認知症とともに生きる人の人権:
お題目から現実のものに
翻訳 石原哲郎・石原育美
翻訳協力 川村雄次、村田康子、中川経子
国際認知症同盟が、国際アルツハイマー病協会による人権に基づくアプローチの採用および 2016年の英国認知症意識向上週間に合わせて発行した刊行物。DEMENTIA
ALLIANCE
INTERNATIONAL
目次
認知症とともに生きる人たちの人権へようこそ
2
DAI について
4
このガイドについて
5
権利とは何か?
6
なぜ権利が重要なのか?
7
人権に根ざしたアプローチを用いる
8
国連障害者権利条約
9
- 一般原則
10
- 条項
10
アルツハイマー病協会やそして組織は、どのように条約を活用することが
できるのか?
11
結論
12
認知症とともに生きる人たちの著作
13
その他の資料
14
認知症とともに生きる人のための人権へようこそ
我々はこの画期的な国際認知症同盟(Dementia Alliance International, DAI)の小 冊子を作りました。これはDAIの権利擁護、つまり我々が提唱する国連障害者権利条約 (United Nations Convention on the Rights of Persons with Disabilities, CRPD) の利用を含む権利に根ざしたアプローチの直接的な成果であり、つい最近国際アルツハ イマー病協会にも採用されました(訳者リンク:https://www.alz.co.uk/sites/default/ files/pdfs/access-crpd-dementia.pdf) これは、世界中の認知症の人たちにとって重要な転機です。 認知症の人たちの権利は我々の活動の中核にあるものです。国連障害者権利条約に認知 症の人が新たに加わることは、2015年3月にジュネーブで開催されたWHO(世界保健機 構)の認知症についての初の閣僚会議において、DAIの議長であり、CEOで共同創設者で あるケイト・スワファーによる要請の一つでした。それから、我々はこの要請が現実化す るようにあらゆることを行ってきました。 2015年のWHOの認知症についての最初の閣僚会議におけるDAIの3つの核となる要望 以下の通りです。 • 我々には診断前後のケアやリハビリテーションを含めた、より倫理的に評価されたケ ア・パスを得る人権がある。 • 我々は障害者差別禁止法および国連障害者権利条約のもとで、他の人となんら変わら ない人権を有する一人の人として扱われる必要がある。 •(認知症の)研究において治療だけでなくケアにも焦点を当てる。 現在の私達にとって重要なのは、認知症とともに生きる人がこの条約(国連障害者権利 条約)や高齢者の権利に関する将来の条約を含めて同様の国連の人権条約を差別され ることなく、利用する権限を得ることです DAIは、DAIの人権アドバイザーであるピーター・ミトラー教授がブタペスト会議で概略を 説明した方法で国連障害者権利条約を十分に活用するために、全国のアルツハイマー病 協会やその他の組織を支援しています。 国際アルツハイマー病協会の要請により、私たちは全国のアルツハイマー病協会全国委 員会のための文章を準備しており、この中では皆さんの活動が一般的な人権原則や障害 条約に基づいてより確実に遂行されるための方法を提案しています。
この小冊子ではすべての分野で起用されている国連で承認されている制度である人権に 根ざしたアプローチ(Human-Rights Based Approaches, HRBAs の基本的な部分を 紹介します。私たちはこの冊子が、全国アルツハイマー病協会がこれらのアプローチを、 認知症とともに生きる人、自組織内、自分の地域、政府、専門機関、とりわけメディアとの 関係において使用するためのよい資料であると考えています。 PANEL原則の採用はすばらしい第一歩ですが、国連障害者権利条約に代わるものでは ありません。なぜならPANELは利益を得るように設計された人々への説明責任システム がないからです。このため、この小冊子の大部分は、認知症とともに生きる人の健康と生 活の質を高めるために条約を使用する方法に焦点を当てています。 我々は経験から、全ての認知症の人がこの決議の恩恵を受ける事を可能にするために、 すべての段階で時間をかけて、有用性や優先項目を再評価することが必要であることを、 我々は経験を通して知っています。しかし何年もの間、認知症の人やその他の人に対する 権利を主張する道を歩んでいましたが、我々の歩みは、これからも続いています。 この刊行物発行にあたり、多数の専門家、とりわけ我々の人権アドバイザーであるピータ ー・ミトラー教授の協力により国際認知症同盟が代表し寄稿・出版しました。 ご多幸を祈念して ケイト・スワファー 国際認知症同盟議長、CEO、共同設立者
DAIについて
