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Masahiro FUKUDA(Received October 31,1995)

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(1)

Bulletin of Faculty of Educatlon,Nagasaki University:Curriculum and Teaching1996,No。26,31−46

子どもの経済システム理解の発達(1)

  一子どもの経済制度理解の発達段階一

福 田 正 弘*

(平成7年10月31日受理)

The Development of Children s Un(1erstan(1ing of Economic System(1)

一Developmental Stages of Chil(1ren s Understanding of Economic Institutions一

Masahiro FUKUDA

(Received October 31,1995)

1 はじめに

 本研究の目的は,子どもの経済システム理解の発達の様子を,先行研究の分析によって 明らかにすることである。

 筆者は,これまで子ども(特に小学校低学年児童)の経済概念発達状況を明らかにする ため,調査活動を展開してきた(福田,1993a;1993b;1994〉。その調査は,欠乏(希少 性〉,機会費用,費用便益分析,価格といった基本的な経済学概念を調査内容とし,それ ぞれの概念の学年別の達成状況を明らかにするものであった。このように,経済学概念を 調査内容としたのは,アメリカの経済教育学者であるM.Kourilskyの研究(Kourilsky,

1973;1977;Kourilsky and Graff,1985)やM.Schugの研究(Schug,1983;Schug and Birkey,1985)をモデルとしたからである。彼らは,子どもが経済的意思決定をす る際に用いる判断原理を基本的経済概念としており,判断の合理性の程度が経済概念の発 達を示すと考えているのである。

 しかし,一方で,様々な経済制度下で営まれている,子どもにとって身近な経済活動に 対する理解そのものを調査内容とする研究もある。これらの研究では,現存の経済システ ムにおける各々の部分システムに対する子どもの理解を個人面接によって明らかにしよう としている。例えば,小売店の店主は商品の販売価格をどのように決定するかを尋ねるこ とによって,販売価格>仕入価格という利益メカニズムをどの程度理解しているかを見る のである(Jahoda,1979)。こうした研究は,主として心理学者によってなされており,

社会制度理解として社会認識を捉える考え(例えば,Furth,1980)に基づいている。

 ところで,社会科カリキュラムは,社会科授業の授業内容としての社会科学的概念と共 に,その事例として様々な社会制度を挙げている。当然その中には経済概念も経済制度も 含まれている。子どもがそれぞれの経済制度をどのように理解しているか,理解できるか

について教師が予め知っていることは,授業成立の基本要件であろう。

 そこで,本研究では,子どもの経済システム理解の発達に関するこれまでの研究成果を

*長崎大学教育学部社会科教育学教室

(2)

整理し,それぞれの経済制度に対して子どもはどのような理解を示し,その理解はどのよ うに発達するのかを明らかにしてみたい。

2 研究方法

 上述のように,子どもの経済システム理解の発達状況を明らかにする研究は,心理学に 多い。それらの研究成果をレビューするものとして,我が国では木下(1992)を挙げること ができる。しかし,これは研究の結果得られた発達段階を通覧するものであって,それぞ れの研究の方法,子どもの反応にまで立ち返ってその結果を吟昧できるものではない。

 そこで,本研究では,出来る限りこれらの先行研究を網羅し,具体的なレベルで子ども の経済システム理解を再現し,それに基づいて子どもの経済システム理解の発達の特徴を 明らかにしてみたい。

 そのため,まず収集された先行研究を,それぞれの研究が対象とする経済システム毎に 分類する。この際,それぞれの研究が持つ独自の研究目的(例えば,単に理解発達状況を 明らかにするのか,異文化間の発達差を明らかにするのか,教授的介入の効果を検証する のかといった目的)の相違は考慮せず,ただ機械的に対象によって分類する。

 次に,分類された研究の中で,研究手続き(調査・実験手続きと質問内容〉と被験者の 反応が詳細に報告されているものを選択し,それらの幾つかについてその内容を記述する そして,その内容を分析して,子どもの経済システム理解の発達の特徴を抽出する。

