形 成 的評 価 に よ る授 業研 究 をつ くる
北
川
隆
(教育 学科 教授)薬
内
要
(伊丹市立伊丹小学校)西
川
啓
子
(本学 非 常 勤 講 師)城
戸
和
人
(伊丹市立伊丹小学校) 子 ど も か ら み た 形 成 的 授 業 評 価 の歴 史 的 変 遷 現 在 の 体 育 教 育 界 に お い て,形 成 的 授 業 評 価 が 授 業 の 改 善 に 役 立 っ て い る の は周 知 の 事 実 で あ る 。 で は形 成 的 授 業 評 価 とは,ど の よ う な経 過 に よ り研 究 ・考 察 が 重 ね られ て き た の か を紹 介 す る。 形 成 的 授 業 評 価 の 先 駆 者 と して あ げ られ る の は,高 田典 衛 で あ る 。1972年,高 田 は 「よ い体 育 授 業 の条 件 」 は4つ あ る と主 張 した 。1981年 に 中 村 敏 雄 が 「高 田4原 則 」 と命 名 し,今 な お 多 くの 教 師 に支 持 され て い る')。 そ の 後,高 橋 健 夫 ・林 恒 明 ・藤 井 喜 一 ・大 貫 耕 一 ら,体 育 の授 業 改 善 に意 欲 を もつ 体 育 実 践 者 と大 学 で 体 育 科 教 育 学 を学 ぶ 者 が 集 ま り共 同 して 授 業 研 究 を始 め る よ うに な っ た 。 は じめ は, 名 も な い 会 合 で あ っ た が,1989年4月 よ り雑 誌 「体 育 科 教 育 」 に連 載 を始 め る こ とに な った の を 契 機 に,こ の 集 ま りを 「体 育 の 授 業 を 創 る 会 」 と呼 ぶ よ う に な っ た。 「体 育 科 教 育 」 へ の連 載 は, 2年 半 の 長 きに わ た っ て い る2)。 さ らに高橋 らは 「よい 体 育授 業 」 の 姿 をめ ぐっ て 様 々 な 授 業 の 観 察 分 析 を し,1996年 に 「体 育 授 業 研 究 会 」 を 設 立 し,活 動 を続 け て い る 。 体 育 の 授 業 を創 る の 中 で,巻 末 に 形 成 的 評 価 票 ・形 成 的 評 価 基 準 ・形 成 的評 価 得 点 表 等 を掲 載 し,そ の 方 法 が 具 体 的 に イ メ ー ジで きる よ う に,実 際 の授 業 分 析 例 を示 した 。 さ らに2003年 発 行 の 「体 育 授 業 を観 察 評 価 す る」(明 和 出版) の 中 で は,1993年 の 指 導 要 録 の 改 定 に 伴 い,自 学 能 力 を育 成 す る ね らい か ら 自己 評 価 や 形 成 的 評 価 を促 進 させ る た め の 資 料 を数 多 く提 供 して い る。 そ の 後 も高 橋 の教 え子 た ち だ け に と ど ま らず, 研 究 ・考 察 活 動 が現 在 も広 ま って い る 。 この よ う に して,子 ど もか らみ た授 業 評 価 を 通 して 授 業 を振 り返 る方 法 で あ る形 成 的 授 業 評 価 法 が確 立 さ れ た 。 教 員 間 で の 研 修 の 際 に も科 学 的 デ ー タ に基 づ く具 体 的 な 資 料 と して 使 わ れ, 授 業 改 善 に果 た した 功 績 は 大 き い。 形 成 的 授 業 評 価 につ い て,高 橋 ら は 「高 田4 原 則 」 を受 け入 れ つ つ も,そ の 方 法 が 教 師 の 経 験 的 な 考 え に基 づ く もの で あ り客 観 性 の 乏 し さ を 指 摘 し た 。1994年,高 橋 ら は 統 計 的 手 法 に よっ て 開 発 した4次 元 ・9項 目か ら な る 簡 便 で 実 用 的 な形 成 的 授 業 評 価 法 を作 成 し た 。 単 行 本授 業研究 の実際 第6学 年 体育科学 習指導案 1.日 時 2.場 所 3.学 年 ・学 級 4.単 元 名 5.単 元 目 標 平 成22(2010)年1月22日(金) 5校 時 体 育 館 6年3組(40名) マ ッ ト運 動 「み ん な で マ ッ ト」 ・友 だ ち と 助 け 合 い 協 力 す る こ と に よ っ て, マ ッ ト運 動 の 楽 し さや 喜 び を味 わ い,自 分 た ち の興 味 の あ る技 に取 り組 も う と して い る。 (関心 ・意 欲 ・態 度) ・個 人 や グ ル ー プ の課 題 を見 つ け,課 題 解 決 の 方 法 を 考 え る こ とが で きる。 (思 考 ・判 断) ・回 転 ・支 持 ・バ ラ ンス な どの運 動 が で きる よ う に す る と と もに,そ れ らを 組 み 合 わせ, グ ル ー プ で 動 きを 合 わ せ る こ とが で きる。 (技能) 6.指 導 に あ た っ て 低 学 年 マ ッ トを使 っ た 遊 び 例) ゆ りか ご ・前 転 が り 後 ろ転 が りな ど 中 学 年 基 本 的 な 回 転 技 や 倒 立 技 例) 前 転 ・後 転 ・壁 倒 立 な ど 7.単 元 構 想(全8時 間) 学習活動 学 習 目標 評 価 関心 意欲 態度 第1次 ・ 既 習 の 技 をペ ア で練 習 す る。 ・ 新 しい 技 や 発 展 させ た 技 に挑 戦 す る。 技 の ポ イ ン トに 注 意 して よ りス ム ー ズ に で き る よ うに な る。 新 しい 技 や 連 続 技 に 挑 戦 す る こ とで き る。 マ ッ ト運 動 に 興 味 ・ 関心 を持 ち 協 力 して 楽 し く取 り組 も うと して い る。 友 だ ち と協 力 して 準 備 ・片付 け を し、安 全 を 考 えな が ら学 習 し よ うと して い る。 第2次 ・ グル ー プ で 技 の動 き を 合 わ せ る。 ・ 音 楽 に合 わせ て作 品 を創 る。 友 だ ち とア ドバ イ ス しあ った り、励 ま し 合 っ た り しな が ら練 習 す る こ とが で き る。 個 人 や グル ー プ の 課 題 を見 っ け 、解 決 方 法 を考 え る こ とが で き る。 新 しい技 を 自分 た ち の 演 技 に 取 り入 れ よ う と して い る。 兄 弟 グル ー プ とア ド バ イ ス しな が ら楽 し く練 習 し よ うと して い る。 第3次 発 表 会 を す る。 学 習 全 体 を 振 り返 り、 自己 評 価 す る。 み ん な で 演 技 をす る こ とを 楽 しむ こ とが で き る。 他 の グル ー プ の 演 技 の よい と こ ろ を見 つ け る こ とが で き る。 他 の グ ル ー プ の 演 技 構 成 に 興 味 を持 っ て 見 よ う と して い る。 一10一
発 達 教 育 学 部 紀 要 規 準 思考 判断 運動 の 技能 時 間 ・ 技 の ポ イ ン トや 自分 の課 題 を 知 り、 自分 の め あ て を 持 つ こ と が で き る。 既 習 の 技 や 発 展 技 を 組 み 合 わ せ 、 連 続 し て行 うこ とが で き る。 2 時 間 差 で 動 い た り、 動 き の 方 向 を変 えた りす るな ど音 楽 に合 わせ て 演 技 の 構 成 を 工 夫 す る こ とが で き る。 ・ 友 だ ち の 動 きや 曲 の リズ ム に 合 わ せ て 動 く こ とが で き る。 5 (本 日寺5/5) ・ 自分 た ち の グ ル ー プ と比 べ て 、 他 の グ ル ー プ の よ い と こ ろ を 見 つ け る こ と が で き る 。 ・ 練 習 の 成 果 を発 揮 し て 、積 極 的 に 演 技 す る こ とが で き る。 1 8.本 時 の 学 習(第2次 第5時) ① 目標 ・兄 弟 グ ル ー プ で お 互 い に ア ドバ イ ス しな が ら技 を楽 しん で 学 習 す る こ とが で きる 。 ・ア ドバ イ ス を参 考 に 演 技 を 高 め る こ とが で き る。 ② 展 開 学習 活動 1.パ ワー ア ップ タ イ ム ・準 備 運 動 ・基 本 的 な技 の 練 習 を す る 。 2.グ ル ー プ ご と の 演 技 の 確 認 3.本 時 の め あ て を 確 認 指導 上 の留意 点(○ 指 導者 のは た らきか け) ・ 十 分 な 運 動 量 が 確 保 で き る よ うグ ル ー プ ご とに 声 を か け る。 ・ パ ワ ー ア ッ プ タ イ ム が 終 わ っ た グ ル ー プ か らス ム ー ズ に 演 技 の 確 認 で き る よ う学 習 の 流 れ を 掲 示 して お く。 兄 弟 グ ル ー プ で ア ドバ イ ス し合 お う 4.ア ドバ イ ス タ イ ム ・兄 弟 グ ル ー プ で 演 技 を 見 せ 合 い 、 ア ドバ イ ス を し合 う。 A:演 技 B:ア ドバ イ ス A:ア ドバ イ ス B:演 技 5.ア ドバ イ ス を参 考 に グル ー プ ご とに 練 習 6.本 時 の 振 り返 り 7.整 理 運 動 ○ 具 体 的 な ア ドバ イ ス をす る よ う声 か け を す る。 ・ 技 の タ イ ミ ン グ ・ マ ッ ト上 の 位 置 ・ 技 の 完 成 度 ・ マ ッ トの 上 で 実 際 に 動 き な が らア ドバ イ ス を させ る。 ・ 各 グ ル ー プ を 回 り、 練 習 課 題 を 把 握 す る 。 ・ こ の 時 間 で よ く な っ た と こ ろ を 発 表 させ る。 ・ よ く な っ た 動 き や 的 確 に ア ドバ イ ス し て い た と こ ろ を 紹 介 す る 。 ・ し っ か り 体 を ほ ぐ さ せ る。
