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,検察官が死刑選択基準に関する判例違反を主張し て上告した事例

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(1)

[判例研究] 第一審で死刑が言渡されたものの,控 訴審で破棄されて無期懲役が言渡された事件に対し

,検察官が死刑選択基準に関する判例違反を主張し て上告した事例

その他のタイトル [Note Case] Appeal for the Death Penalty by the Prosecutor

著者 永田 憲史

雑誌名 關西大學法學論集

巻 61

号 3

ページ 821‑808

発行年 2011‑09‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/6545

(2)

︻事案︼

︵ 最 決 平 ニ ︱ 年 一 月

一 四

日 判 タ ︱

二 九

五 号 八 一 八 頁

田 憲 史

第一審で死刑が言渡されたものの︑控訴審で破乗されて無期懲役が 言渡された事件に対し︑検察官が死刑選択基準に関する判例違反 を主張して上告した事例

被告人は︑妻と婚姻するとともに︑その実母と養子縁組をし︑その後︑妻との間に二人の娘をもうけた

ところが︑婚姻の七年後頃から勤務先の女性と不倫関係となり︑その交際費用を賄うため消費者金融からの借入れを始めた

︒不

倫関係の継続や保険外交員の営業実績を上げる費用等に充てるため借入れを続け︑不倫が妻に露見した後に飲酒等の遊興を重ねた 上︑借入金の返済に困って別に借入れを重ねてさらに借入金を増大させた︒そのため︑妻と養母にエ面させたり︑妻の実姉や長女 に無心したり︑妻や次女に妻又は次女名義で消費者金融から借り入れさせたり︑義姉や次女を連帯保証人として消費者金融から借 入れを行なったり︑自宅不動産の所有名義を無断で被告人に変更してこれを担保に銀行から借入れを行なったり︑次女の進学資金 名目で借入れを行なったり︑義姉や養母の預金を払戻して着服したりするなどして借入金の返済を続けていた︒その結果︑本件直 前には被告人名義による借入金の総額は

一七

0

0万円に達していた︒

︹ 判 例 研 究 ︺

五四

︵ 八

(3)

の前部を海へ向けて停車させると︑

五五

被告人は︑借入金返済のために︑自動車保険のうち︑搭乗者傷害保険金各一

000

万円︑妻の生命保険金六

0

0

万円を得ようと︑

妻及び養母を殺害することを決意した︒被告人は︑漁港で転落事故を装って自己が運転する車両を海中に転落させ︑被告人だけが

逃げ出す方法により妻と養母を殺害することとし︑自己が運転する車両に妻と養母を乗せてドライブに出掛け︑日が暮れて薄暗く

なったころ︑犯行現場の漁港に到着した︒本件車両を海中に転落させる場所を探して走行した後︑漁港内の西側の埠頭に本件車両

スモールランプのみを点灯させた状態にし︑運転席︑助手席及び後部座席左右の窓を開け︑

シートベルトを外すなどの準備を整え︑本件車両を運転し︑前進させて海中に転落させようとしたところ︑たまたま前方に設置さ

れていた係船柱に車両右前部が衝突したため停止した︒しかし︑すぐさまこれを予め考えていた弁解に取り入れることを思い立ち︑

自車をいったん後進させた後︑再度︑係船柱を避けながら前進させて海中に転落させ︑妻及び養母を溺死させた︒

所轄警察署は本件転落の原因に疑念を抱き事故証明書を出さなかった︒そのため︑被告人は保険金を取得できなかった︒被告人

は︑犯行後約一

0

か月にわたり︑弁解を弄して捜査機関の追及を逃れていた︒なお︑

たことを伝えられて初めて他の金融機関に対する口止めに着手するなど︑被告人の犯行後の行動に杜撰な点も少なくなかった︒

第一蕃は︑①犯行を企図した当初から養母を殺害の対象としていたとまでは言えないこと︑②用意周到に計画を立案しこれに 従い犯行を遂行した事案と比して計画の緻密さに欠ける面が認められること︑③前科前歴がないこと︑④六五歳という年齢にあ ることなどの被告人に有利な情状が存在することを認めたものの︑①身勝手かつ自己中心的で冷酷極まりない動機に酌量の余地 は微塵も認められないこと︑②犯行の態様が計画的であること︑③海中へ転落しようとした際に係船柱に自車を衝突させるなど

