資産除却債務の会計処理と将来予測
著者 加藤 盛弘
雑誌名 同志社商学
巻 53
号 2‑3‑4
ページ 1‑16
発行年 2001‑12‑15
権利 同志社大学商学会
ドウシシャ ダイガク ショウガッカイ
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000007218
資産除却債務の会計処理と将来予測
加 藤 盛 弘
はじめに
Ⅰ 資産除却債務会計2000年改正公開草案の概要
Ⅱ 1996年草案と2000年改正草案の主要な違い
Ⅲ 資産除却債務会計処理法についての設例による考察
Ⅳ わが国電気事業会計関係法令による除却債務の会計処理法 おわりに
は じ め に
2000年2月にアメリカ財務会計基準審議会(FASB)から公開草案『長期資産除却債 務の会計』(Accounting for Obligations Associated with the Retirement of Long−Lived As-
sets)が公表された。これは1996年2月に公表された公開草案『長期資産の閉鎖また
は除去に関する負債の会計』の改訂版である。この改正草案は,長期資産(たとえば原 子力発電施設や沖合の油井など)の取得・建設あるいは運転・使用によって発生する資 産除却債務を,その債務の決済のために除却時に必要とされるであろう将来キャッシュ
・アウトフローを見積もり,それをある利子率で割り引いて得た現在価値(公正価値)
によって負債を認識・測定することを規定する。さらにいえば,将来の資産除却にさい して支払われるであろうキャッシュ・アウトフローを見積もって負債を計上し,同時に その金額をもって借方側を関係長期資産として両建て計上し,さらに負債については計 算上の利子費用を,そして資産については減価償却によって費用化するのである。改正 草案はこのような長期資産の除却債務の会計処理を規定する新しい基準である。
その改正草案による会計処理法の骨子については,すでに雑誌『會計』において考察 し
1
たが,紙幅の関係で必ずしも十分に論ずることができなかった。そこで本稿では,主 として,(1)96年草案と2000年改正草案の主要な違い,(2)2000年改正草案による より複雑なケースについての会計処理法を設例によって考察し,前稿を補完したいと考 える。
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1 加藤盛弘「長期資産除却債務の会計−除却コスト・負債の認識・測定と将来予測−」『會計』第160巻 第5号(2001年11月)。
(151)1
Ⅰ 資産除却債務会計 2000 年改正公開草案の概要
2000年改正草案の基本的会計処理構造については,すでに前稿において考察したの で重複を避けたいが,ここでは後の考察との関係で,そのポイントをごく簡単にまとめ ておこう。
資産除却債務についての会計実務はこれまで,会計基準が存在しないためにまちまち だという。ある企業では資産が物理的に除却されるまで何の会計処理もせず,したがっ て除却債務は帳簿上で認識されない。ある企業では,FASB ステイトメント第19号の パラ37の規定を使用して,資産除却原価を見積もり,その金額を当該資産の稼働期間 にわたって減価償却費として費用化する。貸方は減価償却累計額である。したがって,
資産の取得原価を超過して減価償却費および減価償却累計額が計上されることになる。
またある企業では,借方費用に対する貸方を,負債として計上するとい
2
う。
改正公開草案による資産除却債務の新会計基準は,有形長期資産の除却にかかわる債 務が発生したとき,それが財務会計概念ステイトメント第6号の負債の定義に合致する 限り,その負債金額を公正価値で測定し,借方:関係長期資産,貸方:資産除却負債,
として両建て計上することを義務づけるものである。その負債の公正価値は,資産除却 債務の市場が存在しないので,現実には,除却債務を履行するとするならば必要とする であろう将来キャッシュ・アウトフローの発生の可能性を加重平均して得た,期待キャ ッシュ・フローをある利子率を用いて割り引く期待現在価値法によって算出される。
上記の両建て計上によって記録された負債は,その後,利子配分法によって時の経過 による利子費用を計上するとともに,貸方は負債の増額として処理される。また,除却 債務履行のための見積キャッシュ・フローの修正(増額)は,当初に計上された,借 方:資産,貸方:負債,の変更として扱われる。
関係資産の増額として計上された資産除却原価は,当該資産の耐用年数中に減価償却 によって配分・費用化される(Summary)。
このように改正草案による資産除却債務の会計は,除却に要すると考えられる将来の キャッシュ・アウトフローを見積もって資産・負債として両建て計上し,その計算上算 出された資産・負債に係わる費用を計上する会計であるだけに,そこには多くの見積,
