電磁気学で使う数学:第
9
回
12月 15 日 清野和彦 2.2.3 grad φ(P )方向以外の変化率 スカラー場 φ の点 P における任意の方向の変化率が grad φ(P ) で表せることを説明しましょ う。(実は、前小節の計算の中に現れているのです。) ⃗ pを任意の単位ベクトルとしたとき、P における ⃗p方向の φ の変化率とは、P を通り ⃗pを方向 ベクトルとする直線 l (パラメタを t とします)に φ の定義域を制限してできる l 上のスカラー 場の t = 0 における微分の値でした。それは、まさに前小節の g′(0)のことです。そして g′(0)は 前小節の式 (31) で成分によって表せていましたが、その式を成分ではなくベクトルで直接書くと grad φ(P )• ⃗p となっています。つまり、勾配ベクトル grad φ とは、 単位ベクトルとのスカラー積がその単位ベクトルの向きへの変化率を与える という、始めに考えていたより一般的な意味を持つベクトルだったのです。 このことを、世界が平面である場合で、φ が高さを表すスカラー場だという設定で考えてみま しょう。(P, φ(P )) というグラフで表される起伏のある地面の上を走っている車を考えます。(地面 から浮き上がらない範囲の速さで走っているとします。)平面に正規直交座標系 xy を入れ、この 車の地図上での動きを表す関数を (x, y) = (ξ(t), η(t)) としましょう。すると、この車の水平方向の速度ベクトル(の成分表示)は x′(t) := ( ξ′(t) η′(t) ) となります。このとき、上向き方向の速度が grad f (ξ(t), η(t))• x′(t) というように勾配ベクトル場とのスカラー積で表されるのです。 説明しましょう。車の高さは g(t) := f (ξ(t), η(t)) なので、これを t = t0 において微分して得ら れる値 g′(t0)が t = t0における車の高さ方向の速度です。計算すると、合成関数の微分公式により g′(t0) = ∂f ∂x(ξ(t0), η(t0)) dξ dt(t0) + ∂f ∂y(ξ(t0), η(t0)) dη dt(t0) = grad f (ξ(t), η(t))• x ′(t) となって示せました。2.3
勾配ベクトル場と線積分に関する「微積分の基本定理」
2.3.1 「微積分の基本定理」 勾配ベクトル場を作る「微分」grad は、線積分と組み合わせると普通の 1 変数関数における微 積分の基本定理と全く同様の ∫ C grad φ• d⃗l = φ(Q) − φ(P ) という関係が成り立ちます。ただし、C は点 P を始点とし点 Q を終点とする曲線です。証明は、 合成関数の微分法を使って 1 変数関数における微積分の基本定理に帰着するだけです。 証明. 空間に正規直交座標系を決め、それによって φ を表す関数を f (x, y, z) とします。また、C のパラメタ付け x = ξ(t) y = η(t) z = ζ(t) t0≤ t ≤ t1 を一つ取ります。もちろん C の向きに適合したパラメタ付けを取るので、 点 P の座標が (ξ(t0), η(t0), ζ(t0))、点 Q の座標が (ξ(t1), η(t1), ζ(t1)) です。 このパラメタ付けによって線積分を計算すると、 ∫ C grad φ• d⃗l = ∫ t1 t0 fx(ξ(t), η(t), ζ(t)) fy(ξ(t), η(t), ζ(t)) fz(ξ(t), η(t), ζ(t)) • ξ′(t) η′(t) ζ′(t) dt = ∫ t1 t0 ( ∂f ∂x(ξ(t), η(t), ζ(t)) dξ dt(t) +∂f ∂y(ξ(t), η(t), ζ(t)) dη dt(t) +∂f ∂z(ξ(t), η(t), ζ(t)) dζ dt(t) ) dt となります。一方、 g(t) = f (ξ(t), η(t), ζ(t)) と定義すると、合成関数の微分公式により、 dg dt(t) = ∂f ∂x(ξ(t), η(t), ζ(t)) dξ dt(t) +∂f ∂y(ξ(t), η(t), ζ(t)) dη dt(t) +∂f ∂z(ξ(t), η(t), ζ(t)) dζ dt(t) となって、最後の式で積分されている関数と一致しています。