想定外の事態が生じても動じることなく犯行を敢行し︑その事態を犯行後の弁解内容に取り入れるなど大胆かつ狡猾な側面も持ち

合わせていること︑④その殺害方法が冷酷かつ残忍︑非道悪質であること︑⑤被害者二人の生命が失われており︑生じた結果が 重大かつ深刻であること︑⑤遺族らの処罰感情がいずれも峻厳であること︑⑦慰謝の措置は何ら取られておらず︑今後も取られ る見込みは乏しいといわざるを得ない状況にあること︑⑧社会的影響が多大であること︑⑨逮捕前に自白して以降︑第

一回公判

第雫

箭が

扁さ

れな

塁謡

李破

翌埜

覇霞

が晟

され

た中

件に

対し

︑倹

暫が

死刑

漿払

準に

睾魯

砂遥

皮を

主張

して

上茫

た腐

0 )

一部の消費者金融機関から警察の照会があっ

(4)

期日までは殺意を認め続けたものの︑第二回公判以降︑自白を翻し再び殺意を否認して保身のための不自然︑不合理な弁解に終始

(1) 

し︑反省の情を認め難い状況にあることなどを指摘し︑死刑を言渡した︒

控訴審は︑﹁多額の保険金取得をもくろんだ被告人が自動車の海中への転落事故を装って妻及び養母の殺害を計画し︑強固な犯 意の下にこれを予定どおり実行に移して上記二名を殺害したという極めて重大な事犯である︒⁝⁝このように強度の利欲犯罪を計 画し︑現にためらいもなく二名の尊い人命を奪い去ったという犯罪類型が︑それ自体極刑を科すべき有力な要素を帯有することは

疑いがない︒

⁝⁝しかも︑本件犯行に至る経過︑殊に被告人が長らく被害者ら家族に多大な負担・苦痛を与え続けた挙げ句に本件

犯行を企図し︑その同じ被害者らを一

方的に抹殺し去り︑遺族らにもとりわけ甚大な悲嘆辛苦をもたらした点はなおさら許し難く︑

その反映として遺族らが極めて厳しい処罰感情を抱き続けていること︑その他犯行後の行動等を併せ考慮すれば︑その本来の刑責

は十分極刑に値するものとも考えられる︒

⁝⁝他方︑極刑を科することに慎重を期すべき方向に働く要素としては︑本件犯行がそ れほど周到な計画に基づくものとまではいえないこと︑犯行態様において︑自らの安全を確保した上で冷酷無比に犯行に及ぶよう な場合に比し︑違法性に若干の差がなくはないこと︑殺害が

一度の機会に一

っの行為として行われた点も︑複数回にわたり殺害行 為を繰り返した場合よりは︑やはり違法性に若干の差を認め得ないではないことなどの点が挙げられる

⁝⁝これらは︑

いず

れも

︑ あくまで最も極悪非道な犯罪と比較した場合に︑強いて差異を見いだすとすれば指摘できるという程度のものであるが︑死刑の選 択がとりわけ慎重であるべきことも念頭に置けば︑これらの要素も考慮の対象とはせざるを得ない︒⁝⁝加えて︑被告人に犯行時

︵六四歳︶まで重大事犯についてはもちろんのこと︑それ以外の犯罪を含め前科自休が存しないという点も︑他の死刑相当事案と

比較した場合︑これを有力に甚礎づける一

要素に欠けるという意味で︑相当の考慮を働かさざるを得ない

︒⁝⁝被告人の反省の点

については︑経過全体をみる限り︑被告人に有利に解するとしても︑極めて不十分なものにとどまっているものといわざるを得ず︑

少なくとも︑それ自体を死刑選択を避けるべき方向に働く有力な要素とみることは到底できない

︒しかし︑上記前科のないことな

これに対し︑弁護人が控訴した︒

関 法 第 六 一巻 三 号

五六

︵ 八

一九 ︶

(5)

