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糖尿病腎症の重症化予防における理学療法

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 46 巻第 3 号 201 ∼ 208 頁(2019 糖尿病腎症の重症化予防における理学療法 年). 201. 理学療法トピックス シリーズ 「糖尿病重症化予防と理学療法」. *. 連載第 2 回 糖尿病腎症の重症化予防における理学療法. 平 木 幸 治 1). 濾過量の低下がある 3)。これは運動により多くの血液が. はじめに. 筋肉へ再配分されることによって生じるものである。ま.  本邦の慢性腎臓病(以下,CKD)の患者数は成人の. た,高強度の運動負荷は尿蛋白の排泄を誘発しやすい。. 8 人に 1 人にあたる約 1,300 万人と推計されており,新. このように運動は腎血行動態(腎虚血)や尿蛋白排泄に. たな国民病といわれている。さらに,透析患者数の増加. 影響を与えることから,CKD 患者に運動を行うと腎機. は年々鈍化しているものの 2017 年末には 334,505 人に. 能が悪化するのではないだろうかという懸念から,これ. 1). 。現在,透析治療を行って. までは安静や運動制限をするなどあまり推奨されてこ. いる患者でもっとも多い原疾患は糖尿病腎症(腎症)で. なかった。この考え方は,CKD の主要な原疾患である. あり,かつ新規に透析導入に至る原疾患も腎症がもっと. 腎症においても同様である。表 1 に糖尿病治療ガイド. も多い。高齢化の進展と糖尿病患者の増加を背景に透析. 4) 5) 6) 2012 − 2013 ,2014 − 2015 ,2016 − 2017 に掲載. 患者は今後も増加することが予想される。そして,透析. されている糖尿病腎症生活指導基準の運動内容をまとめ. 治療の費用は 1 人あたり年間 500 万円程度かかることか. たものを示す。2013 年度までは腎症の病期が第 3 期 B. ら,透析患者全体の医療費は総額 1.6 兆円超となり,こ. まで進行すると運動に関しては“運動制限”するように. の高額な医療費を抑制することは喫緊の課題である。そ. 明記されていた。そして,2014 年度に糖尿病腎症病期. こで,国としても CKD や腎症の対策が検討されるよう. 分類が改訂され,第 3 期の A と B の区分が削除された。. になり,透析患者の減少をめざした取り組みが行われ. このとき,第 3 期の“運動制限”の文言は削除された. るようになってきた。2018 年に厚生労働省より発表さ. が,第 4 期ではまだ“運動制限”と明記されていた。た. 達し,依然増加傾向にある. 2). によると,2028 年まで. だし,この頃に後述する CKD 患者の運動療法の有効性. に年間の新規透析導入患者数を現在の約 39,000 人から. を示す報告が複数みられるようになり,2016 年度から. 35,000 人以下に減少させるという具体的な成果目標が掲. は第 4 期における“運動制限”も削除された。このよう. げられた。この腎疾患対策において,運動療法により適. に以前から腎症に対する運動は病期が進行すると運動制. 度な身体活動を行うことで糖尿病や高血圧などの CKD. 限することが一般的であり,糖尿病療養指導の分野では. の危険因子の低減をはかり腎機能低下の防止,ひいては. その考え方は長く定着していた。しかし,運動が腎症の. 新規透析導入患者数の減少効果が期待されている。. 発症・進展に悪影響を及ぼすという報告はなく,このよ.  本稿では,近年の CKD 患者に対する運動療法の考え. うな運動制限に臨床的な根拠は示されていない。海外で. 方の変遷とその有効性について概説し,日本糖尿病理学. は CKD 患者に運動制限しないことが一般的であること. 療法学会による腎症患者に対する理学療法士のかかわり. から,我が国では諸外国と比較し過剰に運動制限が行わ. についての調査結果を紹介する。. れてきた可能性がある。. れた腎疾患対策検討会報告書. 糖尿病腎症に対する運動制限  運動による腎機能の影響としては,腎血流量や糸球体. CKD 患者に対する運動療法の安全性と有効性  前述したように,これまで透析を導入していない保存 期の CKD 患者に対する運動療法は,腎機能悪化を懸念. *. Physical Therapy in Aggravation Prevention of Diabetic Nephropathy 1)聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーションセンター (〒 216‒8511 神奈川県川崎市宮前区菅生 2‒16‒1) Koji Hiraki, PT, MSc: Rehabilitation Center, St. Marianna University School of Medicine Hospital キーワード:糖尿病腎症,慢性腎臓病,重症化予防,理学療法. して積極的には勧められてこなかった。そのため,我々 は保存期 CKD 患者に対する運動療法の安全性から検討 を行った。  まず我々は,保存期 CKD 患者(推算糸球体濾過量.