よって、1 変数関数の微積分の基本 定理により ∫ C grad φ• d⃗l = ∫ t1 t0 dg dt(t)dt = g(t1)− g(t0) となります。ここで g を f に戻し、さらに f の値を元のスカラー場 φ を使って書けば、 g(t1)− g(t0) = f (ξ(t1), η(t1), ζ(t1))− f(ξ(t0), η(t0), ζ(t0)) = φ(Q)− φ(P ) となります。これで示せました。 □上の証明の方法は、いわば 曲線 C を(パラメタ付けを通じて)まっすぐにのばしてしまって 1 変数関数の微積分 の基本定理にする ということです。だから、1 変数関数の微積分の基本定理と何ら変わらない印象を持ってしまうか も知れません。もちろん、一面としてはそれで正しいのですが、1 変数関数のときにはなかった一 面もあります。それは 始点 P と終点 Q を結ぶ曲線は無数にある ということです。1 変数関数の場合には、積分範囲の下端 a と上端 b を結ぶ「曲線」は閉区間 [a, b] しかありませんでした。しかし、スカラー場の定義域は空間(や平面)ですので、端点を決めただ けではそれらを結ぶ曲線は一つに決まらないわけです。 にもかかわらず、勾配ベクトル場の線積分の値は端点だけで決まる というわけなのです。とくに、始点と終点が一致している閉曲線では、勾配ベクトル場の線積分は 必ず 0 になります。 2.3.2 ポテンシャル この特徴は、スカラー場の話というよりは微分されて出来上がったベクトル場の話と見た方が、 以下で説明するように自然になります。1 変数関数に「導関数」と「原始関数」という言葉があっ たように、場にも「勾配ベクトル場」と対になる名前を用意し、改めて上の性質を述べ直すとよさ そうです。 1変数関数においては、関数 f (x) が与えられたとき「微分して f (x) になる関数」のことを f (x) の原始関数と呼びました。それと同様に、ベクトル場 ⃗F が与えられたとき、「勾配ベクトル場が ⃗ F になるスカラー場」に名前を付けたいのですが、実は物理的な背景から符号を逆にして grad φ =− ⃗F となるスカラー場 φ をベクトル場 ⃗F のポテンシャルと呼ぶ と定義します。なぜ符号を逆にするのかは次の小節で説明します。 さて、ポテンシャルという言葉を使って「勾配ベクトル場の線積分が端点だけで決まる」という 性質を述べ直すとどうなるでしょうか。それは、 ベクトル場 ⃗F がポテンシャルを持つならば、 ⃗F の線積分の値は曲線によらず始点と終 点だけで決まる となります。閉曲線に限って言うなら、 ベクトル場 ⃗F がポテンシャルを持つならば、 ⃗F の閉曲線に沿った線積分の値は必ず 0 である。 となります。だから、例えば与えられたベクトル場をある閉曲線で線積分したら 0 にならなかっ た、ということが起きた場合、そのベクトル場はポテンシャルを持たないわけです。 以上は「ポテンシャルを持つ」ということを仮定した場合の話でした。では、逆は言えないので しょうか? つまり、
ベクトル場 ⃗F の線積分の値が始点と終点のみで決まり 2 点を結ぶ曲線によらないなら ば ⃗F はポテンシャルを持つ とか、 ベクトル場 ⃗F の任意の閉曲線に沿った線積分がすべて 0 ならば ⃗F はポテンシャルを 持つ といった性質は成り立たないのでしょうか? ありがたいことにこれらも成り立ちます。まず、上 の主張が成り立つことを説明しましょう。どこでもいいから点 P0 を一つ決めます。そして、スカ ラー場 φ の点 P における値を φ(P ) = ∫ C ⃗ F• d⃗l で決めます。ただし、C は P0 を始点とし P を終点とする任意の曲線です。この曲線の取り方に よらずに線積分の値が決まることが仮定でしたので、これでちゃんとスカラー場 φ が定義されま す。すると、 grad φ = ⃗F が成り立つのです。確認しましょう。 証明. 正規直交座標系 xyz を決め、それによって φ を表す関数を f (x, y, z)、 ⃗F の成分表示を F (x, y, z) = F1(x, y, z) F2(x, y, z) F3(x, y, z) とします。示したいことは ∂f ∂x(x, y, z) = F1(x, y, z) ∂f ∂y(x, y, z) = F2(x, y, z) ∂f ∂z(x, y, z) = F3(x, y, z) です。