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田 村 武 夫はじめに

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(1)

東ドイツ市民革命後の選挙改革

一変革を担った市民運動の選挙改革論の紹介一

田 村 武 夫

はじめに

本稿は,昨秋に疾風怒濤のごとくに展開された東ドイツの変革過程を最終的 に方向づけ,結局は「ドイツ統一」に向けて決定的なターニング・ポイントと なった1990年3月18日実施の最後の東ドイッ人民議会選挙(1)に止目し,とりわ けその新選挙法の制定過程において,直前の東ドイツ変革を担った市民運動の 理念がいかなる法的主張となって表れ,新選挙法への結実がどの程度にもたら

されたのか,に焦点を絞って考察するものである。

現存の支配的政治体制(ドイッ社会主義統一党SED の一党支配・ホーネッ カー体制)の変革という明確な政治理念を掲げて組織的に公然と展開された政 治的民主主義の主張と抵抗の運動であるというように東ドイツの変革過程を形 容するならば,その起点は1989年5月末の「新フォーラム」結成である。 「新

フォーラム」の結成は,各地域の市民運動組織が全体的に合同して,「市民的 自由と民主政治の保障・確立を共通目標とする全国的な市民運動」センターの 発足を意味していた。以後,暫時は「移動・旅行の自由の保障」を主として掲 げ各地で弾圧を受けながら集会と街頭行進を追求し,「ライプチッヒにおける ニコライ教会での月曜ミサ(集会)とデモ行進(10月9日開始)」 に象徴され るような秋の最大高揚を実現して政府の統治不能の状況をつくりだし,「ベル リンの壁」崩壊(ll月9日)にまで押し進めていった。

このような変革過程は,市民運動としての性格を反映して「市民的自由と民 主主義」樹立の過程,いいかえれば,運動過程で高唱されたくWir sind das Volk>一我々こそ国民である一というスローガンに示されるように,根底的

には新しい社会主義をめざしての自由選挙要求・東ドイツ国家の民主主義的再

生という性格をもつものであった。そのことは,政府の統治不能状況を打開す

る方策として暫定的に既成政党・在野諸勢力(16団体)の共同討議形式(=円

卓会議)の採用が合意されたll月中旬,「新フォーラム」もかかる公的な政策

(2)

決定の主体(二円卓会議構成員)として参加していったことに一つの証左を見 いだすことができる。

しかし,悲劇というか,喜劇というか,「ベルリンの壁」撤去によって確保 された「自由の恵沢」はパンドラの箱であった。11月9日を境に東西両ドイツ 国境越えの民族交流は急速に「ドイッ統一」への指向意識をつよめ,(東ドイ ッ)国民意識からドイツ人意識の形成への転移を促した。変化しつつある国民 の社会的意識と「新フォーラム」の政治哲学との乖離が端的に実証されたのが

3月18日の人民議会選挙であった。選挙に名乗りを挙げた「新フォーラム」を 軸とする新政党・90年連合は,2.9%の得票率,12議席に止まった。(2)

上のような乖離は,国民の意識に敏感な政党との共同討議・立法作業にも当 然にあらわれ,「新フォーラム」に代表される市民運動の側の主張と諸政党と の主張との間には大きなギャップが生じている。とくに選挙法において顕著で

あった。

11月27日の第2回円卓会議で,憲法改正(社会主義統一党の指導政党制規定 の削除および民主的選挙原則の採用)と選挙法の抜本改正に関して合意に達し,

直ちに人民議会内部に二つの臨時委員会が設置された。 「憲法改正臨時委員会」

と「選挙法制定臨時委員会」である。前者は,現行憲法の改正該当条項につい て個別に草案起草し,逐次改正案を議会に提出していった。なお,12月に中央 円卓会議Zentrales Rundes Tischに「新ドイッ民主共和国憲法」作業グルー プが発足し,1990年4月16日に新憲法草案(3)を公表した作業行程と,人民議会 の憲法改正臨時委員会の作業行程とは異なるものである。

「選挙法制定臨時委員会」の提案になる新人民議会選挙法案は,1月29日人 民議会で承認され,㈲法案という形で2月18日まで公開討議(人民討議)に付 されて,2月22日公開討議の結果を踏まえて改めて人民議会で正式に採択され た。公開討議(人民討議)に付され微調整して採択された新人民議会選挙法は,

自由・平等・秘密選挙を基本趣旨とする比例代表選挙制を規定したもので,そ れは多くの点で市民運動の側の主張が退けられて,既成政党の側からの早期選 挙の実施・単純選挙制度の採用という主張が取り入れられたことを示している。

さて,以下の叙述では,人民議会に設置された「選挙法制定臨時委員会」に おける討議資料を対象にして,そこに盛込まれている「新フォーラム」・市民 運動の側の法的主張を主に取り上げていくことにする。

「選挙法制定臨時委員会」の討議資料は,同委員会に専門家Expertとして

(3)

田村:東ドイツ市民革命後の選挙改革        59

参加し,同委員会の「人民議会選挙法概則案Rahmenentwurf des Gesetzes 肋er die Wahlen zur Volkskamrner der DDR」を起草したJ.ミッセルヴ イッツ博士より送られたものである。博士はこの当時ポツダム市にある「ドイ ツ民主共和国国家・法学研究所」教授で,「新フォーラム」ドレスデン地区共 同責任者の一人であった。筆者が昨夏,同研究所に滞在したおり大変にお世話 いただいたことが機縁で今回貴重な資料を寄せてくださったのである。ここに 記してJ.ミッセルヴィッッ博士に感謝申し上げたい。

(1)1990年1月11日の人民議会で,一度は5月6日に人民議会選挙を実施することが 正式に決定されたが,1月15日,同22日の月曜デモで各地合わせて数十万人の参加 者により「社会主義統一・民主社会主義党(旧統一党の改組政党)解散要求・ドイ

ツ統一・人民代表議会の正当性不信」の主張が繰り広げられ,結局,1月28日円卓 会議iで5月6日予定の総選挙を3月18日に繰り上げ実施が決定された。翌1月29日 人民議会第15回総会で,新人民議i会選挙法案を発表し,3月18日の総選挙実施を議 決した。この総会で演説したモドロウ首相は,総選挙繰り上げ実施の理由について,

①総額400億マルク以上の要求が続発するストライキなどでだされ,経済に連鎖的な 悪影響を与えている,②各級議会の正当性が疑問にさらされるなかで,地方自治体 の行政マヒが進んでいる,③急進主義が台頭し法秩序が乱されるようになっている,

④市民の西ドイッの流出の波が依然としてとまらず,毎日約2千人が移住している,

極めて不安定で,情勢を沈静化し国民の信頼を急速に取り戻すために総選挙の繰り 上げ実施が不可能である,と説明していた。ドイッ社会主義統一・民主社会主義党 機関紙Neues Deutschland,30. Januar l990. S.1.

