Spoken English の強調形式について
澤 田 茂 保
0. はじめに
本稿では英語のspoken language(以下SL)における強調形式について考察 する。強調(emphasis)というのは、話し手が伝える内容について自分の確信の 度合いやその事実性を高める言語現象のことである。そのような働きがなぜ存 在するのかと言えば、それは伝えるということが、単なる情報の移動ではなく、
それ自体が話し手と聞き手の相互作用だからである。話し手は聞き手を前にし て情報伝達の単位である命題の内容ではなく、伝わり方の強度に不十分さを感 じるときがある。従って、強調という現象は話し手と聞き手が共に存在する発 話の場面において最も頻繁に現れ、それ故にSLの大きな特徴の一つとなってい る。
第1節では、準備として強調の概念とSLの特性について概説する。第2節 では、節構造に付加的に発生する強調の意味を担ったtagについて述べる。第 3 節では、単なる文断片のtagから一つの節として現れる強調形式について述 べる。
1. 強調と SL の特性について
1.1 強調について
まず「強調」という用語で指し示す言語学的概念について簡単に触れたい。
学校文法ではit is...thatの形を強調構文と名付けて教えているが、 英語学では この形式を「分裂文(cleft sentence)」という。その理由は言語学的な意味での強 調とは関係ないからである1。強調というのは広義のモダリティの一種で、冒
頭で述べたように、話し手が語っている事柄の事実性・真偽性を強める働きの ことである。また、それは類似の概念である「強意(intensification)」と同じで はない。
強調と強意はある表現に同時に現れることがあるが、基本的に区別されるべ きである。強意は程度(degree)を感じさせる表現に対して、その程度を高めた り、あるいは逆に低めたりする働きである。一方、強調は程度が感じられない 表現に対しても働きかけて、発話の力(force of utterance)を強める。例えば、
(1)のように副詞really/ veryは形容詞good/ Americanの両方に働きかけるが、
(2b)のようにveryの方は形容詞Americanの方には反応しない。
(1) a. This soup is really good.
b. This soup is very good.
(2) a. He is really American.
b.* He is very American.
なぜなら、Americanには程度は感じられず、それ故に強意表現のveryとは相 容れないからである2。一方、(2b)では、reallyはHe is Americanという話し手 の主張の事実性を強めている。本稿で扱う強調とはこの意味での強調である3。 どのような自然言語においても強調のためのシステムが組み入れられている。
それは人の話す言語は単なる情報のやり取りではなく、話し手の発話内容に対 する心的態度あるいは心持ちが込められて聞き手に伝えられるからである。話 し手は聞き手の反応と没交渉的に機械の情報送信のように言いたいことをクチ にするのではない。相手にどのように伝わっているかreal-timeで常に気にしな がら発話する。相手に対する気の使い方の表れの一つが強調であり、強調は話 し手と聞き手が相互に働きかけ合う場面で発生しやすい。それゆえ、強調とい う言語現象はwritten language(以下、WL)よりもSLでより広範囲に観察さ れる。
1. 2 SL の特性について
これまでの文法論は基本的にWLに基づく理論であったといってよい。WL の文法論からSLを眺めると、SLはおよそ断片的で、構造的に無秩序である印 象を持つ。WLに基づく文法論の概念でSLの特徴のすべてを説明する理論を 構築することは大変困難であろう。例えば、WL に基づく文法論での基本単位
の「節(clause)」についても、SLでは異なった様相を示す。
Carter and McCarthy (2006)(以下C&M)は、SLのコーパスに基づいた新機 軸の文法書である。そこではWLに中心を置いた伝統的な文法論の枠に囚われ ず、SL で観察される特徴を記述している。例えば、real-time で進行する発話 では、節内の名詞句要素が節頭や節尾の位置に移動して、節内の本来の位置に 代名詞形を残すことがある。次の例を見てみよう。
(3) a. “I think that (X)the rankings in this magazine, (Y)they are very informational.”
b. (Y)He’s amazingly clever, (X)that dog of theirs.