最高裁は︑﹁検察官の上告趣意は︑判例違反をいう点を含め︑実質は量刑不当の主張であって︑刑訴法四

0

五条の上告理由に当

たらない﹂とした上で︑次のように職権により判断した︒

﹁本件は︑利欲性の高い犯行であり︑借金が多額に上った理由も被告人の身勝手な行動の結果であって︑被告人の借金返済のた

め被害者らに物心両面で多大な負担をかけた上︑更にその生命を代償として借金返済の資金を入手しようとしたものであり︑その

動機は極めて悪質である︒また︑犯行態様も︑人目につかない夕刻の時間帯に︑妻及び養母を同乗させた乗用車を自動車事故を

装って海中に転落させて同人らを殺害し︑保険金を取得しようとしたもので︑確定的な殺意に基づく計画的な犯行であって︑被告

人のみが海中に沈みつつある車内から脱出し︑意識ある被害者らを生きながらにして車内に残し︑車両の沈むに任せてでき死させ

るという残酷︑非情なものである︒二名の尊い命を奪った結果は重大で︑また︑親族であっても︑遺族が厳しい処罰感情を抱くの

︻ 判 ,,,......̲  ,,,......̲ 

ヽ ヽ

2 1 

旨 ︼

これに対し︑検察官が上告した︒ どとも併せ︑被告人の矯正可能性自体を否定するのは相当とはいえない

五七

︵ただし︑矯正可能であれば当然に死刑を避けるべきこと

にはならない︒︶⁝⁝このほか︑他の死刑判決の事案でみられる犯行態様の甚だしい残虐性︑被害者に重大犯罪を加えた後更にそ

の生命を奪うというような著しい非道性︑社会一般を震かんさせるような極めて重大な社会的影響などの点を本件において指摘す

るのは困難である︒⁝・:以上を総合すると︑被告人の刑責は誠に重大であるものの︑積極的に死刑を選択すべきものと断ずるには

なおちゅうちょを感じるのであり︑結局︑本件については︑被告人を無期懲役に処し︑終生しょく罪と反省の日々を送らせるのが

(2 ) 

相当である﹂として︑破棄自判し︑無期懲役を言渡した︒

秋田地判平一六年九月二二日公刊物未登載︒

仙台高秋田支判平一七年

︱ 一

月二九日公刊物未登載︒

珀雫 箭誓 嬰れ な宮

︑謡 雫破 翌禁 翫麗 駕嬰 れた 平件 にせ

︑倹 習が 死燐 釈ふ 翌睾 裔盟 皮を

主眼 し

て 上 缶 し た 腐

︵ 八

一八 ︶

(6)

最高裁は︑昭和五八年の永山事件第一

次上告審判決において︑死刑選択基準について初めて判示した︒すなわち︑﹁死刑制度を 存置する現行法制の下では︑犯行の罪質︑動機︑態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性︑結果の重大性ことに殺害された被 害者の数︑遺族の被害感情︑社会的影響︑犯人の年齢︑前科︑犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき︑その罪責が誠に重

大であって︑罪刑の均衡の見地からも一

般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には︑死刑の選択も許されるも

(4) 

のといわなければならない﹂と判示したのである

︒ ︻分析︼

( 3 )  

最決平ニ︱年一月︱四日判タ︱二九五号一

八八

頁︒

﹁そうすると︑被告人の罪責は誠に重大であるから︑本件は被告人に対して死刑を選択することも考慮に値する事案というべき

であ

る﹂

﹁しかしながら⁝⁝被告人は︑犯行予定場所の下見もせず︑同所到着後に具体的な犯行場所を探し回るなどしており︑それほど 緻密︑周到な犯行計画を立てて実行したとまではいい難いこと︑被告人は︑六四歳に至るまで前科がなく︑少なくとも殺人等の凶 悪犯罪を起こす傾向も認められず︑上記借金に関することを除けば︑社会人として

一応普通の生活を送っていたこと︑第一審途中

で自白から否認に転じ︑過失による事故を主張するようになったものの︑原審においては保険金目的での殺害を認め︑最終的には 反省︑悔悟の態度を示すに至ったことなど諸般の事情を考慮すると︑被告人を無期懲役に処した原判決について︑その量刑がこれ

(3 ) 

を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認めることができない﹂として上告を棄却した︒

︑ 永 山 事 件 第 一 次 上 告 審 判 決

も誠にもっともである﹂︒

関 法 第 六 一巻 三 号

五八

︵ 八

一七 ︶

(7)

︑ 永 山 事 件 第 一 次 上 告 審 判 決 の 判 例 性 及 び 具 体 性

五九

︵ 八

一六 ︶

ここでまず問題となるのは︑永山事件第一次上告審判決の判例性及びその具体性である︒永山事件第一次上告審判決が定立した

死刑選択甚準は︑考慮すべき因子や一般的な基準を羅列したにとどまるものであって︑本質的には事例判例にすぎず︑どのような

場合に死刑選択を行ない︑どのような場合に死刑選択を回避すぺきかという具体的実質的な基準を定立した判例と考えることはで

( 5 ) 