認知症国際同盟(DAI)は、世界規模の非営利の、あらゆる世代の認知症の人に関わる組 織です。 その目的はあらゆる種類の認知症とともに生きる人を代表し、サポートし、教 育することを目指し、個人の自主性と生活の質の向上に対する権利擁護(アドボカシー) 、エンパワーメント、支援の統一された声を提供します 国際認知症同盟は認知症の人にとって世界規模の代表組織であり、認知症とともに生き る人の世界的な声です。 DAIは独立した認知症の人自身の権利擁護組織であり、国際アルツハイマー病協会とパ ートナーシップを結んでおり、いかなるときも相互の全国のアルツハイマー病の団体組織 との相互協働が可能です。 ここに重要なことを記しますが、DAIは他の権利擁護組織と競合することはなく、むしろ 認知症をもつ人による、認知症の人のための独自の声、独自のサービス、権利擁護や支援 サービスに焦点を当てて貢献しています。 会費は無料であり、あらゆる種類の認知症と医学的診断をされた全ての人が参加できま す。(www.joindai.org) 国際認知症同盟のTシャツを着ている 英国のクリス・ロバーツ。(Tシャツには 「認知症の専門家」と書かれている)このガイドについて
このガイドの目的は、世界中の認知症とともに生きる人たちの利益を保護する上で、権利 がいかに重要かを述べることです。 ADIの国連障害者権利条約を含む人権政策への革新的な取り組みは、認知症をもつ人た ちや国際アルツハイマー病協会にとって、大変革をもたらす事ができる可能性がありま す。 国際認知症同盟は、国際アルツハイマー病協会と協働しながらも互いの自主性を尊重す ることを両立している体制(パートナーシップ)を発展させる必要があるでしょう。 国際 認知症同盟は認知症の人の声ですが、ADIは認知症の人のための声です。 このガイドは、主に認知症の診断を受けた方を対象としています。友人や家族、サポータ ーやあなたのために主張する人などあなたの重要な人と共有してください。 もしあなたが認知症の人であれば、他の人たちとのキャンペーン活動に強く惹かれる かもしれません。国際認知症同盟(www.joindai.org)に参加したり、または地元のアルツ ハイマー病の組織に参加することにより世界規模の活動ができるでしょう。 この小冊子はまた認知症と権利に関する課題に関心のある他の組織や認知症の分野に おけるボランティアや専門職にも役立ちます。 ブダペスト開催のADI2016における DAIのメンバーたち 左から右へ デニス・フロスト、ヘルガ・ローラ、アグ ネス・ヒューストンMBE、ヒラリー・ドク スフォード、マリー・ランドフスキー、ケ イト・スワファ ー、 ピーター・ミトラー CBE、クリス・ロバ ーツMBE=Member of the Order of the British Empire 大英勲章第5位 CBE=Commander of the Order of the British Empire 大英勲章第3位
権利とは何か?
権利とは、あなた自身のために発言する権限や、その権利が尊重されていなかったり、侵 害されている他の人たちと同盟する権限を与えるものです。 多くの書籍や学術論文に、人権について記述されていますが、障害者の権利に関するも のが多く、認知症の人達の人権について考えられるようになったのは、ごく最近のことで す。 例えば、英国精神保健財団は最近認知症の人の権利について、議論と批判の両方を促進 する報告書を発行しました(精神保健機関2015)。 さらに、今世界中で、認知症とともに生きる人々の人権を擁護するという強い決意を反映 した認知症の人々自身の著作がいくつかあります(スワファー2016、ブライデン2015、テ イラー2009、ホイットマン2015;ローラ 印刷中)。 国際認知症同盟は各国のアルツハイマー病協会の理事会メンバーに対して、社会が人権 に基づく組織、政府、生物医学および社会科学研究コミュニティとの連携がより可能に なる方法を検討する際に、これらの本を読みそして議論するように求めています。 認知症をもつ人たちが影響を受ける事項について決定が下される時には、少なくともこ れらの書籍の少なくとも1冊を読んで話し合う必要があります。 私たち抜きに私たちのことを決めないで;私たちと彼らではなく。これが私たちの権利で す。 1948年の国連世界人権宣言では、世界中のすべての市民が擁護されており、認知症の 診断を受けて障害とともに生きる認知症の人も含まれています。その後、国連条約は、女 性、子ども、民族、宗教のマイノリティ-=恩恵を享受しなかった人々の人権に焦点をあて ています。基本的人権に関するその他の条約には、文化的、社会的及び経済的権利、とり わけ認知症とともに生きる人に関連のあるものが含まれています。高齢者の人権につい ての議論も進行中です。国際アルツハイマー病協会と国際認知症同盟は、関連する国連 機関やほとんどの国の障害者組織などの市民団体へ個別の助言を提供する国家人権機 関(NHRIs)と連絡を取り合っています。 この小冊子では、これらの権利について具体的に紹介しています。これは、あなた自身の 権利についてあなたに知らせるだけでなく、あなたが他の人々と協力して地元や国内そし て国際的に主張することができる方法についても書いてあります。DAIはこの冊子で、情 報提供と奨励と支援を行います。なぜ権利は重要なのか?