(2) 202. 理学療法学 第 46 巻第 3 号. 表 1 糖尿病腎症生活指導基準(文献 4 ∼ 6 より作成) 運動 病期. 糖尿病治療ガイド 2012-2013 年まで. 糖尿病治療ガイド 2014-2015 年. 糖尿病治療ガイド 2016-2017 年. 第1期 (腎症前期). 原則として糖尿病の運動療 原則として糖尿病の運動療 原則として糖尿病の運動療 法を行う 法を行う 法を行う. 第2期 (早期腎症期). 原則として糖尿病の運動療 原則として糖尿病の運動療 原則として糖尿病の運動療 法を行う 法を行う 法を行う. ・原則として運動可。ただ し病態によりその程度を調 ・原則として運動可。ただ 節する 第3期 し病態によりその程度を調 ・過激な運動は不可 (顕性腎症期) 節する ・運動制限 ・過激な運動は不可 第3期B ・体力を維持する程度の運 (顕性腎症後期) 動は可. 第3期A (顕性腎症前期). 第4期 (腎不全期) 第5期 (透析療法期). ・原則として運動可。ただ し病態によりその程度を調 節する ・過激な運動は避ける. ・運動制限 ・散歩やラジオ体操は可. ・運動制限 ・体力を維持する程度の運 ・散歩やラジオ体操は可 動は可 ・体力を維持する程度の運 動は可. ・原則として軽運動 ・過激な運動は不可. ・原則として軽運動 ・過激な運動は不可. ・原則として軽運動 ・過激な運動は不可. eGFR 38 mL/ 分 /1.73m2)に対して中等度の単回運動負.  その結果,身体活動量の増加した運動介入群,対照群. 荷が腎機能を悪化させるか否かを腎機能に関連する尿検. 2 ともに介入前後の eGFR は 1 ∼ 2 mL/ 分 /1.73m 程度. 7) 査指標を用いて検討を行った 。運動負荷はトレッドミ. の変化と著明な変化はなかった(図 1)。このことより,. ルによる中等度負荷の歩行を 20 分間実施し,その運動. 保存期 CKD 患者に中等度の運動負荷を 1 年間与えても,. 前後に採尿検査を行った。尿検査指標は,腎虚血を反映. 腎機能に悪影響を与えなかったことから運動療法は安全. する指標(尿中肝臓型脂肪酸結合蛋白:L-FABP)や糸. に実施できることが示された。次に,運動療法の有効性. 球体障害の指標(尿中アルブミン)などを採用した。そ. については,運動介入群のみ握力と膝伸展筋力が有意に. の結果,中等度の単回運動負荷前後で腎機能に関連する. 増加したことから,保存期 CKD 患者に対する運動療法. すべての尿検査指標で有意な変化はみられなかった。こ. の有効性が示された。. のことから,我々は中等度の単回運動負荷では腎機能を.  以上のことから,我々は保存期 CKD 患者に対する運. 悪化させない可能性を報告した。. 動療法は,中等度の運動負荷を 1 年間与えても腎機能に.  次に,長期間の運動負荷を CKD 患者に与えても腎機. 悪影響がないことから安全に実施でき,かつ上下肢筋力. 能に悪影響がないのかを検証するために,我々は保存期. が改善できることから CKD 患者のフレイル・サルコペ. CKD 患者に対する運動療法の安全性と有効性について. ニア対策にも有効であると考えている。. 8). 介入期間 1 年間のランダム化比較試験を行った 。対象 は,CKD ステージ 3 ∼ 4 の保存期 CKD 患者 36 例(年. 腎臓リハビリテーションガイドライン. 2 齢 68.7 歳,eGFR 39.0 mL/ 分 /1.73m )である。運動介.  糸球体腎炎やネフローゼ症候群などは,以前より運動. 入群は,在宅にて有酸素運動とレジスタンス運動を 1 年. をしないよう安静や運動制限が勧められていたがその有. 間実施した。有酸素運動は,加速度センサー付歩数計を. 効性については明らかとなっていなかった。また,保存. 1 年間装着し,1 回 30 分の早歩き,もしくは 1 日 8,000. 期 CKD 患者についても運動療法が有益なのかはわかっ. ∼ 10,000 歩を目標に身体活動量を増加するように運動. ていなかった。そこで,2018 年に発行された腎臓リハ. 指導した。レジスタンス運動は握力強化運動と自重負荷. ビリテーションガイドラインにおいて,これらの安全性. によるスクワットとカーフレイズを各 20 ∼ 30 回行い,. や有効性をみるためにシステマティックレビューが行わ. 1 週間に最低 3 回は実施するように指導した。一方,対. れた. 照群にも歩数計を装着したが,特に運動指導することな. 候群患者に関して,運動制限を支持する臨床的なエビデ. く普段の生活活動のみ観察した。そして,在宅での運動. ンスがないことから,推奨文としては「運動制限は行わ. 療法の実施状況の評価や運動指導は,2 ∼ 3 ヵ月に 1 度. ないことを提案する」とされた。また,保存期 CKD 患. の外来診察日に行った。. 者においてはメタアナリシスの結果,運動療法は生命予. 9). 。その結果(表 2),糸球体腎炎やネフローゼ症.