どれでも同じですので、一番目を示しましょう。 ∂f ∂x(x, y, z) = limh→0 f (x + h, y, z)− f(x, y, z) h です。これを計算するために、(a, b, c) を座標に持つ点を Q、(a + h, b, c) を座標に持つ点を Qh、 Qと Qh をまっすぐ結ぶ線分を L、P0 と Q を結ぶ曲線を一つ選んで C とします。 Lのパラメタ表示として (a + s, b, c) 0≤ s ≤ h を選びましょう。すると、f(x, y, z) と φ の定 義より、 f (a + h, b, c)− f(a, b, c) = φ(Qh)− φ(Q) = ∫ C+L ⃗ F• d⃗l− ∫ C ⃗ F• d⃗l = ∫ L ⃗ F• d⃗l = ∫ h 0 F1(a + s, b, c) F2(a + s, b, c) F3(a + s, b, c) • (a + s)′ (b)′ (c)′ ds = ∫ h 0 F1(a + s, b, c) F2(a + s, b, c) F3(a + s, b, c) • 1 0 0 ds = ∫ h 0 F1(a + s, b, c)ds
となります。よって、 ∂f ∂x(a, b, c) = limh→0 f (a + h, b, c)− f(a, b, c) h = lim h→0 1 h ∫ h 0 F1(a + s, b, c)ds = lim h→0 ∫h 0 F1(a + s, b, c)ds− ∫0 0 F1(a + s, b, c)ds h = d dh ∫ h 0 F1(a + s, b, c)ds h=0 = F1(a + h, b, c) h=0= F1(a, b, c) となります。(後ろから 2 番目の等号で、1 変数関数の微積分の基本定理を使いました。)これで示 せました。 □ 以上により、 ⃗F が「線積分の値が始点と終点だけで決まる」という性質を持つベクトル場なら、 上のようにスカラー場 φ を作ることで、−φ が ⃗F のポテンシャルになります。 二番目の主張に関しては、「閉曲線に沿った線積分の値が 0」という性質から「線積分の値が始 点と終点だけで決まる」という性質を導ければ十分です。C1 と C2 をどちらも P を始点、Q を 終点とする曲線とすると、C1− C2 は P から出て P に戻る閉曲線になります。よって、 0 = ∫ C1−C2 ⃗ F• d⃗l = ∫ C1 ⃗ F• d⃗l+ ∫ −C2 ⃗ F• d⃗l = ∫ C1 ⃗ F• d⃗l− ∫ C2 ⃗ F• d⃗l となり、 ∫ C1 ⃗ F• d⃗l = ∫ C2 ⃗ F• d⃗l が結論されます。これは線積分の値が始点と終点だけで決まることを意味しています。 なお、曲線をつなぐことやそれについての線積分の性質については第 3 回のプリントを参照して 下さい。 2.3.3 「微積分の基本定理」の意味 例によって世界を平面とし φ が高さを表しているものとして、ポテンシャルと「grad に関する 微積分の基本定理」を解釈してみましょう。 まず、ポテンシャルを理解するために、この設定にさらに「重力」を加えてみましょう。どこで も同じ大きさを持つ重力が下向きに働いているとします。すると点 (P, φ(P )) に置かれた質点には この重力の他に接平面に垂直な抗力が働きます。地面にめり込まないようにしてくれている力で す。重力と抗力の合力が質点に掛かる力ですが、それはもちろん接平面が一番大きく傾いている向 きの反対向きを向いています。(重力が下向きだからです。)そして、合力の大きさは接平面の傾き 具合に比例しています。高さを表すスカラー場 φ は、この重力に関する位置エネルギーを与える スカラー場とも解釈できます。そして、質点に掛かる力は最も効率よく位置エネルギーを小さくす る向きを向くわけです。これがポテンシャルの定義にマイナスを付ける理由です。 次に「grad に関する微積分の基本定理」の意味づけをしてみましょう。第 2.2.3 小節と同様に、 (P, φ(P )) という起伏のある地面の上を走っている車を考えます。この車の地図上での動きを表す 関数を (x, y) = (ξ(t), η(t))
