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高齢入院精神障害者の地域移行・地域生活支援について

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(1)

*東洋英和女学院大学大学院 人間科学研究科 教授(精神保健福祉論 社会福祉論)

Professor (Mental Health and Welfare, Social Work), Department of Human Sciences, The Graduate School of Toyo Eiwa University.

高齢入院精神障害者の地域移行・地域生活支援について

─養護老人ホームに入所している          高齢精神障害者支援の現状と課題を中心に─

横倉 聡 *

Regional Transition and Community Life Support for Hospitalized Elderly with Mental Disorders:Present Situation and Problems

of the Elderly with Mental Disorders in Nursing Homes

YOKOKURA Satoshi

      With  the  adoption  of  the  Restructuring  Plan  for  Mental  Healthcare  and  Medical  Welfare  in September 2004, regional transition and support for the elderly with mental disorders in their  community life have been implemented.  These measures encourage the discharge of the elderly  from hospitals and settlement in their local communities.  

      This  paper  describes  the  present  situation  and  problems  concerning  support  given  to  the  elderly living in nursing homes, which became one of the destinations in regional transition for the  mentally-handicapped elderly with a long hospitalization.

      It is clear that such nursing homes are providing the elderly with ingenious support, despite  great difficulties resulting from staff shortage.

キーワード :  地域移行、地域生活支援、高齢入院精神障害者、高齢精神障害者、養護老人ホーム Keywords :  regional transition, community life support, hospitalized elderly with mental disorders, 

elderly with mental disorders, nursing homes

(2)

はじめに

現在、わが国では、少子化と高齢化が同時に 進んでおり、高齢化の進展については、精神障 害者も例外ではなく、精神科病院に入院してい る長期入院精神障害者、地域社会で独居生活す る、あるいは家族と暮らす精神障害者、さら に、養護老人ホーム等の福祉施設やグループ ホーム等で暮らす精神障害者においても高齢化 が進行しているのが現状であり、高齢化した精 神障害者、特に統合失調症患者には、生理的機 能、身体的機能等の低下が見られ、精神医療を 含めた医療全般と介護を含んだ生活支援等が必 要であると言われている1)

ところで、十数年に渡り、病状が落ち着き安 定した高齢入院精神障害者(認知症を除く)の 地域移行・地域生活支援を目指す取り組みが行 われてきた。地域の受け入れ先としては、具体 的に上げると、親・兄弟姉妹、生活保護法に基 づく救護施設・更生施設、老人福祉法に基づく 養護老人ホーム・特別養護老人ホーム、障害者 総合支援法に基づくグループホーム(共同生活 援助)、独居生活(年金受給や生活保護制度等 を活用して)等であった。

そこで、本稿においては、高齢入院精神障害 者の地域移行の受け入れ先の一つとしての役割 をこれまで担ってきた養護老人ホームに焦点を 当て、養護老人ホームに入所している高齢精神 障害者に対する支援の現状と課題について探っ てみることにした。

なお、「精神病院の用語の整理等のための関 係法律の一部を改正する法律」が 2006 (平成 18) 年に制定され、精神保健福祉法等の中で用 いられていた「精神病院」という用語が「精神 科病院」に改められたので、以下の論述におい ては、歴史上の表現に問題がない限り、精神科 病院という表記を用いることにした。

1 わが国の精神保健医療福祉に関する法 制度の変遷

精神障害者の保護に関するわが国で最初の法 律として、1900 (明治 33) 年に、「精神病者監

護法」 2)が制定されて以降、1919 (大正8) 年の

「精神病院法」 3)制定、1950 (昭和 25) 年の「精 神衛生法」 4)制定、1987 (昭和 62) 年の「精神 保健法」 5)制定を経て、その後の精神医療を取 り巻く諸状況の変化、また、1993 (平成5) 年 には「障害者基本法」 6)が、さらに、1994 (平 成6) 年には「地域保健法」 7)が制定されたこ となどを踏まえ、精神障害者の福祉施策や地域 精神保健施策の一層の充実を図ることなどの観 点から、1995 (平成7) 年に、「精神保健及び精 神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」

が制定された。

なお、精神保健福祉法施行後5年を目途とし て、精神保健福祉を取り巻く環境の変化等を勘 案し、必要があると認めたときは、法改正の措 置を講ずることとするとの検討規定が設けられた。

精神保健福祉法では、①法体系全体に福祉施 策を位置付け、強化したこと、②精神保健セン ター、地方精神保健審議会、精神保健相談員に 福祉の業務を加え、名称を変更したこと、③精 神障害者社会復帰施設を類型化したこと、④精 神障害者保健福祉手帳を創設したこと8)、⑤精 神保健指定医制度を充実させたこと、⑥医療保 護入院の際の告知の義務化を徹底化したこと、

⑦公費負担医療の公費優先を見直したこと、等 をその内容としている。

その後、1999 (平成 11) 年、2013 (平成 25)

9)、2018 (平成 30) 年に精神保健福祉法の一 部改正が行われ、今日に至っている10)

2 精神保健医療福祉の改革の推移 わが国は、長年にわたり精神科病院による入 院医療中心の精神保健医療福祉施策が推進され てきたが、2004 (平成 16) 年9月に「精神保健 医療福祉の改革ビジョン」 11)(以下、改革ビジョ ン)が策定されたことを通して、「入院医療中 心から地域生活中心へ」という新たな基本的な 方策を推し進めていくことになった。その改革 ビジョンの中では、立ち後れた精神保健医療福 祉体系の再編と基盤強化を今後 10 年間で進め、

併せて、受け入れ条件が整えば退院可能な者

(3)

(約7万人いると示された)の 10 年後の解消を 目標としたが、その後、改革ビジョンの後期5 か年の重点施策群の作成に向けた「精神保健医 療福祉の更なる改革に向けて」(今後の精神保 健医療福祉のあり方等に関する検討会報告書)