(3) 糖尿病腎症の重症化予防における理学療法. 203. 図 1 保存期 CKD 患者に対する運動介入研究結果(文献 8 より作図). 表 2 腎臓リハビリテーションガイドライン(文献 9 より作成) CQ 1. 糸球体腎炎患者に運動制限は推奨されるか? 糸球体腎炎患者に運動制限を行わないことを提案する.【2D】. CQ 2. ネフローゼ症候群に安静・運動制限は推奨されるか? ネフローゼ症候群患者に過度な安静や運動制限を行わないことを提案する.【2D】. CQ 3. 保存期 CKD 患者に運動療法は推奨されるか? 年齢や身体機能を考慮しながら可能な範囲で運動療法を行うことを提案する.【2C】. CQ 4. 運動療法は透析患者において有効か? 透析患者における運動療法は,運動耐容能,歩行機能,身体的 QOL の改善効果が示唆される ため,行うことを推奨する.【1B】. 【エビデンスの強さ,および推奨の強さ】  エビデンス総体のエビデンスの強さ A(強): 効果の推定値に強く確信がある.B(中): 効果の推定値に中程度の確信がある.C(弱): 効果の推定値に対する確信は限定的である.D(とても弱い): 効果の推定値がほとんど確信でき ない.  推奨の強さ 1(強い):「実施する」または,「実施しない」ことを推奨する.2(弱い):「実施する」または, 「実施しない」ことを提案する.. 11). 後や腎予後,入院リスクを改善させるというエビデンス. 予後や生命予後不良と関連していた. は認めないものの,運動耐容能や QOL の維持改善効果. ステージ 2 ∼ 5 の保存期 CKD 患者を対象に,身体機能. を認めることから推奨文は「年齢や身体機能を考慮しな. 評価(握力,膝伸展筋力,バランス機能,最大歩行速度). がら可能な範囲で運動療法を行うことを提案する」と明. を実施し,それらを CKD ステージ別に比較した. 記された。つまり,これまでの「運動制限」から現在で. の結果,CKD ステージの悪化に伴いすべての身体機能. は「運動の推奨」へと CKD 患者に対する運動療法の考. 指標は低下していた。特に,CKD ステージ 4 と 5 の患. え方は近年で大きく変わってきている。. 者の筋力は同年代の健常者平均値より 10 ∼ 30%も低下. CKD 患者のフレイル・サルコペニア対策 1.身体的フレイル 10). していることを報告している. 。我々も CKD. 12). 。そ. 13). 。この保存期 CKD 患者. の身体機能低下の要因について検討した結果,eGFR や 尿蛋白など腎機能低下の要因の関与が示された。これ以. ,保存期 CKD 患者を対象に腎機能別に. 外にも,我々は保存期 CKD 患者の身体機能低下は,糖. フレイルの割合を検討した結果,eGFR が低く腎機能が. 尿病を合併している症例では低下しやすく(表 3),そ. 悪化するほどその割合は高くなることを報告している。. の要因として糖尿病の合併症として高頻度に認められる. これら保存期 CKD 患者のフレイルの頻度は 5.9 ∼ 56%. 糖尿病多発神経障害の関与を報告している. と一般集団より高率であり,フレイルは CKD 患者の腎. 腎機能の低下した CKD 患者では,従来より腎保護効果.  Reese らは. 14). 。さらに,.

