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電磁的記録不正作出罪における 「不正」作出の意義

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(1)

電磁的記録不正作出罪における

「不正」作出の意義      

――東京地判平成 31 年 3 月 15 日       (LEX/DB 25562725, LLI/DB L07430067)――

山科 麻衣

〔事実の概要〕

 被告人は、インターネット上で流通する仮想通貨であるビットコインの取引所を運営 していた会社M1)の代表取締役として、同社の業務を統括管理していたものであるが、平 成 25 年 2 月から 9 月にかけて、合計 21 回に渡り、サーバコンピュータ内に同社が開設 したビットコインの取引仲介を行う取引システムへ接続して同システム内に設けられた 特定の口座の残高が増加した虚偽の情報を作出して前記サーバコンピュータに記録保存 させた行為につき、電磁的記録不正作出罪(161 条の 2 第 1 項)に当たるとして起訴さ れた。

 被告人がこのような行為に及んだのは、これ以前に売却した存在しないビットコイン を回収するためであった。すなわち、会社のキャッシュフローが回らなくなることを危 惧した被告人は、ビットコインを送付することなく、会社が管理するビットコイン口座 に残高を 30 万BTC増加させる旨の情報を入力し、これらを売却することでその対価と して約 130 万米ドルを得ていた。その後、ブロックチェーン上に存在しない 30 万BTC を回収するための資金を得る目的で、被告人はこれらの口座履歴情報の入力を行ってい た。(その後 30 万BTCを購入し、口座のビットコイン残高のうち 30 万BTCを削除し ていた。)2)

1) Mt.Goxという取引所を運営していたMTGOX社であり、本稿では同社を以下M社

とし、判旨の記述もM社と置き換える。

2) 本事案では、M社が本件取引所の利用者から各アカウントへの入金のため振込入

判例研究

(2)

 検察官は、被告人が本件取引システムの設置運営主体であるM社の意思に反して本来 被告人に与えられた権限の範囲内では作ることが許されない電磁的記録を作出したもの であるから、電磁的記録を「不正に」作ったものである旨主張した。これに対して弁護 人は、被告人がM社の唯一の包括的業務執行権限を有する取締役であることを理由とし て、両者は人格的に同一と扱われるべきであるから、被告人の行為はM社の意思に合致 していたこと、被告人は内容虚偽の電磁的記録を作出していないこと等から、電磁的記 録を「不正に」作ったものではないと主張して争った3)

〔判旨〕

 東京地裁は、以下のように述べて有罪とした。「『本件取引システム設置者としてのM 社の意思』について検討すると、M社は、本件取引システムの設置運営者として、その 処理に供する電磁的記録の内容を決定し、作成することができるが、前記認定のとおり、

M社(及びその意思決定機関である被告人)が、本件取引システムを利用者らに対して 取引上のサービスの一環として広く提供し、これを用いた利用者同士の直接取引の成否 という効果に直結するものとして設置運営していること(利用規約上、利用者間におい て口座情報に基づく金銭及びビットコインの存在を保証することを含め、売買のオファ ーが各利用者の意思でもあるとされていること)を踏まえると、M社は、何の制約もな くその処理に供する電磁的記録の内容を決定できるものではなく、法令や契約関係等に より制約を受けているというべきである。つまり、M社は、本件取引システムの利用状 況や性質に反する電磁的記録を作出すべきでないとの意思を有していたと認めるのが相 当である。」「したがって、M社の意思に反する作出であるか否かについては、この観点 から検討すべきであり、本件取引システムの設置運営者としてのM社の意思は、唯一の 意思決定権者である被告人の内心の意思と当然に合致するものではない。」

 利用者の口座残高を増減させる電磁的記録の作出が会社の意思に反するかにつき、「金 銭に関しては、本件取引システム上の利用者の口座残高に相当する金銭がM社の本件各

金を受けていた2つの預金口座から、被告人名義の預金口座や支払先の預金口座等 に振込送金した行為についての業務上横領罪(主位的訴因)、M社の現金についての 業務上横領罪(予備的訴因1)、自己の利益を図りM社に損害を与える目的で任務に 違背し、M社に財産的損害を与えた会社法違反(予備的訴因2)についても訴追さ れているが、本稿では電磁的記録不正作出罪のみを取り扱うこととする。

3) 事実の概要及び刑事事件の概要等は、和田俊憲「Mt.Gox刑事事件の分析」慶應法

学42号(2019年)455頁以下が詳しい。

(3)

銀行口座等にも存在すべきであるとはいえず、M社の意思が、M社の本件各銀行口座等 における金銭の入出金があった場合に限って、本件取引システム上の口座残高を増減さ せるべきであるというものであったとは認められない。」

 「本件各行為の目的は、30 万BTC増加行為の結果、利用者間で取引されることとな った、ブロックチェーン上には存在しないビットコイン 30 万BTCを回収するための取 引を本件取引システムを利用して行うことにあるから、本件各行為は 30 万BTC増加行 為と不可分の性質を有すると認められ、これが本件取引システムの利用状況や性質に反 するか否かは、これらを一体として考察すべきである。」そして、「M社の意思は、本件 取引システム上の利用者の口座残高に相当するビットコインがC社管理のブロックチェ ーン上にも存在すべきであり、M社管理のビットコインアドレスにおけるビットコイン の受送付等による裏付けがある場合に限って、本件取引システム上の利用者の口座残高 を増加させるべきであるというものであり、被告人に与えられた権限もこの範囲に限定 されていたと認められる。」「したがって、被告人の 30 万BTC増加行為は、その権限の 範囲内では作ることが許されない虚偽の電磁的記録を作出したものと認められる。」