が 2009 (平成 21) 年9月に策定される等、様々 な施策が展開されてきたものの、精神科入院医 療の現状は、依然として多くの課題が改善され ることには至らなかった。

〈精神保健医療福祉の改革ビジョン〉

精神保健医療福祉施策について、「入院医療 中心から地域生活中心へ」改革を進めるため、

①国民意識の変革、②精神医療体系の再編、③ 地域生活支援体系の再編、④精神保健医療福祉 施策の基盤強化、等を今後 10 年間で進める

〈精神保健医療福祉のさらなる改革に向けて〉

(今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する 検討会報告書)

1.今後の精神保健医療福祉改革に関する基本 的考え方

 ・地域を拠点とする共生社会の実現に向け て、「入院医療中心から地域社会中心へ」

という基本理念に基づく施策の立案・実施 を加速

2.改革の基本的方向性

 ・精神保健医療体系の再構築、精神医療の質 の向上、地域生活支援体制の強化、普及啓 発(国民の理解の深化)の重点的実施、今 後の課題

こうした現状を踏まえ、精神障害者の地域 生活への移行を促進するために、2013 (平成 25) 年6月に「精神保健福祉法」が改正され

(2014 年6月施行)、これに伴い、大臣告示と して、入院医療中心の精神医療から精神障害者 の地域生活を支えるための精神医療への改革の 実現に向け、精神障害者に対する保健・医療・

福祉に携わる全ての関係者が目指すべき方向性 を示した「良質かつ適切な精神障害者に対する

医療の提供に関する指針(法第 41 条第1項規 定、平成 26 年厚生労働省告示第 65 号)」が定 められた。

〈良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提 供を確保するための指針〉

1.精神病床の機能分化に関する事項

2.精神障害者の居住等における保健医療サー ビス及び福祉サービスの提供に関する事項 3.精神障害者に対する医療の提供にあたって

の医師、看護師その他の医療従事者と精神保 健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉 に関する専門的知識を有する者との連携に関 する事項

4.その他良質かつ適切な精神障害者に対する 医療の提供の確保に関する重要事項

この指針で引き続きの検討課題とされたの が、長期入院精神障害者の地域移行を更に進め ることであり、更に進めるための地域の受け皿 づくりのあり方等の具体的方策を検討するため に、2014 (平成 26) 年3月、「長期入院精神障 害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討 会」が設置され、同年7月に、検討会の取りま とめとして、「長期入院精神障害者の地域移行 に向けた具体的方策の今後の方向性」が示さ れ、長期入院精神障害者の地域移行および精神 医療の将来像が共有化されることになった。

〈長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体 的方策の今後の方向性〉

1.長期入院精神障害者の地域移行及び精神医 療の将来像

 ・長期入院精神障害者の地域移行を進めるた め、本人に対する支援として「退院に向け た意欲の喚起(退院支援意欲の喚起を含 む)」「本人の意向に沿った移行支援」「地 域生活の支援」を徹底して実施

 ・精神医療の質を一般医療と同等に良質かつ 適切なものとするため、精神病床を適正化 し、将来的に不必要となる病床を削減する

(4)

といった病院の構造改革が必要 2.長期入院精神障害者本人に対する支援 3.病院の構造改革

3 精神障害者の地域移行・地域生活支援 に関する施策の変遷

受け入れ条件が整えば退院可能な精神障害 者の地域移行及び地域生活支援に向けた施策 については、2003 (平成 15) 年度から開始され た「精神障害者退院促進支援モデル事業」が、

2006 (平成 18) 年度からは「精神障害者退院促 進支援事業」に、そして、2008 (平成 20) 年度 からは、「精神障害者地域移行支援特別対策事 業」として実施されてきた。

また、2010 (平成 22) 年度からは、地域生活 への移行支援にとどまらず、地域生活への移行 後の地域への定着支援も行う事業への見直しが 行われ、事業の名称も「精神障害者地域移行・

地域定着支援事業」 12)と変更された。さらに、

2012 (平成 24) 年度からは、「地域相談支援(地 域移行支援・地域定着支援)」として、障害者 自立支援法(現・障害者総合支援法) 13)の障害 福祉サービスの一つとして位置付けられ、個別 給付事業となった。

〈精神障害者退院促進支援事業〉

1.精神科病院に入院している精神障害者のう ち、受入条件が整えば退院可能である者に対 し、円滑な地域移行を図るための支援を行う 2.主な支援内容:①精神科病院内における利 用対象者に対する退院への啓発活動、②退院 に向けた個別の支援計画の作成、③院外活 動(福祉サービス体験利用、保健所グループ ワーク参加等)にかかる同行支援等、④対象 者、家族に対する地域生活移行に関する相 談・助言、⑤退院後の生活に係る関係機関と の連絡・調整

〈精神障害者地域移行支援特別対策事業〉

・  受け入れ条件が整えば退院可能な精神障害者 の退院支援や地域生活支援を行う地域移行推

進員(自立支援員)の指定相談支援事業者等 へ配置するとともに、精神障害者の退院促進 及び地域定着に必要な体制整備の総合調整を 促進する地域体制整備コーディネーターを配 置することにより、精神障害者の地域生活へ の移行を着実に推進する事業

〈精神障害者地域移行・地域定着支援事業〉

・  精神障害者が住み慣れた地域を拠点とし、本 人の意向に即して、本人が充実した生活を送 ることができるよう、関係機関の連携の下 で、医療、福祉等の支援を行うという観点か ら、統合失調症を始めとする入院患者の減少 及び地域生活への移行に向けた支援並びに地 域生活を継続するための支援を推進する

その後、2014 (平成 26) 年度からは、都道府 県地域生活支援事業の「精神障害者地域生活支 援広域調整等事業」の中で実施され、2015 (平 成 27)・2016 (平成 28) 年度には、「長期入院精 神障害者の地域移行総合的推進体制検証事業」

の実施、2017 (平成 29) 年2月に、「これから の精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」

