Jane Eyre試論―Janeの愛をめぐる 葛藤の ドラマ を中心に して
大 平 栄 子
CharlotteBronte(1816‑1855)は, ・JaneEyre(1847)において,厳 しい 倫理感を持ち,独立 した意志 と自由を求めて生きる誇 り高い女性であるJane が,狂人を妻にもつ男性Rochesterと激 しい恋に陥るというplotを設定 し,
Janeが愛を成就するために経験 した内的葛藤の ドラマを展開 している。確か に,作者はJaneの葛藤を通 して 「愛」と 「義務」との対立という問題を追求 し ているが
,
「愛」の障害は 「義務」だけとは限 らないので はないかと筆者は考 え る1
.そ もそ も 「義務」 とは何を表 わ しているのか. この点について考えな が らJaneの内的葛藤を構成 しているものは本当は何であるのか,その葛藤は どのような形で解消 されているかについて探 ってみたい。さらに,作者の意図 した 「愛」 と愛を障むものとの和解の方法が成功 していると言えるかという点 についても検討 してみたい。JaneEyreは家庭教師として住み込んだ家数の主人であるRochesterに恋を し,.やがて求婚 されるが,結婚式の当日になって彼に狂 ってはいるがれ っきと した妻がいることがわかる. Janeの葛藤が蛾烈を極めるのはRochesterに妻 がいるという秘密が暴露 されたこの時である. Janelは 「理性」の声に従って Rochesterのもとを離れるべきだと自分に言いさかせるが,Rochesterへの思 い を容易には断ち切ることができない。Rochesterの止まるよ うに との懇 願 に 対 し,Janeの 「良心」と 「理性」が愛す る気持 ちにおぼれ感情 の民 にはま ることを戒めるが, ともすれば狂気の如 くわめ く 「感情」にJaneは揺 さぶ ら れる。このようにJaneの心の中では 「感情」 と 「理性」との 「血みどろの戦
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い」(p.342)が繰 り広げられ, Janeは 「血管に火が駆けめ ぐる」(p.344)よ うな状態を体験する。しかし,やがてこのような状態も Janeは̀quiteinsane'
(p.344)であると判断 し,精神がこのように異常ではなか った時に受けいれ た 「法律J.「道徳」を守ろうと決意す る2.一体 Janeにとって 「法律
」 ,
「道徳」 とはどのような意味を もつ ものであろうか。次のようにJaneは述べている。‑Icareformyself・Thenor?solitary,themorefriendless,themoreunsus‑ tainedIam,themoreI・willrespectmyself・IwillkeeF!thelaw given byGod;sanctionedbymanIwillholdtotheprinciplesreceivedbyme whenlwassane,andnotmad‑ aslam now.…'(p.344)
Janeの言 う 「道徳
」
「法律」とは,「神によって与え られ,人間 によ って認め られた」 ものであ り,なによりも 「わたしが受けいれ」その価値を信 じてきた ものである。注目したいのはこの最後の点,Janeが受け入れ信 じてきたとい うことと. ̀Icarerormyselr . …
Iwillrespectmyselr'という主張との関係 である。 これは何を意味す るか。 Janeにとっては自らが信 じ,守ることによ って自己を支えてきた 「道徳」を破ることは,神の錠や社会の道徳律を無視する ことになるだけでな く,なによりもまず, 自分自身に背 くことになるというこ を示唆 している。「自分が大事」であるか らこそ,自分 が信 じて きた 「道徳」を守るべきであるというJaneの主張は,自らが信 じてきた 「道徳」を破る, すなわ ち
,
「信念」 を守 ることがで きなければ人 間の尊厳 は損なわれ ると Janeが考えていることを暗示 していると思われる。また, Janeは肉体的に無気力になり,Rochesterの激情の炎にのまれそう になった時,̀mysoul'(p.344)「自分の魂」が失 われず にいる限 り,自分を ささえ支配することができるとほのめか しているが,それ ほとりもなおさず, Jane.が自己の魂を喪失す る程の危機に立たされていたということを意味する。
その時. Janeが ̀Icarerormyselr.I(p344)と言い
,
