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教員研修留学生プログラム改編の取組み

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教員研修留学生プログラム改編の取組み

菅長 理恵 【キーワード】 教員研修留学生、国費外国人留学生、全学日本語プログラム、専門教育、 初等中等教育機関との連繋 1 改編まで 1-1 教研生プログラムの概要 「国費教員研修留学生プログラム」(以下「教研生プログラム」)とは、海外の初 等中等教育機関の現職教員等を対象とし、より専門的で深い知識を身につけること を目的として我が国の教員養成系大学で研修を行うプログラムである。昭和55 年 (1980 年)に創設され、開発途上国等 64 ヶ国を対象に毎年度 150 名前後を新規 採択し6ヶ月間の日本語予備教育を含めて1年半の研修を実施している1「国費研 究留学生プログラム」と同様、大学院レベルという位置づけであるが、学位取得を 目的としない「研修」である点で異なっている。 研修希望者は文部科学省発行の『教員研修留学生ガイドブック』2(以下『ガイ ドブック』)により研修先大学の特色、指導教員の専門領域などを調べて研修先の 希望を出し、採用決定時に、受け入れ大学・指導教員が決められる。 1-2 専門教育受入れ実績 東京外国語大学留学生日本語教育センター(以下「留日センター」)では、当初、 東京外国語大学が受け入れた教員研修留学生(以下「教研生」)の最初の半年の日 本語予備教育のみを担当し、1年間の専門教育は外国語学部教員が担当していた。 平成 15 年(2003 年)から、上記ガイドブックにセンター教員もリストアップさ れ、日本語教育に関する専門教育も担当することとなった。当初の受入れ数は、大 学全体で10 名という枠内のうち、数名を留日センターで担当する形をとっていた が、2007 年度からは全員を留日センターで受け入れることとした。 1 文部科学省の以下のページを参照。 (http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/007/gijiroku/030101/3-2.htm) 「国費外国人留学生制度の各プログラムの概要」 2 在外公館へ送付される紙媒体の他、文部科学省の以下のページにも電子媒体で記載されている。 (毎年更新)(http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/boshu/1288172.htm) 東京外国語大学 留学生日本語教育センター論集 38 : 167 ~ 181, 2012

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留日センターでの受入れ実績は以下の通りである3 表1 期間 人数 出身国 2003 年 10 月~2005 年 3 月 2 名 インドネシア、モンゴル 2004 年 10 月~2006 年 3 月 3 名 韓国、モンゴル、アフガニスタン 2005 年 10 月~2007 年 3 月 6 名 インドネシア、韓国(3)、タイ、ロシア 2006 年 10 月~2008 年 3 月 6 名 タイ(2)、韓国(2)、カザフスタン、モロッコ 2007 年 10 月~2009 年 3 月 7 名 インド、インドネシア、タイ(2)、中国、 モンゴル、米国 2008 年 10 月~2010 年 3 月 10 名 インド、カンボジア、タイ、韓国(4)中国(2)、 ロシア 2009 年 10 月~2011年 3 月 7 名 タイ(2)、韓国(3)、中国、メキシコ 2010 年 10 月~2012 年 3 月 7 名 タイ、韓国(3)、中国、ベトナム、ベネズエラ 1-3 2008 年度までの研修内容 2003 年度から 2008 年度までのプログラムの体制は、来日後半年間は日本語の 予備教育、残り1年を専門教育とし、専門教育段階で指導教員が 1 名ずつついて 研究指導を行う形であった。 半年間の予備教育は、全学日本語プログラム4立ち上げ前(2003 年度まで)は研 究留学生と教研生でクラスを構成(初級、初中級の 2 クラス)して行っていた。 2004 年に朝日町キャンパスに統合してからは、全学日本語プログラムが開始され、 各人にあったレベルにプレースしての日本語教育が実施できるようになった。 専門教育は、指導教員との1 対 1 で行われた。教研生は、世界各国の初等中等 教育機関の教員であるが、勤務先は様々であり、日本の小学校・中学校・高等学校・ 専門学校にあたる幅広い学齢の教育にあたっている。研修内容としては、日本語の ブラッシュアップ、勤務校で使える教材の作成を希望する教研生が多く、また、作 3 表は専門教育までセンターで行う教研生(センター所属の教研生)の数である。半年間の予備教 育のみセンターで担当し学部で専門教育を行った教研生は数に含まれていない。 4 東京外国語大学で学ぶ短期交換留学生や研究留学生等を対象とした日本語プログラム。100 レベ ル(初級)から800 レベル(超級)までの8レベル、総合や技能別クラスがのべ週 78 コマ開講 されている。レベルはプレースメントテストによって決まるが、各人のニーズによって技能別ク ラスを選択して受講できる。

