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64 一 はじめに一〇月にIMFが公表した世界経済成長の予測値(ワールド エコノミック アウトルック)によると 二〇二一年のわが国の経済成長率は二 三%(実質GDP 年間増減率)に留まる 先進国 地域 の成長率は三 九%と予測されており 先進国の中でもわが国の成長率は低いと言わざるを得ない COVI

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Academic year: 2021

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一、はじめに

  一〇月にIMFが公表した世界経済成長の予測 値(ワールド・エコノミック・アウトルック)に よると、二〇二一年のわが国の経済成長率は二・ 三 %( 実 質 G D P、 年 間 増 減 率 ) に 留 ま る。 「 先 進国・地域」の成長率は三・九%と予測されてお り、先進国の中でもわが国の成長率は低いと言わ ざ る を 得 な い。 COVID-19 が 日 本 経 済 に 与 え た 負 の影響は国際的に比較すると小さいため、二一年 の経済回復の数値も低めになる点を考慮すべきで あるが、この感染症の悪影響を克服できたとして も、経済成長が高まる兆しがみえないことは大変 に憂慮される。   経済学的に述べると、わが国では中長期的に人 口ボーナスが期待できないため、マクロ経済成長 は資本の投入量と全要素生産性の向上によっても たらされる。では、どのようにすればわが国の生 産性は高まるのか?その有力な解の一つが技術進 歩を意味するデジタルトランスフォーメーション ( D X ) で あ り、 生 産 性 を 飛 躍 的 に 向 上 さ せ る 手

 ジタル・アセットと資本市場③トークン・

オファリングへの規制的対応

 

 

 

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法として注目されている。九月に発足した菅政権 が最初の政策として打ち出したデジタル庁の新設 は名案と言えよう。   論点を資本市場に移すと、DXは資本市場の基 盤にも活用することができるため、資本市場のさ らなる効率化と多様化をもたらすと期待されてい る。DXの中でも、ブロックチェーン技術に代表 される分散型台帳技術(DLT)や人工知能(A I)等の本格的な導入により、既存の市場機能の 効率化(新技術による部分代替)や従来の市場の 境界が撤廃されることで創出される新市場、など が 予 想 さ れ て い る。 資 本 市 場 の 研 究 者 に と っ て も、 ① ど の 市 場 機 能 が 部 分・ 完 全 代 替 さ れ る の か、②その結果もたらされる機能改善はどの程度 か、③DXにより出現する新市場の効果などは、 重要な学術的テーマとなろう。   本稿は「デジタル・アセットと資本市場」の第 三弾である。過去二本の拙稿において、DLT上 でデジタル・トークンを発行し資金を調達する行 為である「トークン・オファリング」に注目し、 特に米国での動向を踏まえながら基本概念や全体 像を論じてきた。本稿は、米国内でのトークン・ オ フ ァ リ ン グ に 対 す る 米 証 券 取 引 委 員 会( S E C)の規制的対応を整理することを目的とする。 このような分散型金融(DeFi)に対する規制 アプローチは、これからの金融資本市場を考える 上でも最重要な課題と言えよう。

 、

ン・オファリングへの対応をす

すめてきたのか?

  詳細は第一弾の拙稿(二〇一九年一二月号)を 参照願いたいが、米国では一七年から一八年半ば

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にかけてICO(イニシャル・トークン・オファ リング)により多額の資金が調達されてきた。後 述するように、現在ではほとんどのICOには投 資契約が含まれていると解釈され、SECにより 証券(セキュリティ)として登録が求められてい る。 証 券 と し て 発 行 さ れ る I C O を S T O( セ キュリティ・トークン・オファリング)と呼ぶ。   ピーク時(一八年六月)には、ICOにより月 間で約六、〇〇〇億円もの巨額な資金が調達され た と 言 わ れ て い る。 こ の よ う に I C O が 隆 盛 で あった理由としては、①ビットコイン等のトーク ンが急激に値上がりをしていた、②テック系のス タートアップ企業に対する過度の期待、③当時は 脱法的な手法であると流布され、極めて簡易な手 続で調達が可能であった、などを挙げることがで き よ う。 し か し な が ら ① 詐 欺 的 な 調 達 行 為 が 多 く、②ICOで提示されたプロジェクトの成功率 が低い(スタートアップ企業の事業成功率自体も 低 い が )、 ③ 本 稿 で 報 告 す る S E C の 規 制 態 度 が 次第に明確となってきたことから、従来のICO による調達は激減した。現在では、STOや取引 業者が代行するIEO(イニシャル・エクスチェ ンジ・オファリング)による調達が幾ばくかみら れ る 他、 登 録 を 求 め ら れ な い 会 員 権 に 類 似 し た ユーティリティ・トークンの発行などに限定され ている。   本節で報告するように、トークン・オファリン グに対するSECの規制的対応は一七年七月のD AOレポートの公表を端として、規制ガイダンス の発行(ノーアクション・レターやスタッフ・レ ターの発行)や、状況に合わせたエンフォースメ ント(法執行)とその説明をもって慎重に規制の 地固めを進めてきたようにみえる。   このようなSECの姿勢は、当初はトークン・