(2)3月18日の人民議会選挙には24党の多党乱立で,24の政党名と各政党のトップ候 補者の名前が印刷されているB5版大の投票用紙を用いて投票がおこなわれた。選挙

結果は次票のとおりである。

東ドイ ツ人民議会選挙結果(申央選挙管理委員会3・19発表)

ド イ ッ 連 合       48.15%   192議席 キリスト教民主同盟 CDU    40.91%   163議席

i ドイツ社会同盟 DSU      6.32%    25議席民主主議の出発 DS       O.9%    4議席

ドイッ社会民主党 SPD      21.84%    88議席 ドイッ民主社会主義党 DSP    16.33%    66議席

自由民主同盟 LDU    5,28%    21議席

9 0 年  連  合        2.90%    12議i席

農   民   党        2.19%    9議席

緑の党・独立婦人同盟        1.96%    8議席

そ   の   他       4議

(4)

(3)Entwurf der Verfassung der Deutschen Demokratischen Republik in:

Neues Deutschland,18. April l990 S.7−10.

(4)Entwurf des Gesetzes道ber die Wahlen zur Volkskammer der Deutschen Demokratischen Republik. in:Neues Deutschland,30.Januar l990 S.4.

1.民主主義的な選挙一一真の人民主権の表現

Demokratische Wahlen−Ausdruck realer Volkssouveranitat

本章に掲げる論説は,J.ミッセルヴィッッ博士Prof. Dr. sc. jur. Joachim Misselwitzが1989年11月27日に開催された中央円卓会議での選挙法改正問題 審議にさいして,専門家として招聰され基調報告をおこなった全文である。

「新フォーラム」を代表して意見を述べたものではないが,「市民を中心に据 えた新しい選挙法」の制定を強調し,本人自身も指導的役割をはたした市民運 動の理念の法的主張一自由選挙・個人候補者直接選挙一一が凝縮されていると 考える。      ・

11月27日とは,既成政党・在野諸勢力が一同に会して円卓会議が発足した数

日後であり,憲法改正問題と選挙法改正問題の二つが円卓会議の当面の協議事      肖

項と決定された日の翌日であって,この日のJ.ミッセルヴィッツ博士の基調 報告が以後の選挙法改正論議の方向を導いていったことは明らかである。

以下,J.ミッセルヴィッッ博士の報告全文を掲げる。

(1)

これまでの信ずるに値しない,まったく形式化した選挙制度を除去すること,

民主主義的な基礎の上に選挙制度を直ちに,抜本的に改革することは,11月市 民革命後のドイツ民主共和国における最も重要な課題である。

過去の否定的な経験から決別して,以下のような命題が,そして,それにつ いては衆目一致して当然のこととして容認されている基本的な命題一それは 当然に新しい選挙法に反映しなければならない一が回復されねばならない。

1.これまでの選挙方式一とりわけ,あらゆる形式での統一リストづくり一 から絶対に断絶すること,ならびに選挙法上の地位に関して各政党および 大衆団体の平等な地位の保障。

2.選挙人は,各政党の選挙公約および政党候補者リストと自分の選択のあ

(5)

田村:束ドイッ市民革命後の選挙改革        61

いだで,自身の内的な判断に従ってなんら制約されることなく自由に決定 する実際の可能性を有しなければない。

3.一方で,政党によって策定され拘束された候補者名簿による議席への競 争を,他面で,独立した個人の立候補を容認する実行的な混合選挙法を導 入し,選挙人各人は2票行使する。排除条項は認められない。

4.民主主義的な選挙にかかわる一般に承認された諸原則がいかなる制限も なしに適用される。投票の秘密およびすべての公的な選挙事務の公開と法 にもとつく公的な規制(政党・団体などによる私的規制・関与の禁止)の 確立はとくに厳格な保障を要する。

人民代表機関は,選挙の結果として公正に示された選挙者の意思を基礎にし てはじめて信服させるに足る正当性を獲得する。

以上の,まだ相当に命題提示的な域に止まっている叙述と提案は,選挙に関 するすべての側面のなかの若干について何を補充し,かつ何を訂正するのかの 議論の素材として用意したにすぎない。選挙法案の起草ははじめから見あわせ ている。将来の選挙法に関しては,議論に耐えうる草案の提起はとりわけ政党 の任務である。

(2)

選挙法について現実的に考察する出発点は,ドイツ民主共和国におけるあら ゆる政治権力が人民すべてによって行使されるということをいかに保障するの かということである。あらゆる人民代表機関は,定期的に実施される自由な選 挙によってその正当性の確保を必要とする。成年の公民は,その基本的権利と 義務を選挙で直接に確証するのである。

選挙は,有権者がその政治的意思を表現するたとえ唯一の形式でなくとも,

極めて重要な形式である。選挙という方法によってのみ,国家構造の様々の領 域において一定期間(次の選挙までの間)国家権力を行使する諸組織およびそ の機関の人的および事物的正当性が媒介される。選挙は,住民のあらゆる部分 の適正な代表の実現に,さらに,行為能力のある多数派の形成に帰結しなけれ ばならない。そのような結果として,重要問題で一致する多数派を土台にして 生産的な合意形成が承認されなければならない。

選挙参加は,国家権力の行使への直接の参加である。選挙人の実際の意思が

正確に表現されなければならない。

(6)

