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不動産競売に係る制度改正の実証分析~一般不動産売買との比較を通じて~
政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU16702 大岡友輔
1. はじめに(1)
不動産競売取引は物件内部を自由に閲覧することが困 難である等の制度の歪みにより、一般の不動産市場にお ける売買に比べて売却価格は低く抑えられていると言わ れている。これに対応するため、不動産競売制度につい ては、2000 年代に複数の制度改正が行われてきている。
本稿においては、こうした不動産競売における複数の 制度改正がもたらした効果に着目し、不落データを含め た不動産競売に係る多年度のデータを用い、制度改正が 落札率、入札件数及び落札価格に与えた影響について実 証分析を行った。さらに、不動産競売と任意売却及び一 般不動産売買のデータを比較し、不動産競売と一般不動 産売買との売却価格差が大きいことを明らかにした。
2. 不動産競売制度の主な改正事項 2.1 短期賃貸借保護制度の廃止
短期賃借権とは、建物については 3 年以内の賃貸借契 約であれば、契約期間内において、抵当権設定よりも後 に設定された賃借権であっても、抵当権に対抗すること ができる権利である。本制度を悪用し、不動産競売を阻 害してきた事例が多数存在したことから、2003 年の法改 正によって廃止された。
2.2 最低売却価額制度の改正
従来は、不動産鑑定士の評価を元に最低売却価額が設 定され、それ以上の価格での入札が無い場合にあっては、
当該不動産競売を不成立とされていたが、2004 年の民事 執行法改正において、最低売却価額を売却基準価額に改 め、その 8 割以上の価格(買受可能価額)であれば競売 を成立させることとなった。
2.3 インターネットを利用した情報提供の導入 競売に付された物件の内容について、従来においては 競売が執行される裁判所に据え置かれる形により公開さ れていたが、2003 年の民事執行法改正により、インター ネットを利用した情報提供の方法(以下、「BIT システム」
(1)
本稿は論文の要約であるため、参考文献等については論文を参 照されたい。
という。)を利用したインターネットによる情報提供が広 まった。
3. 不動産競売における制度改正が与える影響につい ての実証分析
3.1 検証する仮説
「制度改正が不動産競売の円滑化をもたらし、落札確 率の上昇、競売案件ごとの入札件数の増加及び落札価格 の上昇させたのではないか」との仮説のもと、実際の不 動産競売におけるデータを用い、検証する。
3.2 データ
本稿では、データ制約の観点から、東京地方裁判所、
千葉地方裁判所、横浜地方裁判所及びさいたま地方裁判 所の本庁及び各支部で実施された競売事件を対象とし、
これらの地域において、競売制度改正の前後を捉えた 2001、2003、2004、2005 及び 2009 年度において開札が 行われた案件で、かつ居住用マンションに限定して分析 を実施した。control 変数は、最寄駅までの距離、地裁 ダミー、年度ダミー*最寄駅までの距離、専有面積、バル コニーダミー、総戸数、階数、総階数、建築後年数、SRC 造ダミー、管理費滞納ダミー、短期賃借権ダミー、賃貸 借ダミー、第三者占有ダミー、最低売却価額を用いた。
3.3 推計モデル
制度改正による影響については、以下のモデルにより 分析を行う。制度改正ダミーは、改正後であれば 1 を、
改正前であれば 0 を示すダミー変数であり、制度改正の 効果を確認するため、モデル(a)、モデル(b)及びモデル (c)ともに、本変数の結果に着目する。なお、αは定数項 を、εは誤差項を示す。
(a)
Pr(落札・不落ダミー
= 1)=
G(𝛼1+ 𝛽1制度改正ダミー
+ ∑ 𝛽2control変数
)(b)
N(入札件数
) = 𝛼2+ 𝛽3制度改正ダミー
+∑ 𝛽4control
変数
+ 𝜀1(c) lnP(落札価格
) = 𝛼3+ 𝛽5制度改正ダミー
+∑ 𝛽6control
変数
+ 𝜀22 (a)のモデルは、制度改正が落札率へ及ぼす影響を分析 するための Probit モデルであり、関数 G は標準正規分布 の分布関数を示す。被説明変数は落札・不落ダミーであ り、落札された案件であれば 1、不落であれば 0 を示す ダミー変数である。(b)のモデルは、制度改正が入札件数 へ及ぼす影響を分析するための OLS モデルであり、被説 明変数は入札件数である。(c)のモデルは、制度改正が落 札価格へ及ぼす影響を分析するための OLS モデルである が、不動産競売においては、不落であった案件において は落札価格が確認されないため、落札されたデータだけ を用いて分析する場合、セレクションバイアスが生じる。
