• 検索結果がありません。

関東地方における夏の短時間強雨の出現特性

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "関東地方における夏の短時間強雨の出現特性"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

は1995年夏期における熱雷の発生について,中部日本 付近に発生する熱的低気圧によってもたらされる気流の 収束,及び地形の効果によって生じる強制上昇気流に対 応していることを明らかにした。大村ほか (1999) は 1997年 8月4日と 8月9日の 2日間を対象とし,関東北 部の山岳地域における状態曲線の日変化と雷雲の発生・ 発達の関係について明らかにした。上杉・田中 (2008) は2000年 7月4日に起きた東京都心における短時間強雨 について,ドップラー気象レーダーのデータなどを用 い,その発生機構について明らかにした。このように局 地的な下層の現象と短時間強雨を結びつける研究や,あ る数日間における事例解析は多くなされていたが,上空 の気象場と短時間強雨の発生との関連について統計的に 解析した研究は少ない。 Ⅰ.はじめに 近年関東地方では,夏季において短時間に強い雨が降 ることで河川の急激な増水や低地の浸水といった災害が 多く発生している。このような災害を未然に防ぐには事 前の予測が不可欠であり,ゆえに短時間強雨のメカニズ ムの解明が求められる。 関東地方における局地的な降水に関し,藤部 (2002) や中西・原 (2003) は,海風系の局地風系の収束によっ てもたらされることを明らかにしている。また佐藤・高 橋 (2000) は,都市のヒートアイランドによる積雲対流 の強化で豪雨がもたらされている可能性を指摘してい る。他にも観測データを用い,特定の数日間を対象とし た事例解析は数多くなされている。堀江・遠峰 (1998)

川﨑 柊一

・加藤 央之

**

In this study, we clarified the weather patterns related to short time heavy rain in Kanto region, Japan, by weather pattern classification using statistical downscaling techniques. The results showed that short time heavy rains are gener-ated under the several meteorological patterns. 1) The sea breeze pattern: the Kanto region is covered by the North Pacific High with a characteristic small pressure gradient. In this pattern, short time heavy rain tends to be generated by the convergence of sea breezes in the northeast of the Kanto region. 2) The warm air and cold air flow pattern: this pat-tern involves a particularly large vertical temperature difference. Humid and warm air flows toward the front in the Sea of Japan from the North Pacific High in the lower layer, and cold air moves in the upper layer overlapping there. It creates unstable atmospheric conditions on and around the Kanto region; consequently, short time heavy rain tends to occur over the wide area. 3) Easterly shifted North Pacific High pattern: this pattern characterized by the North Pacific High shifted away from the Kanto region to the east. When the typhoons / tropical cyclones under this pattern move to the southwest of Japan, humid and warm air flows into the Kanto region and the atmospheric conditions become unstable. These condi-tions generate the short time heavy rains in the north of the Kanto region.

Keywords: the short time heavy rain, weather pattern classification, statistical downscaling, sea breeze

関東地方における夏の短時間強雨の出現特性

The Appearance Characteristics of the Short Time Heavy Rain in Summer in the Kanto Region,Japan

Shuichi KAWASAKI

and Hisashi KATO

** (Accepted November 11, 2015)

Graduate School of Integrated Basic Sciences, Nihon University:

3-25-40, Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan

** Department of Geosystem Sciences, College of Humanities and Sciences,

Nihon University: 3-25-40 Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan

日本大学大学院総合基礎科学研究科:

〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40

** 日本大学文理学部地球システム科学科:

(2)