3 研究結果1一先行研究の分類一

 収集した先行研究でその対象とされている経済システムは,店(小売店),銀行,生産 者の3つに分類できる。それらのうち,取り上げられる頻度を見てみると,圧倒的に店(小 売店)が多く,続いて銀行が多く,社会科の学習でよく取り上げられる工場や農場といっ た 生産者は少ない。恐らくその理由は,子どもは,日常生活において,小売店での買物や 銀行での預金を直接に経験しており,それだけ情報量も豊富で,それらの情報をどのよう に意味付けているかという研究関心に合致するからだと思われる。また,生産者が余り取

り上げられないのは,子どもが生産について直接経験によって情報を入手する機会がなく,

間接的情報によって理解している面が強いので,発達的研究に馴染みにくいのではないか と考えられる。

 次に,3つの経済システムにおいて,それぞれの先行研究が取り上げている要素(具体 的対象)を挙げると次の通りである。すなわち,店ではお金(お金の価値や機能,またそ の起源),商品(商品の意味やその流通過程),価格(様々な財の価格や価格形成),交 換(財とお金の交換の仕方及びその意味),雇用関係(店員と店主の関係),店の利益(仕 入価格と販売価格),生産では生産工程(財の原材料),生産手段の所有,雇用関係,生 産者の利益,銀行ではその業務内容,利子,利益(預金利子と貸出利子)である。

 それぞれのシステム毎に先行研究を分類した結果は,表1の通りである。

(3)

表1 先行研究の分類

福田;子どもの経済システム理解の発達(1)

         (注:表中の[

       33

]は文献の章を表す)

システム

要 素 先     行     研     究

お  金

Strauss(1952), Schug(1983), Berti an(1Bombi(1988[4. 2])

商  品

売買出来るもの出来ない

の Burris(1983),田丸(1987a、1987b)

商品の起源 Berti and Bombi(1988[4.1.1],

989)

価  格 Berti and Bombi(1981,1988[4.3] [4.4]),Schug and irkey(1985),田丸(ユ987a,1987b,1989),Burris(1983)

交  換 Danziger(1958),Hong Kwang and Stacey(1981),Bur血s(1983),田

(1987a・1987b),

雇用関係 Jahoda(1979),Berti and Bombi(1988[・2])

利  益

Furth,Baur an(1Smith(1976〉,Furth(1978,1980),Ng(1983),

ahoda(1979,1983a),Berti,Bombi and De Beni(1986a,

986b〉, Berti(1992〉

生       産 生産工程

原材料) Berti and Bombi(1988[4.1.2])

生産手段の

   有 Berti and Bombi(1982,1988[5])

雇用関係 Danziger(1958〉,Berti and Bombi(1988[2])

利   益 Berti,Bombi an(1De Beni(1986b)

銀       行

銀行の業務 Sutton(1962),H:ong Kwang and Stacey(1981)

預金の利子

田丸(1989)

銀行の利益

Jaho(1a(1981,1982,1983b) , Ng (1983,1985) , Berti an(1

ombi(1988[3.3]),Takahashi and Hatano(1989)

(4)

4 研究結果2一子どもの経済システム理解の実態一

 以上のように分類された先行研究の中から,研究手続き(特に子どもへの質問内容)と それに対する子どもの反応が明確な形で示されているものとして,Berti and Bombi(1988)

を取り上げる。彼らはピアジェ理論に依拠しながらも,多くの心理学者(例えば,Furth)

が行っているように包括的な内容の調査を行うのではなく,ターゲットとする経済システ ムを限定した深みのある研究を展開している。

 そこで,子どもの経済システム理解の発達の特徴を抽出するために,彼らの研究から2 つの事例を紹介したい。ここで取り上げるのは,店(価格の違い)と店(価格の形成)の

2事例である。

 以下,この2事例において,1)調査内容(何を調査したか),2)被験者,3)調査手続き,

4)調査結果(①見出された反応レベル,②レベル毎のイ ンタビュアと被験者の応答,③年齢 階層と反応レベルの相関表)を可能な限り詳細に紹介する。

4.1 事例1一店(価格=価格の違い)一(Berti and Bombi,1988,pp.108−114)

1)調査内容:様々な財で価格が違うのは何故か。 (価格の相違の基準)

2)被験者:北イタリアTrentinoの労働階層の6−ll才の子ども60名(6−7才,8−

      9才,10−11才の3年齢階層,各階層男女10名ずつの20名)