が報告書を公表、この報告を受けて、2017 (平 成 29) 年度から、「精神障害にも対応した地域 包括ケアシステムの構築」に向けた新規事業等 の実施、2018 (平成 30) 年度から、精神障害に も対応した地域包括ケアシステムの構築推進 事業は、都道府県地域生活支援促進事業に位 置付けられることになった。また、2018 (平成 30) 年度には、地域移行に関する通知改正が行 われ、入院期間に関わらず障害福祉サービスに おける地域移行支援の対象であることが明確化 された。

〈これからの精神保健医療福祉のあり方に関す る検討会報告書〉

1.新たな地域精神保健医療体制のあり方につ いて

⑴ 精神障害にも対応した地域包括ケアシス テムの構築

(5)

⑵ 多様な精神疾患等に対応できる医療連携 体制の構築

⑶ 精神病床のさらなる機能分化 2.医療保護入院制度について

3.措置入院制度に係る医療等の充実について

⑴ 措置入院に係る手続及び関係機関等の協 力の推進

⑵ 措置入院中の診療内容の充実

⑶ 措置入院者の退院後の医療等の継続支援 4.精神保健指定医の指定のあり方について

〈精神障害にも対応した地域包括ケアシステム の構築〉

1.精神障害者が、地域の一員として安心して 自分らしい暮らしをすることができるよう、

医療、障害福祉・介護、住まい、社会参加

(就労)、地域の助け合い、教育が包括的に確 保された地域包括ケアシステムの構築を目指 す必要

2.精神障害にも対応した地域包括ケアシステ ムの構築にあたっては、計画的に地域の基盤 を整備するとともに、市町村や障害福祉・介 護事業者が、精神障害の程度によらず地域生 活に関する相談に対応出来るように、圏域ご との保健・医療・福祉関係者による協議の場 を通じて、精神科医療機関、その他の医療機 関、地域援助事業者、市町村などとの重層的 な連携による支援体制を構築していくことが 必要

4 障害者総合支援法における地域移行・

地域定着支援

2010 (平成 22) 年 12 月、「障がい者制度改革 推進本部等における検討を踏まえて障害保健福 祉施策を見直すまでの間において障害者等の地 域生活を支援するための関係法律の整備に関 する法律」が制定されたことに伴い、2012 (平 成 24) 年4月、障害者自立支援法が改正施行さ れた。この法改正では、相談支援の充実が掲げ られ、基幹相談支援センターを設置できること や自立支援協議会を設置するよう努めなければ

ならいことなどが規定され、さらに、地域移行 及び地域定着のための相談支援として、障害者 支援施設等の福祉施設に入所している障害者や 精神科病院に入院している精神障害者等に関す る「地域相談支援(地域移行支援と地域定着支 援)」が個別給付事業として創設された。

〈地域移行支援〉

・  障害者支援施設に入所している障害者または 精神科病院に入院している精神障害者等に対 して、利用者が地域において自立した日常生 活または社会生活を営むことができるよう、

当該利用者につき、住居の確保その他の地域 生活に移行するための活動に関する相談その 他の必要な支援を行う

〈地域定着支援〉

・  居宅において単身等で生活している障害者 に、利用者が自立した日常生活または社会生 活を営むことができるよう、常時の連絡体制 を確保し、障害の特性に起因して生じた緊急 の事態等に相談やその他の必要な支援を行う

また、2012 (平成 24) 年6月には、「地域社 会における共生の実現に向けて新たな障害保健 福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関す る法律」が制定され、「障害者自立支援法」の 名称が「障害者の日常生活及び社会生活を総合 的に支援するための法律(障害者総合支援法)」

に変更され、相談支援については、前述した 2012 (平成 24) 年に施行された改正障害者自立 支援法の内容が引き継がれることになった。

5 精神保健福祉士と高齢入院精神障害者 支援

精神科病院等に勤務する精神保健福祉士14)

においては、精神科病院に長期に渡り入院して いる精神障害者に関する退院促進の取り組み は、長年に渡り意欲的にその役割を院内外関係 者と連携しながら進めてきた。また、精神保健 福祉士の職能団体である公益社団法人日本精神

(6)

保健福祉士協会15)は、やはり長年にわたり社 会的入院、地域移行等に関心を抱き、精力的に 調査研究活動等を行い、その結果を成果物・報 告書等という形で提示している。

具体的には、2005 (平成 17) 年3月『社会的 入院の解消に向けて 精神医療委員会報告』、

2007 (平成 19) 年3月『精神障害者の退院促進 支援事業の手引き』、『精神障害者退院促進支援 事業の効果及び有効なシステム、ツール等に関 する調査研究 報告書』、2008 (平成 20) 年3 月『精神障害者の地域移行支援~事例調査報 告からみる取り組みのポイント~』、2014 (平 成 26) 年 10 月『高齢入院精神障害者の地域 移行支援に関する現状と課題─第1版─』、

2016 (平成 28) 年6月『高齢入院精神障害者の 地域移行支援に関する現状と課題─第2版─』

等である。

そこで、以下、『高齢入院精神障害者の地域 移行支援に関する現状と課題─第1版─』 16) 中から、高齢入院精神障害者の実態像の一部を 要約してみる。

①入院患者の基本特性

前 期 高 齢 者 は 69.5% と 全 体 の 7 割 近 く で、男女比は半々、主診断名は統合失調症が 80% 近くを占め、入院患者の 50% 以上が 30 歳までに精神疾患(統合失調症)を発症し、

通算入院期間が 30 年以上あるものが 36.9%

であった。

②入院生活や退院に関する協力者

入院生活や退院に関する協力者がいる入院 患者は8割以上で、その続柄は「兄弟姉妹」

が半数に及んでいる。協力者である「兄弟姉 妹」も入院患者と同様に高齢化している。

③障害者手帳の取得

障害者手帳の取得については、「有」が 186 名(34.2%)で、そのうち、障害者手帳

「有」の種類は、精神障害者保健福祉手帳が、

148 名(81.8%)であった。

④退院希望

入院患者全体の約 40% が退院を希望して いたものの(ADLなどの能力もそれほど低

いものではない)、入院期間が 10 年を超える とその割合は低下する傾向がみられ、入院の 長期化や保護的な接遇並びに閉鎖的な生活環 境が入院患者の退院希望や地域移行に必要な 生活能力の低下をもたらす危険性があること が推測される。