人権はただ法的なものというだけではありません。南アフリカの法律が変更されるず っと前から、肌の色は差別の対象とすべきではないという道徳的な合意はありまし た。1960年代に始まった障害者運動は、人種差別とジェンダーの平等のための市民権 運動の一環としての役割を果たしました。認知症の人の権利も全く変わりはないので す。 2016年国際アルツハイマー病協会国際会議で人権について講演するピーター・ミ人権に根ざしたアプローチを用いる
2003年から、国連は全面的に人権ベースのアプローチ(HBRA)を展開してきた。これに 関する理論的根拠は、開発協力に対する人権に根ざしたアプローチ:国連機関間での共 通理解に向けてです。 このアプローチに関心のある組織には、詳細なガイドラインとツールキットが用意されて います。障害者および認知症の双方に関してHBRAsをもっともよく紹介するのはスコッ トランド人権委員会です。 (訳者注:http://www.scottishhumanrights.com/health-social-care/dementia/ ) これは、スコットランド議会がPANEL原則に基づいて、スコットランドが認知症の人の 権利憲章を採択した2009年以来提供され続けているリーダーシップが反映されていま す。 人権に影響を与える決定事項への参加 人権の尊重、保護、履行に責任を負う者の説明責任 差別撤廃と平等 人権に関する意識や知識を高めたり、人権を主張する方法を身につけることができるよ うに支援する すべてのプロセスと成果の評価基準における人権の法的基準との明確にリンクしている というすべての決定における合法性 英国政府が2009年に国連障害者権利条約を批准した時に、スコットランド政府はパ ネル原則を採用した。 スコットランドは、この条約の実施に認知症をもつ人たちを含めた最初の国(原文通り) であり、2002年には、スコットランド・ワーキンググループの認知症の人を、スコットラン ド・アルツハイマー病協会の支援のもと、政府機関にアドバイスする役に任命しました。ヨーロッパ認知症ワーキンググループは、ヨーロッパ・アルツハイマー病協会に助言を与 えています。その議長はヘルガ・ローラで(DAIの)理事ですが、現在世界で5つの国内や 地域に認知症ワーキンググループがあります 。認知症の人の委員会やグループには、彼 らが意思決定に参加できるように、各国のアルツハイマー病協会または協会の活動に助 言を与えるために、適切な障害支援を行うことが強く求められています。 私たちは、これらのグループ活動が、国際的な活動である国際認知症同盟(DAI)と強固 な協力関係を築くことで、大幅に強化されると考えています。すべての認知症の人たち、 すべての権利擁護団体や政府は、認知症の人のために真の変化を生み出す最善の機会 をもつために協力し協働します。あらゆるレベルの市民社会へのアクセスを得ることが人 権であるように、偏見や差別を無くすことはすべての人にとって重要です。 イングランドとウェールズも現在では認知症ワーキンググループとともに活動している。 3 5 2 6 7 1.スコットランド認知症ワーキンググループ2002 2.ヨーロッパ認知症ワーキンググループ2012 3.オーストラリア・アルツハイマー病協会専門委員会2013 4.アイルランド認知症ワーキンググループ2013 5.日本認知症ワーキンググループ2014 6.オンタリオ認知症ワーキンググループ2014(地域) 7.キアマ認知症専門グループ2014(地域)
8. ワーキンググループ宮城2017(地域) Working Group Miyagi in Japan (regional) 1
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国連障害者権利条約
国連障害者権利条約は2006年に採択されましたが、認知症のコミュニティにおいて は利用され始めたばかりです。この条約はEUと163の国によって批准されており、各々の 一般義務や一般原則そして37の明文化条項を履行するために、国際法上に則って各国 政府は規定するよう委託されています。 (国連障害者権利条約)と以前の国連条約の間には多くの相違がありますが、潜在的 な利益をもつ代表者たちが、各原則や条項の交渉において、政府と同等のパートナーと して含められることは、初めてのことです。異なる支援団体を代表する国際障害者機関 (DPOs)が、異なる政策や優先事項にもかかわらず、提携して活動することに成功した ことは、障害者運動の歴史においてもまた画期的なことです。 認知症の人は、国連障害者権利条約の第一条の定義に含まれています: 「障害者には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害であって、様々な 障壁との相互作用により他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加する ことを妨げ得るものを有する者を含む。」 すべての重要な条約の一般原則は、それぞれの主要な条項に反映されています。一般原則
・尊厳、自律性、選択の自由や独立性を尊重する ・差別の撤廃(障害、性別、民族性、年齢) ・社会の一員として完全参加 ・一人一人の違いを尊重する;人間の多様性の一部として障害の受容 ・機会の均等 ・アクセシビリティ(誰もが利用できること) ・男女平等条項
これらの条項は、他の人と同じ基準で日常生活を送るために重要な点に関連する詳細な ガイダンスを提供しています。 これらには: ・生きる権利 ・一般市民社会のいかなるところでも利用する権利・法の下の平等 ・拷問、残酷かつ非人道的または人間性を奪うような扱い、搾取、暴力および虐待からの 自由 ・自立した生活と地域社会への参加 ・家庭と家族の尊重 ・健康 ・リハビリテーション ・雇用 ・適切な生活水準と社会的保護(社会福祉、社会的ケア、ソーシャルケア) ・政治参加や公的生活、文化的生活、娯楽、レジャー、スポーツへの参加 国際認知症同盟委員、スコットランドのアグネス・ヒューストン(大英勲章第5位)