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成教材も多様である。教材作成にあたっては、日本語文法・語彙のチェックも必要 とされる。このような個別指導は留日センター教員が日頃予備教育の現場で熟練し ている形態であり、指導教員は担当の教研生の希望に沿ったきめ細かな指導、教材 作成への助言を行った。また、4月から7月の期間には、留日センターで開講され るREX事前研修5の一部科目の聴講、都内見学への参加なども実施された。 2 教研生プログラムの改編 2-1 改編の契機 2008 年度には、上記教研生プログラムの改編の機運が高まったが、そこには、 3つの契機が存在する。 一つは、2004 年度から始まった教研生専門教育65 年目となり、この間の様々 な試行の蓄積が具体的な提言の形を取り始めたことである。2007 年度の『センタ ー活動記録(部内資料)』には、以下のような記述がある。 <3. 課題> 教員研修留学生の背景は様々であるが、総じて教員研修留学生には自分の日本語 運用能力を向上させたいという希望が強い。専門教育期間に入っても日本語の授業 を受け、さらに上のレベルに到達しようと努力している。確かに日本語教員として 日本語運用能力を高めることは必要であるが、海外の初等中等教育機関で要求され る基礎的な日本語(文型、語句、漢字等)が留学終了時期になっても不確かな留学 生が見受けられる。 それぞれの母国では直接法で日本語を教えることは少なく、教える環境も違って いることから、専門教育は個別指導としていたが、各教員研修留学生の日本語レベ ルと関係なく全教員研修留学生を集めて、初中級のさまざまな教え方を研究し、模 擬授業を行わせるなどの機会を設け、全教員研修留学生の初中級レベルの日本語教 育能力を確実なものにする必要があると思われる。また、日本語上級レベルの学生 であれば、近隣の小学校に出向き、日本の教育を体験することも有意義なことと考 えられる。 本センターが教員研修留学生を受け入れるようになって4年が経過した現在、専 門教育のあり方を見直す時期が来ている。 (横田淳子) 5 REXとは外国教育施設日本語教員派遣事業の通称であり、地方自治体が各教科の教員を姉妹提 携都市の教育機関などに日本語日本文化担当の教員として派遣するもの。留日センターでは、派 遣前の日本語日本文化教授法の研修を行っている。 6 留日センターでの教研生受け入れは2003年10月からであるが、半年の予備教育期間があるため、 専門教育の開始は2004 年 4 月からである。

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二つ目は、受け入れ人数の拡大である。当初は外国語学部と留日センターとが分 担して受け入れる体制であったため、表 1 の通り人数は数名だったが、学内で全 く別々の教育が行われていることへの疑義が呈され、2007 年度より全員をセンタ ー所属とする方向で固まった。これにより、指導担当教員は全て留日センター教員 となり7、最大10 名の指導教員をあてる必要が出てくる。業務の大幅な拡大となる ため、効率化が求められることとなった。 三つ目は、平成20 年(2008 年)7 月 4 日付文部科学省事務連絡において実施さ れた「教員研修留学生の更なる内容の充実を目的としたプログラム」意向調査であ る。これは、従来の教研生と指導教員の1 対 1 の個別指導形態を「一般コース」 とし、大学が用意したプログラムにおいて特色ある研修を実施するものを「特別プ ログラム」として、『ガイドブック』に2 種類のコース/プログラムを提示しよう という動きである。留日センターでは、2009 年度用の『ガイドブック』原稿作成 にあたって、この「特別プログラム」に提供する研修内容を構築するか、従来型の 「一般コース」のままにするかの検討・判断を迫られた。 2-2 改編指令 筆者が教研プログラム担当となったのは、2008 年 10 月からである。10 月受入 れの教研生 1 名の指導を担当することとなり、教研プログラム運営委員会の主催 する担当者会議に出席した。その席での議題は、上記「特別プログラム」への応募 の検討であり、それと連動する形での教研生プログラムの改編であった。 また、特に、教研生・研究留学生の予備教育を担当する「6 ヶ月コース」運営委 員8より日本語予備教育が必要ないレベルの教研生が半年間在籍することの弊害が 強く指摘された旨が報告され、改編が急務であることが強調された。 その場で提案されたのが、REX事前研修担当者と教研生プログラム担当者は兼 任とし、両者を合わせて「現職者研修担当」とすることであり、次年度REXプロ グラム担当者である荒川・菅長の両名に、改編への具体的取り組みが指示された。 ただし、即座の対応は困難であることから、2008 年 10 月受入れのプログラムは 移行期とし、2009 年 10 月受入れからの改編とすることを申し出て了承された。 なお、「特別プログラム」への応募は見送られた。 7 ただし、受け入れは外国語大学として行い、学部大学院の聴講も可能であることを示すため、『ガ イドブック』には従来通り外国語学部教員もリストアップされている。 8 特に、鈴木智美教員より、1 年半を通じたプログラムへの改編案が示された。