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オファリングへの米国証券諸法の適用が必ずしも 明確ではなかったことが背景にあろう。拙稿第二 弾( 二 〇 年 六 月 号 ) で 検 討 し た よ う に、 デ ジ タ ル・トークンの特性は伝統的な証券である株式や 債 券 と は 相 当 に 異 な っ て い る。 そ れ 故 に S E C は、デジタル・トークンを用いた資本調達に対す る証券諸法の適用には個々の案件の経済要件を考 慮するとともに、発行後の流通においてもそれら 要件の変化に注意するなど、慎重に規制の浸透を 進めているようにみえる。 ⑴   DAO事件とDAOレポート(ICO時の登 録の必要性)   DAO事件とは一六年六月に起きた約三六〇万 イーサ(約六〇億円)のハッキング行為である。 発行体である The DAO が実施したICOに乗じ て発生したため、SECは当該ICOを精査し、 一七年七月に「DAOレポート」を公開するとと もに投資家向けの注意喚起を行っている。 The DAO と は、 D L T 上 に 投 資 フ ァ ン ド・ ス キーム(自律分散型投資ファンド)を構築するプ ロ ジ ェ ク ト で あ る。 一 六 年 五 月 に 独 自 の デ ジ タ ル・トークン(DAOトークン)をICOによっ て 売 却 し、 約 一、 二 〇 〇 万 イ ー サ( 約 二 〇 〇 億 円 ) を 調 達 し て い た。 こ の I C O 時 に、 D A O トークンの保有者は利益の分配を受ける権利を得 る が、 The DAO は 自 律 分 散 型 組 織 で あ る た め、 ハウイー・テストの要件の一つである「他人の経 営 的 努 力 か ら の 派 生 」( 後 述 ) に は 該 当 し な い と の解釈が The DAO により示され、結果としてS ECへの登録が必要な投資契約ではないとの説明 が行われていた。   ここでハウイー・テストとは、証券(セキュリ ティ)か否かの判断を行う際の投資契約の有無を

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判定する要件の一つである。ハウイー・テストに おける投資契約は、①金銭の投資、②共同事業へ の投資、③利益の期待をともなう投資、④利益は もっぱら第三者の努力、の四つの要素に基づく。 DAOレポートでは、これら四つの要素に関する 複数の判例も投資契約の判断に使用されている。   このDAOレポートは、SECがDLTを活用 してデジタル・トークンの募集と売出しを通じた 調 達( I C O や ト ー ク ン・ セ ー ル ス ) に 関 し て も、特定の事実や環境により連邦証券諸法が適用 可能であると断じ、さらにはICO時には原則と してSECへの登録が必要であることを初めての 公式な意見として表明したことで注目された。   D A O レ ポ ー ト の「 Ⅲ. デ ィ ス カ ッ シ ョ ン 」 は、主として①証券としてのDAOトークン、② 証券の募集・売付時の発行体登録、③取引システ ムを国法証券取引所として登録、の三点に関して 検討と解釈を与えている。これらの中で最も重要 であるのは、四六年の合衆国最高裁判所判決(い わゆるハウイー判決)との照合ならびに、これま での投資契約の認定に関連する複数の判例と照合 し な が ら、 D A O ト ー ク ン を 証 券 と 認 定 し、 The  DAO の I C O を S E C 登 録 が 必 要 な 行 為 と 判 断 した点であろう。   「 Ⅲ. デ ィ ス カ ッ シ ョ ン 」 は ハ ウ イ ー・ テ ス ト の要素のうち「共同事業への投資」を所与として 扱い残る三つの要素に関する見解を示している。   第一に「金銭の投資」に関して。九一年の判決 から投資に用いられるマネーはキャッシュである 必要はなく、また一四年の判決も合わせて、DA Oトークン取得時に払い込まれるイーサ(暗号資 産、仮想通貨)が商品に分類されていてもこの要 素に該当し、投資契約であると認定している。   第二に「利益の期待をともなう投資」に関して