大スケールの気候変数と地域スケールの気候変数を結 びつける手法として統計ダウンスケーリング手法がある (加藤,2007)。統計ダウンスケーリングは近年盛んに行 われている手法で,例えばWang and Zhang (2008) は, 北アメリカ冬季の極端な降水量について研究を行ってい る。統計ダウンスケーリング手法を用いることで,総観 的な気象場が特定の地域気象とどのような関連があるの か結びつけることができる。さらに各気象要素について 多変量解析を通じて客観指標に置き換え,これを分類す ることによって気象場の定量的な分類を行い,地上の気 象現象と対応することができる。この分野の研究として は,加藤ほか (2013) が,多変量解析を用いて地上気圧 分布パターンの客観分類を行い,天気分類を通じた降水 の再現を検討している。また今井・加藤 (2011) では特 に中部地方を対象として上空の気象場と地上の降水分布 について主成分分析を行い,得られた主成分スコアを用 いてその関連を明らかにした。しかし関東地方における 局地的な短時間強雨の出現と上空の気象場との関連につ いて統計的手法を用いて解析した研究はこれまでにな い。 そこで本研究では統計ダウンスケール手法を用い,関 東地方における夏の短時間強雨の出現と上空の気象パ ターンとの関連性について解析し,そのメカニズムを解 明することを目的とする。 Ⅱ.使用データ・解析方法 Ⅱ- 1.使用データ 本研究では,関東地方における短時間強雨を捉えるた め,図1 に示す気象官署および AMeDAS計95地点を解 析対象地点とした。対象期間は1991~2011年の21年間 における7月と 8月 (1,302日) であり,降水量と日照時 間の1時間値を用いた。また,短時間強雨と広域海風と の関連性を調べるため,風向,風速データの1時間値を 用いた。上空の気象場の解析のため,NCEP/NCAR再解 析データ (解像度2.5°×2.5°メッシュ) の温度 (925hPa, 500hPa : 06UTC),高度場 (850hPa : 00UTC) のデータを 用いた。期間は1981~2011年の31年間 (1,922日) で, 対象領域は図2 で示す北緯30°~40°,東経135°~145°で ある。解析対象期間は地上観測データが均一にそろう 1991年からとしたが,統計的手法を用いて気象パター ンを分類する上空の気象データに関しては,誤差をより 小さくするために1981年からを用いる。対象日の気象 場の考察のため,短時間強雨日における気象庁の地上天 気図および高層天気図を用いた。 Ⅱ- 2.短時間強雨日の定義 本研究ではよく晴れた日の午後に発生する短時間の強 い降水を対象とする。そこで,まず日照時間の合計値の 気象官署13地点における平均が 6.0時間以上である日を 抽出した。これは関東地方において日中,半分以上日照 がある(晴れている)ことを示す。さらに全観測点のう ち,13~22時の間で,降り始めから降り終わりが 3 時 間以内の降水を対象とし,3 時間の総降水量が30.0mm を超えた地点が1 地点以上あることを短時間強雨の条件 とした。この結果,短時間強雨の発生した短時間強雨日 を131日抽出した。 Ⅱ- 3.解析手法 短時間強雨日の上空の気象パターンの特徴を解析する ためにNCEP/NCAR再解析データに対して主成分分析 を行った。主成分分析とは複雑な変動パターンからいく つかの主要な変動パターンを抽出する統計的手法であ る。主成分分析によって抽出された主要な変動パターン が,ある日 (ある時間) においてどの程度卓越している かを表す主成分スコアを卓越指数とよぶ。この卓越指数 を用いてクラスター分析を行い,主要な変動パターンの 卓越度が類似している日同士でグルーピングし,気象パ 図1  解析に用いた地上気象観測地点 赤丸は気象官署、黒丸はAMeDAS地点を示す。 図2  上空気象場の解析対象範囲

(3)

下,第6主成分までの累積寄与率は96%となり (図は省 略),そこまでで鉛直温度差の変動パターンの大部分を 説明することができる。 短時間強雨日の鉛直温度差の変動パターンの特徴を詳 細につかむため,主成分分析によって得られた第1 主成 分~第6 主成分までの卓越指数を用いてクラスター分析 を行い,パターン分類を行った。その結果を表1 に示 す。クラスター分析によって分類されたグループのう ち,短時間強雨日が特に多く出現するグループは, Gp.DT-CとGp.DT-Eであった。Gp.DT-Cではグループ のメンバー総日数152日中37日 (24%) が短時間強雨日, Gp.DT-Eではグループのメンバー総日数459日中68日 (15%) が短時間強雨日であった。Gp.DT-CとGp.DT-E の各々のグループ平均合成図を図4 に示す。鉛直温度差 の夏季平均場 (図3-a) では,関東地方周辺の鉛直温度差 が約27℃前後であるのに対し,Gp.DT-C (図4-a),Gp. DT-E (図4-b) ではすべてそれよりも鉛直温度差の大き いパターンであった。特にGp.DT-C (図4-a) は関東地 方周辺の鉛直温度差が約30℃に達する非常に大きい値 である。両パターンとも,ともに関東地方の南側で,よ り鉛直温度差が大きくなる特徴をもつ。 以上より,短時間強雨日の出現は,鉛直温度差が大き いときに生じることが分かった。鉛直温度差が大きいこ ターンの分類を行った。クラスター分析とは,属性間の 類似度を用いてグループを作り,全体をいくつかのグ ループに区分するものである (河口,1978)。結合の各ス テップにおいて結合距離に大きな差があった場合は,性 質が大きく異なるクラスター群が結合することを示すた め,それに従いグループを分類した (加藤,1984)。クラ スター分析によって分類されたグループのうち,短時間 強雨日の多く含まれるグループについて検討し,短時間 強雨の出現しやすい主要な広域気象パターンについて解 析した。 さらに短時間強雨の発生した時刻の各地の降水量を用 いたクラスター分析によって降水分布のパターン分類を 行い,気象パターンと降水分布のパターンとの関連性に ついて解析を行った。 Ⅲ.結果と考察 Ⅲ- 1.鉛直温度差のパターン分類 925hPa面の温度から500hPa面の温度を引いた鉛直温 度差について主成分分析を行った結果を (図 3) に示 す。第1 主成分の因子負荷量分布 (図3-b) は関東地方 太平洋側を中心とした全体変動を表し,寄与率は49% である。第2主成分の因子負荷量分布 (図3-c) はおおよ そ南北の変動パターンを表し,寄与率は21%である。以