(3a)は英語ニュースにあった例で、高校生が、全米大学ランキングを掲載する
雑誌US News & World Reportを膝に起きながら発話したものである。主語で
あるべきXが本来あるべき位置Yに代名詞形を置いて、節頭に移動している。
逆に、(3b)では、主語であるべき要素Xが主語の位置Yに代名詞を残し、節尾
に移動している。(3)の現象は以前から指摘されており、生成文法では、転置 (dislocation)と名付けて、(3a)を左方転置(left-dislocation)、(3b)を右方転置 (right-dislocation)と呼んでいた4。C&M は、クチから出てくる発話には左も右 もないということで、(3a)の移動した名詞句要素をheader、(3b)の方をtailと名 付けている5。
(3a)のheaderの例をまず見てみよう。the rankings in this magazineがまず発 話され、それと照応関係にある代名詞が主語の位置にある。それはなぜであろ うか?それは英語の主語が意味論的に二つの働きを担っており、(3a)ではその 二つの働きが分離しているから、といえるだろう。二つの働きとは、外界の事
物への指示(reference)の機能と述定に対する主題(theme)の機能である。 (3a) では、「この雑誌のランキング」と発話して指示対象(referent)を自分の発話に 導入し、そして、「『それ』は....である」、と叙述する形式をとっている。(3a)は
「この雑誌のランキングはとても情報になると思う」という中立的な語感では なく、「この雑誌のランキングって、(それは)とても情報になると思います」
といった日本語に相当するであろう。
headerはSLに広く観察される現象であるが、日本の英語教育ではほとんど
触れられることがない。 (3a)のような事例が観察されても、非母語話者、例え ば、アジア系の topic 型言語の話者に見られるエラーであるとさえ見なされる ことがある6。だが、それは完全な間違いである。(3a)は母語話者の実際の発話 である。書かれた英語を理解する能力に加えて、英語を話す能力を養成すると いった場合、header/ left-dislocationという言語現象の十分な分析・解明と英語 教育への導入が必須となると思う7。ただし、この現象は強調とは直接関係ない ので、本稿では英語教育の問題点として指摘しておくにとどめる。
(3b)のtailの例を見よう。(3b)はC&Mの例である。tailもまたSLには広く 観察される現象である。この現象をSL の単なる無秩序の証拠と一蹴すること はできない。むしろ、その現象の背後の法則性を求めながら、積極的にその機 能を認める必要があると思う。Aijimer (1989)によると、tailの機能はpostponed identificationやafter thoughtであるという。確かに語用論的な観点からはその ような説明ができると思う。しかし、他方で情報処理的な観点からのとらえ方 もあると思う。real-time/ spontaneous な発話で最も情報処理的に負荷が少ない のは、主語や目的語などがpro-formのときである。The woman in a red sweater holds a bunch of booksよりもShe holds themの方がはるかに情報処理上で理解 が容易である。しかし、sheやthemなどのpro-formの指示対象が決まらず、
何らかの方法で決定しなければならない。その方法には二つある。場面から直 示的に決まってくる場合と、話し手自身が指示対象を言語化する場合である。
極めて単純化して言えば、例えば、メガネをかけた男が視覚に入っているとす る。その男を知っていた場合、I know himと頭に浮かび、発話もする。自分の 心の中であればそれでよい。しかし、もしそこに聞き手が存在しており、場面
による直示的な方法で聞き手がhimの指示対象が同定できないと話し手が認識 すれば、その直後にhimを指示する名詞句を言語化する。従って、“Oh, I know him, the man with glasses, he’s a famous journalist.”という具合に発話が流れて いくのである。聞き手が存在していなければ、このような現象は起きないので あるから、WLではなく、場面のあるreal-time/ spontaneous な発話で見られる 理由がよく分かるであろう。
tailは一人の発話者の立場からみているとその働きが見えにくい。tailは、一 人の一連の発話でありながら、 聞き手が指示対象(referent)の同定ができない と話し手が感じているときに現れるので、tail の現象には聞き手の反応につい ての話し手側の態度や応答が組み入れている言語形式といえる。次のダイアロ ーグを観察してみよう。場面はクリニックの建物の中で、受付嬢Bのところに Aが駆け込んでくる。AとBはこのときから接触が始まるので完全な出だしで ある。
(4) A: Tell her to keep away from me.
B: Pardon?
A: That woman.
B: Who?
A: In the hall, she’s following me. (TZ 01)
出だしであるにもかかわらず、Aはいきなり代名詞herを使っている。Bは当 然herの指示対象を同定できない。“Pardon?”と言われなくても、そのことはA も感じている。そのため、次のAはthat womanと指示詞を伴った名詞句を使 うが、相手はまだ分からないのでwhoと問いかけると同時に、Aは更にたたみ かけるように言い続ける。ここでは、AはBの顔の表情あるいは単純な応答を 根拠に、自分の発話中にある代名詞の指示対象の同定ができていないと認識し、
そのため順番に情報を補っている。ここからAの発話だけを取り出すと、“Tell her to keep away from me, that woman in the hall. She’s following me.”となる。
これはtailの例である。
headerもtailもSLの文法論を考えたときには避けて通れない話題であるが、
ここで大切なことは節という単位を WL のレベルで理解するのではなく、SL の実態に合わせて理解することである。WLに基づいた文法論の節は命題とい う真偽の問える意味単位を基にして、「きれいな」(neat and tidy)構造であるが、
SLの観察から得られる節概念はより多様で、伝統的な節は発話の前後へと拡散 していくのである。
2. 陳述付加形と強調
ここから本題に入る。C&Mは、SLで観察される節タイプとしてtagという 項目を設けて、次のような事例を挙げている。
(5) a. She’s a teacher, isn’t she?
b. I haven’t shown you this, have I?
c. You’ve met David, have you?
(6) a. Stop arguing, will you?
b. Hold this rope, would you?
c. Let’s go home, shall we?
(7) a. I’m hungry, I am.
b. She was very kind, Rita was.
c. He’s not so tall, Jim isn’t.
(8) a. How strange, isn’t it!
b. What a coincidence, wasn’t it!
c. How sad we were, weren’t we?