3)手続き:3つの段階からなる。

      1 「あなたは店で見るものは全て同じ値段だと思うか」

         価格の違いを認識している子どもには,

       なぜ価格が違うのかを説明させる。

       価格が高いと思うものと安いと思うものを挙げさせ,その違い        を説明させる。

      2 窓外にあるインタビュアの自動車を見せ, 「高いか安いか,それは何故        か」と問う。また,インタビュアの金のブレスレットについても同じよ         うに問う。

      3 対になったもの(レタスと2本の鳥の足,時計と本,油絵とポスター)

       を見せ,「同じ価格かどうか,ちがうのならどちらが高いか,またそれ        は何故か」と問う。

     後2者は財の特徴に注意を向けさせ,具体的な基準で価格差を説明できるよ      うにしてある。また,使用する基準(大きさ,希少性,便利さ,美しさ)問に     葛藤が生ずるように仕組まれている。

4)結  果:

①反応レベル

    レベル0:わからない

    レベル1:価格はものの特徴に依存する     レベル2:価格は社会的な考慮に依存する     レベル3:価格はなされた労働に依存する  ②子どもの反応

    レベル0:わからない(価格の相違の存在を認めない〉

(5)

       福 田=子どもの経済システム理解の発達(1)      35

       例=Marcia(6才8月) (p.110)

       インタビュアー      子ども

店で買うものは全部同じ値段だと思いますか,思

いませんか?      はい,同じだと思います。

車(の価格)はロールパン(の価格)と同じです

カ・?      はい。

買うのにお金が沢山要るものを考えられますか?. 車。

他には?

少しのお金で手に入るものは何ですか?      ブレスレット。

何故,ブレスレットは安いのですか?

この金のブレスレットを見て下さい。あなたはこ

れは高いと思いますか,安いと思いますか?    高い。

何故?      金だから。

しかし,今あなたはブレスレットは安く買えると

言ったね。       はい。

これも安くはないかな?       いいえ。

何故?

    レベル1:価格はものの特徴に依存する

       例:Walter(8才11月) (pp.110−111)

       インタビュアー      子ども

何故それ(車)は高いのですか?         大きいから。

どういう意味ですか?      多くの人を乗せることができるということ。

車より高いものはありますか?         はい,飛行機。

なぜ?      もっと大きいから。

どういうことですか?      もっと沢山の人を乗せられる。

      オモチャの車は安い。

なぜ?      それは遊ぶだけのもので,そして小さい。

あなたが遊ぶものは全部安い?         はい。

なぜ?      遊ぶためのものだから。

このブレスレットが見えますか?         はい。

これは高いと思いますか,安いと思いますか?   高い。

なぜ?      それは奇麗だし,輝いているから。

じゃ,オモチャの車は美しくないの?       はい。

あなたはオモチャの車は安いと言いました。

何故ですか?       わからない。

このレタスとチキン,どちらが高いですか?   レタス。大きいから,

(6)

じゃ,私がこれだけ(レタスの一部をちぎって)

買ったら,どちらが高いですか?

なぜ?

チキン。

チキンの方が大きい。・…  (大きさを確かめ て)いやいや,やっぱりレタス。レタスの方がチ キンより大きいから。

レベル2:

例:

価格は社会的な考慮に依存する(価格は消費者の二一ズに応えるよう       店主が決める)

Denis (8才11月) (p.111)

       インタビュアー

(安価なものの例を求める)

説明してみてください。

なぜ?

オモチャは?

しかし,値段を決めるのは誰ですか?

彼は値段を決める1人なの?

        子ども

食物。

食物とオモチャ。

それら(食物)は高い代金を請求しないから。と

いうのは,それらを買えない貧しい人が居るか ら・それで彼らはどうやって暮らせるのだろう

か?だから,それらは安いの。

オモチャはお金を持っていない子どもたちが買え ないので,高くはない。それで,子どもが持って いるお金で買える。だから,安い。

ものを買いに行く時は店主。

はい。

レベル3=

例:

価格はなされた労働に依存する(労働の投下量や他の生産コストによ       って説明)

Adriano (8才4月) (p.ll2)

インタビュアー

じゃ,高くないものはどうですか?

時間をかける,かけないってどういうことです

か?