そこで、本稿においては、へーキットモデル及びスイッ チング回帰モデルによる分析を実施した。
3.4 推計結果と考察 3.4.1 落札率
モデル(a)における推定結果は表-1 のとおりである。
BIT システム導入、短期賃貸借保護制度廃止については 1%水準、最低売却価額制度改正については 5%水準で統計 的に有意に落札率が上昇したことが確認された。
3.4.2 入札件数
モデル(b)における推定結果は表-2 のとおりである。
モデル(b)において、BIT システム導入、短期賃貸借保護 制度廃止については 1%水準で統計的に有意に入札件数 が増加したことが確認された。
3.4.3 落札価格
落札価格に関する推定結果は表-3 のとおりである。ヘ ーキットモデルとスイッチング回帰モデルでは係数及び 有意水準の差異はあるものの、双方のモデルおいて、落 札価格は各制度改正によって上昇したことが確認された。
表-1 推定結果(落札率)
表-2 推定結果(入札件数)
表-3 推定結果(落札価格)
4. 不動産競売と任意売却及び中古不動産売買価格と の価格差に関する実証分析
4.1 問題の背景と検証する仮説
不動産競売における落札価格について「一連の制度改 正を経ても、任意売却及び一般の不動産売買価格に比べ て低く抑えられているのではないか」との仮説のもと、
不動産競売と任意売却及び一般不動産売買間における価 格差について検証する。
4.2 データ
2012 年から 2014 年における、東京都、千葉県、神奈 川県及び埼玉県における 1 都 3 県で不動産競売、任意売 却及び一般不動産売買により売却された居住用マンショ ン物件の個別データを用いる。control 変数として、都 道府県ダミー、年次ダミー、最寄駅までの距離、専有面 積、SRC 造ダミー、総階数、階数、建築後年数、バルコ
係数 標準偏差
BITシステム導入ダミー 1.903679 *** 0.177896 短期賃貸借保護制度廃止ダミー 2.379518 *** 0.210086
最低売却価額制度改正ダミー 0.030601 0.219975
最寄駅までの距離 -0.870920 *** 0.071568
年度ダミー(2003)*最寄駅までの距離 0.212098 ** 0.089188 年度ダミー(2004)*最寄駅までの距離 -0.092948 0.109304 年度ダミー(2005)*最寄駅までの距離 -0.095886 0.104140 年度ダミー(2009)*最寄駅までの距離 -0.394543 *** 0.123737
地裁ダミー(東京) -0.618697 *** 0.162440
地裁ダミー(さいたま) -1.585154 *** 0.196756
地裁ダミー(千葉) -0.931440 *** 0.179811
専有面積 -0.001564 *** 0.000579
バルコニーダミー 1.879682 *** 0.326402
総戸数 0.002243 *** 0.000569
階数 0.265480 *** 0.024215
総階数 0.322022 *** 0.023669
建築後年数 -0.181952 *** 0.006458
SRC造ダミー 0.797125 *** 0.160113
管理費滞納ダミー -0.089958 0.134943
短期賃借権ダミー 0.728060 *** 0.198212
賃貸借ダミー -0.788224 ** 0.337954
第三者専有ダミー -1.123583 *** 0.278299
最低売却価額(2005年度以降は買受可能価額) -0.000060 0.000071
定数項 5.360559 *** 0.412418
補正R-square 0.1955
観測数 17684
※***,**,*はそれぞれ、1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す。
入札件数
係数 標準偏差
BITシステム導入ダミー 0.029255 *** 0.006196
短期賃貸借保護制度廃止ダミー 0.066619 *** 0.008647
最低売却価額制度改正ダミー 0.018516 ** 0.008258
最寄駅までの距離 -0.018095 *** 0.001915