9.授 業 研 究 の 視 点 2009年 度1小 学 校6年3組 集 団 マ ッ ト形 成 的 評 価 ま とめ 1時 間 目 2時 間 目 3時 間 目 4時 間 目 5時 間 目 6時 間 目 7時 間 目 8時 間 目 9時 間 目 全体 33 人 評価 1.85 12.39 12.70 2.31 2 3 1 4 3 2.82 2.67 2.74 4 1 3 3 2.67 12.33 2.50 4 1 3 3 2.91 12.88 2.89 4 5 5 2.58 4 全体 38 人 評価 1.89 12.34 12.74 2.32 2 3 1 4 3 2.63 12.74 2.68 3 1 3 3 2.74 12.71 2.72 4 4 4 2.89 12.79 2.84 4 4 4 2.61 4 全体 36 人 評価 1.78 12.39 12.69 2.29 2 3 1 4 3 2.86 12.89 .. 1 / 4 2.67 12.83 2.75 I I 4 3.00 12.89 2.94 5 5 5 2.67 4 全体 29 人 評価 1.97 12.52 12.66 2.38 3 3 1 4 3 2.97 12.90 2.93 I I 4 2.83 12.76 2.79 5 1 4 4 2.90 12.79 2.84 4 4 4 2.70 4 全体 32 人 評価 1.81 12.41 12.56 2.26 2 3 1 3 3 2.84 12.84 2.84 4 1 3 4 2.75 12.69 2.72 4 4 4 2.88 12.72 2.80 4 4 4 2.61 4 全体 38 人 評価 1.82 12.47 12.74 2.34 2 3 1 4 3 2.76 12.82 2.79 3 1 3 3 2.66 12.61 2.63 4 1 3 4 2.82 12.63 2.72 4 4 4 2.59 4 全体 34 人 評価 1.74 12.41 12.59 2.25 2 3 1 4 3 2.94 12.82 .. 4 1 3 4 2.82 12.88 2.85 5 1 4 5 2.85 12.65 2.75 4 4 4 2.63 4 全体 34 人 評価 2.12 12.71 12.53 2.45 3 4 1 3 4 2.94 12.85 2.90 4 4 4 2.82 12.91 2.87 5 1 4 5 2.91 12.74 2.82 4 4 4 2.73 4 全体 37 人 評価 2.43 12.68 12.59 2.57 4 4 4 4 2.89 12.84 :. 4 1 3 4 2.86 12.68 2.77 5 1 4 4 2.95 12.62 2.78 5 4 4 2.73 4 一12一
発 達 教 育 学 部 紀 要 まず,項目 1の「感動体験」についてのとこ ろでは, 1 ~ 8 時間目は評価が 2~3 と低い値 であったが, 9時間目に評価が 4に上がった。 9時間目の授業は,今までグループρで、作ってき た演技を披露する学習活動であった。そのため, 自分たちの演技を力一杯できたことや他のグ ループの演技に感動したことなどが感動体験に 繋がったのではないかと考えられる。逆に 1~
8
時間目までの活動にそういった「見せ合う場」 を入れていくことで感動体験につながることが わかった。 項目 2では「技術の向上」の項目である。こ れは 1~7 時間目までは評価 3 で, 8, 9時間 目に評価4に上がっている。ここから,積み上 げて来た練習が成果,できなかった技ができる ようになってきていることやグループで演技構 成ができてきたり,友だちとタイミングを合わ せて演技できてきたりしていることがわかる。 集団マット運動において技術を向上させるため には,個人練習やグループ練習の時間が十分に 必要であることもわかった。 項目 3では「新しい発見」があったか聞く項 目である。全9
時間のうち7
時間の評価が4
で あったことから,毎時間,何か新しい発見が あったようである。個人技の上手にできるよう なコツや演技のきれいな見せ方の工夫などを考 えながら,子どもたちが取り組むことができた ことがわかる。自分のことだけなく,友だちの 演技から,新しい発見することも多い。学習中 では,r
もっと勢いをつけたほうがいいよ。J