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も、〇四年判決の「利益は、配当や他の定期的な 支払い、もしくは投資価値の増加を含む」を引用 し、また The DAO が営利事業体であると通知さ れていたことなどを合わせて、DAOトークンの 購入者は利益を期待していると断じた。   第三に「利益はもっぱら第三者の努力」につい て。投資家の利益が、①トークンの販売者である Slock.it お よ び そ の 創 業 者、 Slock.it が 選 出 し た キ ュ レ ー タ ー( Curators ) の 運 営 上 の 努 力 に 由 来 し て い る こ と( 七 三 年 判 決 )、 な ら び に ② ト ー ク ン保有者の投票権が限定されていることからハウ イー・テストの要素に該当すると判断した。特に トークン保有者の投票権に関しては、①キュレー タ ー を 経 由 し た 提 案 の み に 投 票 す る( 一 四 年 判 決 )、 ② 保 有 者 が 匿 名 か つ 分 散 し て い る こ と に よ り保有者全体で重要なコントロールの変更や実行 が困難である点(八一年判決、〇七年判決)を指 摘している。   DAOレポートは、個々の取引に証券の募集や 売付が含まれているかの判断は、取引の経済的実 態を含む事実と環境に依存していることを前提と しながら、上記の検討を踏まえて、DAOトーク ンは三三年証券法および三四年証券取引所法が定 める証券に該当し、その募集や売付は連邦証券諸 法に従う必要があり、SECへの登録か登録除外 要件を満たさなければならないと結論づけた(岡 田・ 木 下[ 二 〇 一 八 ]) 。 ま た、 上 述 し た The  DAO が 自 律 分 散 型 組 織 で あ る 点 に 関 し て も、 リ ミテッド・パートナーシップに近い形態であると し、ゼネラル・パートナーの努力に依存しており 投 資 契 約 を 伴 う 証 券( セ キ ュ リ テ ィ) と 判 断 し た。

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⑵   ICOに対する排除措置命令   S E C は、 一 七 年 一 二 月 に Munchee の 実 施 し たICOに対して排除命令を出している。   Munchee は、 自 社 の ウ ェ ッ ブ に 加 え て S N S 等で、イーサリアム上でMUNトークンを一般公 衆向けに発行し、調達した資金でレストラン評価 アプリの改善とエコシステムを構築する計画を掲 示していた。このICO時に公開したホワイト・ ペーパーでは、エコシステムによりトークンの価 値が上がることや、トークンを流通市場で取引可 能とする計画が記載されていたが、上記のDAO レポートを引用して、ハウイー・テストの要件に 照 ら し て も M U N ト ー ク ン は 投 資 契 約 に あ た ら ず、 連 邦 証 券 諸 法 の 適 用 外 と な る ユ ー テ ィ リ ティ・トークンであると記載していた。   S E C は、 Munchee の I C O は ト ー ク ン 購 入 者 に 将 来 の 利 益 を 合 理 的 に 期 待 さ せ る 行 為 で あ り、同社およびそのエージェントの努力により利 益を得ることを合理的に期待させる行為であると し、ハウイー・テストに照らして投資契約に該当 すると判断した。その結果、公募時に求められる 登録届出書がSECに未登録であり、SECの承 認を経ないMUNトークンの募集・売付行為は三 三 年 証 券 法 へ の 違 反 と な る た め、 Munchee に 募 集の停止およびトークンの配布停止と受領した資 金 の 投 資 家 へ 返 却 を 命 じ た。 た だ し、 Munchee に対して民事制裁金の納付は命じていない。この 排除措置命令はSECの方針(解釈)の浸透およ び 投 資 家 へ の 注 意 喚 起 が 目 的 で あ っ た と 思 わ れ る。   一 方 で Munchee へ の 排 除 措 置 命 令 と 比 較 し て、 S E C は Unikrn が 一 七 年 六 月 か ら 一 〇 月 に かけてICOにより三、一〇〇万ドルを調達した 行為を未登録と判断し、二〇年九月に排除措置命

