官民連携(Public Private Partnership)第 3 回
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー株式会社 ヴァイスプレジデント 手計 徹也 Ⅰ 前回までのおさらい 前編では、新たな官民連携が求められる背景を、これまでの我が国 PFI 制度の限界に触れながら考察し、新たな官民連 携のあり方を構築する際の主な視点を解説した。また中編では、改正 PFI 法の目玉であるコンセッション方式を取り上げ、 先進的な取組み事例を紹介しながら実務上の留意点を解説した。最終稿となる本編では、今後解決すべき実務上の課題、 PPP 先進国に見る PPP 活用の形(民間インフラ市場とインフラファンド)及び民間企業が官民連携に参画する際の留意点 に触れていきながら、今回の PFI 法改正によって期待されることを探りたい。 Ⅱ 今後解決すべき実務上の課題 これまで記載してきたように今回の PFI 法改正は従来の制度の課題・問題点を補う重要な改正が行われてきたものの、解 決すべき実務上の課題が存在している。以下ではその概要について触れる。 1. 基本方針・ガイドラインの作成 改正 PFI 法の条文上、法律上で不明瞭な部分が存在している。法律上不明確なままである場合には、レンダーや投資家 はリスク回避のため民間事業者に対して過度な対応を求める事となり、そのコストは結果的に受益者に転嫁される可能 性がある。今後、基本方針の改正、ガイドラインの制定等の中で解決される事が望まれる。 民間事業者提案のインセンティブ(5 条の 2) 建設期間中の取り扱い 実施方針に関する条例(10 条の 5、10 条の 13 の 4) 公共施設等運営権の設定の時期(10 条の 6) 公共施設等運営権の取消と補償(10 条の 16、17)2. 関連法令等との整合性 ◆公物管理法との関係 改正 PFI 法では、道路、空港及び産業廃棄物の 3 分野を除き、PFI 法の適用分野として認められている(空港に関しては、 今後国会に法案が提出される予定)。ただし、公共インフラの中でも道路の占める比重は高いため、今後関連施策のあり 方を踏まえた上で、可能な限り道路事業にも適用可能となる事が期待されている。 <公物管理法と改正 PFI 法における運営権との関係について> 出典:基本方針の改正について(案)(別表) 施設 管理者等 根拠法令 運営権 設定可 否 注釈 水道施設 水道事業者、 水道用水供給事業者 水道法 可能 経営には水道法上の事業認可も合わせて 必要。 医療施設 国、地方公共団体、 独立行政法人 等 医療法 可能 医業本体を事業範囲とすることは認めら れない。 社会福祉施設 社会福祉事業者 社会福祉関係各法 可能 社会福祉事業を開始するためには許可等 の手続きが必要。 漁港 (プレジャーボー ト収容施設) 地方公共団体 漁港漁場整備法 可能 中央卸売市場 都道府県又は人口20 万人以上の市等 卸売市場法 可能 工業用水道事業 地方公共団体 等 工業用水道事業法 可能 熱供給施設 熱供給事業者 熱供給事業法 可能 駐車場 地方公共団体 等 駐車場法 可能 都市公園 地方公共団体 等 都市公園法 可能 下水道 地方公共団体 下水道法 可能 道路 地方公共団体 等 道路整備特別措置法 不可 高速道路の原則無料化に係る効果検証 や、将来の料金制度のあり方を踏まえた 上で整合的に措置を検討する。 賃貸住宅 地方公共団体 等 公営住宅法等 可能 鉄道 (軌道を含む) 地方公共団体 等 鉄道事業法 軌道法 可能 港湾施設 地方公共団体 等 港湾法 可能 空港 国、地方公共団体、 空港会社 航空法、空港法等 未確定 運営権制度を活用した運営等の民間委託 を可能とする措置を定める法案が通常国 会に提出予定。 産業廃棄物 処理施設 民間事業者 廃棄物処理センター 廃棄物の処理及び清 掃に関する法律 不可 浄化槽 個人、法人、市町村 又は一部事務組合 浄化槽法 可能
コンセッション方式の導入により、公物管理権の部分開放が実現し、民間事業者が公共施設の経営を行える事になったと されているが、個々の事業を規制する法令(以下、公物管理法という)の条項を具体的に適用する際、実際どこまでの範 囲の業務を民間事業者が行えるのか明確でないところがある。この点、実務的には各公物管理法で求められる許認可手 続の適用を受けるものと考えられている(例えば、上水道事業であれば、事業開始のために厚生労働大臣からの認可及 び市町村の同意を取得し、利用料金を含む供給条件を変更する場合には、その都度、厚生労働大臣の認可を取得する 必要がある)。コンセッション方式の普及促進のためには、各事業ごとの留意点等に付き、今後適切な形で公表がなされ る事が望まれる。 ◆指定管理者制度との関係 改正 PFI 法で言われている公共施設等運営権者(以下、単に「運営権者」という)と類似した位置づけの制度として地方自 治法上の制度である「指定管理者」制度が存在する。しかし、運営権者と指定管理者との関係が不明確である。