⑤高齢化への配慮

高齢化率が 30% を超えている精神科病院 は約半数を占めており、入院患者の高齢化に 伴う対応が不可欠であり、入院患者の地域移 行においても、高齢化を考慮した取り組みが 必要といえる。

⑥地域移行支援事業の取り組み

地域移行支援事業の利用の有無については 7割近くが「有」と回答しており、地域移行 に向けた取り組みについては、精神保健福祉 士の役割が重要視されている。

6 精神科病院と高齢入院精神障害者 わが国の精神科病院における病床数等は、

2018(平成 30)年の「630 調査」(厚生労働省  精神保健福祉資料 毎年6月 30 日時点にて 行われている全国調査)によると、精神科病院 数 1,612 施設、精神病床数 327,369 床、在院患 者数 280,815 人、統合失調症・統合失調症型障 害及び妄想性障害患者数 149,972 人、65 歳以上 75 歳未満の在院患者数 71,633 人、75 歳以上の 在院患者数 95,319 人、となっている。

さて、入手可能なこれまで報告された精神保 健福祉関係資料等に基づき、精神科病院に入院 している高齢精神障害者の概要を要約してみる。

先ずは、2012 (平成 24) 年6月時点の厚生 労働省の精神保健福祉資料及び患者調査によ ると、精神病床数約 33.8 万床、在院患者数約 30.2 万人、診断別では統合失調症圏が 57.4%、

精神科病院の入院患者のうち約 51.5% が 65 歳 以 上、 入 院 期 間 20 年 以 上 3.3 万 人(11.0%)、

10 年以上 6.7 万人(22.2%)等、多数の高齢長 期在院患者が入院を継続していることがうかが える。

次に、2014 (平成 26) 年3月 28 日の厚生労

(7)

働省「第8回精神障害者に対する医療の提供を 確保するための指針等に関する検討会」資料4 の「長期入院精神障害者をめぐる現状」 17)によ ると、

①住居・支援がないため退院困難な 65 歳以上 の群の想定される退院先

 ・介護保険サービスによる入所施設   援助の必要性が高い群(53.1%)

  援助の必要性が低い群(44.5%)

 ・障害福祉サービスによる入所施設   援助の必要性が高い群(29.7%)

  援助の必要性が低い群(33.3%)

②住居・支援がないため退院困難な 65 歳以上 の群が1年以内に退院出来なかった主な理由  ・家庭内調整のため

  援助の必要性が高い群(23.2%)

  援助の必要性が低い群(31.6%)

 ・受け入れ先確保困難のため   援助の必要性が高い群(21.0%)

  援助の必要性が低い群(19.6%)

③住居・支援がないため退院困難な 65 歳以上 の群の必要とされる医療サービス

 ・通院医療

  援助の必要性が高い群(29.1%)

  援助の必要性が低い群(32.0%)

 ・訪問看護等

  援助の必要性が高い群(23.5%)

  援助の必要性が低い群(24.0%)

 ・身体合併症に対応する精神科医   援助の必要性が高い群(12.4%)

  援助の必要性が低い群(7.3%)

④住居・支援がないため退院困難な 65 歳以上 の群の必要とされる障害福祉サービス  ・施設入所支援

  援助の必要性が高い群(21.9%)

  援助の必要性が低い群(16.9%)

となっている。

さらに、2017 (平成 29) 年の厚生労働省の患 者調査によると、わが国の精神疾患を有する総 患者数は、約 419.3 万人(入院患者数:約 30.2 万人、外来患者数:約 389.1 万人)へと急激な

増加が続いており、400 万人を超える水準と なっている。精神疾患を有する外来患者数は、

2002 (平成 14) 年と比べると約 1.7 倍に増加し ており、疾患別にみると、特に認知症(アルツ ハイマー病)が約 7.3 倍と増加割合が顕著であ り、年齢階級別では、後期高齢者の増加が顕著 で、約 3.2 倍に増加している。また、精神疾患 を有する入院患者数は、2002 (平成 14) 年と比 べると約9割に減少しているが、疾病別にみる と、認知症(アルツハイマー病)が約 2.6 倍に 増加している。年齢階級別では、後期高齢者 の入院患者数は、約 1.4 倍と顕著であり、精神 病床で見てみると、2017 (平成 29) 年6月時点 で約 28.4 万人(平成 29 年厚生労働省精神保健 福祉資料)が入院しており、入院患者数は徐々 に減少傾向を示しており、1年以上入院患者が 約 17 万人、5年以上の入院患者が約9万人で、

1年以上長期入院患者が全体の半数以上を占め ている。

以上の資料から言えることは、精神科病院に 入院加療している精神疾患を有する入院患者の 中には、長期に渡り入院加療を続け、その結 果、高齢化している高齢入院精神障害者が多数 おり、地域の受け皿がさらに整えば、退院の可 能性があることがうかがえる。

7 養護老人ホームに関する主な法制度の 変遷

わが国で初めて「養老院」という名称を用い た高齢者福祉施設が設置されたのは、聖ヒルダ 養老院(1895 年)、名古屋養老院(1901 年)、

大阪養老院(1902 年)等であり、その後、「救 護法」の制定(1929 年制定、1932 年施行)に より、養老院は救護法に基づく救護施設として 初めて国の制度上に明文化され、公的費用とし て施設運営費が給付されるようになった。

戦後は、1950 (昭和 25) 年に「生活保護法」

が制定され、戦前の養老院が養老施設として生 活保護法に基づく保護施設の一つとして位置づ けられた。さらに、1963 (昭和 38) 年に「老人 福祉法」が制定されたことにより、養老施設が