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令とともに六一〇万ドルの民事制裁金の納付を命 じ て い る。 た だ し Unikrn は、 主 催 す る e-Sports のプラットフォームへのアクセス権や試合結果へ の 賭 け 金 と し て 使 用 で き る ト ー ク ン( Unikoin -Gold )を未登録で発行したものの、SECはこの I C O に 詐 欺 的 な 行 為 が あ っ た と は 認 め て い な い。   外 部 か ら み て、 Munchee と Unikrn へ の 対 応 の 違いが何から生じているのかは解りにくい。この Unikrn へ の 措 置 を 受 け て、 S E C の 内 部 か ら も 依然として未登録でのトークン・オファリングが 適法であるか違法であるかの境界が曖昧であるこ とが指摘されている。また、これらの事例を比較 し て ト ー ク ン・ オ フ ァ リ ン グ に 関 す る 規 制 上 の セーフ・ハーバーを設ける必要性もSEC内部か ら提言されている。 ⑶   二つのパブリック・ステートメント   SECは複数のパブリック・ステートメントに より、SECの考えの浸透をはかっている。   第一に、一八年三月の「デジタル・アセット取 引のオンラインプラットフォームに関する潜在的 な 違 法 性 」 は、 イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ た ト レ ー ディング・プラットフォーム(いわゆる仮想通貨 取引所)の利用者への注意喚起を目的として公表 された。連邦法上の保護を受けるためには、投資 家はSECに登録された国法証券取引所、代替取 引 シ ス テ ム( A T S )、 ブ ロ ー カ ー・ デ ィ ー ラ ー を 利 用 す る 必 要 が あ る が、 「 S E C 登 録 」 や「 規 制された市場」と投資家向けに表示をしていなが ら未登録のトレーディング・プラットフォームが 多く報告されていた。SECはこのステートメン トにおいて投資に際して投資家が注意すべき一三 のチェックポイントを提示している。

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  第二に、一八年一一月の「デジタル・アセット 証 券 の 発 行 と 取 引 」 で は、 資 本 市 場 で の デ ジ タ ル・ ト ー ク ン の 扱 い に つ い て、 こ れ ま で の エ ン フォースメントを踏まえながら市場参加者が注意 すべき事項をまとめている。このパブリック・ス テートメントで注目すべきは、デジタル・アセッ ト証券の流通市場に関する記述であろう。   D L T( 分 散 型 台 帳 技 術 ) を 用 い た プ ラ ッ ト フォームであっても、証券に該当するデジタル・ トークンの取引や関連する活動やサービスは国法 証券取引所に該当する可能性がある点を呼びかけ ている。例えば、オンライン取引プラットフォー ム を 提 供 し て い た EtherDelta お よ び 創 業 者 に 対 して国法証券取引所として未登録(登録除外要件 に該当せず)を理由に民事制裁金の支払いを命じ た ケ ー ス( 二 〇 一 八 年 一 一 月 八 日 ) を 例 に 挙 げ て、三四年証券取引法上の国法証券取引所登録や 登 録 除 外 要 件 の 判 断 は 三 四 年 法 規 則 3b-16 に 照 ら す必要性や、ATSに該当する場合はレギュレー ションATSに従う必要を指摘している。   さらに、ICOによりデジタル・アセット証券 の発行や流通を仲介する事業者はブローカーまた はディーラーとしてSECに登録・規制の対象と なり、またFINRAの自主規制の対象となる可 能性があることに注意を促している。 ⑷   ガイダンスによる分析ツールの提供   一 九 年 四 月 に、 S E C の FinHub ( 金 融 テ ク ノ ロジーに関する戦略部署)は、デジタル・アセッ トが投資契約に該当するのか、また、その募集や 売付が証券取引に該当するのかを市場参加者が判 断する際のガイダンスを公開している。このガイ ダンスは、例えばハウイー・テストの第三者の努 力 か ら 生 じ る 利 益 に 対 す る 合 理 的 な 期 待 に 関 し

