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Vol.51 , No.2(2003)090古力 阿孜古麗「西域古代ウイグル語仏教文献の研究 -セランド (西域) におけるウイグル文字「法華経」について-」

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Academic year: 2021

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(98) 印 度 學 佛 教 學 研 究 第51巻 第2号 平 成15年3月

西 域 古 代 ウ イ グ ル 語 仏 教 文 献 の 研 究

セランド(西 域〉におけるウイグル文字 「

法華経」について―

古 力 阿 孜 古 而

1.は じめ に セ ラ ン ドとは,中 国文 化 の代 表 的 な産 物 で あ る絹(セ ル)と イ ン ド (仏教 文化)の 合 成 語 で あ る.す な わ ち 中 国 とイ ン ドの両 方 の 影 響 を 受 け た地 域, つ ま り中 央 ア ジ ア東 域 で あ り,西 暦2世 紀 頃 よ り千 年 間 に亘 り仏 教 が 受 容 され 花 開 い た 地 域 を表 す.具 体 的 に は,現 在 の新 彊 ウ イ グ ル 自治 区,タ リム盆 地 周 縁 オ ア シ ス 地 域 を 中心 と して東 は甘 粛 省 に至 る広 域 を 指 す.本 稿 で は,セ ラ ン ドで 発 見 され た 古代 ウイ グル 文 字 「法 華 経 」 文 献 にっ い て若 干 の検 討 を加 えた い. 2.セ ラ ン ドで 用 い られ た ウ イ グ ル文 字 古代 ウイ グル 文 字 は,ウ イ グル 人 が ソ グ ド文 字 を元 に して 作 っ た文 字 で あ る.そ の使 用 さ れ た 時代 ・地域 に は諸 説 あ る. 1.8世 紀か ら17世 紀 まで タクラマカン地域 で使 われた文字 とす る説1). 2.5世 紀頃か らウイ グル人が,ト ル ファン盆地 や甘粛省 の西の地域 で,古 代 ウイ グル文 字 を用いた とい う説2).し か し考古学的証明 はな く,い まだにその時代 に ウイグル文字で 書かれた仏教文献(法 華経文献〉 は発見 されてない. 3.現 在知 られてい る最古 の,古 代 ウイグル文字 の文献 は8世 紀の もので ある. 古代 ウイ グル文字 による記録 は,宗 教関係,特 に仏教 関係 の ものが多い3). これ らの 説 示 に対 し,私 は,古 代 ウ イ グ ル文 字 は,も とはモ ン ゴル 高 原 に居 住 し,唐 代 に約1世 紀 間,覇 を唱 え た トル コ系 遊 牧 民 ウ・イグル 人 が,キ ル ギ ス に追 わ れ て タ ク ラマ カ ン周 辺 に集 中 して 定 着 して後,10世 紀 の初 め 頃 か ら用 い られ た と考 え る.セ ラ ン ドの 諸 族 の存 在 は,時 代 ・地 域 に よ って 極 め て 流 動 的 で あ り, 民族 の ア イ デ ン テ ィ テ ィー が確 立 され て い て も,様 々な 言 語,文 字 が用 い られ た と想 像 で き る.古 代 ウ イ グ ル語 が あ っ た と して も、 古代 ウイ グル 文 字 が形 成 され る まで 、 古 代 ウ イ グ ル系 の諸 族 は ソ グ ド文 字 と共 に 各 地 域 の文 字 を使 用 した と考 え られ る.セ ラ ン ドに仏 教 が 流 入 した 当初,サ ンス ク リ ッ ト語 や パ ー リ語,あ る い は 中 国 語 等 が あ ま り浸 透 して い なか っ た為 に,経 典 を充 分 に理 解 す る こ とはで き な か った で あ ろ うが,そ れ ぞ れ の 民 族 の使 用 す る文 字 に置 き換 え る こ とを 通 じ て,仏 教 が 広 ま っ て行 っ た.セ ラ ン ドに お け る ウ イ グ ル 系 の 人 々 の活 躍 が,古 代 935