「道徳 」を守 ろ うと 決意す るわけである。従って,Janeにとって 「道徳」を守ることは「自分の魂」を見失 う危険を避けることに通 じるとも言える。では,Janeの言 う一mysoul'
とはいかなるものであろうか。
Janeは 「束縛 されぬ意志をもった自由な人間」(p.282)であ るとい う自 覚をもって生きようとしてきた。自由で独立 した意志をもち,人間として平等 の立場に立 ってはじめてRochesterの̀spirit'(p.281)にむかって話 しかける こともでき,愛することもできるとJaneは考えていた。 しか し,Rochester の家敷を出ようという決心がつかぬまま蛙悶 していたこの時, Janeの心は自 己の感情に強 く捕われており,情念に支配 され,精神の自由を失いかけていた。
また,後に,この時のことをふりかえってみてJaneは自分の意志を捨ててRocbester の激 しい感情の流れに身をまかせていた ら 「信念」を守れぬ誤ちを犯す ことに なったと述壌 している。 これ らのことを考えあわせると
,
「自分の魂」 を失 わ ずにいるということはこ 自らが自らの主人であるための自由と意志の力を持ち 続けることを意味する。従 って,
「道徳」 ,
「法律」を守ろうとJaneが必死になる理由は
,
「信念」を貫ぬ くことで自己の尊厳を守るということと,束 縛 され ない意志の力によって自己を支えようとしたか らである。Rochesterにとって は背いたか らといって誰 もそこなうことのない̀amerellumanlaw'i(p.343) であり,彼はそのような 「法律」にこだわるよりも,見捨て られた者の絶望が いかに深いか考えて くれとJaneに迫 るが,JaneにとってはそれはRochester の言 う 「単なる人間の法律」ではない。これまでみてきたように, Janeにとって 「法律」を守 るか守 らないかという問題はJane自身の肯定できる生き方 に根本的に関わる問題であることがわかる。 Janeの 「義務」感はRochester の もとを去 るべきであると命ずるが,それは自己の尊厳を守ろうとす る必死の
自己主張と密接な関係にある。
JaneはRochesterの激情に対 し自尊心によって最後まで抵抗し,それにうち 勝つ。 しか し, Janeにとって激情の炎にのまれまいとすること,それ以上 に 難か しいのは 「悲 しみ」に捕われないようにす ることであった。従っI,Jane はRochesterがJaneを失 って絶望 し.自暴 自棄にな り,身の破滅を招 くこと になりはしないかと恐れなが らも̀Ihaddaredandbaffledhisfury;Imust
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eludehissorrow:'(p.345)と述べているよ うに,Rochesterの悲 しみを直視 しそれに立ち向か うことを避けて しまうのである。このようにJaneは愛する 者の悲 しみか ら目をそ らす ことによって 自分を見失 う危険を避けることができ たと言える。 しか し,やがて, JaneはRochesterを見捨てたことへの激 しい 後悔の念に捕われる。
…
birdswerefaitbrultotheirmates;birdswereemblemsorlove.What wasI?InthemidstormypalmOrheartandfranticerrortofprinciple, Iabhorredmyself.Ihadnosolacefrom self‑approbation:noneeven from self‑respect.Ihadinjured‑wounded‑ leftmymaster・Iwashate‑ fulinmyowneyes.(p.348)Janeは 「道徳」■を守 ろうとした 「自分を称え」 ようと努めるが,慰め られる どころか,逆に Rochesterを傷つけ見捨てた自分を憎むことになると語ってい るが, この 自責の念 と自己嫌悪 にみちたJaneの ことばは次のことを示唆 して いると思われる. JaneがRochesterとの闘いで勝利をおさめたことはすでに一 述べたが,それが真に自己を肯定 し,誇れる自由な生 き方に通 じるよ うな勝利
で は ない ことをJane自身認めているということである。 自己喪失の瀬戸際 に立たされたJaneは,RoclleSterの「悲 しみ」への同情を自らに禁 じることによ
って,かろうじて自己を支えたにす ぎない。
Rochesterの情熱 に引きず られそ うになる自分を叱吃 し,ついに自己の信念 を守 りとお したIJaneではあるカミ そのために̀Imustrenounceloveandidol.'