きないとする考え方がある︒この理解からは︑大法廷判決によらずとも︑小法廷判決によって具休的実質的な死刑選択基準を変更

確かに︑その後︑本件のように検察官が永山事件第一次上告審判決の判例に違反するとして上告した際︑最高裁は︑実質は最刑(6) 不当の主張であって︑刑訴法四

0

五条の上告理由に当たらないとしている︒この点からは︑最高裁が永山事件第一次上告審判決の

基準を具体的実質的な墓準を定立した﹁判例﹂と捉えておらず︑具体的実質的な基準を定立したものと考えていないかのようにも

(7 ) 

そもそも︑﹁判例﹂︵刑訴法四

0

五条︶とは︑裁判の理由中で示された法律的判断を言い︑単なる量刑判断は﹁判例﹂ではない︒

しかし︑永山事件第一次上告審判決の示した基準は︑死刑選択基準に関する法律的判断であるため︑裁判の理由中で示された法律

( 8 )  

的判断にあたり︑﹁判例﹂と考えるべきである︒それゆえ︑最高裁が︑実質は量刑不当の主張であって︑刑訴法四

0

五条の上告理

( 9 ) 

由に当たらないとしてきたのは︑永山事件第一次上告審判決の判例性を否定したためではない︒

もっとも︑最高裁が︑実質は量刑不当の主張であって︑刑訴法四

0

五条の上告理由に当たらないとしてきたのは︑永山事件第一

次上告審判決の示した墓準を一般的かつ抽象的な﹁判例﹂であるととらえた上で︑(

なっており︑判例違反ではないと考えたためであると解する見解がある︒ 1 0 ) 

第. 雫箭 が扁 さ れな 宮︑ 篠雫 破翌 禁覇 麗

皆誓

れ た 平 件 に 翌

︑燐 誓が 死燐 翌畏 睾 将饂 皮を

主喪

て 上 空 た 中 匈

思われる︒ することができることになる︵裁判所法一

0

条三

号参

照︶

(4

最判昭五八年七月八日刑集三七巻六号六

0

九頁︒

いずれの原判決もこの基準に従って判断を行

(8)

‑ E

えよう︒

しかし︑このような理解は妥当ではない

︒そもそも︑永山事件第一次上告審判決の基準は︑第一

次控訴審が︑﹁ある被告事件に つき死刑を選択する場合があるとすれば︑その事件についてはいかなる裁判所がその衝にあっても死刑を選択したであろう程度の

(1 1

情状がある場合に限定せらるべきものと考える﹂と判示し︑無期懲役としたのを受けて︑﹁裁判所が死刑を選択できる場合として

原判決が判示

した前記見解の趣旨は︑死刑を選択するにつきほとんど異論の余地がない程度に極めて

情状が悪い場合をいうものと

して理解することができないものではない﹂と述べた上で

示されたものである︒永山事件第一次上告

審判決の基準は︑

考慮すべき因子や一

般的な基準を羅列したにとどまるものではあるが︑その内

実は︑第一次控訴審の基準を否定し︑破棄差戻とす

るためのものである︒それゆえ︑永山事件第一次上告

審判決は単なる事例判例ではなく︑

具体的実質的な基準を示した﹁判例﹂で

(

あると考えるべきである︒

)  1 2

もちろん︑永山事件第一

次上告審判決の甚準は︑当初から︑あらゆる事例を想定して組み

立てられたものとは言い難い面がある︒

例えば︑永山事件が単独事件であったため︑共犯事件の場合の共犯の主導性などの因子は同判決の中で触れられていない

︒永山事

件第一次上告審判決の基準は︑摘示

していない因子を取り込みながら︑

具体的実質的な死刑選択基準の判例として成長してきたと

従って︑永山事件第一次上告審判決は︑考慮すべき因子や一般的な墓準を示しただけでなく︑その後の死刑事件の判断に肉付け

されることにより︑あるいは︑その後の死刑事件の判断と

一体化することにより︑具体的実質的な死刑選択基準の判例とな

った

考えるべきである︒

(5)本庄武﹁死刑求刑検察官上告五事

件以降の死刑判決の分析﹂季刊刑事弁護三七号

︵二

0

員悩男﹁裁判 ︶頁以下︑五

0

頁︑原田

0

四五

0

裁判と死刑適用基準﹂刑事法ジャーナル

一八号︵二

0 0

九︶五三頁以下︑六三

頁 ︒

(6)永山事件第一

次上告審判決以降︑検察官から上告されたものとして︑

最判平︱一年

︱ 一

月二九日判時一

六九

三号一

五四

頁︑

最判

平 ︱

一年

︱ 二月

0

日刑集五三巻九号一︱六

0

頁 ︑

最決平︱一年

︱ 二

月一六日判時一六九八号一

八四

頁︑最決平︱一年

関 法 第 六 一巻 三 号

六〇︵八●

五 ︶

●見

する

と︑

(9)