C&M は(5)をquestion tags、(6)を directive tags、(7)をstatement tags、(8)を exclamation tagsと名付けている。(5), (6), (8)は比較的分かりやすく、学校文 法ではひとくくりにして、C&Mの用語とは反転して、「付加疑問文(tag
questions)」と呼び、疑問文型の一つとして取り上げられる8。しかし、(7)の
statement tags(以下、「陳述付加形」)は学校文法レベルでは取り上げられるこ とはない9。
陳述付加形はtagの中でもっとも全体像が把握しにくい。その原因は、書か
れた文(written form)として提示されると母語話者でも使われる場面の想像が
難しく、また反応も一様ではないからである。構造的にもこれだけが疑問形で ない。また、陳述付加形は抑揚のパターンによって容認性に影響を与えるよう で、可能な使用文脈の検出が難しい。
母語話者の陳述付加形への反応は様々であり、容認できないといった反応を する母語話者もいる。伝統的な節単位への理解が頭にあると、それがじゃまを して主節と陳述付加形をまとまりとして理解しない、といった事情もあるかも 知れない。また、C&M では、コーパスとして実際の発話の文脈から切り取っ た形で事例を提示しているので、どのような文脈での例なのか手がかりがない といった事情もある。しかしながら、種々可能な発話状況を想像しながら考え ると実態は少しずつ分かってくる。形式的にみた場合、(7a)は代名詞と助動詞 の機能語類のみで tag が構成されているが、(7b)と(7c)は主語に固有名詞が現 れている。それ故に、(7a)と(7b-c)は聞こえ方に差がある。ある母語話者は、
(7a)は(8a)の形式に共通性を感じるが、(7b)や(7c)は、(8b-c)といった形式に
ちかいのではないか、という。
(9) a. I’m hungry. I (really) AM.
b. She was very kind. Rita, that is....
c. He’s not so tall. Jim, that is...
(9a)については後述するが、(9b, c)は、主語の部分に代名詞を残し、右の部分 に名詞が現れており、that is...部分がなければtailである10。
本筋と離れるが、(9b-c)のtailの名詞の後に続く“that is....”は、SLで見られ る形式の一つと見なすべきで、ただの断片ではないと思う。(10)のような例が ある。ここでは、質屋の主人キャスル氏とお客のゴムリ夫人とが日常的な挨拶 を交わしている。ゴムリ夫人はキャスル氏に実は金を無心に来ており、キャス
ル氏は厄介者が来たかのような無関心な反応をしている。
(10)
Mrs. Gomly: Been having a lot of rain, haven't we?
Mr. Castle: What? Oh, yes, quite a bit of rain for this time of year.
Mrs. Gomly: Well, it's a…, it's good for the flowers.
Mr. Castle: How’s that?
Mrs. Gomly: Good for the flowers, the rain, that is.
Mr. Castle: Yeah, very good for flowers. (TZ 02)
ゴムリ夫人が、雨が多くて草花にとって結構なことだ、といったら、キャスル 氏に How’s that?と聞き返される。それで自分の発話である(It’s) good for the
flowersを繰り返すのだが、聞き返されたので指示同定のためにthe rainと付け
加えているのである。無標な形式であれば、the rain is good for the flowersである。
ここでC&Mの陳述付加形のようにthe rain isとすれば、助動詞に強勢が置かれ
るので、強い確認のように聞こえてしまい、ゴムリ夫人の遠慮がちな話し方の 雰囲気が出ない11。
さて、C&M が記述する陳述付加形は、彼らが上げている事例だけでも、こ のように複合的なカテゴリーを構成していると思われる。いまその中でとくに 代名詞ではない形が現れる場合、つまり、(7b-c)は別に考えることとしたい12。
いま陳述付加形を代名詞主語と operator(第一助動詞)から構成されると定 義してしまえば、次のような事例は、陳述付加形の例と見なされるであろう。
(11) a. ... One dollar, it is then. I wish it could be more, Mrs. Gomly. I
really do. (TZ 02)
b. I’ve reached my limit. I don’t know what to do anymore. I
honestly don’t. (TZ 03)
c. I don’t know. I really don’t. If I did, it’s one of the many
things I’ve forgotten. (TZ 04)
d. Mrs. Gomly, if I could spare a dollar, I'd give it to you. Believe
me, I would. (TZ 02)
(11)の下線部は、直前の節の主語と照応する代名詞と第一助動詞を繰り返して いる。SLにはコンマやピリオドなどは存在しないので、(11)にあるpunctuation には意味はない。音声だけを観察すれば、第一助動詞以後は省略が起こってい るため、英語の規則に従って、強勢が置かれる。この点で、句読点を無視すれ ば、(11)の下線部は陳述付加形として見なされる。reallyやhonestlyなど、Quirk et al.(1985)がemphasizer subjunctと名付けた副詞表現と共に表れている。 (11d) では、believe meが同じような働きをしていると考えられる。
(11)の陳述付加形は、先行する文の事実性を高めていて、「強調的繰り返し (emphatic recapitulation)」とも言える現象の一つである。例えば、(11a)の下線 部はI really wish it could be moreとほぼ同じで、直前の文を繰り返している。I
wish it could be moreと一旦伝えるが、話し手はそれでは発話の力が不足してい
ると感じて、強調のreallyを加えてtagとして再度繰り返す。(11)の観察から 分かるように、先行する節と陳述付加形の極性(polarity)は一致している。(11) では、主語が一人称であるが、一人称に限定されるわけではない。しかし、強 調は多くの場合は場面における話し手の伝達内容に対する強調なので、一人称 が現れやすい。
(11)の各例は一人の発話でありながら、tailと同じく、眼前の聞き手の存在を 意識した発話である。話し手と聞き手が共に存在する場合にしか発生しないと 断言してもよい。一人の話し手の言葉でありながら、この表現構造自体に聞き 手の存在が組み込まれているのである。一方、例えば、二人の会話では次のよ うな例がある。
(12) A: “A nice day today, isn’t it?”
B: “It sure is.”
(13) A: “He studied hard, so I believe he’ll pass the test.”
B: “Yes, he certainly will.”
