序 文
院内環境における弱毒性細菌は,高度医療の進 歩に伴い急速に増加した易感染性宿主に対して容 易に重篤な感染症を引き起こすことから,抗菌化 学療法の施行とともに低下した宿主の免疫機能を
補助する必要がある.ヒト静注用免疫グロブリン
(human immunogloblin,以下 IVIG) 製剤は,マウ ス感染実験モデルで抗体価と治療効果の相関性が 認められ
1),オプソニン作用を示すことがわかっ ている
2).臨床的にも, 「細菌性重症感染症におけ る抗生物質との併用」の効能効果が認められてお り,再評価のための臨床試験においても有用性が 確認された
3).しかしながら, それぞれの病態にお
Toxic Shock Syndrome Toxin-1(TSST-1)に対する ヒト免疫グロブリン製剤による中和作用について
三菱ウェルファーマ株式会社蛋白医薬研究所
中江 孝 平山 文博 橋本 元範
(平成 13 年 10 月 15 日受付)
(平成 13 年 12 月 18 日受理)
静注用ヒト免疫グロブリン(human immunoglobulin,以下 IVIG)製剤は,多種多様な抗原に対する抗 体を含んでおり,重症感染症や自己免疫疾患などの治療薬として使用されている.しかし,それぞれの 疾患において,どのような抗体が関与しているかについての作用機序はよくわかっていない.Toxic Shock Syndrome Toxin-1(TSST-1)は
Staphylococcus aureus
が産生する毒素であり,スーパー抗原とし て T 細胞を活性化することにより,炎症性サイトカインの産生を介して,Toxic shock syndrome(TSS)を引き起こすと考えられる.我々は,IVIG 製剤から TSST-1 をリガンドとして抗 TSST-1 抗体をアフィ ニティ精製し,TSS に対する抑制作用を検討した.
TSST-1 産生性のメチシリン耐性
S. aureus
株(MRSA 1945)を ICR 系マウスの皮下に接種した膿瘍モ デルにおいて,2 週間にわたり膿瘍中及び血液中に TSST-1 産生が持続した.本モデルに,抗 TSST-1 抗体を静脈内投与することにより,血液中の TSST-1 量は用量依存的に低下した.次に,致死性の実験的 ウサギ TSS モデルでは,ヒト免疫グロブリン製剤から分離した抗 TSST-1 抗体を投与した場合の効果に ついて検証を行った.NZW 系ウサギに抗 TSST-1 抗体と直後に TSST-1(1µ
g!
kg),4 時間後に LPS(10µ
g!
kg)をそれぞれ静脈内に投与した.対照としたヒト血清アルブミン投与群の生存率は 0%(0!
5)で あったのに対して,抗 TSST-1 抗体(1mg!
kg)を投与した場合は 80%(4!
5)であり,TSST-1 の中和作 用による救命効果が認められた.以上のことから,IVIG 製剤は TSST-1 中和抗体を含み,MRSA 感染症 における TSS 発症を抑制する可能性が考えられる.〔感染症誌 76:195〜202,2002〕
要 旨
別刷請求先:(〒573―1153)枚方市招提大谷 2 丁目25―1 三菱ウェルファーマ株式会社蛋白医薬研
究所 中江 孝
Key words: immunoglobulin, toxic shock syndrome toxin-1, neutralization, animal model
ける有用抗体が特定されていないことから,詳細 な 効 力 メ カ ニ ズ ム が 明 ら か に な っ て い な い.
Staphylococcus aureus は皮膚細菌叢を形成すると ともに,外科的手術侵襲時の重症感染症の主な原 因菌であり,その病原因子の一つである Toxic sh- ock syndrome toxin(TSST-1)は S. aureus が産生 する蛋白性の菌体外毒素の一つとして4)5),重症例 ではショック症状から致命的な転帰を引き起こす ことが知られている.また,極小未熟児における 発疹性疾患が TSST-1 によるものであり,重篤化 すると TSS にいたる例が報告されている
6).そこ で,IVIG 製剤の S. aureus 感染症における有用性 を明らかにするために,製剤中に含まれる TSST- 1 に対する中和抗体を分離して,TSST-1 産生性 MRSA 感染によるマウス皮下膿瘍モデル及びウ サギ TSS モデルにおける TSS の発症抑制効果に ついて検討した.