 「本件各行為がM社の意思に反する 30 万BTC増加行為を隠蔽する目的を実現するた めの手段であることからすれば、本件各行為は、被告人に許された権限を濫用し、M社 の意思に反するものというべきである。そして、M社は、本件取引システム上で行われ るビットコイン取引を、その利用規約に沿って行う事務処理を行っているところ、本件 各行為は、自ら作出した架空のビットコイン(数量的なものである)についての取引を 行うためのものであるから、利用規約上予定されていない事務処理であって、M社の事 務処理を誤らせる目的であることも明らかである。」

 「なお、弁護人は、30 万BTC増加行為及び本件各行為により作出された電磁的記録は、

ビットコイン送付や入金等の原因に関する記録がなく、その当該行為時点で、口座残高 に表示された数量の取引権限が付与され、口座残高に表示された金銭やビットコイン総 量の取引権限があるという事実を証明するものであるから、被告人は、内容虚偽の電磁 的記録を作出していない旨主張する。確かに、関係証拠によれば、本件取引システムの 口座残高が、当該アカウントの利用者に付与されたビットコイン取引権限の数量及び総 量を証明する機能を有することは否定できない。しかしながら、前記のとおり、30 万B TC増加行為及び本件各行為は、被告人が、その権限を逸脱し、裏付けのないビットコ イン口座残高の増加を示す虚偽の電磁的記録を作出した上、さらに、その権限を濫用し、

本来存在しない米ドル口座残高の増加を示す電磁的記録を作出したものであるから、そ れらが内容虚偽であることは明らかであり、弁護人の主張は採用できない。」

(4)

〔検討〕

1.はじめに

 本件は、仮想通貨取引所を運営する会社4)の代表取締役であった被告人の行為が問題 となっており、ビットコイン取引等に関わる判旨も含まれているが、電磁的記録不正作 出罪の成否に関して言えば、仮想通貨そのものの性質や法的意義が結論に影響を及ぼす ものではない。

 電磁的記録不正作出罪は、グラフの通り偽造罪一般に比較して検挙件数自体が少なく、

実態として偽造罪を補完する形で機能しており、大きな問題となることは少ない状況が 続いていた。そのため参考に上げられる事例も限られるが、これまで裁判例で問題とな ってきたのは、キャッシュカードの磁気ストライプ部分に印磁をする行為5)、テレホンカ ードの磁気ストライプ部分を印磁して改ざんする行為6)、パソコン通信サービスにおける 会員情報が変更された旨の虚偽の情報を送信して記録させた行為7)、オークションサイト の会員がパスワードを変更した事実がないのに変更する手続きを取った旨の虚偽の情報 を送信し記録させ、また同会員が入札した事実がないのに入札し落札した旨の虚偽の情 報を送信し記録させた行為8)等がある9)。これらは、いずれも明らかに当該記録作出の権 限を有していない者の作出行為が問題となっていたため、作出の「不正」性についてあ まり問題となることがなかった。しかし本件では、弁護人が主張するように、被告人は M社の唯一の包括的業務執行権限を有する取締役であり、本来同社が利用するシステム において電磁的記録を作出する権限を持っていたと考えられることから、本件行為が

「不正」作出に該当するのかが問題となった。

4) MTGOX社が民事再生手続開始を申し立てたことによって仮想通貨という用語が

より一般に知れ渡ったとされる。北浜法律事務所編『バーチャルマネーの法務(第 2版)』(2018年)32頁。

5) 東京地判平成元年2月22日(判時1308号161頁)。

6) 名古屋地判平成5年4月22日(判タ840号234頁)。

7) 京都地判平成9年5月9日(判時1613号157頁)。

8) 最決平成19年8月8日(刑集61巻5号576頁)。

9) より近時のものでは、ゲームのデータを不正に書き換えてクエストをクリアした にもかかわらず、データを不正に書き換えることなく適正にクリアしたという内容 虚偽のデータを送信し記録させ、クエストクリアの報酬である特定のキャラクター 取得についての権利、義務に関する電磁的記録を不正に作出した事案(千葉地判平 成29年5月18日(LLI/DB L07250432))等がある。

(5)

2.電磁的記録不正作出罪(161 条の 2)

 刑法 161 条の 2 が規定する電磁的記録不正作出罪は、電磁的記録が社会的に重要な事 項についての証明作用を有するという点で文書と同様の機能を果たすことから、文書偽 造罪に当たる行為に匹敵するものを処罰対象とすべく規定されたものである10)。そのため 保護法益は、文書偽造罪の保護法益に対応する形で電磁的記録の社会的信用あるいはそ の証明機能と解される11)。そして、第 1 項が定める私電磁的記録不正作出罪の実行行為は、

「人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に 関する電磁的記録を不正に作」る行為である。文書偽造罪の実行行為が「偽造」と規定 され、その意義が文書の名義人と作成者との人格の同一性を偽って文書を作成すること だと理解されているのに対し、電磁的記録不正作出では「不正」作出という包括的な表 現が用いられており、実行行為の規定方法には違いが生じている。このような違いが生 じたのは、電磁的記録という客体の特質に着目したためであった12)。すなわち、文書の場