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2-3 プログラムの課題 改編の取り組みの第一歩として、2008 年 10 月に、2003 年からの教研生指導を 担当した教員全員にアンケート調査を実施し、教研生の志望動機・教育歴・研修へ の取り組み姿勢・日本語レベル・成績・修了研究テーマ・専門教育の指導内容・学 生からの要望、の諸点について調べた。 また、教研生運営委員会委員より課題についての申し送りを受けると同時に、各 年度の活動記録から課題と提言を拾いだす作業を行った。 課題として抽出されたものを整理すると、以下の11 点となる。 <教研プログラムの課題> 1) 教研生のニーズ・修了研究のテーマが多様であり、個別対応にならざるをえ ないこと 2) 教研生の日本語レベルが多様であり、日本語力強化が必要な者もある一方、 予備教育が不要と考えられるレベルに達している者もいること 3) 来日後半年間は予備教育期間と決められているため、予備教育不要なレベル の教研生であっても半年間は予備教育プログラムを受講しなければならず、 教研生から不満の声が出ていること 4) 全学日本語プログラムでは700レベル以上の開講コマ数が少なく、予備教 育プログラムで定める必要コマ数(12 コマ)を提供できないこと 5) 日本語力強化を希望する教研生は、半年の予備教育期間終了後も継続して全 学日本語プログラムの受講を希望していること 6) 個別指導が基本であるため、教研生を対象とした専門コマが設定されておら ず、プログラムの核に欠けること 7) 教授法等のスキルアップ、トレーニングの機会が少ないこと 8) 日本の教育機関の見学機会が少ないこと 9) きめ細かな指導を行うため、教研生一人に指導教員一人がつき、週1コマ換 算で指導していたが、受入れ数が10 名になるとコマ数が多くなりすぎること 10) 来日時に1年半全体を見渡して研修の計画を立てられるような設計になっ ていないこと 11) 教研生専用の居場所や修了研究のための機材が用意されていないこと

