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有価証券報告書等虚偽記載に関する 発行会社の民事責任

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(1)

有価証券報告書等虚偽記載に関する 発行会社の民事責任

― 損害論からの考察 ―

前 越 俊 之

目次 はじめに 金商法 条の

情報開示義務とその責任

不実開示に関する民事賠償規定の変遷 金商法 条の 制定過程

条文の構造 判例の展開

西武鉄道事件最高裁判決 ライブドア事件最高裁判決

アーバン・コーポレーション事件最高裁判決 虚偽記載等に基づく民事責任

損害論の観点から 不実開示事例の特殊性

証券不実開示事例での損害論学説 純粋経済損失に対する救済の議論 検討

保護法益説(私見)

結びに代えて

福岡大学法学部准教授

(2)

一 はじめに

年に拙稿「証券不実開示訴訟における『損害因果関係』(福岡大学法 学論叢 巻 号 頁)において、証券不実開示訴訟における発行会社の責 任に関し合衆国の事例を通じて検討を行った。論稿の趣旨は、同様の問題を わが国において検討する上での端緒とすることであった。しかし、以前に比 べ、確実に数が増えている証券不実開示に関する判例を、研究会において報 告する等、継続的に研究に取り組んでいたものの、いたずらに日が過ぎて、

今日に至った。その一方で、近時、オリンパス事件について判決が下されあ るいは和解に至ったとの新聞記事を見る。また、ガバナンスに積極的に取り 組んでいたはずの東芝において粉飾疑惑が生じ、株主代表訴訟が提起され、

投資者による会社に対する民事訴訟も提起されている。

情報開示制度は、市場の価格形成機能による資本の適切な配分を達成する ための前提であり、また、コーポレート・ガバナンスの質を高めて行く重要 な手段でもある。会社法制および金融商品取引法制の研究を進めて行く上で、

損害論の視点から、議論を整理し私見を提示する必要を感じ、本稿をまとめ た。西武鉄道事件最高裁判決が出た後で、金商法 条の に関しては、ライ ブドア事件最高裁判決が出された。また同条に対しては、平成 年金融商品 取引法改正において、立証責任が転換された形での過失責任主義へと基本原 則が変更される等、大きな法改正が行われた。重要な法改正と判例の蓄積の 中で、金融商品取引法 条の に関しては、その規定のあり方について、今 日、見直しの時期にあるのかもしれない 。もっとも、筆者は、見直しに賛 成すると共に、同条について「それでも金商法 条の には存在意義がある」

という見解である。

損害賠償請求訴訟において、原告としては獲得できる賠償額が大きい方が、

金融法委員会「金融商品取引法第 条の に係る解釈論の整理――損害額の算定方法−公表 概念と他事情の範囲−を中心として(上)(下)」商事法務 号 頁、 号 頁( 年)。

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望ましいであろう。しかし、金額が高いことをもって、その損害論が正しい ことにはならない。相当因果関係説に依拠する判例実務において、裁判所の 広い裁量の下で個々の事例にそった柔軟な解決が図られているともいえる。

これに対し、筆者は、賠償額の予見可能性という観点から、判例実務に批判 的である。

そうは言っても、本稿をまとめてみて、相当因果関係説その他の損害論に 対して、私見を展開する意義や実益につき、少なからず不足なものを感じる。

しかし、疑問や問題点があれば、私見の欠陥が明らかになることで、自身の 見解を正しい方向に是正することができるだろう。このような意味で、本稿 をまとめる意味があると信じる。

本稿では、流通市場における情報開示制度に関し、発行会社の民事賠償責 任を損害論の観点から検討する。本稿二において、発行会社の責任規定であ る金融商品取引法 条の を取り上げる。同法に関する情報開示制度と民事 賠償規定の変遷を辿り、同条項の立法過程と立法担当者の見解を中心として 同条項の構造を明らかにする。本稿三において、一般不法行為法および金融 商品取引法 条の に関する最高裁判決を取り上げる。本稿四は、損害論の 観点から、虚偽記載等に基づく発行会社の民事責任に関して検討を加える。

私見は、いわゆる損害事実説に依拠して、差額説に立つ判例の立場を批判的 に検討する。なお、証券不実開示の事例は、情報開示制度と証券市場を背景 とする不法行為であるゆえに、不法行為による法益侵害によって、すぐに損 害が生じるような構造にない。発行会社による不実開示という不法行為がな された後で、隠されていた情報が公表され、その情報が市場価格に反映され ることで、損害が現実化する構造の下にある。このような証券不実開示事例 の特殊性を明らかにする。さらに、純粋経済損失(pure economic loss)に 関する議論を検討し、保護法益に関する視点の必要性を指摘する。最後に、

できる範囲で私見(保護法益説)を提示した。相当因果関係説に依拠しない

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ことを宣言しているが、このような議論(私見)が、有益な議論であるかど うかは、本稿において、残念ながら十分には論証できていない。本稿五は、

残された課題を簡単に記す。

二 金商法 条の

情報開示義務とその責任

金融商品取引法は、次のような有価証券の発行会社に対して有価証券報告 書の提出を義務付ける(金商法 条 項)。①金融商品取引所に上場されて いる有価証券の発行者(金商法 条 項 号)、②店頭市場取引有価証券の発 行者(同条同項 号、施行令 条)、③募集・売出しを行った有価証券の発 行者(同条同項 号)、または④資本の額が 億円以上でかつ有価証券保有 者が 名以上の株式会社(同条同項 号、施行令 条の 第 号)である。

法によって義務付けられた情報開示を強制的情報開示という。一方、発行 会社によって任意に開示されたり、あるいは金融商品取引市場等によって望 ましいものとして推奨されている情報開示を任意的情報開示という。上述の 有価証券報告書の提出は、強制的情報開示制度の つである。流通市場にお いて強制的な情報開示を行う意義は、投資者保護の見地から、投資者に対し て投資判断に必要な情報を提供することに求められている 。あるいは、投 資者の情報獲得コストから説明される。情報開示を法律で強制しなくても、