︱二 月

一六日判時一六九九号一五八頁︑最決平︱一年︱

二月

︱ 日

判時一六九六号

一 六

0

頁︑最決平一七年七月一五日裁判

集刑二八七号五七一頁︑最判平一八年六月二

0

日判時一九四一号三八頁︑最決平二

0

年九月二九日判タ︱

二八

一号一

七五

頁︒

( 7 )

藤永幸治ほか編﹃大コンメンタール刑事訴訟法第六巻[第三五:宋!第四三四条ご(青林書院ヽ一九九六︶五

O

一I五

O

二頁[原田國男

F

原田國男﹁上告審の早早刑審査と量刑破棄事例の研究︵下こ判時了

七六

六号

三頁

以下

二頁

︹﹃

量刑

断の

実際

︹第

一二

版︺

︵立花書房︑二

0

0

八︶所収︑二六四頁以下︑三

0

八頁

︺︒

(

8

)

原田

・前

掲注

︵7

)

︱‑

︱‑

頁︹

前掲

注(

7)

所収

︑三

0

頁︺

( 9 )

原田

・前 掲注

︵7 )

︱‑

︱‑

頁︹

前掲

注(

7)

所収

︑三

0

頁︺

( 1 0 )

原田・前掲注(7)

一三

頁︹

前掲

注(

7)

所収

1 0

八頁︺︒この立場から︑本件第一次上告審判決が永山事件第一次上告審

判決の示した基準を確認的に判示したと理解する︒

同﹃

量刑

判断

﹄・

前掲

注(

7)

三ニ

ニ頁

( 1 1 )

東京高判昭五六年八月ニ︱日判時一〇一九号二

0

頁 ︒

(1 2

)

最高裁が上告棄却する場合だけでなく︑原判決を破棄する場合であっても︑職権調査を行ない︑判断を示すのが通例であ

り︑刑訴法四

0

五条二号の﹁最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと﹂にあてはまるか否かが重要な意味を持っていな

いことも理由に挙げられる︒そして︑このことは︑四

0

五条の上告理由に該当するか否かの判断を示すことなく︑職権破棄

を行なうことも許されるとする判例からも窺える︒例えば︑最判昭二

八年

︱ 一

月二七日刑集七巻︱一

号 ︱ ︱

1 0

三頁︒同判決に

賛成するものとして︑藤永幸治ほか編・前掲注(7)五四一ー五四二頁[原田國男]ヽ伊藤栄樹ほか著者代表﹃刑事訴訟法

[ 新 版 ] 第 六 巻

§ 三 五

︱l§四一八

﹄ ︵

立花

書房

一九九八︶四五一頁芦杢田孝夫

] 0

それでは︑どのような場合に死刑選択を行ない︑どのような場合に死刑選択を回避すべきかという具体的実質的な基準として︑

(

永山事件第一次上告審判決が判示した基準はいかなるものであったのか︒

)  1 3

まず︑近時︑検察官による死刑の求刑がない事案で死刑判決が下された例がないことから︑死刑の求刑は死刑選択の大前提であ

第 如 で 謡 が 晟 さ れ な 笈 謡 雫 破 翌 禁 紐 助 麗 が

= 婆 れ 箪 件 に 吋 し

︑ 検 誓 が 死 燐 翌 翌 睾

将 盟 皮 を

し て 上 吃 た 腐

︱︱ ‑

︑ 具 体 的 実 質 的 な 死 刑 選 択 基 準 と し て の 内 容

︵ 八

一四 ︶

(10)

ない場合︑死刑は回避されやすい︒ が窺われやすいためであろう︒

巻 三 号

一名の故意の殺害を伴う犯罪で無期懲役に処

︵ 八

︶ ると考えられる︒また︑同様に︑近時︑殺害の故意を伴う犯罪による被害者の死亡が存在しない事例で死刑判決が下されたことも ないから︑殺害の故意を伴う犯罪による被害者の死亡も死刑選択の大前提と言えよう