(12)の付加疑問文が示すように、(12A)の発話は天候についての断定的判断を 行い、相手に対する同意を求めている。(12B)では、求められた同意に応じて、
命題の事実性を強調することで強い同意を行っている。ここでは、話し手との 共同行為として聞き手が強調の表現形式を使っている。同様に、(13A)では、後
半部にwon’t he?が隠れていると見なすことができる。いま(12)を一つの文とし
て書くと、It is a nice day today, it sure is.というふうになって、これは一人の人が 発話した陳述付加形である13。
同様に考えれば、例えば、(11a)では、先行する節と陳述付加形の間にdo you
wish ...?といったような聞き手からの疑問を話し手が感じており、それに対して
I really doと続けている、というふうに見なすことができる。その意味で陳述
付加形は話し手からみた聞き手の反応の取り込みと言った特徴が見て取れる。
陳述付加形はSLで広範囲に見られる現象で、例えば、(14)もその一つである。
(14) a. The bottom line is he’s a con man, he has to be. (TZ 02) b. Am I dreaming? It's a magic trick, it has to be. (TZ 02)
例えば、The bottom line is he has to be a con manとか、It has to be a magicとい ってもよい。ここでも、isn’t he?とかisn’t it?のような付加疑問が隠れているよ うに感じる。そのため、自らでhas toを使って自分の判断の事実性を高めてい るのである14。
3. 付加形から強調節へ
第2節では、陳述付加形について概観した。陳述付加形は主語と照応関係に ある代名詞と第一助動詞などの機能語類による繰り返しで表されるが、形式そ のものはtagの形をした文断片(sentence fragment)である。強調的繰り返しはこ のような文断片が多いが、必ずしもそれに限られるわけではない。本節では、
使用されている語彙は陳述付加形と同様に機能語類でありながら、完全な文と して独立している強調的繰り返しについて考察する。
3.1 That’s what it is と強調
WLでは形式と意味の対応を場面・文脈と切り離して議論することが容易で ある。しかし、SLでは形式と意味の対応付けだけでは不十分で、語用論的に適 切な使用分脈を見ないとその本質を見失う場合が多い。
大修館の『Genius英和辞典』(以下、ジーニアス)はThat’s what it isという 表現を一種の熟語・セットフレーズとみなし、「(略式)そういう理由だからです よ(■自分が述べた理由が当を得ていることを強調)」という説明を付している。
だが、日本語の訳語が相当する文脈でこの表現を利用できるかどうかと問われ れば、否である。この表現は、例えば、次のような文脈で典型的に現れる。
(15) .... Look around you, Edna. In this clutter, you see the legacy of hundred years. My grandfather owned the shop, and finally broke his heart, and my father, and it killed him, too. The meanness of it, Edna, the shabbiness of it, the hand-to-mouth of it, this isn't just the hawk shop where we buy the pitiful residue of other people's failures. (A)It's enshrined failure. (B)That's what it is.
(C)It's a mausoleum, a burial ground of people's hopes. (TZ 02)
(15)では質屋の主人が代々続いてきた儲からない自分の店について長々と語っ ている。そして、その店についてit’s enshrined failureと断定判断を行う。その 直後にThat’s what it isが現れている。
音声を聴きながら観察すると、話し手は自分の質屋稼業についてうんざりし ており、質屋がいかに人の不幸を背負っているかといったことを長々と語って いる内に、だんだんと興奮してきていることが分かる。That’s what it isが使用 される状況では、ある種の感情的な高まりと言ったものが観察され、現実に発 話されるかどうかは別にして、話し手の意識の内にはそこに至る長い文脈が横 たわっており、 その感情的な思いを一言で表した表現、(15)では enshrined
failureに相当する表現、が発話された直後で使用されることが多い。
指示詞thatは話し手のクチから思わず出たenshrined failureという表現を指 示している。(B)のitと(A)のitは同じで、縷々述べてきた状況を漠然と指して
いる代名詞である。従って、(B)は、いわば前の発話の(A)を繰り返しているに 過ぎない。完全な文であることが前節の陳述付加形と異なるが、機能語類から 構成された強調的繰り返しという点では共通性がある。
誤解を恐れずに、このプロセスを模式化すると次のようになろう。
(16) a. it is [enshrined failure] ([enshrined failure]: what it is △)
b. [enshrined failure] is what it is.
c. [enshrined failure]i. Thati’s what it is.
(a)は“A is B”の断定判断文である。その補部表現enshrined failureをwhatで置 き換えて、what it isとし、enshrined failure自体を主語にしたら、(b)ができる。
それをさらに転置によって、文から取り外して照応関係にある指示詞thatを使 うと (c)のようになる。That’s what it isの意味を理解するには、ジーニアスに 記述されている「そういう理由だからですよ」といった訳語に惑わされず、今 述べたような“(it is) X, that’s what it is”のような形で現れることを理解する必 要があるだろう。
その他の事例を見てみよう。
(17) a. .... It's a miracle. That's what it is! (TZ 02) b. Negative impact! It's the goddamned Chrysler building.
That's what it is!
c. A: Hey, I love a good caper.
B: Yeah, that's what it is!, a caper.