材料と方法
使用菌株
メ チ シ リ ン 耐 性 Staphylococcus aureus 1945 株
(MRSA 1945)は当研究室にて−80℃ にて保存し たものを使用した.菌株の性状はマンニット食塩 培地(栄研化学)及び MEC 寒天培地(デンカ生研)
で確認した.菌株の TSST-1 産生性は TST-RPLA
(デンカ生研)にて確認した.
使用動物
NZW 系ウサギ (雄性, 1.6〜2.3kg:ケアリー) , ICR マウス (雄性,4 週齢:日本チャルズリバー) , BALB ! c マウス(雄性,6〜8 週齢:日本エスエル シー)を使用した.
使用製剤
IVIG 製剤はヴェノグロブリン―IH(三菱ウェル ファーマ) ,ヒト血清アルブミン製剤はアルブミ ン―ヨシトミ 25%(三菱ウェルファーマ)を使用 した.
抗 TSST-1 抗体の精製
抗 TSST-1 抗体は,TSST-1(Toxin Technology Inc, )をリガンドとして結合した HiTrap NHS-ac- tivated Sepharose ( Amersham-Pharmacia Bio- tech)を用いて IVIG 製剤からアフィニティ精製 した.0.5mol! L NaCl 含有 0.2mol! L NaHCO
3(pH
8.3)に溶解した TSST-1 溶液(1.4mg ! mL)を Hi- Trap NHS-activated Sepharose にアプライし,室 温下で 30 分〜1 時間放置した.次いで,0.5mol ! L NaCl 含有 0.5mol ! L モノエタノールアミン(pH 8.3)な ら び に 0.5mol! L NaCl 含 有 0.1mol! L 酢 酸
(pH4.0)をアプライし,0.5mol ! L NaCl 含有 0.05 mol ! L トリス塩酸緩衝液(pH7.4)で平衡化したも のを固定 化 TSST-1 カ ラ ム と し た.次 に,IVIG
(pH7.0) を固定化 TSST-1 カラムにアプライして,
洗浄後に,0.5mol ! L NaCl 含 0.05mol ! L グリシン
(pH2.7) により抗 TSST-1 抗体を溶出させ,等量の 0.05mol ! L トリス塩酸緩衝液(pH8.0)を加えた.
溶出画分に含まれる IgG 重合体は HiLoad Super- dex 200 prep-grade(Amersham-Pharmacia Bio- tech)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーによ り除去した.IgG 含量は 280nm における溶液の吸 光度から分子吸光係数(E280
1%1cm)を 14 として計 算した.
抗 TSST-1 抗体価の測定
抗 TSST-1 抗体価は TSST-1 を固相化したマイ クロプレートを用いた酵素抗体法(ELISA)によ り測定した.すなわち,TSST-1 ! PBS 溶液(5 µ!
mL)を 96 ウェルマイクロプレートの各ウェルに 50 µ L ずつを加え,室温下で 2 時間放置後ウェル内 の液を除去し,1%BSA を含む PBS 溶液でブロッ キングして TSST-1 固相プレートをとした.次い で,適当な濃度となるように希釈した検体,ペル オキシダーゼ標識抗ヒト IgG 抗体希釈液を順次 作用させたのち,ペルオキシダーゼ用発色キット O(住友ベークライト)に添付の o-phenylene dia- mine(OPD)タブレットの溶解液を添加して発色 させ,2N H
2SO
4で反応を停止させて各ウェルの波 長 490nm の吸光度をプレートリーダー(T-max ! Molecular Devices)で測定した.なお,同時に測 定したヒト正常血漿試薬,コアグトロール I (国際 試薬)の抗 TSST-1 抗体含量を 1 単位 ! mL として 検量線を作成し,検体中の抗 TSST-1 抗体価を求 めた.
IgG サブクラスの測定
抗 TSST-1 抗体における IgG サ ブ ク ラ ス の 比
率は抗ヒト IgG サブクラス抗体を用いた ELISA
により測定した
7).すなわち,IgG1, IgG2, IgG3,
IgG4 に対する各マウスモノクローナル抗体を固 相化したマイクロプレートのウェル内に IVIG 製 剤及び抗 TSST-1 抗体の希釈系列,ペ ル オ キ シ ダーゼ標識抗ヒト IgG 抗体を順次作用させ,OPD 発色後の吸光度測定は前述と同様に行った. なお,
それぞれの IgG サブクラス含量は,WHO 標準血 清による検量線から求めた.