代表らは,選挙人の信任に服することを一この信任を裏切った代表らを法 の定める手続きで罷免する選挙人の権利をふくめて一要求される。こうして,

選挙人に最後の決定権が帰属する。そのために相応の手続規則が制定される必 要がある。

(3)

権力行使への市民の参加,とりわけ積極的に形成的なそれは,普通選挙にお いて投票だけに還元されてはならないということを含意している。市民は,立 法府の開会中にもその政治意思を無条件に表明し,かつ政治的現実に変えうる 機会をもたねばならないのである。国家の代議制システムの民主主義的な形成 は,無条件に,実動的,効率的に運用しうる直接民主主義の諸形式,たとえば,

さまざまの市民イニシアチブ,地方自治など自主管理の諸形式ならびに国民投 票の要素をもつもの(市民の申立,市民の決定,人民票決,抗議等々),すな わち,法治国家として許容されうる人民の直接の意思形成・意見形成の諸制度 によって補われなければならない。

それは,選挙制度の民主主義的な質および機能的実効性に直接間接遡及する ことなである。(社会と国家の発展の基本問題について人民票決の準備および実 施に関する憲法具体化法律は,綿密に準備して,議論に付されねばならない。)

(4)

選挙制度,すなわち,選挙を準備し,実施し,評価するための政治的,組織 的,法的方策および手続の総体一必要な物的条件を含む一は,単純にして明 快,誰にも一目で分かるものであって,そのうえ,法的拘束力のある新しい制 度形態を必要とする。

それには,すぐにも保障されるべき最小限の要件として,以下のことが含ま

れる。

(1),選挙に参加する政党・団体・個人は,平等な権利をもって,マスメデイ アに接近しうること。

(2),既存の政党および将来の新政党の間での,ならびに直接立候補者間での 機会の平等

(3),選挙運動に対する財政上およびその他の物的な援助の規制と,市民の前

にその旨の一般的な公表。

(7)

田村:東ドイツ市民革命後の選挙改革         63

(4),各政党,選挙人集団,個別志願者(応募者,候補者),その他の間での 公正な競争のために,上記以外のすべての条件について可能な限り正確な 規則を制定する。

(5),外国の国家的・社会的諸団体による選挙幣助および外国の報道機関,ラ ジオ・テレビ放送局の選挙甜助,ならびにドイツ民主共和国外の諸組織お よび個人からの選挙費用の提供による選挙幣助の禁止

民主主義的な選挙実施は,その本質上国家のみならず市民にとっても国内的 な関心事である。外国からのあらゆる干渉・関与は有害である。(それは,ド イツ連邦共和国との関係に鑑みてドイッ民主共和国にとっては特別に重要であ

る)。

中立的な観察者として外国の議会代表団を招待することは,国内における人 民の政治諸勢力による選挙との民主主義的な関係では,主権の保持と対立しな

いo

(5)

真の人民主権および自己責任のもとで選挙人による決定を保障すること,選 挙に平等な権利をもって参加するという政治的基本権を確立することは,従前 にはない質的に新しい基礎の上に選挙法全体を位置づけるということ,そして,

それについての社会的な合意を形成することを要請する。関連する憲法条項,

選挙法および選挙令ならびに他のすべての選挙法規定が新しい法文を必要とす

る。

人民議会選挙に関する選挙法と地方代表議会選挙に関する選挙法とを分離し て起草することは合目的である。新しい選挙法は,人民票決の方法により,次 のような処置を伴ってかつ広範囲にわたる公開の討議をつうじて最高の法的権 威を獲得することが望ましい。

選挙法の改正および補充は,人民議会の有資格者の圧倒的多数(3分の2)

の賛成によってのみ承認されねばならない。選挙令は人民議会による議決対象 とされること。

(6)

選挙法の不変の原則は,ドイツ民主共和国の市民(場合により,地方自治体

選挙においては拡大された選挙権者一外国人有権者)が普通,直接,自由お

(8)

よび秘密選挙により,すべての代表議会にたいして代表を直接選挙することで ある。選挙義務はない。

選挙権および被選挙権は,満18歳(以上のもの)に与えられる。

選挙権を有するすべての市民は,選挙し,選挙される平等の権利を有する。

各々の有権者は平等な価値を有する2票を行使しする。

投票の秘密は,選挙過程のすべての段階で,とくに投票用紙に記入する際に および投票する際に保障されねばならない。すなわち,政党の選挙提案への消 極的な同意のみならず,自己の選挙法上の地位に照応した積極的な投票,決定

も,選挙人によって要求される。

選挙人は,内容上の,もしくは,人物にかかわる選択肢の間で選択しなけれ ばならず,そしていずれかの政党の提案に彼は投票することを明白に決める。

(不法に配付された投票用紙を除いて)そのために,選挙人は,投票用紙に,だ れにも見られずに記入する。投票室の利用は強制的に指示される。他人に見せ びらかして投票された選挙決定は,投票用紙の無効という結論にいたる。

(7)

選挙組織にかかる原則的な規定には以下のことが属する。

(1),人民議会は,選挙の実施方法,設置する選挙区数ならびにそれぞれの選 挙区で選出される人民議会の議員数を議決する。

(2),地方人民代表議会は自己の責任において,有権者数と,選挙される代表 議会の数的規模にかかわる地域的構造とに照応して,設置する選挙区の数 および選挙区で選出する議員数を議決する。

(3),任期は各級議員とも統一的に4年とする。各級の選挙の実施が共通の期 日になるように努める。例外は認められる。選挙は,土曜日または日曜日 に行われる。

(4),議員の奉職期間は,2期(再任)迄とする。ただし,1期の猶予期間後 改めて議席に応募することは可能である。多重議席(複数の人民代表議会 の構成員となること)は禁止される。党所属変更にともなって議席を喪失

する。

(5),選挙法の制定にさいして,公職についているものを選挙することを禁止

する兼職禁止条項が採用されるべきである。人民代表議会による統制に服

している各々の役職者にもそれは適用される(公職と議席の両立禁止)。

(9)