(a)

(b)

(c)

図3  鉛直温度差の主成分分析結果 (a):1981年~2011年の鉛直温度差の平均場(単位:℃)。実線およびカラーバーは鉛直温度差の絶対値を表す。 実線は0.5℃間隔。 (b),(c):第 1 主成分、第 2 主成分の因子負荷量分布図。実線は因子負荷量の値、カラーバーは因子負荷量の正負を表す。 表1  鉛直気温差の卓越指数を用いたクラスター分析の結果 DT-A DT-B DT-C DT-D DT-E DT-F DT-G その他 3(1) 12(1) 152(37) 241(15) 459(68) 49(6) 259(3) 127(0) 上段はグループ名。下段はグループ内のメンバーの総日数。( )内は短時間強雨日の日数。

(4)

動パターンを表し,寄与率は59%である。第 2 主成分の 因子負荷量分布 (図5-c) は東西の変動パターンを表し, 寄与率は21%である。以下第 6 主成分までの累積寄与率 は98%となり (図は省略),そこまでで高度場の変動パ ターンの大部分を説明することができる。 主成分分析で得られた第1 主成分~第 6 主成分の卓越 指数を用いてクラスター分析を行った結果を表2 に示 す。クラスター分析によって分類されたグループのう ち,短時間強雨日が多く含まれるグループはGp.H-B, Gp.H-J,Gp.H-PとGp.H-Qであった。Gp.H-Bではグルー プの総日数138日中20日が短時間強雨日,Gp.H-Jでは グループの総日数86日中13日が短時間強雨日,Gp.H-P ではグループの総日数61日中16日が短時間強雨日, とにより,大気の状態が不安定になり積乱雲が発生,発 達しやすくなることがその要因と考えられる。短時間強 雨日の出現が鉛直温度差の大きいグループに集中してい ることから,短時間強雨の発生には一定以上の鉛直温度 差があることが重要な条件であり,短時間強雨出現の主 要なメカニズムの一つであると考えられる。 Ⅲ- 2.高度場のパターン分類 850hPa面の高度場について主成分分析を行った結果 を図5 に示す。高度場は直接主成分分析を行うと,全域 共通の変動の寄与率が大部分を占めてしまうため,まず 地域平均偏差を求め,その値に対して主成分分析を行 う。第1 主成分の因子負荷量分布 (図5-b) は南北の変

(b) Gp.DT-E

(a) Gp.DT-C

図4  短時間強雨日を多く含む鉛直温度差のグループ (Gp.DT-C,Gp.DT-E) の鉛直温度差分布の合成図(単位:℃) 実線は鉛直温度差,カラーバーは夏季全体の平均場との差を表す。コンターは0.5℃間隔。 図5  図3 に同じ。ただし850hPa面の高度場の地域平均偏差に関する結果 (a):単位は (m),コンターは 6m間隔。

(a)

(b)

(c)

(5)

Gp.H-Qではグループの総日数165日中38日が短時間強 雨 日 で あ っ た。Gp.H-B,Gp.H-J,Gp.H-P,Gp.H-Qの 各々のグループ平均合成図を図6 に示す。Gp.H-B (図 6-a) は関東地方の南西で高度場偏差が高い。Gp.H-B (図6-a) は850hPa面の高度場の夏季平均場 (図5-a) と 比べて,等値線の本数が少なく,気圧傾度が小さいパ ターンであると考えられる。Gp.H-J (図6-b) は関東地 方の東方で高度場偏差が高くなっているパターンであ る。このグループも等値線の本数が極端に少なく, Gp.H-B同様気圧傾度の小さいパターンであると考えら れる。Gp.H-P (図6-c) は関東地方の南方で高度場偏差 が高く,北方で低くなっているパターンである。高度場 偏差の高い南方では等値線の本数が少なくなっている 表2  表1 に同じ。ただし850hPa面の高度場の 地域平均偏差の結果        H-A H-B H-C H-D H-E H-F H-G 37(5) 138(20) 30(3) 10(1) 20(1) 59(6) 3(1) H-H H-I H-J H-K H-L H-M H-N 49(1) 15(1) 86(13) 23(1) 8(1) 48(3) 55(6) H-0 H-P H-Q H-R H-S H-T H-U 15(1) 61(16)165(38) 16(1) 32(1) 102(10) 8(1) その他 322(0) 図6   図 4 に同じ。ただし850hPa面の高度場の地域平均偏差に関する結果 実線及びカラーバーは地域平均偏差 (単位:m) を表す。コンターは6.0m間隔。