MRSA 培養上清のマウスへの接種
MRSA 1945 か ら 一 白 金 耳 を brain-heart infu- sion broth(Difco)に接種し,37℃ で一夜振盪培 養した. 培養菌液の遠心上清 (3,000rpm×15min,
4℃)を 0.45 µ m 除菌フイルター(アドバンテック 東洋)にて濾過して,生理食塩液による 2 倍希釈 液,0.2mL を ICR 系マウスの尾静脈内に接種し た.IVIG は培養上清接種の 30 分前に尾静脈内へ 投与した(15.6, 62.5, 250, 1,000mg ! kg) .
TSST-1 に対する IVIG の In vitro 中和作用 BALB ! c マウスから脾臓を摘出し,金属メッ シュ上で破砕後に,赤血球を溶血させた脾細胞を 遠心洗浄後,10% ウシ胎児血清(Hyclone) ,50 µ mol ! mL 2-mercaptoethalol , 2 mmol ! L glu- tamine,100IU! mL penicillin,100µg! mL strepto- mycin を 含 む RPMI 1,640 培 地 に 再 懸 濁 し た(1
×10
7cells ! mL) . 脾細胞を 96-well 平底マイクロプ レート(Falcon)に 100 µ L づつ(1×10
6cells ! well)
播き込み,TSST-1(1ng ! mL)の存在下で 48 時間 培養した.培養終了後,上清を回収し,上清中の INF- γ 量を ELISA で測定した.尚,操作中に混入 してくる可能性のある LPS の作用を阻害するた め に,全 て の well に 15 µ g ! mL Polymyxin B sul- fate(Sigma)を添加した.また,ウサギ抗 TSST- 1 ポリクローナル抗体 (Toxin Technology,Inc.) , IVIG は TSST-1 と 室 温 で 30 分 間 プ レ イ ン キ ュ ベーションをした後に添加した.この対照群には ChromPure Rabbit IgG (whole molecule,Jackson ImmunoResearch) を用いた.マウス IFN- γ の測定 のために,OptEIA
TMSet Mouse IFN- γ (PharMin- gen)を用いた.
TSST-1 を持続的に産生するマウス皮下膿瘍モ デル
MRSA 1945 を brain-heart infusion broth に接 種し,37℃ で一夜振盪培養した菌液を 4% cyto- dex 1( dextran-based microcarrier beads: Sig- ma)と等量混合し,ICR マウスの背部皮下に接種 することにより, マウス皮下膿瘍モデルとした
8). また,シクロホスファミド(100mg ! kg)を感染 1,
4 日前,さらに感染から 4 日毎に同量を腹腔内投 与し,感染 1 日後に IVIG および抗 TSST-1 抗体 を静脈内投与した.さらに,24 時間後にマウスよ り採血し,遠心分離 (10,000rpm×10min,室温) に より血清を分離した.同時に,膿瘍部位を摘出し て,5mL の PBS を加え,ポリトロンホモジナイ ザー(KINEMATICA AG)にて破砕して,その破 砕液を適宜希釈し,その 0.1mL をマンニット食塩 培地(栄研化学)に塗布した.生育したコロニー の数から膿瘍部位の生菌数を求めた.
TSST-1 の定量
皮下膿瘍モデルにおける膿瘍あるいは血清中の TSST-1 量 は TSST-1 を 固 相 化 し た マ イ ク ロ プ レートを 用 い た ELISA に よ り 測 定 し,TSST-1 検出率 (%) を求めた.すなわち,ウサギ抗 TSST- 1 抗体(Toxin Technology)を固相化した 96 ウェ ルマイクロプレートの各ウェルを Block Ace(大 日本製薬)でブロッキングした.さらに,膿瘍モ デルマウスの血清希釈液,抗ウサギ IgG―ペルオ キシダーゼ標識体を各ウェルに加えて順次作用さ せ,OPD 発色後の吸光度測定は前述と同様に行っ た.なお,既知濃度の TSST-1 溶液から検量曲線を 作成し,検体中の TSST-1 量を求めた.
