リフォーム住宅の室内空気質のサンプリング
A study on sampling of indoor air quality in wall paper construction of housing renovation
加島 守, 松浦 勝翼 KASHIMA Mamoru, MATSUURA Katsuyoku 1. はじめに 室 内 空 気 質 の 基 準 と し て 改 正 建 築 基 準 法 (2003.7.1)に よ る ホ ル ム ア ル デ ヒ ド (HCHO)の 規制や厚生労働省の示した個別の VOCs ガイド ライン(指針値)が提示されている。しかし、実 際の建築・リフォーム現場において JIS に規定 されたアクティブサンプリング法による測定 は、顧客への納期に間に合わせるため作業進行 している現場では、専門家による測定を実施す る工程を組み込むのが困難である。 そこで本実験では、木造戸建建物１戸(以下、 実験住宅)を対象に、HCHO の規制に適合した壁 紙や接着剤等の既製品(F☆☆☆☆)を使用して、 リフォーム工事を行った際の室内外の HCHO 濃 度及び VOCs 濃度の挙動をパッシブサンプリン グ法等により、工事前と工事後後約１ヶ月間の 実態調査を行ないパッシブサンプリング法の 有効性を確認した。 2. 実験方法 1) 測定場所 (1) 実験住宅 東京都東大和市の閑静な住宅街にある木 造2 階建の戸建住宅を選定した。 (2) 測定上の注意点 14：00～16：00 の時間帯が必ず含まれる 時間でサンプリングを実施した。また実験 住宅に居住中の施主には、実験中の実験室 及びベランダに立入らないように依頼した。 (3) 測定箇所 ① 実験対象室：2F 洋室(面積：9.8m2、 容積：21m3) ② ベランダ(外気) (4) 壁紙施工実験前の施工 ① 躯体：間柱の上に石膏ボード(12mm) を貼り、段差やひっかき傷等の補修のた めジョイント処理をした。 ② 建材：床材以外は、全てF☆☆☆☆の 物を使用した。 ③ 壁紙施工方法：日本壁装協会の有資者 が、日本壁装協会の標準作業手順(防火壁 装材料標準施工法)に従って施工した。 (5) サンプリング方法 サンプリングは、パッシブサンプラを室 内の中央に三脚等を用いて床面からの高 さ 1200mm に設置し 24 時間採取した。外気 は、ベランダの直射日光が当たらない場所 にて床面からの高さ 1200mm にパッシブサ ンプラを設置した(写真 1 参照)。 サンプリングのタイムスケジュールは、 厚生労働省が定めた方法に準拠して実施 した。以下にサンプリングタイムスケジュ ールの例を示す。 9：00 測定対象施設の窓、扉及び室内の棚等 全ての開口部を解放し 30 分換気する。 常時換気システム(換気扇)は稼動さ せる。 9：30 測定対象施設の全ての窓及び扉を閉 鎖する。 14：30 パッシブサンプラ(冷蔵保存され使用 期限内の物)を設置する。 サンプリング記録用紙にパッシブサ ンプラの設置箇所(部屋名等)、採取開 始時間(設置時間)、温度、相対湿度を 記入する。 翌日 14：30 パッシブサンプラを回収する。 パッシブサンプラの袋の部屋名を確 認。サンプリング記録用紙に採取終了 時間(回収時間)、温度と相対湿度を記 入する。回収後は、速やかに冷蔵保管 し検査機関にて分析を依頼する。
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写真 1 室内のサンプリング風景 2) 測定項目及び測定方法 (1) ホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒド ① HCHO 測定用パッシブサンプラ：スペ ルコ社製DSD-DNPH(図 1 参照) 図 1. DSD-DNPH の構造 ② HCHO の 分 析 ( パ ッ シ ブ サ ン プ リ ン グ -DNPH-HPLC 法)：採取したサンプラから アセトニトリルを用いてホルムアルデヒ ド及びアセトアルデヒドを抽出し、高速 液体クロマトグラフ(HPLC)で分析した。 (2) VOCs (トルエン、キシレン、スチレン、エ チルベンゼン) ① VOC 測定用パッシブサンプラ：柴田 科学社製パッシブガスチユーブ(図 2 参 照) 図 2. パッシブガスチユーブの構造 ② VOCs の分析(パッシブサンプリング-溶媒抽出-GC/MS 法)：採取したサンプラか らVOCs を二硫化炭素で抽出し、ガスク ロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で分析 した。 (3) TVOC ① サンプラ：TENAX-TA を充填したア クティブサンプラ ② サンプリング：サンプラを小型ポンプ に装着し、200mL/min で 30 分間空気を 採取した(写真 2 参照)。 写真 2 TVOC の外気サンプリング風景 ③ 分析(アクティブサンプリング-加熱脱 着-GC/MS 法)：採取したサンプラより加 熱脱着装置を通じて GC/MS に導入し分 析した。 得られたピークのうち、ヘキサンから ヘキサデカンまでの総検出量をトルエン に換算してTVOC を求めた。 (4) 部分放散試験(逆チャンバー試験) 有害ガスの発生源の確認のため、ステンレス 製の小型円形簡易チャンバー内にパッシブサ ンプラを装着し、壁面及び床面に1 時間圧着さ せ放散するHCHO と VOCs を確認した。なお 天井は、壁と同様の施工を施しているため今回 は省略した(写真 3・4 参照)。 (5) 換気回数の測定 換気回数の測定は、CO2濃度の減衰曲線から 求めるCO2濃度減衰法により行った。その手順 を以下に示す。 ① 室内中にて、バケツ内に熱湯(約 80℃) とドライアイスを入れ CO2を発生させる。 室内の空気を扇風機にて攪拌し、CO2の室 内濃度を約4000ppm に上昇させる。