That’s what it isは、話し手が思いもしていなかった表現が思わずクチに出て、
その表現自体に話し手自身が感性的に反応するような語感を持っている。
(17b)は米国映画Godzillaでのセリフである。ゴジラがマンハッタンを走り回り、
クライスラービルの一部が破壊される。偵察中のパイロットが “Negative
impact”と無線で報告した直後の市長の発話である。goddamned と思わず形容 したからである。また、(17c)はテレビドラマ『隣のサインフェルド』にあるセ リフで、自分の発話ではなく相手のAの発話中にあるa caperに反応している。
yeahの直後に意識としてit’s a caperがあるか、あるいは後部でtailのように現 れている、と考えることができる。
“It is X. That’s what it is”は、内容的にほぼ同じ表現を繰り返すことで強調 する強調的繰り返しである。そのプロセスを模式的に(16)のように表したが、
(16c)まで到達せずに(16b)の段階で留まっている例もある。次の例を見てみよう。
(18) Mrs. Gomly: An heirloom today, Mr. Castle.
Mr. Castle: An heirloom, Mrs. Gomly, you don't say.
Mrs. Gomly: Oh, yes. Mr. Castle. Been in my family for years…
Mr. Castle: Has it now?
Mrs. Gomly: Years and years…, it's supposed to be very
valuable…, hand-blown glass is what it is. (TZ 02)
“Been in my family for years”は「我が家に代々伝わるもので....」といった家宝 の類を言うときの決まったフレーズで、通例は主語と第1助動詞を欠いた状況 省略形で使う。それに対して、キャスル氏は、“Has it now?”とつれない返事を する15。そこで、なんとか貴重な品であることを伝えようと、hand-blown glass
「手作りのガラス瓶」という言葉が浮かび、そして、それにピッタリ当てはま る、と続けたかったのだが、下線にあるような形になっている。本来は、it’s hand-blown glass, that’s what it isとなるべきだが、(16b)のような中途の段階で 終わっている興味深い例である16。
3.2 That’s what it is と共通する表現について
前節で考察したThat’s what it isは、ジーニアスが熟語表現として項目をつけ て記載しているように、確かにSL には繰り返して観察される表現で、セット フレーズ的になっていると思う。だが、これ自体は完全な固定表現ではなく、
パターンに注目すれば、 SLに広範囲に見られる強調形式の一つの顕在形であ るに過ぎない。本節ではこの表現に共通する上位パターンについて考察する。
例えば、(19)では主語が人である。
(19) Here take a look out the window. All those little bugs down there, you see, bacteria. That's what they are. That's what your husband is, all those little .... That's it. That's precisely it. (TZ 08)
(19)は、社会の様々な人々をevilな存在として見なしている妄想狂が、ある人 物に対して不当な脅迫行為を行った、そして、その人物の妻が抗議にやって来 たときの発話である。その妄想狂が窓の外で行き交う人々を見ながら、それら を指してall those little bugs、bacteriaといた言葉が浮かび、連中はそれだ、と いった意味で発せられている。
また、不定関係代名詞 what の代わりに all などが現れる事例もある。次は TV ドラマ『Xファイル』のセリフである。主人公モールダーが相手に対して 非難の言葉を浴びせ続けて、Medical rapistsだとクチにする。直後にThat’s all you areと強調する。
(20) Okay then. ... How do you feel now? Why don't you tell me what your company's really in the business of. Huh? Abducting women and stealing their unborn children? Medical rapists! That's all you are!
You don't care if that little girl dies! She's just a lab rat to you! ....
この例では、本来は“You are medical rapists! That’s all you are!” であろうが、前
半のyou areは状況省略で消失している。モールダーは、自分が思わずクチにし
た表現medical rapistsにピッタリ当てはまる奴だ、ということを伝えているので
ある。
同様に、次のような事例も強調的繰り返しの構文である。
(21) a. And you know when you think about it, it's really quite an amusing
case of mistaken identity. That's all it is. (Seinfeld_03_06) b. You’re not real. You’re not even the model for that mannequin in
women’s department. You’re the mannequin. That’s all who
you are. (TZ 06)
(20-21)はwhatを使っていない。allが使用されていると、驚きや怒りなどより
強いような文脈に多いような印象を持つ。
ここまでの例はbe動詞であったが、that’s what...の部分は共通するが、主語以 降には様々な語彙が使用される。いずれも強調したい部分を転置する。発話中 で選択された言葉を強調する働きがある。
(22) ... it's just a plain old glass wine bottle. Do you know what it's worth actually? Nothing. Not even a deposit. If you could find the store where it came from, that's what they'd give you, nothing. (TZ 02) (23) A: .... What are you going to do?
B: Nothing, Mr. Crangle. Not a thing. And if you'll forgive a suggestion, that's what I think you should do, too, nothing. (TZ 08)
(22)は一人の発話であり、(23)ではAとBに発話者が別れているが、構造は全
く並行的である。まず疑問文が先に現れ、その後に “Nothing. Not a X. If ..., that’s what S V ..., nothing”といった形で発話されている。(22)と(23)は全く別の エピソードのものであるが、発話構造は奇妙なくらい並行的である。 (22)はIf you could find the store where it came from, they’d give you nothingと、(23) はIf you’ll forgive a suggestion, I think you should do nothing, too.とほぼ同じ意 味だが、まず頭に浮かんだnothingが先に表れて、あとはそれを強調するため の構造である。
同様に、次の例もbe動詞以外の強調形式である。
(24) a. Huh. Gonna lick the Yankees in a month. That’s what they
said. In a month. How wrong they were! (TZ 05) b. Why wouldn't this button work? Now I have to wait till he
comes back. Rude. That's what I call it! (TZ 06)
(24a)は、南北戦争が始まったときに南軍は北軍を“in a month”でやっつけると
意気込んでいたのに、全く違っていた、と嘆いているところである。また、(24b) は、デパートのエレベータである階で降ろされて、エレベータ係に対して“rude”
という言葉が思わず出て、怒っているところである17。
これまでの例は名詞表現の強調であったが、動作・行為についても強調され ることがある。次例は同じ論理に従った形式である。この場面は、突然 Genie に願いを叶えられお金持ちになった善良な質屋の夫妻が、これまで質草を持っ てきた近所の人に、困っているのだからとお金をくばることにした。みんな大 いに喜んで質屋の前に長蛇の列をつくるが、そこへ警察官がやって来たところ である。
Woman 1: It's that nice Mr. Castle and his wife.