TSST-1 によるウサギ TSS モデル
NZW 系ウサギの静脈内に,TSST-1 生理食塩溶 液(1µg! kg) ,さらに 4 時間後に,Escherichia coli O55 の LPS(Difco)の生理食塩溶液を投与した
(10 µ g ! kg) .ま た,抗 TSST-1 抗 体(0.1, 0.3, 1.0 mg ! kg)は TSST-1 の 30 分前に静脈内に投与し た.対照群には,ヒト血清アルブミン(1mg ! kg)
を静脈内投与した.LPS 投与後,NZW 系ウサギの 生死を 3 日間以上観察した.
統計解析
マウス皮下膿瘍モデルにおける ICR 系マウス
血清中からの IFN-γ の検出率について,非感染群
Table 1 Purification of anti-TSST-1 antibody from IVIG
Anti-TSST-1 IVIG
17 3,000
mL Volume
77.9 Concentration 3.68
(Unit/mL)
Antibody
Titer Total(Unit) 11,040 1,324
12.0(55.3)
100 Recovery(%)
3.8 Concentration 50.0
(mg/mL)
IgG Total(mg) 150,000 65
0.04(48.9)
100 Recovery(%)
20.5 Antibody titer/ 0.07
IgG Specific
activity
293 1
Purification
Anti-TSST-1 antibody was purified by affinity chromatog- raphy. After IVIG was applied to the column coupled with HiTrap NHS-activated column coupled with TSST-1, eluate fractionated at pH2.7 was collected. Polymerised IgG was removed by gelfiltration.
と感染群との比較を Fisher の直接確率法にて検 定した.また,ウサギ TSS モデルにおける NZW 系ウサギの生存率について,検体投与群と非投与 群との比較を Fisher の直接確率法にて検定した.
成 績
MRSA 培 養 上 清 の マ ウ ス 致 死 活 性 に 対 す る IVIG の作用
MRSA 1945 の培養上清を ICR 系マウスの静脈 内に接種したところ,30 分以内に全例が死亡した
(n=5) .この培養上清は 8 倍希釈まで致死作用を 示した.一方,培養上清の接種 30 分前に静脈内投 与した IVIG は,用量依存的な効果を示し,1,000 mg ! kg の用量で完全に救命した(Fig. 1) .
TSST-1 を作用させた脾細胞による IFN- γ 産生 に対する IVIG の作用
マウス脾細胞への TSST-1 刺激による活性化の 指標として,細胞培養上清への IFN- γ 産生量を 3 回測定し,培養系への IVIG 添加による IFN- γ 産 生抑制作用を検討した(Fig. 2) .1ng ! mL TSST- 1 刺激での IFN- γ 産生に対して,IVIG は濃度依存 的な中和作用を示し,100mg ! mL において完全に 阻害した.一方,抗 TSST-1 ポリクローナル抗体
(ウサギ)の中和作用は TSST-1 濃度の 100 倍濃度 で完全な中和作用を示した.IVIG には TSST-1 に対する中和抗体が含まれていることが明らかに
なった.
IVIG からの抗 TSST-1 抗体の精製
TSST-1 をリガンドとして 固 定 し た ア フ ィ ニ
Fig. 1 Effect of IVIG on fatality in mice inoculatedwith culture medium of MRSA 1945(n=5)
ICR mice were administered with IVIG intrave- nously 30 minutes before injection with MRSA 1945. All of mice in control died another 30 minutes after injection.
Fig . 2 Neutralizing activities of immunoglobulins against IFN-γproduction from murine splenocytes stimulated with TSST-1
Single-cell suspensions of spleens excised from BALB!c mice were adjusted to 1×107splenocytes per ml of RPMI-1640 supplemented with 10% fetal calf serum;0.1mL volumes(1×106cells)were then distributed in 96-well flat bottom culture plate . Splenocytes were incubated with TSST-1(1.0 ng!
mL)for 48 hours and concentration of IFN-γin the culture medium were assayed by Opt EIA set.
Table 2 Distribution of IgG subclass of IVIG preparation and anti-TSST-1 antibody
IgG subclass in Anti-TSST-1 antibody(%)
Immunoglobulins
Total IgG4 IgG3 IgG2 IgG1
100 1.8 4.9 24.9 68.4 IVIG
100 10.5 0.8 25.9 62.8 Anti-TSST-1
Four IgG-subclasses were determined by enzymeimmuno- assay.