仮定,判断が組み込まれる予測の会計となる。
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2 Financial Accounting Standards Board, Exposure Draft(Revised),Proposed Statement of Financial Accounting Standards, Accounting for Obligations Associated with Retirement of Long−Lived Assets, February 17, 2000, pars. 57 and 58.以後,本改正草案からの引用は,本文中に(par. xx)と示す。
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2(152)
Ⅱ 1996 年草案と 2000 年改正草案の主要な違い
1996年2月に発行された最初の草案『長期資産の閉鎖または除去に関する会
3
計』に は123のコメントレターが寄せられた。それについての4年に及ぶ再審議を経て公表さ れたのが2000年改正草案である(par. 39)。その両者の主要な違いについて考察してお こう。問題の所在が側面から浮かび上がってくると考える。
1 負債範囲の拡大
両者のもっとも大きな違いは,草案が認識対象とする負債範囲である。96年の当初 草案は以下のように規定していた。
「本ステイトメントは長期資産の閉鎖または除去についての法的あるいは解釈的 債務を負うあらゆる実体に適用される。本ステイトメントの範囲に含められる固有 の負債は以下のすべての特徴を持つ債務である。
a.その債務は長期資産の取得,建設,開発または初期の運転によって生ずる。
b.その債務は長期資産の閉鎖または除去にかかわっており,その資産の現在の運 転または使用が終わるまで履行できない。
c.その債務はその資産が目的とする用途に使用される限り,事実上回避できな い。」(96 : par. 4)
それに対して,2000年改正草案は次の3つのカテゴリーに属する債務をいずれも,
資産除却債務の対象とするとしている(par. 7)。
a.債務が資産の取得,建設,開発によって発生した。
b.債務が資産の使用期間にわたって比例的にあるいは非比例的に発生した。
c.新しく制定された法律,規則あるいは契約規定の変更によって,あるいは別の ことで,他の実体に対する債務または責任が発生することによって,資産の耐 用年数のどこかで債務が発生した。
つまり,96年草案は認識対象とする債務を,原子力施設等の債務と同性質を持つ債 務に限定していた。その例として以下のものを挙げている(96 : par. 6)。
a.原子力施設の退役
b.沖合の石油・ガス生産施設の解体および除去 c.鉱山施設の閉鎖,埋め立て,除去コスト
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3 Financial Accounting Standards Board, Proposed Statement of Financial Accounting Standards, Accounting for Certain Liabilities Related to Closure or Removal of Long−Lived Assets, February 7, 1996.なお,本草案か らの引用は,本文中に(96 : par. xx)と示す。
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d.埋め立て地の閉鎖および閉鎖後のコスト
e.危険廃棄物保管施設の閉鎖および閉鎖後のコスト
したがって,資産の運転期間中に生ずる債務は対象外とされている(96 : par. 38)。 また資産の運転または使用が終わるまで債務の履行ができないとしている(先のb)。
2000年改正草案は,96年草案の先のaおよびbの特徴を削除し(pars. 48 and 50)
(cは保持),対象債務を96年草案の範囲を超えて拡大することにしたのである。改正 草案では概念ステイトメント第6号の負債の定義およびその特徴に合致する除却債務で あることが強調されている(pars. 5 and 6)。それが上述のパラ7の規定が意味するとこ ろである。
「閉鎖あるいは除去債務」から「資産除却債務」への用語の変更は,債務の拡大をあ らわすものだという(par. 46の注)。
このような対象債務の拡大は,基準の適用範囲を特定産業から一般化することであ り,資産除却という将来事象に係わる負債・費用の予測計上の一般化を論理化すること になろう。
