3次元空間形内の局所誘導階層について
川久保 哲
1)
(平成
22
年5
月31
日受理)On the localized induction hierarchy in three-dimensional space forms
Satoshi Kawakubo
1)(Received May 31, 2010)
Abstract
The localized induction hierarchy in three-dimensional space forms is studied; the traveling wave solutions are constructed and the expressions for the soliton curves are given in terms of cylindrical coordinates. These results are the generalization of those obtained in the case of three-dimensional Euclidean space by Langer ([11]). A detailed account will be published elsewhere.
1
序3次元
Euclid
空間における流体の運動を考える.流体の速度ベクトル場をv
とする時,渦度ベクトル場の長さ| rot v |
が,細い管状の領域上で非常に大きな値をとり,その外側ではほぼ零になる,という現象がよく起こる.こ のような細い管のことを渦糸(vortex filament)
とよぶ.これは我々が日常的に渦とよんでいる現象,例えば,竜 巻や排水口にできる吸い込み渦などで観察することができる.管がリング状になることもあり,イルカの作る渦輪
(bubble ring)
や煙草の煙の輪などが代表的な例である.ここでは渦糸の運動をモデルにした曲線の時間発展を考える.流体は非圧縮性非粘性と仮定し,局所誘導近似 を用いると,渦糸の時間発展は次の偏微分方程式に従うことが知られている
(例えば [1]
を参照せよ).(1.1) ∂ � γ
∂t = ∂ � γ
∂s × ∂
2� γ
∂s
2.
ここで
� γ = � γ(s, t) ∈ R
3は渦糸の中心曲線の位置を表し,tは時間,sは曲線に沿う弧長パラメータ,×
は外積で ある.これは局所誘導方程式(localized induction equation)
とよばれ,20世紀初頭にLevi-Civita
やその弟子のDa Rios
によって研究が始められた.((1.1)はBetchov-Da Rios
方程式,渦糸方程式,smoke ring flowなどとも よばれる.)さて,局所誘導方程式は,(適切な境界条件を付けた)曲線のなす空間の上の,長さ汎関数を
Hamiltonian
とす るHamilton
相流とみなせる([15]).Langer-Perline([12])
は[15]
と類似の枠組みの下で,無限個の可換な保存量,1)福岡大学理学部応用数学科,〒814-0180福岡市城南区七隈8-19-1
Department of Applied Mathematics, Faculty of Science, Fukuoka University, 8-19-1, Nanakuma, Jonan-ku, Fukuoka, 814-0180, Japan
この論文は2008年11月22日の福岡大学微分幾何研究会に於ける講演の内容に,それを拡張した結果を加えてまとめ直したものである.
3次元空間形内の局所誘導階層について
川久保 哲1)
(平成 22 年 5 月 31 日受理)
On the Localized Induction Hierarchy in Three-dimensional Space Forms
Satoshi K
awakubo1)(ReceivedMay31,2010)
Abstract
The localized induction hierarchy in three-dimensional space forms is studied; the traveling wave solutions are constructed and the expressions for the soliton curves are given in terms of cylindrical coordinates. These results are the generalization of those obtained in the case of three- dimensional Euclidean space by Langer ([11]). A detailed account will be published elsewhere.
1) 福岡大学理学部応用数学科,〒 814-0180福岡市城南区七隈 8-19-1
DepartmentofAppliedMathematics,FacultyofScience,FukuokaUniversity,8-19-1Nanakuma,Jonan-ku,Fukuoka, 814-0180,Japan
この論文は 2008年 11月 22日の福岡大学微分幾何研究会に於ける講演の内容に,それを拡張した結果を加えてまとめ直したものである.