年度ダミー(2003)*最寄駅までの距離 0.005268 ** 0.002351 年度ダミー(2004)*最寄駅までの距離 0.004448 0.003130 年度ダミー(2005)*最寄駅までの距離 0.007213 ** 0.003079 年度ダミー(2009)*最寄駅までの距離 -0.014541 *** 0.003524
地裁ダミー(東京) -0.015163 *** 0.005761
地裁ダミー(さいたま) -0.037347 *** 0.008235
地裁ダミー(千葉) 0.016751 *** 0.005795
専有面積 -0.000031 ** 0.000014
バルコニーダミー 0.056560 *** 0.014043
総戸数 0.000058 *** 0.000022
階数 0.000130 0.000986
総階数 0.008565 *** 0.001003
建築後年数 -0.003219 *** 0.000212
SRC造ダミー 0.017912 *** 0.006127
管理費滞納ダミー -0.003490 0.004596
短期賃借権ダミー 0.020653 *** 0.005972
賃貸借ダミー 0.013345 0.010503
第三者専有ダミー -0.056804 *** 0.014436
最低売却価額(2005年度以降は買受可能価額) -0.000007 *** 0.000002
補正R-square 0.1162
観測数 17684
※***,**,*はそれぞれ、1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す。
落札・不落ダミー(限界効果)
ln 落札価格
係数 標準偏差 係数 標準偏差
BITシステム導入ダミー 0.282341 *** 0.016143 0.274224 *** 0.015923 短期賃貸借保護制度廃止ダミー 0.225134 *** 0.020806 0.203465 *** 0.020136 最低売却価額制度改正ダミー 0.053663 *** 0.018542 0.044911 ** 0.018480 最寄駅までの距離 -0.153721 *** 0.009202 -0.151109 *** 0.008998 年度ダミー(2003)*最寄駅までの距離 0.034621 *** 0.008708 0.032975 *** 0.008678 年度ダミー(2004)*最寄駅までの距離 0.044249 *** 0.010465 0.045308 *** 0.010455 年度ダミー(2005)*最寄駅までの距離 0.079261 *** 0.010244 0.080165 *** 0.010220 年度ダミー(2009)*最寄駅までの距離 -0.116136 *** 0.011030 -0.106525 *** 0.011007 地裁ダミー(東京) 0.170401 *** 0.014186 0.178888 *** 0.014094 地裁ダミー(さいたま) -0.262416 *** 0.017982 -0.249760 *** 0.017753 地裁ダミー(千葉) -0.082556 *** 0.015483 -0.086751 *** 0.015408
専有面積 0.001099 *** 0.000056 0.001099 *** 0.000056
バルコニーダミー 0.352132 *** 0.031391 0.341300 *** 0.031104
総戸数 0.000218 *** 0.000050 0.000239 *** 0.000049
階数 0.014580 *** 0.002010 0.017198 *** 0.001981
総階数 0.055114 *** 0.002152 0.047512 *** 0.001968
建築後年数 -0.038145 *** 0.000865 -0.037329 *** 0.000806
SRC造ダミー 0.036872 ** 0.014544 0.042965 *** 0.014208
管理費滞納ダミー -0.120293 *** 0.011428 -0.117233 *** 0.011430 短期賃借権ダミー -0.208417 *** 0.017168 -0.216492 *** 0.017069
賃貸借ダミー -0.115248 *** 0.028619 -0.117265 *** 0.028619
第三者専有ダミー -0.233947 *** 0.024751 -0.215120 *** 0.024451
ミルズ比 2.064336 *** 0.108817