とすると、この車の水平方向の速度ベクトルは x′(t) := ( ξ′(t) η′(t) ) であり、垂直方向の速度が grad f (ξ(t), η(t))• x′(t) で与えられるのでした。さて、上向き速度を積分すると実際に登った高さが出ます。車が時刻 t0 から t1 まで走ったとし、時刻 t0 での地図上での地点を P 、t1 での地図上での地点を Q とする と、上向き速度を時刻 t0 から時刻 t1 まで積分することによって、Q の高さ φ(Q) と P の高さ φ(P )の差になります。つまり、 φ(Q)− φ(P ) = ∫ t1 t0 grad f (ξ(t), η(t))• x′(t)dt です。ところが、この式の右辺は線積分の定義式そのものです。よって φ(Q)− φ(P ) = ∫ C grad φ• d⃗l となるわけです。(C は車の走った地図上での経路です。)つまり、 どんな道で山登りをしようとも、地図上での始点と終点が同じなら登る高さも同じ ということが、勾配ベクトル場の線積分は始点と終点だけで決まるということの意味なのです。 問題 20. 空間に固定された正規直交座標系 xyz によって関数 f (x, y, z) = x2sin 2y sin 3z で表されるスカラー場 φ に対し勾配ベクトル場 grad φ を同じ座標系によって成分表示せよ。 ♪ 問題 21. 空間に固定された正規直交座標系 xyz によって F (x, y, z) = (√ 1 x2+ y2+ z2 )3 x y z と表されるベクトル場 ⃗F のポテンシャルを求めよ。 ♪ 問題 22. 平面に正規直交座標系 xy を一つ決める。その座標系によって F (x, y) = ( −y x ) と表されるベクトル場 ⃗F は、定義域をどのような領域に選ぼうともポテンシャルを持たないこと を示せ。 ♪ 問題 23. 平面に正規直交座標系 xy をひとつ決める。平面から原点を除いたところで定義された ベクトル場 ⃗F をその座標系による成分表示で F (x, y) = 1 x2+ y2 ( −y x ) と定義する。 ⃗F は原点を含む領域ではポテンシャルを持たないことを示せ。 ♪
2.4
0
次微分形式の外微分とストークスの定理
概要で述べたように、スカラー場やベクトル場の微分に対応する微分形式の微分があります。そ の微分を微分形式の次数によらずに外微分と呼びます。ここでは、スカラー場の勾配ベクトル場と いう微分に対応する 0次微分形式の外微分と、勾配ベクトル場に関する微積分の基本定理に対応 するストークスの定理を紹介します。 2.4.1 空間ベクトルと方向微分 微分形式の微分を考える前に、微分形式の「変数」である空間ベクトルについて考えを新にして おく必要があります。以下のようにして、空間ベクトルはスカラー場を「微分する操作」であると 見なすのです。 点 P 、空間ベクトル ⃗v、スカラー場 φ に対し、実数 t を変数とする 1 変数関数 g(t) を g(t) = φ(P + t⃗v) で定義します。(点 Q と空間ベクトル ⃗uに対し、Q + ⃗uとは ⃗uの始点を Q としたときの終点の ことです。)このとき、g′(0)すなわち d dtφ(P + t⃗v) t=0 = lim t→0 φ(P + t⃗v)− φ(P ) t を点 P における φ の ⃗v 方向微分といいます。ここでは ⃗vP(φ)と書くことにします。これは、ス カラー場 φ の定義域を点 P を通り ⃗v を方向ベクトルとする直線に制限したときの点 P における 微分のことです。ただし、その直線を数直線と見なすときに、点 P が 0 で点 P + ⃗v が 1 であるよ うにメモリを振っています。 空間に座標系を固定して、方向微分を座標系を使って表してみましょう。 xyz座標系を任意の線形座標系とし、φ を表す 3 変数関数を f (x, y, z) とします。また、点 P の 座標を (a, b, c)、ベクトル ⃗v の成分表示を u v w とします。すると、上の g(t) は g(t) = φ(P + t⃗v) = f (a + tu, b + tv, c + tw) となりますので、多変数関数における合成関数の微分法により g′(0) = u∂f ∂x(a, b, c) + v ∂f ∂y(a, b, c) + w ∂f ∂z(a, b, c) となります。 注意. 線形とは限らない一般の座標系でもこの表示は成立しますが、時間の都合で証明は省略します。多変数 関数における合成関数の微分公式のよい練習になると思うので、興味のある方は是非考えてみてください。