田村:東ドイツ市民革命後の選挙改革        65        o 瘧Oは評議会の議長(閣僚評議会から市町村評議会まで)である。これら 議長は代議士であり,人民代表議会のなかから選ばれる。評議会の他の構 成員は代議士ではない。彼らは人民代表議会によって新任期の冒頭におい て解職される。これら評議会構成員の職につくことのできる期間は2回任 期である。評議会の構成員は随時人民代表議会によって罷免される。

(6),欠員が生じた場合の後任候補者の制度は,提案されている選挙法規定の 枠内では維持されない。必要な補欠選挙は任期の前3年間において行われ

る。任期の最終年度において空席のままとする。

(8)

a)選挙参加を承認された各政党は,一定領域の選挙区(定数一人の選挙区 を3〜4まとめたもの)ごとに候補者名簿を提出する。政党は一人区ごとに 個別志願者(直接立候補者)を指名する権利を有する。

社会諸組織および無所属市民の代表は党の名簿で立候補することができる。

b)各有権者は,一人区における直接の立候補を志願することができる。

すべての社会諸団体は,直接の候補者を提案することができるし支持する ことができる。

一人区において選出される議員はその選挙区の代表であって,その候補者 を支持した社会組織の代表ではない。

人民議会にたいする選挙を除いて,許可された各政党は連合名簿(合同候補 者名簿)を提出することができる。

5,000人(もしくは1万人のどちらか)以下の住民の町村では,「公開され る名簿」という形で人民代表議会(町村議会)の選挙にたいして住民が共同的 に提案することが許されるようにする。「公開される名簿」とは,選挙人に優 先権一例えば,提案されている候補者の当選順番を変更すること,さらに,候 補者を追加すること,あるいは場合により,より多数の投票という特典を賦与 して3票まで,一人の候補者に集中すること一を与えることが承認されると いうことである。

これまで選挙団体として認められなかった政党にたいして,その候補者名簿 の提案が受け入れられるには,当該提案を支持することについて個人として自 筆で署名した選挙人の陳述書(意見書)を最小限添付することが前提とされて

いた(有権者の1000分の1,しかし5,000人以内)。

(10)

常設選挙委員会は3分の2の多数をもって,このような名簿提案支持告白書 の添付を放棄することができる。

(9)

議決能力のある党員集会もしくは党代表者会議(代議員大会)において秘密 投票で候補者として選挙されたもののみが,党の志願者として指名されること ができる。各政党は,内部での非公開の事前選挙によって,場合により郵送選 挙によって,その名簿登載の候補者および直接志願者を確定することができる。

それについて詳細な規定は党の規則その他の定めにゆだねられる。

候補者は,自分の選挙区において選挙民に,自己紹介をし,その質問に答え,

および従前の議員活動を含めて,これまでの政治活動について報告をする義務 を負っている。

選挙民は,党の公認候補者名簿から候補者を除外する申立てをする権利をも つ。選挙民は,候補者に対して事実に即した選挙民指令(命令的委任)をおこ なう権利を有する。

選挙人による命令的委任(指令)の賦与,検証および命令的委任を実行させ るための組織手続は,議員の地位に関する将来の法律の構成部分して規定され るべきである。

名簿登載候補者もしくは個別候補者を取り止めさせることについての決定は 指名した政党がこれを行う。

ある人が候補者に立てられるようにその選出に,選挙民が影響力を行使する ことができるように個別規定が置かれるべきである。政党によって立てられた 志願者を選挙人が単に確認するだけならばそれは民主主義的な選挙法理解に反

する。

(1◎

人民議会の500名の議員は選挙権を有する公民によって,比例選挙法および 相対多数選挙法(候補者を直接に選ぶ選挙)の原則に従って選挙される。

第一票でもって,有権者は選挙区議員(直接候補者)を,第二票でもって政 党・団体の提案している公認候補者名簿を選挙する。

a)人民議会議員定数のうち150(さもなくば×××)名は一人区で選挙され

る。直接候補者のみが許可される。最大の得票を挙げた志願者が選出される

(11)

田村:東ドイツ市民革命後の選挙改革         67

(相対多数)。選挙領域(ドイツ民主共和国の国土)が,ほぼ同数の選挙権者 からなる150選挙区に分割される。

平均より25%以上もの格差が生じた場合は,当該選挙区は改めて境界区分さ れることを余儀なくされる。

b)ほかの350(さもなくば×××)名の人民議会の議員は,政党・団体の提 出になる候補者名簿に従って,一定領域の選挙区(約50)で比例選挙の原理に 従って選挙される。

各々の政党名簿は,その得票数に応じて相応の議席を獲得する。その際,提 出された名簿上の候補者順番が適用される。

議席配分の計算は,少数政党に,僅かであるが当然の利益が付与されるとこ ろのいわゆるニーマイヤー手続に従って行われる。

政党提出の候補者名簿(二重候補者)により落選した直接志願者(一人区候 補者)を保護することは,許される。

排除条項の導入は断念される。排除条項の単なる存在は既に立証されている ように,非民主的な方法で選挙民の行動に影響を与えるものである。

選挙民は,自分の好きな政党の名簿に自分の票を入れることを妨げられては ならない。投票した票が,贈り物になるかまたは,選挙民の望む効果がまった くないか,あるいは反対の効果が現われるかのような印象が引き起こされては ならない。

排除条項は,右翼急進主義グループを克服するには相応しくない手段である。

二大政党制の形成を促す要素をもつところの,政権を担う多数派形成という 点についての考慮は,選挙民の基本権保障およびわが国の選挙制を抜本的にか つ徹底的に改革することの重要性の前では,後回しにして待たねばならない。

(ll)

地方自治体選挙は混合選挙制によって将来(行政改革の短期的および長期的 措置を考慮しながら)行われる。個別候補者に対する直接選挙の長所は,政党 公認候補者名簿に基礎をおく比例選挙原理と結びつけられる。

選挙される人民代表議会は,直接候補者および名簿候補者から選挙されて構 成される。その比率は1対2となる。選挙民は,地方自治体選挙では二重の効 果をもつ投票をおこなう。投票された票は,個別候補者が政党の指令で立候補

したかぎりでは,同時に政党名簿に対する票としても計算される。

(12)