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2-4 改編の取り組み1 (2008 年度) 以上のような課題のうち、特に「日本語力の強化」「教授法トレーニング」「教育 機関見学」については、既に2-1 の一つ目で掲げた 2007 年度からの申し送りがあ り、2008 年度から 2009 年度の前半にかけて、以下のような取り組みが行われた。 1)日本語力強化が必要な学生は、1年半を通じ全学日本語プログラムを受講さ せる。 2)教授法トレーニングの一環として、REXプログラムのマイクロティーチン グ9に生徒役として参加させる。 3)教研生科目の試行として「外国語教授法」を聴講させる。 4)元埼玉県長期派遣10研修教員の勤務校(県立高校)への訪問を実施。単なる 見学に終わらせぬため、レポート作成、報告会を実施する。 また、移行期間の措置として、2008 年度 10 月受入れの教研生プログラムにお いては、指導教員による1 対 1 の指導形態を継続して多様なニーズに対応しつつ、 2009 年度秋学期から教研生専門教育プログラムを試行することとした。また、早 い段階から専門の研究に取り組めるよう、指導教員との顔合わせを来日直後に設定 した。 これらの改編は、2008 年度の教研生プログラム運営委員会11の主導によって行 われたものである。 2-5 改編の取り組み2 (2009 年度) 2009 年度 10 月受入れから新規教研生プログラムをスタートさせるために取り 組んだのは、プログラムの全体構成の改編である。最も大きな変更点は、プログラ ムを半年の予備教育期間と1年の専門教育期間に分けず、1年半のプログラムとす るということである。1年半のプログラム全体を見渡せるよう、『教研生ガイドブ ック 履修の手引き』を作成、最初の半年間を第1 期、次の半年間を第 2 期、最 後の半年間を第3 期として、それぞれの期間の履修モデル12を示すこととした。教 研生の日本語レベルやニーズに合わせ、柔軟な日本語科目の履修を可能にすること 9 REX事前研修プログラムで行われている模擬授業 10 埼玉県教育委員会から留日センターに派遣される 1 年間の教員研修プログラム。毎年 1 名が派遣 されてきている。 11 委員会メンバーは、荒川、善如寺、藤森、藤村の 4 名である。 12 例えば、来日時初級レベルであれば、第 1 期初級、第 2 期初中級、第 3 期中級のように継続して 日本語プログラムを履修し、専門科目は第3 期の必修とする。来日時に既に上級レベルであれば、 第1 期に上級日本語と専門科目、第 2 期以降は専門科目を中心に履修する。このような履修のモ デルを示し、併せて標準履修コマ数を示す。

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が一つの目的である。また、来日直後から1年半の研修全体を見渡すことで、研修 期間を有益に使うよう自覚を促すことも狙っている。 文部科学省の概要によれば、教研生プログラムは半年間の予備教育が標準ではあ るが、日本語力が十分である場合には直接専門教育に配置してもよいとされており、 改編可能と判断した。この改編により研究留学生と教員研修留学生双方の予備教育 を扱う6 ヶ月コースから離脱することとなった13が、コース運営委員会および教授 会でも承認を得ることができた。 また、もう一つの大きな変更点は、指導教員 2 名で全教研生の指導を担当する 体制となることである。来日時から指導教員のもとで研修計画を立て、日本語力強 化から専門科目の受講・修了研究まで、1年半を有効に使えるようにする。2 名の 指導教員はそれぞれ教研ゼミを開講し、教研生はそのゼミに所属する形となる。 2009 年度は、日本語レベル 400 以下はAクラス、500 以上をBクラスに振り分け、 指導を実施した。 上記「教研ゼミ」と併せて、新たに「日本語教育研究Ⅰ」という専門科目コマを 設定した。これは、日本の初等中等教育の現場を見学したり生徒や教員と交流した りすることを通して、自国の教育と比較し、日本の教育の良い点を学ぶことを目標 とするものである。近隣の初等中等教育機関に対し「教員研修留学生プログラムへ の協力依頼」文書を提出、学校訪問・授業見学・教員との懇談について設定を依頼 し、お返しとして国際理解プログラムへの協力を約束する形で、連携を実現14した。 更に、半年の予備教育期間のしばりを外したことにより、来日直後から専門教育 科目の履修・聴講が可能になった。他コース担当者との話し合いにより、研究留学 生専門科目、日本語・日本文化研修留学生(以下「日研生」)専門科目のうち、教 研生も履修可能なものを提示してもらい、専門科目履修案内に明記することとした。 これは、研究留学生・日研生・教研生共通の『専門科目履修案内』としてまとめら れた。また、学部・大学院の専門科目について聴講可能であること、指導教員名入 りの聴講願を提出することで聴講を許可してもらえることを確認した。 2-6 2009 年度の教育内容 2009 年度春学期開始時のオリエンテーションで、2008 年 10 月来日の教研生 10 13 半年間の予備教育プログラムであるため、「6 ヶ月コース」と呼ばれていたが、教研生プログラム 離脱後は、「研究留学生プログラム」となった。 14 これらの連繋の実現にあたっては、留学生交流事業担当の小松、宮城教員をはじめ、小金井市の 国際交流ボランティアグループちQ人の方々のご協力を得た。また、各校の担当者のご尽力も欠 かせなかった。記して感謝の意を表する。