★ 2.4.2 0次微分形式の外微分 方向微分という概念は、 始点とベクトルの組 (P, ⃗v) は、スカラー場に点 P における ⃗v 方向微分 ⃗vP(φ) という スカラーを対応させる操作であるという考え方です。これを スカラー場(すなわち 0 次微分形式)φ は、始点とベクトルの組 (P, ⃗v) に点 P におけ る ⃗v 方向微分 ⃗vP(φ)というスカラーを対応させる操作である と見直すと、1 次微分形式になります。なぜなら、二つのベクトル ⃗v, ⃗wとスカラー a に対し、線 形性 (⃗v + ⃗w)P(φ) = ⃗vP(φ) + ⃗wP(φ) (a⃗v)P(φ) = a(⃗vP(φ)) が成り立つからです。0 次微分形式 φ からこの見なし方で作った 1 次微分形式を dφ と書きます。 U′ 上のスカラー場の全体を Ω0(U′)、U′ 上の 1 次微分形式の全体を Ω1(U′)と書くことにすると、 φに dφ を対応させる操作は d : Ω0(U′)−→ Ω1(U′) という写像になります。これを 0 次微分形式の外微分と言います。1 次微分形式 dφ が (P, ⃗v) に与 える値を dPφ(⃗v)と書きます31。つまり、 dPφ(⃗v) = ⃗vP(φ) です。 座標で書いてみましょう。前小節と同じ設定にします。 ⃗vP(φ) = u ∂f ∂x(a, b, c) + v ∂f ∂y(a, b, c) + w ∂f ∂z(a, b, c) でした。これを (a, b, c) と u v w に対して対応させられた値とみるわけですから、上の式でそ れらを変数と見なせばよいことになります。というわけで、dφ を線形座標系で表す式は ( ∂f ∂x ∂f ∂y ∂f ∂z ) となります。点の座標 (x, y, z) を変数とする三つの関数を横に並べた 1 行 3 列の行列で、これをベ クトルの成分表示という縦ベクトルに左から掛けるのです。 dPφ(⃗v) = ( ∂f ∂x(a, b, c) ∂f ∂y(a, b, c) ∂f ∂z(a, b, c) ) u v w というわけです。 ところで、座標 (x, y, z) の x, y, z 一つ一つは点に数を対応させているのですから 0 次微分形式 (スカラー場)です。と言うことは dx, dy, dz という 1 次微分形式があります。これらはどのよう な 1 次微分形式でしょうか。これらをその xyz 座標を使って表示してみましょう。どれでも同じ ですので dx を考えてみます。上の f のところを x にすればよいわけですから、 dx = ( ∂x ∂x ∂x ∂y ∂x ∂z ) = ( 1 0 0 ) です。つまり、 31これまでは、1 次微分形式 θ が (P, ⃗v)に対してとる値を θ(P, ⃗v)と書いてきました。しかし、「P を決めて ⃗vだけを 変数と見る」という見方をすることが多いので、ここからは θP(⃗v)というように P を小さく書くことにします。すると、 0次微分形式 φ の外微分 dφ という 1 次微分形式については、これまでの書き方だと dφ(P, ⃗v)、これからの書き方だと dφP(⃗v)となるはずです。しかし、「φ を p で外微分する」という感覚があるので、dφP ではなく dPφと書くのが普通 です。このプリントでも普通の書き方に従います。
任意の点にその第 1 座標を対応させる 0 次微分形式(スカラー場)x を外微分してで きる 1 次微分形式 dx は、任意の点を始点とする任意の空間ベクトルにその第 1 成分 を対応させる 1 次微分形式である。 というようになっているのです。同様に、dy はベクトルの第 2 成分を、dz はベクトルの第 3 成分 を取り出す 1 次微分形式です。このことから、任意の 0 次微分形式(スカラー場)φ に対し、φ を xyz 座標で表示した関数が f のとき、 dφ = ∂f ∂xdx + ∂f ∂ydy + ∂f ∂zdz となっていることが分かります。これが、微分形式による「全微分」なるものの説明です。なお、 対応関係がよく分かるようにするために、dφ のことを df と書くこともよくあります。 注意. この表示も一般の座標系で成立します。方向微分を解釈し直しただけなのだから当然なのですが、0次 微分形式の外微分のよい練習になるので、興味のある方は考えてみてください。