(4) 204. 理学療法学 第 46 巻第 3 号. 表 3 糖尿病を合併した保存期 CKD 患者の身体機能(文献 14 より改変引用) 非 DM 群 (n=121). DM 群 (n=72). F値. p値. 握力(kgf). 33.5 ± 0.7 * (32.2 ‒ 34.9). 29.9 ± 0.9 (28.1 ‒ 31.6). 9.5. <0.01. 膝伸展筋力(kgf/kg). 0.60 ± 0.01 * (0.58 ‒ 0.63). 0.56 ± 0.02 (0.53 ‒ 0.59). 4.0. 0.04. 片脚立位時間(秒). 43.3 ± 1.8 * (39.6 ‒ 47.0). 35.2 ± 2.5 (30.2 ‒ 40.1). 5.7. 0.02. 歩行速度(m/ 秒). 2.01 ± 0.04 * (1.94 ‒ 2.08). 1.88 ± 0.05 (1.79 ‒ 1.97). 4.3. 0.04. 非 DM 群 (n=121). DP 非合併群 (n=25). DP 合併群 (n=47). F値. p値. 握力(kgf). 33.5 ± 0.7 # (32.2 ‒ 34.9). 31.8 ± 1.5 (28.9 ‒ 34.8). 28.7 ± 1.1 (26.5 ‒ 30.9). 6.2. <0.01. 膝伸展筋力(kgf/kg). 0.60 ± 0.01 # (0.58 ‒ 0.63). 0.61 ± 0.03 # (0.56 ‒ 0.66). 0.52 ± 0.02 (0.49 ‒ 0.47). 5.1. <0.01. 片脚立位時間(秒). 43.3 ± 1.8 # (39.6 ‒ 47.0). 46.2 ± 4.0 # (38.2 ‒ 54.1). 28.7 ± 3.1 (22.6 ‒ 34.8). 9.0. <0.01. 歩行速度(m/ 秒). 2.01 ± 0.04 # (1.94 ‒ 2.08). 2.00 ± 0.08 # (1.86 ‒ 2.15). 1.80 ± 0.06 (1.69 ‒ 1.92). 4.4. 0.01. DM:糖尿病,DP:糖尿病多発神経障害  平均値±標準誤差(95% 信頼区間) 交絡因子:推算糸球体濾過量,ヘモグロビン,血清アルブミン,尿蛋白 * p<0.05 DM 群と比較し有意差あり,# p<0.05 DP 合併群と比較し有意差あり  対象は CKD ステージ 2 ∼ 5 の保存期 CKD 男性患者 193 例.DM 群の身体機能は非 DM 群と比較し低値 を示した.この DM 群の身体機能低下に関与する要因を重回帰分析で検討した結果,DP の有無が抽出さ れた.. を期待して食事療法においては蛋白質制限が行われてき. になってきた。我々は,65 歳以上の高齢保存期 CKD 患. た。そこで,食事による蛋白質摂取量と下肢筋力の関係. 者を対象に日本語版モントリオール認知評価(MoCA-J). を検討した. 15). 。その結果,蛋白質摂取量と下肢筋力の. を用いて軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment: 17). 。その結果,高齢. 間には正の相関があることから,保存期 CKD 患者の筋. 以下,MCI)の有症率を調査した. 力低下と蛋白質摂取量の低下は密接に関係することを指. 保存期 CKD 患者の 62.5%に MCI を認め,その有症率. 摘している。. は健常高齢者に比べ高率であることを明らかにした。.  このような保存期 CKD 患者の身体機能の低下は,最. MCI とは認知症の前駆段階とされており,MCI は認知. 近の観察研究より生命予後の不良因子となることが明ら. 症への移行率が高い。その一方で,MCI は認知機能が. 16). ,ステージ 2 ∼. 正常域へ改善することもしばしば認められることが知ら. 4 の保存期 CKD 患者を対象として身体機能指標(快適. れており,認知症予防の新たな対象として注目されてい. 歩行速度,Timed up and go テスト,6 分間歩行距離,. る。この保存期 CKD 患者の MCI の関連要因として歩. 握力)の結果が低値な者ほど生命予後も不良となること. 行速度の低下の関連を示している。. を報告している。これら 4 つの身体機能指標の中でも,.  さらに,高齢保存期 CKD 患者の認知機能の推移を 2. 特に快適歩行速度と Timed up and go テストは死亡リ. 年間の前向きコホート研究により調査した. スクのハザード比が高値であった。これらは腎機能や血. 果,腎機能が重度に低下し,かつ身体機能低下(歩行速. 液バイオマーカーよりも 3 年後の死亡リスクをより強. 度低下)を合併していることが認知機能低下の独立した. 力に予測できることが示されている。以上のことから,. 関連要因として抽出された。一方,腎機能が重度に低下. 我々は CKD の早期から,つまり保存期の段階より身体. している症例でも,高い身体機能を有した群では有意な. 機能の維持改善目的の運動介入が必要だと考えている。. 認知機能低下を認めなかった。これらのことから,保存. かとなってきた。Roshanravan らは. 18). 。その結. 期 CKD 患者の認知機能低下を予防するためには,歩行 2.精神心理的フレイル. 速度など身体機能を良好に保つことが有効である可能性.  CKD 患者の認知機能障害は透析患者だけでなく,保. を示した。. 存期 CKD の段階より高頻度に認められることが明らか.