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② 室内にCO2・換気回数測定器を設置し た後、閉鎖して５時間測定した(写真 5 参照)。 写真 3 逆チャンバーの内部 写真 4 逆チャンバーの測定方法 写真 5 換気回数の測定方法 3) 室内施工及び測定の日程 (1) 実施期間：2007 年 8 月 20 日～2008 年 1 月 10 日とした。また実験は、HCHO や VOCs が放散しにくい冬季を避けた。 (2) リフォーム工事の工程 壁紙施工は、防火壁装材料標準施工法に準 じて一連のリフォーム作業を実施した。 ① ビニールクロスを剥がす。 ② 下地処理(パテ、シーラー塗り)をする。 ③ 養生(1 日)する。 ④ ビニールクロス貼りをする。 室内施工及び測定スケジュールを、表1 に示 す。 表1. 室内施工及び測定スケジュール 3. 測定結果 1) パッシブサンプリング法の測定結果 各々のリフォーム工程時におけるホルムア ルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、エチ ルベンゼン、キシレン及びスチレンの測定結果 を表2.に示す。 2) TVOC の測定結果 各々のリフォーム工程時における HCHO 及 びVOCs の測定結果を加味し、住宅内の空気質 測定にかかる時間と個々の化学物質の分析に かかる測定コストから考えて、今後の空気質の 主な測定対象として考えられる TVOC(全ての VOC をトルエンに換算した合計)の測定結果を 図3 に示す(平均温度：サンプリング開始から終 了までの気温の平均値)。 3) 部分放散試験結果 ① 壁面の部分放散試験では、HCHO、 VOCs とも、各工程において高濃度の物 質は検出されなかった。
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② 床面の部分放散試験では、9 月 5 日 にHCHO が高濃度で検出された。 表 2. HCHO 及び VOCs の測定結果 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 8/20 8/24 8/27 8/30 9/1 9/5 濃度( μｇ ／m 3) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 温度( ℃) TVOC 平均温度 図 3. TVOC の経時変化 ４. 考察 1) パッシブ法によるホルムアルデヒドおよび アセトアルデヒド 各工程とも基準値を超えることはなかっ た。壁紙施工現場における室内空気は、Ｆ ☆☆☆☆の壁紙や接着剤等を使用し、防火 壁装材料標準施工法に準じた一連の施工作 業を行うことで、改正建築基準法や厚生労 働省のガイドラインを下回ると思われる。 2) パッシブ法による VOCS(トルエン、キシ レン、スチレン、エチルベン) 各工程とも基準値を超えることはなかっ た。同上の理由と同じく防火壁装材料標準 施工法に準じた一連の施工作業をすると安 全であると思われる。 3) アクティブサンプリング－加熱脱着法によ るTVOC の化学物質濃度測定 壁紙施工後の8 月 30 日、9 月 1 日、9 月 5 日において厚生労働省の暫定目標値であ る400µg／m3を超えた。これは、特定でき ない2 つのピークが大きく影響し、この物 質の特定が今後の課題となる。今後の居住 者の生活様式(生活パターン)との関係を含 めた検証を行いたいと考えている。 4) 部分放散試験(逆チャンバー試験) 壁紙については、HCHO、VOCs ともガ イドラインを超える発生は認められなか った。壁紙施工現場における室内空気は、 Ｆ☆☆☆☆の壁紙や接着剤などを使用し、 防火壁装材料標準施工法に準じた一連の 施工作業をすると安全であると思われる。 9 月 5 日に床面より HCHO が高濃度で発生 していることが確認された。床材の下地材 として使用した新築施工後約 10 年経過し た耐水合板(12ｍｍ)より発生したと思わ れる。 5) パッシブサンプリング法の有効性 アクティブサンプリング法は、検査機関 とサンプリング日程の調整等を行うため 工事の工程内に組み込むことは困難であ る。しかし、パッシブサンプリング法は、 訓練を受けた者が行えるため工程内に組 み込みやすい。よってパッシブサンプリン グ法は、工事関係者にとって有効な測定方 法であることが確認された。 謝辞 今回の研究にも色々とご協力頂いた(財)東 京顕微鏡院研究員の角野政弥氏と箭内慎吾氏 及び有限責任中間法人日本壁装協会防火・施 工・リサイクル担当の山下洋一氏，元室内環境 学会会長・日本大学理工学部物質応用化学科上 席客員研究員の松村年郎氏に心から感謝の意 を表します。