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名に対して『教研生ガイドブック 2009 年度履修の手引き』を配布し、学外研修 のスケジュールを始め、春学期に行われるREX事前研修の履修方法、秋学期から 開講される教研ゼミ、2 月末の修了発表会・修了レポートについて説明、履修相談 を行った。各教研生担当の指導教員もオリエンテーションに参加し、履修登録の助 言を行った。教研生は日本語レベルの差が大きく、日本語で行われるREX事前研 修の教授法等の授業が十分受講可能な者がいる一方、書道や生け花などの文化体験 授業と国際交流基金訪問のみの受講を希望する者もいた。ただし、研修生の初中級 レベルの日本語教育能力を確実なものにするため、マイクロティーチングでは生徒 役としての積極的な受講を勧めた。 秋学期には、2009 年度 10 月来日の教研生を迎え、『教研生ガイドブック』を配 布、1年半の研修の全体像を示すとともに、10 月からの履修の仕方を説明した。 また、2008 年度来日の教研生との顔合わせを行い、情報交換を勧めた。2008 年度 来日の教研生に対しては、新規開講科目の教研ゼミ・日本語教育研究Ⅰの詳細につ いて説明した。 秋学期の履修登録状況を見ると、教研ゼミAクラスに配置される300~400 レベ ルの2008 年度来日教研生は、全学日本語プログラムの総合クラス(週 5 コマ)と 各人のニーズに合わせた技能別クラスを複数(2~3 コマ)とっている。一方、教 研ゼミBクラスで既に 700 レベルの履修が修了している韓国の教研生は、新たに 提供された専門科目群の履修、学部大学院の科目聴講を登録している。また、来日 したばかりの2009 年度来日教研生のうち700 レベルにプレースされた韓国の教研 生2 名も、早速 10 月から学部開講科目の聴講を始めている。 新規開講科目の教研ゼミでは、教研生の修了研究の多くが教材作成であることに 鑑み、教材分析などを中心に演習を行った。また、5 ヶ国の教研生がいることから、 ABクラス合同で互いの国の教育事情などについて紹介し合う機会を設けた。教研 ゼミには埼玉県長期研修教員も参加した。このようなグループでの演習のかたわら、 オフィスアワーを定め、修了レポート作成に向けた個別指導を実施した。 「日本語教育研究Ⅰ」として設定した初等中等教育機関訪問では、以下のような 手順を設けて実施した。 (1)学校訪問・授業見学の計画作成 → 担当教員・訪問校に提出 日程調整 (2)学校訪問・授業見学の実施 → レポート提出 訪問・見学先へのフィードバック

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(3)国際理解教育への協力:教研生によるプレゼンテーション 以上の手順により、公立小学校1 校、公立中等学校 1 校(中高一貫校)、私立中 等学校1 校(中高一貫校)、公立高校 1 校の訪問・見学が実現した。2008 年 10 月 来日の教研生向けに企画したが、(1)(2)については日本語レベルの高い2009 年10 月来日の教研生も適宜参加した。 また、こちらで提供する訪問先以外にも、自分で訪問先を開拓しても良いとした ところ、自主的に全学日本語プログラムの専門日本語クラスにTAとして参加した 教研生もいた。初級レベルの留学生に日本語を教える助手をすることで、教研生に とっては教授法のトレーニングになった。同時に、留学生にとっては、クラスの中 で手厚い個別指導が受けられるメリットがあり、担当教員にとっても助手の存在は 非常に重宝だったということである。 修了研究に向けて、教研生専用の部屋や使用機材が欲しいという声に応えるため、 センター内の空き研究室の一つを、教研生控室として提供することとした。また、 新規に購入したものではないが、使われていないPCやプリンターなどを設置し、 自由に使えるようにした。プリント用の紙やプリンター用インクなどは、授業経費 で購入して提供した。 12 月 18 日には学校見学報告会を実施し、印象的だった点の紹介や自国との比較 による考察など、学校訪問・授業見学で得た知見を互いにシェアした。 2 月 24 日には修了発表会を行い、1年半の研修の成果報告とした。発表題目は 以下の通りである。(発表者名は省略)

1 KOLHAPUR PUBLIC SCHOOL の教育 2 日本と中国の高校英語指導要領の比較 3 日本とロシアの英語教育 4 対面授業とe-learning の融合をめざして 5 教材『日本で暮らそう』 6 教材『アニメで学ぶ日本語』 7 日本語クラブ活動の教科書 8 私が作りたい教科書のコンセプトについて 9 韓国高等学校教科書(株)天才教育『日本語Ⅰ』の副教材集 10 中高生用の日本語教材作成