(5) 糖尿病腎症の重症化予防における理学療法. CKD 患者の腎重症化予防における運動療法  Greenwood ら の 介 入 研 究. 19). 205. の Steno-2 研究の日本版試験ともいえる大規模臨床試験 J-DOIT3 が行われた. 23). 。J-DOIT3 は,2 型糖尿病患者. で は,CKD ス テ ー ジ. を対象とした血管合併症抑制のための強化療法と従来治. 3 ∼ 4 の保存期 CKD 患者を対象に中等度∼高強度の. 療とのランダム化比較試験である。従来のガイドライン. 有酸素運動とレジスタンス運動を 1 年間実施し,腎機. よりも厳格な治療を行う強化療法群では,主要評価項目. 能(eGFR)に対する効果を検討している。その結果,. (心筋梗塞,脳卒中,死亡など)の発症は危険因子で補. 1 年 間 の eGFR の 変 化 は, 運 動 介 入 群 は ‒ 3.8 mL/ 分. 正するとリスク減少は 24%となったほか,脳血管イベ. 2. 2 /1.73m に対して対照群は ‒ 8.5 mL/ 分 /1.73m であり,. ントについては 58%と大幅に抑制できることが明らか. 運動介入群の方が腎機能の低下が緩やかであった。ま. になった。また副次評価項目のうち,腎イベント(腎症. た近年では,保存期 CKD 患者を対象とした歩行運動. の発症・進展)の発症については,強化療法群は 32%. が,腎予後や生命予後と関連することが報告されてい. の有意な抑制効果が示された。以上のことから,腎症の. 20). ,歩行運動を. 治療戦略として食事・運動療法を含めた生活習慣の是正. 行っている者は行っていない者と比較して腎機能低下を. と血糖,血圧,血清脂質の管理目標をめざす多因子介. 抑制でき,1 週間の身体活動量が多い(週 150 分以上). 入による集学的治療が推奨されている. 者ほど eGFR の低下率が低く抑えられることが示され. は CKD の危険因子である糖尿病,高血圧,脂質異常症. る。Robinson-Cohen らの観察研究では. 21). 24). 。運動療法に. ,CKD ステージ 3 ∼ 5 の 6,363. などの生活習慣病の改善に効果があることが認められて. 例に対し歩行運動を行っている群と行っていない群の 2. いる。そのため,理学療法士もこの多職種で構成された. 群に分類し,死亡および腎代替療法(透析治療や腎移植). チーム医療による集学的治療の一員として加わり,腎重. へ移行したか否かを前向きに調査している。その結果,. 症化予防に寄与する意義は高いと思われる。. た。さらに,Chen らは. 歩行運動を行っていた群では行っていない群と比較し有 意に死亡率が低く,腎代替療法移行の累積発生率が低値. 糖尿病腎症患者の運動療法に対する診療報酬. であることが示された。また,歩行運動群は,全死亡を.  前述したように,本邦では腎症から透析治療に至る患. 33%,腎代替療法移行リスクを 21%減少させ得ること. 者が増加しており,医療経済的に大きな問題を抱えてい. から,保存期 CKD 患者の運動療法は生命予後や腎予後. る。そこで厚生労働省は,2012 年度の診療報酬改定よ. の双方に有効性をもたらす可能性がある。. り,糖尿病による透析導入患者の増加抑制をめざして糖.  腎臓リハビリテーションガイドライン. 9). において,. 尿病透析予防指導管理料を新設した(表 4)。それによ. 保存期 CKD 患者の腎予後に対する運動療法の影響をみ. り,糖尿病患者指導の経験をもつ医師が,少なくとも看. るためにメタアナリシスが行われた。12 ∼ 24 週間の. 護師と管理栄養士と連携し,同日に指導を行えば 1 人あ. 運動介入により eGFR の変化量が+ 2.22(0.68 ∼ 3.76). たり月 1 回 350 点の算定が認められるようになった。さ. 2. mL/ 分 /1.73m と腎機能の有意な改善が認められた。. らに,2016 年度より糖尿病透析予防指導管理料を算定. しかし,いずれの研究も症例数が少なく,対象も介入方. 2 している施設において,eGFR 30 mL/ 分 /1.73m 未満. 法や期間も異なることからエビデンス不十分のため運動. の進行した腎症患者に対し,専任の医師が必要な運動指. 療法で腎予後が改善する,とまでは結論されなかった。. 導を行った場合に腎不全期患者指導加算(月 1 回,糖尿. 今後,大規模な運動介入研究により腎機能が改善するの. 病透析予防指導管理料の 350 点に 100 点の加算)が算定. か否かの確認が必要である。. できるようになった。さらに,2018 年度からはこの加. CKD 患者における集学的治療と理学療法. 2 算が eGFR 45 mL/ 分 /1.73m 未満へと対象者が拡大さ. れ,その名称も高度腎機能障害患者指導加算へと変更さ.  腎症をはじめとした CKD の治療には複数のリスク因. れた。ただし,この運動指導による加算を算定するため. 子の管理が重要となる。微量アルブミン尿を伴う 2 型糖. には,表 4 の施設基準に示すように,運動により腎機. 尿病患者を対象とした Steno 2 研究. 22). では,強化治療. 能が維持改善したことを地方厚生局に提出し,一定水. 群と従来治療群による治療効果が比較検討されている。. 準以上の成果を出している医療施設とみなされる必要. 強化治療群は,生活習慣の改善(食事・運動療法,禁煙. がある。つまり,運動指導による治療効果のある施設. 指導)と高血糖,高血圧,脂質代謝異常や微量アルブミ. と認められなければこの加算を算定することはできな. ン尿に対する薬物治療が実施された。その結果,強化治. い。そのため,どこの施設でも腎症患者に運動指導すれ. 療群は心血管疾患イベントを 50%低下し,腎症および. ば 100 点の加算ができるわけではない。実際に,中央社. 網膜症の進展を 60%低下させた。これにより,チーム. 会保険医療協議会の資料. 医療による集学的治療によって腎症や心血管合併症を予. 導管理料の届出施設は 1,514 施設ある内,腎不全期患者. 防できることが明確に示された。一方,我が国でも,こ. 指導加算の届出施設数は 66 施設と,わずか 4.4% しかな. 25). によると糖尿病透析予防指.

