DOI: http://dx.doi.org/10.14947/psychono.34.19
140 基礎心理学研究 第34巻 第1号
感性評価のためのデザイン
岡 崎 章
拓殖大学工学部デザイン学科Design for KANSEI evaluation
Akira Okazaki
Takushoku University
If the minds of hospitalized children can be evaluated more quantitatively and easily, they can receive more effective medical treatments and care regarding their state of minds. In the process of developing the tool focusing the children’s minds as Child Life Design, we have noticed that we should create the Kansei evaluation tool. In this paper, I described why I came round to the idea, what specific elements should be incorporated into the evaluation tool, and what effects the tool made.
Keywords: Kansei design, children in hospitals, kansei evaluation
は じ め に 感性デザインは,日本感性工学が 1998年発足したこ とからわかるように学問として若い分野である。しか し,科学研究費の細目名に感性情報学,キーワードに感 性デザイン学,感性計測評価,感性インタフェースなど があり,経済産業省では 2008∼2010年度までを「感性 価値創造イヤー」と定めるなど,学術的,社会的にも重 要なキーワードとなっている。 チャイルドライフ・デザインにおいて(岡崎,2005), 患児の心を処置治療に対して前向きにさせる「感性操作 のためのデザイン」を進めていくと「感性評価のための デザイン」が重要であることがわかってきた。 そこで本稿では,ツールの有効を検証した実験等はす でに発表した論文等に委ねることとして(岡崎,2013) (田崎・岡崎・服部・山下,2012),なぜそういう考えに 至ったのか,具体的にどのようなデザイン要素をツール に組み込めば良いのか,そのツールは何をもたらしてく れたのか,について述べた。それは,心理学と感性デザ イン学との融合によって感性に即した評価ツールが今後 数多く世に出ることを期待したいからである。 感性評価に必要なデザイン要素 小児医療の現場では,患児の心を評価することは非常 に難しい。5段階評価でさえ無理な状況で評価する方法 は,医療関係者の主観的評価に委ねざるを得ない。しか し,手をこまねいて傍観しているわけにはいかないので ある。なぜなら恐怖心や不安感に苛まされているときに 無理に処置室に連れて行ったなら次からは処置治療を拒 むために痛くないと嘘を言い,病状の悪化につながるこ とがあるからである。製品評価を得るのとは異なった難 しさがここにあるのである。 患児に身体的負荷をかけることが少ない動作解析シス テムを使った実験や非接触アイマークカメラを使った実 験も行ってきたが,日々刻々と変わる患児の心を常に評 価できなければ,意味がないことが多い。こうした経験 からわかってきたのは,分析の専門家でない看護師が簡 単に使えて,しかも患児にとって「評価したいと思わせ るツールであること」,それのためには,「評価したい感 性=心に適した行動が伴ったツールであること」であっ たが,それをどうツールに組み込むかが問題なのである。 評価したいと思わせるようなものでなければどんなに 優れた質問項目が並んでいようと意味を成さない。つま り,評価したいというデザイン要素が組み込まなければ 精度の高い評価を得ることができないということであ る。
The Japanese Journal of Psychonomic Science
2015, Vol. 34, No. 1, 140–143
講演論文
Copyright 2015. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Corresponding address: Department of Industrial Design,
Faculty of Engineering, Takushoku University, 815–1, Tatemachi, Hachioji-shi, Tokyo 193–0985, Japan. E-mail: [email protected]