ティクロマトグラフィにより,IVIG 製剤中に含ま れ る IgG の 0.04% に あ た る 抗 TSST-1 抗 体 が 分 離された(Table 1) .得られた抗 TSST-1 の IgG サブクラス比を出発物質である IVIG のものと比 較すると,IgG3 の比率が 6 分の 1 に低下し,IgG 4 の比率が 6 倍に上昇した(Table 2) .
マウス皮下膿瘍モデルにおける TSST-1 の中和 能
MRSA 1945 を 4% Cytodex 1 と と も に 皮 下 接 種することにより,マウス皮下膿瘍モデルを作製 した.この皮下膿瘍モデルでは,膿瘍内の菌数は 接種 7 日後まで増加し,14 日後まで持続的に推移 するとともに,膿瘍や血清中から持続的に TSST-
1 が検出された(Fig. 3a).また,データを示さな いが,血清中の IFN- γ 値も増加していた.このよう なモデルにおいて,IVIG 及び抗 TSST-1 抗体をマ ウスの静脈内に投与したところ (n=7) ,膿瘍中の
Fig. 3 (a)Changes of bacterial count and TSST-1 in murine abscess model. Subcuta- neous infection of MRSA 1945 and production of TSST-1 was continuously ob- served for 14 days.(n=6, Mean±SE)
Fig. 3 (b)Neutralization of TSST-1 by IVIG and anti-TSST-1 antibody in murine ab- scess model
*:p<0.01 Significantly different from human serum albumin(HSA)by Fisher s Exact Test.(n=7, Mean±S.E)
Table 3 Inhibition of TSS by administration of anti- TSST-1 antibody in experimental rabbit TSS model
Survival rate(%)
Dose(mg/kg)
Antibodies
0 1
Control(HSA)
0 0.1
Anti-TSST-1 0.3 20
80* 1.0
(n = 5)
Protective activity of anti-TSST-1 antibody was assessed to protect male NZW rabbits from lethal challenge with TSST-1(1 µg/kg, i.v.) 4 hours before LPS(10 µg/kg, i.v.).
*: p < 0.05 Significantly different from control by Fisher s Exact Test
生菌数には影響しなかったが,抗 TSST-1 抗体は IVIG の 約 1 ! 100 の 用 量 で TSST-1 を 中 和 し た
(Fig. 3b) .
ウサギショックモデルにおける TSST-1 中和抗 体の作用
NZW 系ウサギの静脈内に TSST-1, さらに 4 時
間後に E. coli O55 LPS を投与したところ,直後か
ら運動性が低下し,翌日までにショック様症状を 発現して全例が死亡した.そこで,TSST-1 投与前 に IVIG 製剤から分離した抗 TSST-1 抗体を静脈 内投与したところ,0.3, 1mg ! kg の用量でそれぞ れ 20%,80% の生存率を示し(n=5),用量に依 存してショックの発症が抑制された(Table 3) .
考 察
細菌感染症における病原因子としては菌体外に 産生される蛋白性の毒素に起因するものが知られ
ている. S. aureus の場合は,TSST-1 やエンテロト
キシンなどのスーパー抗原のほかに,ヘモリジン やロイコシジン,剥奪性酵素などの細胞毒や組織 侵襲に関わる病原因子の存在が明らかになってい る
9).特に,TSST-1 は全 MRSA 株における産生 率が 1982 年から 1992 年の 10 年間において 3.2%
か ら 85.2% に 増 加 し た が,MSSA 株 の TSST-1 産生率が 5% 未満で推移しており
9),MRSA の病 原性における TSST-1 の重要性が指摘されてい る.また,スーパー抗原は,川崎病や関節リウマ チの発症原因となる可能性が論じられるなど,特 定の Vβ 領域を持つ T 細胞の異常増幅を伴う自
己免疫疾患との関連も考えられている
10)〜12). 今回の研究は,実験菌株とした MRSA 1945 の 培養上清のマウスへの致死活性に対する IVIG 製 剤による著明な抑制効果の発見が契機となった.