2 期待現在価値法による公正価値評価
資産除却債務会計の草案は,96年草案も2000年草案もともに,長期資産の除却債務 を現在価値で測定し,その金額をもって負債勘定に計上するとともに,関係資産勘定の 借方に記入する点において違いはない。
96年草案は,「閉鎖または除去に関する負債は,その債務を履行するために必要とさ れるであろう見積将来キャッシュ・アウトフローの現在価値を反映しなければならな い。その見積将来キャッシュ・アウトフローの現在価値を測定するために用いられる割 引率は,その債務が発生したときに有効な……リスク・フリー利子率である。」(96 :
par. 11)としている。この測定法は2000年改正草案にいわせれば,一組の期待キャッ
シュ・フローを単一の利子率をもって割り引く伝統的な現在価値法である(par. 82)と いう。その方法は比較的簡単であるが,約定キャッシュ・フローのある資産および負債 の測定に適合するものだとしている(par. 82)。それに対して2000年改正草案は,資産 除却負債の当初認識は公正価値(fair value)によるとし,その公正価値は,現在の環境 のもとで,活発な取引市場において意思のある第三者によって,その債務履行のために 支払を要求される金額である(par. 13),とする。しかし現実には除却債務を決済する 活発な市場は存在しない。そこで活発な市場での決済がもし可能だとすれば,第三者が 要求するであろう金額を「見積もる」ことが必要になる。その有力な評価技法の一つが
「期待現在価値法」(expected present value technique)である。FASBはほとんどの企業 が「公正価値評価のために期待現在価値法を使用する」ものと考えている。
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4(154)
期待現在価値法は,幅のある期待キャッシュ・フローについて,それぞれの発生確率 をもって加重平均した金額を,同じ利子率を用いて割り引くことによって現在価値を算 定する方法である(par. 83)。その利子率に改正草案は,信用調整リスク・フリー利子 率を用いるとしている(par. 19)。2000年草案ではこの測定法の方が,市場金額を利用 できない「見積キャッシュ・フローの時期または金額が不確定な状況にあっては,伝統 的な現在価値法よりも優れている」(par. 83),と考えられている。
このように,資産除却債務測定法につての,96年草案の伝統的現在価値法から2000 年草案の期待現在価値法への転換は,より不確実な将来キャッシュ・アウトフローの見 積に対応することをふまえての変更であることがわかる。
3 移行期の会計処理法と移行金額の測定
96年草案は移行期の会計処理および移行金額の測定についてつぎのように規定して いた(96 : par. 30)。
「本ステイトメントの最初の適用にあたって……,長期資産の閉鎖または除去に ついて現存する負債を認識しなければならない。実体はあたかも本ステイトメント の規定がその債務が発生したときに発効していたかのように,閉鎖または除去の負 債,閉鎖または除去の資産化された原価,その減価償却累計額,および時の経過に よる負債現在価値の変化によってもたらされた累積期間の費用(原価)を認識しな ければならない。」
「その決定は,閉鎖または除去債務についての過去の期間において知られていた 情報に基づいてなされるべきである。必要ならば合理的な見積を用いてもよい。」 つまり,移行にさいして,ステイトメントが閉鎖債務発生時にすでに発効していたか のように処理し,閉鎖に係わる資産,負債,減価償却累計額および,ステイトメントの 適用によってもたらされるであろう費用(利子および減価償却費)と,以前に使用して いた会計方法による金額との差額を累積的影響の修正(accumulative−effect type of ad- justment)として明示しなければならない(96 : par. 104)ということである。またその 金額の測定には,債務発生時の過去の情報を用いることとしたのである。
これに対して多くの回答者たちは,前段の認識規定(資産,負債や累積的影響額の認 識)には賛成したが,「移行金額を測定するのに過去の期間の情報使用を義務づける条 件には賛成しなかった」(par. 124)という。その要件はあまりにも複雑であり,妥当で ないというのである。
そこで,2000年改正草案はそのような回答をふまえて,以下のように,前段につい ては96年草案と同様の規定とするが,後段の移行規定について変更した。
「本ステイトメントの最初の適用にさいして,実体はその財政状態表において以