(a)Gp.H-B

(b)Gp.H-J

(d)Gp.H-Q

(c)Gp.H-P

(6)

する。また,高度場のGp.H-Qは鉛直温度差のGp.DT-C, Gp.DT-Eどちらの組み合わせでも短時間強雨日が多く 出現している。以下,高度場のGp.H-Qと鉛直温度差の Gp.DT-Cとの組み合わせを組み合わせⒹ,高度場の Gp.H-Qと鉛直温度差の Gp.DT-Eとの組み合わせを組み 合わせⒺとする。 Ⅲ- 4.短時間強雨日の気象パターン 前節で明らかにした短時間強雨日が多く出現する気象 パターンの組み合わせについて,それぞれの組み合わせ に該当する日の天気図を用いて,短時間強雨日の気象場 についてより詳細に考察を行う。 Ⅲ- 4-1.広域海風パターン 組み合わせⒶとⒷはともに高度場において傾度の小さ いパターンである。両グループとも鉛直温度差のGp. DT-Eとの組み合わせで短時間強雨日が多く出現してお り,類似した気象場であると考えられる。そこでこの組 み合わせに属している短時間強雨日18日間についての 天気図を用いて,気象場の考察を行った。ここでは典型 的な2010年7月22日の地上天気図 (図 7)を示す。関東 地方は広く太平洋高気圧に覆われ,地上の気温が上昇し が,高度場偏差の低い北方ほど等値線の本数が多くなっ ている。すなわち南方では気圧傾度は小さいが,北方ほ ど気圧傾度が大きい。Gp.H-Q (図6-d) は関東地方の南 東で高度場偏差が高く,北西で低くなっているパターン である。 以上より,短時間強雨日の多く出現するグループの高 度場は,気圧傾度の向きや大きさにそれぞれ特徴を持っ たパターンである。Gp.H-B,Gp.H-Jは等高線の本数が 少なく,気圧傾度が小さいパターンであった。気圧傾度 が小さいことから,関東地方では一般風が弱く,静穏な 状態であると考えられる。このことからこれら両グルー プでは,広域海風が発達していることが考えられる。 Gp.H-Pは南に高圧で気圧傾度の小さい領域があり北に は比較的傾度のある低圧部があるパターンである。南の 高圧部は北太平洋高気圧によるものであり,北の低圧部 は低気圧もしくは前線によるものだと考えられる。これ らのことからGp.H-Pは関東南岸の北太平洋高気圧に覆 われた領域から関東の北方にある低気圧もしくは前線に 向かって暖気の流入があり,このため,通り道にある関 東地方にはその気流が流れ込み,大気の状態を不安定に させていることが考えられる。Gp.H-Qは高圧部が関東 地方の南東方の離れた位置にあるパターンである。北太 平洋高気圧の張り出しが弱い気象場であると考えられ る。北太平洋高気圧の時計回りの循環によって南から運 ばれてくる湿潤温暖な空気が,北太平洋高気圧の西側縁 辺部にあたる関東地方に流れ込みやすく,その結果大気 の状態が不安定になり,短時間強雨が出現していること が考えられる。 Ⅲ- 3.短時間強雨日の気象パターン分類 短時間強雨日の出現に関与する気象パターンをより詳 細に解析するため,短時間強雨日について,Ⅲ-1とⅢ-2 で示した鉛直温度差のパターンと高度場のパターンの組 み合わせを行い,あるパターンの組み合わせが対象期間 内に何日間あるのかをまとめた (表 3)。この結果から, 短時間強雨日はある気象パターン同士の組み合わせの時 に集中していることがわかる。表3 によれば,高度場の Gp.H-BおよびGp.H-Jは鉛直温度差のGp.DT-Eとの組み 合わせに短時間強雨日が集中している。以下,高度場の Gp.H-Bと鉛直温度差のGp.DT-Eとの組み合わせを組み 合わせⒶ,高度場のGp.H-Jと鉛直温度差の Gp.DT-Eと の組み合わせを組み合わせⒷとする。一方で高度場の Gp.H-Pは鉛直温度差のGp.DT-Cとの組み合わせに短時 間強雨日が集中している。以下,高度場のGp.H-Pと鉛 直温度差のGp.DT-Cとの組み合わせを組み合わせⒸと 表3  高度場と鉛直温度差のグループの組み合わせ表 高度場/鉛直温度差 DT-C【37】(152) DT-E【68】(459) H-B【20】(138) 15(4) 56(9)* Ⓐ H-J【13】(86) 12(2) 34(9)* Ⓑ H-P【16】(61) 23(8)* Ⓒ 26(5) H-Q【38】(165) 41(10)* Ⓓ 128(20)* Ⓔ 高度場(縦列)と鉛直温度差(横列)の短時間強雨日が発生しやすいグルー プにおいて,両グループに所属している日の日数を示す。ただし( )内は 短時間強雨日の日数。 *のついた組み合わせは,短時間強雨日の出現しやすい組み合わせ。 Ⓐ~Ⓔは短時間強雨日の多く発生している組み合わせに記号を付けたもの。 図7  2010年7月22日の地上天気図 (00UTC)