10) 米澤慶治編『刑法等一部改正法の解説』(1988年)79頁(鶴田六郎=横畠祐介)。

11) 第百八回国会衆議院法務委員会議録第四号(昭和62年5月22日)33頁。中山

研一=神山敏雄『コンピュータ犯罪等に関する刑法一部改正(注釈)(改訂増補版)』

(1989年)73頁(加藤敏幸)。

12) 米澤・前掲注10)80頁(鶴田=横畠)。

(数字は、法務総合研究所『犯罪白書』平成 18 年から 30 年による。)

(6)

合には、意思・観念の表示主体たる作成名義人が単独の人格として特定できるのに対し、

電磁的記録の場合には、それ自体が可視性・可読性のある文字・文章によって構成され るものではなく13)、一定のプログラムに基づき処理され記録されることになる。したがっ て、電磁的記録はプログラムを作出した者やデータを入力する者など、その作出に複数 の者の意思や行為が介在することが前提になっているため、文書と同じように作成名義 を考えることには問題があり14)、「偽造」の判断と同様に名義人と作成者の特定をするこ とが困難であると考えられる。また、電磁的記録はそれを使用することが予定されてい る一定のシステム等において用いられることで証明機能を果たす点で、固定化された証 拠としての価値を有する文書とは特性が異なっている。そのため、電磁的記録について は「偽造」という規定では処罰範囲を適切に捕捉できないから、電磁的記録が正当に作 られたものであるとの信頼を保護するため「不正に」作出する行為を実行行為とし、電 磁的記録の作出過程にかかわり合う者の関与のあり方において不正と評価できる行為を 処罰対象とすることとなった15)

3.「不正に」作出すること

 この不正作出の意義について、文書偽造罪でいうところの有形偽造・変造に限定され るのか、無形偽造・変造も含むのかが争われてきた16)。不正作出に無形偽造・変造の電磁 的記録も含まれるとする立場17)は、文書とは異なる電磁的記録の特質や本条項の規定か

13) 刑法7条の2。

14) 的場純男「コンピュータ犯罪に関する刑事法上の問題点-主として立法的観点か ら」ジュリ846号(1985号)11頁。

15) 鶴田六郎=横畠祐介「刑法等一部改正法概説(三)」警察学論集40巻10号

(1987年)197-198頁。

16) 神山敏雄「第17講 電磁的記録不正作出罪―コンピュータ犯罪の特質」阿部純二

=板倉宏=内田文昭=香川達夫=川端博=曽根威彦編『刑法基本講座 第6巻 各論 の諸問題』(1993年)246-247頁。堀内捷三「第九章 コンピュータ犯罪」芝原邦爾

=堀内捷三=町野朔=西田典之編『刑法理論の現代的展開 各論』(1996年)154頁 は、有形偽造・無形偽造に対応する用語として有形作出と無形作出という用語を使 用する。「有形作出とは、電磁的記録を作出すべき権限がないのに他人名義の電磁的 記録を作り出すことである。無形作出とは、電磁的記録を作出すべき権限を有する 者が事実と異なる内容の電磁的記録を作り出すことである。」

17) 西田典之(橋爪隆補訂)『刑法各論(第七版)』(2018年)404-405頁。山口厚

『刑法各論』(2003年)469-470頁。前田雅英『刑法各論(第7版)』(2020年)413 頁は、「内容が虚偽か否かを問わず、システムの設置、運営者の意思に反する記録を 作出する行為は、すべて不正作出に当たる。」とする。

(7)

ら、無形偽造・変造も取り込まれると考える。不正作出に無形偽造・変造は含まれない とする立場は、電磁的記録についてもあくまで文書偽造罪とパラレルに考え、無形偽造 は不正作出に含まず、有形偽造・変造の電磁的記録に限定して不正作出と理解するもの である18)

 無形偽造に該当する行為も不正作出に含むと解すると、内容虚偽の私電磁的記録作成 が不正作出に含まれることとなるため、一般的な私文書偽造罪よりも広い処罰範囲とな るが、これは文書偽造と同様の保護法益理解からは説明できないのではないかが問題と なる。文書においては、作成名義人が明らかであればその者に対して責任追及が可能で あることから、原則として有形偽造を処罰対象としており19)、内容の真実性が社会的に要 求される限られた文書についてのみ無形偽造も処罰しているが、そうであれば電磁的記 録も作成主体が認識できる場合には責任追及が可能であることから、無形偽造一般を処 罰範囲に含めることを説明できないことになる20)。これに対し、有形偽造と同様の範囲を 不正作出と解釈すると、2 項の公電磁的記録不正作出罪の成立範囲との関係で不都合が 生じる。すなわち、「不正に作った」という実行行為は 2 項の公電磁的記録不正作出にお いても同様であるため、不正作出の解釈として無形偽造を含まないとした場合、権限の ある者が虚偽の公電磁的記録を作出した場合には不正作出にあたらないことになる。そ のように解すると、虚偽公文書作成罪(156 条)が公務員による無形偽造・無形変造を 処罰しているにもかかわらず、電磁的記録の場合には不処罰となるという問題が生じる。

 そこで、不正作出については有形偽造・変造であると理解しつつ、2 項については例 外的に無形偽造・変造を含むとする解釈が存在する21)。電磁的記録不正作出罪が、文書偽

18) 大谷實「コンピュータ関連犯罪と刑法の一部改正(中)」判タ645号(1987年)