(6) 206. 理学療法学 第 46 巻第 3 号. 表 4 糖尿病腎症患者の運動療法に対する診療報酬 1.糖尿病透析予防指導管理料 350 点(2012 年度∼) [算定要件] 外来通院中の糖尿病患者(腎症 2 期以上) ,HbA1c6.5%以上。月1回に限り算定可 透析予防診療チーム:医師,看護師,管理栄養士 2.腎不全期患者指導加算 100 点(2016 年度∼) [算定要件] 腎不全期(eGFR が 30 mL/ 分 /1.73m2 未満)の患者に対し , 専任の医師が当該患者が腎 機能を維持する観点から必要と考えられる運動について,その種類,頻度,強度,時間, 留意すべき点等について指導し,また既に運動を開始している患者についてはその状況 を確認し,必要に応じてさらなる指導を行った場合に,腎不全期患者指導加算として 100 点を所定点数に加算する。 [施設基準] 次に掲げる②の①に対する割合が 5 割を超えていること。 ① 4 月前までの 3 ヵ月間に糖尿病透析予防指導管理料を算定した患者で,同期間内に測 定した eGFRCr または eGFRCys が 30 未満であったもの(死亡したもの,透析を導入し たもの,腎臓移植を受けたものを除き 6 人以上の場合に限る)。 ②①の算定時点(複数ある場合はもっとも早いもの。以下同じ。)から 3 ヵ月以上経過し た時点で以下のいずれかに該当している患者。 ア)血清クレアチニンまたはシスタチン C が①の算定時点から不変または低下している。 イ)尿蛋白排泄量が①の算定時点から 20%以上低下している。 ウ)①で eGFRCr または eGFRCys を測定した時点から前後 3 ヵ月時点の eGFRCr また は eGFRCys を比較し,その1ヵ月あたりの低下が 30%以上軽減している。 3.高度腎機能障害患者指導加算 100 点(2018 年度∼) [算定要件] 2 eGFR45 mL/ 分 /1.73m 未満の腎症患者 eGFR:推算糸球体濾過量,eGFRCr:血清クレアチニンを用いた eGFR,eGFRCys:シスタチ ン C を用いた eGFR. かった。算定回数においては,糖尿病透析予防指導管.  まず,腎症患者に対して理学療法を「行っている」. 理料は 9,711 回 / 月のところ,腎不全期患者指導加算は. と 回 答 し た 割 合 は 有 効 回 答 数 1,363 名 の う ち 537 名. わずか 69 回 / 月しか算定されていなかった。このよう. (39.4%)で, 「行っていない」と回答した割合 826 名. に,CKD 患者の運動療法に対する診療報酬は,糖尿病. (60.6%)と比較すると大きく下回っていた(図 2) 。そ. 透析予防指導管理料を申請している施設のさらにそのご. の腎症患者にかかわりをもっていないおもな理由を調査. く一部でしか算定することができず,かつ糖尿病以外. した結果,「医師からの処方がでない」64.0%,次いで. の CKD 患者に対する算定も認められていない。しかし,. 「腎症の患者がいない」39.3%の割合が多かった。これ. 数年前までは腎症をはじめとする保存期 CKD 患者には. まで腎症に対して運動療法が推奨されてこなかった背景. 運動制限が推奨されていたことを考慮すると,今回運動. もあるため,通常の糖尿病患者に対する理学療法と比較. 指導による予防目的の診療報酬が新設されたこと自体が. すると,腎症患者に対する理学療法の処方箋がでる可能. 画期的なことといえる。. 性は少ないものと推察された。また,腎症患者に理学療. 糖尿病腎症患者に対する理学療法士のかかわり. 法を行っていると回答した理学療法士を対象に,腎症患 者にかかわるおもな目的を調査したところ,腎症の重症.  日本糖尿病理学療法学会では,日本理学療法士協会. 化予防というより,むしろ入院中の ADL 低下防止やフ. の 2016 年度分科学会の職能に資するエビデンス研究と. レイル・サルコペニアの予防改善目的の方が多い結果で. して「糖尿病足病変・糖尿病腎症患者における理学療法. あった。したがって,実際に腎症患者に対して重症化予. 士のかかわりの実態調査」を実施し,その報告書を協会. 防目的に理学療法を行っている割合は今回の 39.4% より. ホームページに掲載. 26). している。本調査は,日本糖尿. さらに低値となる可能性が示唆された。. 病理学療法学の会員(2016 年 12 月時点 4,680 名)を対.  腎症にかかわりをもっている理学療法士のうち,糖尿. 象にアンケート(回収率 30.3%)を行ったもので,本稿. 病透析予防指導管理料の透析予防診療チームの一員とし. ではその一部である腎症患者に対する理学療法士のかか. てかかわりをもっていると回答した者は,有効回答数. 27). を紹介する。なお,本調査にお. 537 名のうち,わずか 24 名(4.5%)のみであった。こ. ける腎症患者に対する理学療法は,腎障害の進展予防. の糖尿病透析予防指導管理料にかかわっている 24 名の. わりについての実態. (重症化予防)に焦点を置いたかかわりと定義した。. うち,医師と運動指導を行って腎不全期患者指導加算.