及びそれに対応する無限個の可換な
Hamilton
相流(曲線の発展方程式)
を構成した.従って局所誘導方程式(1.1)
は完全可積分Hamilton
系である.ここで構成された曲線の発展方程式の無限系列(その第一番目が (1.1)
である) を局所誘導階層(localized induction hierarchy)
とよぶ.また,第n
番目の発展方程式に附随する定常方程式の解 を第n
ソリトン曲線とよぶ.ここでは,局所誘導階層及びソリトン曲線を,Euclid空間とは限らない3次元
Riemann
多様体の中で考える.一般に
Riemann
多様体内の曲線の研究は,測地線を除いてあまり多くなされていないが,ソリトン曲線を考えることで,測地線よりも複雑で豊かな曲線の例を得ることができる.また,ソリトン曲線は曲面論への応用があ ることも知られているが,この際,定曲率球面や双曲空間などのいわゆる空間形の中で考えることが有用である
([13],[17], etc.).さらに,3次元空間形内においては,第3ソリトン曲線は Kirchhoff
弾性棒(一次元弾性体の数
学的モデル)に一致することが分かる.ソリトン曲線は,あくまで渦糸運動から導かれた曲線であり,弾性体理論 とは無関係のように思われるのであるが,にも関わらず,そこに
Kirchhoff
弾性棒が現れるのは興味深い.このよ うな意味で,Riemann多様体の中でも,特に3次元空間形内の局所誘導階層は重要であると考えられる.本稿では,3次元空間形
R
3, S
3, H
3 における局所誘導階層の進行波解の構成(定理 9),
及びソリトン解の円柱 座標による表示式(定理 15)
が得られたことを報告する.なお,証明の詳細については別の所で発表する予定で ある.2
局所誘導階層この節では,Langer([11])による
R
3 内の局所誘導階層の通常の微分を共変微分に置き換えることにより,向 き付けられた3次元Riemann
多様体内の局所誘導階層を定義する.なお,R3の場合の,然るべき境界条件をみ たす曲線の空間やその上のPoisson
構造,Hamiltonianの定義,無限個の可換な保存量,などについてはここで は述べない.これらについては,例えば[12]
などを参照せよ.M
を向き付けられた3次元Riemann
多様体とする.M のRiemann
計量を� , �
で,Levi-Civita接続を∇
で,外積を
×
で表す.以下,断りがない限りは,曲線,ベクトル場などは全てC
∞とする.局所誘導階層の各発展方程式は,弧長パラメータを保存するという特徴をもつ.まずは,弧長パラメータを保 存する変分について復習しよう.次の補題は容易に示せる.
補題
1 (cf. [11]). γ(u, t) = γ
t(u)
を,tを変分パラメータとするM
内の曲線の変分とし,W= ∂γ/∂t
をその変 分ベクトル場とする.また曲線u �→ γ
0(u)
は速さが1であるとする.(即ち| ∂γ(u, 0)/∂u | = 1( ∀ u)
と仮定する.) この時,任意のt
に対して曲線u �→ γ
t(u)
が速さ1であるための必要十分条件は,�∇
∂/∂uW, ∂γ/∂u � = 0( ∀ (u, t))
が成り立つことである.以下では,γ(s)を
s
を弧長パラメータとするM
内の曲線とし,T= ∂γ/∂s
でその接ベクトルを表す.補題1
が成り立つので,次のような定義をする.定義
2. W
をγ
に沿ったベクトル場とする.�∇
TW, T � = 0
が成り立つとき,Wは局所弧長保存(locally arclength preserving,あるいは簡単に LAP)
であるという.接ベクトル場
T
及び− T
は明らかに局所弧長保存である.以下で,これら以外の局所弧長保存ベクトル場を 多く作る.このベクトル場達が局所誘導階層の変形方向を与える.さて,W を
γ
に沿った(必ずしも局所弧長保存とは限らない)
ベクトル場とする.この時,接成分のみを変えることにより,Wを局所弧長保存ベクトル場に修正することができる.実際,γに沿ったベクトル場
P (W )
を,P (W ) = (∂
s−1� W, ∇
TT � )T + W
⊥で定義する.(ただし
∂
s−1はs
による積分,W⊥はW
の法成分を表す.)すると,簡単な計算でP (W )
は局所弧 長保存となることが分かる.次に再帰作用素
(recursion operator)
を定義しよう.これは,一つの局所弧長保存ベクトル場から,別の局所弧 長保存ベクトル場を作る方法である.W をγ
に沿った局所弧長保存ベクトル場とし,R (W ) = P ( − T × ∇
TW )
= (∂
s−1�− T × ∇
TW, ∇
TT � )T − T × ∇
TW
とおく.定義により,
R (W )
はγ
に沿った局所弧長保存ベクトル場である.このR
を再帰作用素とよぶ.ただし,R (W )
は一意的には定まらず,CT(ここで C ∈ R)
を加えるだけの任意性を含むことに注意する.γ
に沿ったベクトル場の列X
nで(2.1)
� X
0= − T,
X
n= R (X
n−1) (n � 1)
をみたすものを考えよう.X0は局所弧長保存だから,Xnは局所弧長保存ベクトル場の列である.Xnは一意には 定まらず,実数列一つ分の任意性を含むことに注意する.