38頁。曽根威彦『刑法各論(第5版)』(2012年)255頁。山中敬一『刑法各論(第 3版)』(2015年)644頁。

19) 西田・前掲注17)394頁。今井猛嘉「文書偽造の一考察(六・完)」法学協会雑

誌116巻8号(1999年)1370-1371頁。

20) 山口厚「電磁的記録と文書犯罪規定の改正」ジュリ885号(1987年)7-8頁。無

形偽造処罰の理由は、「情報処理阻害の面から、電磁的記録については、その虚偽記 録の作成を処罰するというところに求めざるをえない」とする。

21) 神山・前掲注16)250頁。「無形偽造の不処罰主義の大原則は、合理的理由なし

に単に電磁的記録の特質を理由に破られてはならない」とし、公務員の無形偽造に 相当する電磁的記録の無形偽造が処罰を免れるという批判は正しいが、「一六一条ノ 二第一項では、電磁的記録の有形偽造・変造を原則とし、同条第二項では例外的に 作成権限を有する公務員が電磁的記録の無形偽造・変造をする場合も含むと解釈す

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造罪に対応するものであることを重視し処罰範囲を対応させるためにはこのような解釈 を採ることが最も整合的であるが、1 項を受けて規定された 2 項において同一文言を異 なって解釈するのは無理があるとの批判を受ける22)

 そのため、不正作出について一つの定義で理解するためには、無形偽造を含むか否か を選ばざるを得ないことになるが、立案当局の見解としては、不正作出には無形偽造も 含む説明が採られていた。不正に作るとは、「電磁的記録の作出過程に関与する行為者に おいて、当該記録が作り出されるべきシステムの設置運営主体との関係で、記録の作出 に関与する権限がないのに、あるいはそのような権限があってもこれを濫用して記録を 作る」ことであると理解されており23)、定義上無権限の場合に限定せず権限のある者によ る濫用的作出も不正作出と認める点で、無形偽造・変造についても不正作出に含まれる ことになる。もっとも、電磁的記録不正作出罪の保護法益については文書偽造罪とパラ レルに電磁的記録の社会的信用及び証明機能と理解していたこと24)、原則としては有形偽 造を不正作出と考えているが、内容虚偽の公電磁的記録作成は処罰範囲に含まれるとす るために無形偽造を含みうるとする説明がなされていたこと25)、入力権限のみをみれば無

ることによって、右批判は乗り越えられるであろう。」とする。大谷實『刑法講義各 論(新版第4版補訂版)』(2015年)477頁は、「『不正に』を文書における『偽造』

に対応して『権限なくして』と『権限を濫用して』に分け、私電磁的記録不正作出 罪においては『権限なくして』作出した場合を実行行為とし、公電磁的記録不正作 出罪においては、『権限なくして、または権限を濫用して』作出した場合を実行行為 とする解釈を取ることによって、処罰の限定を図るべき」とする。井田良『講義刑 法学・各論』(2016年)461頁は、「不正作出は、文書の有形偽造に対応する行為を 捕捉する概念であると同時に、公電磁的記録については無形偽造に対応する行為を も含みうる概念なのである。」とする。

22) 山口・前掲注17)477頁。山中・前掲注18)644頁。

23) 米澤・前掲注10)87頁(鶴田=横畠)。衆院議録・前掲注11)9頁では、「不正 二作リ」の解釈につき行為者が「記録の作出過程に関与するそのあり方に違法があ ると言える」ことと説明し、「データを入力する権限がないのにデータを入力して記 録を作出するような行為、あるいはデータ入力の権限は一応あってもこれを乱用し て虚偽のデータを入力して記録を作出する行為、こういったような行為がこれに当 たる」と述べられている。

24) 衆院議録・前掲注11)32頁。

25) 衆院議録・前掲注11)13頁。不正に作りたる、の用語につき小澤克介委員の

「これは伝統的な概念で言えば有形偽造のことを言うのである、このようにお聞きし てよろしいでしょうか。」という問いに対し、米澤慶治説明員は「原則としては有形

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形偽造に相当するように見える行為であっても、その実質は有形偽造に相当する場合が あるという議論を前提にしていたこと26)等から、無形偽造が含まれる定義を採用すると しても、内容虚偽の私電磁的記録作成の処罰をいかに考えていたかは不明確であった27)。  このような混乱が生じたのは、立法の発想としては新しい客体である電磁的記録の特 質を重視して条文の構成を考えつつ、処罰範囲としては文書偽造の補充的性格を有する 存在であることを無視できない故に、不正作出の解釈において有形偽造・無形偽造の考 え方といかにバランスを取るかが解釈論として顕出したためと考えられる28)

4.作成権限の所在

 文書でいうところの無形偽造を含むかという議論に混乱を招く 1 つの要因として、電 磁的記録において作成名義人にあたる権限者は誰なのかということに共通認識が得られ ていない点が挙げられる。無形偽造は、作成名義人すなわち作成権限がある者が内容虚

偽造を前提にいたしております。」としつつ、「公務員が仮に公文書を作成します場 合には、ありのままの内容のものを書く義務というのがあるわけでございます。し たがいまして、作成者の立場、地位いかんによりましては、やはり真実の内容のも のをつくらない限りは権限の乱用だと見なされる」ので「不正作出罪の二項のとこ ろには従来の虚偽公文書作成罪に当たるようなものも入ってくるだろう。その意味 では、いわゆる伝統的な意味における無形偽造は全く入らないんだという線切りに はならない」と答えている。

26) 米澤・前掲注10)17頁(古田佑紀=多谷千香子)。

27) 衆院議録・前掲注11)22-23頁。中村巌委員の「いわゆる偽造罪における無形偽

造と申しますか、そういう内容虚偽の文書をつくり出すということ、これはこの

『不正二作リタル』という構成要件で不処罰であるというふうにして排除できるので しょうか。」との問いに対し、米澤慶治説明員は、「虚偽の文書的な電磁的記録を作 成した場合には本罪は当てはまらない」としつつ、2項の公電磁的記録については、