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同時に、レポートや作成教材などの成果物を『2009 年度教員研修留学生修了レ ポート集』としてとりまとめ、印刷15・刊行した。 2-7 改編の取組み3 (2010 年度) 2009 年度の取組みが好評であったため、2010 年度は基本的に 2009 年度の内容 を踏襲して実施したが、一部、「日本語教育研究Ⅰ」の内容と、単位・成績システ ムについて改訂を行った。 教研生プログラムは学位取得を目的とはしていないため、修了判定に基づき修了 証書は出すが、これまでは、特に単位や成績表を出すことはしていなかった。2009 年度に教研ゼミや修了発表・レポートについて「合格」という判定をしたところ、 事務方より出席状況や成績(A~D)の提出を願いたいという依頼が来た。そのよ うな形で成績をつけるのであれば、教研生の希望者にも成績を渡すことも可能であ ると判断し、成績表の形を整備することとした。 全学日本語プログラムについては従来から出席率と成績が毎学期出されており、 整備が必要なのは専門科目である。中でも、新規開講科目の「日本語教育研究Ⅰ」 について検討し、以下のように設定することとした。 ○ 週1コマ 15 週で1単位となる全学日本語プログラムに準じ、必修1単位を埼 玉県立高校訪問(5時限分)と見学発表会(準備・リハーサル・発表で5時 限分)、近隣中学校での国際理解授業(準備とリハーサル・授業実施で5時限 分)を満たせば与える。 ○ これに加えて、学校訪問とレポート提出1回を3時限分とみなし、5回で1 単位、特別日本語(週1コマ15 週)1学期間のTAで1単位を与える。 ○ 評価は平常点によるものとし、レポートや発表内容、準備状況等を勘案して 定める。 2-8 2010 年度の教育内容 春学期には、教研生が各人のレベルやニーズに合わせ、全学日本語プログラムの 履修・REX事前研修への参加・学部大学院科目の聴講を行った。 秋学期には、500 レベル以下の教研生 3 名をAクラス、600 レベル以上の 4 名を Bクラスとして教研ゼミを開講、併せて、日本語教育研究Ⅰによる学校訪問・授業 15 作成教材が紙媒体にとどまらず、音声や動画、コンピュータのシステムを利用したものが多かっ た。それらが紙媒体のレポート集には十分に反映されておらず、残念だった。

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見学を実施した。訪問先の中学校生徒に対して修了研究のアンケートを実施した教 研生もいた。全学日本語プログラムの履修、学部大学院の授業聴講も並行して行わ れた。 前年度と同じく、12 月 17 日に学校見学報告会、2 月 23 日に修了発表会を実施 した。発表題目は以下の通りである。 1 日本語、英語との比較を通じて学ぶ韓国語の音韻現象 2 日本語クラブの教材「はじめての日本語」作成 3 『おもしろい地理』 4 立川国際中学校の読書の傾向 5 『文法教材作成』 6 中日英語教育における欧米文化の体現 7 日本文化紹介 副教材集 2010 年度の修了生は、新規教研生プログラムとして受け入れた初めての修了生 である。全員意欲が高く、修了研究への取組みも見事だった。 修了発表会の後に、プログラムに関する満足度や要望を聞くアンケートを実施し たところ、項目全体にわたり評価・満足度は高かった。良かった点として上げられ た(自由記述)のは、「学校見学がとても良かった」「いろいろな日本語・日本文化 が勉強できてよかった」「日本の教育現場を直接参観できたこととREXプログラ ムがよかった」「学生ではなく社会人として研修できたので理解も好奇心もより深 まり勉強も大変面白かった」等である。一方、要望として挙げられていたのは、「も っと英語の授業を見学したいです」「もっと日本語の教授法の授業があればと思い ます」の2点だった。 3 改編後の振り返り 以上、2009 年度から 2010 年度にかけての教研プログラム改編によって、2-2 で 挙げた課題の全てが解決された。課題と解決の対応は以下の通りである。 <課題-解決> 1) 個別のニーズへの対応――指導教員による個別指導を実施 2) 日本語レベルの多様性への対応――半年の予備教育期間というしばりを外

