独立行政法人農業環境技術研究所
土壌環境研究領域 主任研究員
カドミウムはどうやってイネに取り
込まれるのか?
土壌 土壌中のCdは根から吸収 される 吸収されたCdは根から 茎葉に運ばれる 茎葉から玄米に運ばれる①
カドミウムは
植物の生長
には必要のない元素だが、
他の養分(窒素やリン、鉄、
亜鉛等)と同じように、
根
から吸収され、茎葉を通っ
て玄米に到達する。
②カドミウムの吸収や移動
は、
特定の遺伝子によって
制御
されている。
カドミウム吸収や移行に関 わる遺伝子を働かなくすれ ば、コメのカドミウム濃度 は減る?突然変異(遺伝子変異)による
低カドミウムイネの開発
イオン ビーム 照射
イオンビームの特徴
軌跡と止まる直前に 大きなエネルギーを与える イオンビーム照射 物質中の透過性が高く 均一なエネルギーを与える ガンマ線、X線等細 胞 へ の 照 射
炭 素 イ オ ン 1 G y 〜 4ヶ所 1 0 m m ガンマ 線 1 G y 〜 2 0 0 0ヶ所 遺伝子 点突然変異が多い 極少数の遺伝子を確実に変化遺伝子変異
核 核エネルギー付与
イオンビーム育種の特徴
1.変異のスペクトルが広い :新しい形質・変異体の創生が可能 2.変異の誘発率が高い :少ない試料、狭い施設での品種育成が可能 3.極少数の遺伝子に作用 :悪い形質を伴わず、ワンポイント改良が可能イオンビーム育種は、
• 花卉園芸植物の品種改良(花色の変異、花持ちなど)
• 清酒用の酵母 (高発酵、香りのよい)
等に使われている。
低Cdコシヒカリ変異体の作出、選抜工程
イオンビー ム照射 (独)原子力機構のAVF サイクロトロンで実施 M1植物 M2種子 M2植物を1個体づつCd汚染 土壌入りのポットで栽培 各個体から玄米の収穫 玄米のCd分析 (約3,000個体を栽培) コシヒカリ (M1種子) (早期落水管理)低Cdコシヒカリ変異体の選抜
0 100 200 300 400 500 600 0.05 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5 1.75 2 2.25 2.5 2.75 3 3.25 3.5 3.75 4 個体数 玄米Cd濃度 (mg kg-1) コシヒカリ 基準値 (0.4 mg kg-1) lcd-kmt1 lcd-kmt2 lcd-kmt3高Cd水田で栽培時の玄米・稲わらCd濃度
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 ほ場A ほ場B ほ場C 玄米 Cd 濃度 (mg kg -1 ) コシヒカリ lcd-kmt1 lcd-kmt2 基準値 ND ND 0.02 0.02 0.03 0.03 0.57 1.86 0.97 0 2 4 6 8 10 12 ほ場A ほ場B ほ場C 稲 わら Cd 濃度 (mg kg -1 ) コシヒカリ lcd-kmt1 lcd-kmt2 0.04 0.04 0.04 0.04 0.09 0.10 3.46 9.14 5.48 土壌のCd濃度(mg kg-1) ほ場A: 1.35 ほ場B: 1.21 ほ場C: 0.35 (ほ場は早期落水管理) ND:定量限界値以下(<0.01mg kg-1) 低Cdコシヒカリ(lcd-kmt1とlcd-kmt2)は Cdを玄米や稲わらにほとんど蓄積しない。 玄米 稲わら他のミネラル濃度への影響
0 5 10 15 20 25 30 WT lcd-kmt1 G ra in Mn con c. (m g/kg) 0 5 10 15 20 WT lcd-kmt1 G ra in Fe con c. (m g/kg) 0 10 20 30 40 50 WT lcd-kmt1 G ra in Z n co n c. (m g/kg) 0 100 200 300 400 500 600 WT lcd-kmt1 Stra w Mn con c. (m g/kg) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 WT lcd-kmt1 Stra w Fe con c. (m g/kg) 0 10 20 30 40 50 60 70 WT lcd-kmt1 Stra w Z n con c. (m g/kg) 玄米 稲わら Mn Fe Zn Mn Fe Zn 0 5 10 15 20 25 30 35 WT lcd-kmt1 G ra in w eight (g) /p lan t 0 5 10 15 20 25 30 35 40 WT lcd-kmt1 Stra w we ight (g) /p lan t 玄米重 稲わら重作物間でのMn濃度の比較
(幼植物の水耕栽培実験)
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 コシヒカリ lcd-kmt2 コムギ ダイズ 地上部 Mn 濃度( m g /k g )地上部Mn濃度
低Cdコシヒカリの茎葉Mn濃度はコムギやダイズ等の
畑作物並である。