次に︑被殺者数は戦後一貫して極めて重要な因子であり︑複数︑特に三名以上になると格段に死刑となりやすい傾向にあると言

える︒しかし︑三名以上殺害の事例でも︑審級間で結論が割れた事案もある一方︑被殺者が一名の事例でも︑永山事件第一次上告

審判決以降︑本件判決までに最高裁は二

0

件で死刑としており︑被殺者数が絶対的甚準とはなっていない︒従って︑被殺者数で一

定のふるい分けをした後︑以下の因子の存否及び程度を考虚する必要がある︒

第一に︑影饗度が重大な因子として︑以下のものが考えられる︒

まず︑重要と考えられるのは︑犯行の罪質及び目的である︒特に身代金目的であると︑被殺者が

一名であっても︑死刑の傾向が

極めて強い︒また︑保険金目的の場合も同様である︒その他の利欲目的などその他の目的の場合には︑被殺者が二名以上の場合で あって︑以下に検討するような他の加重因子がある場合に︑死刑とする傾向が窺われる︒

また︑殺害を伴う前科があり︑今犯でも殺害した場合︑極めて死刑になりやすい︒

されて服役し︑仮出獄後又は仮釈放後に再び一名の故意の殺害を伴う犯罪を行なった場合︵被殺者通算二名事例︶︑今犯の被殺者

が一

名でも︑近時の判例は︑死刑とする慣行を半ば確立したと言ってよい︒これは︑被殺者通算二名事例の場合︑犯罪傾向の深化 同様に︑犯罪傾向が窺われるという観点から︑複数の被害者を巽なる機会に殺害した事例は︑複数の被害者を同

一の機会に殺害

した事例に比べて死刑になりやすい︒

これは︑服役こそしていないものの︑規範の壁を再度乗り越える点で犯罪傾向が強く看取さ

れるためであると考えられる︒これに対し︑被殺者二名の事例のうち同の機会に二名を殺害した事例には︑罪責を相当高める何

らかの事情が見受けられることが極めて多い︒逆に言えば︑同一の機会に二名を殺害した事例で︑罪責を相当高めるような事情が

関 法 第 六

(11)

に多い

︒ る︒

六 さらに︑永山事件第一次上告審判決が摘示しなかった因子であるものの︑近時︑共犯事例において︑主導性がある場合には︑極

めて死刑になりやすい傾向にある︒また︑そこまでいかなくとも︑共犯者と対等の場合や重要な役割を担っていると評価される場

合も死刑となりやすい︒逆に︑共犯者に対して従属的立場にある場合︑死刑はほぼ回避されると言っ

てよい

同じく︑永山事件第一次上告審判決が摘示しなかった因子であるが︑計画性も重要な因子である︒特に身代金目的の事案で︑殺

害してから身代金名目で金銭を要求することを計画していた場合︑死刑の可能性が極めて強い︒また︑それ以外の目的であっ

ても

殺害の計画性が高い場合や用意が周到に準備されている場合は︑死刑となりやすい︒もっとも︑被殺者通算二名の事案では︑殺害

の計画性がなくとも︑死刑に十分なりうる︒同種犯罪や同種態様ならば︑犯罪傾向の深化が窺われやすいため︑なおさらである︒

逆に︑被殺者が二名又は一名の事案で︑重大な前科がなく︑計画性がない場合には︑死刑が回避されることも多い︒

また︑近時︑性的目的以外の犯行の場合︑特に利欲目的の場合に︑性的な被害が随伴したとき︑死刑になりやすい傾向が窺われ

第二

に ︑ 影響

度がこれまで挙げた因子ほど大きくないものの︑一定程度の影響を与える因子として︑動機の形成原因︑殺害方法

の執拗性又は残虐性︑遺族の被害感情︑社会的影響︑少年であることなどがある︒

反省悔悟︑生育歴︑従前の社会生活の状況︑それらから推測される改善可能性などを含むいわゆる主観的事情についても影響度

はそれほど大きくない︒実際には︑殺害の計画性がないなどの罪体関係が死刑回避に決定的な影響をもたらしていることが圧倒的

結局︑検察官の死刑の求刑と行為者による故意の殺害を大前提に︑被殺者数により一定の振るい分けがなされた後︑犯行の罪質

及び

目的︑殺害を伴う前科︑殺害の一回性︑共犯における主導性︑殺害の計画性︑性被害といった影響度が重大な因子の存否及び

程度により︑ほぼ死刑選択の当否が判断され︑その他の一定程度影響を与える因子の存否及び程度により︑若干の修正又は補完が

なされていると言える︒裁判所は︑おおむね︑被殺者数︑影響度が重大な因子の大部分を占めている罪体に関係する事情を中心に

第雫

謡 が

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れを窃︑謡雫破詈楚

覇麗 が

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れた

平 件 に せ

︑ 検 習 が死 刑漿 北翌 睾裔 砂 逸 反 を

主眼

し て 上 古 し た 閤

︵八

二 ︶

(12)