発行会社は自発的に情報開示を行うだろう。しかし、その場合、経営者が、

自己に都合のよい虚偽の情報を開示する誘因がある。このような情報開示は、

投資者に損害を被らせ、発行市場を通じた資源配分を歪めるばかりか、市場 による企業経営に対する監視機能を弱めることになる。したがって、虚偽の

川村正幸編『金融商品取引法〔第 版〕』 頁(中央経済社・ 年)。黒沼悦郎『金融商 品取引法入門〔第 版〕』 頁(日本経済新聞社・ 年)、神崎克郎=志谷匡史=川口恭弘『証 券取引法』 頁(青林書院・ 年)。

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情報開示を禁止すると共に、同時に一定の情報開示を強制する必要があると いうのである 。また、法律に基づいた一律で定型的な情報開示は、投資者 の情報獲得コストを下げ、証券市場における取引効率性の確保を通じて、証 券市場の機能を保障することになるという 。

流通市場での強制的な情報開示書類には、有価証券報告書のほか、四半期 報告書(金商法 条の の 第 項)、半期報告書(金商法 条の 第 項)

および臨時報告書(金商法 条の 第 項)がある 。金融商品取引法は、

財務計算に関する書類について、発行会社と特別の利害関係のない公認会計 士または監査法人によって監査証明を受けることを義務付ける(金商法 条の )。このような専門家による外部からの会計監査を有効に実施するた めには、発行会社において有効な内部統制システムが機能していなければな らない。このような発行会社内部のリスク管理体制の下でなければ、公認会 計士監査は有効に実施し得ない。財務計算に関する書類は、このような内部 統制システムを前提とした外部監査体制の下、作成され、監査証明を受けて、

財務諸表として公表される 。

これら情報開示書類に不実の記載があった場合、金融商品取引法は、刑事

近藤光男=吉原和志=黒沼悦郎『金融商品取引法入門〔第 版〕』 頁(商事法務研 究会・ 年)。

黒沼悦郎「証券市場における情報開示に基づく民事責任( )」法学協会雑誌 巻 号 頁、 頁( 年)。

この他、定時的な発行会社の情報開示書類として、自己株式に関する「自己株券買付状況報 告書」(金商法 条の )、上場子会社による「親会社等状況報告書」(金商法 条の 第 項)

がある。なお、有価証券報告書を提出しなければならない会社のうち、上場有価証券の発行者 は、「内部統制報告書」(金商法 条の の )を提出しなければならない。

会計監査の意義に関し次の文献が有益である。「実効性のある会計監査によってのみ、会計 上の諸帳簿の整備を踏まえた損益計算書の真実性ないし適正性が確保されるとともに、あわせ て、財務諸表等の真実性ないし適正性が保証される。その意味において、会計監査は財務諸表 の作成と開示をつなぐ『要』の位置にある。」西山芳喜「監査役とは何か―日本型企業システ ムにおける役割」 頁(同文舘出版・ 年)。

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規制、行政規制および民事規制という 点から発行者等に対し制裁を課す。

本稿では、これら規制の中でも民事規制における制裁について、それも流通 市場における情報開示責任に絞って検討を行う。

なお、情報開示とは、以上のような金融商品取引法によって義務付けられ た情報開示制度(強制的情報開示制度)のみでなされるわけではない 。発 行会社は、会社や営業に関する情報を適宜、任意に開示している 。このよ うな任意に開示された情報に関しても、市場価格に影響を与えるような虚偽 の情報が開示された場合、法的な問題を生じ得るであろう。例えば、表示に よる相場操縦罪の構成要件を満たす場合、同罪によって刑事責任に問われ得 る(金商法 条 項 号・ 号)。この場合、民事の問題としては、一般不 法行為法によりあるいは金融商品取引法によって投資者は、損害賠償請求が 可能である(民 条、金商法 条)。また、風説の流布の構成要件を満た す事例においては、刑事責任および行政罰として課徴金の賦課も生じ得るで あろう(金商法 条、金商法 条 項)。この場合、民事上の問題として は、違法な行為なのであるから、風説の流布によって損害を被った投資者は、

「有価証券上場規則(東京証券取引所)」第 条(誠実な業務遂行)は、次のように定める。

「上場会社は、投資者への適時、適切な会社情報の開示が健全な金融商品市場の根幹をなすも のであることを十分に認識し、常に投資者の視点に立った迅速、正確かつ公平な会社情報の開 示を徹底するなど、誠実な業務遂行に努めなければならない。」。次いで、第 条以下におい て、同上場規則の「施行規則」の定めるところに従い、「施行規則で定める基準に該当するも のその他の投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものと当取引所が認めるものを除」き、適 時開示すべき情報が具体的に示されている。「東証では、投資者への適時、適切な会社情報の 開示が健全な金融商品市場の根幹をなすものであるという基本認識のもと、(中略)上場会社 に対して、重要な会社情報を適時、適切に開示することを義務づけています。」と適時開示の 意義が説明されている。東京証券取引所上場部編「会社情報適時開示ガイドブック( 月版)」 頁(東京証券取引所・ 年)。

例えば、日本取引所グループはインターネット上「適時開示情報閲覧サービス」で上場会社 等によって任意に開示された投資判断上重要な情報を提供する。また、同グループの東京証券 取引所は、同じネット上で「東証上場会社情報サービス」において、企業の PR 情報、コーポ レートガバナンス情報も提供している。

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一般不法行為による賠償請求が生じ得るであろう(民 条)。この他、一般 詐欺禁止規定である金商法 条 号または 号に違反すると判断された事 例においても、刑事責任ばかりでなく、一般不法行為による民事賠償請求が 生じ得るであろう(民 条)。さらに、任意的情報開示に虚偽の開示がなさ れ、これによって投資者に損害が生じた場合であっても、一般不法行為法(民 条)に基づく民事賠償責任の問題を生じ得るであろう。しかし、本稿で は、このような任意的情報開示における不実開示の事例ではなく、強制的情 報開示制度に関する問題に絞る。財務諸表に係る情報開示と任意的情報開示 に係る情報開示では、会社内部での情報開示体制に大きな差異がある。この ような会社内部での体制の違いは、民事責任の問題を考える場合、過失の認 定基準の差異を意味する。つまり、情報開示に関する問題であっても、財務 諸表に係る情報開示と任意的情報開示に係るそれとでは、同じように取り扱 いことはできない。情報開示に関する一定の結論を得るため、本稿では、強 制的情報開示制度のみを対象として検討を行う。