仮に運営 権者は指定管理者でなければならないとなると、両制度の適用範囲の齟齬の有無の確認はもちろん、両制度に対応する ために民間事業者で二重に手続が必要となり問題である。 ◆その他法的論点 公共施設等運営権の取消等の基準が不明確 一定の事由が発生した場合に、公共側が事業権の取消し又はその行使の停止を命ずる事ができるとされているも のの、「公益上やむを得ない必要が生じた時」と記載されたままで基準が不明確である。 公共施設等運営権の取消等に伴う補償(行われる場合、保証の範囲) 取消等に際して公共側から補償を行う場合が限定されており、またその補償の金額の定義も「通常生ずべき損失」と いうあいまいな記載となっている。 公共施設等運営権の移転許可に関する問題 事業権の他者への移転は認められているが、公共側の許可が必要とされている。この点、事業権に係る担保権実 行時にも譲受人が公共側から許可を受ける必要があり、担保権の実効性に欠ける内容になっている点が問題であ る。更に、地方公共団体である場合には、条例での特別の定めがない場合には議会の議決が必要とされており、議 会の反対を受ける可能性がある点や議会閉会期間中の議決をどう取得するのかが問題となる。 3. 改正 PFI 法の活用の推進主体へのサポート 改正 PFI 法で拡大が期待されている独立採算型の PFI の場合、レンダー・投資家といった利害関係者が増加するため、 特に地方公共団体にとっては難易度が高い可能性があり、普及に当たっての障害となる可能性がある。そのため、民間 側が参画できる事業とするような仕組みづくりのサポート体制の整備が重要となるが、この点では、改正 PFI 法で設置がう たわれている「民間資金等活用事業推進会議」がその中心的役割を担う事が望まれる。
4. 先行事例、モデルプロジェクトの実行 改正 PFI 法施行に伴って国内で PFI 市場が再び拡大するかどうかに関しては、今後実施される先行プロジェクト、モデルプ ロジェクトの実行が重要である。当該プロジェクトを通じて得られた課題・問題点を踏まえて、ガイドライン・標準契約等の 整備・改正を絶えず進めていくことが重要と考えられているためである。国内で実施が先行する事例として現在挙げられ ている案件が関西国際空港・大阪国際空港(伊丹空港)の経営統合、国管理の 27 空港の民営化、地方自治体の抱える 上下水道事業、といった事例である。 Ⅲ PPP 先進国に見る PPP 活用の形(民間インフラ市場とインフラファンド) ここで視点を変えて、PPP の導入に関連する事項として民間インフラ市場の拡大について触れたい。PPP 先進国として欧 米以外で良く取り上げられるのが韓国およびオーストラリアである。両国では、公共側の財政状態の悪化が出発点となっ て国内のインフラ整備に付き、PPP 制度を通じて民間資金の活用を進めることとなった。オーストラリアの場合には、スー パーアニュエーション制度と呼ばれる年金制度改革に伴う資金流入も後押ししたこともあったが、実務を適用しながら政府 による PPP 制度整備が進められた。これにより民間インフラ市場が拡大し、当該市場拡大に伴いインフラファンドの形成も 行われる事となった。近年、韓国では、国内で経験を積んだインフラファンドが海外展開を進める動きも見られるが、これ も国内 PPP 市場の活用の延長線上にあると見られる。 日本においても、パッケージ型インフラ輸出、海外インフラ輸出といった名目で、アジアの成長を取り込むために日本企業 の技術力を活かした海外進出が成長戦略の1つとして掲げられている。詳細は、別の機会に述べる事にしたいが、日本 企業の海外進出時の強力な競合先となりうる韓国では、国内 PPP 市場が成熟している点は日本にとってはビハインドと 考えられる。そのため、今後国内 PPP 市場の拡大により当該ビハインドを補うことが求められる。 Ⅳ 民間セクターの視点で留意すべき点 ~リスク分析と収益分析の重要性 従来のサービス購入型(BTO 方式)と異なり、独立採算型 PFI(コンセッション方式)が主流となった場合、対象事業からの 収益の変動がそのまま民間事業者の収益性に直結するため、アップサイドもダウンサイドもありうる。そのため、対象事業 の理解、将来需要予測、それを踏まえたリスクの適切な官民分担、キャッシュフロー分析、リスクを勘案した感度分析がこ れまで以上に重要となると考えられる。 この点、改正 PFI 法では民間事業者に対して柔軟な料金設定を認めているが、空港、港湾、上下水道等の公共インフラ事 業の場合、公共性の観点から必ずしも料金設定が自由に行えるものでは無く、民間事業者の目線で見た場合には、採算 性の低い事業である可能性がある。この場合、公共セクター側に何らかの補助金等の措置(公共主体から運営料の支払 いを要求する事)も検討するべきである。先行している韓国においても当初は MRG(Minimum Revenue Guarantee)と呼ば れる政府による需要リスク軽減措置が設けられたことが PFI 市場拡大に一役買ったと言われており、日本においてもこうし た政府補助制度を構築する事も検討に値すると考えられる。