X
nを扱いやすい形に書き直そう.XnをX
n−1から作る際,R
を作用させるので,積分が出てくる.しかし,実は
− T
が出発点であることが効いて,被積分関数はX
1, . . . , X
n−1の式の微分の形になることが分かり,積分記 号を含まない表示式が得られる.命題
3 (本質的に [11]). { C
n}
∞n=1を任意の実数列とする.γに沿ったベクトル場の列{ X
n}
∞n=0を次によって帰納 的に定義する.X
0= − T, (2.2)
X
n= f
nT − T × ∇
TX
n−1(n � 1), (2.3)
ここで
(2.4) f
n=
− C
12 (n = 1)
− C
n2 + 1 2
n−1
�
k=1
� X
k, X
n−k� (n � 2)
この時,
{ X
n}
∞n=0は(2.1)
をみたす局所弧長保存ベクトル場の列となる.逆に,もし{ X
n}
∞n=0が(2.1)
をみたす 局所弧長保存ベクトル場の列ならば,ある実数列{ C
n}
∞n=1が一意的に存在して,(2.2),(2.3),(2.4)が成り立つ.注
4.
実数列{ C
n}
∞n=1に対して{ X
n}
∞n=0が定まるのだが,上の式から容易にわかるように,実際にはX
nはn
個 の実数C
1, C
2, . . . , C
nのみから決まることを注意しておく.このことを強調する時はX
nをX
nC1,...,Cnと書く.{ C
n}
∞n=1が与えられた時,X0, X
1, X
2を命題3
に従って計算してみると次のようになる.X
0= − T, (2.5)
X
1= − C
12 T + T × ∇
TT, (2.6)
X
2= � 3
2 |∇
TT |
2+ C
128 − C
22
�
T + ( ∇
T)
2T + C
12 T × ∇
TT.
(2.7)
一般に
X
n= X
n[γ]
はγ
のs
によるn + 1
階までの微分で書ける.つまりX
nはγ
に作用するn + 1
階微分作用素 とみなせる.局所誘導階層を定義しよう.M 内の曲線の時間発展方程式の列
(2.8) ∂ � γ(s, t)
∂t = X
n[ � γ(s, t)] (n = 0, 1, 2, . . . )
を考える.Xnが局所弧長保存であることから,(2.8)は弧長パラメータを保つことがわかる.即ち,(2.8)の解
� γ(s, t)
に対して,もしs
が初期曲線� γ(s, 0)
の弧長パラメータであるならば,任意の時刻t
に対して,sは曲線� γ(s, t)
の弧長パラメータとなる.定義
5. { C
n}
∞n=1を実数列とし,{ X
n}
∞n=0を(2.2),(2.3),(2.4)
によって定義される微分作用素の列とする.M 内の弧長パラメータ曲線の時間発展方程式の列(2.8)
を局所誘導階層という.ここでs
は曲線に沿う弧長パラメー タ,tは時間を表す.n = 1
でC
1= 0
のとき,(2.8)は局所誘導方程式(1.1)
に一致する.本稿では考察しないが,(1.1)に対する基 本的問題として初期値問題が考えられる.これについては[9], [10], [16]
などを参照せよ.また,n= 2, 3
の時の 方程式も物理的な意味があることが知られている.例えば,M= R
3で,n= 2,C
2= C
12/4
のとき,(2.8)は軸 流効果を考慮した渦糸の運動方程式であるFukumoto-Miyazaki
方程式である(cf. [3], [2]).