不実開示に関する民事賠償規定の変遷

昭和 年制定の証券取引法は、有価証券届出書に不実の記載がある場合の 損害賠償規定 と目論見書に関する損害賠償規定 を定めるのみであり、流通 市場における情報開示制度に関しては、特別の規定を定めていなかった 。

証取法第 条は、不実の届出書提出者の賠償責任を定めていた。また同第 条は、損害賠償 額の推定規定であった。

証取法第 条は、目論見書を交付せずに当該有価証券を取得させた場合の損害賠償規定であ る。また、同第 条は、不実の目論見書等の使用者の損害賠償について定める。

但し、有価証券届出書の不実記載に関する民事責任規定が、流通市場での有価証券取得者に 対して適用されていた。つまり、「第 条第 項 有価証券届出書のうち、重要な事項につい て虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生ぜしめないために必要な重 要な事実の記載が欠けているときは、当該有価証券届出書の届出者は、当該有価証券を取得し た者に対し、損害賠償の責に任ずる。但し、当該有価証券の取得をした者がその取得の申込の

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従って、有価証券届出書に関する民事責任の規定が適用できる一定の場合を 除いて、有価証券報告書に不実の記載がなされた場合、不法行為に関する民 法の規定(民 条)、並びに取締役および監査役の第三者に対する責任を定 める商法の規定(平成 年改正前商法 条の )が適用されると解釈され ていた 。

情報開示制度に関する大改正は、昭和 年証券取引法改正である。この改 正は、公開買付について同法第 章の を新設するほか、企業内容開示制度 について同法第 章を全面的に改正するものであった。流通市場における情 報開示書類に関しては、例えば、半期報告書制度および臨時報告書制度が導 入されている 。このような改正の立法事実としては、①流通市場の規模の 拡大、②公募増資の増加のような資金調達方法の多様化および③外国人投資 家による日本株投資等の国際化が挙げられていた 。そうして、制度上の改 善措置として、具体的には、企業の粉飾決算防止と投資者保護の徹底が挙げ られる 。

際記載が虚偽であり、又は欠けていることを知つていたときは、このかぎりでない。」。続いて、

第 項は、届出書が効力を生じた日以後 年間の損益計算書を公表した場合においては、その 公表の後に当該有価証券を取得した者は、重要な不実記載について善意であることを証明しな ければ、第 項による損害賠償を請求することができないと規定する。なお、第 条は、第 条 項の損害賠償請求に関して、損害賠償額の推定規定である。第 条の規定は、有価証券届 出書に関する規定である。しかし、同条は、第 項の規定から推察できるように、募集・売出 に応じて当該有価証券を取得した場合に限らず、届出書の提出後流通市場で当該有価証券を取 得した投資者にも適用可能であった。奥村光夫「第 章 企業内容開示制度の改正」渡辺豊樹 他著『改正証券取引法の解説』 頁、 頁(商事法務研究会・ 年)。

谷川久「第Ⅷ章民事責任」ルイ・ロス=矢澤惇(監修)『アメリカと日本の証券取引法 下 巻』 頁、 頁(商事法務研究会・ 年)。

もっとも、この時、半期報告書について、決算が行われないことまた半期の損益に関する監 査基準が確立していないこと等を理由として、公認会計士による監査証明は見送られている。

渡辺豊樹「第 章証券取引法の改正と外国証券業者法の概要」渡辺豊樹他著・前掲註( )書 頁、 頁。

渡辺豊樹他著・前掲註( )書 頁。

渡辺豊樹他著・前掲註( )書 頁。

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昭和 年改正において、有価証券届出書の不実記載に関する民事責任につ いても改正がなされた。本稿註( )で述べたように、従来は、流通市場で 当該有価証券を取得した投資者に対しても、有価証券届出書の不実記載に関 する民事賠償規定が適用可能であった。それを、有価証券報告書の不実記載 に対する民事責任規定の新設に伴い、証券の募集・売出しに応じた投資者に 対する責任のみに適用を限定するように改正された 。また、有価証券届出 書の不実開示に関する発行会社の損害賠償責任に関しては基本的には従来ど おりであるが、賠償額推定規定について改正がなされた 。改正によって、

損害賠償額の推定額は、当該有価証券の取得について支払った額から、①損 害賠償を請求する時における市場価額(市場価額がないときは、その時にお ける処分推定価額)、または②.①の時以前に当該有価証券を処分した場合は その処分価額、を控除した額となった(証取法第 条 項)。改正理由は、

裁判外の賠償請求にも基準を示す必要があること、裁判外であると否とにか かわらず、このような事件は早期に解決して当該有価証券の流通を安定させ る必要があることである 。なお、投資者の被った損失の全部または一部が 有価証券届出書の虚偽記載等との間で相当因果関係がないと、発行会社が証 明した場合、その全部または一部について免責される(同第 項)と定めて いたが、この点は従来どおりとして、改正の対象とされていない。

また、不実記載のある有価証券届出書に関し、届出者の責任を定める規定

奥村光夫「第 章企業内容開示制度の改正」渡辺豊樹他著・前掲註( )書 頁、 頁。

旧規定(昭和 年改正前証券取引法第 条 項)は、次のように損害額を推定していた。つ まり、当該証券を取得した価額から、①.事実審の口頭弁論終結の時における市場価格(市場 価格がないときは、その時の処分推定価額)、または②.①の時前に当該有価証券を処分した 場合はその処分価格、を控除した額。なお、旧規定第 条 項は、投資者が被った損失の全部 または一部が、有価証券届出書の虚偽記載等との間で相当因果関係がないことを、発行会社が 証明した場合、その全部または一部について免責される、と定めている。渡辺豊樹他著・前掲 註( )書 頁。

渡辺豊樹他著・前掲註( )書 頁。

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(昭和 年改正前証取法第 条)に加えて、役員等の責任を定める規定が新 設された(昭和 年改正証取法第 条)。粉飾決算の予防とそれによって投 資者が被った損害救済を担保するためには、発行会社の責任だけでは不十分 な場合があり、その場合、役員等もそれぞれの分野において責任を負う必要 があるというのが、条文を新設した趣旨として説明されている 。役員等と は、①当該有価証券届出書提出時の役員(提出が会社成立前の場合は発起人)、