コシヒカリ lcd-kmt1 コシヒカリ lcd-kmt2 20 cm コシヒカリ lcd-kmt1 lcd-kmt2 5 mm コシヒカリ lcd-kmt1 lcd-kmt2 コシヒカリ
低Cdコシヒカリの生育と玄米形質(農環研圃場)
各県で実施した系統適応試験
(9県10圃場での平均、2012年)
出穂期 (月日) (cm) 稈長 (cm) 穂長 (本/m穂数 2) 倒伏程度 (0~5) lcd-kmt1 8/4 87.2 18.2 371 1.8 lcd-kmt2 8/5 86.5 18.8 386 1.8 コシヒカリ 8/4 85.8 18.6 373 1.9 精玄米重 (kg/a) 比較比率 (%) 千粒重 (g) 玄米タンパク質(%) 整粒歩合 (%) lcd-kmt1 50.2 97 21.8 8.3 75.8 lcd-kmt2 51.4 100 21.7 8.1 71.8 コシヒカリ 51.5 (100) 21.9 8.1 72.9 SPAD値による葉色の違いはなし生育や収量等に関する形質に違いはなし
特性検定(病害、耐冷性等)
lcd-kmt1
lcd-kmt2
比較コシヒカリ耐倒伏性
弱
弱
弱
いもち病抵抗性
弱
弱
弱
白葉枯病抵抗性
中
中
中
高温耐性
中
中
中
耐冷性
極強
極強
極強
穂発芽性
難
難
難
コシヒカリとの違いなし。
食味官能試験
試験方法:専門パネラー20名により、炊飯した供試米(低Cdコシヒカ リ変異体)と基準米(通常コシヒカリ)について、以下の5項目(外 観、香り、味、粘り、硬さ)と総合評価を比較する相対法 低Cd系統 総合評価 外観 香り 味 粘り 硬さ 評価値 信頼区間 有意差 lcd-kmt1 0.000 ±0.368 なし 0.200 0.050 -0.050 0.100 -0.200 lcd-kmt2 0.200 ±0.368 なし 0.050 -0.050 0.150 0.350 -0.250 基準米:農環研産コシヒカリ(H24年産)コシヒカリとの違いなし。
(穀物検定協会によるデータ)Cd吸収性の違いのみで品種
登録できることになった。
http://www.hinsyu.maff.go.jp/info/sin sakijun/kijun/1440.pdf 農水省品種登録ホームページ→農林水産植 物種類別審査基準→有望な2系統(lcd-kmt1とlcd-kmt2)
のうち、
lcd-kmt2
を品種登録出願した。
品種登録出願
(平成25年8月)
低Cdコシヒカリの
原因遺伝子の特定
低カドミウム遺伝子の分離比
0 5 10 15 20 25 個体数 地上部Cd濃度(mg kg-1) lcd-kmt1 カサラス低Cdコシヒカリ変異体とカサラス(Cd高吸収品種)を
交配し、第2世代(F2)のイネ(92個体)をCd処理。
1:3の分離比
(劣性の1遺伝子で低Cdが支配される)
原因遺伝子の染色体上の位置
(
マップベースクローニング法
)
イネの連鎖地図OsNRAMP5
重金属輸送に関わる膜タンパク質(トランスポー ター)をコードする遺伝子 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 1 2OsNRAMP5遺伝子の変異挿入部位
OsNRAMP5のゲノム構造 lcd-kmt3 (277kbpの欠損) 3つの変異体は同じ OsNRAMP5遺伝子に違 う形の変異が入った・Ishikawa et al. (2012) PNAS ・PCT国際特許出願中
exon IX
WT : TGCGCCAAC
lcd-kmt2: TGCGC_AAC
WT : ATTACCGGCACATACGCTGGACAGTACATCATGCAG
lcd-kmt1:ATTAGGCCAGTCACAATGGGGGTTTCACTGGTGTGTCATGCACATTTAATAGGG GTAAGACTG---AATGACACTAGCCATTGTGACTGGCCTTA(mPingA1)
exon X
1-bp deletion
433-bp insertion
(50 exons and 383 introns)
lcd-kmt2 (1bpの欠損)
lcd-kmt1
低CdコシヒカリのCd吸収抑制機構
カドミウムを根に取り込む機能型のタンパク質 (OsNRAMP5トランスポーター) イオンビーム照射によってカドミウム吸収機能が失われたタンパク質 (変異型osnramp5トランスポーター) カドミウム(Cd) コシヒカリ 低カドミウム コシヒカリ 導管 地上部へ 根細胞 地上部へ 導管 根細胞 根 コシヒカリ lcd-kmt1 放射性Cdに よる根の吸収 試験(動画) 根 茎 葉低Cdコシヒカリの今後の
活用と展開
1)低カドミウムコシヒカリを従来のコシヒカ
リに替えて栽培する(低カドミウムコシヒカリ
自体の普及)。
2)低カドミウムコシヒカリが持つ、低カドミ
ウムの遺伝子を導入して、各地域に適した新品
種を作る→
低カドミウム遺伝子を検出できる
DNAマーカー
が必要。
3)海外への技術移転(国際貢献)
M:サイズマーカー LK1:低Cdコシヒカリ(lcd-kmt1) KH:コシヒカリ F1:lcd-kmt1 x コシヒカリのF1