「やはり公務員としての立場から考えますと真実の記録を作成する義務を負っている だろう、要するにそれ以外の権限は持っていないのだろう、あるいは権限を乱用し た結果になるのだろうという意味におきまして、その権限なくまたは権限を乱用し を意味する『不正二』に当たる。つまり、実質的には有形偽造的意義を持つ」と答 えている。内容虚偽についてはあくまで公電磁的記録の場合を処罰することを意図 しており、広く一般的に内容虚偽の電磁的記録を処罰対象とする意図ではないとの 説明と見える。

28) 中山=神山・前掲注11)73頁(加藤)。「この①の電磁的記録の特質の強調と、

②の文書犯罪的構成を意図する保護法益との両者を、いかように調和させるかが問 題」と指摘する。

(10)

偽の文書を作成することであり29)、これを電磁的記録に置き換えるならば、作成権限ある 名義人的存在が内容虚偽の電磁的記録を作成することが電磁的記録の無形偽造にあたる ことになる30)。しかし、前述のように立法にあたっての立案当局の考え方としては、電磁 的記録はその特質上文書と同じように名義人を特定することは困難であるという前提に 立っているため、文書と同様の無形偽造というものがそもそもどのような場合なのかが 従来の定義からは明らかにならない。それにもかかわらず、公電磁的記録については権 限ある者の虚偽作成も処罰範囲に含めるべきという要請から、いかなる場合を処罰範囲 に取り込み、また除外するのかについて結論が先行し議論が混乱していると考えられる。

文書の場合は文書自体から名義人を看取できるのに対し、電磁的記録には可読性がない 以上、文書における名義人と全く同じ存在を観念することはできないが、その実質とし ての作成権限者は誰なのかを検討する必要がある。

 電磁的記録に対する社会的信用あるいはその証明機能という保護法益の観点からは、

電磁的記録が作出された際に、その物理的な入力者が誰であれ、表示された内容の意思 主体が明らかとなっていて責任追及が可能であれば、社会的信用は害されないと解する ことができるのは、文書の場合31)と同様である。そこで作成権限を有する意思主体は、

インプット・データを作成する権限ある者32)、コンピュータシステムを設置・管理し、そ れによって一定の事務処理をおこなおうとしている者33)等、説明方法として様々考えら れるが、あくまでいかなる内容の電磁的記録を作出するかについての決定権限を有する 者のことを指すと解すべきである34)。機械的な入力を任された者は名義人でも作成者でも ないのは文書と同様であり35)、システムを介した時に意味を持つ電磁的記録の作成意思主 体が作成権限者となる。このように解した場合、基本的には電磁的記録を打ち込み入力 した者ではなく、当該記録が適合し事務処理に供されるシステムの設置運営者に作成権 限が認められることになろう36)

29) 前田・前掲注17)389頁。西田・前掲注17)378-379頁。

30) 堀内・前掲注16)154頁。

31) 木村光江「偽造罪の保護法益と人格の同一性」研修554号(1994年)6頁。

32) 山口・前掲注20)8頁。

33) 川端博『刑法各論講義(第2版)』(2010年)567頁。

34) 衆院議録・前掲注11)5頁。

35) 松宮孝明『刑法各論講義(第5版)』(2018年)397頁。

36) しかしながら、そもそもこのように作成権限が誰にあるかを特定していくことが 可能なのであれば、不正作出という特殊な定義を採用せずとも、実質的に文書偽造 と同様有形偽造・無形偽造という考え方を電磁的記録の場合にも採用できたのでは

(11)

5.公電磁的記録の虚偽作成

 このように作成権限を解すると、公務所又は公務員の職務の遂行として作出されるこ ととされている電磁的記録である公電磁的記録の場合37)、最終的に記録が証明機能を果た すために必要なシステムの設置運営者は公務所と考えられるから、公務所に一次的な作 成権限があると認められ、個々の公務員は、その職責に従い与えられた範囲での作成権 限が認められると考えられる38)。もっとも、このような説明では、虚偽公文書作成罪にお いて公務員の職責上内容虚偽の文書を作成する権限がないと解して有形偽造が成立する とはしていないことと矛盾するようにも思われるが39)、文書の場合と電磁的記録の場合に は、作成権限の理解に差が生じると考えられる。文書は、それ自体独立で証拠としての 意味を持ち、公共に対して市長等文書の責任主体を明らかにするので、責任追及先とな る作成名義人である公務員個人に、いかなる内容であれ作成権限を認めることができる。

これに対して、公電磁的記録の場合、それ自体に可視性・可読性がないため電磁的記録 自体から名義人は観念できず、それに適合する公的なシステム・プログラムを媒介する ことでしか意味のある記録として利用できない40)。そのため、記録の証明作用を機能させ るために公務所が設置するシステムの存在なくしてはならず、公電磁的記録については、

実質的な作成権限自体が、システムを置く公務所との関係によって制約を受けると考え ることができる41)。すなわち、電磁的記録に対する信用を考える上では、それを機能させ ることができるシステムとその設置運営者の存在も一体として考えざるを得ない。その 意味で、電磁的記録の場合の作成権限はシステムの設置運営主体との関係で決定される ため、文書の場合の説明と差が生じうる。