②売出しに掛る有価証券の所有者、③当該有価証券届出書に監査証明を出し た公認会計士・監査法人、および④元引受契約を締結した証券会社である。

発行会社の責任(昭和 年改正証取法第 条 項)と異なり、役員等の責任 は、立証責任が転換されたかたちで、過失責任主義が採用されている(昭和 年改正証取法第 条第 項)。また、発行会社の責任の場合と異なり、損 害賠償額の推定規定が定められておらず、かつ損害と虚偽記載の相当因果関 係については、投資者に立証責任が課されている 。

さて、昭和 年証券取引法改正では、有価証券報告書の不実開示に関して、

役員等の責任を定める条文 が新設された。もっともその一方で、発行会社 自体の民事賠償責任に関して規定が設けられなかった。募集・売出しの場合

渡辺豊樹他著・前掲註( )書 頁。

渡辺豊樹他著・前掲註( )書 頁。

「昭和 年改正証取法第 条の 第 条の規定は、有価証券報告書のうちの重要な事項に ついて虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要 な重要な事実の記載が欠けている場合に準用する。」。なお、第 条 項は、募集・売出し以外 の場合の届出書虚偽記載等による役員等の損害賠償責任を規定する。第 項は、立証責任を転 換させるかたちでの過失責任を規定する。「昭和 年改正証取法第 条 有価証券届出書のう ち、重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさ せないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは、前条第 項第 号及び第 号に掲 げる者は、当該記載が虚偽であり又は欠けていることを知らないで、当該有価証券届出書の届 出者の発行する有価証券を取得した者(募集又は売出しに応じて取得した者を除く。)に対し、

記載が虚偽であり又は欠けていることにより生じた損害を賠償する責めに任ずる。第 項 前 条第 項第 号又は第 号の規定は、前項に規定する賠償の責めに任ずべき者について準用す る。」。

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と同じように発行会社にも責任を負わせ、かつ、賠償額も法定すべきである という意見もあった。しかし、発行会社と投資者との間で何らの取引も行わ れていない流通市場の取引に関して、発行市場の場合と同様の責任を発行会 社に負わせることは適当でないことを理由に、発行会社の民事責任規定は、

新設されなかった 。なお、昭和 年改正では、半期報告書および臨時報告 書の提出が義務付けられるようになったが、これら報告書の不実開示につい ての損害賠償請求規定も設けられなかった 。

以上のように、昭和 年証券取引法改正は、有価証券報告書に対する不実 開示に関し、役員等の民事責任規定を新設したが、発行会社の責任に対する 規定を設けなかった。このような改正法の立場を正当とする見解がある。有 価証券報告書を信頼してなされた発行証券の取引は、会社を相手になされた のではなく、株主と投資者の間でなされたものであり、このような取引によっ て会社に何ら金銭が払い込まれる取引ではない。それが、法改正によって、

株主が発行会社から賠償を受けることになれば、会社債権者よりも有利な条 件で救済を受けることになる。本来、株主が会社財産に関し債権者に対し劣 後的地位にあるのであれば、株主に対するこのような有利な取扱いは疑問だ、

というのである 。また、投資者間で行われる証券取引から生じた損害につ いて、会社資金から賠償という形で支払いをするのは、実質的には資本の払

渡辺豊樹他著・前掲註( )書 頁。

渡辺豊樹他著・前掲註( )書 頁。その理由は、次のように述べられている。すなわち、第 に、半期報告書には仮決算、臨時報告書の場合、例えば、災害による損失額の記載のように、

見積りを主とするある程度不確定な計数の記載があることが挙げられている。第 に、明らか な虚偽記載がある場合は、大蔵大臣の訂正命令、また罰則の適用があることから、特に民事責 任に関する規定を設けなくとも投資者保護には欠けることがない。

谷川久・前掲註( )書 頁。さらに続けて、民事責任を強化せんとするなら、取締役の個 人的責任を容易に追及し得るようにすべきであり、かつ会社が補填することを禁じ、取締役の 個人破産を招来する可能性が大であるような立法措置を講ずれば、違法行為は減少するのでは ないか、とする。

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戻しと同様の現象を生じるという 。

一方、有価証券報告書に関する不実開示について、発行会社に民事責任を 負わせるべきだとする見解がある。その理由は、第 に、役員等だけが賠償 責任を負うだけでは、被害者の救済が図れないことから、真に被害者を救済 するためには、発行会社が責任を負う必要がある 。第 に、資本の払戻し であるという批判に対しては、それは発行会社が任意に行うのではなく、一 般法に基づく不法行為責任として強制されるものである。投資者には、一般 債権者と同程度の保護を与えるべきではないか、というのである 。

流通市場における不実開示に関し、発行会社の責任を定める法改正は、上 記昭和 年改正から四半世紀を経た平成 年証券取引法改正であった。平成

年改正で、証取法 条の が新設されることになった。

金商法 条の 制定過程 制定の経緯は、次の通りである。

平成 年「金融システム改革法」制定によって、わが国においても、本格 的な金融自由化が開始されることとなった。平成 年時点において、国内家 計における金融資産( 兆円)の .%が、「現金・預金」を占めており、

「株式」「投資信託」の割合は、依然として低い状態であった。市場機能を 十分に発揮し、幅広い投資家が参加する真に厚みのある市場とするため、包 括的な取り組みが必要であると考えられた 。そこで、平成 年 月「証券

谷川久(発言)「経済法学会証券取引法改正シンポジウム」商事法務研究 号 頁、 〜 頁(商事法務研究会・ 年)。

神崎克郎(発言)「経済法学会証券取引法改正シンポジウム」商事法務研究 号 頁、 頁

(商事法務研究会・ 年)、龍田節「第 章 証券取引の法規制」竹内昭夫=道田信一郎=

前田庸=龍田節=手島孝『現代の経済構造と法(現代法律学全集 )』 頁、 頁註( )(筑 摩書房・ 年)。

龍田節・前掲註( )書 頁註( )。

三井秀範〔編著〕『課徴金制度と民事賠償責任−条解証券取引法』 頁(きんざい・ 年)。

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市場の改革促進プログラム」において、「…②投資家の信頼が得られる市場 の確立(市場の公正性・透明性の確保)」が謳われ、具体的な施策が挙げら れている。また、平成 年 月「規制改正の促進に関する第二次答申」(総 合規制会議)には、専門分野における市場監視機能の強化等がとりあげられ、