Officer: What about them?
Woman 2: They're, well, they’re redeeming things.
Officer: What things?
Man 1: All kinds of things as long as you got the pawn ticket.
Woman 2: Even if you don't, they will remember.
Woman 1: They're redeeming us. That's what they are doing.
It's the loveliest gesture I've ever seen. (TZ 02)
下線の表現はthat’s what....で始まって、代名詞と助動詞類等の機能語類でのみ 成り立つ形式が続いている。ここでは前の節のredeeming usという行為を強調 しているが、名詞ではない。このような強調は、そこに至るまでの事態につい て何らかの情緒的な態度があるときに使われるようである。先に述べたように、
一種の感情の高ぶりが感じられる。上例では、下線部に続く部分に It’s the loveliest gesture I’ve ever seenとあり、キャッスル夫妻に感謝の気持ちで一杯な 興奮した雰囲気を読み取れるし、事実音声の抑揚も独特のものがある。下線部 に続く部分は、(15)では(C)の部分にあたる。
この形式も生産的な形式であり、決して孤立した例ではない。例えば、次の ような例も可能である。
(25) a. “I’m buying a present for my wife. That’s what I’m doing.”
b. “They are dismantling the building. That’s what they are doing.”
(25a)は、 誰かにプレゼントを買っているところを見られて、What are you
doing?と言われたような状況で、恥ずかしそうな感情が読み取れるであろうし、
(25b)では、“Hey! What’s going on here?”といった発話に対して、何らかの感 情移入のある建物が解体されていて怒っているような状況であろう。いずれも thatにストレスを置いた特徴的な抑揚を持つ。
これまでは主にラジオドラマなどの例をあげた。これらの発話は基本的には 台詞をもとにしており、作られたSL である。ラジオドラマのセリフは対面で 発生する SL の様々な特徴が観察されるので有意義な素材ではあるが、
real-time/spontaneous な発話とはいえない。作られていない発話としてインタ
ビューを見てみる。次の例はインタビューの一部である18。
(26) ...wherever you live, whoever you are, most of us, 99.9% of us, want the same things, which is a safe world, opportunities for our children, a place to be with our families, the opportunity to learn, the opportunity to live in a healthy life. That is what we all want.
インタビューはリアルタイムの発話のため、ここでは論じない SL 特有の特徴 が随所にあるので、それを簡単に加工すれば、次のようになる。
Most of us want a safe world, opportunities for our children, a place to be with our families, the opportunity to learn, the opportunity to live in a healthy life. That’s what we all want.
話し手は、自分たちが何かを欲していることを前提にして、なにを欲するのか について頭に浮かぶままクチに出している。五つほど挙げたところで、That’s what we all wantと言っている。
これは模式的に表すと次のようになる。
(27) a. We want {X, Y, Z...} => {X, Y, Z...}: what we want b. {X, Y, Z...} is what we want.
c. (We want) {X, Y, Z...}i. That i is what we want.
(27)は(16)との平行性が明らかに見て取れるだろう。SLの中にはThat’s wh-が
頻繁に観察されるが、この形式は強調的繰り返しの典型例の一つである。
以上、本節では、第2節でみられた文の断片としての強調的繰り返しではな く、完全な節構造を保存した強調的繰り返しの例として、that’s what...という形 式を考察した。
4. おわりに
本稿ではSLに見られる二つの強調形式を取り上げた。簡単にまとめると、
(28a)は副詞reallyによる標準的な強調形式である。しかし、(28b)は陳述付加形
による構文的な強調である。これは話し手の発話に聞き手の反応が取り込まれ た強調であると見なし、(28a)などよりも対面性が高い状況での発話形式であ ることを観察した。付加形部分にreallyはなくても強調として理解されるが、
母語話者の直観的判断では、really がある方が自然に聞こえるようである。SL では句読点は意味が無く、すべてがつながっている。(28b)の付加部分を文の断 片とみなすのではなく、先行する節と一体となったひとつのメッセージ単位と
して見なすべきであろう。他方、(28c)も同様にshe is a bad driverの強調形式で
あるが、(28b)と違って、単純な強調的繰り返しではなく、その判断あるいはそ
の表現に至るまでの比較的長い文脈が前提とされ、ある種話し手の感情が込め られた強調形式であることを指摘した。
(28) a. She is really a bad driver.
b. She is a bad driver, she (really) is.
c. She’s a bad driver. That’s what she is.