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下の項目を,負債発生時において本ステイトメントの規定が発効していたかのよう に認識する:(a)本ステイトメントの採用日までの累積利子を修正した存在する資 産除却債務についての負債,(b)関係長期資産簿価の増額として資産化された資産 除却原価,(c)資産化された原価についての減価償却累計額。」(par. 34)
「本ステイトメントの最初の適用によって生ずる金額は,本ステイトメント採用 日現在の情報,現在の仮定,現在の利子率を用いて測定される。」(par. 34)
これは実施の便宜(難しさ)を考慮してのことである(par. 34)という。
この移行期の処理および移行金額の決定については,後に設例にもとづいて再考察す る。
4 開示
開示についても96年と2000年草案との間で若干の違いがあるが,それは主として上 述の,(1)負債範囲の拡大と,(2)負債金額測定法の変更にもとづくものであり,開示 についての考え方そのものの変化ではない考える。むしろ開示については,除却に係わ る資産,負債金額の測定にあたって用いられる諸仮定および評価法等についての情報開 示が共通して求められていることに,注目すべきであろう。それはこの資産除却債務会 計の予測,見積および仮定に依拠する性質に係わっているものといえよう。
Ⅲ 資産除却債務会計処理法についての設例による考察
2000年改正草案による資産除却債務会計処理法の内容は複雑である。そこで以下,
改正草案の示す設例に基づいて,資産,負債金額の具体的測定法や移行期の金額の測定 法,および会計処理法について考察しよう。
1 期待現在価値法を用いて資産除却負債を測定する基本的設例
公開草案は以下の設例を挙げ,資産除却債務に対する負債の当初認識とその処理方法 を示している。
設例1(par. 142):
某企業は2002年1月1日に,沖合の石油プラットフォームの建設と設置を完成す る。その企業は耐用年数末である10年後に,そのプラットフォームを解体撤去するこ とを法的に義務づけられている。本ステイトメントの要件にもとづいて,企業は2002 年1月1日にその資産除却債務に対する負債を認識し,資産除却コストを資産化する。
企業は期待現在価値法を用いて負債の当初現在価値を見積もる。
公正価値評価において使用される重要な仮定はつぎのごとし:
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6(156)
a.労務費は,沖合の石油プラットフォーム解体撤去のために,請負業者を雇うのに 必要な現在の市場賃金に基づいている。企業はキャッシュ・フローの各見積幅に対 する確率の評価を以下のように定める:
キャッシュ・フロー見積 確率の評価 期待キャッシュ・フロー
$100,000 25% $25,000
125,000 50 62,500
175,000 25 43,750
$131,250
b.企業は移転価格に適用する労務費の比率(80%)を用いて,配分される間接費お よび設備費を見積もる。その間接費比率が当該産業で契約者によって使用されるも のと異なると考える理由はない。
c.請負業者は典型的にはその仕事による利益を出すために,労務費および配分され たコストに利益マージンを加算する。使用される率20% は,当該産業において契 約者が沖合の石油プラットフォームの解体撤去にあたって一般に稼得する利益であ ると,企業は理解する。
d.請負業者は典型的には10年間発生しないプロジェクトについて,今日の価格に
「固定する」不確実性および予見できない状況を負担することのプレミアム(市場 リスク・プレミアム)を要求する。そのプレミアム額を,インフレ修正見積キャッ シュ・フローの5% と見積もる。
e.2002年1月2日のリスク・フリー利子率は5% である。企業はその信用状態の 影響を反映するために,利子率を3.5% 修正する。したがって,期待現在価値を計 算するための信用調整リスク・フリー利子率は8.5% である。
f.10年間にわたって年4% のインフレーション修正をする。
さらに,2011年12月31日に,当該企業は内部の労働者を用いて資産除却債務を
$351,000で決済すると仮定する。その債務の見積に用いるキャッシュ・フローに10
年間変化がないと仮定すると,企業はその債務の決済によって$89,619の利得を得る であろう(par. 143)。
労務費 $195,000
配分された間接費および設備費 156,000
(労務費の80%)
発生原価の合計 351,000 資産除却債務(ARO)に対する負債 440,619 債務の決済による利得 $89,619
資産除却債務の会計処理と将来予測(加藤) (157)7
公開草案は上記の設例に基づいて,以下のような除却負債の認識および測定と,それ に基づく仕訳を示している(par. 143).