「証券市場監視を強化する観点から、民事・行政的な制裁的負担を賦課する 制度の導入等、エンフォースメント手段の強化・拡充、複線化について検討 すべき」とされた。なお、平成 年 月には、同じ内容を盛り込んだ「規制 改革推進 カ年計画」が閣議決定されている。

平成 年 月 日、「市場機能を中核とする金融システムに向けて」(金融 審議会金融部会分科会第一報告)が公表された。この報告書の中で、①課徴 金制度の導入、および②民事責任規定の見直し、等の提言がなされた。この 報告書においてなされた提言を基にして、金融庁は、「証券取引法等の一部 を改正する法律案」をまとめ、平成 年 月に国会に提出した。衆議院およ び参議院での審議を経て、最終的に平成 年 月 日、参議院本会議におい て可決、成立し、 月 日、公布された。この改正によって新設された規定 の つが、証券取引法第 条の である。

平成 年証券取引法改正の立法担当者は、上記平成 年 月 日金融審議 会金融部会分科会第一報告をうけ「不実開示に関する流通市場における発行 会社の責任規定を新設した」と述べる。そうして、その意図は、市場監視機 能強化の一環としての民事責任規定の見直しであるとする 。次いで、証券 取引法違反に対する民事手続きを通じた責任追及が行われていない理由を指 摘する。第 に、不実開示などの違反行為が発見され難いこと、第 に、原 告による損害額の立証、とりわけ不実開示と因果関係のある損害およびその 額の立証が困難であること、第 に、クラス・アクション制度がないことで

三井秀範・前掲註( )書 頁。

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ある。加えて、東京地裁平成 年 月 日判決(金融商事判例 号 頁)

を引用して、一般不法行為を理由とする訴訟における証券被害者による立証 の困難性を指摘する。原告・被告間の公平を図りつつも、原告の立証の困難 性を立法によって一定程度緩和する措置を採ることが、ひいてはわが国証券 市場の公平性、透明性の確保に資するものといえる 、というのである。

証券取引法 条の 制定に対して学説から強い反対は出ていない。例えば、

改正は、次のように意義付けられている。投資者は、発行会社の経営危険に 投資をするのでその負担を覚悟すべきは当然であるが、有価証券報告書等の 虚偽記載から生じる不利益をも覚悟すべき地位にはない。虚偽記載によって 損害を被ったときは、不法行為の一般原則に従い、発行会社からも損害賠償 の救済を受けることができる 。民事手続きによる投資者の救済を通じて不 実開示を抑止する観点から、一般不法行為規定の特則として(平成 年改正 前においての)無過失責任規定や損害額・因果関係の推定規定などを創設す ることにより、投資者の立証責任を緩和し、発行会社の民事責任を強化した ものである 。虚偽記載等によって発生する損害は、自己責任原則の射程外 であるから、発行市場の場合と同様に、流通市場における証券取得者にも金 融商品取引法上の救済手段を与える必要がある。発行会社に賠償責任を課す ことにより、継続開示における虚偽記載等を抑止し、流通市場における価格 形成機能を確保することに求められる、と説明するほかない 。損害を受け た者の救済と、違反行為の抑止を目的としていることは、発行市場における 民事責任制度と同様である 。開示書類提出者に民事責任を課すことは、正 確な開示を実現するためであり、その要求には発行市場も流通市場も変わる

同頁。

神崎克郎=志谷匡史=川口恭弘『金融商品取引法』 頁(青林書院・ 年)。

松尾直彦『金融商品取引法〔第 版〕』 頁(商事法務研究会・ 年)。

川村正幸『金融商品取引法〔第 版〕』(芳賀良執筆部分) 頁(中央経済社・ 年)。

近藤光男=吉原和志=黒沼悦郎『金融商品取引法入門』 頁(商事法務研究会・ 年)。

(15)

ことはない 。あるいは、さらに端的に「虚偽記載について発行者が損害賠 償責任を負うことは、伝統的な不法行為責任理論からは当然であるといえ る。」 と意義付ける。しかし、「会社である発行者に責任を負わせることは、

会社の背後にいる株主に責任を負担させるに等しいため、発行者の責任は株 主間の利益移転を生じさせるだけであるとの批判もある」として、「被害者 の救済と違反行為の抑止という目的を効率的に達成するためには、誰に(責 任主体)どの範囲の責任(損害論)をどのような態様で(帰責論)負わせる べきかを論じることが必要であり、発行者の責任もそのような文脈において 議論が深められるべきであろう」とする 。

条文の構造

平成 年改正による法律名の変更によって、証券取引法 条の は、その まま金融商品取引法 条の となった。その後、平成 年金融商品取引法改 正によって、第 に、発行会社に立証責任が転換されたかたちで過失責任化 され、その旨を定める第 項が新設・追加された。それに伴い、平成 年改 正以降、第 項以降の項番号が繰り下がった。以下、本稿では、基本的に、

現行法において表記する。第 に、逆粉飾(たとえば、「業績が悪い」こと を示す虚偽の財務情報を開示する)に関しては、規定の適用外であったため、

平成 年改正法は、第 項につき「又は処分した者」の文言を新たに追加し た。MBO などの場合を想定したと説明されている 。従って、証券価格に とって「良い情報」が隠されていた場合において、真実の価格よりも「安く」

売ることになった投資者に生じた損害に対しても、本条が適用できるように

神田秀樹=山下友信編著『金融商品取引法概説』(小出篤執筆部分) 頁(有斐閣・ 年)。

黒沼悦郎『金融商品取引法』 頁(有斐閣・ 年)。

同頁。

齋藤通雄他(監修)「逐条解説 年金融商品取引法改正」 頁(商事法務研究会・ 年)。

(16)

なった。以下、平成 年改正の立法担当者の見解も参照しながら、平成 年 改正時の立法担当者の見解を基にして、この規定を概観する。

金商法 条の は、流通市場における強制的情報開示に関して、発行会社 の責任を規定する。有価証券報告書等の正式な開示書類に関して、重要な虚 偽記載等ある開示書類を提出した者(発行会社)に対する、流通市場におけ る損害賠償請求権について定めた規定である。平成 年証券取引法改正に よって、この条文が制定された時には、無過失責任の規定として作られた 。

この規定において、損害賠償請求可能な損害とは、「虚偽記載等により生 じた損害である」。したがって、第 項において、請求者が、虚偽記載等と 損害との間の因果関係および損害の額を立証しなければならない 。なお、