地方自治体選挙は,政党として形成されていない団体,すなわち選挙民団体 も公認候補者名簿を提出することができる。

市および町村では,議員の数を住民数や有権者数に応じて改めて確定される ものとする。議員の数が多すぎるのは,とりわけ市会でのそのような状況は通 常適切でないことが示されている。 (質は量によって埋め合わせされない)。

地方自治体選挙法に関しては,その他に諸々の問題が検討されなければなら ない。その一として,外国人に対する選挙権の保障如何というのがまず上がる。

ここでは,現行法規とは異なって,少なくともドイツ民主共和国で2年以上の 定住と生活圏が本当に持続的に確立していることが要件とされる。

有権者の総体によって市町村長を,場合によっては知事選挙も将来直接に選 挙するという考えは原理的には支持されてよい。

地方自治体の人民代表議会における議員へのさまざまなの委任,とりわけ市 会における議員の諸業務請負(例えば,市理事会の一員,諸業務の責任者,諸 委員会の責任者など)が引き起こしている多大の負荷に対して,個々の議員の 期限付職務免除を試行するという提案が提起されている。

(12)

選挙管理事務は,民主主義的に選出され,世論の監視のもとに活動する選挙 委員会によって行われる。

選挙委員会は,政党の提案により,広範な社会諸組織の代表者を招致するも とで,すべての段階において設置される。

その具体的な任務は選挙法において,選挙令においては処理手続規定がおか れる。選挙委員会は,人民議会または各級地方人民代表議会により招集され,

義務づけられる。

選挙委員会は任期終了にいたるまで存続する。その管轄のもとに必要な補欠 選挙なども行われる。

常設選挙委員会は,選挙議案の議決後,投票地区に対して選挙役員会を設置 する。選挙役員は政党や諸組織を超えて広く構成する。選挙役員はそのなかか

ら選挙委員長を選出する。

選挙民名簿は市および町村評議会の責任において作成され,公開される。す べての有権者は,選挙民名簿における自己の記載について書面で通知をえるこ

とができる。

(13)

田村:東ドイッ市民革命後の選挙改革         69

担当職員による選挙民名簿の整然とした処理,とくに名簿作成の完全さは,

選挙委員会によって審査される。その最終的な確認後は選挙民名簿の変更は認 められない。その後の必要な訂正は,投票地区の選挙役員の最終文書に記され て選挙委員会で確認される。

選挙民名簿への記入の有無またはその過ちに対する異議申立には法的手段が 開かれていること。第一審裁判所,例えば,郡裁判所の行政法事件部が異議申 立について最終的に決定を下す。

投票用紙引換券(選挙通知)の交付による選挙権の確認と保証のシステムは 承認される。特別投票所は見あわせる(別の選択として,特別投票所を肯定す るとしたならば,各選挙区は最大限,選挙期日前の6日間特別投票所を設置す ることができる)。

人民議会の候補者に対する投票で,郵送投票方法の導入は推奨される。ただ し,選挙日程の決定および投票の秘密保持は,この郵送投票形式での選挙参加 においては特別の法的保障を必要とする。

投票所での投票用紙数の確認は,選挙結果の把握としてのみならず,議席の 配分を明白なものとするためにも厳正におこなわなければならない。

選挙操作および不正選挙の嫌疑を明確にするために,選挙資料(選挙人名簿,

投票用紙投票用紙引換券,諸記録)は少なくとも2〜3カ月管理しうるとこ ろで,封をして保管されねばならない。

各政党,選挙人団体および個別候補者らには,管轄の裁判所の決定による承 認にもとついて,選挙資料が閲覧できるようにされねばならない。

管轄の裁判所になんらの異議申立がないかぎりおいて,2〜3カ月の経過後,

すべての選挙資料の廃棄処分が,そのことについての記録を作成する裁判所の 監視のもとに行われる。

2.自由で,民主主義的な選挙なくして,ドイッ民主共和国における政治状態 の安定化はない

Ohne freie, demokratische Wahlen keine Stabilisierung der politischen Verhaltnisse in der DDR

本章では,人民議会選挙が5月6日に実施されることが決定した1990年1月

1ユ日直後に「選挙法制定臨時委員会」に提出された文書を取り上げる。やはり,

(14)

J.ミッセルヴィツ博士および同委員会の「新フォーラム」代表の共同提案に なる混合選挙制度(比例代表制と小選挙区制)の採用を求めた文書である。

【】文は原著者の,()文は訳者の補注である。

(1)

今年(1990年)1月11日に人民議i会の議員は,新しい選挙法案の第1回提案 を受け取った後,1990年5月5日に現任期を終了することを議決した。そして,

依然職務執行中の国家評議会に,今年5月6日人民議会選挙を行う旨公示する ように勧めた。

1年を経ようとしている政治的状況の変革は今もなお様々の予測しがたい状 態をもたらしつつあるが,それから一度目を転じて,5月6日に完全に新しい 法的基礎の上で人民議会の議員選挙が行なわれることを一つの決定的な画期を9 なすものとして考えてみよう。多数の市民にとって,とりわけ青年にとって,

自由な選挙,自分の決定の秘密保持が厳格に保障されるもとで投票を行うこと ができる初めての機会となるのである。

なぜ,すべての段階の人民代表議会を直ちに選挙するのではなく,市および 町村代表議会が選挙されるのかという当然の疑問に,人民議会内の「ドイッ民 主共和国新選挙法制定臨時委員会」委員長が正しく答えている。委員長のパウ ル・エバーレ博士は,時間が短くてすべての各級人民代表議会の選挙のきちん とした組織的技術的準備ができない,ということを指摘している。例えば,紙 材および印刷能力,伝達網などなどの確保・整備が困難であるということ,と

くに,市民の選挙権が本当に侵害されないようにするためには,選挙準備の過 程として一連の期間全体が安易に限定されることのないように考慮すべきであ

ろう。したがって,すべての「選挙法専門家」 (Wahlrechtsexperten)も,こ の早い時点ですべての段階での選挙を実施することをつよく思い止まらなけれ ばならなかった。