(p.342)と述べているように, Janeは落ちた 「偶像」はもとよ り
,
「愛」 もTj:げ捨てざるをえない. しか し,そう決心 して■Thornfield館を出て間 もな く,あてもな くさ迷っている時,JaneはRochegterの悲惨な生活を救いたいと いう思いに胸ふ さがれる。次のようにJaneHま語 っている。Icouldgobackandbehiscomforter‑ hispride;hisredeemerfrom misr ery,perhapsfrom rllin.Oh,tllatrearOfhisself‑abandonment‑ far worsethanmyabandonment‑ howitgoadedme!(p.348)
後悔の念 とRochesterへの深い同情心が相挨って,激 しい感情の吐露するところ となっているが,Janeがここで,Rochesterの身の破滅が̀myabandonment' よりも悪いと述べていることは注 目に価す る。「自分 が大 事」と思 う心によっ てRochesterの苦 しみか ら遁れてきたJaneが,Rochesterを破滅か ら救 い た いという一心か ら 「自己放棄」も辞 さないという。また, Janeは読者に送る メッセージという形で自己放棄 と「愛」との関係について ̀.…nevermayyou, likeme,●dreadtobetheinstrumentofeviltowhatyouwhollylove.(p.348)
と述べている。「道徳」 という鎧に身をかためていたJaneに して は 「愛 す る 者のためIと悪の手先 となることを恐れた りしないように!」という過激なメッ セージは.唐突で多少 リアリティに欠けるきらいはあるが,ともか くも,愛する 者のために自ら汚れ,罪を背負うことも辞さない,と言える程徹底 した 「愛」 に ついての考え方が示 されている。 これは,自らを犠牲に しても愛する者を救お うとする勇気を持てなか ったJaneの自責の念の裏返 しで もある。
以上見てきたように
,
「愛」のために自尊心を捨てることも恐れ ない とい う 可能性を示すJaneのことばから,Janeの 「愛」についての考え方の変化を読 みとることができる。 しか し,・依然としてJaneの決心 ま変わらず,Rochester のもとへ戻 りたいという欲求は抑圧 される。Janeか 「自己放棄」(p.348)や,精神的に堕落することを極度に恐れる背景 には,すでに述べた,自由で独立 した意志を持つ人間をめざす,という積極的姿 勢の他に
,
「情熱」への恐れと不信 というものがあると思われる。Janeは婚約期間,Roehesterとの間に 「隔たり」(p,301)を保つことが真 の幸福につながると考え,Rochesterの感情の高まりに水をさし.愛情の表現 をできる限り避仇 常に冷静に対応しようと努める。なぜ,このような ̀reasonable check'(p.302)を しなければ幸福になれないとJaneは考えるのか。その理 由の一つは自分を見失 うことへの不安である。情緒に押 し流され,情熱の因に なって自己を見失 うことをJaneはたえず警戒 している。 しか し, それで も Jane'はRochesterという 「一人の人間」(p.302)に心を奪われ,ついには
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彼を偶像化するまでになる。 RochesterはJaneにとって 「全世界」どころか,
̀myhopeorheaven'「この世な らぬ至上の希望」(p.302)にな りつつあった。
それ程までにJaneの感情は高まる。それ程の力を もつ 「情熱」へ の恐 れが Janeにはみられる。
もう一つの理由は
,
「情熱」というもの‑の不信の念である。「高 ま ってきた 熱情の頂か ら冷却の奈落」(p.301)に落ちこむので はな いか とい う恐 れ が Janeを捕えているが,
「情熱」の移ろいやすさをJaneが強 く意識しているこ との証左である。 Janeの考えでは,