請求できる損害額は、「第 条第 項の例により算出した額を超えない限度」

とする。このように損害額に上限を設ける趣旨は、平成 年改正前本条が無 過失責任を採用するものであったことから、余りに過酷な損害額が認められ ることのないように定められたと説明されている 。

第 項は、前述したように平成 年金融商品取引法改正によって追加され た。第 項によって過失責任主義が採用され、発行会社は、虚偽記載等につ いて故意または過失のないことを証明することで責任を免れる 。

第 項の損害推定額は、虚偽記載等の公表による証券価格の変動額を、請

発行会社の責任に関して無過失責任主義が採用された理由は、 つ挙げられている。第 に、

違法行為の重大性である。第 に、投資者による立証の困難性である。開示書類の虚偽記載等 の違反行為は、発行会社の内部で行われ、外部者である投資者が、発行会社の故意または過失 を立証することは極めて困難である。第 に、発行市場の情報開示書類に関し、発行会社の責 任は無過失責任として規定されている(金商法 条)。開示書類は、 条第 項の書類が対象 となっており、発行市場における開示書類である有価証券届出書等が含まれている。従って、

発行市場における発行会社の責任について無過失責任主義が採用されていることと平仄を合わ せたという。三井秀範・前掲註( )書 頁。

三井秀範・前掲註( )書 頁。

同頁。

齋藤通雄他・前掲註( )書 頁。

(17)

求権者の証券取得時における損害額と推定するものである 。この損害額は、

もし虚偽記載等がなされていなかったらより安い価格で買えたはずなのに、

それができなかったという意味での逸失利益である 。第 項の請求が成立 するためには、請求権者による虚偽記載等と損害との間の因果関係および損 害額の立証が必要である。しかし、市場価格はさまざまな諸要因によって決 定されることから、市場価格の下落額のうち因果関係のある損害・損害額を 立証することは著しく困難である。そこで、損害賠償請求を容易にするため に、虚偽記載等が公表された場合、公表日前 ヶ月の当該証券の平均価額か ら公表日後 ヶ月の当該証券の平均価額を控除した額を、損害額と推定する ことができるとした 。 ヶ月の平均価額を採用するのは、市場における過 剰反応(オーバーシュート)の影響を排除する趣旨である 。この第 項の 推定をうけることのできる原告は、「公表日」前 年以内に当該証券を取得 した投資者に限られる 。

三井秀範・前掲註( )書 頁。

三井秀範・前掲註( )書 頁。

三井秀範・前掲註( )書 頁。一方、「虚偽記載と因果関係が高い数値であるという考え方 に成り立って因果関係の推定を認めたもの」と解釈する立場がある。神田秀樹「上場株式の株 価の下落と株主の損害」法曹時報 頁、 頁(平成 年)。なお、黒沼悦郎「ディスクロー ジャー違反に対する救済」新世代法政策学研究第 号 頁、 頁( 年)参照。ま た、現行第 項、第 項の規定振りから(因果関係不存在、寄与度を関与させるので)、現行 第 項の推定規定について、同様に、取得時差額説を前提とするわけではないという見解があ る。潮見佳男「民法から 有価証券報告書等の不実開示に関する責任について」潮見佳男=片 木晴彦編『民・商法の溝をよむ』 〜 頁(日本評論社・ 年)なお、潮見教授は、証券不 実開示に関する損害論について、「総体財産損害説」を採用する。虚偽記載があった有価証券 を取得したため取得者の保有する財産の総体(保有財産全体の価値)が現実に置かれている状 態と、虚偽記載があった有価証券を保有しなかったならば取得者の保有する財産の総体(保有 財産全体の価値)が置かれているであろう仮定的状態との差を損害と見る考え方である。潮見 佳男=片木晴彦編・ 頁。

三井秀範・前掲註( )書 頁。

取得時と公表時との間にあまりに時間的間隔が認められる場合、当該証券価格決定の基礎と なる経済状況もその間に大きく変化している可能性も高くなるため、損害額推定の合理性が薄

(18)

第 項は、第 項の「公表日」を定義する。まず、公表主体は、「発行者 自身」または発行会社の業務または財産に関し「法令に基づく権限を有する 監督官庁等」に限定している 。業務または財産に関する法令に基づく権限 の例としては、内閣総理大臣、金融庁、証券取引等監視委員会、証券取引所、

証券業協会、また破産管財人、その他各法の監督・検査・報告聴取等につい ての権限が該当するとし、警察による捜査結果の発表もこれに当ると解され る 。公表の内容は、「本来、開示書類に記載されるべきであった必要な事実 が公表されたこと」を意味する。そこで、当該有価証券報告書には虚偽記載 等が存在しているという指摘のみでは足りず、一定の事実が公表される必要 がある。ただ、虚偽記載については、虚偽部分を指摘すれば足りるし、また、

厳密な意味で真実を完全に公表しなければならないわけではなく、当該証券 価額への誤った評価を解消するために必要な程度の事実の公表があれば足り る 。

第 項は、第 項による推定損害額のうち、虚偽記載等以外により生じた 値下がり部分の立証に関する規定である(減額の抗弁)。例えば、当該証券 の価格が、市場全体や同業他社の株式相場や市場指標に連動していることお

まる。ゆえに、本規定に基づく推定を受けることができる者を「公表日」前 年以内に当該証 券を取得した者とした、という。三井秀範・前掲註( )書・ 頁。さらに、「公表日において 引き続き当該有価証券を所有する者」に限定した趣旨も、隠されていた情報が公表される前に 当該証券を売却した者は、損害が顕在化しないうちに当該証券を手放しているため、類型的に 損害が生じているとは考え難いからである、と説明する。同頁。

三井秀範・前掲註( )書 頁。このような 者に限定した理由は次のように説明されてい る。過去の虚偽記載等を訂正し真実の開示を行うことの公表として信頼性があり、市場参加者 は、その公表を合理的なものとして信頼して投資判断することにより開示が虚偽なものから真 実なものに修正されたことを適正に反映した価額変動が発生すると類型的に考えられる場合と して、列挙した、という。つまり、真実の開示について信頼性があり、かつ公表された情報に よって投資者が投資判断することで真実が適正に反映した価額変動が発生する典型的な類型と して、この 者を列挙したという。

三井秀範・前掲註( )書 頁。

同頁。

(19)

よびその連動している価額を立証した場合、あるいは、公表と同時に虚偽記 載等以外の証券価額を下落させるべき事実が公表されたときに、 虚偽記載 等以外の事実に因る下落分 を立証したとき、が考えられるという 。

第 項は、裁判所による相当な減額 額 の認定を規定する。すなわち、

前項である第 項により減額が認められるためには、( ).虚偽記載等によっ て生じた値下がり以外の事情の証明、( ).( )の事情と損害との因果関係、( ).