目下,1990年秋に地方自治体の選挙を予定するという点の一致が存在する。

この選挙は,場合によっては,新憲法に関する人民表決と結合されるかもしれ

ない。

新しい政党,団体および諸グループは,およそ8,500の地方代表議会への選挙

を全面的に準備する可能性があたえられるのである。選挙期日がずらされてい

ることは,その限りで,公正な掟でもある。

(15)

田村:東ドイツ市民革命後の選挙改革        71

中間領域(県Bezirkと郡Kreisを意味する)に関しては,我々は,そこに も変革を駆り立てている昨今周知の圧力によってすでに着手されているところ の行政改革の最初の成果を待つべきである。数カ月後に,各州にその州議会が 再設置されるので,県議会Bezirkstagをもう一度選挙することは無意味であ る。これについては,既に1991年州議i会選挙が高い可能性をもって日程に上っ ているのである。新選挙法の制定に際してそれらすべてが考慮されるであろう。

(2)

1.わが国家の全選挙制度の根本的な革新,すなわち,選挙を準備し,実施 し,そして評価するための政治的,組織的および法的方策と処置について絶対 に民主的な基礎の上ですべての根本的な革新が,選挙権を含めて,今日の最も 重要な課題である。

ドイッ民主共和国で現在生起している変革過程の安定化および国の一層の統 治改善が,民主的な選挙を直ちに準備することと直接に関連していることが1 月の日々にはっきりしてきた。既存諸政党の連合内閣の内部状況および中央の 円卓会議での危機に陥った討議がこのことを明白にしている。

しかし,外交上の観点からいえば,ドイツ民主共和国の存立と声望が根本的 に更新された選挙法と近いうちの具体的な選挙期日の確定に依存しているとい うことは明白である。

人民を代表する各機関の必要な民主的正当化は,選挙結果に決定的に表れる 選挙民の意思を土台にしてのみ獲得される。他の方法では,国家的行為に対し て期限付きで,すなわちそのつどの任期中だけ,人的および事物的正当性を調 達することはできない。

選挙は,人民の政治的意思形成の一部分である。選挙は,機能的な民主的法 治国家においては,いわゆる人民主権の基本的な表現である。民主的な選挙は,

その結果で人民代表議会,すなわち議会が構成されることになる人民投票であ る。人民代表機関は,政治的意思形成の手続および選挙投票そのものによって まさに産み出される。この手続は,人民から,すなわち有権者から国家機関に 向けて進行していくようにしなければならないのであって,逆であってはなら

ない。

全選挙制度は,従って,法的拘束力をもつ形で,有権者【いわゆる積極市

民】を規定の中心に置くように形成される。市民は再び選挙権の主体にならな

(16)

ければならない。

市民に政治的基本権を積極的に保障する仕組みのもとで,すなわち,成年市 民が選挙過程のすべての局面で実際に影響力を行使し,そして,様々の選挙公 約(プログラム)の問で,様々な政党または政治団体および候補者個々人の問 で,投票に際して選択的に決定を下すことができなければならない。

選挙民は,選挙候補者の様々の選挙公約(プログラム)および政治的目標像 を知ったときにはじめて,すなわち,包括的な情報請求権が保障されたときに はじめて,自身の内的な信念に従って有意義に自由に決定を下すことができる。

各政党,各団体および個別候補者は,その政治的位置に応じて実質的に平等の 機会が与えられ,その対抗者に批判的な立場を取ることができなければならな いo

一つの政党または政治的団体もしくはそれらによって公認指名された特定の 候補者が優先的に扱われること,また,特定の方向に投票を促す目的で有権者

に対する国家または他の側からのあらゆる強制または圧力は,民主的な選挙法 理解と一致しない。新選挙法は,その全構想において,および,その具体的な 規定において,国際的に承認されている選挙原則を無制限に採用する。議員は,

自由,普通,平等および秘密選挙で,今後はさらに直接選挙で,4年の任期を もって選挙される。

選挙義務は存在しない。選挙権の行使は選挙人の自由な決定に基づく。

過去と経験に鑑みて,選挙法の制定に際して設定される構想枠組みは,まっ たくもって一般的通例の理解からもたらされてはならない。すなわち,原則的 に裁判的救済手段が開かれていることを前提に,選挙秘密の尊重において,ま た,選挙結果の審査において,我々は国際的な到達点を飛び越えていかねばな らないし,とくべつの厳格さおよび綿密さを期さなければならない。

(3)

2.選挙は,いかなる政治的システムのもとにおいても,また,いかなる時 点でも自己目的のものではない。建設的な国家行為を結果として承認するとこ ろの選挙は,市民の利益のためにも,常に問題となる。

目標とする選挙法は,とりわけ二つの課題を達成しなければならない。

a)住民のあらゆる部分を可能な限り的確に代表するように議会が構成され

ることが保障されなければならない。

(17)

田村:東ドイツ市民革命後の選挙改革         73

b)選挙団体の活動能力を保障し,機能的な政府または連合政府の出現に寄 与していくようにしなければならない。

単独でもしくは連合して多数派を成立させた政治的グループだけが政府を形 成し,建設的なプログラムを実施していくことができ,究極的には自己の政策

を実現することができるのである。

近々に合意される選挙法によってこの課題が十分に達成されうるかどうかは,

主として現実の政治勢力状況に依存している。まったく新たに創設する多元的 な社会システムに関して,いろいろ考えられる基本的問題がまだなかなか解き 明かされていない。

国家観における変革,民主的な法治国家に転換していく動きはまさに今始まっ た。選挙に影響する重要な諸法律(政党法,団体法,メディア法など)は,新 たに制定されねばならない。これらについてどのように展開していくかの蓄積

はない。

構想としては,可能な限り純粋の代議制民主主義を刻印すること,したがっ て議会の観念を中心に据えるかどうかによって,または,底辺民主主義の諸要 素および直接民主主義の諸形態【人民質問/尋問,人民決定/票決,市民イニ シアテイヴ,市民提案,市民決定】をつうじて代表民主主義を拡充することを 目的とするかどうかによって,選挙についての機能と守備範囲の多様な規定が もたらされる。