2002年1月1日のAROの当初測定は以下のようにして得られる。
期待キャッシュ・フロー(1/1/02)
期待労務コスト(aによって) $131,250 配分される間接費および設備費用(0.8×$131,250)(b) 105,000 請負業者の利益マージン〔0.2×(131,250+105,000)〕(c) 47,250 インフレ修正前期待キャッシュ・フロー 283,500 10年間について年4% のインフレーションを仮定(f) 1.4802 インフレ修正期待キャッシュ・フロー 419,637 市場リスク・プレミアム(0.05×419,637)(d) 20,982 市場リスク調整後期待キャッシュ・フロー 440,619 10年間について年8.5% の信用調整リスク・フリー
利子率を用いて割り引いた現在価値(e) $194,879 利子配分法による利子増加表
年 度 負債(1/1残高) 利子増加 負債(12/31残高)
2002 $194,879(×0.085) $16,565 $211,444
2003 211,444 17,973 229,417
2004 229,417
・
・ 省略
2010 406,100
2011 406,100 34,519 440,619
減価償却は定額法を用いるとすると,償却費は年々$19,488(194,879÷10)である。
したがって各年度の費用は以下のようになる。
費用スケジュール
年度(末) 利子費用 減価償却費 費用合計
2002 $16,565 $19,488 $36,053
2003 17,973 19,488 37,461
・
・
2010 31,814 19,488 51,302
2011 34,519 19,488 54,007
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8(158)
そこで,各年度の仕訳は以下のようになる。
2002年1月1日:
長期資産(資産除却原価) 194,879
ARO負債 194,879
ARO負債の当初公正価値を記録 2002〜2011年12月31日:
減価償却費(資産除却原価) 19,488
減価償却累計額 19,488
資産除却原価の減価償却費を定額法で計上
利子費用 利子スケジュールによる
ARO負債 利子スケジュールによる ARO負債の利子費用を計上
2011年12月31日:
ARO負債 440,619
未払賃金 195,000
配分された間接費および設備費用 156,000 ARO負債の決済利得 89,619 ARO負債の決済を記録
このように改正草案は除却負債の決済による損益を記録するものとしている。
2 資産除却負債が初年度以降においても発生し,キャッシュ・アウトフローの見積額 が増加する設例
設例2(pars. 147 and 148):
①某企業は2002年12月31日に原子力施設を設置・稼動させる。その施設は耐用期 間終了の20年後に,退役(decommission)を法的に義務づけられる。企業は汚染 が生ずるにつれて,その施設の耐用年数期間にわたって,資産除却のための負債を 認識し,資産除却原価を資産化する。以下の表は,その施設が90% 汚染された2004 年12月31日までの,その負債の各部分の測定に用いた,割り引かれていない期待 キャッシュ・フローおよび信用調整リスク・フリー利子率である。
割り引かれていない 信用調整リスク・
日 付 期待キャッシュ・フロー フリー利子率
12/31/02 $23,000 9.0%
12/31/03 1,150 8.5%
12/31/04 1,900 9.2%
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②2004年12月31日に当企業は,2002年および2003年12月31日に認識した負債 部分の割り引かれていない期待キャッシュ・フローの見積を10% 増加させる。
上記の設例に基づく諸項目の測定および仕訳は以下のようになる(pars. 147 and 148)。
A.資産除却債務(ARO)の当初測定:
発 生 日
12/31/02 12/31/03 12/31/04 市場リスクを調整した期待キャッシュ・フロー $23,000 $1,150 $1,900 信用調整リスク・フリー利子率 9.0% 8.8% 9.2%
割引年数 20 19 18
ARO負債の発生日現在価値 $4,104 $244 $390
[例えば,$4,104は23,000×(1+0.09)−20で算出される]
B. 2004年に発生した期待キャッシュ・フロー改訂額の測定
期待キャッシュ・フローの改訂(10% 増加) $2,300 $115 信用調整リスク・フリー利子率 9.0% 8.5%
割引残存期間の年数 18 18
改訂額についてのARO現在価値 $488 $26
[例えば$488は2,300×(1+0.09)−18で算出される]
C. 2002年12月31日に発生した負債の簿価
キャッシュ・フロー
年 度 負債残高(1/1) 利子増加(9.0%) 見積額の変化 負債残高(12/31)
2002 $4,104
2003 $4,104 $369 4,473
2004 4,473 403 $488 5,364