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(99) 西 域古代 ウイ グル語仏 教文献 の研 究(古 力〉 ウ イ グル 文 字 で記 録 され た文 献 に 残 っ て い るの で あ る. 西 暦840年 に は大 規 模 な移 動 が あ った が,そ れ よ り以前 か らタ ク ラマ カ ン縁 辺 に は ウイ グ ル系 人 種 が 住 ん で い た こ とが十 分 考 え られ る.そ うで な け れ ば,前 住 者 が い る場 所 の世 界 が,ウ イ グル 語 の世 界,つ ま りウイ グ ル人 の世 界 へ と,急 速 な 変 化 を 示 す 筈 が な い と考 え る.戦 闘 を 通 じて前 住 者 を追 い 出 し た記 録 も な い. キル ギ ス に追 わ れ て,敗 者 の態 で移 動 した で あ ろ う ウイ グル 人 が タ リム の 主 人 に な った こ とに関 し,今 後 も様 々 な角 度 か ら考 察 を加 え る必要 が あ る. 3.「法 華 経 」文 献 の翻 訳 者 中 国 の お け る仏 典 翻 訳 事 業 は紀 元 前148年 か ら始 ま っ た が,当 時,翻 訳 され た文 教 文 献 の殆 どが言 葉 の 内容 に 主 に して 訳 され た 文 献 だ っ た.鳩 摩 羅 什 に よっ て翻 訳 され た も の は,意 義翻 訳 で あ る.ウ イ グ ル 人 の 仏 教 文 献研 究 者 は,鳩 摩 羅 什 時代 以 前 の翻 訳 を 〈古 い翻 訳 〉,鳩 摩 羅 什 以後 の翻 訳 を 〈新 しい 翻訳 〉 と呼 ぶ4).ち な み に 日本 で は,鳩 摩 羅什 以 前 の訳 を 古訳,玄   以 前 の 訳 を旧 訳,玄   以 降 の訳 を新 訳 と呼 ぶ こ とは周 知 の通 りで あ る. サ ンス ク リ ッ ト語 や パ ー リ語 か らウ イ グ ル 文 字 に直 訳 され た文 献 が発 見 され た か 否 か は判 然 と しな い が,中 国 語 に訳 され た 「法 華 経 」 文 献 を ウ イ グ ル 文 字 に訳 した翻 訳 者 達 が 存 在 した.SingquSaliは 北 宋 時 代(960-1127)に 仏 教 活 動 を行 った ウイ グル 人 で あ る.彼 はサ ン ス ク リ ッ ト語 や 中 国 語 が 堪 能 で あ り,中 国 語 に訳 さ れ た 仏 教 文 献 を ウ イ グル 文 字 に訳 した觀 訳 者 で あ る5).舎欄 欄 八 吟 石(xiianlan baxhi l332一?)は高 昌 国 の 著 名 な尼 僧 で あ り,書 道 家 で も あ る.彼 女 は中 国 語 が 堪能 で, サ ン ス ク リ ッ ト語 か ら翻 訳 され た 中 国語 の 仏 教 文 献 の古 代 ウイ グル 語 へ の 翻 訳, お よ び文 献 抄 写 の 事 業 を行 っ た人 物 で あ る.彼 女 の代 表 的 な訳 経 と して あ げ られ るの は 『華 厳 経 』,『楞 厳 経 』,『法 華 経 』,『金 光 明 経 』,『八 千 頌 盤 若 』,『五 護 陀 羅: 尼 』 な ど10点 以 上 で あ る6).SeliyTegin(850-1250〉 は高 昌 回 鵜 時 代 の 代 表 的 な尼 僧 で あ り,古 代 ウイ グル 文 字 で 書 い た詩 が あ る7>.以 上 の人 物 以外 に も多 くの 「法 華 経 」 文 献 翻 訳 者 が い た と想 像 で き るが,古 代 ウイ グル 文 字 に訳 され た 訳 文 は完 全 に残 さ れ て お らず,ま た確 か な記 録 もな い た め,年 代 と人 物 を確 認 す る こ とが で き ない. 4.ウ イ グル 文 字 の書 体 を基 準 に した 文 献 の 特 定 現 在 わ か って い る文 字 体 系 の概 要 につ い て は,以 下 の 通 りで あ る.中 国 の研 究 者 に よ り,古 代 ウイ グル 文 字 の 「法 華 経 」 文 献 の時 代 的特 定 は,三 つ に分 けて 分析 され て い る. 9-ll世 紀 始 め の 前期 古代 ウイ グル 文 字 の一 般 的 な文 書 や 契 約 書 の な か に は草 書 や 行 書 の写 本 が 多 い.仏 教 文 献 や マ ニ 教 文 献 に は措 書 あ るい は行 書 の ほ うが よ く 934