(8)

養護老人ホームとして老人福祉法に基づく老人 福祉施設(養護老人ホーム・特別養護老人ホー ム・軽費老人ホーム)の一つとして位置づけら れ、1966 (昭和 41) 年には、「養護老人ホーム 及び特別養護老人ホームの設備及び運営に関す る基準」が施行された。

〈老人福祉法第 11 条第1項第1号〉

「65 歳以上の者であって、身体上又は精神上 又は環境上の理由及び経済的理由(政令で定め るものに限る。)により、居宅において養護を 受けることが困難なものを当該市町村の設置す る養護老人ホームに入所させ、又は当該市町村 以外の者の設置する養護老人ホームに入所の委 託をすること」

〈老人福祉法第 20 条の4〉

「養護老人ホームは、第十一条第一項第一号 の措置に係る者を入所させ、養護することを目 的とする施設とする。」

〈養護老人ホーム及び特別養護老人ホームの設 備及び運営に関する基準第2条〉(基本方針)

「養護老人ホーム及び特別養護老人ホーム

(以下「老人ホーム」という。)は、被収容者に 対し、建全な環境のもとで、社会福祉事業に関 する熱意及び能力を有する職員による適切な処 遇を行うよう努めなければならない。」

その後、1990 (平成2) 年の老人福祉法改正 では、養護老人ホーム及び特別養護老人ホー ムの措置権(入所決定等)が市町村に移譲、

2005 (平成 17) 年の介護保険法改正では、「外 部サービス利用型特定施設入居者生活介護」の 指定を受けることが出来るようになった。ま た、同年の老人福祉法改正では、法第 11 条第 1項第1号の「身体上又は精神上又は」を削 除、法第 20 条の4に「その者が自立した日常 生活を営み、社会的活動に参加するために必要 な指導及び訓練その他の援助を行う」を追加、

2007 (平成 17) 年の「養護老人ホームの設備及

び運営に関する基準」の一部改正では、基本方 針、施設規模、居室の面積要件、職員の配置の 基準、居室の定員、等が変更された。

〈「養護老人ホームの設備及び運営に関する基 準」の一部改正〉

・基本方針(基準第2条)

「養護老人ホームは、入所者に対し、建全な 環境のもとで、社会福祉事業に関する熱意及び 能力を有する職員による適切な処遇を行うよう 努めなければならない。」から「養護老人ホー ムは入所者の処遇に関する計画(以下「処遇計 画」という。)に基づき、社会復帰の促進及び 自立のために必要な指導及び訓練その他の援助 を行うことにより、入所者がその有する能力に 応じ自立した日常生活を営むことができるよう にすることを目指すものでなければならない。」

へ変更

・  施設規模(基準第 10 条)

50 人以上から 20 人以上へ変更

・  居室の面積要件(基準第 11 条第 4 項第 1 号)

3.3 ㎡から 10.65 ㎡へ変更

・  職員の配置(基準第 12 条)

生活指導員から生活相談員へ名称変更、入所 者 30 人に1人の配置

介護職員から支援員へ名称変更、入所者 15 人に1人の配置、そのうち1人を主任支援員 とする

・  居室の入所人員(基準第 13 条)

原則2人以下から1人へ変更

・  生活相談員の責務(基準第 22 条)

「生活相談員は、処遇計画を作成し、それに 沿った支援が行われるよう必要な調整を行う ほか、次に掲げる業務を行わなければならな い。」として、入所者の居宅サービス等の利 用に際し、居宅介護支援事業又は介護予防事 業を行う者と密接な連携を図るほか、等の新 たな役割の追加

なお、2012 (平成 24) 年4月には、都道府県

(政令市、中核市を含む)は、厚生労省令を参

(9)

考にしつつ養護老人ホームの設置及び運営に関 する基準を条例で定めることになった、等とい う法制度の変遷を辿って今日に至っている。

〈老人福祉法第 17 条第1項〉

「都道府県は、養護老人ホーム及び特別養護 老人ホームの設備及び運営について、条例で基 準を定めなければならない。」

8 養護老人ホームと高齢精神障害者 養護老人ホームは、その施設の性格上、長年 にわたって、これまで生活問題や生活課題を抱 え地域社会で支えることの困難な援護を要する 高齢者を受け入れ、入所者それぞれの個別性を 尊重してその生活を支援してきた。

入所者の中には、精神科病院に長期入院後の 退院者も含まれ、積極的に高齢精神障害者を受 け入れている養護老人ホームも散見されてはい るが、その実態は十分に把握されていなかっ た。しかし、2013 (平成 25) 年9月に『社会的 に困窮・孤立する高齢者を支援するための老人 福祉施設等の役割・あり方に関する調査研究事 業報告 養護老人ホームの現状と今後のあり方

~機能強化型養護老人ホームの提案~』(全国 社会福祉法人経営者協議会) 18)が報告されたこ とにより、精神科病院に長期入院後の退院者を 含む入所者(生活困窮高齢者等)の実態及びそ れらの入所者に対して養護老人ホーム等の老人 福祉施設が果たしている役割の現状と課題等が 明らかになった。

そこで、以下、調査研究事業報告の中の精神 疾患を有する高齢者に関する主な調査結果を要 約してみる。

①入所者の状況

 ・入所者に占める精神障害者保健福祉手帳取 得者の割合、7割の施設において精神障害 者保健福祉手帳取得者が入所しており、精 神障害者保健福祉手帳取得者が 10% 以上 いる施設は約 16% であった。

②精神疾患を有する高齢者に対する働きかけ  ・精神疾患を有する高齢者に対して、養護老

人ホームが高齢者の地域での受け皿(すま い)としての役割については、肯定的な回 答が約 8 割であり、また、地域への移行に 向けた「通過型施設」としての役割や相 談・生活支援等を行う役割については、肯 定的な回答が 6 割程度であった。