($488はAROの当初測定のBによる)
D. 2003年12月31日に発生した負債の簿価
キャッシュ・フロー
年 度 負債残高(1/1) 利子増加(8.5%) 見積額の変化 負債残高(12/31)
2003 $244
2004 $244 $21 $26 291
($26はAROの当初測定のBによる)
E. 2004年12月31日に発生した負債の簿価
キャッシュ・フロー
年 度 負債残高(1/1) 利子増加(9.2%) 見積額の変化 負債残高(12/31)
2004 $390
同志社商学 第53巻 第2・3・4号(2001年12月)
10(160)
F.合計負債の簿価
キャッシュ・フロー 合計負債 年 度 負債残高(1/1) 利子増加 見積額の変化 新発生負債 の簿価(12/31)
2002 $4,104 $4,104
2003 $4,104 $369 244 4,717
2004 4,717 424 $514 390 6,045
(403+21) (488+26)
上記の各項目の計算によって,各年度末の仕訳は以下のようになる。
2002年12月31日:
長期資産(資産除却コスト) 4,104
ARO負債 4,104
当期に発生したARO負債の当初公正価値を記録 2003年12月31日:
減価償却費($4,104÷20) 205
減価償却累計額 205
資産除却コストの減価償却費を定額法で計上
利子費用 369
ARO負債 369
ARO負債についての利子費用を計上
長期資産 244
ARO負債 244
当期に発生したARO負債の当初公正価値を記録 2004年12月31日:
減価償却費〔($4,104÷20)+(244÷19)〕 218
減価償却累計額 218
資産除却コストの減価償却費を定額法で計上
利子費用(C, D, Fによる) 424
ARO負債 424
ARO負債についての利子費用を計上
長期資産(B, Fによる) 514
ARO負債 514
期待キャッシュ・フロー改訂によって生じた負債変化を計上 長期資産(A, E, Fによる) 390
ARO負債 390
当期に発生したARO負債の当初公正価値を記録
資産除却債務の会計処理と将来予測(加藤) (161)11
この設例が示すように,当初認識後に発生した利子費用,新たに発生した除却負債,
さらには,すでに認識された負債の見積キャッシュ・フローの変更が,資産および負債 として両建て計上されるのである。
3 移行規定による累積的影響修正の設例
この設例は2002年度末(1月1日開始)発行の財務諸表に適用される移行規定を例 示的に説明するものである。2000年度および2001年度の比較表示が求められる。
設例3(pars. 153−155)。
①某社はFASB ステイトメント第19号『石油ガス製造会社の財務会計および報告』
の規定によって,資産除却債務に関する金額を認識してきた。したがって本ステイ トメント適用以前には,貸借対照表においては減価償却累計額か,あるいは負債が 計上されていた。また,測定目的のためには,2002年1月1日現在の情報と仮定 が使用される。
②移行金額測定のための重要な仮定は,以下のとおりである。
a.資産除却債務にかかわる長期資産は,1998年1月1日に取得され,15年の耐 用年数をもつと見積もられる。
b.資産除却債務の100% が取得時に発生する。
c.信用調整リスク・フリー利子率は8.5% である。
d.減価償却には定額法を用いる。
e.2002年1月1日の情報と仮定に基づくARO負債についての割り引かれていな い見積期待キャッシュ・フローは,7,500万ドルである。8.5% の信用調整リス ク・フ リ ー 利 子 率 を 用 い る と,1998年1月1日 のARO負 債 の 現 在 価 値 は
2,206万ドルである。これはまた,本ステイトメントが発効していたとするな
らば,取得時に長期資産簿価への増加として記録されたであろう金額である。
f.ステイトメント19号のもとで見積もられる(割り引かれていない)資産除却
債務は6,700万ドルであった。当企業は年446万7,000ドルの減価償却費と減
価償却累計額を15年間にわたって,定額法で計上している。
本ステイトメント(改正草案)の規定によって測定される金額,ステイトメント19 号によって認識・測定された金額,および移行金額は以下のように計算される(単位 1,000ドル)。
A.利子配分表(信用調整リスク・フリー利子率:8.5%)
年 度 負債残高(1/1) 利子増加 負債残高(12/31)
1998 $22,060(×0.085) $1,875 $23,935
1999 23,935 2,035 25,970
同志社商学 第53巻 第2・3・4号(2001年12月)
12(162)
2000 25,970 2,207 28,177
2001 28,177 2,395 30,572
2002 30,572 2,599 33,171
:
2011 69,123
2012 69,123 5,877 75,000
仮定eによって,2012年12月31日の期待キャッシュ・フロー7,500万ドルが 与えられているので,1998年1月1日の現在価値$22,060は次の式で得られる。
75,000,000÷(1+0.085)15.