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(100) 西域 古代 ウイグ ル語 仏教 文献 の研究(古 力 〉 み られ る.文 字 に は墨 の濃 淡 が み られ,文 字 の 形 態 は比 較 的流 麗 で あ る.仏 教 文 献 は あ ま りみ あ た らな い.正 書 法 で はsとa,dとt,qとcは 区別 しな い.竹 筆 ま た は毛 筆 の書 体 が よ くみ られ る. 13-14世 紀 後 期 の文 献書 体 は草 書 の ほ うが 多 く,措 書 と行 書 は あ ま りみ られ な い.文 字 の形 に粗 細 の 差 は な く,墨 の濃 淡 もみ られ な い.羽 管 ペ ン で書 か れ た も のが 多 い.文 字nはqとc/x,sとa,dとt,な どの文 字 の間,接 尾 のaは,yと w,zと の間 に位 置 に固 定 され た. 11世 紀 後 期 か ら12世 紀 中期 まで の 古 代 ウ イ グ ル 文 献 の 書 法 は,行 書 の ほ うが 多 い.多 くの行 書 体 文 献 は9-11世 紀 に属 して い る.正 書 法 で はsとa,dとt,q とC,yとW,Zと な どの 区別 が 固定 して い な い8). 古 代 ウイ グ ル文 字 「法 華 経 」 文 献 の年 代 の特 定 は,文 字 の 形 だ け で は不 可 能 と 思 わ れ る.セ ラ ン ド人 は地域 に よ り異 な る特 徴 を持 っ て い るか ら,同 時 期 に各 地 域 に よ って 違 う文 字 体 系 を使 う こ とが あ る と考 え られ る一 つ の文 献 を 時代 を特 定 す る た め に は,地 理 ・考 古 学,人 類 ・美 学,宗 教 ・仏 教 学,歴 史 学,言 語.文 献 学,文 化 活 動 な ど多 方 面 か ら見 る こ とが 必 要 とな る. 古代 ウイ グル 文 字 「法 華 経 」 文 献 を研 究 対 象 とす る上 で の 問 題 の一 つ は,セ ラ ン ドに居 住 して い た多 種 の 民族 の 言 語 や 文 字 が相 関 関係 に あ る こ とを認 識 して取 り掛 か る こ とが肝 要 と思 わ れ る. も う一 っ は,世 界 各 地 に分 散 し保 管 され て い る古 代 ウイ グ ル 文 字 「法 華 経 」 文 献(原 本 のマイ クロフ ィルム,写 真,コ ピー〉 を集 め,照 合 す る こ と.そ れ か ら内容 を解 読 して,多 方 面 か ら研 究 し,時 代 を特 定 す る こ とで あ る. 私 は トル フ ァ ン 出身 の ウイ グ ル 人 で あ る.今 後 の課 題 と して,ウ イ グル 仏 教 文 化 の過 程 や 古代 ウイ グ ル 文 字 で書 か れ た 「法 華 経 」文献 の 比較 研 究 に興 味 を持 ち, 世 界 に注 目 され て い るセ ラ ン ドの 仏 教 文 化 の研 究 と古 代 ウ イ グ ル文 字 の 「法 華 経 」 文 献 の調 査 に挑 戦 して み た い.(紙 面 の関係で註省略〉 〈キー ワー ド〉 古代 ウイ グル文字,法 華経,セ ラン ド (立正大学法華経文化研究所研究員〉 933

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