(7) 糖尿病腎症の重症化予防における理学療法. 207. 図 2 糖尿病腎症患者における理学療法士のかかわりの実態調査(文献 27 より作図) 日本糖尿病理学療法学会員(2016 年 12 月末時点の 4,680 名)を対象に糖尿病腎症に 対する理学療法士のかかわりについて WEB アンケートにより実態を調査した(回収 率 30.3%).平均年齢は 36.3 ± 7.8 歳,経験年数は平均 12.6 ± 7.5 歳であった.. (100 点)も算定している者は 7 名(29.2%)のみであっ た。これらのことから,運動療法により腎重症化予防に 貢献できる可能性があるにもかかわらず,糖尿病透析予 防指導管理料にかかわっている理学療法士が非常に少な いことが明らかとなった。糖尿病透析予防指導管理料の 施設基準には,配置が望ましい職種として理学療法士が 挙げられている。また,糖尿病療養指導士制度だけでな く,新たに 2018 年度から腎臓病療養指導士制度(理学 療法士は対象資格ではない)が,2019 年度には腎臓リ ハビリテーション指導士制度がスタートしている。理学 療法士が腎症をはじめとする CKD 患者の運動指導に参 画することはこの分野で大いに期待されている。. おわりに  腎症に代表されるように CKD 患者に対する運動の考 え方はこの 10 年で大きく変わってきている。一方で, 保存期 CKD 患者の運動療法による腎予後や生命予後を 改善させるエビデンスはまだなく,介入研究も小規模な ものがほとんどである。腎症患者に対する運動指導によ る診療報酬の適応拡大や増点をはかるためには,これら 腎症患者に対する理学療法のエビデンスを構築する必要 がある。 文  献 1)新田孝作,政金生人,他:わが国の慢性透析療法の現況 (2017 年 12 月 31 日現在) .日本透析医学会雑誌.2018; 51: 699‒766. 2)厚生労働省ホームページ  「腎疾患対策検討会報告書∼腎 疾患対策の更なる推進を目指して∼」について.https:// www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000172968_00002.html (2019 年 2 月 14 日引用) 3)Taverner D,Craig K, et al.: Effects of exercise on renal function in patients with moderate impairment of renal. function compared to normal men. Nephron. 1991; 57: 288‒292. 4)日本糖尿病学会(編) :糖尿病治療ガイド 2012-2013.文光 堂,東京,2012,pp. 78‒79. 5)日本糖尿病学会(編・著):糖尿病治療ガイド 2014-2015. 文光堂,東京,2014,pp. 80‒81. 6)日本糖尿病学会(編・著):糖尿病治療ガイド 2016-2017. 文光堂,東京,2016,pp. 84‒85. 7)Hiraki K, Kamijo-Ikemori A, et al.: Moderate-intensity single exercise session does not induce renal damage. J Clin Lab Anal. 2013; 27: 177‒180. 8)Hiraki K, Shibagaki Y, et al.: Effects of home-based exercise on pre-dialysis chronic kidney disease patients: a randomized pilot and feasibility trial. BMC Nephrol. 2017; 18(1): 198. 9)日本腎臓リハビリテーション学会(編) :腎臓リハビリテー ションガイドライン.南江堂,東京,2018,pp. 49‒62. 10)Reese PP, Cappola AR, et al.: Physical performance and frailty in chronic kidney disease. Am J Nephrol. 2013; 38: 307‒315. 11)長寿医療研究開発費事業(27-23):要介護高齢者,フレイ ル高齢者,認知症高齢者に対する栄養療法,運動療法,薬 物療法に関するガイドライン作成に向けた調査研究班(荒 井秀典編集主幹):フレイル診療ガイド 2018 年版.ライ フ・サイエンス,東京,2018,pp. 51‒52. 12)Hiraki K, Yasuda T, et al.: Decreased physical function in pre-dialysis patients with chronic kidney disease. Clin Exp Nephrol. 2013; 17: 225‒231. 13)音部雄平,平木幸治,他:保存期慢性腎臓病患者における 筋力値および健常者平均値との比較.