(7)

み,地上では非常に湿潤高温になりやすい気象場である と考えられる。組み合わせⒸに該当する短時間強雨日の 500hPa面の天気図 (図11) を見ると,関東地方周辺に -6℃程度の寒気が存在していた。この特徴は組み合わせ Ⓒの他の日でも同じである。偏西風が日本付近で南寄り に蛇行しているのが見られ,そのために寒気が南下して 鉛直温度差が大きくなりやすい場であったと考えられ る。また気圧傾度の小さい日である。これは高度場の Gp.H-BおよびGp.H-Jの特徴を示す。気圧傾度が小さい ため一般風が弱く穏やかな日であったと考えられる。こ れらのことから,特にこの組み合わせの時は広域海風が 発達しやすい気象場であると考えられる。この日の風向 風速データ (図 8) をみると,5 時 (図8-a) にはほぼ無 風状態にあったが,15時 (図8-b) には関東南部では南 よりの風,東部では東寄りの風が卓越し,北部では南東 の風が吹いている。この風系は広域海風発生時の風系場 の概念図 (栗田ほか,1988) と一致する。また20時 (図 8-c) には降水に伴う冷却域からの北よりの風も関東地 方北部で見られた。広域海風が発達した日にはその収束 域で上昇気流が発生し積乱雲が発生,発達しやすくな る。このことにより組み合わせⒶとⒷでは短時間強雨が 多く発生していると考えられる。 以上のことから組み合わせⒶおよびⒷのパターンは, 太平洋高気圧に広く覆われ,地上の気温上昇に伴い鉛直 温度差が増大することに加え,広域海風の発達によって その収束域で上昇気流に伴う積乱雲が発生,発達して, 局地的な降水すなわち短時間強雨を生じさせる広域海風 パターン (図 9) であると考えられる。 Ⅲ- 4-2.暖気・寒気流入パターン 組み合わせⒸは特に鉛直温度差が大きいパターンの組 み合わせである。この組み合わせに所属している短時間 強雨日8日間についての天気図を用いて,気象場の考察 を行った。ここでは典型的な例として2003年 8月24日 の地上天気図 (図10) を示す。高度場のGp.H-Pは南高 北低の気圧配置であったが,この組み合わせの日の天気 図を見ると,関東地方の南に太平洋高気圧があり,日本 海に前線がある気象場となっている。前線に向かう湿潤 で温暖な空気が,その経路にある関東地方へと流れ込

(a)

(b)

(c)

図8  2010年7月22日の風系 (a):5 時,(b):15時,(c):20時 図9  広域海風パターンの概念図 図10 2003年8月24日の地上天気図 (00UTC)

(8)

ここでは30日間中,典型的な2004年 7月24日と2010年 7月25日の地上天気図 (図13-a) を示す。Gp.H-Qは高偏 差域が東寄りに分布しているパターンであるが,この天 気図上でも,北太平洋高気圧の張り出し弱く,日本から 東に離れた位置にある。北太平洋高気圧が東寄りに位置 するため,日本の南の海上から西の韓国周辺にかけて台 きていると考えられる。ただし,これに関しては高層の 風系のパターン分類などを行い,さらなる解析が必要で ある。 以上のことから組み合わせⒸは下層における関東地方 への湿潤温暖な空気の流入と上層における寒気の南下が 同時に生じることで鉛直温度差が極端に大きくなり,大 気の状態が不安定になりやすいパターンであると考えら れる。その結果,積乱雲が発生,発達して,局地的な降 水,すなわち短時間強雨を生じさせる暖気・寒気流入パ ターン (図12) であると考えられる。これらの結果は他 の短時間強雨日でも同様に見られた。 Ⅲ- 4-3.北太平洋高気圧東偏パターン 組み合わせⒹ,Ⓔ 組み合わせⒹとⒺは,共に高度場のGp.H-Qに属して おり,鉛直温度差のGp.DT-CとGp.DT-Eどちらの組み 合わせでも短時間強雨日が多く出現しているパターンで ある。この組み合わせに属している短時間強雨日30日 間についての天気図を用いて,気象場の考察を行った。 図11 組み合わせⓒに該当する短時間強雨日の代表的な500hPaの天気図 (2003年8月24日00UTC) 図12 暖気・寒気流入パターンの概念図