B.資産除却債務会計規定によって義務づけられる移行金額
1998 1999 2000 2001
負債(1/1)(Aによる) $23,935 $25,970 $28,177
利子(Aによる) $1,875 2,035 2,207 2,395
発生負債 22,060
負債(12/31) $23,935 $25,970 $28,177 $30,572 資産(1/1) $22,060 $22,060 $22,060 資産化される金額 $22,060
資産(12/31) $22,060 $22,060 $22,060 $22,060 減価償却累計額(1/1) $1,471 $2,942 $4,413 減価償却費 $1,471 1,471 1,471 1,471 減価償却累計額(12/31) $1,471 $2,942 $4,413 $5,884
(年々の減価償却費:22,060÷15=1,417)
C. FASBステイトメント第19号の規定によって記録されていた金額
1998 1999 2000 2001
負債あるいは減価償却累計額(1/1) $4,467 $8,834 $13,401 計上費用(見積原価6,700万ドル) $4,467 4,467 4,467 4,467 負債あるいは減価償却累計額(12/31) $4,467 $8,934 $13,401 $17,868
(年々の減価償却費:6,700万÷15=446.7万)
上記の計算表から得られた金額によって,移行時(2002年1月1日)に必要な仕訳 を示すと以下のようになる。
負債または減価償却累計額 17,868
(ステイトメント19号による記録)
長期資産(ARO規定) 22,060
減価償却累計額(ARO規定) 5,884 資産除却負債(ARO規定) 30,572
累積的影響額 3,472
資産除却債務の会計処理と将来予測(加藤) (163)13
2000年改正草案はさらに異なるケースでの,いくつかの設例を挙げているが,ここ では省略する。うえに紹介した設例とその処理の仕方によって,改正草案による資産除 却債務の会計処理構造が,移行金額の算定および処理方法も含めて,明らかになったと 考える。
上述の設例からもわかるように,資産除却債務会計は,資産除却債務の履行に必要な 将来キャッシュ・アウトフローの見積,その見積査定を行うにあたっての種々の仮定,
および高度な判断を不可欠なものとして内包している。
Ⅳ わが国電気事業会計関係法令による除却債務の会計方式
わが国電気事業会計においても,原子力発電施設の解体・撤去に係わる引当金規定が ある。「原子力発電施設解体引当金に関する省令」である。
同省令は第二条で,対象電気事業者は,毎事業年度,その事業年度終了日における原 子力発電施設の解体に要する総費用見積額を定め,通商産業(経済産業)大臣の承認を うけなければならない,としている。つまり,解体費用の総見積額自体について,ま ず,所轄大臣の承認を得なければならないわけである。
第三条では,「毎事業年度において,特定原子力発電施設ごとに,当該事業年度の積 み立て限度額が前事業年度においてその積み立て限度額として算定した金額を超えると きには,当該超える金額(……)を原子力発電施設解体引当金として積み立てなければ ならない」としている。
基本的には解体撤去に要する費用(解体放射性廃棄物の処分費用も含めて)の総見積 額を,発電電力量によって比例的に,引当金方式で費用計上することを義務づけたもの である。
このように省令に規定する会計方式は,対象が原子力発電施設に限定されており,ア メリカの2000年改正草案のように資産除却債務一般に広げられていないこと,あるい は除却負債が発生時の現在価値によって関係資産とで両建て計上されるものでない点な ど,会計方式としては2000年草案と基本的に異なるものである。設例3からわかるよ うに,むしろFASBステイトメント第19号に近いものであろう。それにしてもわが国 においても,資産除却費用の見積計上が,電気事業法による原子力発電施設という限定 されたものにしろ義務づけられていることは,見積費用計上の進展の深さを示すものと いえる。わが国においては,そのような高度な見積を要する会計処理が,行政の承認を 得ることによって支えられるのも一つの特徴とみられる。