141 岡崎: 感性評価のためのデザイン 評価したい感性=心に適した行動が伴っているツール とは,例えば,楽しさを表現することと怒りを表現する ことを考えてみるとわかりやすい。どれだけ楽しいか は,雲のようなふわふわしたモノをイメージして両手を 広げる動作であり,怒りであれば,粘土の塊を拳で殴る 動作に近いはずである。このふわふわした体積,怒りの 力を受け止めた粘土の凹んだ体積が瞬時に数値化できれ ば,形容詞の段階が5つ並んだ中から選ぶことより,子 どもにとってイメージが把握しやすく表現したいという 心を持って評価ができると言うことである。しかし,言 うは易く行うは難しであり,そのために必要なデザイン 要素を学術的に明らかにしてツールに組み込む必要があ る。 感性評価ツールがもたらすもの 心理量を物理量に置き換えて評価するツール開発を 行った中の一つに木製の球がある。少年用野球ボールに 準じた大きさであるが,木球だけの75 gから中に金属を 仕込むことで50 gずつ重くした7つの木球である。番号 など打っていないためどれがどの重さかは,持たなけれ ば患児にも看護師にもわからない。このツールを用いて 入院患児に今の辛さを評価してもらった時に患児が発し た言葉に愕然としたのである。それは,「看護師さんに 知られないからとてもよい」という一言であった。今ま で「今日の辛さはどれくらい?」と尋ねられて,5段階 の4を選びたいのに「そんなに辛くもないくせに」と思 われるのが嫌で3を選んでいたということであった。 B病院での医師による実験では,同じツールを使って 患児の子どもに実施すると,すべての子どもの顔が明る くなったということとその保護者である母親が,医療の 現場で子どもの心を知ろうとしていることにとても感謝 してくれたという報告があった。科学研究費で進めてい た負のイメージ心理変化量を定量的に評価できるツール の開発はすでに成果を得ていたが,まだ一年残っていた のでさらに精度を高めたツールにしたい旨を伝えると, 「もう必要ないのではないでしょうか」という医師の言 葉に考えさせられたのである。本ツールでは適応できな い子どもの心を表出できるツールに着手すべきであると 考えることになったのである。 C幼稚園においては,新たに開発したカード型ツール (特許取得済)を使って実験を行ったが,毎回片づける ときには,取り合いが始まるほどでの人気であった。 カードは,トランプの大きさに準じているが,全く同じ 木のカードに円の絵が描かれているツールには,見向き もされない状況であった。つまりぽっかり心に穴が開い たような,という表現があるが,子どもさえそのイメー ジに適したツールを選ぶということである。これは,感 性評価に必要なデザイン要素は何かということを端的に 示している。 このように,評価後の笑顔や看護師に知られずに評価 できる安心感や取り合いになるほどの興味についての内 容こそ実験の成果であり,感性評価ツールが持つべきデ ザイン要素とは何か,という重要な示唆を含んでいると 考えるのである。実験する前から予想ができる結果など いくら数値化してもそれまでの話でしかない。 感性評価ツールが必要なのは,小児看護の現場に限っ たことではない。避難生活を余儀なくされている人達の 負のイメージ心理量を知ることは重要である。人の身体 動作が重要な心を表現することは,先に述べたとおりで あるが,頭,胴体,大腿,下腿で構成された負のイメー ジを表現するツールを用いた実験では,コミュニケー ション・ツールとしてのデザイン要素の重要性を知るこ ととなった。各パーツは板状で構成し,その比率は,人 体の比率に準じて制作したものである。関節部分を曲げ ると抵抗値から角度がわかるようにしているため,各関
142 基礎心理学研究 第34巻 第1号 節の角度から落ち込み度を数値化できるツールとなって いる(特許申請済)。 デッサンなどで用いられる木製の人形を使った方がよ いと思われるかもしれないが,その人形がほんの少し 太っていたら,木の色が違っていたら,自分の気持ちを 投影して表現するときにずれを感じるはずである。これ は他のデザイン要素によって自分の心が左右されること であり,正確な評価が得られなくなるのである。デザイ ン要素を駆使することは,デザイン要素をいかに排除す るかという諸刃の剣のように難しいことなのである。 成人を対象とした実験では,過去に落ち込んだことを 5つ挙げてもらってそのときの落ち込み度を,ツールを 用いて表現してもらったところ,5段階評価と比較し て,すべての被験者において多くの時間を有した。その 時間は,落ち込んだ理由やそのときの気持ちの話しに当 てられたのである。その発言は,今までのアンケートや プロトコルとは異なった生の声として感じることができ たのである。 ともすれば,どれくらい落ち込んでいるかをいかに正 確に知ることに意味があるか考え,そこに至ったプロセ スや理由にはあまり重きを置かなかったのかもしれな い。