この菌株の毒性には,種々の要因が関与している ものと考えられるが,IVIG 製剤に含まれる多様な 抗体が,S. aureus 感染時に産生される毒素を中和 しうる可能性を示唆している.そこで,MRSA が産生する病原因子の中で,TSST-1 が最も重篤 性に関与している菌体外毒素の一つであると考え て,IVIG 製剤による中和作用についての検討を 行った.TSST-1 に代表されるスーパー抗原は抗 原提示細胞に処理されずに,MHC 非拘束性に T 細胞抗原レセプター(TCR)の特定領域と結合し て,T 細胞の活性化を介することで,炎症性サイ トカインの産生を誘導する
13).TSST-1 により活 性 化 さ れ た T 細 胞 は IFN- γ を 産 生 し,マ ク ロ ファージに作用して TNF α の産生が促進される ことで,ショック発現にいたるものと考えられて いる
14).今回の実験のように,末梢血 球 細 胞 を TSST-1 で処理することにより産生したサイトカ イン量を TSST-1 活性の指標とすることは一般的 な方法であり
5)13)15),IFN-γ 産生はその代表的なも のである.結果として,本剤には TSST-1 に対する 中和抗体が含まれており,脾細胞への TSST-1 刺 激による活性化を抑制した.TSST-1 に対する中 和抗体は TCR あるいは Class II 抗原との TSST- 1 の結合部位に結合することにより,TSST-1 の作 用を抑制するものと考えられる.
次に,IVIG 製剤の有用性については,持続的に 血液中に移行する TSST-1 への中和能について検 討する必要があり,感染巣から 2 週間以上にわ た っ て,TSST-1 を 産 生 す る 皮 下 膿 瘍 の MRSA 実験モデルを作製し,静脈内投与した IVIG によ る血液中の中和作用について検討した.また,
IVIG 製剤による TSST-1 中和作用は,TSST-1 に
よる毒性発現を抑制できるものかどうかについて
検討する必要がある.本来であれば,MRSA 感染
動物を用いるべきであるが,マウス,ラットなど
の小動物はショックに対する抵抗性が高く,TSS
発症を示唆するような血中 TNFα への影響が見
られなかった.そこで,LPS と TSST-1 の併用が シ ョ ッ ク 発 症 を 誘 導 し や す い 事 が 知 ら れ て お り
14),これをウサギ TSS モデルとして抗 TSST-1 抗体による中和作用について検討した.
MRSA 感染症における Toxic Shock Syndrome
(TSS)は,突発的な発熱,血圧低下,瀰漫性の斑 状紅皮症,落屑などの様々な症状を呈し,重症例 ではショック症状から致命的な経過をたどること が知られる
16).それに対する治療は毒素に対して 中和作用を持つ抗体療法が最も効果的であると考 えられる.そこで,このような IVIG 製剤の効力の 主体となる抗体を分離して,効力を明らかにする ことが本剤の作用メカニズムを解き明かすことに なると考えた.既に,臨床的には TSS に対する IVIG 製剤の有効性が検討されつつある.発疹,体 温異常,血小板減少を特徴とする新生児発疹性疾 患が TSST-1 によるものであることが明らかにさ れ,重症例では TSS に至ることも報告されてい る
6)17)18).こ の よ う な 場 合 に は,TSST-1 産 生 性 MRSA が分離された症例ではす べ て 抗 TSST-1 抗体価が低いことから,新生児発疹性疾患におい ても TSST-1 中和抗体を投与することの意義が示 唆されている
6).同様に細菌性スーパー抗原の一 つ で あ る Streptococcus pyogenes enterotoxin(SP- E)は溶血性連鎖球菌の感染症による TSS に対し て IVIG 療法(400mg×5 回,2g×1 回)による臨 床試験では,抗菌剤のみの対照群に対して生存率 の向上が認められた
19).
IVIG 製剤はプールされた血漿から分画された ヒト IgG 製剤として多様な抗体を含んでおり,重 症感染症や種々の自己免疫疾患の治療に用いられ ているが,個々の症例における作用メカニズムの 解明は十分ではない.このたび,IVIG 製剤は細菌 性重症感染症における再評価指定を受けたことか ら,抗生物質との併用効果を検証するため,多施 設共同非盲検ランダム化試験が実施されたが,発 熱などの臨床症状の消失に要する日数を短縮し,
有効性が認められた
3).
今回の検討から,IVIG 製剤は TSST-1 など細菌 性毒素に対する抗体を含んでおり,MRSA を初め とする重症感染症において抗菌化学療法の作用機
序にはない毒素中和作用をもつことがわかり,
TSST-1 が関与する症状の進展に対する有用な治 療法であることが推察される.すなわち,TSS 発症が予想される場合には,抗 TSST-1 抗体価を 上昇させる目的から,IVIG 製剤投与の有用性が示 唆された.
文 献
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