落札率 -3.116898 *** 0.159869
定数項 15.438230 *** 0.047878 18.679220 *** 0.139311
補正R-square 0.3331 0.3327
観測数 15850 15850
※***,**,*はそれぞれ、1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す。
(1)ヘーキットモデル (2)スイッチング回帰モデル
3 ニーダミー、所有者占有ダミー、短期賃借権ダミー、賃 貸借ダミー、第三者占有ダミーを用いた。
4.3 推計モデル
(d)のモデルは物件処分手段、(e)のモデルは経年変化、
(f)のモデルは不動産競売における物件占有状態に着目 して売却価格差を把握するための OLS モデルであり、α は定数項、εは誤差項を示す。
(d) lnP(売却価格) = 𝛼4+ 𝛽7競売ダミー+ 𝛽8 任意売却ダミー+ ∑ 𝛽9control変数+ 𝜀4
(e) lnP(売却価格) = 𝛼5+ 𝛽10競売ダミー∗年次ダミー + ∑ 𝛽11control変数+ 𝜀5
(f) lnP(売却価格) = 𝛼6+ 𝛽12競売ダミー∗ 占有状態ダミー+ ∑ 𝛽13control変数+ 𝜀6
4.4 推定結果
モデル(d)から(f)における推定結果は表-4 のとおり である。一般不動産売買と比較して、任意売却は 3.8%程 度、不動産競売は 37.7%程度、1%水準で統計的に有意に 売却価格が低くなっている。また、2012 年から 2014 年 にかけて一般不動産売買と競売との価格差は縮小してい るものの依然として価格差は大きく、また占有状態ごと の差異では大きな違いは見られなかった。
表-4 推定結果(価格差)
5. 裁判所競売の制度改正に係る政策提言
更なる不動産競売の円滑化のための政策提言として、
ここでは、分析結果を踏まえた裁判所競売に係る制度改 正について述べる。
まず1点目に、情報の非対称性の更なる解消である。
BIT システムの導入によって落札率等に正の効果が生じ ていることから、BIT システムにおけるデータ掲載の拡 充や、現在制限がかかっている物件の内覧について買受 人申請による内覧を認める等の制度改正により、更なる
情報の非対称性の解消を進めていくことが必要である。
2 点目に入札を有効とする下限価格についてである。
現在は買受可能価額以上の入札が有効となっているが、
これを悪用し、当該価格以上の値付けがされないように 反社会的な占有がなされることにより、競売が円滑に進 捗しないことも考えられる。最低売却価額制度改正によ って、落札率及び落札価格に正の効果がもたらされたこ とも踏まえ、参考価格制度への変更、または債権者が導 入を選択することができる選択制を導入すべきである。
3 点目が、物件の引渡についてである。不動産競売で は、物件の引渡における占有排除を自分自身の手で行わ なければならない。短期賃借権保護制度廃止による実証 分析結果を踏まえれば、買受人にとって占有排除に係る 負担の軽減及び競売物件に対する不安感を取り除くため の制度改正が必要である。一般不動産売買と同様に、落 札後に有状況の確認等について裁判所が実施することで、
買受人への所有権移転と物件引渡を同時とし、負担を軽 減することが望ましい。また、不動産競売においては物 の瑕疵について担保責任が生じないが、法制審議会の審 議内容を踏まえれば、物件情報の非対称を解消する措置 を講じた上で、検討されるべきであると考える。
6. 不動産競売の制度設計に係る政策提言
現在の不動産競売においては、債務者にとって「強制 的な売却であり、売却協力へのインセンティブが存在し ない」という課題は解決されていない状況にある。これ は、債務者にとって売却協力することによる利得が、任 意売却では後述のとおり存在する一方で、裁判所競売に おいては存在しないことに起因する。債務者の意向によ らず、確実に債権回収ができる制度として不動産競売制 度が存在するわけであり、債務者に売却の意向がないと 実施ができない任意売却でなければ売却協力のインセン ティブが働かないことは望ましくない。そこで米国の競 売制度を事例に、当該課題を解決するための不動産競売 の制度設計について考察を行う。
6.1 米国における非司法競売制度
米国においては、抵当権設定時に債権者と債務者が執 行契約を締結し、競売手続を両者が合意した民間の競売 実施者が行う非司法競売が広く普及している。競売手続 には幅広い選択肢が存在しており、必要としない手続を 省略することが可能となっている。また、当初の合意に 基づいて内覧等の物件情報の提供が円滑に行われるため、