ないかという疑念が生じる。山口・前掲注20)9頁。

37) 鶴田=横畠・前掲注15)204頁。

38) 衆院議録・前掲注11)23頁。

39) 神山敏雄「コンピュータ関連犯罪」法教132号(1991年)26頁。

40) 中森喜彦「コンピュータ犯罪と刑法の一部改正」法教81号(1987年)90頁。

米澤・前掲注10)61頁(鶴田=横畠)は、電磁的記録の性質として、「特定の意味 を有する記録として本来の社会的効用を発揮し得るのは、読み取り装置を介して一 定の電子情報処理組織における情報処理の用に供せられた場合であるのが通常であ る」とする。

41) 例えば、市長に決定権限がある事項について記録するため市長が電磁的記録を作 成しようとしても、その記録が適合しそれを反映させることができるシステム・プ ログラムが公務所に存在しないのであれば、職務の遂行のため作出する証拠として 機能させることはできない。

(12)

 したがって、公電磁的記録の場合、内容虚偽の記録作成は公務所との関係では権限の 逸脱、無権限行為と解することができ、事実的な行為としては文書における無形偽造と 同様の行為も、厳密な意味で電磁的記録作出権限のある者の行為とは異なるといえる。

そのため、不正作出に無形偽造も含まれるか、という問いは、文書における無形偽造に あたる行為を不正作出と評価できるかという問題としては考えられるが、電磁的記録の 無形偽造は可罰的かという意味とは区別されることになろう。

6.実質主義を採用する必要性

 作成権限ある者による内容虚偽の記録作成を全て不正作出とするのであれば、文書偽 造でいうところの実質主義の採用であり、電磁的記録不正作出罪は電磁的記録の内容の 真実性まで担保する規定となる。確かに、電磁的記録の特殊性により電磁的記録自体か らは単独の作成名義人を特定することが困難であるために、責任追及が担保されないと して内容の真実性を直接保護するという考え方も有り得る。しかし、前述のように電磁 的記録も一定のシステム・プログラムを経て最終的には可視性・可読性のある証拠とな ることが想定され、いずれかの者に作成権限が観念できる以上、作成名義人と同じ責任 者を特定できるであろうから42)、内容の真実性を直接保護しなければ電磁的記録に対する 社会的信用が害されるとまでは言えない。電磁的記録に文書と異なる特殊性が認められ るとしても、内容虚偽記録の作成行為がいかなる場合にも全て不正作出に含まれると理 解するのは妥当でない43)

7.妥当な処罰範囲と不処罰範囲

 公文書と公電磁的記録が証明するものは同一のはずであるから、虚偽公文書作成罪に よって処罰される行為が、電磁的記録の場合に処罰されないという結論は妥当でない44)。 したがって、内容虚偽の公電磁的記録作成を処罰範囲から除外するという解釈は採りが たいが、不正作出の解釈として作成権限のある者の虚偽作成を全て取り込むと理解しな くとも、虚偽の公電磁的記録作出は処罰範囲に含まれると解することは可能である。そ

42) 立案当局も、電磁的記録にも作成名義と同じ作用が観念できることを前提として おり、衆院議録・前掲注11)14頁は、「インプットされた文書のようなものの作成 名義の証明作用を保護法益とするんだ、このように理解してよろしいでしょうか。」

という問いに対し、米澤説明員は「文書の例の保護法益と同じようにお考えいただ いていいかと思います。」と答えている。

43) 山口・前掲注20)7-8頁。

44) 中森喜彦『刑法各論(第4版)』(2015)229頁。西田・前掲注17)405頁。山 口・前掲注17)477頁。

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の上で、1 項と 2 項で不正作出の意義を変更しないように説明するためには、立案当局 が従来強調してきたように、システムの設置運営主体との関係における作出権限を重視 した解釈を採るのが 1 つの無理のない形であるといえる。

 立案当局も、内容虚偽の記録作成が全て不正作出に当たるとは考えておらず、作成権 限がある者の虚偽記録作出が不可罰となる例として、個人店主が脱税や水増し請求等の さまざまな目的で取引状況を記録した磁気ファイルに虚偽の記録を行うような行為を挙 げていた45)。これは、システムの設置運営主体自身による行為で作成権限の濫用にはあた らないと解されるためである46)。記録の内容を自由に決定できる者の作出であれば、内容 虚偽であっても不正作出には当たらないのに対し47)、データ入力を補助的に任されている 者については、入力を任された内容の記録作出権限しか有さないため、内容虚偽など与 えられた権限の趣旨に反する記録を作出すれば、無権限作出と解されることになる。シ ステムの設置運営主体と記録作成権者の人格の一致は、例に挙げられた自営業者の事案 のように、個人が自分自身のためにシステムを置いて記録を作出する場合に限り認めら れ、法人化された組織においては認められがたいと解することになろう48)。したがって、

システムの設置運営者と作成権限者が一致する限られた場合の内容虚偽記録の作成に限 って不正作出から除外されることになるため49)、文書偽造罪よりも定義上処罰範囲は拡大 することになり、文書偽造でいうところの無形偽造的行為も含まれうることになるが、

これは電磁的記録が単独では証明作用を持ち得ず、システムを媒介することで初めて意 味を持つという性質から生じる違いといえる。その結果、本罪は事務処理に対する社会 の信用、事務処理そのものの正確性を侵害する罪としての性質を有すると理解すべきこ とになる50)。このように解すれば、作成権限を前提に、処罰される内容虚偽と不処罰とな