「情熱」は強烈な感情で はあ るが永続 し に くいものである。従 って,それは 「真実の愛情」とは区別 されるものである。JaneはRochesterの秘密を知 り 「偶像」が崩れ落 ちた時,彼 の愛 が Ireall laffection''r真実の愛情」(p.324)ではな く,̀fitfulpassion'「一 時的 な激 情」(p.324)ではなか ったかと疑い苦 しむ。また,lRochesterと別 れた後に, 彼の もとに留まっていた場合どのような生活になっていたかと想像をめ ぐらし ている時.Janeは次のように言 う。
Whichisbetter?‑Tohavesurrenderedtotemptation;listenedtopass‑ ion;
…
.tohavebeenmowlivinginFrance,MrRochester'smistress;de‑ liriouswithhislovehalfmytime‑ forhewould‑ oh,yes,hewould havelovedmewellforawhile.Hedidloveme一 moonewillevenlove mesoagain.(p.386)Rochesterが 「しばらくの問」・は十分愛 してくれるだろうというJaneのことばは,
‑Hedt'dloveme.'という発言同様,Rochesterの愛を.湧き起 こりいずれまた消 え去 る頼 りにな らない感情,激しくはあるが一時的な感情を主体とした,感覚的 な愛にすぎないのではないか,というJaneの懐疑心を含んだことばである。ま た,誘惑に身を任せ情熱のままになったRochesterとの 「夢幻の楽園」的生活 を 「虚妄の悦楽」(p.386)とJaneは言 うが,社会的に認 め られ ないために 虚妄であると考えているとも言えるが,それ以上に,移ろいやすい感情にしか 支え られない生活, しか も,その情熱に自己のすべてをかけ,やがて情熱の衰
えと共に崩壊せざるをえない生活であるか ら虚妄であるという含みが強いよう に思 う。
情熱への恐れと不信の念ゆえに, JaneはRochesterへの自然に湧き起 こる 自分の感情を抑え,一またRochesterの愛 も素直に受けとめることができないO この状態は,決 して自分の情念を自分で制御 していると言えるものではな く, む しろ,不安によって自分の愛する心を縛 りつけているという状態である。従 って,Janelには自分の 「愛」 もRochesterの 「愛」 も,情熱の嵐の狂暴 さにの み心を奪われ,自由な心でみつめることができない。Janeは,愛す る者を自らの 不等な計画によって傷つけた誤ちを認め,後悔 しているというRochesterの弁明 を聞き,真剣にIJaneへの思いを訴えるRochesterの姿を見て, Rochesterの
「愛」が単なる 「一時的な激情」にすぎないのではないかという疑いか ら一皮 は解放され,彼の中に 「不変の愛情」(p.326)が満ちていることを認め,彼の 誤ちを許そうとする。 しか し, Janeを引きとめようとするRochesterの熱意 の激 しさに必死で抵抗 しなければならないと考えているJaneは, Rochester が激情 にか られ,Janeの意志を無視 して支配 しようとしていると受 け とめ て しまうのである。Roehesterは,自分の身勝手な計画によって傷つけた相手が 必死に自己の自由を守ろうとしているのを見て, Janeの中の 「毅然 とした, はげ しい,自由なもの」を認めざるをえない。後になって,Rochesterの もと へ戻 った時Janeはこの時のことを反省 し次のように述べている。
Ishouldhavetoldhim myintention.Ishouldhaveconfidedinhim :he wouldneverhaveforcedmetobehismistress.Violentashehadseemed inIlisdespair,he,intruth,lovedmefartoowellandtootenderlytocon‑ stitutellimselrmytyrant:(p.465)
このことか らもわかるように,この時のJaneにはRochesterの激情 しかみえ ず,その情熱の流れにのまれてしまった者が辿る運命を‑Rochesterlのl̀mistress' になり 「虚妄の悦楽」に耽溺 し,後悔 と恥辱にまみれる生清一として しか措 く ことができない。従 って,Rochesterを心の底か ら信頼 しきることができなか