(28a)の形式は副詞を使った最も中立的な形式であり、WLでもあり得る形式な
ので、伝統文法でも十分守備範囲に入る。ところが、(28b)や(28c)へと行くと 段々と従来のWL に基づいた文法論の守備範囲からずれてくる。なぜならSL でしか観察できないからである。今後はSLを射程に据えた言語形式の分析と、
それに基づく文法論が必要となるであろう。その際は、WL に基づいた文法論 に囚われて発話の単位を捉えるのではなく、SL の実態に即した理解の方法が 必要である。それはとりもなおさず、SLの基づいた文法論の構築につながる。
日本の英語教育では伝統文法を基にした学校文法が利用される。学校文法の 基礎にある伝統文法は「書かれた言葉」の意味を解釈し、理解するときに大き な力を発揮する。しかし、「話された言葉」に対応した言語運用能力を身につけ ることを求められている時代では、必ずしも有効なツールとして働いてくれな い。伝統文法のよいところを継承しつつ、SLに基づいた、SLの仕組みや構造 を理解するための新しい文法論の構築の必要性を感じる。本稿では、そのよう な試みの一つとして、不十分であるがSL で典型的に見られる二つの強調的構 文についての考察を行った。
References
・事例の多くはラジオドラマThe Twilight Zone シリーズのエピソードから採った。
各例の出典は以下の略号で示した。TZ 01 Perchance to Dream ; TZ 02 The Man in the Bottle ; TZ 03 Stopover in a Quiet Town ; TZ 04 Nightmare as a Child ; TZ 05 The Passersby ; TZ 06 The After Hours ; TZ 07 The Fever ; TZ 08 Four O’clock ; TZ 09 The Night of the Meek
Aijimer, Karin (1989) “Themes and Tails: the Discourse Functions of Dislocated Elements,” Nordic Journal of Linguistics 12, 137-154.
Biber, Douglas et al. (1999) Longman Grammar of Spoken and Written English, Longman.
Carter, Ronald and Michael McCarthy (1995) “Grammar and the Spoken Language,”
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Carter, Ronald, Rebecca Hughes and Michael McCarthy (1998) “Telling tails:
grammar, the spoken language and material development” in Tomlison, B.
(ed.) Material Development in Language Teaching, Cambridge University Press, p. 67-86.
Carter, Ronald and Michael McCarthy (2006) Cambridge Grammar of English, Cambridge University Press.
Ross, John (1967) “Constraints on Variables on Syntax,” MIT Ph.D Dissertation, published in 1986 under the title Infinite Syntax!
Quirk, Randolph et al. (1985) A Comprehensive Grammar of the English Language, Longman.
・この研究は科学研究費基盤研究(C)課題番号22520614の補助を受けて行った研究 の一部である。
1 分裂文は前提と焦点など情報構造上の概念で分析されるものであり、言語学的な
意味でのemphasisとは関係ない。
2 人は機械ではないので、ある表現をエラーとしてはねてしまうわけではない。も
しvery Americanと言われれば、Americanという本来程度のない表現に程度を強制
的に読み取るであろう。以前観光コピーに“Very, Very Kyoto”というのがあったが、
それと同じく意味は特殊である。
3 Quirk et al. (1985)は、副詞の項で、emphasizerという強調のための副詞類について
考察している。Quirkのemphasizerは(1)のreallyのような一語副詞であるが、本稿 では、構文形式で表現されるemphasisを対象にする。emphasisを発話の力を高める ことと考えると、日本語の強調よりも強意の方が訳語としてはふさわしいかも知れ ないが、多くの英和辞典の訳語の通り、ここでは「強調」の語を使う。
4 Ross (1967)参照。Ross(1967)は生成文法論の黎明期的な時代の論考で、その後の「島
の条件」につながる重要な文献である。この時代は転置要素の摘出位置について構 造論的な分析がすべてで、ではどんな状況でこの言語現象が起こるのかといった議 論は皆無であった。
5 また、Quirk et al. (1985, 18.58; 18.59, pp.1416)では、(1a)をproxy pronouns、(1b)を
amplificatory tags といった名称を与えている。それぞれ微妙に上げてある事例に相
違があり、研究の遅れが明らかである。
6 Carter and McCarthy (1995)参照。
7 英語教育が口頭でのコミュニケーション能力の養成を標榜するのであれば、WL ではなくSLにのみ現れる言語現象を教育内容に取り入れなければ、学習者は決し
てfluentな英語を身につけることはできないと思う。このことはSLで観察されるこ
とをWLの文法論へ逆照射してみるといつも感じることである。
次例は、ある夫婦が始めてラスベガスに観光でやってきて、空港からホテルへの タクシーの中で奥さんが運転手に話しかける場面である。
Wife: Driver?
Driver: Yes, ma'am?
Wife: May I ask you a question?
Driver: Shoot.
Wife: (A)The people who come here, the tourists such as my husband and myself, do (B)they, well, do any of (C)them actually win, when they gamble, I
mean? (TZ 07)
ここでは、(B)あるいは(C)の位置にあるべき(A)が、headerとして先に現れて、その 本来の位置に照応代名詞が使用されている。これをWLの文法に従って、(A)を(B) あるいは(C)の位置に戻して、Do any of the people who come here, the tourists such as my husband and myself, actually win?と話したりするのは奇怪な英語であることがわ かる。奥さんがいきなり運転手に話題を持ちかけているので、もしheaderを使わな ければ、I think there are many tourists who come here like us, and do any of them actually win?といったように、まず話題となる事柄を談話に導入した後に、それについて何 かを述べたり、質問をする、といった手段とならざるを得ないだろう。非母語話者 ならこの言い方でよいのだ、という考えもあるが、簡単なheaderの使い方に触れて、
自然なつながりのある発話への意識を高めてもよいと思う。
なお、ここでheaderを使わなければ、二つの文に分けなければならない、という 点は重要である。headerが主節とは独立したメッセージ単位を構成している証拠と なるからである。
8 (8)は独立した学習項目として扱われないが、感嘆文の付加疑問文とみなすことに
矛盾はない。むしろ、学校文法の記述の範囲外は、付加疑問文でありながら、極性 が一致している(5c)であろう。
9 C&Mには、“such sentences typically make emphatic statements, frequently evaluative contexts”と述べるだけで考察はない。また、Quirk et al. (1985, 1417)にamplificatory tags の一例として、C&Mの陳述付加形と同じ形式を上げている。
10 tailは原則として名詞句であるが、tagは節断片である。その意味での違いは認め
られるが、C&MもQuirk et al. (1985)も関連性に触れている。例えば、Quirk et al. (1985;
17.78, p.1310)には、“in even more informal style”では、(ia)は(ib)のような形で現れる、
という書き方をしている。
(i) a. It went on far too long, your game.