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して1年半を通じたプログラムとし、それぞれの日本語レベルに応じて日本 語科目の履修を課す 3) 予備教育不要な教研生への対応――上記2)の通り日本語科目履修を要件と せず、直ちに専門科目が履修・聴講できる体制とする 4) 上級・超級レベルのコマ数不足への対応――上記2)の通り、日本語科目に ついて必修コマ数を一律とせず、レベルにあった対応とする 5) 日本語力強化が必要な教研生への対応――1年半を通じて全学日本語プロ グラムの履修を可能とする 6) プログラムの核となる専門科目の設定――「教研ゼミ」および「日本語教育 研究Ⅰ」を開講 7) 教授法等のトレーニング――REX科目の活用、「教研ゼミ」の開講 8) 日本の教育機関見学――「日本語教育研究Ⅰ」により機会を提供 9) 指導教員のコマ数――教研プログラム担当教員 2 名に指導を集約 10)1年半全体の研修計画――来日時に『教研生ガイドブック 履修の手引き』 を提示、1年半のプログラムとしてオリエンテーションを行う 11)教研生専用の部屋と機材――511 研究室を教研生控室として提供 また、3)に関連して、来日直後から学部大学院専門科目の聴講が可能になった ことは、特に韓国からの教研生に好評であった。言語学を専門とする教研生は、東 京外国語大学ならではの外国語科目を聴講し専門性を高めることができたことを 喜んでいた。聴講した日本文化関連の科目で得た知見・情報を修了研究に生かして いた例も複数見られた。 6)8)に関連して、日本の教育現場を実際に見られる機会が提供できたことも 好評であった。日本で研修を受けた成果として、日本の風物の画像を撮りためてい く教研生は従来から多かったが、その画像コレクションの中に日本の小中学校や高 等学校の様子が加わった。それらが修了研究の教材に活用されている様子から、同 年齢の母国の生徒たちの興味関心をひく素材としての価値が非常に高いことがう かがわれた。また、実際に日本の教育現場を見て、時間に正確である点、校内が清 潔である点、生徒たちの行儀良さなどに感銘を受ける教研生が少なくなかった。 7)については、春学期の日本語力が前提となるが、日本人教員とともに教材研 究・教授法授業などに参加することで、日本語教授力を高める具体的なトレーニン グの機会が得られた。

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また、5)に関連して、日本語力強化のための全学日本語プログラムの継続的な 履修は、そのまま日本語教授法の習得にもつながるものである16 以上のように、教研生プログラムは、改編により、「より専門的で深い知識を身 につけるという」プログラム本来の目的を達成するためのサービスを充実させる効 果を挙げたと考えられる。 4 教研生プログラムの意義と展望 教研生プログラムの改編は、単に受け入れた教研生へのサービス提供の充実にと どまるものではない。プログラムを留日センターの教育全体の中に位置づけること で、プログラム自体の意義がより鮮明になると考えられる。 一つは、教研生プログラム担当者がREX事前研修プログラム担当を兼務し、「現 職者研修担当」と位置づけられていることから見えてくる。2009 年度、2010 年度 に両プログラムを兼務し、双方の乗り入れを強化したことで、教研生の教員・職業 人としての価値が再認識された。海外に日本語教員を送り出すためのREX事前研 修プログラムに、実際に海外で日本語教育を行っている教員が参加することは、海 外事情の情報交換や教授法の錬磨において大きな意味を持った。 REXプログラムで派遣される日本人教員にとってのメリットは以下の通りで ある。 ○ まず、ノンネイティブの日本語教員と接することで派遣後に接する同僚への イメージを持つことができる。 ○ 次に、知りたい情報について直接取材することができる。 ○ 更に、教材分析、教材および試験作成などを協働して行うことで、現場の日 本語教師としての知見に触れることができる。 ○ マイクロティーチングの生徒役になってもらい、問題点を指摘してもらうこ とで、教授法・指導法を具体的に磨くことができる。 以上のように、両プログラムの乗り入れは、教研生にとってのメリットだけでな く、REX研修生へのメリットも非常に大きいのである17。両者の連繋を深めるこ とで、相乗効果が期待できる。 16『東京外国語大学 留学生日本語教育センター論集33』収載の鈴木智美「日本語・日本文化研修 留学生プログラム――東京外国語大学における日研生プログラムの現状と展望――」に「日本語 科目を受講することそのものが、教授法の勉強につながっていく」「日本語教授法の生きたモデル に日々触れることになる」との指摘が見られる。 17「現職者研修」には、この他に「埼玉県長期派遣」がある。派遣教員は教研生とともに教研ゼミに 参加することで、教員という共通項での連帯感を持ち、一人きりの研修の孤独感から免れている。