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ったわけである。
Rochesterに妻が生存 しているという秘密が明 らかにな り
,
「法律 」 と 「道徳」に従 って去 るべきであると命 じる自分の中の 「理性
」 ,
「良心」 ,
「意志」の声 と,Rochesterの もとに留まりたいと思 う 「感情」の対立にJaneは引き裂か れるが,
「理性」の声に従 って家敷を出ることになる。ここで 「愛」に対立する のは 「道徳」や自尊心だけではない。真実の 「愛」の確信を障げることによっ て 「愛」に対立 しているのは 「情熱」であ り,言い換えると,
「情熱」 の否定 的側面を軽蔑するあま り,逆にそれに巻き込まれふ りまわされる,そのような 状態か ら逃がれるために,自分の心を閉ざすJane自身の 「情熱」への消極的 姿勢である。 LRochesterの悲 しみを逃れることによって Janeは自己の 「信念」を守 り通 し,自分の義務を遂行 し, 自己を支えることができた。一皮は Thornrield▲に
戻って
,
「愛」を拒絶され絶望 していると思われるRochesterを慰 め,救 いた いと考えるが,その後 もJaneの心を占めているものは 「義務」の意識であり,「正 しいこと」(p.444)を しようとする意欲である。それが自然 に湧 き起 こ る感情を抑えつけ押 しこめて しま うのである。従 って,真実の 「愛」の成就の 障げとなっているのは 「情熱」と
,
「義務」という名の自尊心 との対 立である とみることもできる。しか し, Janeの自己の自然な感情を認めようとしない頑な姿勢は,◆st.John の 「愛」と 「義務」との内なる闘争に係わ ってゆ く中で変化 し,やがてJane は心を真実の愛に向けて解放することによって諸々の葛藤か ら解き放される。
それではまず, Jane■のRochesterへの燃えるような思いと 「義務」との葛藤 がどう展開するか,st.Johnの 「愛」 とイ義務」の葛藤に対す るJaneの反応 を通 してみてみよう。
Janeは;Thornfield館を無一文で出,放浪の末行 き倒 れて い る ところを St.Johnという牧師に救われ,彼 の家 に厄介になる。 Janeはうち砕かれた
「偶像」と失われた楽園に対 し哀惜の思いがあり平安を見出 しえない。そのよ
うなJaneをSt.Johnは 「人間的な愛情や同情」 (p.382)に強 く捉われていると見 抜 くOたそがれ時に,もの思いにふけるJaneは「束の間の狂暴な刺激」(p.380 をうち砕いたことを正 しか ったと思い
,
「道徳」 と 「法律」を 固 く守 り, 自由 な女教師 (Janeはこの時,村の小学校の教師として働いている)として生 きる 自分を幸福であると思 う。 しか し,そう思いなが ら自分が思 いがけず泣いてい ることに気づ くO別れたRochesterと二度 と会 うことのない運命を思い,また Rochesterが悲嘆に くれ 自暴 自棄にな り,正 しい道か ら離れ破滅に向 っている のではないかと思い涙を流 した Janeであるが,そう思 った時Janeは 「夕暮 れの美 しい空」
「寂 しいモー トンの谷間」(p.386)か ら顔 を そむける。 この行 為は・ Jaヮeが・Rochesterの不幸について も・ 自分の真実の感情について も真 正面か らみつめることができないことを示唆 している。また,夜 はRochester の夢を見,
「彼を愛 し,彼に愛 されて,死ぬまでそばです ご した い とい う願望 が最初のときの強力さと熱烈 さを もって新たによみがえ って くる。」(p.393) が,夢から目ざめたJaneはふ るえ,おののき,絶望にわなな く。 Janeの夢 に 対す る反応の意味す るところは,一つには,あまりに執粉で抑えがたい「感情」 のエネルギーの烈 しさを新ためて思い知 らされて樗然 としたとい うことであろう。「理性」が判断 し命ず る生活を送ろうと決意を固めて も,感情はJaneの意 志 とは無関係に襲いかか るものであることをJaneは自覚せざるをえない。