なお,向き付けられた3次元
Riemann
多様体内の場合,(2.8)が完全可積分系になることは,一般には期待で きないが,空間形内の場合に限っては完全可積分系となることが示されている([18]).
3
進行波解この節では,空間形の場合に
(2.8)
の進行波解を構成する.これ以降,M は常に空間形R
3, S
3, H
3とし,断面 曲率をG
で表す.進行波解とは,形を変えずに動く解のことであり,厳密には次のように定義する.定義
6.
次のように表される(2.8)
の解� γ : R × R → M
を(2.8)
の進行波解という.M
内のある曲線γ : R → M
,M
のある1径数等長変換群{ ϕ
t}
t∈R,及びある定数c ∈ R
が存在して,� γ(s, t) = ϕ
t(γ(s − ct))
と表せる.次にソリトン曲線を定義しよう.これは
(2.8)
に対応する定常方程式の解である.定義
7. n � 1
とする.γ : R → M
を弧長パラメータの曲線とする.あるC
1, . . . , C
n∈ R
が存在してX
nC1,...,Cn[γ] = 0
が成り立つときγ
を第n
ソリトン曲線という.第n
ソリトン曲線全体の集合を第n
ソリトンクラスとよび,Γnで表す.Γ :=
�
∞n=1
Γ
n を単にソリトンクラスとよぶ.Γの元を,単にソリトン曲線とよぶ.すると次の包含関係が成り立つことが示せる.
命題
8. Γ
n⊂ Γ
n+1( ∀ n � 1)
ソリトンクラスには,幾何学的,物理的に興味深い曲線が現われる.例えば,Γ1は測地線全体の集合,Γ2は 螺旋全体の集合に一致する
(これは M
が空間形でなくても成り立つ).さらに,Γ3はKirchhoff
弾性棒の中心曲 線全体の集合に一致することが示せる.Kirchhoff弾性棒とは,曲げ及び捩れのエネルギーを考慮した一次元弾性 体の数学的モデルである.3次元空間形内のKirchhoff
弾性棒については,[6], [7]などを参照せよ.ソリトン曲線を用いて
(2.8)
の進行波解を作ろう.まず,γ∈ Γ
nならば,� γ(s, t) := γ(s)
は明らかに(2.8)
の進 行波解である.この解はt
に依存しないから,“ 静止した ”進行波解であり,自明なものといえる.そこで非自明 な進行波解を構成したいのだが,次のようにΓ
n+2の元を用いて(2.8)
の進行波解を作れることがわかる.(これに より,screw motion によって動く進行波解の例も作れる.)定理
9. M = R
3, S
3, H
3とし,nを0
以上の整数とする.γ: R → M
を弧長パラメータの曲線とする時,次の 条件(i),(ii)
は同値である.(i) γ ∈ Γ
n+2(ii)
あるc, C
1, C
2, . . . , C
n∈ R
及びM
の1径数等長変換群{ ϕ
t}
t∈R が存在して,� γ(s, t) := ϕ
t(γ(s − ct))
は(2.8)
の解である.(つまり進行波解である.)(証明の概略). (i) ⇒ (ii)
の証明の概略を述べる.((ii)⇒ (i)
については少し工夫が必要だが,基本的には(i) ⇒ (ii)
の逆を辿ればよい.)
証明を簡単に述べるため,ここではγ
の曲率は常に正であるとする.γ∈ Γ
n+2とすると,定 義により,あるC
1, . . . , C
n+2∈ R
が存在してX
n+2C1,...,Cn+2[γ] = 0
である.まずC
1, . . . , C
n+2を付け替えよう.補題
10.