あるいは,むやみに理由を聞くための文言を並べた アンケートであるがゆえに思うように聞き出せなかった のかもしれない,という反省をもたらせてくれたのであ る。 本ツールは,小児医療の現場,避難生活の現場に限ら ずとも「なぜ?」の回答や,そう感じるに至ったプロセ スまでも同時に引き出してくれるツールであることを確 認できたのである。 なお,本ツールは,身体動作の表現を用いているた め,落ち込みだけではなく,楽しさなど様々な感情表現 が可能である。腕を付ければさらに精度の高い評価が可 能かもしれないが,そのためには,各関節の角度から気 持ちを数値化する必要がある。それだけ複雑にするかど うかは,今後の検討課題である。 感性評価ツールを開発していくと,感覚評価ツールの デザインが必要になってくる。感性評価は感覚評価を要 求すると言ってもよい。本稿で紹介したような感性評価 ツールを医療現場で使用されると新しい感覚評価ツール が求められるということである。しかし,それは当然の ことである。なぜなら患児たちの痛みや痒みや強張りと いった感覚量を知ることは,心の評価に直結しているか らである。 痛みの評価ツールの場合,実験では,容易にその有効 性は検証できるが,実際に入院して痛みに耐えている患 児に対して一つずつ触れて答えてもらうことは難しい場 合もある。 これを解決するのは,見ただけで痛みのレベルがわか るツールの展開である。同時に開発に着手した痒みの ツール(特許取得済)の場合は,アトピーの痒みは表面 的なものだけではなく,皮膚の内側から湧き出てくるよ うな痒みがあることを知ったのであるが,この感覚を表 現できて初めて評価も精度を高めることができるのであ
143 岡崎: 感性評価のためのデザイン る。内側から湧き出てくる痒みを見ただけで感じること ができるように設計するために半球を裏返しても凸部分 が透けて見えるようにデザインすることでその要求に応 えることができたが,いずれも,感覚モダリティ変換を 用いたデザインが可能にするのである。 現在,痛みの評価ツールは,デジタル・ツールとして 開発を行っている。既存のVAS (visual analogue scale)で は,痛みのレベルしか評価できなかったが,本ツール は,痛みの周期,種類までも評価できるツールである。 iPadなどのタブレットの画面上で指を左右にスライドす れば凸のレベルが変化し,上下にスライドすれば鼓動の ように動きが変化する。痛みのレベルと周期を第三者に 伝えることができることに加えて痛みの種類を色で表現 することができるインタフェースを有する(特許申請 済)。 今後の展開 小児医療の現場では,看護師や患児の保護者の誰もが 容易に患児の心を捉えることができるツールが必要なの である。しかも容易に数値化ができて心の推移が可視化 できなければならない。さらに患児が,自分の心を表現 しやすく,評価されているというイメージは最小限に留 める必要がある。そのためには,感性を科学的に捉えた デザイン要素を考えてツールに組み込む必要がある。 これらのデザインをチャイルドライフ・デザインとい う新たな概念で展開していくと小児がん,障害児のため のデザインへの要望が強くなっていく。言い換えれば, デザインが「快のイメージの増幅」に焦点を当てること に力を注ぐがあまり,「負のイメージの軽減」に気づい ていなかったと考えるのである。現在,要望に応えて障 害児を対象としたツールの開発に着手したところである が,障害の種類は多くまたそのレベルも個々の差が大き い。そのために身体障害のレベルに合わせた車椅子の種 類のごとく感性評価ツールもその数だけ対応が必要なは ずである。デザインではカスタマイズという言葉は聞き 慣れた言葉であるが,評価ツールもまたカスタマイズが 可能であるべき,と考えている。 引用文献 岡崎 章(2013).主観量の評価ツール 心理学評論, 56, 129–142. (Okazaki, A.) 岡崎 章(2005).チャイルドライフ・デザイン2005年 4 月〈http://kansei-interaction.com/cld/〉(2015 年 4 月 16 日). (Okazaki, A.) 田崎慎也・岡崎 章・服部淳子・山下利之(2012).入 院患児のための心理量評価ツールの開発 日本人間工 学会誌,48, 79–85.
(Tazaki, S., Okazaki, A., Hattori, J., & Yamashita, T. (2012). Development of quantitative evaluation tool for psychologi-cal values in children in hospital. Japan Ergonomics Society,
48, 79–85.)
Figure 5. Evaluation tool to assess itching.