★ ところで、xyz が正規直交座標系ならば、スカラー場 φ の座標による表示が f (x, y, z) のとき 勾配ベクトル場 grad φ の成分表示は ∂f ∂x ∂f ∂y ∂f ∂z でした。ということは、1 次微分形式とベクトル場の成分表示を f (x, y, z)dx + g(x, y, z)dy + h(x, y, z)dz ←→ f (x, y, z) g(x, y, z) h(x, y, z) によって対応させれば、外微分 d と勾配 grad は一致することになります。ただし、あくまでもこ の一致は座標系が正規直交座標系の場合のみであることに気を付けてください。 2.4.3 0次微分形式の外微分に関するストークスの定理 φを 0 次微分形式、C を始点 P 終点 Q とする曲線とします。これに関するストークスの定理 とは ∫ C dφ = φ(Q)− φ(P ) (34) のことです。これが成り立つことを証明しましょう。 空間に正規直交座標系を固定したとき、1 次微分形式 θ とベクトル場 ⃗F の成分表示が f dx + gdy + hdz と f g h (35) となっているなら、任意の曲線 C について ∫ C θ = ∫ C ⃗ F• d⃗l が成り立ちます。なぜならば、正規直交座標系では 1 次微分形式の線積分の定義式とベクトル場の 線積分の定義式が同じだからです。
さて、第 2.4.2 節の最後に書いたように、式 (35) の成分表示を持つ 1 次微分形式とベクトル場を 対応させるとき、0 次微分形式(すなわちスカラー場)を外微分してできる 1 次微分形式と勾配ベ クトル場の成分表示が対応するのでした。よって、ストークスの定理 (34) を正規直交座標系と適 当なパラメタ付けで表した式は、勾配ベクトル場に関する微積分の基本定理 ∫ C grad φ• d⃗l = φ(Q) − φ(P ) を同じ座標系と同じパラメタ付けで表した式と一致します。勾配ベクトル場に関する微積分の基本 定理が成り立つことは証明済みですので、これでストークスの定理 (34) も証明できたことになり ます。
解答
問題 20 の解答 xでの偏導関数を第 1 成分、y での偏導関数を第 2 成分、z での偏導関数を第 3 成分とするベク トルを書けばよいだけです。 2x sin 2y sin 3z 2x2cos 2y sin 3z 3x2sin 2y cos 3z となります。 問題 21 の解答 求めたいポテンシャルを表す 3 変数関数を f (x, y, z) とすると、f (x, y, z) が満たすべき条件は ∂f ∂x(x, y, z) =− x (√ x2+ y2+ z2 )3 (36) ∂f ∂y(x, y, z) =− y (√ x2+ y2+ z2)3 (37) ∂f ∂z(x, y, z) =− z (√ x2+ y2+ z2)3 (38) の三つです。(マイナスにご注意下さい。) まず、条件 (36) を満たす f (x, y, z) を求めてみましょう。x による偏微分とは、y と z を定数だ と思って x の 1 変数関数として微分することでした。つまり、条件 (36) は、y = b と z = c を任 意に選んで ψ(x) = f (x, b, c) と定義すると ψ′(x) =−(√ x x2+ b2+ c2)3 が成り立つ、という意味です。この式の両辺を x で不定積分すると、 ψ(x) =− ∫ x (√ x2+ b2+ c2)3 dx = √ 1 x2+ b2+ c2+ C となります。(t = x2+ b2+ c2 と置換すれば計算できます。)C は積分定数、すなわち任意の実数 ですが、今の計算は y と z を固定しておこなったわけですから、C は y と z を決めるごとに決 まる実数、すなわち y と z の関数です。以上より、条件 (36) を満たす関数は 1 √ x2+ y2+ z2 + g(y, z) と表される関数です。 同様にして、条件 (37) を満たす関数は 1 √ x2+ y2+ z2 + h(x, z)であり、条件 (38) を満たす関数は 1 √ x2+ y2+ z2 + k(x, y) であることがわかります。 以上を言い換えると、条件 (36) を満たす関数は 1 √ x2+ y2+ z2 +「x によらない関数」 条件 (37) を満たす関数は 1 √ x2+ y2+ z2 +「y によらない関数」 条件 (38) を満たす関数は 1 √ x2+ y2+ z2+「z によらない関数」 ということになります。