判断していると言え︑主観的事情が死刑選択に大きな影響を与えることは少ない︒

そして︑最高裁が︑﹁著しく正義に反する﹂︵著反正義︶として︑刑訴法四

応する情状の質的な差があり︑

のであると言える︒

いずれも死刑選択基準から極めて明白に逸脱したもので︑類似の事案とのバランスを著しく欠くも ( 1 3 )

詳しくは︑拙著﹃死刑選択某準の研究﹄︵関西大学出版部︑二

0

0 )

並びに脚注の判例及び文献参照︒最近の研究とし て︑前田雅英﹁死刑と無期刑との限界﹂原田國男判事退官記念論文集刊行会編﹃原田國男判事退官記念論文集新しい時代 の刑事裁判﹄︵判例タイムズ社︑二

0

) 0

四六九頁以下︒

四︑本件決定の検討

本件上告は︑控訴審でなされた無期懲役の判断に対して︑死刑選択基準に関する判例違反を主張して︑検察官によりなされたも のである︒こうした上告に対する判断は︑永山事件第

一次上告審後に九件あり︑本件が一

0

件目である︒

本件は︑被殺者二名で︑保険金目的であり︑死刑が選択される傾向が極めて強い類型である︒

加重因子の有無について見ると︑まず︑同一の機会に二名を殺害しており︑複数の被害者を異なる機会に殺害した事例に比べて︑

罪責は小さい︒また︑殺害の計画性はあるものの︑周到に準備されたものではなく︑十分に準備された事例と比べれば︑この点に おける罪責は劣り︑死刑を回避しうる事情と言える︒

殺害の計画性

第一

審が死刑を言渡したのに対し︑控訴審が死刑を回避した最大の理由は︑殺害の計画性はあるものの︑周到に準備されたもの

( 2 )  m

況 関

法 第 六

一巻

三 号

条二号により破棄した事案は︑刑の質的な差に対

六四

︵ 八

(13)

を素直に認めている︒

( 1 4 )  

てはないという事実を死刑を回避する事情としたことにあると考えられる︒

これまで︑被殺者二名又は一名の保険金目的の事案で最高裁において死刑判決が確定したのは︑

の計画があることで足りるとするのかが問われることとなった︒

六五

︵ 八

0

)

本件は︑殺害の計画性のない衝動的な事案とは異なる︒殺害の計画性がほとんどなかったわけではなく︑殺害を行ない︑保険金

を請求して詐取するという因果経過の基本的部分の計画は存在した︒もっとも︑その計画性は用意周到なものではなかった︒

いずれも計画性が高い事案で

あった︒それゆえ︑死刑選択に当たって︑計画性の程度が用意周到であることまで求めるのか︑それとも︑因果経過の基本的部分

第一審は︑犯行の態様が計画的であることを指摘して︑因果経過の基本的部分の計画が存在したことを死刑を選択する事情と捉

えているように思われる︒さらに︑第一審は︑海中へ転落しようとした際に係船柱に自車を衝突させるなど想定外の事態が生じて

も動じることなく犯行を敢行し︑その事態を犯行後の弁解内容に取り入れるなど大胆かつ狡猾な側面も持ち合わせていることを合

わせて指摘している︒これは︑計画性の程度が用意周到といえる程度まで至らなくとも︑臨機応変に対処した場合には計画性が高

い場合に準じて考えているように思われる︒しかし︑臨機応変に対処したことは︑計画性がないことを裏付けることになるはずで

あり︑計画性が高く︑計画通りに粛々と実行した場合とは悪質さの程度に差があると言わざるを得ない︒

一方︑控訴審は︑本件が殺害の計画が杜撰で具体的ではないため︑計画性の高い事案に比べれば︑死刑がやや選択され難いこと

多くの場合︑保険金目的の事案は計画的であり︑しかも︑保険金の請求及び詐取を十全に行なうために︑殺害を行ない︑保険金

を請求して詐取するという因果経過の全般にわたって計画性が高度であることも多いと思われる︒そのため︑保険金目的の事案は︑

利欲目的であって計画性が高いという死刑を選択させやすくする事情を併せ持っているために︑たとえ被害者が一名であっても︑

極めて死刑になりやすい︒逆に︑保険金目的であっても︑計画が杜撰な場合には︑死刑を回避しうることとなる︒

とは言え︑本件の被殺者は二名であり︑被告人の罪責は重大である︒また︑計画性の乏しい衝動的な強盗殺人に比べれば︑因果

珀雫 謡が

.0

婆れ を含

︑謡 雫破 翌禁 翫霞 が扇 され た中 件に 対し

︑燐 警が 死儡 緊翌 睾裔 盟反 を

主喪 て

5し た 腐

(14)