Ⅴ 国内 PFI 市場の拡大に伴い期待されること 最後に PFI 法改正に伴って期待されることについて簡単に触れたい。PFI/PPP の活用により、公共セクター、民間セクター、 利用者の 3 者が下表のようなメリットを享受できるようになることを目指すべきである点は前編で既に述べた。ここではそ の他に 2 つの点を挙げる。 【公共セクター(国や地方自治体)にとってのメリット】 財政再建、財政負担の軽減 公共サービスの安定供給、インフラや施設の国際競争力の強化 今後の維持更新投資に要する資金調達や追加負担リスク(潜在リスク)の切り離し 効率的な資産管理と人材活用 公共施設の利用料や民間事業者からの税収の増加などの間接効果 【民間セクター(プロジェクトに参画する民間企業や投資家)にとってのメリット】 新たなビジネスチャンスの獲得 投資対象の多様化、長期安定志向や低ボラティリティーの特性によるポートフォリオ 【受益者(国民や地域住民、地元経済界)にとってのメリット】 社会資本の整備に伴う公共サービスの充実や利便性、安全性の向上 利用負担の軽減や物流コストの削減 ヒト・モノ・カネ・情報の交流による地域の活性化、集客増加に伴う経済波及効果
出典:「官民連携(Public Private Partnership)第 1 回」を再掲
1. リスク評価能力の向上、官民の対話による最適なリスク配分の実現 独立採算型の PFI/PPP では、リスクの分析、評価が重要な位置づけを占めるが、独立採算型 PFI の活用により、事業の リスクの内容、分析能力が向上することは公共セクター、民間セクターにとってメリットと考えられる。また、こうした官民の 対話を通じて最適なリスク配分を実現する事は、公共セクター、民間セクター、利用者の 3 者にとってメリットの有る事項で あると考えられる。 2. 民間インフラファイナンス市場の拡大 PFI の実施に当たっては、事業を託す公共セクターと事業を受託する民間事業者だけで無く、レンダーや投資家といった 金融面の関係者が登場する。先行する韓国やオーストラリアで起こったように、こうしたインフラビジネスに関する金融市 場が日本においても発達・拡大する可能性が期待される。
3. 最後に 最後に 2010 年に出された国土交通省の成長戦略(4国際展開・官民連携分野)に記載された「将来的な方向性を示すも の(おおむね 2020 年を想定)」を紹介して本稿を終えたい。 PPP/PFI に関する制度面の改善を進めることにより、民間の創意工夫に基づく PPP/PFI の活用が飛躍的に進み、国内外 の資金が公共事業削減を補って、真に必要な社会資本の整備及び維持管理が適切に行われているばかりでなく、民間のノ ウハウと経営努力により、民間のリターンの確保と国民・利用者の負担抑制が両立されつつ、より高いサービスの提供がな されていることを実現する 出典:国土交通省成長戦略(4国際展開・官民連携分野) 以上 トーマツグループは日本におけるデロイト トウシュ トーマツ リミテッド(英国の法令に基づく保証有限責任会社)のメンバーファームおよびそれらの関係 会社(有限責任監査法人トーマツ、デロイト トーマツ コンサルティング株式会社、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー株式会社および税 理士法人トーマツを含む)の総称です。トーマツグループは日本で最大級のビジネスプロフェッショナルグループのひとつであり、各社がそれぞれの適用 法令に従い、監査、税務、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー等を提供しています。また、国内約 40 都市に約 6,400 名の専門家(公認会 計士、税理士、コンサルタントなど)を擁し、多国籍企業や主要な日本企業をクライアントとしています。詳細はトーマツグループ Web サイト (www.tohmatsu.com)をご覧ください。 Deloitte(デロイト)は、監査、税務、コンサルティングおよびファイナンシャル アドバイザリーサービスを、さまざまな業種にわたる上場・非上場のクライア ントに提供しています。全世界 150 ヵ国を超えるメンバーファームのネットワークを通じ、デロイトは、高度に複合化されたビジネスに取り組むクライアント に向けて、深い洞察に基づき、世界最高水準の陣容をもって高品質なサービスを提供しています。デロイトの約 182,000 人におよぶ人材は、“standard of excellence”となることを目指しています。 Deloitte(デロイト)とは、デロイト トウシュ トーマツ リミテッド(英国の法令に基づく保証有限責任会社)およびそのネットワーク組織を構成するメンバー ファームのひとつあるいは複数を指します。デロイト トウシュ トーマツ リミテッドおよび各メンバーファームはそれぞれ法的に独立した別個の組織体で す。その法的な構成についての詳細は www.tohmatsu.com/deloitte/ をご覧ください。
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