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もう一つは、「日本語教育研究Ⅰ」等を通じた学外の教育機関との連繋から見え てくる。教研生が小学校、中学校での交流事業に参加したり、国際理解教育の一貫 としてプレゼンテーションを行ったりする際、教研生は子どもたちへの接し方が非 常にうまく、楽しませながらやる気を引き出していることへの称賛が訪問先の教員 から寄せられることが多い。教研生が日本の教員を見て感じることが多いのと同時 に、日本の教員もまた、教研生から学ぶことは少なくないようである。日本の教育 現場が必要としている国際理解教育に効果的に協力できる留学生として、教研生の 派遣は非常に喜ばれている。日本の教育現場を知りたいという教研生側のニーズと、 教研生に来てほしいという学校側のニーズは非常にマッチしているのである。 以上の 2 点から、教研生の人的リソースとしての面が再確認できる。職業人と して学ぶ彼らは、ゼロからの指導を要する学生とは違い、教育経験と個々のノウハ ウを持って来日する。彼らの資質を引き出す機会を多く設けることで、教研生のス キルアップを図ると同時に、日本人教員や日本の教育現場への良い刺激を得ること ができるのである。 東京外国語大学における教員養成関連の授業にも、もっと教研生やREX研修生18 の存在が活用されてよいのではないだろうか。教材研究や教授法研究を協働して 行うことで、互いの刺激にもなり、成果を共有することもできるはずである。今 後は、留日センター内のプログラムにとどまらず、東京外国語大学全体としての 教育プログラムの中で、教研生プログラムの意義と活用を考えていきたい。 参考文献・資料 文部科学省『教員研修留学生ガイドブック』2003~2010 文部科学省HP 東京外国語大学留学生日本語教育センター 教研生プログラム運営委員会編 『教研生ガイドブック 履修の手引き』2009 春、秋 2010 春、秋 東京外国語大学留学生日本語教育センター『教員研修留学生修了レポート集』 2009,2010 教研生プログラム担当者会議資料2008 年 10 月~ 教研生運営委員会会議資料2009 年 4 月~ 『センター活動記録(部内資料)』2003 年~2010 年 18 職業人として学ぶという点で、REX研修生は教研生と共通している。現職者研修には、教育経 験のない大学院生のトレーニングより一歩進んだ地点からトレーニングが始められるという特 徴がある。

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鈴木智美「日本語・日本文化研修留学生プログラム

――東京外国語大学における日研生プログラムの現状と展望――」 『東京外国語大学 留学生日本語教育センター論集33』2007.3

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Reorganization of Teacher Training Student Program

SUGANAGA Rie 【 Key words 】 international students in in-service teacher training program(teacher trainees), Japanese Government Scholarship Students , Japanese Learning Program, cooperation with schools

The in-service teacher training program for international students (henceforth called teacher trainees program) started at the Japanese Language Center for International Students of Tokyo University of Foreign Studies in 2003. Reorganization of the program began in 2008 because of the increase in the number of trainees accepted, an inquiry from the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology as to whether we would apply for its "Special Program", and the 4-year accumulated experience of the professional education program.

The main points of reorganization are three: to change the program term from half year of Preparatory Education and one year of Special Education to a year and a half of Special Education; to change the system to which two supervisor guide all student from each one teacher guides one student; and to create new subjects for the international students in the teacher trainees program. The new program started in 2009. The principal object of one of the new subjects “Japanese Education Research ” is to cooperate with elementary schools and high schools.

The various problems in the old program were solved by this reorganization to the students’ satisfaction.

And, this reorganization isn't confined to the thing to work for the fulfillment of the service in the program just. By placing the teacher trainees program actively in the context of the whole educational program of JLC, it became clear that teacher trainees were important human resources and that they should be widely made good use of.

From now on, it is hoped that the teacher trainee program is made good use of in the context of the whole education system of Tokyo University of Foreign Studies.

参照

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