値段の高いものを挙げて下さい。

なぜ?

どういうことですか?

もっと高いものはありますか?

        子ども

  ・彼らは(価格の)高いものにより多くの時

問を費やす。

  ・時問をかけない。

うん,それは,それを作るのに長い時間,何日も

かかるということ。

モーターバイク。

それは作るのに長い時間かかり,沢山のモーター

を必要とするから。

多くの部品と材料。

はい,家や土地。

(7)

福 田:子どもの経済システム理解の発達(1)

37

なぜ?

なぜなら…  家は建てるのに長い時問と多くの

材料が要るし,また土地は広いから。

(金について)

なぜ金は高いのですか?

もしこのブレスレットが鉄ならば,値段は同じで

すか?

なぜ?

そうする(鉱石から金にする)ために多くの労働

を要するから。

いや,安い。

なぜなら,鉄はどこででも見つけられるが,金は 見つけるのが難しいから。

③年齢階層毎の反応分布

表2 事例1の反応分布(p.113)

(単位=人)

反応レベル 年 齢 階 層

6−7

8−9 10−ll

レベル0

5

0 0

5

レベル1 13

12 1

26

レベル2

1 4

9

14

レベル3 1

4

10

15

20 20 20 60

この表から,子どもの財の価格差の理解について次のことが言える。すなわち,

 6−9才の間,子どもは価格の基準として知覚可能な財の特徴(レベル1)を用いる。

・社会的経済的基準(レベル2,3)を用いるのは,10才以降である。

4.2 事例2一店(価格:価格形成)一(Berti and Bombi,1988,pp.114−129)

1)調査内容:生産から小売までの財の移動において価格はどう変化するか。

2)被験者:イタリアPadovaの中流階層,5−12才の子ども80名(5−6才,7−8才,

      9−10才,11−12才の4年齢階層,各階層20名ずつ,男女比は不明)

3)手続き:りんごとマンガについて,

      青果店(o r雑誌販売店)に行ったことがあるか       りんご(o r知っているマンガ)の値段はどのくらいか       りんご(o rマンガ)の値段は全部の店で同じか       その値段を決めるのは誰か,どのようにして決めるのか

      店のりんご(o rマンガ)はどこから来るのか[財の起源の質問]

(8)

        生産者と店主を区別していれば

      店主はどれだけ支払わねばならないか

       りんご(マンガ)の値段は季節(年〉によって変わるか,何故か 4)結  果:

①反応レベル

    レベル0:売買の理解の欠如     レベル1:店主は買わない

    レベル2:価格は工場と店の間で同じか,低下する     レベル3:価格は店から工場へ行くにつれて低下する     レベル4:価格は工場から店へ行くにつれて上昇する

②子どもの反応

    レベル0:売買の理解の欠如

        (売買システムが理解されていないので,価格自体が意味をなさない。

        価格は客や店主の任意によって決まる,とされる。)

      例:Sererna (5才3月) (p.115)

インタビュアー

誰がお金を渡したのですか?

じゃ,あなたのお母さんも彼にお金を渡したので すか,渡さなかったのですか?

あなたのお母さんがいくら払うべきかを決めるの は誰ですか?

お母さんは,どのようにしていくら払うべきか決 めるのでしょうか?

        子ども

彼女(母親)は「りんごを下さい」と言って,そ れから彼(店主)にお金を渡した。そして,彼も 彼女にお金を渡した。

青果店。

はい,渡した。

ママo

考えて。

レベル1:

例:

店主は買わない

(売買システムは理解しているが,財の仕入れについて無理解なので,

仕入れを考慮せず,店主が任意で価格を決めるとする。)

Cleide(6才0月) (p.116)

      インタビュアー

Topolino(マンガ)を買うにはどうしたらよい ですか?

誰?

あなたと誰?

子ども

そこにTopolinoを私たちにくれる男の人がい

て,私たちは彼にお金を渡す。

私たちに。

兄弟とママ。

(9)

福.田:子どもの経済システム理解の発達(1)

39

誰がお金を渡すのですか?

どれだけ払ったか覚えていますか?

あなたが彼にどれだけ払うか,誰が決めますか?

誰?

じゃ,その人はどうやって(その額)を知ったの

ですか?