巻︱

二号

経過の基本的部分の計画は存在している︒

そして︑保険金を得た場合の使途も︑不倫のための費用捻出のために始まった長年にわ たる借入金の返済であり︑社会的に見てやむにやまれぬと評価することは到底できない

て刑訴法四

︱ 一 条二号により破棄するほどではないと判断したと見るぺきである

認されたと言えよう︒

反省の程度 ︵八

0

九 ︶ それゆえ︑本件は死刑の選択も十分ありえた事案であろう

︒控訴審も︑﹁強度の利欲犯罪を計画し︑現にためらいもなく

二名の

尊い人命を奪い去ったという犯罪類型が︑それ自体極刑を科すべき有力な要素を帯有することは疑いがない﹂とし︑﹁その本来の 刑責は十分極刑に値する﹂としつつ︑﹁被告人の刑責は誠に重大であるものの︑積極的に死刑を選択すべきものと断ずるにはなお

ちゅうちょを感じる﹂としている︒

また︑最高裁も︑﹁被告人の罪責は誠に重大であるから︑本件は被告人に対して死刑を選択す ることも考慮に値する事案というべきである﹂としており︑死刑と無期懲役の限界事例であったことが窺われる

これらのことを踏まえれば︑仮に原審が死刑の判断をしていれば︑最高裁は死刑を維持する判断をしたであろうと考えられる

逆に︑本件では︑控訴審が無期懲役の判断をしている

最高裁が死刑を相当を考えていたとしても︑﹁著しく正義に反する﹂とし 本件は︑従来︑死刑選択の薔然性が極めて高いと考えられてきた被殺者二名の保険金目的の事案においても︑因果経過の基本的

部分の計画だけでなく︑計画全般にわたって用意周到なものであることが求められ︑計画全般にわたって用意周到とまで言えなけ

れば︑死刑の回避もありうることを示した点で意義深い︒

これにより︑計画性を中心に犯行の全容を慎重に認定する必要性が再確 審の判決言渡しに至るまでそれを維持した

︒このような事情を踏まえて︑反省を

( 1 5

していないことが死刑判決を導いたと見られなくもない

しかし︑既に述べたように︑反省を含めた主観的事情は死刑選択の際に重視されておらず︑裁判所は罪体に関係する

事情を中心 本件被告人は︑第一審途中で否認に転じ︑第

( 3 )  

関 法 第 六

六六

(15)

六七 それゆえ︑第一審が死刑を言渡した最大の理由は︑既に述べたように︑計画の態様が計画的であることで足りると評価したとこ

ろにあると考えるべきであり︑反省をしていないことが重視されたわけではない︒また︑控訴審が死刑選択を回避したのも︑控訴

審で被告人が反省を示したことが重視されたわけでもない︒控訴審も︑﹁被告人の反省の点については︑経過全体をみる限り︑被

告人に有利に解するとしても︑極めて不十分なものにとどまっているものといわざるを得ず︑少なくとも︑それ自体を死刑選択を

避けるべき方向に働く有力な要素とみることは到底できない﹂としているのである︒

本件は︑従来︑死刑選択の蓋然性が極めて高いと考えられてきた被殺者二名の保険金目的の事案において︑検察官が死刑選択基

準に関する判例違反を主張して上告したものの︑最高裁が棄却したものである︒その最大の理由は︑計画性が低いことにあった︒

死刑選択の際に計画性が相当重視されていることが改めて示されたと言える︒

( 1 4 )

前田・前掲注

( 1 3 )

四九

三頁

( 1 5 )

前田・前掲注

( 1 3 )

四九三頁は︑本件の犯行後の態度が死刑回避に至る事情であるとするが︑

むしろ死刑を選択させる事情であり︑このような理解は失当であろう︒

第 加 で 死 猥

品さ れな 宮︑ 欝李 破翌 禁翫 霞が 晟さ れた 中件 に翌

︑倹 誓が 死燐 翌翌 睾将 盟屡 巖し て上 茫た 嵩

④ 総 括

に判断している︒

本件

の場

合︑

︵ 八

0

八 ︶

犯行後の態度は︑

参照