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て、①第三者の努力への依存、②利益の合理的な 期待、③その他に分類し、それぞれに複数のケー スを提示するなど、上記のDAOレポートが記述 するハウイー・テストの要件適用よりも踏み込ん だ内容となっており、言わば分析ツールとして位 置づけられる。   この分析ツールの提示により、規制の不確実性 が軽減されたとの評価もある。その一方で、複数 のケースで示された基準のウェイト(重要性、影 響度)や、それがどのように測定されるのかは説 明がなく、実務上の判断において問題であるとの 批判や、その商品の性格や募集や売付の方法につ いての分析を追加で求める声もある。   このガイダンスの公表と同日に、SECの企業 金 融 局 は TurnKey Jet が 実 施 し た I C O に 対 し てノーアクション・レターを発行している。この レターでは、同社のICOを投資契約とみなさず セキュリティに該当しないとの判断が示されてい る。この理由として、TKJトークンが特定のプ ラットフォームでのみ取引可能であることや、転 売 が で き な い 等( 価 格 が 固 定 さ れ、 TurnKey Jet が買い戻す際にはディスカウント価格となる)等 が 挙 げ ら れ て い る。 こ の ケ ー ス は デ ジ タ ル・ ア セ ッ ト の 投 資 契 約 に 関 す る 最 初 の ノ ー ア ク シ ョ ン・レターとして注目された。 ⑸   S E C の エ ン フ ォ ー ス メ ン ト (法執行) の 変化   これまでのSECのエンフォースメントは、S ECのサイト内の「サイバー・エンフォースメン ト・アクションズ」で一覧表になっている。二〇 年 九 末 時 点 で I C O に 関 連 し て 六 一 件 の エ ン フォースメントが報告され、そのうち一九件が詐 欺的行為として摘発されている。   こ れ ら の 中 で も、 Makisim Zaslavskily が 主 催

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す る REcoin Group Foundation な ら び に Dia -mond Reserve Club が 一 七 年 七 月 に 実 施 し た I COは代表的な証券詐欺行為であり、SECは一 七年九月に裁判所に対して彼らの資産凍結の申し 立てを行っている。二〇年は九月末時点までに、 三 月 二 〇 日 に 発 令 し た Meta1 Coin の 販 売 差 し 止 めを証券詐欺と認定した例などの一〇件の詐欺的 行為を認定している。   このような明らかな詐欺行為を除くと、前述し た Munchee の ケ ー ス の よ う に 未 登 録 で の I C O に対するSECのエンフォースメントは、当初は 警告や排除措置命令に留まり民事制裁金は課して いないケースが多かった。これは状況等を加味し た選択的なエンフォースメントを通じて、SEC の方針を市場参加者へ周知徹底することが当時の 目的であったと思われる。しかしながら一八年の 末 頃 よ り、 Unikrn の よ う に 詐 欺 行 為 を 認 め な い ケースであっても民事制裁金による金銭的な処罰 が加えられ、かつエンフォースメントの対象が拡 大しているようにみえる。   例えば一八年一一月にSECが公表したステー ト メ ン ト に よ れ ば、 Paragon Coin Inc な ら び に CarrierEQ ( AirFox ) に 対 す る エ ン フ ォ ー ス メ ン トにおいて、それぞれに二五万ドルの民事制裁金 を課している(および調達した資金を投資家に返 還 )。 こ の ス テ ー ト メ ン ト に は、 S E C が D A O レポートにより未登録でのICOによる募集行為 に関して警告した後に実施されたICOであるこ とが強調されている。詐欺行為の摘発を除いて、 この二社へのエンフォースメントは未登録ICO に対する初めての民事制裁金を伴う命令として注 目された。   またSECは一八年九月に、ICOのスーパー ス ト ア を 自 称 し て い た TokenLot LLC お よ び、