競売物件について広範な情報が提供される。結果として、
競売費用の削減、売却期間短縮に繋がっている。
6.2 日本における制度設計の考察
米国における非司法競売は、債務者にとって高値売却
係数 標準偏差 係数 標準偏差 係数 標準偏差
競売ダミー -0.377260 *** 0.004500
任意売却ダミー -0.038286 *** 0.005120
競売ダミー*年次ダミー(2012) -0.408197 *** 0.007424
競売ダミー*年次ダミー(2013) -0.360279 *** 0.007392
競売ダミー*年次ダミー(2014) -0.350148 *** 0.008456
競売ダミー*所有者占有ダミー -0.393672 *** 0.005145
競売ダミー*短期賃貸借ダミー -0.365703 *** 0.037639
競売ダミー*賃貸借ダミー -0.238460 *** 0.033538
競売ダミー*第三者専有ダミー -0.321731 *** 0.008945
東京ダミー 0.291637 *** 0.002996 0.292554 *** 0.002995 0.291585 *** 0.002997 埼玉ダミー -0.337090 *** 0.004089 -0.336394 *** 0.004089 -0.336944 *** 0.004089 千葉ダミー -0.421366 *** 0.004038 -0.420500 *** 0.004038 -0.420941 *** 0.004037 年次ダミー(2013) 0.034757 *** 0.002901 0.031133 *** 0.003032 0.035342 *** 0.002900 年次ダミー(2014) 0.093942 *** 0.002974 0.090532 *** 0.003091 0.095263 *** 0.002970 最寄駅までの距離 -0.098307 *** 0.001030 -0.098515 *** 0.001030 -0.098319 *** 0.001030 専有面積 0.017652 *** 0.000060 0.017656 *** 0.000060 0.017706 *** 0.000060 SRC造ダミー 0.054038 *** 0.002891 0.053446 *** 0.002891 0.053877 *** 0.002891 総階数 0.009127 *** 0.000259 0.009166 *** 0.000259 0.009189 *** 0.000259 階数 0.004448 *** 0.000354 0.004468 *** 0.000354 0.004436 *** 0.000354 建築後年数 -0.026642 *** 0.000117 -0.026690 *** 0.000116 -0.026644 *** 0.000116 バルコニーダミー 0.060969 *** 0.004529 0.061053 *** 0.004530 0.060810 *** 0.004530 定数項 16.024130 *** 0.007293 16.023980 *** 0.007302 16.017250 *** 0.007289
補正R-square 0.7475 0.7474 0.7475
観測数 106433 106433 106433
※***,**,*はそれぞれ、1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す。
ln 売却価格
4 の動機がある抵当権設定時に競売協力に関する合意を取 っている点、当初の契約に盛り込む自由度が高い点、競 売実施者において迅速かつ高値売却のインセンティブが 存在する点において望ましい制度と考えられる。日本に おける制度設計を考える上で、不動産競売における売却 時においても、任意売却のように、任意的に売却協力を 行うインセンティブをさらに債務者に与える制度を導入 すべく、米国における非司法競売制度を参考として、考 察を行う。
6.2.1 手続の流れ
米国における非司法競売の事例に基づき、競売手続の 流れを考察したものが図-1 である。ポイントとなるのが、
抵当権設定時において競売実施者や内覧手続等の売却協 力等、手続について合意を行う点にある。これにより、
ケースに合わせた手続の省略、競売方式の選択等、自由 度の高い制度とすることができる。
図-1 競売手続の流れ
6.2.2 実務面における考察