私。

コイン2枚とお札1枚。

彼が,私たちにそう言った。

雑誌販売店の男の人。

彼は雑誌販売店に来る前に,学校に行き,学校で

習ったから。

  レベル2:価格は工場と店の間で同じか,低下する

      (生産を小売から分離し,仕入れのための支払いを考慮する。その説明        の仕方は2つある。)

a)価格は不変

  (仕入れは単なる財の移動であるから,小売価格と同じ額が店主から支払われる。

   従って,価格は不変。〉

    例:Luca(7才8月) (pp.ll7−118)

      インタビュアー

店主が1kg1000リラで売るりんごをトラック運転 手から手に入れる時,彼はいくら払わねばならな

いですか?

じゃ,トラック運転手は農家にいくら払わねばな

らないですか?

そう,農家も運転手も青果店も手にするお金は皆 同じなのですね?

その場合,店主はどうやってお金を稼ぐのです

か?

はい。

なぜ青果店は支払うお金と同じ値段でりんごを売

るのですか?

もし,店主がより多くのお金を得たいならば,彼 は1kg1000リラで買ったりんごを1500リラで売る ことができますか?

もしそうしたら,どんなことが起こりますか?

どのお金が足りなくなるのですか?

彼は支払ったのと同じ値段で売らなければならな いのですか?

同じ額。

やっぱり同じ。

はい。

  ・青果店?

私たちから。

子ども

もし彼がより沢山払ったならば,農家もより多く 払わねばならないから。…  また,農家が少し しか払わなければ,青果店は少ししか払わなくて

よいから。

いいえ.o

お金が足りなくなる。

青果店が払うお金が足りなくなる。

はい。

(10)

しかし,もしより高い値段で売ったら,どんなこ とが起こりますか?

トラック運転手は「あなたはりんご1kgにつき

1000リラ払わねばならない。」と言う。彼は,お 母さんに1500リラで売ることができますか?

彼はそれはできない。正しい値段を言うのは,ト ラックの運転手だ。それ以外はわからない。

いいえ。農家も1000リラよりも1500リラで買いた い場合以外は,いつも同じ値段でなければならな

いo

b)価格低下

 (生産から小売までには様々な人の労働が投入され,価格はそれぞれの人の労働を   反映する。生産から小売に至る過程で労働は軽くなるので,価格は低下していく。)

     例:Giorgio(7才8月) (pp.118−119)

      インタビュアー

もし本屋がマンガに400リラ払うならば,彼はそ れをいくらで売ることができますか?

安くですか?

なぜ安くなるのですか?

よくわかりません。もう少しはっきり説明できま

せんか?

あなたは工場の人について話していました。

じゃ,あなたはかれは本やさんより沢山のお金を 貰うと言うのですね?

なぜ?

子ども

  ・200

はい。

なぜなら,彼はマンガを作った人に400リラを払 い,そして何かを作ることの方がお金がかかるか ら。つまり,彼は本屋のためにマンガを作り彼に 与える,そして本屋は安く売る。

彼は安く売る,なぜなら…

(すぐさま)はい。なぜなら,彼はマンガを作 る,つまりマンガを書き,紙を作り,その上に

(字)を書いたり,絵を描いたり,つまりマンガ を作るためにしなければならないことを全部して

いるから。

はい。

なぜなら,彼は99・マンガを作ることは難しい

ことです。本屋さんは,もし工場の人が彼にマン ガを渡すなら,それを売ることは難しいことでは

ないからです。

レベル3=価格は店から工場へ行くにつれて低下する

    (財の価格は様々な取り引き過程を通じて上昇することを認識するが,

     その再構成の仕方が,小売から始めて順に付加される額を減じて行く

(11)

福.田=子どもの経済システム理解の発達(1〉

41

  という逆順になっている。)

例:Marianna(9才5月) (pp.120−121)

      インタビュアー

りんごの値段を決めるのは誰ですか?

じゃ,彼らはどのようにしてその決定に至るので

すか?

店主はどのようにして売り物のりんごや野菜を手 に入れるようになるのか?

店主はそれらを貰えるのか,それとも交換で何か を与えねばならないのですか?

店主が払わなければならない値段を決めるのは誰

ですか?