よって、三つの条件を同時に満たす関数は 1 √ x2+ y2+ z2 +「x にも y にも z にもよらない関数」 です。以上より、求めるポテンシャルは 1 √ x2+ y2+ z2 + C C∈ R という関数によって表されるスカラー場であることが分かりました。 問題 22 の解答 その 1 問題 21 の解答と同じように直接ポテンシャルを求めようとしてみましょう。 求めるポテンシャルを表す関数を f (x, y) とすると、f (x, y) が満たすべき条件は ∂f ∂x(x, y) = y かつ ∂f ∂y(x, y) =−x です。 問題 21 の解答と同様に計算すると、第一の条件を満たす関数は f (x, y) = xy + g(y) であることがわかります。これが第二の条件も満たすためには、 ∂f ∂y(x, y) = x + g ′(y) =−x が成り立たなければなりません。ところが g′(y) は y のみの関数ですので、 x + g′(y) =−x すなわち g′(y) =−2x を満たす g(y) は存在しません。
以上より、問題のベクトル場 ⃗F がポテンシャルを持たないことがわかりました。(定義域に付い ての考察を全くせずに示せたのですから、この証明は定義域がどのような領域であるかに係わらず に成立します。) その 2 「勾配ベクトル場に関する微積分の基本定理」を使って証明しましょう。 平面内の領域 D を勝手にとり、その D において ⃗F がポテンシャルを持たないことを示します。 D に含まれる小さな円 C をとります。C の中心の座標を (a, b)、半径を r とすると、C は、例 えば x = a + r cos t y = b + r sin t 0≤ t ≤ 2π とパラメタ表示することができます。これを使って ⃗F の C 上での線積分を計算すると、 ∫ C ⃗ F• d⃗l = ∫ 2π 0 ( −b − r sin t a + r cos t ) • ( (a + r cos t)′ (b + r sin t)′ ) dt = ∫ 2π 0
((b + r sin t)r sin t + (a + r cos t)r cos t) dt
= ∫ 2π 0 ( ar cos t + br sin t + r2)dt = 2πr2 となって 0 になりません。もし ⃗F がポテンシャルを持つなら、任意の閉曲線に沿っての線積分は 0にならなければならないのですから、線積分が 0 にならない閉曲線があるということは、 ⃗F がポ テンシャルを持たないことを意味します。 問題 23 の解答 その 1 問題 21 の解答や問題 22 の解答その 1 のように、直接ポテンシャルを計算しようとすると 破綻する、ということを示しましょう。 求めるポテンシャルを表す関数を f (x, y) とすると、f (x, y) の満たすべき条件は ∂f ∂x(x, y) = y x2+ y2 (39) ∂f ∂y(x, y) =− x x2+ y2 (40) です。問題 21 の解答や問題 22 の解答その 1 のように条件 (39) を x で不定積分すると、y̸= 0 では f (x, y) = ∫ y x2+ y2dx = 1 y ∫ 1 ( x y )2 + 1 dx = 1 y ∫ 1
t2+ 1ydt = Arctan t + g(y) = Arctan x y + g(y) (41) となります。ただし、Arctan とは「定義域を (−π/2, π/2) に狭めた tan」の逆関数です。また、 y = 0 では条件 (39) は ∂f ∂x(x, 0) = 0 x2+ 0 = 0 となりますので、x で不定積分すると、 f (x, 0) = C (x > 0) f (x, 0) = C′ (x < 0)