IJaneの側にはJaneとは異なる理由か らではあるが 自己の感悼,熱情 と闘 っている人間がいる。 St.Johnである。彼は oliver:嬢を狂串 しく,「初恋の 激 しさ」(p.399)をこめて愛 していると認めるが,一方で′亡の中から自然に湧き起こる
「人間らしい愛惜」(p.399)を善良な目的と「自己否定の若芽」(p.399)を腐 らせて しま う 「甘美な毒」(p.399)として否定する。 St.Johnは大きな目的を追 う ために 「小 さな人間の愛情」を忘れる, とJaneが見抜 いた よ うに, 絶 対 的
「神の愛」の観念に捕われすぎて
,
「絶対的愛」にまで昇華 しない人 間 的愛情 を蔑視す る。lSt.John'は彼女 との生活を夢想する時に味わった,心が喜びに満 ち,感覚は枕惚 となった瞬間を単なる錯乱 と妄想の瞬間 として唾棄する。Jane35
は初め, Oliverが真実 St.Johnlを愛 していると思い,彼に結婚をすすめる。
しか し, St.Johnは01iverUこ強 く魅かれなが らも,彼女が宣教師(St.John は宣教師の仕事を天職 と考え,インドへ渡 る計画をたてていた)の妻になりう る資質をもたず,彼の抱負に共感を抱 くこともできない相手であるか ら妻には 不適格であると考えていることを知 る。 St.Johnは自分の感情を押 し殺そう とするだけでな く,彼女の愛情をも空 しく偽 りの もので あ る と決 めつ ける。
Janeは St.Jolm が,愛を拒まれた101iverの失望や悲 しみに同情を寄せるこ とのないのを知 って冷淡だと感 じるが,彼が迷い悩み苦 しんでいることを見抜 く。このような St.Johnを見守っていくうちに,一皮は彼に01iverとの結 婚をすすめたJaneだが,彼が到底 「善良な夫」(p.418)になれ ない ことを 悟る。また,彼の 「愛 の性質」(p.418)をも理解す る。それが 「感覚的な愛」
(p.418)にすぎないことを。次のようにJaneは述べている。
…
Icomprehendedallatoncethathewouldhardlymakeagoodhusband;thatitwouldbeatryingthingtobehiswire.Iunderstood,asbyins‑ rpiration,thenatureofhisloveforMissOliver;Iagreedwithhim that itwasbutaloveofthesenses・icomprehendedhowheshould despise himselrfortllereVerishinfluenceitexcercisedoverhim ;howheshould wishtostifleanddestroyit;….(p.418)
「感覚的な愛」が熱病のような影響力をもつゆえに:その愛を抹殺 して しまいた いとSt.Johnが望んでいることを Janeは理解する。情念の奴隷 となること を恐れるあまり,彼は次か ら次へと̲「泉のようにわき起る」(p.399)人間ら しい愛情をすべて否定する。 JaneはISt.Johnの 01iverに対する態度をみ ていて,彼が 「義務」のみを考え人を愛することも愛されることを も拒否する, 人間的愛情や人情などに少 しも興味を持たない人間であることを知 る。また, lSt.Jobnが 「初恋の激 しさをこめて」.01iverを愛 していると言 って も,そ れはSt.Johnのように相手の悲 しみや苦 しみに関心をもたず,同情すること もない人間にも,いやおうなしに湧き起 こり心を捕えて しまう情念の矧 こすぎ
ないことをJane.は悟 るoそれが Janeの理解 した 「感覚的愛」の意味すると ころであろう。
自分の 「義務」を遂行する上で慈悲 も憐れみ ももたない人である St.John に Janeは求婚される。 ここか らJaneとst.Johnとの闘いが展開す るわけ であるが, この闘いは人間の愛を問題にする●Janeとそれを軽視するSt.John との闘いであると同時に, Jane‑の中の 「愛」 と 「愛」を障げるものとの闘い でもある。
01iver億 への 「情熱」と 「義務」との葛藤に苦 しむ St.Johnを見守る中 で,彼の 「愛」についての考えを理解 したJaneはさらにこの闘いの中で「愛」