じゃ,仲買人の人達はどうやって値段を決めるの

ですか?

なぜ安く売るのですか?

それを売る人。

子ども

多分,りんごを見て良い質かどうかを見て,多分

それらが良いか悪いかを見るために昧わってみ

る。

彼らは伸買人の所へ行く。

彼らはそれらを買う。

仲買人の人達。

はい,彼らはいっも安く売る。

なぜなら,彼らは大きくて,沢山のものがあ

り,…  そして多くの人がそこへ行くから。

レベル4:

例:

価格は工場から店へ行くにつれて上昇する

(財の動きの全体が把握されており う一般則が適用されている。)

Nicola(11才6月) (p.122)

      インタビュアー

りんごの値段を決めるのは誰ですか?

彼は何をするのですか?

彼は誰からりんごを買いますか?

じゃ、そこで値段を決めるのは誰ですか?

どのようにして?

どういう意味ですか?

価格=支払ったコスト+利益とい

        子ども

店主。

もの・…  りんごや青果を買うのに使ったお金 を明らかにして、そして儲けたい額を加えて値段

を決める。

農家から。

農家。

彼は労働の分を入れ、そして儲ける必要のある分

を加える。

彼は耕しに行く、彼らが言うには、土地を耕し、

木を植え、水をやる。そして肥料やこれらのもの 全てに必要なお金。

(12)

 ③年齢階層毎の反応分布

表3 事例2(りんご)の反応分布(p、125) 表4 事例2(マンガ)の反応分布(p.125)

      (単位=人)

反応

ベル

年齢 階層

計 5−6 7−8 9−10 11−12

レベル0 8 1 0 0 9

レベル1 10 7 2 0

19

レベル2 2 12 6 1

21

レベル3 0 0

11

8

19

レベル4 0 0 1

11 12

20 20

20

20 80

反応

ベル

年齢 階層

計 5−6 7−8 9−10 11−12

レベル0 8

1

0 0 9

レベル1 10 6 2 0 18

レベル2 2 13 6 1 22

レベル3 0 0

11

9 20

レベル4 0 0 1 10

11

20 20

20 20

80

上の表から次のことが言える。すなわち,

 5−6才児はほぼレベル0かレベル1,7−8才児で生産を小売から分離できるが,

流通の各段階で価格が上昇することは理解されない(レベル2)。この理解(レベル3,

4)は9−10才以降に見られる。

また,子どもの反応例から,次のことが言える。

 レベル2(7−8才児,一部9−10才児も)には,2つの経済システム理解が並存して いる。1つは財の等価交換に焦点を当て,価格は一定だとする理解であり,もう1つは 投下された労働に焦点を当て,価格は低下していくとする理解である。

5 まとめ一子どもの経済システム理解の特徴一

 以上,Berti and Bombi(1988)から2つの事例について,子どもの経済システム理 解の実態について紹介した。ここで,これらの事例から子どもの経済システム理解の発達 の特徴を抽出してみたい。

 そのために,以上の2事例の結果で抽出された反応レベルについて,これらのレベルの 反応が出現する年齢幅を,縦軸に各事例の反応レベル,横軸に年齢を取ったグラフで表示 する。つまり,グラフ中の水平な実線が各々の反応レベルが見られる年齢幅を表し,その 反応レベルで最も出現頻度の高い年齢幅を太い実線で示している。そして,グラフの下に

ピアジェの示す発達段階を付記しておく。

 このグラフから,太線が付される年齢幅が事例2を除いて,7才までと10才からの2つの 年齢区分に2分され,その間にある8,9才には太線がないことが分かる。しかも,8,

9才の所では,グラフの左(低年齢側)から来た実線と,右(高年齢側)から来た実線と が折り重なっており,幾つもの反応レベルが見られる。これらのことから,8,9才とい

う年齢は,それ以前の年齢の反応レベルとそれ以降の年齢の反応レベルが混在しており,

発達の移行期に当たると言える。このことは,グラフの下に付記したピアジェの発達段階

とも符合する。従って,子どもの経済システム理解は,比較的明確な形で表れる7才以下

の前操作期の段階の理解と10才以上の形式的操作期の段階の理解,そしてその両者の移行期

(13)

福 田:子どもの経済システム理解の発達(1)