(a)

(b)

図13 (a):2004年7月24日 (b):2010年7月25日の地上天気図 (00UTC)

(9)

る要因は2通りあった。この 2 つのパターンは組み合わ せⒹとⒺどちらでも見られ,500hPaおよび925hPaの温 度を用いても明確に分けることはできなかった。気象場 の分類を明確に行うにはさらに他の気象要素も用いたパ ターン分類が必要であると考えられる。 Ⅲ- 5.気象パターンと降水分布パターンとの関連性 気象パターンと降水分布のパターンとの関連性を解析 するために,短時間強雨の発生した時刻の降水量 (3 時 間降水量) を用いてクラスター分析を行い,降水分布パ ターンの分類を行った (表 4)。降水量は各時間の降水量 の最大値が1.0となるように規格化して用いた。降水分 布のパターンは大きく12個のグループに分けることが できた。 この各グループとⅢ-4章で得られた3つの気象パター ンの組み合わせを用いて,各気象パターンと降水分布の パターンとの組み合わせを行った (表 5)。また,主なグ ループの平均的な降水分布合成図を図15に示す。表 5 によると,どの気象パターンでもRGp.2との組み合わせ が多い。短時間強雨の主要な出現地域がRGp.2の降水分 布合成図に示された領域であることが考えられる。広域 海風パターンは他に,RGp.12とRGp.21との組み合わせ が多い。この両グループは関東地方の東部~北東部に降 水が分布するパターンである。このことから広域海風パ ターンでは関東地方の北東の方で短時間強雨が発生しや すいと考えられる。北太平洋高気圧東偏パターンでは関 東 地 方 の 北 部 の 各 地 で 発 生 す る グ ル ー プ (RGp.4, RGp.21) との組み合わせが多い。これは高度場の傾度か ら南風が流入しやすい気象場であるために,関東地方の 北部の山に南風がぶつかり,上昇流が発生しやすいため と考えられる。暖気・寒気流入パターンは,複数の地点 風や熱帯低気圧が進入してきやすい気象場となってい る。特に短時間強雨日には,日本列島の南西に台風が位 置していることが多かった。台風によって南の海域から 運ばれてくる非常に湿った温暖な空気が日本列島へと供 給されやすい状態となっている。関東地方への湿潤温暖 な空気の流入と,日照による地上気温の上昇に伴う鉛直 温度差の増大のために大気の状態が不安定になりやすい 気象場であると考えられる。このために積乱雲が発生, 発達して,局地的な降水,すなわち短時間強雨が発生す るパターンである。 また北太平洋高気圧が東に後退するのに伴い,寒気を 伴う低気圧が関東地方周辺まで進入してくるパターン (図13-b) もあった。もともと地上では日照によって気 温が高くなっているのに加え,上層の温度の低下によっ て鉛直温度差が大きくなり大気が不安定になりやすいパ ターンである。どちらのパターンも北太平洋高気圧の張 り出しが弱く,関東地方の東方に離れている点や鉛直温 度差の大きくなる点が一致する北太平洋高気圧東偏パ ターン (図14) である。しかし,鉛直温度差の大きくな 図14 太平洋高気圧東偏パターンの概念図 表4  短時間強雨の発生した時刻の降水量 ( 3 時間降水量) を用いたクラスター分析の結果 RGp.2(107) RGp.4(34) RGp.21(16) RGp.89(4) RGp.12(15) RGp.84(4) RGp.26(14) RGp.35(9) RGp.71(8) RGp.63(6) RGp.1(5) RGp.45(6) その他(13) ( ) 内はグループ内の総メンバー数。 表5  降水分布パターンのグループとⅢ-5章で得られた 3 つの気象パターンとの組み合わせを行った結果 RGp.2(107) RGp.4(34)RGp.21(18)RGp.12(15)RGp.26(14)RGp.63(6) RGp.71(8) RGp.89(4) RGp.1(5) RGp.45(6) 広域海風パターン 12 1 4 3 0 1 0 0 0 1 北太平洋高気圧東 偏パターン    14 4 3 2 0 0 1 0 1 1 暖気・寒気流入  パターン     3 0 0 0 2 2 0 1 1 0 単位は事例。

(10)