非司法競売について、実務の観点から考察を行う。表 -5 は非司法競売を機能させる上でのポイントに係る考 察を示したものであるが、実務の観点からも、非司法競 売を日本で導入することは可能であるものと考えられる。
表-5 非司法競売に係る考察
6.2.3 売却協力へのインセンティブ措置について 任意売却では物件売却時において、インセンティブ措
置(売却協力の見返り)を実施しているが、売却協力の インセンティブをより高めるため、デポジットのスキー ムの導入が考えられる。表-6 はその概要であるが、抵当 権設定時に売却協力について契約に盛り込みつつ、併せ て融資金額の一定割合を債務者に拠出させ、物件売却時 において、売却協力等の前提をクリアした場合において、
プールした拠出金から債務者へインセンティブ措置を実 施するものである。
表-6 スキームの概要
6.2.4 インセンティブ措置の前提
抵当権設定契約時における合意において定めた内覧等 の売却協力を行うことを必須し、任意売却との差別化を 図るため、債権者の選択により、競売による売却が有利 に働いた場合を条件に追加することを可能とする。
6.2.5 導入するインセンティブ措置について
インセンティブ措置を考える上では、債務者にとって 利得があることに加え、競売手続の円滑化に資すること、
措置の導入にあたって弊害が生じないことが望ましいと 考えられる。これに当てはめると、実際に任意売却で採 られているインセンティブ措置のうち、非司法競売にお いては、転居費用、引渡時期の柔軟な設定、及び延滞損 害金の減免について導入が可能であるものと考えられる。
7. おわりに
不動産競売と任意売却との価格差が大きいことが実証 分析から明らかになったが、これは売却の背景が債権回 収という同じ原因であっても、物件の経済的価値が不動 産競売では低めに決まってしまっていることを意味して おり、その点において債権者のみならず、債務者も損失 を被っていると言い換えることができる。
裁判所競売の更なる制度改正の実施及び非司法競売の 導入は、不動産競売の更なる円滑化に寄与するものであ ると考えられる。悉皆的なアンケート調査により、不動 産競売に関係する業界及び国民全体での意見を吟味した 上で、適切だと思われるものに対して根拠をはっきりと 示した上で判断を下すことが政策当局の役割でもあり、
社会全体にとって望ましい制度に繋がるものと考える。
なお、今回においてはデータ制約の観点から 1 都 3 県 におけるデータに限定した分析を行ったが、より広範囲 におけるデータを用いる等、より詳細かつ精緻な分析を 進めることが今後の課題であるものと思われる。
競売実施者に係る適任者は存在するか
・現在も債権回収専門会社(サービサー)が存在。他にも弁護士事務所等や 新規参入も考えられる。
・実施者については、サービサーにおける許可制度と同様、専門性等を担保 するための許可制度の導入が考えられる。
競売の進捗管理が可能か ・委託先のサービサーにおける競売等について、現在も債権者による進捗管 理が行われており、非司法競売においても懸念はないものと想定される。
抵当権設定時の債務者への説明が可能か
・現在も抵当権設定契約時には詳細な読み合わせが行われており、債権者側 における負担は大きく変わらないものと想定され、競売条項が盛り込まれる ことについて、説明不足等が生じる懸念は小さいものと思料される。
競売条項における妨害行為を網羅できるか ・過去の事例を踏まえれば、妨害行為については一定に分類することが可能 であり、多くの妨害行為を防ぐことは可能であるものと思料。
債権者債務者間における当初の合意は買受 希望者にとっても望ましいか
・買受希望者にとっては、情報の非対称が低減されることから、内覧等の義 務付けがなされることが望ましい。なお、債権者にとっても情報の非対称が 解消されることで落札価格が上昇が期待される。
競り売りにおける圧力の懸念について
・現在、反社会的勢力に対する取り締まりは強くなっており、懸念は低下し ているものと思われる。また公開された場所で行われるのであれば、透明性 も担保される。また、債権者がそういった懸念を持つのであれば、公売で導 入されているネット入札の導入でも対応できる。
任意売却(現状) 制度設計
抵当権 設定時
・売却協力の条項を契約に盛り込み
・融資金額の一定割合について債務者が拠出
物件 売却時
・インセンティブ措置に係る 費用を売却代金から控除
・下記前提をクリアした場合に、債務者に対して インセンティブ措置を実施
・インセンティブ措置に係る費用については債務 者が拠出した額から支払