同志社商学 第53巻 第2・3・4号(2001年12月)
14(164)
お わ り に
2000年改正草案による資産除却債務会計基準の特徴は,何よりも除却負債を公正価 値によって測定し,その金額をもって関係資産と除却負債とを両建て計上することにあ る。それはリース会計に類似した資産・負債の両建て計上であり,時価会計の導入であ る。その会計処理法の構造上の特徴についてはすでに雑誌『會計』に掲載した拙稿にお いて箇条書き的に列挙したので,重複を避けるとして,そのような処理法の根底に存在 するこのような会計の性質上の特徴は,本稿の設例においてよく示されているように,
不確定な将来キャッシュ・フローについての見積であり,その見積を遂行するにあたっ ての種々の仮定であり,それにともなって当然多くの判断が行使されることである。さ らにまた,資産除却負債の発生の認識には,高度に専門的な判断の行使が不可避となっ ている。資産除却負債はその認識の理論的根拠を根底的には,財務会計概念ステイトメ ントの負債の定義および特徴に,そして偶発事象の一般的会計基準としてのFASBス テイトメント第5号『偶発事象会計』に依拠している。そこには当然のことながら,法 的債務のみならず,解釈的債務も含まれている。除却債務のステイトメントも,除却債 務のなかに解釈的債務を加えるとともに,解釈的債務発生の判断の重要なポイントとな る「将来の犠牲を避ける余地がほとんど,または全くない」状況に関する判断指針の作 成について,多くの努力を払ってきた(96 : pars. 45−47)。しかし,なお合意に達し切 れていない状況とみるべきであろう。それほど資産除却負債の認識には高度に専門的な 判断をともなうということであろう。
今日のアメリカの会計は「情報の適合性」を論理に,将来キャッシュ・フローを会計 理論構築の基本概念に取り込み,負債を将来発生するであろうキャッシュ・アウトフロ ーに向けて理論的に拡大し,また,その受け皿となる会計基準としては,偶発事象の一 般的会計基準たるFASBステイトメント第5号を設けている。将来発生する損失事象 の理論化が大きな流れになっていると考えられる。本会計草案による資産除却債務会計 も,まさにその一典型領域であり,アメリカ会計が挑戦している焦点である(将来キャ ッシュ・アウトフローの負債化・費用化)と考える。
なお,Financial Accounting Series No. 220(May 29, 2001)によると,FASBは改正草 案の再審議によって,そのプロジェクトの対象負債を「法的強制力のある債務」(legally enforceable obligation)に狭めることを暫定的に決定し,その改変について財務会計基 準諮問委員会(FASAC)メンバーの意見を聴取したという。解釈的債務の発生の認識 について実施上の合意を得るうえで,なお検討すべき余地があったということであろ う。そこでFASB は,合意の困難な解釈的債務については切り離しをはかったとみる
資産除却債務の会計処理と将来予測(加藤) (165)15
ことができよう。
2000年改正草案の再審議は上述のような過程を経て完了し,2001年6月に最終ステ イトメントであるStatement of Financial Accounting Standards No.143, Accounting for As-
set Retirement Obligations が公表された。その143号の考察については後日を期した
い。 (2001. 10. 5)
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