③今後の養護老人ホームのあり方

 ・精神疾患等の高齢者の受け皿としての役割 を果たすことが必要である。

 ・これまで、職員の配置基準の見直しや措置 費の減額があり、非常に厳しい職員配置と なっている。

 ・精神疾患等の高齢者の方で行き場のない人 の受け入れは、養護老人ホームがセーフ ティネット機能として受け入れ対応してい く必要があるが、処遇困難になるケースが 多く、少ない人員体制や、専門職がいない

(精神保健福祉士等専門職配置基準がない)

等、運営体制に課題がある。

④ヒアリング調査結果のまとめの要約

 ・精神疾患を有する高齢者等への支援につい ては、いずれも現状の基準通りの職員配置 では十分な支援が難しい状況があり、ま た、支援内容に応じた関係機関、専門職と の連携が必要である実態であった。

 ・精神疾患を有する高齢者に対しては、医療 機関との連携、職員に対する教育、服薬管 理などが重要であることが分かった。

 ・施設内に作業場を設け内職支援を行うこと により、精神疾患を有する高齢者の受け入 れが進んでいる施設も見られた。

以上のことから、社会的な役割として、精神 疾患を有する高齢者等を積極的に受け入れては いるが、医療機関等の関係機関と連携しながら も、限られた職員で入所者の個別性を重視しな がら困難を伴いながらも支援を行っている現状 がうかがえる。

9 全国老人ホーム基礎調査と精神障害者 公益社団法人全国老人福祉施設協議会では、

全国の高齢者福祉施設(特別養護老人ホーム、

(10)

養護老人ホーム、軽費老人ホーム・ケアハウ ス、デイサービス)のサービス内容や組織、実 績等の定点調査として、1977 (昭和 52) 年に第 1回調査実施以降、概ね5年に1回の頻度で基 礎調査を行っている。

そこで、第8回全国老人ホーム基礎調査報告 書(平成 25 年 12 月2日現在/平成 24 年度実 績)が、2015 (平成 27) 年7月に公表されたの で、その報告書の中の養護老人ホーム(762 施 設、実回収数:457 施設、実回収率 60.0%)に 関する主な調査結果について要約してみる。

①年齢階層別・男性入所者数(有効回答:7,742 人)

 ・ 「75 ~ 79 歳」(23.6%)、「80 ~ 84 歳」(21.5%)、

「70 ~ 74 歳」(20.4%)の順となっている。

②年齢階層別・女性入所者数(有効回答:16,776 人)

 ・ 「85 ~ 89 歳」(24.3%)、「80 ~ 84 歳」(21.4%)、

「90 ~ 94 歳」(19.6%)の順となっている。

③主な疾患別・入所者数(有効回答:417 施設)

 ・ 「高血圧症」(28.5 人)、「心疾患」(11.8 人)、

「うつ・躁うつ以外の精神疾患」(11.6 人)

の順となっている。

④平成 24 年度 1 年間、入院した入所者の診療 科目別延べ人数(有効回答:402 施設)

 ・ 「内科」(15.6 人)、「外科」(4.1 人)、「その他」

(3.1 人)、「精神科」(2.5 人)の順となってい る。

⑤平均入所年数(有効回答:457 施設)

 ・ 「5年」(27.8%)、「6年」(27.6%)、「7年」

(13.1%)の順となっている。

⑥入所前の居場所(有効回答:23,351 人)

 ・ 「自宅」(61.2%)、「子ども・親族の家」(8.9%)、

「病院・診療所【精神】(入院)」(7.0%)の順 となっている。

⑦退所の主な理由別人数(有効回答:3,896 人)

 ・ 「死亡(入院中)」(38.1%)、「医療機関【一般

(入院)】」(17.7%)、「他の社会福祉施設等へ」

(17.0%)の順となっている。また、「医療機 関【精神】(入院)」(3.4%)であった。

⑧協力病院等の診療科目(有効回答:457 施設)

 ・ 「内科」(91.7%)、「外科」(60.0%)、「歯科」

(57.1%)、「精神科」(42.5%)「眼科」(38.7%)、

「皮膚科」(35.4%)の順となっている。

⑨職員以外の精神科医との連携の有無

 ・ 「あり」(54.9%)、「未定」(37.0%)の順と なっている。

以上の基礎調査報告書からは、高齢入院精神 障害者の地域移行の受け入れ先の一つとしての 役割を果たしているのが養護老人ホームであ り、精神科病院や精神科医との連携を通して、

入所している高齢精神障害者の支援を行ってい ることがうかがえる。

10 養護老人ホームの聞き取り調査結果の 概要

2か所の養護老人ホームではあるが、K県H 市及びK市に所在するH養護老人ホームと養護 老人ホームK園に赴き、入所している高齢精神 障害者の支援の実際等に関する聞き取り調査を 行ったので、その結果の概要を述べてみる。

〈H養護老人ホーム:2019.9.3 訪問〉

①入所している高齢精神障害者について 現在(2019.8.1)の入所者 91 名(定員:100 名)のうち、認知症を除く精神疾患を有する入 所者は 33 名、主な精神疾患の病名は、統合失 調症 21 名(その他、うつ病、不安神経症等)

であり、33 名のうち精神科病院からの入所者 が 2/3 を占めている。ここ 10 年、高齢精神障 害者の入所の依頼は比較的多いと感じるが、施 設見学や一時入所(体験入所)等を通して施設 利用に結び付けている。入所後は、各自、個室 での生活だが、長年、精神科病院に入院して受 動的な病棟生活を送っていた結果なのか、本人 の意思を尊重する自由度の比較的高い養護老人 ホームという生活環境に慣れるまでには時間が かかるが、日常の生活支援を通して、新たな生 活環境に慣れ親しんでもらっている。他の入所 者とは、上手に付き合っている場面が有った り、時にはトラブルが有ったり、大変こだわり が強い場面があったり等で、日頃の些細な支援

(11)