そのものについての理解を深め,と同時に自分についての認識 も深めてゆ く。
Janeは.St.Johnにとって 「愛」とは 「偉大なる仕事」(p.399)と彼が言 うもののために支払われる犠牲にすぎないと, St.John!の 「愛」と 「義務」
についての考え方を理解する。 Janeはそのような意識に耐えていけるかと自 問するが,そのような苦難に耐えてゆ くことができないばか りか,そのような 殉教は不当であると断定する。 さらに, Janeは St.Johnlの 「愛」について の考えを軽蔑するとJohnに向って宣言する。̀Iscornthecounterfeitsentim'ent lyouoffer:I(p.433)と述べているように彼の愛情が 「まがいもの」である
という判断を Jane'lは下す.このように断言す るJaneの意識の中には,対照 的にRochesterの真実の愛への確信が芽ばえていると言え よ う。 この よ うに Janeの 「愛」についての認識は St.Johnの 「愛」につ いてのノ考 え方へ の Janelの反応の仕方によって暗示的に示 されているにすぎないが,その反応が 批判的,否定的方向に向って明確になるにつれ, Janeの 「愛」についての認 識が深まっているという印象を与える。
Janeは St.Johnlの結婚の申 し出を断わるが,拒否 した理由は,St.John が高遠な主義と理想,義務のための道具 として Janeを妻に したが っているこ とを見抜き,さらに彼の 「愛」を徹底的に無視 した結婚観‑人間的愛情がな く 心が 「抜け殻」(p.430)であったとして も結婚 という愛の形式は神聖である‑
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を受 け入れ ることができなかったか らである。 Janeは 「夫 と妻が愛 しあうよ うには愛 しあっていない」(p.431)ので結婚すべきではないと述べ るが, そ こか らは愛するがゆえに結婚す ることこそ法にかなったものであるという主張 が読みとれ る。 しか し,結婚すべきではないとの決定 的理 由 とな ったのは, lSt.Johnの妻 となった ら,自分の 「生来の熱情の火」(p.433)を閉 じ込め るか,燃やすに して も内部に向 って控えめに燃やす ことしかできないと考えた ためである。
このJaneの判断は,視点をかえてみ直 してみると, Jane・がここに至って 自己の情熱を積極的に肯定 していることを物語 っていると読み とることができ る。次に引用す る文は, Jane・が.St.Johnの妻となることが可能かどうかを 自然な 「感情」 という観点か ら検討 し,彼の̀comrade'としてはともか く,妻と なることは不可能であると結論づけているところである。
Ashiscurate,hiscomrade,allwouldberight….Ishouldstillhavemy unblightedselftoturnto:mynaturalunslavedfeelingswithwhichto communicateinmomentsoflonliness.Therewould berecessesinmy mindwhichwouldbeonlymine,towhichhelSt.Jolm]never.came,and sentimentsgrowingthere,freshandsheltered,wllichhisausteritycould neverblight,norhismeasuredwa汀iormarchtrampledown.Butashis wife‑athissidealways,andalwaysrestrained,andalwayschecked‑
rorcedtokeeptheri一eofmynaturecontinuallylow,tocompelittoburn inwardlyandneverutteracry,thoughtheimprlSOned flameconsllmed vital‑thiswouldbeunendurable.(p.433)
「生来の掃われぬ自然の感情」であるとか