となります。ただし、x と y は同時には 0 にならないので、y = 0 においては f (x, 0) の定義域は x > 0と x < 0 の二つに分かれます。ですから C と C′ は同じ値でなくてもかまいません。 この f (x, y) を y で偏微分してもう一つの条件 (40) を満たすように g(y) と C と C′ を選べる かを考えてみましょう。 まず、y̸= 0 のところでは (41) を普通に y で偏微分して ∂f ∂y(x, y) = 1 ( x y )2 + 1 ( −x y2 ) + g′(y) =− x x2+ y2 + g ′(y) となりますので、条件 (40) を満たすことは g′(y) = 0、すなわち g(y) = C′′(y > 0) g(y) = C′′′(y < 0) と同値です。y̸= 0 ですから g(y) の定義域は y の正負で二つに分かれており、それぞれにおいて 定数関数であればよいので、C′′̸= C′′′ でもかまいません。 次に y = 0 における偏微分を考えるのですが、問題の条件として「 ⃗F の定義域は原点を含む領 域(から原点を除いたところ)」となっていますので、この定義域は、y = 0(すなわち x 軸)の正 の部分も負の部分も含みます。まず x > 0 かつ y = 0 での条件 (40) を考えてみましょう。y で偏 微分可能であるためには、f (x, y) は y の関数として連続でなければなりません。すなわち、x > 0 のとき lim y→0f (x, y) = f (x, 0) = C が成り立たねばなりません。左辺の極限を計算してみると、 lim y→+0f (x, y) = limy→+0Arctan x y + C ′′= π 2 + C ′′ および、 lim y→−0f (x, y) = limy→−0Arctan x y + C ′′′ =−π 2 + C ′′′ となります。よって、f (x, y) が x > 0, y = 0 で y について連続であるための条件は C = π 2 + C ′′=−π 2 + C ′′′ (42) であることがわかりました。 同様の計算を x < 0 ですると、x < 0, y = 0 で f (x, y) が y について連続であるための条件は C′=−π 2 + C ′′= π 2 + C ′′′ (43) であることがわかります。 ところが、条件式 (42) からは C′′′= π + C′′ が得られ、条件式 (43) からは C′′′=−π + C′′ が得られてしまい、この二つを同時に満たす C′′, C′′′ は存在し得ません。 以上により、原点を含む領域(から原点を除いたところ)では問題のベクトル場 ⃗F はポテンシャ ルを持たないことがわかりました。
その 2 問題 22 の解答その 2 と同様の方法で解きましょう。 原点を含む領域(から原点を除いたところ)は原点を中心とした円を含みます。その円を C と し、半径を r として x = r cos t y = r sin t 0≤ t ≤ 2π とパラメタ付けして、C に沿った ⃗F の線積分を計算してみると、 ∫ C ⃗ F• d⃗l = ∫ 2π 0 ( −sin t r cos t r ) • ( (r cos t)′ (r sin t)′ ) dt = ∫ 2π 0 1dt = 2π となって 0 になりません。よって、問題のベクトル場 ⃗F はポテンシャルを持ちません。 注意. 問題23の解答その1とその2を比較すると、その2の方法の強力さが分かると思います。 しかし、解答その1の考察を注意深く見ると、定義域が原点を取り囲む閉曲線を含まないなら、問題のベ クトル場がポテンシャルを持つことが分かります。例えば、定義域として平面全体からx軸のx≤ 0の部分 を除いたものとすると、 f (x, y) = Arctanx y + C− π 2 y > 0 C y = 0 Arctanx y + C + π 2 y < 0 がポテンシャルになっています。 原点を囲む閉曲線を含まない領域に定義域を制限するとポテンシャルを持つということを解答その2の方 針で示すのはとても大変そうです。なぜなら、「原点を囲まないすべての閉曲線について線積分が0となる」 ということを示さなければならないからです。だから、ここまで考えに入れると、必ずしも「微積分の基本 定理」を使った方法の方がよりよいとは言えない気がするかも知れません。ところが、回転ベクトル場とそ れに関する「微積分の基本定理」であるストークスの定理を使うと、このことも回転ベクトル場を計算する だけで分かってしまうのです。そこまで学んだあとであれば、やはりその2の解法の方が強力であると言え ることになります。以上のことについては回転ベクトル場とストークスの定理を説明したあとで改めて説明 します。★