選挙は,市民がその政治的意思を表す極めて重要な,だがしかし唯一の形式 ではない。民主主義は日々の積極的な態度や行為であり,選挙制度だけに集約 されるのではない。権力行使への市民の参加は,ほぼ定期的に実施される選挙 での投票行為にのみ絞られるものではない。

過去の数ヵ月間に,ドイツ民主共和国として自由の一部分,民主主義と声望 の一部分を勝ち取ったといえるならば,これは人民の功績である。それによっ て,信服させるにたる選挙法にとっての前提も醸成されたのである。

人民の政治的意思形成の重要な担いてとしての政党および団体は,もっぱら

「選挙団体」 (登録団体)としてのみ解してはならない。

(4)

1990年5月6日に初めて洗礼を受けるところの様々の理論的立脚点が選挙手

続のあれこれの変種を優遇するようになるであろう。

(18)

あらゆる要望を正当に評価し,二つの基本類型としての比例選挙法もしくは 相対多数選挙法の長所および短所をすべて平準化する権威的な,絶対に中立的 な選挙法はまったく考えられない。人民議会の選挙に関する選挙法案の起草に 際して,様々の政治的および理論的見解のスペクトルは,二つの類型【a類型 は,純粋の比例選挙法,b類型は,組合わされた選挙法】に絞りこまれ,人民 議会もくしは円卓会議の討論に付されるにいたった。

討論に付された両類型は,選挙法案第5条の法文に集中的な表現を見ること ができる。選挙原則および他の一般的な規定についての両者の一致をみたが,

選挙手続きに対しては異なった結論が出た。

a類型は,純粋の比例選挙法によるもので,選挙民にとって簡単に見通すご とのできる単純な方法で,選挙区で投票された有効票が議席/議員席に十分に 均衡的に換算されることを保障する。政党/団体【候補者名簿】に対する投票 が中心になっている。政党/団体のみが候補者を立てることができる。選挙人 はそれについては比較的にわずかの影響しかもたない。このような処理方法は,

よく組織された政党には通例有利に働く。このような比例選挙法は,必然的に 党機構を強化する。選挙民への議員の望ましい結びつきは,経験によれば急速 に失われていく。選挙区の大きさ(規模)如何では,否定的な傾向が強まって

くる。

予定されている15選挙区【従前の県を基礎にして構成】では平均して,政党

/団体の公認候補名簿から約26名の議員が選出されるであろう。

b類型は,固有の特性をもつ二つのものが組み合わされたところの選挙方法 からなる。それは,上に素描した比例選挙法が相対多数選挙法によって補充さ れるというものである。ここにあっては,すべて有権者は2票行使することが 求められる。1票は,比例選挙法(名簿)の枠内で投票し,他の1票は相対多 数選挙法を基礎に個別候補者に対して直接投票される。

直接候補者は,政党/団体,他の組織や選挙民によって指名されることもで きる(第8条第5項)。その個性によって選挙民の信任を得た人物が何故議席 を獲得できないものとするのか?

b類型は,選挙民に複合的な影響力を保障する。選挙民は,政党/団体によっ て内部的に前もって行われる候補者選出を確認する必要はない。2票を完全に 切り離してそれぞれ投票する可能性をもつことによって,成年選挙人は,

a)直接選挙区において自分の観念に従って信服するに足る人物を,そして,

(19)

田村:東ドイツ市民革命後の選挙改革         75

b)第2番目の票をもって,自分の一般的な政治的信念をもっとも明確に表 している政党/団体に対して,

選挙する自由を有する。

120直接選挙区では,最多得票の,だが少なくとも投票された有効票の30%

以上を獲得した候補者が選出される。名簿選挙用の議席でもって直接選挙用の 議席を清算(交換)することは行わない。

例えば,ドイツ連邦議会選挙で適用されているような混合選挙が重要なので はなくて,模倣を放棄する組み合わせが重要なのである。

すべての選挙民は独立した2票を投票するのであるから,投票の結果的平等 の原則は維持される。2回投票を一体のものとして取り扱い,そして,そのよ うな適切ではない取り扱いの理解から平等原則の違反を引き出すという論理で 済ましている(記述がある)。この選挙制度を誤って記述するとちょうどそう

なる。

二つの選挙方法の間に存在する30対70という比例選挙に有利な関係は,実に 底辺民主主義の評価を制約することになる。しばしば提起されている議論一 見通しのなさ,および複雑すぎる一には,投票が単純に処理しうるというこ

とをもって簡単に対抗することができる。

基本的に政治的文盲ではない成長した市民に対して,自ら2枚の投票用紙に 明僚に記入すること,すなわち,個人候補者をまず決定し,そしてさらに名簿 候補者を決定することを求めるのは困難を引き起こすものではない。別々の集 計においても大きな問題は見込まれない。我々が必要としているものはなにが なんでも単純な選挙法ではないのであって【我々はまさにこれまでの単純な選 挙法を最初に克服したのである】,政党のみならず,多くの人民が一致するこ とができ,また,望んでいるところの,可能な限り公正な選挙制度なのである。

残念ながら1990年5月6日までは,徹底的な議論によって人民自身に決定させ るという可能性がない。活動的な政党は,ますます綿密に自分等の立脚点を説 明しなければならない。とどのつまりは,プラグマチックに政治的な決定がお こなわれるであろう。純粋な比例選挙制に有利なように天秤の更の明白な傾斜 が選挙戦術上の考慮からまず初めに出てくるものと思われる。新しい運動,だ がしかし,初めての自由な選挙ですべての政党および政治団体に政治的意見形 成および意思形成をゆだねるために一より広がった政党スペクトルでもなく,

人民が思い切って危険を承知で下から民主的な出発(新時代の曙)をしたので

(20)

もない。政党に属してはいない市民の直接的な志願が一少なくとも形式的に は一,西ドイッ選挙法では認められている。そこでの政治的現実において直 接志願がなんらの役割を果たしていなくとも。

市民等によって研究されている選挙法案の具体的な判定,価値判断(評価)

は,民主的理論的出発点に自らを合わせるべきである。

参考文献

J.Misselwitz:民主的な選挙:それにはここではどのようにしたら見ることができる か?Neues Deutschland l989.12.28. S.5.