45) 鶴田=横畠・前掲注15)191頁。

46) 衆院議録・前掲注11)14頁。システムの設置運営者自身が行う場合であっても、

虚偽の記録を作出する権限までは有しない、といったように権限を限定する解釈は 採らないことが前提となっている。

47) 鶴田=横畠・前掲注15)203-204頁。

48) この結論に疑問があるとして、中森・前掲注44)229頁。確かに、特に一人会

社等個人と法人が限りなく同一人格と考えられる場合でも処罰範囲に差が生じるこ との当否が問われるが、構成員とは別個独立の権利義務主体性が認められることに は法的・社会的に意味があり、法人という人格が認められる場合と個人事業主の場 合とでは差が生じると考えることは可能であると思われる。

49) 中山=神山・前掲注11)77頁(加藤)。

50) 中森・前掲注40)90頁。西田・前掲注17)404-405頁。山口・前掲注17)477

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る内容虚偽を区別することも一応可能であると考えられる。

 そこで、不正作出とは、システムの設置運営主体との関係において、その設置運営主 体の意思に反し許されない作出のことを指すと解することができる51)。これは、電磁的記 録が反映されるシステムの設置運営主体に作成権限があると考えた上で、入力権限者に も与えられた範囲内で電磁的記録の作成が許されると考えることになり、その範囲の逸 脱も不正作出として含むことになるが、文書における有形偽造・無形偽造の区別よりも 曖昧な境界を持つものとなる。システムの設置運営主体は、当該電磁的記録が証明機能 を果たす上でのプラットフォームを敷いた存在であるから、地方公共団体や法人など、

自然人よりも組織が想定されることが多いと考えられる。そうすると、設置運営主体の 意思は自然人の個々の意思とは区別され、システム運用に係る法令や規則、当該組織に おけるルールを前提に、当該組織が電磁的記録に関しいかなる取り扱いを意図していた かを設置運営主体の意思として認定していくことになろう。

8.内容虚偽の電磁的記録

 内容虚偽の電磁的記録作成が処罰範囲に含まれるとしても、電磁的記録の内容虚偽が 何を指すのかも問題となる。電磁的記録には可視性・可読性がない以上、作成される電 磁的記録それ自体には、真実も虚偽もないと考えられるためである。すなわち、電磁的 記録の虚偽性も、あくまで当該記録が利用されることを前提にしたシステムを介した場 合に意味を持つ記録に関しての内容虚偽が問題となり、したがって、システムに反映さ せた場合に当該システムが証明しようとする事実との関係で真実でないといえる場合が、

内容虚偽にあたるものと解される52)

頁。伊藤渉=小林憲太郎=齋藤彰子=鎮目征樹=島田聡一郎=成瀬幸典=安田拓 人『アクチュアル刑法各論』(2007年)387頁(成瀬幸典)は、「本罪の目的に関す る文言からは、電磁的記録を使用した事務処理の適正な遂行を保護する趣旨も含ま れていると解すべき」と指摘する。

51) 前田雅英編集代表『条解刑法(第3版)』(2013年)437頁。今井猛嘉=小林憲 太郎=島田聡一郎=橋爪隆『刑法各論(第2版)』(2013年)370頁(今井猛嘉)は、

「この理解においては、設置運営主体の意思に反する電磁的記録の作出は、すべて処 罰される(作出権限の逸脱は、濫用の一例にすぎないことになる)のであり、文書 偽造罪にいう有形偽造の意義につき意思説をとったのと同じ帰結が生じる。」と指摘 する。

52) システムの設置運営主体が真実でない電磁的記録を故意に作出することを許容す る意思であると認められることは、作成権限者と設置管理者が一致する場合を除き 考え難いから、設置運営主体が予定する記録との関係で当該記録が内容虚偽と認め

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9.本判決における不正作出の判断

(1)作成権限の所在

 本件においては、これまで問題となってきた明らかな無権限の記録作出ではなく、一 般的には記録の作成権限を有する者が作成した記録について、不正作出にあたるかが問 題となっている。本件M社は法人として取引システムを設置していたのであるから、本 件取引システムの設置運営主体はM社であり、行為者が代表取締役として実際にデータ の記入や記録作成を行う権限を有していたとしても、M社の有する権限とは区別され、

電磁的記録の作成権限はM社から与えられるものということになる。

 したがって、記録作出が不正作出にあたるか否かは、M社の意思に反する記録作出行 為であったか否かによることになり、判旨でもM社の意思を認定している。また、その 意思の認定においては、法人自体の意思と内部の個人の意思とはイコールではないこと を前提とし、法人が法令や契約関係等を前提とする存在としてその意思が認定されてい るが、システムの設置運営主体の意思の認定方法は、自然人の意思とは異なる以上この ような手法を採らざるを得ない。その結果として、本件取引システムの利用状況や性質 に反する電磁的記録を作出すべきでないとの意思を有していたと認めること自体は妥当 な認定であったといえる。

(2)システムの設置管理者の意思

 このような理解を前提として、本件の記録作出行為がM社の意思に反するかを検討し ているところ、本件において作出された電磁的記録は、増加した残高記録である。この 記録が、システムの設置運営者たるM社の意思に反する虚偽の記録にあたるかについて は、システムが当該電磁的記録の証明機能についてどのような意図を有していたか、具 体的に存在していた取扱いのルール等を手掛かりに判断していくことになる。