あるC �
1, . . . , C �
n+2∈ R
が存在してX
C�
1,...,C�
n+2n+2
[γ] − GX
nC�
1,...,C�
n[γ] = 0
が成り立つ.補題
10
は,M= R
3の時は自明であるが(実際 C �
j= C
j(j = 1, · · · , n + 2)
とすればよい),S3, H
3の時は自 明ではないことを注意しておく.以降,C �
1, . . . , C �
n+2を改めてC
1, . . . , C
n+2と書く.すると,次が成り立つ.補題
11. X
n, X
n+1はM
上のあるKilling
ベクトル場X �
n, X �
n+1に一意的に拡張できる.この補題
11
により,X �
nの定める1径数等長変換群を{ ϕ
t}
t∈Rとし,c= 0
とすれば,� γ(s, t) := ϕ
t(γ(s − ct))
は(2.8)
の解となることが容易に分かる.従って(i) ⇒ (ii)
が証明された.(なお,上のX �
n+1はここでは用いない が,次節で重要な役割を果たす.)後は補題
11
を示せばよい.次の補題が成り立つ.(補題12
により,再帰作用素R
は純粋に幾何的な意味をも つものであると言える.)補題
12. γ = γ(s)
をM
内の,弧長パラメータの曲線とする.γ
の曲率κ(s)
は全ての点で正と仮定し,γのFrenet
枠を
(T, N, B)
とする.W をγ
に沿う局所弧長保存ベクトル場とする.この時,WがM
上のKilling
ベクトル場に拡張できるための必要十分条件は次の
(1),(2)
が成り立つことである.(1) �−R
2W + GW, N � = 0 (2) ∂
∂s
� �−R
2W + GW, B � κ
�
= 0.
(
なおR
2W
には不定性があるが,(1),(2)の左辺は確定することに注意する.)さらに,拡張ができる場合は,そ の拡張の仕方は一意的である.補題
10
より− X
n+2+ GX
n= 0
である.よって�−R
2X
n+ GX
n, N � = �− X
n+2+ GX
n, N � = 0
となり,W = X
nは補題12
の条件(1)
を満たしていることが分かる.同様に(2)
も満たすことが分かる.従ってX
n はM
上のある
Killing
ベクトル場に拡張できる.Xn+1についても類似の方法で示すことができ,以上で補題11
が示された.
注
13.
特にM = R
3, n = 1, C
1= 0
の時は,(2.8)は局所誘導方程式であり,[4],[5],[8],[14]などで進行波解が調 べられている.4
ソリトン曲線の性質前節ではソリトン曲線を用いて局所誘導階層の進行波解を構成した.ここでは,ソリトン曲線の円柱座標によ る表示式について述べる
(定理 15).円柱座標を構成する際,補題 11
の二つのKilling
ベクトル場が重要な役割を 果たす.さて,前節で述べたようにΓ
1の元は測地線であり,これは既によく知られている.また命題8
が成り立 つから,差集合Γ
n\ Γ
n−1(n � 2)
の元を調べれば十分である.まず,LangerによるM = R
3の時の結果を述べ よう.定理
14 (Langer([11])). M = R
3とする.n� 2
とし,γ∈ Γ
n\ Γ
n−1とする.この時,X �
n−1は定ベクトル場 となり,X �
n−2はX �
n−1に平行な直線を軸とするscrew
場となる.また,このX �
n−1, X �
n−2 に付随する円柱座標 を(r, θ, z)
とする.この時,γ(s)のr, θ, z
成分,r(s), θ(s), z(s)は,γ(s)の曲率κ(s)
と捩率τ(s)
によってexplicit
に表せる.詳しく述べると,r(s)2, z
�(s) (
ただし�はs
による微分)
は,κ(s), τ(s)
とその導関数の多項式で書け,θ
�(s)
は,κ(s), τ(s)とその導関数の有理式で書ける.この結果を空間形に拡張したい.以下
M = S
3, H
3とする.さて,曲線γ ∈ Γ
n\ Γ
n−1にうまく適合した座標 を構成したいのだが,まずはM
をR