T.Riemann:政党選挙に代わって人物選挙へ, Neues Deutsuchland 1989.12.30/

31S,10.

D.Weber:企業集団に対しても指名権を,Neues Deutsuchland 1989.12.30/31 S.10.

E.Lieberam, W.Menze1:政治的な首尾一貫で選挙制を吟味しよう,

Neues Deutsuchland 1990,1.11 S.3.

B.Klotz/J.Misselwitz:ドイツ連邦共和国の地方自治体選挙の特徴一正確,機能,

規制in:Staat unnd Recht,1988, l l号, S.935−941

おわりに

東欧の変革後は複数政党制・自由選挙の導入によって,各国の政治地図が完 全に塗り替えられた。東欧各国で新たに導入された選挙制度については全体を つうじてみると,小選挙区制の採用が顕著である。比例代表制のみによる選挙 実施は東ドイッとチェコスロバキアの2力国だけである。その他の国々は小選 挙区制のみか,または,比例代表制との併用を採用している。意外とも思われ るかかる事態は何に起因しているのであろうか。東欧の変革理念の核心をなす

「民主化・自由化」との論理的な脈絡はあるのであろうか。

東ドイツは比例代表制のみによる選挙制という結論に至ったのであるが,新 選挙法の審議過程では,上に見てきたように,周辺諸国と同様小選挙区制の採 用を主張する見解が変革を担った市民運動の側(「新フォーラム」)から出さ れた。それはなぜか。J・ミッセルヴイッツ博士は明白に述べていた。

「選挙民は,党の公認候補者名簿から候補者を除外する申立てをする権利を もつ。選挙民は,候補者に対して事実に即した選挙民指令(命令的委任)をお こなう権利を有する。」

有権者が,政党が策定した公認候補者名簿からある候補者を除外する,ある

(21)

田村:東ドイツ市民革命後の選挙改革         77

いは別の候補者を搭載させるという権利,また,候補者に一定の約束を義務づ ける(有権者からの委任を強制する)権利を法的に確定しようとする意図の根 底にあるのは,政党・団体への不信であろう。選挙において選挙民個々人の確 かな影響力を確保しようとする思いは,東ドイツのみならず他の東欧各国の変 革指導者に共通する変革理念の核心ではなかっただろうか。

この点に関して,J・ミッセルヴイッツ博士はさらに,「(純粋の比例選挙 法は)政党・団体(実際はそれらの候補者名簿)に対する投票が中心になって いる。政党・団体のみが候補者を立てることができる。選挙人はそれについて は比較的にわずかの影響しかもたない。このような処理方法は,よく組織され た政党には通例有利に働く。このような比例選挙法は必然的に党機構を強化す る。選挙民への議員の望ましい結びつきは,経験によれば急速に失われていく。

選挙区の大きさ(規模)にしたがって否定的な傾向が強まってくる。」とも述 べていた。

東ドイツ人民議会は,比例代表制か直接候補者選挙制(小選挙区制)かをめ ぐって激しい討論が展開された。結局は, 選挙期日までは時間が少なく,選挙 実施の準備と選挙民への周知徹底の困難さから単純明快な純粋比例代表選挙制

に落ち着いた。かかる結論での選挙実施(3月18日)が市民運動の担い手たち が抱いていた東ドイツの民主主義的再生という展望を破砕してしまったと結論 づけてよいのかどうか,現時点では判断しがたい。小選挙区制と組合わされた 比例代表制の選挙実施ならば違った結果が生まれ,その後の東ドイツの経緯一 西ドイッへの急速な併合一とは異なる展開がもたらされたかというと実のと

ころ否定的である。

ともあれ,以上にみてきたように,東ドイッでも選挙法の審議過程では小選 挙区制導入が主張され,その根拠が旧体制の選挙制度にはもちろん,政治社会 の構造原理(個人と政党・団体との関係,いわゆる集団主義)にもあったこと は明らかである。その意味では,東欧各国に新しく導入された選挙制度に若干 の違いはあるが,有権者による個人候補者の直接選挙制(小選挙区制)の導入 が企図されたという共通1生を基本的には確認しうるであろう。

比例代表制と小選挙区制の是非については古くから議論されてきた。わが国 でも現在,1990年4月末に第8次選挙制度審議会が出した「衆議院議員選挙へ の小選挙区比例代表制の導入」答申をめぐって激しく是非論が噴出している。

東欧諸国で共通的に小選挙区制が導入されたことをもってわが国での採用の

(22)

論拠に援用することはまったく非論理的で合理性もない。重要なことは,東欧 諸国での事態はきわめて歴史的な脈絡をたどっての帰結であるということであ

る。われわれは,東欧諸国における変革後の選挙改革が以上にみてきたような 傾向と内容に帰結せざるをえなかった歴史的脈絡を深くえぐりだすことが実は 重要な課題であるということ,そして,それを確認することが本稿の真のねら いであることを理解しなければならない。

最後に, 「東西ドイッの統一」が予想以上の速さでもたらされた事態をまえ にして,つぎのような問題提起をおこなって本稿の結びとしたい。

東ドイツ人民議会選挙は,周知のとおり,西ドイッの同系列政党と連携した 東ドイツの既成諸政党の方針によって,結局は,全国的な統治不能状態の早期 打開の必要(選挙改革についての国民の関心形成と討議の不十分さ),そこか

ら単純平易であるとの理由で完全比例代表選挙制に決着した。かかる経緯と政

権党による重要決定について国民的確認の機会が不存在であったこととを合わ

せ考えてみると,すなわち,人民議会選挙後定数の3分の2を超えるキリスト

教民主同盟CDU・社会民主党SPD・自由民主同盟FDPの連合政権によっ

て採られた影しい憲法改正措置から西ドイッ併合・東ドイツ国家の廃絶まです

すめられた決定についての東ドイッ国民による賛否確認の機会がなかったこと

を考えてみたとき,明らかにわかる不合理さをその後のドイツ統一国家はどの

ように弁証するのか,という疑問を問われつづけられるのではないだろうか。

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