b. It went on far too long, your game did.
一方、C&Mの記述は一定していない。tailは “most typically noun phrases”(C&M; 97b) と述べて、また、陳述付加形の主語も“most typically a pronoun”としている(C&M; 299)。
そして、次のレストランの会話例を上げて、Aにはstatement tagを、Bにはtailの但 し書きを入れている。(C&M; 97b)
A: I’m going to have a burger with chilli sauce, I am.
B: Mm, yeah, it’s a speciality here, the chilli sauce is.
Bをtailとして分類しているのは非典型だということだろうか?いずれにせよ、記 述が明確でないことは否めない。
11 ある表現を付加的に言った後に、that is...という形式が現れるのは、頻繁ではない が時々観察される形式である。
(i) A: Can I show you anything?
B: Well, yes, if you are open, that is… (TZ 03) (ii) Tell me, Mr. Crangle, if you can, that is.... (TZ 08)
文脈から見ると、命令文のdowntonerのような働きがあるようである。
C&Mのtailは代名詞を節内の位置に置くが、情報のelaborationとしてより細かな
情報を担った名詞句が現れる場合がある。次の例は新聞の記事のものだが、話し言 葉風である。businessのelaborationとして、the tourism businessという表現が現れて いる。
This reclusive and secretive country is now officially open for business, the tourism business, that is. (The Washington Post,November 26, 2011)
ここでthat isが付加的に現れている。
12 つまり、例えば、注10にあるAやBは共に陳述付加形であるが、下位区分でき る、と考えるわけである。C&Mが別のところに上げている陳述付加形は、付加形 部分に固有名詞がある例はない。(C&M: 302) 陳述付加形全体の議論は今後の課題 であるが、基本的にはtailの分析と交差するのではないだろうかと思う。
13 これらの観察が正しければ、C&Mのresponse tagsも同じ枠組みで捉えられるで あろう。
14陳述付加形は様々な変異と共に、SLに広範に見られる現象である。従来のWLに 基づいた文法論では、単なる文断片(fragments)のように扱われ十分な分析がなか ったと思う。
次例は、映画Star Wars Episode III: Revenge of the Sithで、ジェダイの騎士Obi Wan
がPadmeにAnakinがダークサイドに落ちたことを告げるシーンである。
Obi Wan: Padme, Anakin has turned to the dark side.
Padme: You're wrong. How could you even say that?
Obi Wan: I've seen a security hologram...of him... killing younglings.
Padme: Not Anakin, he couldn't.
下線部は「アナキンに限って、できるはずがないわ、絶対に...」といった意味だが、
これを“Anakin couldn’t have done that.”とすれば、映画のセリフとしての臨場感ゼロ である。このような例は意味が何となく解釈できるので、詳しい言語学的な分析が なかったと思う。しかし、否定辞を前置して、tagを付けるパターンは、SLに広範 に観察されるのである。また、SL特有の強調の響きがある。別例では、アメリカ人 に、「アメリカ人は生肉食べるのですか?」といった質問をすれば、“Not where I’m from, I don’t.”のように答えるだろう。
SLにおける陳述付加形=statement tagsは、C&Mが触れている以上に広範囲な現象 であり、様々な変異を有しながら一定の共通する特性が認められる興味深い言語現 象である。今後のSL研究の好個の素材であると思う。
15 C&Mでは、response tagsあるいはfollow-up questionsと名付けていくつかの事例 を挙げているが、now付きの例はない。nowの付加したresponse tagは、ある種の無 関心さを表すようである。例えば、“I’m learning Latin.”といったとき、聞き手が“Are
you?”と応じれば、「そうなの?」と若干の驚きや関心を示した語感である。また、“You
are!”とくれば、「ホント、すごい」というような語感であろう。しかし、“Are you now?”
であれば、「あ、っそ」といった語感である。また、いずれも独特の音調があるので 場合分けが難しいところがあるが、他の文献で触れられていないので、指摘してお きたい。
16 これは大変珍しい例なので、母語話者に可能な言い方なのか、と聞いてみた。あ る母語話者は、例えば、とてもペンには見えない形のモノを手にしながら、“Oh, it's a pen...is what it is....”と発話することもあり得る、ということであった。いずれにせ よ、WLでは見られない形式である。その類推で言えば、(18)の場面でゴムリー夫人 がもってきたガラスの瓶はとても手作りの良質のものには見えない代物だったので あろう。
17 強調は相手のある場面で起こるので、例えば、次の例は相手との共同による強調 である。
A: “It’s just discrepancies.”
B: “Discrepancies, is that what you call it?” (TZ 09)
18 English Journal 2009年11月号