4(標準座標を (x
1, x
2, x
3, x
4)
とする)に埋め込んで,次のような座標を定 めておく.Case 1. M = S
3 の時S
3 をR
4 の原点中心の半径1/ √
G
の球面として等長的に埋め込んでおき,次の関係によってS
3 内の座標系(r, θ, ψ)
を定める.x
1= r cos θ, x
2= r sin θ, x
3= r cos ψ, x
4= r sin ψ
ここで
r > 0
であり,またr = �
1/G − r
2 とおいた.Case 2. M = H
3 の時双曲面モデルを使う.即ち
M
を,Lorentz計量dx
21+ dx
22+ dx
23− dx
24 を入れたR
4に双曲面{
t(x
1, x
2, x
3, x
4) ∈ R
4; x
21+ x
22+ x
23− x
24= 1/G, x
4> 0 }
として等長的に埋め込む.次の関係によってH
3 内に座標系(r, θ, ψ)
を定める.x
1= r cos θ, x
2= r sin θ, x
3= − r sinh ψ, x
4= r cosh ψ
ここでr > 0
であり,またr = �
− 1/G + r
2とおいた.上の埋め込み
M → R
4をι
で表し,座標(r, θ, ψ)
を,埋め込みι
に関する円柱座標という.また
I(M )
でM
の等長変換群を,Lie(I(M ))
でそのLie
環を表す.即ちM = S
3, H
3に対して,I(M ) = O(4), O
+(3, 1) ( ⊂ GL(4, R))
であり,Lie(I(M)) = o(4), o(3, 1) ( ⊂ M (4; R))
である.すると,次が成り立つ.定理
15. M = S
3, H
3とする.n� 2
とし,γ∈ Γ
n\ Γ
n−1とする.またM = H
3 の時は,Killing ベクトル 場X �
n−1 は放物型ではないと仮定する.この時,X �
n−1とX �
n−2 は互いに可換なKilling
ベクトル場になる.ま た,あるP ∈ I(M )
が存在して,埋め込みP ◦ ι : M → R
4に対する円柱座標(r, θ, ψ)
をとると,次が成り立つ.γ(s)
のr, θ, ψ
成分,r(s), θ(s), ψ(s)は,γ(s)の曲率κ(s)
と捩率τ (s)
によってexplicit
に表せる.詳しく述べる と,r(s)2は,κ(s), τ(s)
とその導関数の多項式で書け,θ�(s), ψ
�(s)
は,κ(s), τ(s)
とその導関数の有理式で書ける.注
16. n � 3
の時,κ(s),τ (s)
はJacobi
のsn
関数によってexplicit
に書けることが分かっているので,γの成分r(s), θ(s), ψ(s)
もsn
関数と楕円積分でexplicit
に書ける(cf. [6],[7]).
ここでは,定理
14 (つまり M = R
3の時)との証明の違いについて述べることにする.最も大きな違いは,円 柱座標を構成する際の困難さである.まず,M
= R
3としてみよう.この時は,X �
n−1がR
3上の定ベクトル場であることが容易に示せる.(実際,γ ∈ Γ
nよりX
n− GX
n−2= 0
であるが,G= 0
が効いてX
n= 0
となる.従って(2.3)
より∇
TX
n−1= 0,つま
りX
n−1はγ
に沿って平行である.よってX �
n−1はR
3上の定ベクトル場となる.ここではKilling
ベクトル場へ の拡張が一意的であることを使った.)このことを用いると,X �
n−2がX �
n−1に平行な直線を軸とするscrew
場と なることも比較的容易に示すことができ,円柱座標が自然にとれることが分かる.次に
M = S
3, H
3の時を考えよう.この時は,X �
n−2とX �
n−1がどのようなベクトル場となるかが容易には分 からない.そこでこの2つのKilling
ベクトル場の関係を調べるため,[X �
n−2, X �
n−1] = 0
が成り立つことを示す.この部分が証明の一番の難点であるが,ソリトン曲線の第一積分などを使って計算することにより,示すことがで きる.この可換性を用いると,