 口座残高を増減させる電磁的記録の作出については、M社において利用者が送金した 金銭と自社の金銭とを分別管理しておらず特定性を欠いており、またこのような管理方 法が法令上あるいは利用規約上禁止されていなかったこと等から、利用者が送金した金 銭はM社に帰属するため、利用者の口座残高に相当する金銭がM社の口座等に存在すべ きとはいえず、M社の意思が、M社の各銀行口座等における金銭の入出金があった場合 に限って、本件取引システム上の口座残高を増減させるべきであったとは認められない と認定し、口座残高の金額の増減に、それを裏付ける金銭の出入金は不要であるとして いる。すなわち、口座残高を増減させる電磁的記録に関し、システムの設置運営者たる

られた場合には権限を逸脱した作出行為になると思われる。

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M社は、金銭の増減を現実に裏付ける出入金があることは不要という意思であったので あり、そうであるならば、増加した残高記録は金銭の裏付けがなかったとしても虚偽の 記録ではなく、M社の意思に反する不正作出にはあたらないとも思われる。

 しかしながら、本判決において本件の増加した残高記録の作出行為は、存在しないビ ットコインを回収するために行われたものであるから、先立ってなされたビットコイン の増加行為と一体として、本件取引システムの利用状況や性質に反するかを考察すべき とした。そして、ビットコインの増加記録作出行為については、本件取引システム上、

ブロックチェーン上に存在しないビットコインが取引されることは想定されておらず、

取引システムの口座残高は、利用者に対し、ブロックチェーン上に存在するビットコイ ンに裏付けられたものであることを保証しているとして、被告人に与えられた権限も、

ビットコインの受送付等による裏付けがある場合に限られると認め、裏付けのないビッ トコインの増加記録作出行為は虚偽の電磁的記録作出にあたるとし、それを隠蔽するた めに行われた残高増加行為も、M社の意思に反するもので不正作出にあたるとしている。

 しかし、この説明は問題となった電磁的記録作出行為に至った動機に不正性があるか ら、記録は虚偽であることになり意思に反する不正作出に当たると解しているように見 える。システムの設置運営者たるM社の意思に反するかを考えるにあたり、当該システ ム上、電磁的記録に関していかなるルールを定めていたか、いかなる取扱いの実態があ ったかを考慮すべきであるが、それを離れ、当該実行行為に至る経緯までの正当性を含 め設置運営主体の意思を解することは過大な考慮のように思われる。実行行為はあくま で不正作出行為であり、電磁的記録の作出に至った動機等によって法益侵害性が左右さ れると解することは妥当でない。本件で作出された残高記録がシステムの設置運営者の 意思に反し不正に作出されたものというためには、端的に残高記録の作出にはそれを裏 付ける現金の入出金があることが本件システム上前提になっていたと認められる必要が あると思われ53)、これを否定しつつも先に行われた不正行為の隠蔽手段として行われてい ることから本件行為は不正作出にあたるとする本件の結論及び理由付けには疑問が残 る54)。不正作出の解釈適用においては、システムの設置運営主体の意思を無視できないが、

その設置運営者の意思を認定することの困難性が浮き彫りになったといえる。

53) あるいは、ビットコインについてはブロックチェーン上に存在するビットコイン の受送付に裏付けられている必要があるとするのであれば、ビットコインにかかる 口座残高増加についての不正作出を問題とすべきである。

54) 不正作出にあたらないとする見解として、和田俊憲「Mt.Gox事件第1審判決」

法教472号(2020年)139頁。詳細な分析として、和田・前掲注3)457頁以下参照。

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(3)不正作出の解釈と適用

 「不正」作出の意義に関しては、本判決の理解は立案当局が従来から説明してきた内容 に沿ったものであり、その理解の複雑性は否定できないものの55)、1 つの妥当な解釈を示 したものと解される。もっとも、不正作出の解釈の複雑性は立法方法に由来するもので あり、電磁的記録の特質を重視するにせよ、作成権限を考慮する以上は文書偽造と同様 の解釈をする可能性についても十分検討の余地があったであろう。そして、文書偽造罪 の処罰範囲との整合性を保つのであれば、私電磁的記録と公電磁的記録で条文を書き分 けることが最も混乱が少なかったと思われるが56)、現行法を前提として適用していくので あれば、システムの設置運営主体の意思に照らすことで、作成の不正性を判断していく ほかないと思われる。本裁判例は、このように困難な解釈適用を行う必要に迫られたも ので判断手法が参考になるが、システムの設置運営主体の意思の認定をいかに行うべき かは今後も問題となるはずである。

(本研究は JSPS 科研費 19 K 1353700 の助成を受けたものです。)

55) 中山=神山・前掲注11)76頁(加藤)。

56) 神山・前掲注16)250頁。「立法方法に主たる原因があるのであり、それを法規

上明確にすればことは簡単に片づく」とする。

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参照

関連したドキュメント

注意: 操作の詳細は、 「BD マックス ユーザーズマニュ アル」 3) を参照してください。. 注意:

スライド5頁では

藤野/赤沢訳・前掲注(5)93頁。ヘーゲルは、次

Emmerich, BGB – Schuldrecht Besonderer Teil 1(... また、右近健男編・前掲書三八七頁以下(青野博之執筆)参照。

Kids Set Menu (Corn Soup, Salisbury Steak, Fried Shrimp, French Fries, Sausage, Rice,

第2条第1項第3号の2に掲げる物(第3条の規定による改正前の特定化学物質予防規

前掲 11‑1 表に候補者への言及行数の全言及行数に対する割合 ( 1 0 0 分 率)が掲載されている。

一○ ミルク及びクリーム︵濃縮若 日から平成一六年 トン 一○ ミルク及びクリーム︵濃縮若 日から平成一五年 トン. ○四○二・