についても、対応に苦慮することがある。

精神科病院等(往診、外来通院等)とは、有 機的な連携を図り、情報を共有しながら、精神 疾患を有する入所者の日頃の支援の実践に生か している。

なお、精神疾患を有する入所者の主な退去の 理由としては、内科的疾患等により医療機関に 入院し死亡、精神疾患の増悪により精神科病院 に入院、等が上げられる。

②精神疾患を有する入所者に対する日常での主 な働きかけについて

入所時の情報や面談等である程度の日常生活 能力や人間関係能力等を見極め、必要に応じて 支援を行っている。特に、普段の様子を細かく 観察し、精神症状の変化等を把握し、出来るだ け声をかけるようにしている。

③日常の支援で困っていることについて

〈エピソード-1〉

特に無為自閉的な生活を送る精神疾患を有す る入所者の中には、自分の症状を的確に訴える ことが出来ず、負傷して出血していても何も訴 えなかったり、高熱があっても不調を訴えない 場合等がある反面、支援員等から「痛いです か?」と問うと、即座に「痛」いと返答するこ ともある。

〈エピソード-2〉

精神科病院では閉鎖病棟に長く入院してい て、その後、養護老人ホームに入所すると、日 常の生活が急激に開放的になり、自由行動に制 止が効かなくなったり等で、その結果、施設内 のルールを守れなかったり、イライラしたり、

大声を出したりすることがある。

〈エピソード-3〉

居室(個室)内に荷物を溜めこみ、ゴミ屋敷 状態が常態化している入所者もいる。荷物の中 身は、賞味期限切れの食品、雑貨、洗濯してい ない衣類等で、様々なものが全てティッシュで 包まれ、さらに、幾重にも輪ゴムでくくられて いる。職員の居室内の介入を拒むが、不衛生で 異臭もあるので、何度も本人とやり取りしなが ら、ゴミと必要な荷物の分別を本人と一つ一つ

確認しながら片づけている。

上記に上げたエピソードとは別のエピソード もまだあり、それぞれ個別対応を行っている が、普段の施設内では、日常の「些細な出来 事」(職員側の話を聞いてもらえない、施設内 のルールを守ってもらえない、注意の仕方が難 しい等)に対して、一つ一つ苦慮しながらも 日々対応しているのが現状である。

〈養護老人ホームK園:2019.9.9 訪問〉

①入所している高齢精神障害者について 現在(2019.9.1)の入所者 115 名(定員:130 名)のうち、認知症を除く精神疾患を有する入 所者は 23 名(60 歳後半から 90 歳後半と比較 的年齢巾が広い)、主な精神疾患の病名は、統 合失調症 12 名(その他、うつ病、不安神経症 等)であり、23 名のうち精神科病院からの入 所者が約半数を占めている(その他、在宅生活 していて経済的困窮、単身生活が不安等の理由 での入所者も約半数いる)。高齢精神障害者の 入所の依頼は特に多いとは感じない。その理由 は、養護老人ホームが高齢精神障害者の受け入 れの役割を果たしていることが地域の関係者等 に周知されていないか、あるいは、措置施設な ので、措置機関としての地方自治体の考え方等 にも影響しているかもしれない。入所後は、二 人部屋での生活だが、精神疾患を有する入所者 と他の入所者とは、特段違いはなく、自由度の 比較的高い養護老人ホームという生活環境に慣 れるように、日課を通して日常の生活支援を 行っている。他の入所者とは、特にトラブルは ないが、関係は希薄で、どちらかというと一人 で過ごしている場面が多く見受けられ、対応に 苦慮することはあまりない。

精神科病院等(往診等)とは、有機的な連携 を図り、情報を共有しながら、精神疾患を有す る入所者の日頃の支援の実践に生かしている。

なお、精神疾患を有する入所者の主な退去の 理由としては、要介護状態となり介護度が上が り特別養護老人ホームに入所、内科的疾患等に より医療機関に入院し死亡等、が上げられる。

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②精神疾患を有する入所者に対する日常での主 な働きかけについて

他の入所者と同様に必要に応じて支援を行っ ている。限られた職員体制なので、支援職員の 仕事が介護を要する入所者等の日頃の支援に時 間が割かれ、精神疾患を有する入所者で特に問 題がないと、なかなか関わりを持つことが出来 ていないのが現状ではあるが、それでも、普段 の様子を観察し、出来るだけ声をかけるように 努力している。

③日常の支援で困っていることについて 精神疾患を有する入所者だからということで 特段のエピソードもなく、他の入所者と同様に 一人ひとりの個性を尊重しながら、支援を行っ ている。

上記に上げた2か所の養護老人ホームではあ るが、それぞれの施設に赴き、事前に質問事項 を送付し、訪問当日、高齢精神障害者の日頃の 支援の実際等を担当者から直接聞き取ることが 出来た。聞き取り調査の結果を整理して要約し てみると、以下の通りとなる。

1)高齢入院精神障害者の退院後及び在宅生活 をしている高齢精神障害者の地域の受け皿

(すまい)の一つとして養護老人ホームがそ の役割を果たしている

2)高齢精神障害者の入所について、養護老人 ホームは、肯定的である

3)養護老人ホームの入所者のうち高齢精神障 害者の占める割合が比較的高くなっている 4)高齢精神障害者の日頃の支援について  ①他の入所者とトラブルもなく、穏やかに一

人で静かに過ごしている入所者に対して は、支援が大変だという実感はあまりない  ②精神科病院という保護的環境下での入院長 期化の影響や精神疾患等に基づくものと思 われる入所者の施設内での過ごし方で、支 援に苦慮する場面が見受けられる入所者も いる

 ③精神科病院や精神科医とは、常日頃、連携 を取り合って助言を受け、その内容を入所 者の支援の実践に生かしている

 ④精神疾患だけではなく、内科的疾患を有す る入所者もいるので、精神科医療を含めた 医療全般の支援を行えるように対応してい

 ⑤高齢精神障害者の特性に配慮した支援を 行ってはいるが、限られた支援職員体制な ので時には対応に苦慮する場面もある

おわりに

変貌を遂げつつある精神保健医療福祉領域の 中で、いくつかある喫緊の課題の一つが、高齢 入院精神障害者の地域移行及び地域生活支援で はあるが、高齢入院精神障害者及び地域生活を 行っている高齢精神障害者の地域の受け入れ先 の一つとしてこれまで長年に渡り、それぞれの 地域においてその役割を担ってきたのが養護老 人ホームであった。