張り出した北太平洋高気圧と日本海の前線などによっ て,また北太平洋高気圧東偏パターンでは北太平洋高気 圧の張り出しが弱く,関東地方から東に離れた位置にあ ることに伴う台風の北上や寒気を伴う低気圧の南下に よって,鉛直温度差の増大が引き起こされていた。この ように,北太平洋高気圧の位置もまた,短時間強雨の出 現に重要な役割を果たしていると考えられる。 また広域海風パターンでは関東地方北東部で降水が, 北太平洋高気圧東偏パターンでは,関東地方北部の各地 で降水が,また暖気・寒気流入パターンでは降水地域の 広域化が見られた。 以上のことより,短時間強雨の出現は複数の気象要素 の,特定のパターンの組み合わせで引き起こされている と見られることから,より多くの気象要素を用いた解析 を行うことで,さらに正確な気象場の解析が可能である と考えられる。 で比較的降水強度の強いグループ (RGp.26,RGp.63, RGp.1) との組み合わせが同じような頻度である。暖 気・寒気流入パターンでは関東地方の上空で広く鉛直温 度差が大きくなるため,どの地域でも短時間強雨が出現 しやすく,降水分布が広域化していると考えられる。こ れらの結果から,上空の気象パターンから,短時間強雨 の出現地域を予測できることが示唆される。 Ⅲ- 6.まとめ 各パターンの特徴をまとめて表6 に示す。3 つのパ ターンにおいて鉛直温度差が大きいことが共通の特徴と なっていた。このことから鉛直温度差が大きいことは短 時間強雨の出現に重要な条件であると考えられる。一方 で,北太平洋高気圧の位置は,3 つのパターンそれぞれ に違う特徴があった。広域海風パターンでは北太平洋高 気圧が関東地方を広く覆うことで,広域海風の発達をも たらした。暖気・寒気流入パターンでは関東地方南岸に 図15 短時間強雨の発生した時刻の降水量(3時間降水量)を用いたクラスター分析によって得られた主なグループの 降水分布の合成図。スケールは各時間の最大降水量が1.0になるように規格化した値 表6  各パターンの気象場の特徴 パターン/気象場 北太平洋高気圧 鉛直温度差 パターン特性 降水地域 広域海風パターン 関東地方を広く覆う 大きい 広域海風の発達 北東部で局地的 暖気・寒気流入パターン 関東地方南岸まで張り出す 非常に大きい 日本海に前線 上層に寒気 多様化 北太平洋高気圧東偏パターン 関東地方東側にあり、張り 出しが弱い 非常に大きい 日本列島南西に台風 関東地方に寒気を伴う低気圧 北部の各地で局地的

(11)

