く,ま た細 胞 異 型 度 も大 部 分 がGlで あ る た め と考 え られ る. 最 近,iowstageの 腎 癌 症 例 に対 して腫 瘍 核 出術 や 腎 部 分 切 除 術 が 行 わ れ,優 れ た 治療 成 績 が 報 告 さ れ て お り9),腎 保 存 手 術 が 広 く受 け入 れ られ る傾 向 に あ る.本 症 報 告例 の ほ とん どは,外 科 的治 療 と して腎 摘 除術 が 施行 され て い る が,腫 瘍 の性 質 を考 慮 す れ ば, 腎 保存 的手 術 の よい適 応 と考 え られ る.従 って,良 性 か悪 性 か の 診 断 に迷 う症 例,特 に比 較 的 小 さ な腫 瘍 の 場 合 に は積 極 的 に腎 保 存 手 術 を考 慮 す べ き と考 え られ た.