( )の損害の「額」の 点を、被告である発行会社がいずれも立証しなけれ ばならない 。しかし、証券価格の変動によって生ずる損害は、市場の価格 形成メカニズムにおける種々の要因により決せられるため、損害の「額」ま で立証することは困難なことが多い。そこで、( ).および( ).まで立証され ている場合において、その損害の性質上「額」を立証することがきわめて困 難であるときは、「額」については必要な証明度を軽減し、裁判所が、口頭 弁論の全趣旨および証拠調べの結果に基づき、相当な額を認定することがで きるとした。民訴法 条および特許法 条の を参考にしたという 。な お、第 項に基づく請求であるが、現行第 項による推定を利用できない場 合、または民 条に基づき請求する場合においても、裁判所が、民訴法 条により損害額を認定することは妨げられないとする 。

上記のような説明から明らかなように、立法担当者の見解は、現行第 項 を前項である現行第 項と同じ(被告会社による)「減額の抗弁」の規定と 意義付けている。つまり、減額の立証責任は、被告である発行会社側に課さ れている。第 項の意義は、①( ).の事情と②( ).の事情と損害との間の因 果関係が、被告によって立証できた場合においても、この減額すべき 額

三井秀範・前掲註( )書 頁。

同頁。

同頁。

同頁。

(20)

の立証が難しいことから、被告の 減額 の立証責任を軽減することにある。

このような見解に拠れば、原告が現行第 項の損害の推定を受けられないが、

第 項に基づき請求する場合、および原告が一般不法行為法に基づき請求す る場合、損害、不法行為である虚偽記載等と原告の損害との間の因果関係お よび損害額の立証責任は、原告側にある。ただし、原告によって損害の存在 および因果関係の立証がなされた場合、その損害額について裁判所は、民訴 条に依拠して損害額の認定を行うことは構わないということであろう。

以上のように第 項から第 項まで、立法担当者の見解から、金商法 条 の を概観してきたが、同条の構造に関して、判例は、このような立法担当 者の理解に必ずしも忠実に従うものではい。次に、最高裁判所の判決を中心 として判例の展開を概観する。

三 判例の展開

西武鉄道事件最高裁判決

被告であり、東京証券取引所一部上場企業である西武鉄道株式会社Y は、

昭和 年 月以来、事実上の持株会社であるA社(コクド)によって保有さ れている株式数を、有価証券報告書等に実際よりも少なく記載し続けていた

(以下、「本件虚偽事実」という)。平成 年 月 日、Y 社は、このよう な虚偽記載の事実を公表した。同日、東京証券取引所は、これをうけてY 社を監理ポスト(上場廃止となるおそれの銘柄)に割当て、これを公表した。

その後、東京証券取引所は、平成 年 月 日、Y を上場廃止基準に該当 するとして、同年 月 日付で上場廃止にすると決定した。同日、Y 社株 式は、上場廃止となった。

本件虚偽事実を記載した有価証券報告書等が提出されたことで損害を被っ たとして、多くの投資者が、Y 社および同社役員等に対し、数多くの訴訟 を提起した。それまで、わが国において、有価証券報告書等虚偽記載を理由

(21)

とする民事賠償請求事件が提起されることは、極めて少なく、数えられるほ どに過ぎなかった。西武鉄道事件は、平成 年証券取引法 条の 施行以前 であったため、発行会社であるY 社に対して、原告X等は、一般不法行為 法である民法 条・会社法 条に基づき請求を行った。西武鉄道事件以降、

流通市場における発行会社の責任規定である証取法 条の 施行もあいまっ て、今日、このような民事訴訟は決して珍しいものではない。

本稿では、正式の情報開示書類における虚偽記載等の事例につき、損害賠 償額をいかに理解すべきかを検討している。従って、以下、検討する判例に おいて、基本的には損害賠償額の問題に絞って検討を行う。

【判例①】東京地裁平成 年 月 日判決

原告X等は、平成 年 月 日当時、被告Y 社の株式を所有していた者 たちである。被告Y 社は、鉄道事業等を営む東証一部上場企業であった。

被告Y 社は、平成 年 月 日、A社を吸収合併した会社(ホテル事業等 を営む)である。この時、Y 社の会社分割等、関連企業の事業再編が行わ れ、Y 社株主は、Y 社株式 株当、Z社株 株を保有することになった。

被告Y 〜Y は、Y 社の代表取締役等を務めた者たちである。原告X等は、

Y 社に対しては民法 条(平成 年民法改正後会社法 条)、民法 条に 基づき、被告Y 社に対しては、民法 条に基づき、Y 〜Y に対しては、

さらに証取法 条の 、 条の (金商法 条の )に基づき、損害賠償請 求を行った。

原告は、損害に関して つの主張を行った。

第 に、主位的主張として、原告らは、平成 年 月 日以前にY 社株 式を取得したが、本件虚偽記載という違法行為がなければ、本来上場を維持 し得ない本件株式を、対価を払ってまで取得することはなかったから、本件

金融・商事判例 号 頁。

(22)

株式を取得させられたこと自体が損害であるという。つまり、対価として支 出した取得価格全額が損害額であるという。

第 に、予備的主張 として、本来は上場を維持し得ないY 社株式を、

上場株式として上場プレミアムが付加された対価で取得させられたのである から、このプレミアム価値相当分が被った損害だとする。具体的には、①原 告らの「株式取得価額」から「取得時点での本来あるべき価格(想定価格)」

を控除するか、②当該虚偽記載の公表前後における市場価格の変動から推定 する方法で算出できる旨を主張した。

第 に、予備的主張 として、Y 社の本件違法行為の結果、本件虚偽記 載が公表された平成 年 月 日からY 社の株価が下落したことが損害だ と主張した。公表日以後も株式を保有し続けている原告ら(以下、「保有原 告」という)の一株当りの損害額は、「公表日終値」( 株当 円)と「本 件口頭弁論終結時の価格」との差額である。また、公表日以降に株式を売却 した原告ら(以下、「処分原告」という)の 株当の損害額は、「公表日終値」