伴って台風や熱帯低気圧が日本列島の南西に進出したと き,湿潤温暖な空気が関東地方に流入し,大気の状態が 不安定になりやすいパターンである。また寒気を伴う低 気圧が関東地方周辺まで南下し,鉛直温度差が大きくな ることによって大気の状態が不安定になりやすいパター ンでもあった。またこのパターンの時,短時間強雨は関 東地方北部の各地で発生しやすい。 いずれのパターンでも鉛直温度差がある程度大きいと きに短時間強雨は出現していることが明らかであり,鉛 直温度差が大きくなることは短時間強雨の発生の主要な メカニズムの1 つとなっていると考えられる。 Ⅴ.今後の課題 今回は主に,925hPaと500hPaの鉛直温度差と 850hPa 高度場を用いて短時間強雨日の気象パターン分類を行っ たが,短時間強雨日の出現は風系や湿度など他の気象要 素によっても影響を受けるものであり,さらに多くの気 象要素を用いたパターン分類が必要であると考えられ る。 謝辞 本研究をすすめるにあたり,日本大学文理学部非常勤講師 の永野良紀氏をはじめ,多くの方から助言をいただきまし た。大変感謝致します。 本論文は著者の一人である川﨑柊一の平成24年度日本大 学文理学部地球システム科学科の卒業論文に加筆修正を行っ たものである。 Ⅳ.結論 925hPa面と500hPa面の鉛直温度差,及び850hPa面 の高度場のパターン分類を行い,短時間強雨の出現しや すい気象場について解析した結果,3つのパターンが明 らかになった。 1 )広域海風パターン:関東地方が北太平洋高気圧に 覆われ,気圧傾度が小さいことが特徴である。このパ ターンでは一般風が弱く,関東地方で広域海風が発達し やすい。この広域海風が収束することによって上昇気流 に伴う積乱雲が発生,発達し,局地的な降水,すなわち 短時間強雨が発生しやすいパターンであると考えられ る。またこのパターンの時,短時間強雨は関東地方北東 部で発生しやすい。 2 )暖気・寒気流入パターン:特に鉛直温度差が大き いことが特徴のパターンである。関東地方の南岸まで北 太平洋高気圧が張り出し,日本海側には前線などが存在 する気象場である。下層では北太平洋高気圧から前線に 向かって湿潤温暖な空気が流れ込み,上層には寒気が流 れ込んでくることで,その経路にある関東地方で大気の 状態が不安定になりやすく,短時間強雨の発生しやすい パターンであると考えられる。またこのパターンの時, 短時間強雨の出現地域は広域化する。 3 )北太平洋高気圧東偏パターン:北太平洋高気圧の 張り出しが弱く,関東地方から東に離れた位置に北太平 洋高気圧があることが特徴のパターンである。これに 今井裕一,加藤央之(2011):中部地方における夏の降水分 布パターン特性.日本大学文理学部自然科学研究所「研 究紀要」,46,265-276. 上杉忠孝,田中恵信(2008):2000年 7月4日に起きた東京 都心における短時間強雨の発生機構.天気,55,24-36. 植村八郎,寺島 司,杉田明子(2009):落雷位置評定シス テムにより観測された関東北部を襲った豪雨事例.天 気,56,325-335. 大村浩王,遠峰菊朗,細川 尚(1999):夏期の関東北部山 岳地域における雷雲の発達と状態曲線の日変化につい て.天気,46,365-375. 加藤央之(2007):IPCC第 4 次報告書の要点・解説.地学雑 誌,116,6,798-810. 加藤央之,永野良紀,田中誠二(2013):東アジア地域にお ける海面気圧分布パターンの客観分類―寒候期のパター ン―.地理学評論,86,95-114. 河口至商(1978):多変量解析入門Ⅱ.森北出版,163pp. 栗田秀實,植田洋匡,光本茂記(1988):弱い傾度風化での 大気汚染の長距離輸送の気象学的構造.天気,35, 13-35. 参考文献 佐藤尚毅,高橋正明(2000):首都圏における夏期の降水特 性の経年変化.天気,47,643-648. 津口裕茂,加藤輝之(2014):集中豪雨事例の客観的な抽出 とその特性・特徴に関する統計解析.天気,61, 455-469. 中西幹朗,原由紀男(2003):東京都市部に短時間強雨をも たらした降水系の降雨強化に結びつく局地風の特徴.天 気,50,91-103. 藤部文昭,坂上公平,中鉢幸悦,山下浩史(2002):東京23 区における夏季高温日午後の短時間強雨に先立つ地上風 系の特徴.天気,49,395-404. 藤部文昭,瀬古 弘,小司禎教(2003):関東平野における 夏季高温日午後の降水分布と地上風系との関係.天気, 50,777-786. 堀江晴男,遠峰菊朗(1998):関東地方における熱雷の発生 と移動について― 1995年夏期の解析―.天気,45,441-453.

Hiroshi, Y (2013) : Intense Summer Heat in Tokyo and Its Sub-urban Areas Related with Variation in the Synoptic-Scale Pressure Field: A Statistical Analysis. JOURNAL OF

(12)

AP-Society of Japan, 93, 245-263.

Wang, J. and X. Zhang, (2008) : Downscaling and Projection of Winter Extreme Daily Precipitation over North Ameri-ca. J. Climate, 21, 5, 923-937.

PLIED METEOROLOGY AND CLIMATOLOGY, 52, 2065-2074.

Tsutomu, T., T. Kawano, and M. Ishihara (2015) : Different Pre-cipitation Mechanisms Produce Heavy Rain With and Without Lightning in Japan. Journal of the Meteorological

参照

関連したドキュメント

For instance, Racke & Zheng [21] show the existence and uniqueness of a global solution to the Cahn-Hilliard equation with dynamic boundary conditions, and later Pruss, Racke

Furthermore, the upper semicontinuity of the global attractor for a singularly perturbed phase-field model is proved in [12] (see also [11] for a logarithmic nonlinearity) for two

Keywords: continuous time random walk, Brownian motion, collision time, skew Young tableaux, tandem queue.. AMS 2000 Subject Classification: Primary:

“Breuil-M´ezard conjecture and modularity lifting for potentially semistable deformations after

Then it follows immediately from a suitable version of “Hensel’s Lemma” [cf., e.g., the argument of [4], Lemma 2.1] that S may be obtained, as the notation suggests, as the m A

His idea was to use the existence results for differential inclusions with compact convex values which is the case of the problem (P 2 ) to prove an existence result of the

[9, 28, 38] established a Hodge- type decomposition of variable exponent Lebesgue spaces of Clifford-valued func- tions with applications to the Stokes equations, the

Section 3 is first devoted to the study of a-priori bounds for positive solutions to problem (D) and then to prove our main theorem by using Leray Schauder degree arguments.. To show