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四〇%以上の資産をデジタル・アセットに投資す る Crypto Asset Management LP に 対 し て も、 民事制裁金の納付等を命じたこと公表した。この 内 TokenLot へ の エ ン フ ォ ー ス メ ン ト は、 ブ ロ ー カー・ディーラーとして未登録のままデジタル・ トークンを販売した行為が問題とされている。ま た Crypto Asset Management は 投 資 会 社 と し て 未登録のままでファンドの持分を公募し、さらに 投 資 家 向 け の 情 報 で S E C の 監 督 下( S E C 登 録)にあるかのような誤った情報を故意に与えた 点が理由に挙げられている。このようにICOの 実行体のみならず、ICOに関連した仲介機関や 投資会社に対してもSECのエンフォースメント の対象が広げられている。   そ の 一 方 で、 一 九 年 九 月 に 公 表 さ れ た Block. one へ の エ ン フ ォ ー ス メ ン ト は、 民 事 制 裁 金 の 支 払いを命じているものの、三四年証券取引所法上 の登録やレギュレーションAなどの登録除外規定 が定める資格剥奪を要求していない。また、売却 したデジタル・トークンに対する払い戻しも要求 していない。さらには納付を命じた二、四〇〇万 ド ル の 民 事 制 裁 金 に 関 し て も、 調 達 金 額 の 僅 か 〇・六%(過去の民事制裁金は、平均で調達金額 の一・六七%から二・〇七%)に過ぎず、デジタ ル・トークンの規制が修正された可能性が指摘さ れている。   このようにSECのエンフォースメントは、D AOレポート以降の取り組みの進捗に合わせて変 化しているようにみえる。ただし明確な詐欺行為 への対応を除き、現時点でエンフォースメントに よる対応も必ずしも確立されてはいないようであ る。 前 述 し た Unikrn へ の 措 置 に 対 す る S E C 内 からの指摘もあり、今後さらなるエンフォースメ ントの透明性の提供が求められよう。

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三、まとめにかえて

  本稿は学術エッセイとして執筆している。本文 中の記述に関する出所や詳細は、弊所『証券経済 研 究 』 第 一 一 二 号 に 掲 載 さ れ て い る「 Token  Offering を 巡 る S E C の 規 制 的 対 応 」 を 参 照 願 い たい。   本稿はDLT上での調達行為に注目し、米国内 でのトークン・オファリング(ICO)に対する SECの規制的対応を中心に扱った。トークン・ オファリングに関しては、原則として従来の公募 と同様な扱いを求め、SECの方針をガイダンス やエンフォースメント等により浸透させる試みが みられている。しかしながら拙稿第二弾(証券レ ビュー二〇二〇年六月号)で論じたように、DL T上で扱われるデジタル・トークンに由来する特 性などを規制に加味する必要性が近い将来に訪れ よう。例えば、投資家にとって有用な情報開示は 米国の証券規制の基盤であるが、デジタル・トー クンは伝統的なセキュリティとは差異があり、改 めてトークン・オファリングに適した開示のあり 方を検討する時期が来ると予想する。   わ が 国 で も 金 融 庁 が、 二 〇 年 八 月 に 公 表 し た 「 令 和 二 事 務 年 度 金 融 行 政 方 針 」 の 第 二 節「 市 場 の 国 際 競 争 力 」 で、 「 金 融 テ ク ノ ロ ジ ー の 分 野 に おける、分散化やクラウド等の技術進歩」が国際 的な金融ビジネスで観察されると指摘している。 また、第四項「資本市場の改革」では、取引所外 に お い て「 成 長 資 金 の 円 滑 な 供 給 を 図 る 観 点 か ら、クラウドファンディング制度や非上場有価証 券の取引等の改善についても検討を行う」との行 政方針も示されている。わが国は経済成長力の底 上げが喫緊の課題であるが、特に資本市場におい

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てはDXを活用した成長資金の供給ルートの確立 が重視されよう。   スタートアップ企業が成長するためには、資本 等の円滑な調達環境が整備されることが必要条件 と な る。 様 々 な 経 済 活 動 で D X に よ る 革 新 が 始 まっている。単なる調達規模だけではなく、その 手段・手法についても新たな技術を活用する余地 は大きい。 参考文献 岡田功太・木下生悟[二〇一八] 「仮想通貨に対する米規制当 局のスタンスと課題」 『野村資本市場クォータリー』野村資 本市場研究所、 Spring 、ウェブサイト掲載版。 若園智明[二〇一九] 「米国における資本形成の変遷:公開市 場と私募市場」 『証券経済研究』第一〇七号、九月、一 -一 九頁。 若 園 智 明[ 二 〇 二 一 ]「 資 本 市 場 の デ ジ タ ル 化 : Token  Offering を 巡 る 規 制 環 境 」『 現 代 金 融 資 本 市 場 の 総 括 的 分 析』第一二章、日本証券経済研究所証券経営研究会、 (一月 出版予定) 。  (わかぞの   ちあき・当研究所主席研究員)

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