この度、高齢入院精神障害者の地域移行等に 関するいくつかの報告書等の文献を概観し、そ して、2か所ではあるが養護老人ホームに赴 き、高齢精神障害者の支援の実際等に関する聞 き取り調査を行う機会を得た。

その結果、養護老人ホームは高齢精神障害者 の受け入れに肯定的であり、それぞれの施設で 支援の実践を積み重ねていること、また、高齢 入院精神障害者の地域移行を進めるためには、

精神科病院や地域支援事業者等の関係者並びに 自治体を含めた地域精神保健医療福祉の一体的 な取り組みの推進が必要であることが分かった。

なお、養護老人ホームに入所している高齢精 神障害者の支援の実際等に関する聞き取り調査 の結果から、以下の3点を提案してみたい。

①限られた支援職員体制でも様々な工夫をこら している支援の実際等を、養護老人ホーム間 で共有化を図ること

②これまで精神障害者の地域生活を支えてきた グループホーム(旧精神障害者地域生活援助 事業、現共同生活援助)や地域活動支援セン ター(旧精神障害者小規模作業所、精神障害 者地域生活支援センター)等との連携を深 め、それらが長年積み上げられてきた支援の

(13)

知見を養護老人ホームの支援に生かしてみる こと

③高齢精神障害者の地域移行や地域定着支援に 関心を抱いている各種関係者に、養護老人 ホームにおける高齢精神障害者の支援の実践 を熟知してもらえるように、様々な方法を用 いて周知化を図ることを養護老人ホーム側が もっと発信すること

今回は、2か所の養護老人ホームへの聞き取 り調査を実施したが、今後は、さらに調査対象 を増やし、そこから得られた調査結果の精緻な 分析を通して、高齢精神障害者の地域生活を支 えるひとつの受け皿(すまい)として養護老人 ホームがますますその機能や役割を果たせられ るようにするためにはどのような方策等を講じ ればよいのか提案してみたい。

謝辞

本稿を執筆するにあたって、K県H市及びK 市に所在するH養護老人ホームと養護老人ホー ムK園に赴き、入所している高齢精神障害者の 支援の実際等に関する聞き取り調査を行った が、当日は、ご多忙にもかかわらず、施設長並 びに関係者の方々から大変貴重な多くの情報を 得ることができましたこと、ここに改めて感謝 申し上げたい。

   

註       

1) 斎藤知之・勝瀬大海・平安良雄「医学的側面から みた精神障害者の高齢化」『精神科臨床サービス』 

「特集 統合失調症をもつ高齢者への医療と生活 支援」第 14 巻1号 2014 年1月 星和書店 2) 精神病者監護法は、①精神障害者の監護義務者を

定めること、監護義務者がいない場合等は、住所 所在地の市町村長が監護の義務を負うこと、②精 神障害者を私宅、精神科病院等に監置するには、

医師の診断書を添えて、警察署を経て地方長官に 願い出て許可を得ること、③行政官庁に監置を監 督する権限を与えること、④監護に要する費用 は、被監護者が負担すること、被監護者にその能

力がない時は、扶養義務者が負担すること、等を 骨子としていた。

3) 精神病院法は、①内務大臣が道府県に公立精神科 病院の設置を命じることができること、②地方長 官が精神障害者を入院させることが出来ること、

③精神科病院に対して、建築・設備費の2分の 1、運営費の6分の1を国庫から補助すること、

等を骨子としていた。

4) 精神衛生法は、「精神障害者等の医療及び保護を 行い、且つ、その発生の予防に努めることによっ て、国民の精神的健康の保持及び向上を図る」こ とを目的とし、法の内容としては、①精神科病院 設置を都道府県に義務付けたこと、②長期拘束を 要する精神障害者の精神科病院等施設外収容の禁 止と私宅監置制度の廃止を設けたこと、③精神衛 生相談所や訪問指導の規定が設けられたこと、④ 精神衛生審議会が新設されたこと、⑤精神衛生鑑 定医制度が新設されたこと、⑥保護義務者制度が 新設されたこと、⑦都道府県知事の命令による入 院となる措置入院制度が新設されたこと、⑧保護 義務者の同意を得て入院する医療保護入院が新設 されたこと、等が特徴であった。

5) 精神保健法は、「精神障害者等の医療及び保護を 行い、その社会復帰を促進し、並びにその発生の 予防その他国民の精神的健康の保持及び増進に努 めることによって、精神障害者等の福祉の増進及 び国民の精神保健の向上を図ること」を目的と し、法の内容としては、①任意入院制度を設けた こと、②入院時等における書面による権利等の告 知制度を設けたこと、③精神衛生鑑定医制度を精 神保健指定医制度に改めたこと、④精神医療審査 会制度を設けたこと、⑤応急入院制度を設けたこ と、⑥精神科病院に対する厚生大臣等による報告 徴収・改善命令に関する規定を設けたこと、⑦精 神障害者社会復帰施設に関する規定を設けたこ と、等であった。

6) 1993 (平成5) 年 12 月に、新たに「障害者基本 法」が制定され、障害の範囲に、精神障害が明確 に位置づけられ、精神障害を含めた障害者対策 が、保健、医療、福祉、教育、就労、年金・手 当、住宅、公共施設・交通機関の利用等に関し て、総合的に推進されることとなった。

7) 1947 (昭和 22) 年に制定された「保健所法」が 1994 (平成6) 年に改正され「地域保健法」と名 称の変更がなされた。地域保健対策の推進に関す る基本指針、保健所の設置その他地域保健対策の 推進に関し基本となる事項を定めることにより、

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