( 株当 円)と「 株当の売却価格」の差額である。

本件裁判所は、主位的主張と予備的主張 を否定して、予備的主張 を採 用した。

予備的主張 について、本件裁判所は、口頭弁論終結時にY 社株式を保 有している株主(以下、「保有株主」という)の損害を認めず請求を棄却し たが、平成 年 月 日以降にY 社株式を売却した株主(以下、「処分株主」

という)には、損害を認めて請求を容認した。保有株主が口頭弁論終結時点 で保有する旧Y 社株式(Z社株式)は、 株 円(平成 年 月 日終 値)を下回っていない。つまり、その主張する株価下落による損害を被った と認めることができないとする 。これに対し、処分株主については、「処分

金融・商事判例 号 頁。

(23)

原告らが、平成 年 月 日の時点で所有していたY 社株式を売却した結 果、同日の終値 株 円と売却価格との間に生じた差額については、Y 社から提出された有価証券報告書等の虚偽記載と相当因果関係のある損害と いうべきである。」 とする。つまり、保有株主について、虚偽事実の公表日 の株式価格と同日以降での処分価額の差額を損害として認定した。

【判例②】東京高裁平成 年 月 日判決

【判例①】をうけ、請求が棄却された保有株主のうち 名(なお途中で 名は控訴を取り下げた)および処分株主のうち 名が、また被告Y 社らも 敗訴部分が不服であるとして、控訴した。

控訴審裁判所は、原告の主位的主張、予備的主張 および予備的主張 (慰 謝料請求)を否定し、原審と同様に、予備的主張 について、保有株主の請 求を棄却する一方、処分株主について請求を容認した。しかし、処分株主の 被った損害額につき、平成 年 月 日 株 円と個別の売却価格のすべ てを損害額とすることはできないと判示した。結果的に最悪の売却選択をし た株主に最大の損害賠償を認めることになり、虚偽記載公表前の株価 株

円をあたかもY 社が保証し、損失補てんを認めたような結果を招来し、

これは株式取引の本質に反する、というのである 。結論として、処分株主 の損害額は、虚偽記載公表以降の現実の株価の推移、Y 社を含むグループ 企業再編におけるY 社の株式評価額、本件虚偽記載の内容が保有株式数を 過小に評価したものに過ぎず、Y 社の財務状況や企業価値そのものに対す る影響が小さいものと想定されること等を総合的に勘案して、民事訴訟法 条を適用して、 株当 円(虚偽記載公表直前株価 円の %)を損害 額とした 。

金融・商事判例 号 頁。

金融・商事判例 号 頁。

金融・商事判例 号 頁。

同頁。

(24)

【判例③】最高裁平成 年 月 日判決

上述【判例②】をうけて、 人の原告が上告した。前述したように予備 的主張 に基づく損害額を採用した下級審判決と異なり、最高裁判所は、主 位的主張の損害が成立する可能性があることを理由として、原審判決を破棄 した。以下、判示事項を引用する。

「( )前記事実関係によれば、Y 株に関しては、昭和 年 月期 以降本件虚偽記載が継続され、上場廃止事由として少数特定者持株 数基準が定められた昭和 年 月 日以降継続して同基準に該当し ており、現に、東京証券取引所は、本件公表後、同基準に係る猶予 期間の経過を待つことなく、財務諸表等虚偽記載基準及び公益等保 護基準に該当するとして本件公表後 か月余にして上場廃止を決定 したというのであるから、仮に、被上告人Y が上告人らによるY 株の取得より前に継続してきた本件虚偽記載をやめ、あるいは本件 虚偽記載を訂正していた場合には、その後速やかにY 株につき上 場廃止の措置が執られていた蓋然性が高く、少数特定者持株数基準 に該当する事実の解消に向けた行動が取られたとしても、A社等の 持株数に照らして上場廃止を回避するまでに至った可能性は極めて 乏しかったとみるべきである。そうであれば、一般投資家であり、

Y 株を取引所市場で取得した上告人らにおいては、本件虚偽記載 がなければ、取引所市場の内外を問わず、Y 株を取得することは できず、あるいはその取得を避けたことは確実であって、これを取 得するという結果自体が生じなかったとみることが相当である。そ の限りにおいて、上告人らの主位的主張は理由がある。」(金融・商 事判例 号 〜 頁)(下線は筆者による)。

金融・商事判例 号 頁。

(25)

続けて、次のように判示する。

「( )このように、有価証券報告書等に虚偽の記載がされている 上場株式を取引所市場において取得した投資者が、当該虚偽記載が なければこれを取得することはなかったとみるべき場合、当該虚偽 記載により上記投資者に生じた損害の額、すなわち当該虚偽記載と 相当因果関係のある損害の額は、上記投資者が、当該虚偽記載の公 表後、上記株式を取引所市場において処分したときはその取得価額 と処分価額との差額を、また、上記株式を保有し続けているときは その取得価額と事実審の口頭弁論終結時の上記株式の市場価額(上 場が廃止された場合にはその非上場株式としての評価額。以下同 じ。)との差額をそれぞれ基礎とし、経済情勢、市場動向、当該会 社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を上記差額 から控除して、これを算定すべきものと解される。」(金融・商事判 号 頁)(下線は筆者による)。

これに続けて、最高裁判所は、不実の有価証券報告書等が提出されて以降 株式を取得し、虚偽記載の事実公表以後において処分または口頭弁論終結時 まで保有した場合、この「取得から、処分または保有の期間」の価格変動リ スクの負担について判示する。つまり、取得から虚偽記載事実公表までの間 の価格変動リスクは、本件虚偽記載に起因するものではないのだから、原告 である投資者が負うべきである。従って、経済情勢、市場動向、当該会社の 業績等、当該虚偽記載とは無関係な要因に基づく市場価額の下落分は、当該 虚偽記載等と相当因果関係がないものとして、控除されるべきである 。一 方、虚偽記載公表後の市場価額変動のうち、いわゆる「狼狽売り」の集中に よる過剰な下落は、有価証券報告書等に虚偽が記載され、それが判明するこ

金融・商事判例 号 頁。

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