理学療法学.2017; 44: 401‒407. 14)平木幸治,堀田千晴,他:糖尿病および糖尿病神経障害の 合併が保存期慢性腎臓病男性患者の運動機能に与える影 響.理学療法学.2016; 43: 56‒63. 15)Hiraki K, Hotta C, et al.: Dietary protein intake is strongly and positively related with muscle strength in patients with pre-dialysis chronic kidney disease. Clin Exp Nephrol. 2017; 21: 354‒355. 16)Roshanravan B, Robinson-Cohen C, et al.: Association between physical performance and all-cause mortality in CKD. J Am Soc Nephrol. 2013; 24: 822‒830. 17)Otobe Y, Hiraki K, et al.: Mild cognitive impairment.

(8) 208. 理学療法学 第 46 巻第 3 号. in older adults with pre-dialysis patients with chronic kidney disease: Prevalence and association with physical function. Nephrology (Carlton). 2019; 24: 50‒55. 18)Otobe Y, Hiraki K, et al.: The impact of the combination of kidney and physical function on cognitive decline over 2 years in older adults with pre-dialysis chronic kidney disease. Clin Exp Nephrol. 2019 (inpress). 19)Greenwood SA, Koufaki P, et al.: Effect of exercise training on estimated GFR, vascular health, and cardiorespiratory fitness in patients with CKD: a pilot randomized controlled trial. Am J Kidney Dis. 2015; 65: 425‒434. 20)Robinson-Cohen C, Littman AJ, et al.: Physical activity and change in estimated GFR among persons with CKD. J Am Soc Nephrol. 2014; 25: 399‒406. 21)Chen IR, Wang SM, et al.: Association of walking with survival and RRT among patients with CKD stages 3-5. Clin J Am Soc Nephrol. 2014; 9: 1183‒1189. 22)Gaede P, Vedel P, et al.: Multifactorial intervention and cardiovascular disease in patients with type 2 diabetes. N. Engl J Med. 2003; 348: 383‒393. 23)Ueki K, Sasako T, et al.: Effect of an intensified multifactorial intervention on cardiovascular outcomes and mortality in type 2 diabetes (J-DOIT3): an open-label, randomised controlled trial. Lancet Diabetes Endocrinol. 2017; 5: 951‒964. 24)日本腎臓学会(編) :エビデンスに基づく CKD 診療ガイ ドライン 2018.東京医学社,東京,2018,p. 110. 25) 厚生労働省ホームページ 中央社会保険医療協議会第 367 回資料 . https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000Hokenkyoku-Iryouka/0000183042.pdf(2019 年 2 月 14 日引用) 26)公益社団法人日本理学療法士協会ホームページ 職能に資 するエビデンス研究 糖尿病足病変・糖尿病腎症患者にお ける理学療法士の関わりの実態調査報告書.http://www. japanpt.or.jp/upload/japanpt/obj/files/chosa/tounyou_ houkokusyo_2016.pdf(2019 年 2 月 14 日引用) 27)平木幸治,河野健一,他:糖尿病腎症患者に対する理学療 法士の関わりについての調査 日本糖尿病理学療法学会会 員を対象として.日本糖尿病学会誌.2019; 62: 178‒185..

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