「手の間隔を狭めたほうが安定するよ。」などの 声が出ていた。個人競技であるマット運動を集 団で行うことで「新しい発見」が多くなったと 考えている。 項目4
では,r
意欲的」であったかを聞く項目 である。全9時間のうち 7時間が評価 4であっ た。マット運動は「できるJ
r
できない」がはっ きりしているため,r
できない」ことが多い子ど もにとっては意欲的に取り組むことは難しい。 また,r
できる」子どもにとっては,物足りなさ を感じることが多い。だが,集団で取り組むこ とによって単に「できるJ
r
できない」ではなく, 「見ていて飽きない技の順番」ゃ「みんなで技を 揃える」など価値観が多様化した。このために, 学級全体が,常に高い意欲を持つことができた のではないかと考える。 項目5では,r
楽しさ」を聞く項目である。高 い評価を示した 3, 4時間目は,個人の活動か らグループ。活動に変わったところである。1,2
時間目では,個人の活動のため,r
できるJ
r
で きない」がはっきりしており,できない子ども の「劣等感J
,できる子どもの「退屈感J
が出て 評価が上がらなかった。だが,r
集団で行うJ
と いう価値観を与えたため, 3, 4時間目では, 「できる」子どもも,r
できないJ
子どもも楽し さを味わうことできた。5
時間目で評価が再ぴ 下がったのは,グループとして「できるJ
r
でき ない」が出てきたためと考える。この時,指導 者が「できない」グループに対し,スモールス テップを踏んだ助言や適切なアドバイスをして いれば,違った評価になったと考える。また,8
時間自に評価が上がっている。ここでは,ベ アグループで助言し合う活動に取り組んだ。自 分たちでは分からないことを教えてもらい,演 技に活かすことや他のグループを見ることが楽 しさに繋がったのではないかと考える。 項目 6では,r
自主性J
を聞く項目である全9 時間のうちもっとも評価が高い5
が4
時間,残 りも評価 4と高い値を示した。特に集団で活動 するようになってから評価が上がっている。こ れは「集団マット」の教材の特性だと考える。 自分たちで演技を構成し,曲を選び,練習内容 を考え,課題を見つけていく。マット運動のま とめの学習として適した教材であるといえるか もしれない。 項目 7では課題をもって取り組めたか聞く項 目である。ここでの評価は全 9時間のうち 7時 間が評価4
となっている。評価が低かった1
時 間目では,自分の課題が何かわからなかったた めだと考えられる。そして,もう 1つ低かった 6時間目ではグループ学習において,ある程度 自分たちの演技ができるようになっており,ど こを直せばいいのかわからいグループが出てき たためと考える。項目
8
では,協力して取り組めたか聞く項目 である。ここでの評価は4
以上の値を示してい る。単元全体として子どもたちは協力して取り 組めたと考えられる。ここでは,男女比だけな く,マット運動の技術やグループ活動での話し 合いでのリーダーシップなどを考えてグループ 作りをした。このように,個人の背景を考えて グループ作りをすることによって協力しあうこ とができたと考える。また,評価があがったの は, 3時間目と 9時間目である。 3時間目では, 初めてグループで練習し,協力して作り上げる 楽しさを感じたため評価が上がったと考えられ る。 9時間目では,演技を披露し,今までの練 習が形となったことで協力できたことを感じた のであろう。 項目9
では,お互いに助け合えたかを聞く項 目である。ここでは,1
時間目と3
時間目に評 価5
ともっとも高い値を示している。1
時間目 では,個人の技を練習する活動で, 1つ 1つの 技に対する助言をし合うことができていたと考 えられる。また,3
時間目では,初めてグルー プで活動し,演技の流れや,立ち位置などを教 え合うことができたと考えられる。 各授業時間でみると,高い評価を示している のが,8. 9
時間目である。集団として考えて きた演技が完成し見せ合うことで,様々な充実 感を味わうことでできたと考える。逆に,最も 評価が低かったのは,6
時間目である。ここで は,どうすれば自分たちの演技がもっとよくな るのかわからない。停滞感を感じたグループが 増えたため評価が下がったと考えられる。 このように形成的評価を取ることで,子ども の達成感や満足感がはっきりわかり,子どもの 評価から指導者の課題や次の授業であるべきこ とが見えてきた。このような評価を重ねていき, より迅速に次の授業に効果的な手だてできるよ うにしていきたい。 参考文献 1 )吉野聡 (2010)I
体育の授業評価J
:新版体育 科教育学入門大修館書庖 P822
)
高橋健夫(
1
9
9
4
)
I
体育の授業を創る」大修館 書庖 P3-14-Abstract