43

に当たる具体的操作期の理解の3段階に区分されよう。

レベル

  4  3 事・2

2  1

  0

QJ∩乙10

 事例1

4

5

6

7

8 9 10  11 12 才

前操作期 具体的操作期 形式的操作期

図1 各反応レベルの出現年齢

 では,この3段階の経済システム理解とはどのようなものか,これまで紹介してきた子 どもたちの反応の中から特徴的なものを挙げて,考えてみたい。

 まず,前操作期の子どもの経済システム理解であるが,この時期の子どもは,・一般的に 自己中心的思考に支配されていると言われている。この自己中心的思考は,具体的には,

目的論(finalism),人工論(artificialism),実在論(realism)による事象の説明に見 られる(Berti and Bombi,1988,p.179)。目的論とは,物事の成因をその意志や目的で 説明する見方である。例えば,商品の価格を店主や客が好きなように決めるという事例2 のレベル0の反応が,これに該当する。人工論とは,物事の成因を人為によって説明する 見方である。実在論とは,物事の成因をその属性によって説明する見方である。このよう な見方は,例えば,様々な財の価格の違いを説明するように求められた子どもが,財の大き さや有用性などの財そのものの属性でもって答えている事例1のレベル1の反応に見られる。

 子どもが見せるこうした理解は,経済の理解とは言い難く,Bertiらはこの時期の子ども の経済概念を「前経済的」概念と呼んでいる (p.176)。

 次に,具体的操作期の子どもの経済システム理解は,前操作期の理解から形式的操作期

の理解への移行期の理解として捉えられる。しかし,この時期は単に両端の2つみ時期の

反応が混在するだけの時期ではない。つまり,この時期の子どもは,自己中心的思考を完

全に克服するだけの認知的能力を持ってはいないが,その不十分な認知的能力に基づいた

独特の経済システム理解を示すのである。このことは,子どもが,財の価格形成で生産か

ら小売まで価格は一定であるとか,あるいは低下すると答えた事例2のレベル2の反応に

典型的に見られる。つまり,価格は一定だとする考えは,財の生産過程や流通過程そして

そこで投下される労働を見落して,売買の等価性のみに着目した考えであり,また価格は

(14)

低下するという考えは,投下した労働に見合う報酬を受けるべきだとする観念にのみ心を 奪われて,売買過程を見落した考えである。いずれも1つのルールから出発する論理的な 推論であるが,一面的である。このように,この時期の子どもの経済システム理解は部分 的であり,部分と部分は統合されないままである。Bertiらはこれに特別な命名をしていな いが,Jahoda(1979)を真似れば「孤立的システム理解」と呼ぶことが出来る。

 最後に,形式操作期の子どもの経済システム理解は,具体的操作期の孤立的システム理 解を単一のフレームワークに統合した統合的なシステム理解と言える。例えば,先に挙げ た事例2で,子どもが「価格は工場から店の問で上昇する」と答えたレベル4の反応は,

このことをよく表している。すなわち,レベル2の「売買」と「労働」の何れかに中心化 した一面的な理解が,レベル4では,両者を単一のシステムに組み込む矛盾のないシステ ム理解に変わっているのである。この時期の子どもは,これまでばらばらに理解してきた 経験からの情報を統一できる概念を形成し始めているのである。

 以上の考察から,子どもの経済システム理解は,前経済的理解→孤立的システム理解→

統合的システム理解という段階を経て発達していくと言える。このことはまた,子どもの 経済システム理解が単純なものからより複雑で精緻なものへと直線的に成長していくので

はないということを示してもいる。

6 おわりに

 以上,本研究では,子どもの経済システム理解に関する発達的研究を,その対象とする システム毎に分類し(研究結果1),その中から子どもの店と生産のシステム理解に関す るBerti and Bombi(1988)の研究を紹介し(研究結果2),そこから「まとめ」で述 べたような子どもの経済システム理解の発達の特徴を抽出してみた。それは,今後,子ど

もの経済システム理解の発達を考える上で,1つの指針となろう。

 「はじめに」で述べたように,本研究の成果を「子どもの側から社会科を問い直す」,

つまり社会科カリキュラムや社会科授業を発達的見地から検討するための準備的研究とし て活かしていきたい。

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